とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第10章 『過去との決別』
第2話

「…で、具体的に数値が知りたいわけね?」

風路
「うん…とりあえず、皆とどの位差があるのか知りたいし」


私は昼前に白那さんの城へと赴き、棗ちゃんと相談していた。
今は地下のモニタールームで、少し薄暗いけどふたり椅子に座って話している。
他の人は誰もいなく、ここは私たちだけの様だ。



「…細かい部分は藍がいないと解らないけど、既存のテストから大まかな数値は出せなくもないわね」

風路
「そう…それで、どうすれば?」


「…それよりも、何故今更になって?」


棗ちゃんは私の言葉を遮ってそう言う。
表情は全く無く、目を瞑ったままの顔で棗ちゃんはこちらを見ずにただテーブルの上にある資料を見ていた。

今更…か、確かにそうかもしれない。
私は、今まで自分から戦おうと思った事もほとんど無いし、きっとレベルは低い。
そんな私が、今更何を考えているのか?
そんな事は簡単だ…もう決意は固めている。


風路
「…私が、本当に聖君の力になれるのか?」
「ただ、私はそれが知りたいの」


「…別に貴女が戦う必要は少ないと思うけど」
「…まぁ、昨今の混沌事情を鑑みたら、対策は多い方が良いのだけれど」


そう言って棗ちゃんはコーヒーを飲む。
そして資料を片手に持ち、目を瞑ったままその内容を幻視していた。
棗ちゃんはああやって超能力で視界を網膜内に映す。
あくまで目を瞑ったままで物を見る能力の為、映像に若干のブレは有るものの、ほとんど実際に目で見る光景を再現出来ているらしい。

この能力の応用で偽装薬も作られており、相手の視覚に偽りの情報を映させる何かを体から発生させ、それを対象に見せる事で偽装が成り立つのだそうだ。
これらはデジタルカメラ等でもしっかりと働き、例え携帯のビデオで撮られても偽装はバレない。

ただし弱点もあり、アナログカメラで現像された写真にだけは偽装が写らないのだという。
最近はその対策も進めているのだそうだけど…



「…ひとつ聞くけど、知った所でどうにかなるとは限らないわよ?」

風路
「うん…でも知りたいの」
「通用するならそれで良し、ダメなら私はそこまでだろうから」


私は強い表情でそう言う。
所詮、私は今まで訓練もせずに過ごしていた一般人。
ポケモンとしてでは無く、あくまで人間として生きると決めたから、ポケモンとしての技を鍛えたりはしなかった。

もちろん、技を使う事はある。
緊急時や非常時にはあえて使う事も少なからずあったし…



「…身体能力はそれほど悪くも無し、技に関しては未知数」
「戦闘能力があるかどうかは、プロレスで証明済み、か…」

風路
「あ、はは…そういえばあったね、そんな事も」


私は思い出して苦笑する。
プロレスは昔から大好きで、テレビやビデオで良く見てた。
実際に興業を見に行った事もあるし、技とかも研究したりしたんだよね〜
まぁ、それはあくまで趣味の範囲だし、コスプレに応用したりもする程度の経験だけど…



「…とにかく、見てみない事には解らないわね」
「…とりあえず来てもらえる? トレーニングルームでテストをするわ」


そう言って棗ちゃんはコーヒーを飲みきり、カップをテーブルに置いて浮遊する。
そのまま部屋を出て行き、私はその背中を追って行った。



………………………



白那
「あ、棗〜今日、学校サボったでしょ〜?」


「…気乗りがしなかったのよ、研究の事もあるし」
「…夏翔麗愛はもうひとりでも問題無いでしょ?」


通路で唐突に空間から現れたのは家主の白那さん。
いつ見ても美人で、実力も家族ではトップクラス。
これで頭も良く、才色兼備、質実剛健の完璧ヒロインなのよね〜


白那
「義務教育だから、そこまで多くは言わないけど、出来れば一言相談はしてね?」


「…留意するわ、それで用件はそれだけ?」

白那
「うん、後お昼はどうする? 何か食べたい物があるならリクエストを聞くけど」


棗ちゃんはそれを聞いてしばし沈黙する。
チラッとこちらに首を向けた気がしたけど、気のせいだったのだろうか?
やがて、棗ちゃんは浮遊したまま特に何も動作を挟まず、静かにこう答えた。



