とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第10章 『過去との決別』
第5話
悠和
「それじゃ、行ってきま〜す!」


「ん…気を付けてな〜」


アタシは、朝から学校に向かう悠和を見送る。
今日は10月31日…確か、世間では『ハロウィン』とかいう行事の日だ。
アタシは詳しく知らないけど、その日は夜に色んな仮装をした人々が集まって何かをやるらしい…


兵太
「おはようございます管理人さん!」


「ん、兵太君も気を付けてな〜」


兵太君は、はい!と元気良く答え、そのまま大きな鞄を背負い直して走って行く。
確か、あの子は部活で色々走り回ってるって聞いてたけど、ハロウィンとかにはあまり興味は無いのかね?


未生羅
「お姉ちゃん、おはよっ!」

土筆
「おはよ〜♪」


今度は未生羅と土筆が鞄を持って現れる。
ふたりもこれから仕事か…いつもより時間は早いけど。



「今日は早いな? 何かあるのかい?」

未生羅
「うん、今日は新しいゲームが入荷する日だから」

土筆
「ハロウィンキャンペーンで、期間限定稼働させるの!」


成る程、ゲームセンター…というか、今はアミューズメントパークだっけ?
そこで新しい筐体を入荷するわけだな…それで早めに出勤して荷物を受け取る訳か。



「ゲームか…どんなのが入ってくるんだ?」

未生羅
「えっと〜かなり古いゲームって話だけど…」

土筆
「シューティングゲームで、何か色んな乗り物が出て来る奴だったよね?」


シューティングで、乗り物?
普通、シューティングって言ったら、拳銃持って画面に撃つ奴とか、コックピットに乗り込んで戦闘機操縦するとかじゃないのか?
アタシの知識はあくまでテレビとか雑誌とかで得られる物からだから、古いゲームの事はあんまり知らないけど…



「…まぁ、アタシに理解出来るわけないか」

未生羅
「だったら、お姉ちゃんもお店に来てみたら?」

土筆
「うん、そういうのは実際に触る方が良いと思うよ〜?」


確かに、妹が言う事も最もだ。
間違った知識で、勝手に理解した気になるのはプライドが許さない。
とはいえ、今日は仕事から離れられそうにないし、流石に無理だな…

何だかんだで、管理職っていうのは暇ではあっても、余裕がある訳じゃないからな…



「…まぁ、店の方にはその内行ってみるよ」

未生羅
「うんっ、期待してる!」

土筆
「それじゃあ、行ってくるね〜♪」


ふたりはそう言って笑顔で手を振り、楽しそうに走って行く。
もう、ペンドラーとしての体にもすっかり慣れたみたいで、ようやく安心って所か…
ちゃんと仕事も出来てるみたいだし、気が付いたら未生羅も土筆も少しづつ個性を出しつつあるみたいだった。

未生羅は少し明るく、そして強気になったな…
逆に土筆はおっとり気味のまま、でも行動はしっかりとしてる。
ふたりとも、ちゃんと成長してるのは姉として嬉しいね♪



「おっはよー杏〜!」

祭花
「おはよっ♪」


今度は李と祭花が現れる。
ふたりもやけに早いな…今日は朝部隊だっけか?
ふたりとも、その日その日で出勤時間が違うから、大体出て行く時間で帰って来る時間も解るけど…



「そういや、今日はハロウィンだけど店は何かやるのか?」


「そりゃそうだよ…今日はお陰で朝からイベントのリハーサルさ!」

祭花
「李はフランケンとかいうキャラだっけ?」


フランケン…? って、確かフランケンシュタインの事だっけか…
確か外国の小説とか演劇とかで出て来る、怪物の事だったかな?
ハロウィンって、そっち系のモンスターもOKなのか?



