とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第9章 『ダウンタウン ポケモン行進曲 それゆけ大運動会』
第6話

「未来さん、お疲れ様でした」

未来
「む…聖殿か」


未来さんは、中庭でひとりくつろいでいた。
もう日差しも傾きつつある時刻、俺たちは共に日陰で座り、少し会話をする事に…
未来さんの表情は思いの外満足そうで、とりあえず不満は無さそうだった。



「そういえば、未来さんの望みって何なんですか?」

未来
「…小生の望みは、もう叶っている」


未来さんはそう言って、ペットボトルの水を1口飲んだ。
俺は少し驚くも、それ以上追求はしない。
何となく、予想は出来てしまったからだ。



「未来さんは、また戦うんですか?」

未来
「うむ…それが、小生の生き方だからな」


そうだよな…それが未来さんだろうからな。
でも、以前の様な堅さはもう無い気もする。
少なくとも、今の未来さんには危うさは感じられない。


未来
「…聖殿は、何を望む?」


「えっ? 俺ですか…?」


俺は考えてもいなかったので、何も思い付かなかった。
そもそも、俺が願いなんて下手に望んだら、雫が何するかも解らんからな…
なので、俺はとりあえず無難な答えを返す事にした。



「俺は、家族と一緒に無事に帰れたら、それだけで良いですよ」

未来
「ふ…やはり欲が無いのだな」


「欲はありますよ、ペルフェが言ってた様に」
「俺は傲慢ですから、こうと決めたら絶対に退きませんし」
「必要であれば、他人の信念をねじ曲げてでも俺は我を通す…」
「今回も一応我は通させてもらったし、これ以上余計な迷惑はかけませんよ」


未来さんは、それを聞いて微笑する。
そしてまた水を飲み、空を見上げた。
もう夕日が差し込み始めている…もう少しで閉会式だな。


未来
「…私は、聖殿に出逢えて良かった」


「…そう、ですか」

未来
「この世には、力と信念だけでは勝てぬ相手がいる」
「それを教えてくれたのが、ただの人間の子供である聖殿だ…」


ただの…か。
未来さんは夢見の雫の事は知らないだろうからな。
正直な所、ただの人間がこんな混沌に関わる事なんて有り得ないだろ。


未来
「…聖殿は、変わらぬのだな」


「そうでもありませんよ? 少しは変わってるかもしれません」
「あんまり、自覚は無いですけど…」


少なくとも、覚悟に関しては今まで以上にしてるつもりだ。
アルセウスさんの創った世界は、ギリギリで保たれている。
俺の選択ひとつで、その器は容易く溢れてしまうのだ。
だから、俺は極力余計なフラグは立てない方が良い。
まぁ、そう思ってても…俺は全部関わっちまうんだろうけど。



(俺は、神すら救うとのたまった…なら、貫いてみせるさ)

未来
「聖殿は、強い…」
「だが、そうだからこそ…小生も惹かれるのだろう」


「…そろそろ、行きます」
「舞理愛とペルフェにも、声をかけたいんで」


俺はそう言って立ち上がる。
未来さんは座ったまま、また無言で水を飲んだ。
俺は微笑する未来さんを尻目に、場所を移動する。
さて、他のふたりは何処かな?



………………………




「何だ、こんな所にいたのか?」

舞理愛
「あら、丁度良かったわ…ここには喫茶店は無いの?」
「紅茶が飲みたいのだけど、見当たらないのよ…」


舞理愛は体操服姿でそんな事をのたまっていた。
コイツはアホか…どう見ても学校なここにサ店があるわきゃねぇだろ。
…と、俺は心の中でバカにするも、大人の対応で口には出さなかった。
そして、俺はとりあえず近くにあった自販機に向かう。



「って、通貨持ってるわきゃねぇか…」


俺は自分でアホか思いつつも、とりあえずボタンだけ押してみた。
すると、ガコン!と音がして紅茶が出て来る。
俺は?を浮かべながらも、とりあえずそれを取り出した。
金が初めから入ってのか? まぁ、運が良かったとでもしておこう。