「…とりあえず、昼食は良いわ」

白那
「あれ? そうなんだ…でも出来れば食べた方が良いよ〜?」


「…大丈夫、後から食べるから」
「…ごめんなさい、今から作業に入るわ」


そう言って棗ちゃんは白那さんの横を通り過ぎて行く。
白那さんは優しく微笑んでいたけど、少し寂しそうにも見えた。


風路
「白那さん、お邪魔してます」

白那
「うん、今日は棗に用?」

風路
「はい、ちょっと折り入って相談がありまして…」

白那
「そっか…まぁ風路ちゃんが一緒なら問題無いかな」


白那さんは少し目を瞑り、微笑んだままそう言って瞬時に消える。
相変わらず神出鬼没だなぁ〜
便利すぎる能力だけど、あれってコントロールする方も相当負担かかるって話なのよね〜
あれは白那さんだからポンポン出来るのであって、そうじゃない者がやれば、どこに挟まれたり埋もれたりするかも解らない危険な代物らしいし…

やっぱりパルキアって凄いんだなぁ〜と、私は素直に感心した。



………………………




「…とりあえず、簡単に走ってもらうわ」

風路
「って、部屋の中に草原!?」


私は棗ちゃんに付いて行った先の部屋で見た光景は、視界一面に広がる草原だった。
明らかに部屋の粋を越えており、私はここが別の空間だと認識する。
そんな驚く私に対し、棗ちゃんはただ冷静に言葉を放った。



「…ここは、造られた空間だから安心して走ってくれて良いわ」
「…距離の事は一切気にする必要無し、とにかく限界まで全力疾走」
「…何か質問はあるかしら?」

風路
「…ううん、良いわ」
「とにかく走れば良いのね?」


私は上着を脱ぎ、軽くストレッチを開始する。
元々動く事前提に服は選んで来てたし、特に問題は無い。
私は足を重点的にストレッチしてとにかく先を見てみた。
道と言える道は無く、あくまで草が生え茂っている草原…
足場の固さは適度で、普通の地面って感じか…
オフロードでしっかりと走るのはあまり経験無いけど、とにかくやるしかないわね!


風路
「じゃあ行くわよ!?」


「…ええ、精々手を抜かないようにね?」


棗ちゃんは片手にノートを持ち、もう片方の手にはペンを持っていた。
私の記録はその度に記載されていくのだろう…
私はしっかりと前を見て、とにかく全力で走る事にした。



………………………



風路
「…!」


私は久し振りに全力疾走で走る。
通常生活をする上でこのスピードを出す事はまず無い。
だからこそ、今の私はどこまで走れるのかが全く解らなかった。
私の限界は…どれ位なのだろうか?

それから私は何分もスピードを維持して走る。
しかしながら、徐々に息は切れ始め、その速度は落ち始めた。
やがてある程度のスピードに落ちた所で棗ちゃんが合図を送った。



………………………



風路
「はぁ! はぁっ!!」


「…スピードは58点って所ね」

風路
「そ、それって…何点満点で?」


「…100点満点で、よ」
「…あくまで、家族の中からで付けた採点だけど」
「…順位で言うなら、中堅下位ね」


中堅下位…まぁ、仕方無いか。
ケンホロウは、あくまで飛行する事を前提とした鳥ポケモン。
足で走る事を前提にしたポケモンではないのだから…


風路
「…ちなみに、100点満点は家族にいるの?」


「…もちろんいる事が前提の採点よ」
「…ちなみに、技の使用を抜きにした場合のトップ保持者は三海ね」
「…もっとも、トップスピードは1分も持たないけど」


三海ちゃんか…流石はメガミュウツーね。
とはいえ、強制維持されているメガ進化の反動は常に三海ちゃんを蝕んでいる。
その強さの裏側には、常に自滅の危機も付きまとっているのだ…



