とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第10章 『過去との決別』
第3話
茫栗
「…で、自分なりに結論は出たって訳かい?」

風路
「はい…とりあえず、ですけど」


私は苦笑しながら答える。
今はふたりで城から帰宅中。
時刻はもう夕方で、すぐに夜となるだろう。

茫栗さんは鐃背さんに相当やられたのか、全身ボロボロにされていた。
それでも表情に気力は宿っており、本人的には満足いく戦いだったのだろうと私は予想する。


茫栗
「はん…アタシは、あのガキンチョなんかに興味は無いけどね」


ガキンチョ…それは聖君の事だろう。
私はテストの後、聖君に改めて今日の事を報告した。
聖君は予想通り驚くものの、すぐに悲しい顔をして、やっぱりか…と呟いていたわね。

聖君にとっては、予想出来た事であり、そして受け入れなければならない事態。
だからこそ、聖君はそれ以上何も言わなかったし、私の好きにしたら良い、と言ってくれた。


風路
「私は、聖君のお姉ちゃんですから♪」

茫栗
「…そうかい」
「それでアンタが強くなるなら、それで良いんじゃないのかい?」


茫栗さんは私の方を見ずにそう答える。
私は、隣で歩きながら少し俯いた。
強く…か。
正直、私はそこまで強くない。
だけど、強くなれるなら…強くなるべきなのだろう。

結果的に、それは私に人としての生活を終わらせる引き金にもなる。
自分から混沌に関わって行くのであれば、もうそれは普通の生活にはならないのだから…


風路
「…茫栗さんは、混沌の事、何か解りますか?」

茫栗
「さてねぇ…アタシにはそんなモン解らないさ」
「ただ、巻き込まれる事があったのは事実で、それは確かな現実だ」
「だったら、抗うしかない…それが戦いならね」


茫栗さんは右拳を握り締めてそう言う。
あくまで茫栗さんは巻き込まれるなら戦うというスタンスだ。
決して、それは聖君の為じゃない。
だけど、他の家族は違う…

家族の皆は、聖君の為に、必要であれば戦うのだから…



………………………




「…成る程、コレが風路のデータか」


「…ええ、本人はやる気みたいだけど?」


俺様は学校から帰って、すぐにモニタールームへと呼び出された。
そこで姉さんに会い、風路の事を聞かされて資料を見ていたのだ。



「…確かに戦闘能力はある、だが数値を見る限り、最前線で戦うには力不足だな」


「…でも、それは彼女が成長を望まなかったから…とも言えるわ」


「それで、将来性に賭けてみろと? 姉さんらしくないな…」


姉さんなら、必要無いと言ってバッサリ切り捨てるはずだが…
それとも、それだけの潜在性を見せたってのか?



「…CPは20114、中堅下位も良い所だ」
「年始の辺りならいざ知らず、今の家族のレベルだと微妙なラインだな…」


「…CPでは私たちよりも下、でも悠和や唖々帝さん、李さんには勝ってる」


つまり、単独で混沌をクリア出来るレベルではあるわけだ。
しかし、懸念材料は当然有る…風路には決定的に足りない物があるからな。



「唖々帝や李には必殺技がある…悠和もARシステムに関しては唯一無二の特性だ」


もちろん、家族の中で…という意味でもあるが。
悠和の特性はアルセウスの劣化だからな…



「…でも、風路さんには他に無い独特の経験値があるわ」


「そんな物は、現実で役に立つかも解らん」
「命を賭けなきゃならない混沌で、そんな曖昧な要素に賭けるのは愚の骨頂だろ?」


姉さんの言ってる事はただの期待だ。
俺様は風路がそのレベルに達せられるとは思ってない。
もちろん、未来性が無いとは言わないが…



「…とにかく、本人はやる気だし、こっちも相応の物を用意するべきじゃない?」


「まさかアレを実用化するのか…? 確かにそれなら、短期でのレベルアップには繋がるだろうが」


アレとは、現在開発中のトレーニングルームだ。
一応未完成なんだが、やろうと思えばすぐにでも動かす事は出来る。
もし、正常に稼働すれば、時間と空間を超えた世界で訓練が可能となる予定だ。



「…私は、早い内に戦力は揃えた方が良い気もするわ」


「また予知で何か見たのか? それとも、確信か?」


「…勘よ、今回は」


勘、ね…姉さんらしくないな。
だが、姉さんが言うと現実味があるのも事実だ。
さて…これから少し忙しくなるか?