「うむ、冷えてはいるな」

舞理愛
「何よそれ?」


「あん? 見た事無いのか? ほれ、これをこうすると蓋が空くんだよ…」


俺はとりあえず紅茶のプルタブを空けて飲める様にしてやる。
そして、それを舞理愛に渡してやった。
舞理愛は?を浮かべながらも缶をマジマジと見つめている。



「何してんだ? 紅茶だぞ?」

舞理愛
「香りが悪いわね…本当に飲めるの?」


「そりゃ淹れたてじゃねぇんだから、少しは我慢しろよ」
「マトモな紅茶が飲みたいなら、元の世界に戻って飲め」


俺がそう言ってやると、舞理愛は不満そうな顔をしながらも、それを飲む。
すると、ビミョーそうな顔をしてしまった。


舞理愛
「何よこれ…ストレートにしては味が薄いんじゃないの?」


「所詮自販機物なんだから当たり前だろ…そこまで本格的なのを期待する方がおかしい」


舞理愛は愚痴りながらも、チビチビそれを飲む。
レーションの時もそうだったが、コイツって不味かろうがちゃんと全部平らげるんだよな…律義っつーか何つーか。



「はぁ…で、お前はどんな望みを叶えてもらうんだ?」

舞理愛
「ふん、貴方に言う必要は無いわ」


そりゃごもっともで。
まぁ、そこまで期待はしてなかったからな。



「まぁ、良いや…それじゃお疲れさん」
「それが言いたかっただけだし」

舞理愛
「そっ、まぁ紅茶の礼は言ってあげるわ」
「その代わり、次はもっとマトモな紅茶を用意しなさいよ?」


やれやれ…それじゃ今度女胤に何か見繕ってもらうか…?
って、いつ会うかも解らないのにそんなの出来るかっ!
と、心の中でツッコムも、俺はテキトーに返す事にした。



「はぁ…まぁ、その機会があればな」
「こんな偶然、そうそう無いと思うが」


俺はそう言ってその場を去る。
舞理愛はやはり不満そうな顔で紅茶を飲んでいた。
やれやれ、もう少ししおらしければフツーに可愛いんだがな…
…何故だろう? 俺はここでHENTAIの顔が頭に浮かんだ、
そう言えば、妙に共通点が多いよな…?
まぁ、本人に言ったらブチギレそうだからここは黙っとこうと俺は思った。



………………………




「…よ、一応まだいたな」

ペルフェ
「何の用よ? もう終わったんだから貴方とは敵同士…これ以上生かしておく理由も無いのよ?」


そう言ってペルフェは腕輪を外し、右手を俺の方に向ける。
俺は特に警戒もせずに近くの椅子に座った。
ちなみにここは黒組で使ってる控え室だ。
今は俺とペルフェしかいない。
体操服姿のまま立っているペルフェは、鬱陶しそうな顔をして俺を睨んでいた。



「それで俺を殺したとして、お前は満足か?」

ペルフェ
「そんな訳無いでしょ、全ての人間を欲望の底に落とすまで私の復讐は終わらない!」


「復讐…ね、それで自分の力が及ばなさそうなのには実力行使って訳か、子供の発想だな」

ペルフェ
「黙りなさい! 貴方がどれだけほざこうが、私は絶対に復讐を遂げる!!」
「この世に存在する欲望を操り、今度は私が人間を支配してやるのよ!!」


ペルフェの顔は狂喜に満ちている。
今の俺では、コイツを救う事は出来ないのかもしれない。
例え力ずくで従えたとしても、それはコイツの憎しみを増やすだけ。
他の方法が必要なんだ、だけど今の俺にはあまり良い方法は浮かばない。
方法が無い訳じゃないが、リスクは相当甚大になるからな。



「…ペルフェ、俺はお前を救ってやるよ」

ペルフェ
「!? 止めなさい! 私は貴方になんか救われたくない!!」


「それで良いさ、俺は俺のワガママ、お前はお前のワガママを貫けば良い」
「だから、とりあえず閉会式が終わるまでは大人しくしててくれ」
「敵同士に戻るのは、元の世界に無事に帰ってからだ」


俺が、やや悲しげにそう言うと、ペルフェはかざしていた手を下げる。
そして俺からそっぽを向き、そのままひとり教室を出て行った…
俺はそれを確認してからスマホを耳に当てる。



「…恵里香、悪いな勝手に決めて」

恵里香
『何を今更? ボクからしたら想定通りだよ』
『この混沌に巻き込まれた時点で、ボクはキミがその結論に辿り着くのは解っていた』
『だから、あえて言うよ…ペルフェを、救ってあげてほしい』