「…まぁ三海を100点満点とした場合だし、その中での点数ならそう悲観する程でもないわ」

風路
「それ以下のランクはどんな感じなの?」


私は棗ちゃんからタオルを受け取り、汗を拭いて息を整えてそう聞く。
すると棗ちゃんはノートにペンを走らせながらこう答えた。



「…2位はメガ進化した愛呂恵で98点、3位は華澄さんの95点ね」
「…ついでに風路さんと同じ位の点数は夏翔麗愛ね」

風路
「…小学5年生と同じ位ですか」


「…一応言っておくけど、夏翔麗愛はあれでも単独で混沌を攻略してる精鋭のひとりよ?」
「年齢と能力は決して一致しない…私たちはあくまでポケモンなのだから…」


私は少し真剣に考える。
あくまで私は人間として自分を考えてしまっているのかもしれない。
今までずっとそうやって生きてきたのだから、その考えを変えるのは少し時間がかかるのかもしれない。


風路
「ごめんなさい、次に行きましょう…これで終わりじゃないんでしょ?」


「…ええ、そのつもりよ」
「…じゃあ、部屋を移動するわ」


棗ちゃんはそう言って超能力で扉を開く。
出口は好きに作れるのか…便利な空間ね〜
私はその後、ジャンプ力や、腕力、潜水等、様々なテストをこなしていった。

やがて、一連のテストが終わった所で時刻は昼過ぎとなる。



………………………



風路
「もうお昼か〜」


「…そろそろ、昼食にしましょうか」


棗ちゃんはノートを閉じてそう言う。
そして少し沈黙し、何かを考えているみたいだった。
私は少し首を傾げるも、言葉を待つ。



「…とりあえず、食堂へ行きましょう」

風路
「そうね、良かったら何か作ってあげましょうか?」


私がウインクしてそう言うと、棗ちゃんは少し固まる。
そして数秒沈黙した後に、無言で背を向けて浮遊して行った。
私は少し?を浮かべるも、そのまま棗ちゃんに付いて行く。



………………………



風路
「…誰もいないわね」


「…まぁ、この時間は櫻桃たちも自由時間だしね」
「…残り物は、あまり無いか」


棗ちゃんは冷蔵庫を開けて物色するが、すぐに食べれそうな料理は入ってなかった。
私もそれを後ろから覗き、とりあえず食材自体は十分入っているのを確認した。


風路
「厨房は流石に広いわね…綺麗に掃除もされてるし、道具も揃ってる」
「やっぱり何か作ってあげるわ、何かリクエストはある?」


私はとりあえず厨房の道具をいくつか手に取り、料理の準備をした。
簡単に作れる物なら数分で出来るし、棗ちゃんの食べたい物次第かしらね…



「………」
「…じゃあ、オムライス」

風路
「うん? オムライス?」


棗ちゃんはかなりボソッ…とした声でそう言った様に聞こえた。
私が聞き返すと、棗ちゃんはコクリと頷き、後は厨房を出て行く。
私はそれを見届けて、少し笑った。


風路
「ふふ…大人っぽく見せてるけど、子供っぽい所は気にしてるね♪」


私は包丁をクルクル回し、すぐに冷蔵庫へと向かう。
そして必要な食材を取り出してすぐに調理にかかった。
オムライスは私の得意料理! 絶対に美味しいって言わせてみせるわ♪



………………………



風路
「はい、お待ちどう様! 特製オムライスよ♪」


「………」


私はあえてコスプレ部隊時代のノリをし、トレーを厨房から食堂に持って来た。
その姿に棗ちゃんはやや沈黙するも、その顔はしっかりと湯気の立つオムライスに向けられている。
うんうん、興味は深々みたいね♪


風路
「じゃあ定番だけど、はい♪」


「……!」


私はオムライスの卵部分に包丁を入れて卵を切り開いた。
あくまで演出みたいな物だから、そこまで重要でも無いんだけどね…
ただ、私が子供の頃は結構憧れがあったし、お義父さんに何度も教えてもらって覚えた物だ。


風路
「スピード重視で作ったから、あまり形はよろしくないけど、味は大丈夫だと思うわ♪」
「それじゃあ、いただきま〜す!」


私は自分の分の皿もテーブルに置き、さっそく両手を合わせていただく事にした。
私のは初めから被せてあるので、卵を切る必要は無い。
とりあえずスプーンで一口すくい、私はそのまま食べ続けていった。



「…!」

風路
「ふふ…気に入ってくれた?」


私はテーブルの向かい側から、そう言って微笑む。
棗ちゃんは無表情ながらも、よっぽど美味しかったのか次々と口にオムライスを放り込んでいった。
私はその光景に満足し、自分のペースで食べていく。