………………………




「…やれやれ」

愛呂恵
「聖様…コーラをどうぞ」


俺はリビングでとりあえずくつろいでいた。
ついさっきまで、姉さんと久し振りに話をしていたのだが…



「………」

愛呂恵
「…予想通り、では無いのですか?」


「むしろ外れてほしかったですよ…姉さんがあんな事言うなんて」


俺は思い出しながら頭を抱える。
姉さんは事もあろうに、俺の為に戦うと言い出したのだ。
姉さんはあくまで非戦闘員…戦う必要なんか無いのに。


愛呂恵
「風路さんの決意は、固いのだと思いますが」


「だから俺も止めはしなかった…姉さんは子供じゃないんだから」
「本人がやる気になって、やるって言うんだったら、俺がどうこう言う権利なんて無いですよ」


俺はコーラをグビッと飲んで息を吐く。
前の混沌から、今の所は特に違和感も無い。
次の混沌が危険かどうかも解らないし、姉さんが巻き込まれるのかも解らないしな…



「そもそも、混沌の条件は一体何なんだ?」

愛呂恵
「あくまで唐突に現れ、そして問答無用で巻き込んでいく…」


そう、考えた所で対策など出来ないのだ。
そもそも、誰が巻き込まれるかも曖昧な程、混沌は言葉通りの物と言える。
巻き込まれる度に、その世界は形その物が違うし、クリア条件もバラバラ。

そもそも、悪意があるかも解らないし、ただのお祭り騒ぎで終わる事もある。
そんなテキトーな混沌相手に、マトモな対策なんて出来る訳が無い。



「…遅かれ早かれ、姉さんが巻き込まれる事も想定はしてたが」

愛呂恵
「むしろ遅すぎた位かもしれません…」
「風路さんの性格を考えれば、自分だけ安全地帯にいようとは決して考えないでしょう」


全くもってその通りだ。
姉さんの性格は、良くも悪くも勇気さんから受け継がれた性格だからな。
勇気さんも、俺の父さんを助ける為にヤクザとやり合ったって言ってたし、姉さんも俺の為なら平気でやるだろう。

ただ、俺には助けてくれる家族がいたから、姉さんもそこまでは踏み込んで来なかった。
それなのに、姉さんはあえて踏み込む事を決めたんだ…


愛呂恵
「…信じてみては?」


「信じてはいるさ…むしろ無理をしないかが心配なんだ」
「姉さんの事だから、やるからには無茶をするのが目に見えてる」
「俺は、姉さんが望んで傷付いて行くのが、容易に想像出来るんだ…」

愛呂恵
「…でしたら、それはお互い様でしょう」


「……?」


俺は愛呂恵さんにそう言われて?を浮かべる。
愛呂恵さんはあくまで無表情だから反応に困るのだが、愛呂恵さん的には、当たり前の感覚で回答をしていた。


愛呂恵
「聖様が普段やられている事と、風路さんがやろうとなされている事は、何ら違いは無いと思いますが?」


「………」


俺は言われて考える。
確かに…そうっちゃあ、そう…か?