恵里香は、珍しく俺にそう懇願した。
いつもなら、ただ笑って、達観した目で世界を見てきた恵里香が、俺を頼ったのだ。
俺は懐かしい雰囲気になる…そして、少し思い出した。



「…あの時以来か、お前が俺に願ったのは」

恵里香
『そう、だね…』


あの時、とは…俺が恵里香と再会した時。
暴走したアルセウスさんと戦う為に、恵里香が俺に願った求め…


『どうか、皆の世界を救ってほしい』


俺はこの時、恵里香からその後の滅びを聞かされ、小学生ながら神にケンカを売った。
だが、その結果は皆も知っての通り…
俺は絶望し、夢の世界を創って、そこへ逃げ込む事になった…



「…恵里香、悪いが今回ばかりは約束は出来ないぞ?」

恵里香
『分かってるよ、そこまではボクも求めていない』
『ただ、それでも願いたいんだ…ペルフェを救ってほしいと』


「ひとつだけ教えてくれ、お前とペルフェはどんな関係だったんだ?」


俺は周りを少し気にしながらスマホを握り直す。
本人がいないのを確認した上で、俺は恵里香の答えに耳を傾けた。


恵里香
『出会ったのは、ただの偶然だったよ…』
『まだボクが人化する前…つまり、最果てに辿り着く前』


やはりそうだったのか…何となくそうなんじゃないかとは予想してたが。
しかし、それだとペルフェは昔の俺と接点はあったのか?


恵里香
『ボクは滅びの未来を予知し、時渡りを繰り返して歴史を変え続けていた』
『ペルフェと出会ったのは、その時のとある時間軸での話だ』


とある時間軸…か。
って事は、俺と接点があった訳じゃ無さそうだな。


恵里香
『本当に、ただの偶然…たまたまボクは一国の王女だったペルフェと出会い、たまたま友人になった』


「友、人…」


だったら、何故敵になった?
その時に何かがあったのか?
少なくともペルフェの憎しみはただ事じゃない。
自身の体が黒く染まる程の憎しみだ。
一体、そこで何があった?


恵里香
『ペルフェは、隔絶された国の中でひっそりと生きていた、世界で唯一のディアンシーだった』
『当時の彼女は明るい性格で、誰にでも気さくで、細かい事も気にしない、おおらかな性格の娘だったよ…』


気さくでおおらか…ね。
そんな奴が今やネガティブの極致に至って狂ったんだから、救われねぇモンだ…


恵里香
『ボクとしても、時を渡る中、気を許せる友人はとても貴重で、ペルフェとは気が付けば仲良くなっていた…』
『ただ、好奇心旺盛だったペルフェは、1度で良いから外に出たいと、ある日ボクにワガママを言ったんだ』
『当然ながら、部外者のボクにそんな権利があるはずも無く、そんなペルフェの願いは流石に聞き入れられなかった』
『だけど…それが、そもそもの発端でもあったんだ』


「…発端」

恵里香
『結局彼女は、たったひとりで国を出てしまった』
『世間の事など何も知らず、純真なまま育った箱入りのお姫様が…」
『当然の様に、ペルフェは人の闇に触れた…』
『ダイヤという宝石を、無尽蔵に生み出す事の出来るペルフェは他者の欲望に貪り尽くされていく…』
『そんな他者の限りない欲望に晒され、ペルフェは悪意に包まれた』
『何も知らなかった純真無垢なペルフェは、利用されるだけされ、もはや誰も信じられなくなってしまったんだ…』


そうか、それが…理由か。
三海もそれっぽい事を言ってたしな。
その時に、余程の思いをしたのか…


恵里香
『ペルフェは、憎しみに染まり、美しかったダイヤの色は醜き黒へと変化した…』
『その後彼女は憎しみにかられて暴走し、手当たり次第に国の住民を殺していった…』
『ボクはそんな彼女を止める為に、あえて時渡りをして彼女ごと転移したんだ』
『だけど、この時だけはボクにも予想は出来なかった…』
『まさか…それが最後の時渡りになるだなんて』


最後…だと?
それって…まさか?