数分程で私たちは食べ終わり、私はふたり分のお茶を出して少しゆっくりした。



………………………



風路
「どう? お腹一杯になった?」


「…ええ、美味しかったわ」


棗ちゃんは、ことのほか満足そうではあった。
言葉は少ないけれど、その感情は伝わって来ている。
良かった良かった♪

そのまま…私たちは30分程休憩してから次のテストに向かう事になった。



………………………



風路
「今度は何?」


「…戦闘訓練の一環よ、本来は藍が逐一プログラムして適正な物を組むんだけど、今回は用意されてる固定プログラムでテストするわ」
「…貴女の予想レベルに合わせてあるから、遠慮はいらないわよ?」


私たちが今いるのは、荒野のフィールド。
風の流れさえも自然に吹いており、本当にリアルな光景だ。
この空間自体は、別の造られた空間であり、あくまで人工的に造られた空間。
なので、いくら破壊しようが問題は無く、どれだけ規格外な力を振るおうが本来の世界は揺るぎもしないって訳ね。

私が気を引き締めると、空間には突如、獣型のモンスターが出現した。
明らかにプログラムとかで作られたって見た目ね。
色とか適当だし、電脳世界的なイメージだ。
むしろこっちの方が全力でやり易い…か。


風路
「…さて、どこまでやれるかしらね?」


「…まぁ、精々頑張りなさい」


棗ちゃんが無感情にそう言うと、モンスターたちは一斉に襲いかかって来る。
私はそれに対して右手を振るい、『風起こし』を巻き起こす。
その風は近くの獣型を複数吹き飛ばし、敵の隊列を乱す事に成功した。

私はそこから『電光石火』で走り、先頭の集団に突っ込んで蹴りを放った。
獣型の一体は真上に吹き飛び、ダメージで消滅する。
私はそのまま飛びかかって来る獣型全てを迎え撃つ。

両腕、両足を駆使して複数の相手を捌き、私は敵を各個撃破していった。
あくまで出て来るのは4足の獣型ばかり。
大きさも狼や犬位の物で、行動もそれに準じていた。
これなら、それ程苦戦もしないわね!



「…そろそろレベルを上げるわよ?」

風路
「!?」


棗ちゃんが何か力を行使すると同時、獣型の思考が変化する。
今まで我武者羅に向かって来ていた獣型が、突然隊列を整えてタイミングを変えて来たのだ。
私は急な変化に隙を晒し、右肩を後ろから噛まれる。
当然の痛みに私は顔を歪めるも、すぐに左手で獣の顔面を砕いて消滅させた。
ここでのダメージは現実に反映されないとはいえ、その痛みは本物同然で、精神的には支障をきたす。
私は一気に緊張感を増して、対応を変えた。


風路
「はあぁっ!!」


私は右手に風を纏わせ、『エアスラッシュ』を放つ。
横薙ぎに振るわれた風の刃は獣を一気に両断し、その数を一気に減らした。
私は全神経を集中させて前後左右全てに意識を向ける。
今の私に野性的な勘はほとんど無い。
だけどこれはそれを取り戻す訓練でもある。
今の私は、これを乗り越えられなければ戦力にはなり得ないのだから。



(…戦闘力はやっぱり高いわね、むしろ何故ここまでの能力を維持出来ているのかが不思議でならないわ)

風路
「!!」


私は技を駆使して統率の取れた群れを薙ぎ倒していく。
まだまだ余裕は残ってる、所詮は獣の動き…これなら!


ズババババババッ!!


風路
「!?」


私は咄嗟にバック転して攻撃を回避する。
私を狙ったのは岩タイプらしき技で、まるで『ストーンエッジ』の様に岩の塊が多数地面から噴き出したのだ。
今のを食らったらマズかった…タイプ相性が反映されてるなら、私には効果抜群。
どうやら、更にレベルは上げられたらしい。



(…タイプ・ルガルガンよ、獣型とはいえその能力はポケモンその物)
(舐めてかかる様なら、家族でも瞬殺される位のレベルだけど…どうかしらね?)

風路
(あの敵…明らかに動きが違う!?)