愛呂恵
「聖様も、誰かを救うと決めた時は、無鉄砲ですからね」
「例え策が無かろうが、前に進んでどうにかする」
「そういう根っこの所は、まさに同じなのでは?」


「…そう、ですね」


俺は反論出来なかった。
確かに、俺は誰かを救う為ならまず体が動く。
最近はちょっと考える事も増えたと思うけど、それでも動けるならとにかく動く。
それは姉さんもきっと同じで、誰かを救う為なら真っ先に動ける人なんだろう。



「…そうか、そうだよな」

愛呂恵
「はい」


愛呂恵さんは頷いてくれる。
そうだ…姉さんは、俺の姉さんだから。
例え血は繋がっていなくても、それでも俺をずっと見守って育ててくれた姉さんだから。

今でも、姉さんは姉さんのままなんだ…



「…さって、宿題やるかな」

愛呂恵
「それでは、私は夕飯の準備にかかります」
「時間になりましたら、お呼びいたしますので…」


そう言って愛呂恵さんはお辞儀をし、キッチンへと向かう。
俺は軽く微笑み、少し背伸びをしてから自室に向かう事にした。



………………………



風路
「…体、少し痩せたかな?」


今は家に帰って鏡を見ている。
全身を写す鏡で、私は下着姿のまま体を見ていた。
学生の時に比べれば、きっと筋力は落ちてる。
社会人になってからは、運動も疎かだったし、少し運動量を増やさないと…


風路
「って言っても、人間がやるトレーニングを私がした所で、効果なんてあんまり無いのよね…」


筋肉に負荷をかけるタイプのトレーニングは効果が限られる。
良くも悪くも私はケンホロウ…人間とはそもそものパワーが違うのだ。


風路
「とりあえず、効果の有りそうなトレーニングを重点的にやって、後は誰かに相談しようかな?」


私はそう思って寝巻きに着替え、とりあえず部屋で色々やってみる。
何事も継続するのが重要だし、意味はきっと有るだろう…



………………………



阿須那
「え? トレーニング?」

風路
「うん…阿須那ちゃんは、どんなトレーニングしてるの?」


次の日、私は仕事が終わる頃に阿須那ちゃんに聞いてみた。
すると阿須那ちゃんは少し驚いた様で、う〜んと天井を見上げて考える。
そして、しばらくした後、こう答えた。


阿須那
「やっぱ、実戦訓練でしょ」

風路
「実戦って…スパーリングみたいな?」

阿須那
「ウチ等ポケモンは、人化しても戦う事でレベルは上がります」
「せやから、手っ取り早く強くなる気なら、戦うのが1番やと思いますけど?」


実にポケモンらしい考えね。
だけど、ある意味基本だ。
強くなるなら、戦って経験値を稼いで、レベルアップする。
ゲームみたいな考え方だけど、私たちはある意味ゲームから出て来たキャラ。
人間の常識が通用しない以上、経験者の意見が1番意味を持つ…か。


風路
「…実戦か、でもそれだと時間もいるし、体力の維持が大変そう」

阿須那
「城でのトレーニングルームでやれば、体力面は何とかなりますよ?」
「ウチ等は精神的に経験を積むだけでもレベルアップ出来るみたいやし、想像以上に効果はあると思います」


前に私がテストでやった様な形式かぁ…
確かにあの時は、少なからず成長を感じ取れた。
肉体的な疲れは殆ど無いし、効果は期待出来る…か。


風路
「問題は相手よね…」

阿須那
「風路はん程の人やったら、誰とやってもそれなりに良い勝負するんとちゃいます?」
「何やったら、ウチが相手しますけど?」


そう言って阿須那ちゃんは余裕を持ってポージングする。
むぅ…やるわね、いかにも自信があるっていうアピールだ。
だけど、良い機会かもしれない。
多分、私と阿須那ちゃんじゃ勝負にはならないだろうけど、間違いなく経験値にはなる。
私の実力でどこまで通用するか知りたいし、やってみる価値はあるわね。