「そこで、終わってしまったのか? お前の、時間は…?」


恵里香は何も言わない。
だけど、それは恐らく肯定。
ペルフェは、奇しくも恵里香と共に最果てに辿り着いてしまったのか…


恵里香
『そこから先は、ある意味悲惨だった』
『最果てから見える様々な世界は、全てが滅びに向かう絶望の歴史だけを映す』
『ボクもペルフェも、その終焉に絶望し、どうしようもない終わりを、ただ見ている事しか出来なかった』
『自分たちの体が、いつの間にか人化しているという、突飛な事すら些細に思える程に、そこはただの虚無だった…』


恵里香は淡々と語るが、その時の辛さは想像を絶する物だったのだろう。
そして、それはペルフェも…か。


恵里香
『最果てで永遠とも思える時間をふたりで過ごす内、やがて精神をすり減らしていったボクたちは、次第に口論が絶えなくなっていった』
『ボクはどうにかしてこの滅びを救いたいと語る一方、ペルフェは愚かな人間を滅ぼすと言う』
『互いに相容れない思想のまま、そんな不毛な口論が何度も何度も続き、もうどれだけの時間が経ったのかも忘れた頃、ボクとペルフェは遂に解り合えないまま袂を別った…』
『その時点で既にボクは世界送り(ワールドメール)の能力に目覚め、ペルフェもまた欲望支配(ドミネートディザイア)の能力に目覚めていた』


欲望支配…か。
文字通り、欲望を自由に操る能力。
そしてそれは他人の精神に勝手に干渉し、支配する最悪の能力…


恵里香
『ペルフェの能力は、世界に蔓延る欲望を探知し世界をも移動する』
『そして同時に世界の欲望を支配し、コントロールする能力でもある』


「バトルフロンティアで起こった、あの暴走事件はその能力のせいなんだな…」


華澄や三海は言っていた。
まるで腹の底から何かを引きずり出される様な最悪の悪意だと。


恵里香
『ペルフェはこの力を悪用し、様々な並行世界で実験を行い続けた』
『ボクは最果てから動く事は出来ず、ただそんな虚しいペルフェの行動を見ているだけだったよ…』


所詮、待っていればいずれ終わる世界。
ペルフェはそれが解っていながら、憎しみのままに好き放題やっていたのか…


恵里香
『メロディもまた、ペルフェの能力の被害者だった…』
『彼女は歌を使って世界の悪意を鎮める事の出来る、特殊なメロエッタ』
『皮肉にも、彼女はペルフェとは逆の道を選び、例え絶望の果てだとしても、希望を抱いて歌い続けた』


「それから、お前とメロディさんは出逢ったのか?」

恵里香
『うん…彼女もまた、世界移動が可能な特殊個体だったからね』
『希望の歌(ホープヴォイス)…それが彼女が自分で名付けた能力名だよ』


希望の歌か…メロディさんらしいよな。
きっとメロディさんの事だから、ペルフェ相手にブチキレてたんだろうなぁ〜


恵里香
『メロディもペルフェの過去は知っているけど、彼女は彼女の道を歩むだけだった』
『ちなみに、ボクが最初に聖君の事を話したら、彼女何て言ったと思う?』


俺は?を浮かべて想像するが何も思い付かない。
メロディさんの事だからテキトーに何か言ったんだろうか?


恵里香
『じゃあ、滅びは救われるね! 後よろしく!!』
『…だよ? 信じられる? 本当にそう言って逃げたんだから…』


俺はポカーンとしていた。
まだただの小学生だった俺相手に、どんだけ丸投げしてんだよ!
つか、手伝ってくれても良かったんじゃないの!?



「何て言うか…らしいと言うか」

恵里香
『彼女はゴーイングマイウェイが座右の銘だからね…』


「そのまんまな性格だもんな…」
「やれやれ、そうか…メロディさんもやっぱ深い関わりがあったんだな」


ひょっとしたら他にも幻仲間とかいるんじゃなかろうな?
恵里香の奴、あれで変なネットワークとか持ってそうだし、まだいる可能性はある。
そういえば、フーパの事も知っていたみたいだったが、アイツも仲間なのか?
…まぁ、それは別に良いか。
アイツはアイツで忙しそうな生き方してそうだし。


恵里香
『とりあえず、ボクとペルフェの関係はそんな所だよ』


「ああ、良く解ったよ…お前が本当はペルフェの事好きだってのは」

恵里香
『そういう訳じゃないさ…確かに良い友人だとは思ってたけど、過去の話だし』
『救いたいと思うのは、ボクに少なからず非があるから…』
『あの時、ボクが付いていてあげたら、彼女は怖い思いもしなかったはずだし…』