私は遠くから高速で動く敵を見定める。
あくまで4足の獣型だけど、その体躯は他の敵とは全く違っていた。
サイズは1m程あり、見える毛並みは狼っぽい。
真っ赤な瞳はこちらを正確に睨み付けており、向かって来るスピードは明らかに私を上回っていた。

そして、そのボスらしき獣は唸り声をあげて私に襲い掛かって来る。
私はそれに対し、『エアスラッシュ』で迎撃に入った。

バビュウッ!!と鋭い刃が走るも、ボスは横にステップしてそれを容易く回避する。
反応速度も尋常じゃない…あれを回避するなんて!


風路
「くぅぅっ!!」


ボスは前足でこちらの体を傷付ける。
その後ボスは高速で駆け抜け、すぐに射程外に逃げて行った。
ヒットアンドアウェイ…! 知能も十分にあるわね!


風路
(まともにぶつかったんじゃ話になら無い…! スピード差があまりに有りすぎる)


かと言って、パワー勝負をわざわざ挑む様な有情アルゴリズムじゃ無さそうだし、どうしようか?
そんな風に迷っていると、ボスは前足を高く上げてそれを地面に叩き付けた。
その瞬間、地面から多数の岩が噴き出し、私に向かって来る。
間違いなくストーンエッジだ! 威力も相当ある…食らえば大ダメージ!!


風路
「!!」


私は相手を睨み付け、とりあえず防御を下げてみた。
そしてギリギリのタイミングでストーンエッジを回避し、私はすぐに強風を巻き起こす。
その風は私の背中を押し、一気にボスとの距離を詰めた。



(…『追い風』! 足りない速度をあれで補う、か)

風路
「これなら…どう!?」


私は相手の速度を考慮して使える技を選択する。
私が使える技はそんなに多くない、だから出来る事も限られるのだ。
あくまで、その中から今出来る選択をする!!

私が技を放った瞬間、ボスの体は真上に吹き飛ぶ。
インパクトの瞬間、まるで岩を叩いた様な感触だった…やっぱり岩タイプか!
だけど、私が放った『燕返し』は瞬速!
右手の手刀は風の刃を纏って真下から上に切り上げ、ボスに回避を許さぬ速度で確実にダメージを与えたのだ。


風路
(当たりは良かったけど、効果今ひとつならダメージは低いか)


だけどまだ追い風は吹いている。
私はその速度を維持したまま、空中に舞い上がったボスにジャンプして追い打ちを仕掛けた。
ボスは空中で体勢を整えてこちらに口を向けて噛み付いて来る。
私の首元に鋭い牙が突き立てられ、私は一瞬意識を失いかける。
だけど、ギリ…ッ!と歯を食い縛って私は意識を繋ぎ止めた。

そしてボスの頭を掴んでそのまま空中で体を捻って回転し、逆さまになって急降下。
追い風の加速も加え、私はボスの頭を地面に叩き付けた。
その衝撃でボスの頭部は砕け散り、そのまま消滅する。
私もその衝撃をまともに全身で受け止め、地面へ激突。

後は…もう立てなかった。



「…これで終了よ、お疲れ様」

風路
「…はっ……あ…っ…!」


私は喋る事も出来ず、口から血を吐く。
勝つには勝ったけど、これじゃ相打ちと変わらない、か。


風路
(やっぱり、全然ダメか…)


私は青く澄み渡る空を見上げて、結果を噛み締める。
きっと、華澄ちゃんや、守連ちゃんなら、あれ位は無傷で仕留めてみせるんだろう。
それに比べて、私は命がけで相打ち取るのがやっと…
やっぱり、この程度なのかな?
私じゃ…助けには、ならない…の?



………………………




『ねぇ? どうしてお姉ちゃんは飛べなくなったの?』

風路
(私の…翼?)


私は、夢を見ている様だった。
そして光溢れる白い世界で、私は誰かに話しかけられる。
その声は小さな子供の様で、背中からは翼が見える。
顔は逆行で全く解らないけど、私はその子をどこかで見た事がある気がした。

私の意識はあまりに朧気で、体を動かす事も出来そうにない。
そもそも、夢なのだから全てが曖昧なんだ…
これを夢だと認識出来てる時点で、色々おかしい気もするけど…


風路
(そうだ…私の翼は、聖君の為に)


それは過去の誓い。
私は翼を捨てた…でも、その翼は心に宿った。
私はその翼を大切な人に授けたのだ。
その翼は、その人の支えとなり、決して折れない翼となる為に。

そして、それは諦めない為の翼…!