風路
「それじゃあ、相手してもらおうかな?」

阿須那
「ええですよ♪ ウチも風路はんの実力は気になるし、試させてもらいますわ!」


あくまで阿須那ちゃんは胸を貸す立場だ。
逆にその方がやりやすい…私も思いっきりやれるし。


風路
「それじゃあ、どうしようかな? 休日作るにしても、私たちふたり抜けるとなると…」

阿須那
「ほな、今から行きましょうや!」
「軽くやる位なら、そんな時間もかからんでっしゃろ?」


阿須那ちゃんはやる気満々ね…まぁ、でも良いか。
肉体的にはダメージ受けないし、その辺はどうにかなるだろう。


風路
「それじゃあ、準備するから先に行って待ってて?」
「今日は、城の方で泊めてもらうから、私は後から行くわ」

阿須那
「了解です、ほんなら待っとくんで♪」


私たちはそう言って笑顔で別れる。
時間は閉店過ぎの22時…疲れはあるけど、それは阿須那ちゃんも同じだもんね。
私はさっさと部屋に戻り、それから寝泊まり用の準備をして城へ向かう事にした。



………………………



風路
「お待たせ〜」

阿須那
「あ、来はったな…風路はん、こっちや!」


私が城の庭園を越えると、阿須那ちゃんが手を振っていた。
この時間はかなり冷えるけど、阿須那ちゃんはコートを来て元気にしている。
炎タイプだし、阿須那ちゃんは全然寒そうじゃないわね…


阿須那
「とりあえず、地下に向かいましょか?」

風路
「うん、付いて行くわ♪」


私は阿須那ちゃんに付いて行き、城の地下へと向かう。
前に来ただけだと、全然道が解らないわね…



………………………




「おっ、来たな…?」

阿須那
「何処でやるんや? 何か新しい施設が出来たって言うとったけど…」


地下へ降りると、まず現れたのはアグノムの藍ちゃん。
ユクシーである棗ちゃんの妹で、エムリットの夏翔麗愛ちゃんのお姉ちゃんでもある。
藍ちゃんは浮遊しながら少し気だるそうに頭を掻いていた。



「とりあえず試作段階だがな…まぁ運用試験も兼ねて試してもらうつもりだ」

阿須那
「どんな施設なんや? トレーニング用とは聞いとるけど…」


「施設自体は至って平凡なトレーニングルームだ」
「だが、母さんと元母の力を借りて、その部屋は時間と空間を超えた部屋となってる」


私たちはそれを聞いてギョッとする。
藍ちゃんのお母さん…それはパルキアである白那さんの事。
そして、元母っていうのは、ディアルガ…
確か、大愛さん…だったかな?
あまり会った事は無いけど、時間を司るポケモンだ。
そのふたりの力を…借りた部屋?



「効果自体は単純だ、部屋に入ればそこから時間の概念が変化する」
「要は、部屋の中と外で流れる時間を変えてあるんだが…」

阿須那
「あー解った解った! 要は『○神と時の部屋』やろ?」

風路
「阿須那ちゃん…」


阿須那ちゃんは面倒そうに藍ちゃんの言葉に割り込んでそう言う。
すると、藍ちゃんは少し眉毛をピクピクさせながらも、頭を抱えてため息を吐いた。



「まぁそんな所だ…だが安心しろ、元ネタと違って制限時間は無い」
「ただし、入るには母さんの許可と監視が必要だ」
「何せ、出口も無ければ入り口も無いからな…」

阿須那
「…ほな、白那はんの能力が無いと出入りも出来へん訳か」


「そうだ、ディアルガとパルキアの力を使った特殊な空間だからな…」
「制限時間は無いが、母さんと元母の能力に限界は有る」
「あくまでテストもしてない段階だから、どこまで維持出来るかは未知数だ」