恵里香は、ずっと悔やみ続けていたんだな。
でも、それ以上に恵里香は世界を救いたかった。
ペルフェはその間、ずっと憎しみを増幅させて復讐の機会を窺っていたんだ。
俺が結果的に滅びの未来を救った事で、ペルフェの野望を加速させてしまったのかもしれない。
だったら、俺にも少しは非があるか…



「とりあえず、任された」

恵里香
『うん、お願いするよ…』


俺は最後にそう言ってスマホを仕舞う。
さて、そろそろ治療も終わったろう…サンダースの所に向かうか。



………………………



サンダース
「これにて全プログラム終了!!」
「最後に各部門賞を発表する!! まずは『敢闘賞』! 舞理愛!!」


観客から歓声が起こり舞理愛が表彰される。
ちなみに場所は運動場で、既に夕日が射し込む時間帯。
全員が一同に集まり、最後の表彰式を行っていた。
ちなみにサンダースは包帯まみれながら、あくまで自分で最後の締めも行うつもりの様だった。


サンダース
「続いて『最優秀選手賞』! 華澄!!」


華澄は名前を呼ばれて前に出る。
華澄も包帯まみれで、とても勝者とは思えない雰囲気だな…


サンダース
「次は『舐めてる奴で賞』! 白那!!」


おっと…まぁ、結果的に失格になっちまったからな。
当の本人は苦笑してるぞ。


サンダース
「次! 『びっくり新記録賞』! 穹!!」


あらら、これである意味ポイントは相殺になったか。
とはいえ最終結果はどうなるやら?


サンダース
「そして最後に『イーブイグループ特別賞』! 華澄!!」
「以上を持って、全プログラムを終了とする!!」


最後は華澄がまた取って終了か。
って事は…?


サンダース
「最終結果を発表する! 勝ったのは……」


ダララララララララララッ!とドラムロールが鳴り、全員が答えを待つ。
そしてサンダースは声高らかにこう宣言した。


サンダース
「優勝は青組だーーー!! 全員、拍手!!」


パチパチパチパチパチパチ!!


華澄
「か、勝ったのでござるか?」

舞桜
「やったね華澄ちゃん! 最後の最後で逆転だよ!!」

愛呂恵
「これも華澄さんが活躍したお陰でしょう」

白那
「うん、良かったね〜♪」


「結果良ければ全て良し」


華澄たちは家族全員に囲まれ、大騒ぎになる。
そして、それを遠目に見ていたサンダースは、満ち足りた顔をしていた。
本人的にもやるだけやって満足だったんだろう。



「お疲れさん、残念だったな」

サンダース
「ふっ、だが良い経験をさせてもらった」
「この敗戦は、私にとって更なる糧となるだろう!」


サンダースはあくまで前向きに受け止めている。
全く…皮肉も通用しないか。



「それで? 唯ちゃんの事は認める気になったか?」

サンダース
「…そうだな、認めねばなるまい」
「例え、貴方の力を借りても我々は勝てなかった」
「愚姉には、勝つだけの力があったのだろう」


「なら、唯ちゃんに一言会って謝れ…俺が望む願いはそれだけだ」


サンダースは驚いた顔でそう言う。
黒組には勝ち負けに関わらず、何か望みを叶えるという約束らしいからな。
なら、俺にも一応権利はあるだろう。


サンダース
「分かった、必ず叶えよう…この私のプライドにかけてな!」
「さぁ、もう行くが良い…貴方は自由だ」


「待てよ、まだお前の望みを聞いていない」

サンダース
「何を言ってる? 私は含まれていないぞ?」


「だから、これは俺が叶えてやる…ただし、現実的な願いにしろよ?」


俺は何となく、もうすぐ終わるであろう、この混沌が続いている内にそう言ってやった。
サンダースは?を浮かべながらも、何かを考える。
まぁ今回だけは特別だ、大抵の望みなら雫で叶えてやれるからな。
俺がしばらく待っていると、サンダースは少し表情を変える。
しかし、何か躊躇っているのか、すぐに口にはしない様だ。
ま、まさかエロい展開じゃないだろうな!?
貴方の子供が欲しい♪なんて、言われたら流石にマズイ事になるぞ!?