「まぁ、ほとんどスーツ姿だから見映え的にはどうなんだ?って感じだけど…」

祭花
「…私なんか、そのままフェアリーコスよ?」
「ぶっちゃけ、偽装薬飲まない方が良くない!?」


ああ…祭花は妖精ね。
確かに、アブリボンならそのままでコスプレになりそうだ。
アタシは想像して思わず笑ってしまった。



「はは…まぁ、確かにね」

祭花
「もう、笑い事じゃないわよ〜」


「とりあえず急ごうぜ? あんまり遅れると阿須那さんがうるさいし!」


ふたりは顔を見合わせて同時に頷く。
そしてドタバタと廊下を駆け抜けて行った…
アタシはそのまま箒をクルリと回し、肩に担いで周りを見る。
やれやれ…早朝から掃除は大変だな。



………………………




「はぁ? あの事務所の住所っすか…?」


「ああ、ちょっと気になってな…」


俺は学校の休み時間に万丁君のクラスを訪ねていた。
そして、俺は万丁君が前に話してくれたヤクザの事務所の事を聞いていたのだ。
姉さんの今の家でもある、こすぷれ〜ん2号店がある街ってのは知ってるが、出来れば詳細な場所を知りたかった。



「そんじゃ、後でメール送りますよ」


「ああ、頼むぜ」


俺はそれだけ言ってその場から離れる。
悠和ちゃんはいなかったな…
まぁ、別に心配する事も無いだろうけど。



………………………



光里
「ふーん、それで都心の方に?」


「ああ、流石に気になってな…」

沙譚
「…5年前の事件か、そういや何か暴力団事務所がどうとかあった気もするな」


一応、ニュースにはなってたみたいだからな。
だけど、その詳細は一切が不明。
記録にもそれは残されておらず、あくまで終わった事件として、結果だけが残されていた。

つまり、世間としてはそれこそどうでも良い事件で、むしろヤクザになんか関わりたくない…ってタイプの案件だな。
しかし、俺にはどうにも気になって仕方が無かった。
万丁君のあの話には、気になる部分が多すぎる。

突然記憶が消えたり、住民が関心を失ったり。
そして連続して起こる事件の数々…
それは、何かの力が働いているんじゃないのか?


悠和
「もしかして、ポケモンの力が働いていると?」


「…確信は無いさ、でも可能性は否定出来ない」


5年前なら、俺は12歳か…丁度諦める手前頃だな。
つまり、切羽詰まりすぎて、現実に与える影響なんか頭に無かった時期。
要は、俺が原因で何が起こっててもおかしくないって訳だ…



「とにかく、この件は出来れば秘密にしてくれ」
「特に、万丁君には何も言わない様に」

光里
「どうして? この件って、万丁君が当事者じゃないの?」

沙譚
「とは限らねぇんじゃねぇか? 巻き込まれただけの可能性もあんだろ」

悠和
「だとしたら、下手に関わらせるのは逆に危険…?」


どうとも言えない所だな…今の段階じゃ疑惑でしかない。
だけど、万丁君の事を考えたら、何しでかすかも解らないし、ある程度確信が得られるまでは関わらせないつもりだ。

それにもし……



(俺が原因で起こった事件なら、土下座しても足りねぇだろうからな…)

光里
「う〜ん、私は去年引っ越して来た人間だから、都心の事は全然解らないけど…」

沙譚
「そういや、そうだったな…まぁ、アタシもそんなに都心には踏み込んで無いけど」

悠和
「…私には全く解りません」


良くも悪くも、全員都心には興味が無いってとこだな…
まぁ、この街もそんなに離れてる訳じゃないから、無関係って言うにはアレだけど…
この街でも欲しい物は大抵揃うし、わざわざ人混みしかない都心に行くメリットは、ほっとんど無いからな…


悠和
「それでは、聖様おひとりで都心に?」


「そのつもりだ…一応、姉さんの店にも顔を出すつもりだから、もし家族に何か聞かれたら、姉さんの所にいるって答えておいてくれ」

光里
「…大丈夫なの?」


光里ちゃんは心配そうな顔でそう聞く。
まぁ、不安が無いわけじゃないが…混沌じゃない以上、そんなに気を張る必要も無いとは思ってる。
それに、今回はあくまでただの調査だし、フツー危険は無いと思うが…


沙譚
「お前の事だ、気が付いたらどんな事件に巻き込まれてるか解らねぇからな…」


赤城さんは呆れた様な顔でそう言った。
俺は空笑いしながらも、反論は出来なかった…


悠和
「あ、あの…やっぱり私もご一緒に!」


「いや、大丈夫だって! 多分!!」


自分で言ってて説得力無ぇとは思う。
どの道、混沌に巻き込まれるなら他の家族も巻き込まれると思うんだが…


沙譚
「まぁ、お前がどうなろうとアタシはどうでも良いが…」

光里
「もう! サーたん、そういう事言わない!」
「こういうのは、友達の問題なんだから!」


赤城さんは、はぁ…と大きなため息を吐く。
光里ちゃんはプンプン怒りながらも、可愛らしすぎてそんなに怖くなかった…
改めて、このふたりは正反対な性格してるよな〜


悠和
「…申し訳ありません聖様、今回だけは…聖様に逆らわせてもらいます!」


悠和ちゃんは、初めてそんな事を言う。
俺は少し驚きながらも、これ以上言っても無駄だと判断した。
まぁ、悠和ちゃんなら邪魔になる事は無いしな…
とはいえ、余計な重荷だけはかけない様にしないと。