そう言って藍ちゃんは移動を開始する。
私たちはそれに付いて行き、やがて突き当たりの部屋で止まる事になった。
そこには、白那さんと大愛さんがいる。


白那
「来たね…準備は良い?」


「ああ、モニターは俺様がやる、後はそこのふたり次第だ」

阿須那
「ウチはすぐにでも」

風路
「あ、それじゃあ少し着替えさせてもらっても?」
「今日はこっちに泊めてもらうつもりなんで…」

白那
「あ、それならオレが帰りは直接送ってあげるよ?」
「どの道、オレもこの場を動けないし、帰りは任せてくれ♪」


白那さんはそう言って笑ってくれる。
そっか…そういえば白那さんの能力を借りたら、帰りは一瞬なのか。
それは流石に想定してなかったわ…


大愛
「何か問題があればすぐに言え…最悪こちらから強制的に回収する」

白那
「オレたちは部屋の外から空間を維持するから…」


「とにかく、部屋のテストも兼ねてるって事は忘れるなよ?」
「準備が出来たら、言え…」


阿須那ちゃんはそれを聞いてコートを脱ぐ。
すると、白那さんは軽く手を振ってコート掛けを取り出した。
阿須那ちゃんはそれにコートを掛け、軽く腕を振る。



「ひとつ言い忘れた…この部屋ではダメージは残るからな? 間違っても殺したりするなよ?」

阿須那
「…何で? データ化は出来へんの?」


「時間も空間も超えてるんだぞ? データだけ都合良く送って正常にフィードバック出来るかっ」
「流石の俺様でも、そこまで精密な演算は出来ねぇよ…」


藍ちゃんはそう言って頭を掻く。
それなりに疲れている様で、何だかあまり元気が無い様だった。


白那
「中の空間には着替えもあるから、服をボロボロにしたくないなら着替えると良い」
「ダメージに関しては『眠る』とかで、しっかり回復すると良いよ」

大愛
「中の時間は、約100倍まで加速させる…外の時間は気にせずにやり合え」

風路
「ひゃ、100倍…!」

阿須那
「中で10分戦っても、外やと6秒か…考えると凄いな」


ディアルガの能力は、その気になれば過去や未来にも行き来出来るという…
様々な制約が有るものの、限定条件ならまさに神と言える能力ね。



「とりあえず、行って来い…俺様はここで中をモニターするから」

阿須那
「せやな…ほな、行きましょか?」

風路
「あ…うん! 着替えは中にあるなら良いか…」


私はその場に鞄を置き、阿須那ちゃんの後ろに並んだ。
そして阿須那ちゃんは部屋の扉を開き、中を見る。
その先は、かなり歪んだ空間が見えた。
まるで、ゲームでいうワープゲートみたいな感じね。
かなり緊張するけど…本当に大丈夫なのかな?


阿須那
「よし、ほな行くで!?」


阿須那ちゃんは思いきって中に踏み込む。
私もそれを追ってすぐに入った。
一瞬の浮遊感…しかし、すぐに私は重力を感じ、地面を踏みしめているのを確信する。



………………………



風路
「…ここは、部屋?」

阿須那
「みたいですね…ベッドが複数有る」


そこは普通の寝室みたいな場所だった。
ベッドが多数有り、まるで病院の部屋みたいだ。
部屋には棚も有り、そこを開けると中には服が入れてあった。
体操服…というか、トレーニングウェアって感じね。
下着もわざわざ入れてあるし、一式揃ってるみたいだわ。


阿須那
「とりあえず着替えましょか…普段着潰すわけにもいかへんし」

風路
「そ、そうね…」


私たちはすぐに着替えを始める。
何だか、不思議な感じだ。
環境音のひとつも聞こえないし、ここがかなり特殊な空間だというのは理解出来る。
不安はあるけど、今の所問題は無さそうだし、とにかくやってみるしかないわね。



………………………



風路
「…殺風景な所ね」

阿須那
「あくまで部屋って感じやな…地下室ってイメージがピッタリや」


私たちは着替えを終え、別の部屋に出ていた。
そこは割りと広い地下室みたいな場所で、ライトはそれなりに明るい。
石造りのコンクリート打ちっぱなしみたいな部屋で、スパーリングするには良い場所…かな?


阿須那
「ほな、早速始めましょか?」

風路
「うん…いつでも良いよ?」


私は軽くステップを踏み、深呼吸して息を整える。
そして、キッと阿須那ちゃんを睨み、集中力を高めた。


阿須那
(思うたよりも本気みたいやな…さて、ほんなら軽〜く行こか!)