………………………



風路
「!?」


私は意識を取り戻し、ベッドからすぐに起き上がる。
体に傷や痛みは無い、服も無傷だ。
だけど痛みの記憶はしっかりと有る…そのせいかやや呼吸は安定してなかった。
首に手を当て、私は大きく深呼吸をする。
結局、気絶してしまったのね…



「…あら、気が付いた?」

風路
「うん…ごめんね? 迷惑かけちゃったかも」


扉を開けて中に入って来たのはノートを持った棗ちゃんだった。
特に心配した風でも無く、相変わらずの無表情で私の方に浮遊して来る。
とりあえず…結果発表って所かな?



「…あくまで、正確な評価とは言い難いけど」
「…とりあえず、私の視点から貴女を評価しておくわ」

風路
「…うん」


私は真剣な顔で棗ちゃんの言葉を待った。
棗ちゃんはノートをめくり、そこに視線を合わせたまま、言葉を放つ。



「…まず、基本の6部門から」
「…HP78点、ランクはB」
「…攻撃84点、ランクはA」
「…防御71点、ランクはB」
「…特攻64点、ランクはB」
「…特防50点、ランクはC」
「…素早さ58点、ランクはC」
「…以上、総合ランクはB-って所ね」

風路
「…それって、どの位のランクと思えば良いの?」


私は流石に何とも言えなかった。
多分、真ん中辺りだと思うんだけど…?



「…あくまで私の主観よ? 家族の中で言うならランクは中堅下位」
「…まぁ、総合評価なんて全く戦闘じゃあてにならないけれどね?」


成る程、あくまで身体能力の評価だから、実戦でどうかはほとんどあてにならないって事ね。



「…戦闘トップクラスの守連さんでも、総合評価はB止まりよ?」
「…あれは典型的に尖ってるタイプだから、仕方無いけれどね」


まぁ、守連ちゃんはピカチュウだし、かなり攻撃力に尖ったタイプだと聞いている。
総合評価はマイナスの部分も重く見るから、総合では足枷になっちゃうわよね…


風路
「それで、結論は?」


「…はっきり言っておくわ、本気なら止めた方が良い」


はっきり言われた…つまりは戦力外通告。
私じゃ、戦力にはならないって事か…
私は思わずベッドのシーツをキツく握り締める。
悔しいと思う気持ちはあった。
だけど、それが現実なら仕方無いのかもしれない。



「…勘違いしないでよ? 貴女の戦闘力はむしろ即戦力クラス」
「…ただ、戦法が我武者羅過ぎて、とても見ていられないのよ」
「…あんな戦い方、聖さんが見たら頭を抱えるわよ?」

風路
「…さ、さいですか」


私は苦笑してしまう。
まさかそんな評価を下されるとは…
即戦力だけど、戦法がいただけない…かぁ。

私は何となく昔を思い出す。
お義父さんにも、無鉄砲な所は何度かいさめられたっけ…
何をやるにも、失敗なんて恐れた事無かったからなぁ〜
やるだけやってダメなら、仕方無い…そこで諦めるかは自分次第。


風路
「…諦める、か」


「…自分が可愛いなら、今を大事にしなさい」
「…聖さんは、貴女が戦う事をきっと望んでないから」

風路
「でも、聖君はきっと最後には納得する」


「……それが、魔更 聖だものね」


私は笑う。
そして、改めて決めた。
強くなろう…今からでも。
諦めるのは大っ嫌いだ、昔も今も。
戦力外ならともかく、即戦力なら諦める理由にはならない。
危なっかしいのは性分だし、それが問題なら問題じゃ無くなる位の特徴にすれば良い。
茫栗さんも言っていた…要は強くなれば良いって。

それなら私もやってみよう…現実の仕事はあるけど、阿須那ちゃんたちも自分を鍛えながらやってるんだ。
だったら、皆で力を合わせて頑張れる。
足りない部分は、皆で補う…それが、家族って物だものね♪


風路
(だから、ごめんね聖君…お姉ちゃん、やっぱり諦められないみたいだから)


この想いは、きっと揺るがない。
私は、聖君の翼になると決めたから。
その為に、聖君を幸せにすると決めたから…
今は、その想いを貫き通そう……











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『風路、体力鍛練の行!』


To be continued…

Yuki ( 2019/10/20(日) 14:15 )