「…好きにすると良い、そこまで言うなら俺は何も言わない」

悠和
「は、はいっ! 必ず、お役に立ってみせます!!」


悠和ちゃんは胸に手を当てて真剣な顔をする。
それだけ本気って事だ…なら、俺が止めても無理だろう。


光里
「まぁ、悠和ちゃんが一緒なら大丈夫かな?」

沙譚
「…ふん、精々気を付けるこった」


赤城さんは心配しているのかしていないのか…?
光里ちゃん的にはとりあえず安心したみたいだけど。
とまぁ、そんな感じで俺たちは昼休みを終える事になった。

その後は、別に当たり障りの無い授業をこなしただけだ…



………………………



悠和
「…聖様、私はきっと不運な運命に生まれたと思うんです」
「そしてそれは、きっとどう足掻いても変える事は出来ない運命…」


「そうかな? それは不運な運命にしがみついている事自体が不運なんじゃないか?」
「運なんて物は、力ずくで自分の方に向かせる物だと思うぜ?」

悠和
「…ですが聖様、その運に負けた時はどうするのですか?」


「……笑って誤魔化すさぁ!」


俺はウインクをして都心の街を歩き始める。
うん! 久し振りのネタにちょっと興奮したよ!!
ホント、この辺りずっとご無沙汰だったからね!!

とはいえ、今回のは流石に気付き難いネタだっただろうか?


悠和
「それは、紛れもなくヤツですね!」


「うむっ! とりあえず調査開始だ!!」


俺たちはそのまま目的地へと向かう事にする。
まずは例の事務所に向かってみるか?
住所は万丁君からメールで送ってもらってるし、そんなに遠くは無いな。



(とはいえ、ヤクザはヤクザだ…あまり深入りするのは流石に危険だろうな)


もっとも、悠和ちゃんが本気になれば、ヤクザの集団位は指先ひとつでダウンなのだが…
それこそ、某熱血硬派な主人公並に単騎で事務所を制圧出来てしまうだろう…
しかし、それは流石に俺の望む所ではない、出来るだけ穏便に済ませたいのだ。


悠和
「…それで、直接聞きに行くのですか?」


「それが手っ取り早いのは確かだけどな…」


あくまで俺たちは『ただの』高校生だ。
そんなふたりが、堂々とヤクザの事務所を訪ねて、5年前の襲撃ってどうだったんですか!?って聞くのか…?
流石にケンカ売ってるだろそれは…
タイマンならまだどうにかなる自信もあるが、事務所突撃でそんな状況になるわけも無い。

出来るだけ、話だけで済ませる方法は無いものかね?



「…悠和ちゃん、エスパーになって読心とか出来ない?」

悠和
「流石に無理です…タイプとして変わる事は出来ますが」


だよね〜…まぁ、流石に期待はしてなかったが。
やれやれ…警察行って資料見せてくださいって言っても無駄だろうしな〜



「しゃあない、当たって砕けろか…」

悠和
「相手が砕ける未来しか見えませんけど…」


まぁ、そうなったらその時だな…
あんまり目立ちたくはないんだが、これも調査の為だ。
それに、評判は良いヤクザらしいし、多分話位なら大丈夫だろ。



………………………




「…ってな訳で、こんばんわ〜」

ヤクザ
「あん? 何だテメェは?」


俺はとりあえず事務所の入り口を守っている兵隊さんに話しかけた。
後では悠和ちゃんが目を光らせており、いつでも割り込む事は出来る。
まずは第1関門…さてどうなるかね?