阿須那ちゃんはダンッ!と強く踏み込み、正面から接近して来る。
私は両腕を上げて構えるも、かなりスピードに反応が遅れた。
阿須那ちゃんは射程に入ると、すぐにその場で横回転。
そして硬質化させた大きな尻尾で私のガードごと吹き飛ばそうとする。


ミシミシ…!


風路
「ぐぅ…っ!?」


骨の軋む音が聞こえてくる。
私は両腕に痛みを感じながらも、体を浮かされてそのまま吹き飛ばされる。
しかし、私は壁に激突する前に着地し、足を滑らせながらも何とか体勢を整えた。


ズザザザザザッ!!


風路
「つ…ぅっ!!」


いきなりの攻撃に私は痛みを覚える。
すぐに阿須那ちゃんを見るが、既に阿須那ちゃんは炎を練り上げていた。
私は目を見開いて体を動かす。
阿須那ちゃんは野球の投手みたいに大袈裟に構え、炎球をこちらに投擲してきたのだ。
私はその場から横に跳び跳ね、それを回避する。
そしてその炎球は着弾後、爆発。
次の瞬間には、『炎の渦』となって竜巻を巻き起こしていた。

私はゾッとする…食らっていたら消し炭にされているであろう火力だ。
恐らく、ワザとかわされる様に放ったのだろうけど、まざまざと実力差を見せ付けてくる…
これが…阿須那ちゃんの実力か!


阿須那
「風路は〜ん、攻めてこな訓練になりまへんで〜?」


阿須那ちゃんは笑い、おちょくる様にクイクイと挑発して来る。
別に技としての挑発じゃあない、キュウコンは覚えないからね!
だけど、明らかな余裕だ…この距離なら何をされてもかわせる。
きっとそんな風に思っているんだろう。
そして事実、私にこの距離でやれる事は殆ど無い。

使える技はあるけど、それは阿須那ちゃんに通じる様な威力は無いのだ。


風路
(多分、スピードでも大差がある…まずはそれを補わないと!)


私は突風を起こし、それを身に受ける。
この『追い風』を受ける事で、約3分は私のスピードを倍加させる事が出来るのだ。
本来なら味方全員に効果を及ぼせるけど、一対一なら効果は自分だけに集約出来る。
これなら、多分踏み込める!


阿須那
「…!!」


阿須那ちゃんは少なからず顔を引き締める。
私は1歩踏み込むだけで数mを移動した。
そして2歩目で阿須那ちゃんの横を通り過ぎて私は右手を構える。
阿須那ちゃんはすぐに振り向き、炎を練るも、私は構わず3歩目を踏み込んだ。


阿須那
「!?」


阿須那ちゃんは私を完全に見失う。
私は3歩目を踏み込んだと同時、『燕返し』を仕掛けて阿須那ちゃんの背後に回ったのだ。
その瞬間、私は右の手刀で阿須那ちゃんの背中を打つ。
風を纏ったその手刀は、本来なら肉をも切り裂くけど、私はあえてそうせずに打撃として使用した。

阿須那ちゃんはマトモに背中で受け、今度は逆に吹っ飛んでいく。


阿須那
「ちっ!!」


しかし、阿須那ちゃんはすぐに空中で1回転し、こちらを向いて踏みとどまる。
流石に獣の様な身の軽さだ…防御力も想像よりずっとあるわね。
だけど、多分接近戦なら私に分がある。
阿須那ちゃんは特殊が得意なタイプだし、本来は中〜遠距離が得意距離と見るべきだ。


阿須那
(中々の踏み込みやな…思ったよりも思いきりがええし、あの技に反応するのは難しいか)

風路
(正面から行きたいけど、阿須那ちゃんの炎はそれを許しそうに無い)


だけど、私は搦め手に使える技なんて覚えていない。
良くも悪くも、ケンホロウは不器用なポケモンなのだから…


風路
(だから、愚直でも踏み込む! 私にはそれしか無い!!)