「すいません、ちょっと聞きたい事があるんですけど…」

兵隊
「はぁ? 何をだよ?」


とりあえず、ガラは悪そうだが話は出来るみたいだ。
俺は少し安心して、とりあえず話を切り出してみる。
なお、俺たちは一応私服で来ているので学生かどうかは見た目じゃ解らない。
悠和ちゃんも偽装状態だし、見た目はただの女の子だ。



「5年前、ここで抗争があったって聞いたんですけど…」

兵隊
「あぁん!? 何でそんな事が気になるんだよ!?」


今ので兵隊さんは露骨にウザそうな顔をする。
成る程、出来れば触れられたく無い話って事かな?
だけど、こっちはその真相が知りたいんだ。
ちょっとやそっとで退くつもりはないぜ?



「…聞いた話じゃ、青白い長髪の女性がいたって話で」

兵隊
「!? …雪」


兵隊さんは目を細めてそう呟く。
雪…? 発音的には人の名前って感じだが。
その女性の名前か…?
俺はとりあえずそのまま更に突っ込んで見る事にした。



「知ってるんですか? 俺たち、その人の事を知りたくて…」

兵隊
「…テメェ、何を知ってる? 事と次第によっちゃ…!」

悠和
「…! こちらも、生半可な覚悟では来ていません」
「やると言うのでしたら、それなりの覚悟を…!」


悠和ちゃんは兵隊さんを睨んで威圧する。
悠和ちゃんのそれは、人間が放つ物ではない。
修羅場を潜った者ならば、自ずと気付くレベルの気迫。
それを受けた兵隊さんは、明らかに動揺をしていた。


兵隊
「…それを聞いて、どうする気だ?」


「…内容に寄ります、何も関係無ければそれで良し」
「そうでないなら、俺は真相を知らなきゃならない!」


俺も強気に兵隊さんを見る。
ここで弱気になる必要は無い。
これでも度胸なら人一倍あるつもりだ。
少なくともタイマンなら、悠和ちゃんの力無しでも退くつもりはないぜ?


兵隊
「…ちっ、根性座ってやがるな」


「そりゃどうも…それなりに背負ってる物があるんでね」

兵隊
「だが、俺は詳しくは知らねぇ…どうしても聞きたいなら、上にオヤジがいるから、直接聞け」


そう言って兵隊さんは道を空け、入り口を解放してくれる。
中に入れ…ね。
こりゃ中々にスリルがありそうだ。
悠和ちゃんは警戒しながら俺の側に寄る。
さながら用心棒の様で、これなら突然銃撃されても悠和ちゃんは対応するだろう。

さて、鬼が出るか蛇が出るか?



………………………



組員A
「誰だコラァ!?」

組員B
「ガキが、何の様だ! あぁん!?」


露骨に叫ばれる。
俺は、はぁ…とため息を吐きながらも、予想通りの反応に何も言えなかった。
悠和ちゃんはいつでも動ける体勢…見た感じ、下には10人以上いるが、悠和ちゃんがその気になれば数秒で黙らせられるだろうな。


兵隊
「黙ってろテメェ等!! オヤジに用がある客だ!!」

組員C
「小次郎(こじろう)アニキ!? オヤジに直接通すんすか!?」


小次郎…と呼ばれた、入り口を守っていた兵隊さんは組員を睨んで黙らせる。
どうやら、ただの兵隊さんじゃなくてかなり大物みたいだな…
見た目は、ややチャラそうなセミロングの茶髪で、ジャケットとか羽織ってるだけの兵隊さんみたいなのに…


小次郎
「さっさと行け…オヤジなら話位は聞いてくれる」


「小次郎さん…でしたっけ? 恩に着ます」


俺が笑ってそう言うと、悠和ちゃんは黙って頭を下げる。
小次郎さんはケッ!と悪態をつきながらも、そのまま入り口の外に出て行った。
俺たちはそれから、組員全員から睨まれながらも上に上がる事にする…



………………………



スキンヘッド
「何だテメェは!?」


「ここのオヤジさんに話を聞きに来た…小次郎って人に許可は貰ってる」


俺たちが上に上がると、それっぽい部屋の前で立ち塞がっていたスキンヘッドの男が俺たちに怒鳴る。
俺はあくまで冷静に答え、ビビる事無く応対する。
すると、スキンヘッドの男は眉を潜めて俺たちを睨む。
側にいる悠和ちゃんは軽く警戒したが、すぐに扉の向こうから声が響き渡った。



『武蔵!! ワシへの客やろ!? さっさと通さんかい!!』

スキンヘッド
「へ、へいっ!!」


その怒号にスキンヘッドの男は冷や汗をかいて背筋を張る。
武蔵さんね…とりあえず名前は覚えとこう。


武蔵
「ちっ…オヤジに何の用だよ?」


「雪って人の事を聞きに来た…」


俺がすれ違い様にそう呟くと、武蔵さんは絶句する。
成る程…やっぱその名前はそれだけ意味が大きい名前なのか。
とりあえず、後は直接聞く事にしようか…?

武蔵さんは扉をゆっくりと開け、俺たちはそのまま中の状況を見る。
イメージ通り…と言う程でも無いが、大体想像するヤクザの組長って感じの部屋だな。
そして、そんな組長の物と思われる豪華な机の前、身長2mを越そうかという大男が椅子に座って何か本を読んでいた。
小説…か? 傷だらけの手で、それはあまりにイメージが違う。
顔も傷だらけで、修羅場を潜ってるのが一目で解るな…
流石の悠和ちゃんも、少なからず驚いている。


組長
「…何や?」


「…あ、ちょっと聞きたい事がありまして」


組長はため息をひとつ吐き、小説に栞を差してパタンと閉じる。
小説にはブックカバーが付けられており、内容は解らなかった。


組長
「…で?」


「…5年前、ここで抗争があったって聞きました」

組長
「あったな、確かに…それがどうした?」


組長はやや睨んで俺を見る。
威圧する目じゃない…まるでこっちを見定めるかの様な目だ。
俺はあくまで冷静に話を進める。



「…当時、この事務所には青白い髪の女性がいたと聞いています」

組長
「…!!」


この時、初めて組長は眉を潜めた。
一体…何なんだ? 小次郎さんと良い、武蔵さんと良い、そしてこの組長と良い。
雪…その名の女性には、一体何があったんだ?


組長
「…武蔵、この部屋にはしばらく誰も入れるな」

武蔵
「へ、へいっ!!」


武蔵さんはそう返事してすぐに扉の外に出る。
成る程…あまり聞かれたくない話ってのは確からしい。


組長
「そこの嬢ちゃんもや、話をするんはワシとソイツだけ…」

悠和
「…それは」


「良いよ、悠和ちゃんは出ていてくれ」

悠和
「聖様!?」


俺は笑って悠和ちゃんを黙らせる。
これは、男と男の話だ。
組長さんは、多分俺を試してる。
話を出来るかどうか…
なら、俺はそれに答えなきゃならない。



「大丈夫だ、この人は汚い真似をする人じゃない」

悠和
「……分かりました、聖様がそう仰られるなら」


そう言って悠和ちゃんも外に出た。
これで一対一…対等、って言うのはアレだけど。


組長
「…聖様、ね」


「気にしないでください、呼び方は人それぞれなんで」


組長さんは微笑して少し肩を震わす。
そして、改めて俺を見た。


組長
「…お前、あの狐を知っとるんか?」


「…狐? まさか、雪って人はポケモンなんですか!?」


俺の言葉に、組長さんは少し悲しそうな顔をした。
そして俺は逆に驚いて言葉を失う。
狐…? 青白い髪の? まさか、キュウコン?
いや、ロコンかもしれないが…アローラリージョンの?

俺は万丁君の話を思い出す。
有り得ないはずの雪…それは、まさにキュウコンの特性だ。
『雪降らし』か…だとすると、異常気象の理由も成り立つ。
万丁君が出会ったのは、まさかポケモンだったのか?


組長
「…ほうか、お前も関係者か?」


「…お前もって、組長さんはいつからそのポケモンと!?」

組長
「5年前や、出会うたのは冬やったな…」


組長は昔を思い出す様にして天井を見上げる。
5年前の冬…か。
確か、万丁君が覚えていたのは夏…だとすると、半年程度の間、か。


組長
「ソイツは、雪が降る中ひとりで佇んでた…」
「事務所の横の路地裏で、ゴミ箱漁っとったんや」
「服はボロボロの着流しで、身体中痣やら生傷やらで汚ならしかった」


となると、何かに巻き込まれたタイプか?
その時の俺なら、まだアルセウスさん相手に戦いを続けていた位かな?
俺も正直、その頃の記憶は曖昧だ。
現実にいた時の記憶はほとんど無く、異世界での生活に慣れきってたからな…


組長
「…問題は、ソイツには九尾の尻尾があった事や」


「やはり…キュウコン」

組長
「らしいな…雪もそう言うとったわ」


「その名前は…組長が?」


俺が聞くと、組長はおう、と答える。
そして、その時の事を事細やかに話し始めてくれた……



………………………



ガサッ! ガサガサッ!!