阿須那
(踏み込みたいのが見え見えや…それしか出来へんって顔やな)


私は再び踏み込んで距離を詰める。
阿須那ちゃんは軽く腕を振り、そこから広範囲に『熱風』を放った。
その風は私の追い風とぶつかり、私の速度は落とされる。
同時に息をも焼く熱波に、私は目を瞑って耐えた。
息を止め、肺を守る。
私はガードを固めて踏ん張り、その熱を突っ切る様に踏み越えた。
熱風を乗りきり、私は目を開ける。
しかし、その先に阿須那ちゃんはいなかった。


阿須那
「おっにさん、こっちら〜♪」


阿須那ちゃんは更に遠くまで逃げていた。
私は歯軋りするも、もう追い風の効果も消えてしまっている。
このままじゃ、2度と追い付けない…!


風路
(とにかく、何度でも踏み込むしか…!)


ボッ!と瞬間、何かが燃える音。
私は途端に熱さを感じ、悲鳴をあげる羽目になった。


風路
「あああぁぁっ!!」


私の両腕は青白い『鬼火』で焼かれる。
完全に火傷してしまい、私の腕は半ば使い物にならなくなった。
致命傷にはならないものの、これじゃもう私の技は…


阿須那
「そろそろ諦めます〜? ウチはまだ本気にすらなってませんで〜?」


阿須那ちゃんは完全に舐めきっている。
負ける気がしないという顔で、勝ち誇った声だ。
解ってる…これは挑発。
私が真っ直ぐ突っ込む事しか出来ないって、解ってるから。
だけど、私はそれしか出来ない…!
翼を失った鳥ポケモンに出来る事は、それしか無いのだから!!


風路
「っ…ああぁっ!!」

阿須那
「!!」


私は『電光石火』で体ごと阿須那ちゃんにぶつかる。
距離はかなりあったけど、それでも一気に踏み込む事が出来た。
阿須那ちゃんは驚いた様子はあまり無く、むしろ予想通りという感じだ。
そして、火傷している私の攻撃なんて怖くない…そう思ってるんだろう。


風路
(私にはこれしか出来ない…! だから、思いっきりやる!!)

阿須那
(その腕で攻撃とか、無茶にも程が……!?)


私は左手で阿須那ちゃんの右手を掴み、逃げられない様にする。
その際に思いっきり右手首を握り潰し、阿須那ちゃんは少なからず顔を歪めた。
私は痛みで感覚が曖昧になっている、力が入っているのかも解らない。
だから、手加減とか全然出来る気はしなかった。


風路
「覚悟は決めてね…? 思いっきりいくから!!」

阿須那
「…えっ!?」


私はそのまま右拳を握り込み、阿須那ちゃんの腹に全力で突き立てる。
火傷のせいで感覚が殆ど無い…だから、これはただの『空元気』よ!
もっとも…今の私が使える最大最高の技だけどね。


阿須那
「げふぅっ!?」

風路
「ああぁ…!!」

右拳をめり込ませたまま、私は『闘争心』を滾らせる。
そして、そのまま阿須那ちゃんの体を浮かして持ち上げた。
後はそのまま…地面に向かって振り落とす!!


ズッ…! シィィィィィィィッ!!!


そんな音と共に、私は阿須那ちゃんを地面に拳を突き刺したまま落とす。
同時に阿須那ちゃんは口から血を吐き、大の字になってダウンした。
私は、痛む火傷に耐えられなくなり、その場で両膝を着く。
大きく息を吐き、私は歯を食い縛って天を仰いだ。


阿須那
「………」

風路
(勝った…? 私の、勝ち?)


意識が朦朧としてきた。
鬼火の火傷はどんどん進行し、それは私の肩の辺りまで広がってしまっていたのだ。
私はそのまま前のめりに倒れ、阿須那ちゃんの上に被さる。
後は…意識を失って『眠る』事になった。











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第3話 『風路 VS 阿須那! 後輩よ、地獄へのブルースを聞け!!』


To be continued…

Yuki ( 2019/10/22(火) 23:00 )