路地裏で、ゴミ箱を漁る音が響き渡る。
そこでは、ひとりの少女がゴミを漁って食料を探していたのだ。


少女
「…!!」


少女の年齢はおよそ15歳前後。
見た目はそれなりに成熟しており、体は大人の女性と言っても過言ではない。
しかし、彼女の体は傷だらけかつ痣だらけ。
明らかに何かと格闘した様な傷痕で、痛々しい姿なのが一目で解る程だった。


少女
「!!」


少女は、見付けたパンの食べ残しを迷わずかじる。
味なんて物は初めから期待していない。
ただ、彼女は生きる為に必至だった。
既に痩せ細った体からは生気を感じず、少女は無心に腐ってるかもしれないパンを頬張る。
腹を壊すかもしれない…そんな事すら彼女には些細な事なのだから…

そんな、無様とも言える見すぼらしい少女にも、特筆する特徴がある。
尻から生える、大きな九尾の尻尾…それは間違いなく獣のそれで、人間が持つ物ではない。
更に、頭から生えるふたつの耳…それはまるでイヌ科のそれであり、それは狐の様でもあった。

そう…少女は、人間では無かったのだ。
その種族は、『キュウコン』であり、それもアローラと呼ばれる地方にのみ存在すると言われるリージョンフォーム。
この当時、現実のゲームにおいては未確認の存在であり、まさにそれは未確認生物に他ならなかった。


キュウコン
「はぁ…! はぁ…!!」


キュウコンの少女は腹を押さえ、その場で寝転がる。
あの程度の量で腹が満たされるわけではない…
それでも少女は生きる道を選び、今は少しでも眠って体力を回復させようとしていたのだ。


キュウコン
「………」


少女は、目を瞑って死体の様に眠る。
空からは雪が振り、少女の体にはそれが積もり積もっていく…
しかし、氷タイプたる彼女に対し、その寒さは全く苦痛では無かったのだ。

ほぼ無防備で眠る少女…路地裏の薄暗いそこにおいて、人の目につく事はそれ程無い。
しかし、人間以外の存在には、存外見付かりやすかったりもした…



「ウ〜! ワンワン!!」

キュウコン
「………」


近くに来た野良犬が少女に吠える。
この辺りを縄張りにしている犬であり、自分の食料となるゴミ箱を漁られて怒っていたのだ。
彼女にとって、こういった野生動物ですらも競争相手である。
しかし…今の彼女には、そんな犬相手にすら抵抗する気力が存在していなかった。



「ガウウ…!!」

キュウコン
「………」


犬は容赦なく眠っている少女に噛み付く。
少女は抵抗する事もなく、ただその牙になすがまま…
彼女の傷痕は、ほとんどがこういった野生動物との格闘の跡。
彼女は、ある意味不幸な生まれであり、ポケモンとしての技は全く使えないポケモンだった。
本来ならば何かしらの技は使えるはずなのに、彼女はそれを使えない。
よって、彼女はポケモンとして戦う術も持っていなかったのだ…

そして、今の彼女はもう犬の餌にも等しい状態。
雪の降る冬の時期、犬にとっても餌は乏しい。
そんな状況の中、目の前に上手そうな血を流す肉があるのだ。
犬にとって、それはまさに天啓…その様にも思えたのかもしれない。

しかし、それを許さぬ者も、そこにはいた……


ドガシャアッ!!



「キャインッ!!」


犬は突然の投擲に怯んで地面を転がる。
そして大きな足音と共に何者かが路地裏に踏み込んで来た。
さっき投げられたのはゴミ袋で、中にはビンや缶がギッシリと詰まっている。

それをマトモに食らった犬はたまった物ではなく、すぐに恐怖を感じてその場から逃げてしまった。



「……何や、コイツは?」


それは、身長2m以上の大男。
体には小綺麗なスーツを身に纏うも、顔や手は傷だらけ。
そう、彼はいわゆるヤクザであり、世間的には暴力団の組長でもあった。
しかし、彼は心優しい方のヤクザであり、理由の無い暴力は一切振るわない。

その男の名は…『銀 賢城(しろがね さかき)』と、呼ばれた。











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『熱血硬派さとしくん』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/05(火) 23:03 )