って、そんな変態的な思考は女胤と騰湖だけで十分だっちゅーのに…
流石にコイツがそんな望みは言わないだろ…


サンダース
「…では、私にも」


「げっ!? 消え始めた!?」


サンダースが何かを言おうとした瞬間、世界は光の粒子に包まれる。
どうやらタイムアップみたいで、残念ながら叶えるのは次に持ち越しになりそうだな…


サンダース
「あ…」


「悪いな! 今回は時間切れだ!!」
「だけど、次に会えたら必ず叶えてやるよ!」
「その代わり、それまでに唯ちゃんに謝っとけよ〜!?」


俺が一方的にそう言うと、世界は光に包まれて混沌は終わる。
後はいつものパターンだろ…うん、いつもの。



………………………



サンダース
(やれやれ…間が悪いと言うか)


「やっほ〜どうだった?」


私は今、特に変哲も無い草原にいた。
簡易的に創られた混沌は終焉し、全てが正常に戻ったのだ。
つまり、ここは私が本来いる世界。
そして、共にいるのは今回のスポンサーだ。


サンダース
「とても有意義な体験だった…感謝しよう、『フーパ』」


そう、スポンサーとはあの幻のポケモン、フーパだった。
今回、たまたま私は彼女たちに遭遇し、今回の企画を立ち上げる事にしたのだ。
どうやら、聖の事も知っていた様だし、話は実にスムーズに進んだものだ。


フーパ
「そりゃ良かった♪ まぁ、お祭り事には関わるのがお約束だし、こっちとしても有意義だったよ♪」


「…終わったわよフーパ、黒組の願いは全て叶えたわ」

フーパ
「お疲れさんジラーチ♪ んじゃ、これで今回の祭りは後始末もお仕舞いだね」


突然、空中からリングが開き、ひとりのジラーチが現れ、そう報告をした。
フーパの能力で別世界に転移し、そこで仕事をしていたのだろう。
黒組のメンバーには、望みをひとつ叶えるという餌で協力してもらったからな…
ジラーチがそれを叶える役…という事か。


サンダース
「終わったなら、ここまでだな」

フーパ
「そうだね、もう会う事は無いかもしれないけど」

ジラーチ
「どうだか…貴女の事だから自分から関わりそうだけど」


フーパは言われて空笑いする。
否定はしない…という事だろう。


フーパ
「まぁ、とりあえずこれで終わり! こっちとしても面白い物は見させてもらったし、見てる分には楽しかったよ♪」

サンダース
「そうか…それならば良かったよ」


フーパたちはその言葉を最後に、リングを使って世界を移動する。
ひとり残された私は、草原の風に打たれ、髪を靡かせながら遠くに見える街を確認した。
しばらくは休養だな…鍛え直すのはその後だ。
約束もあるし、まずはそれから終わらせなければならない。
私はこれからの事を次々と頭に思い浮かべ、微笑した。
まだまだ楽しみは多い…さて、次は何を計画するかな?
私の中にあるこの思いは、当分燃え尽きる事は無さそうだった…



………………………




『で、いつものごとく…と』

アルセウス
『…何か、不安があるようだな』


いつもの公園、いつものベンチ、そしていつものふたり…
今回は雫もほとんど濁ってないし、ひょっとしたら会えないかとも思ったけど。



「アルセウスさん、大丈夫ですか?」

アルセウス
「…? 何故、我の身を案じる?」


アルセウスさんは若干顔をしかめてそう聞く。
この人の事だから、心配される事自体がおかしい事なんだろうな…


アルセウス
「いや…そうだったな、そなたはこうと決めたら、必ず遂行するのだった」


「はい…俺は貴女も救いますから」


もっとも、具体的にどうすれば救えるのかなんて俺には想像もつかない。
いくら万能の夢見の雫とはいえ、それを創ったのは他でもないアルセウスさん本人なのだから…
つまり…



(俺は雫無しで、この神様を救わなきゃならない…)

アルセウス
『我を救う…か』
『例え無理な事でも、やると言えば必ずやる…それもそなたの面白さか』


『面白い…ですか?』


ちょっと意外な言葉が聞けた。
あのアルセウスさんから、面白さとかいうワードが出て来るとは…
アルセウスさんでも、ちゃんと娯楽みたいな感覚とかはあるって事なんだろうか?
世界を創ったり崩したりで、キャッキャウフフ♪されててもそれはそれで怖いが。


アルセウス
『我には…感情はあっても、人の子の様に物事を楽しんだりは出来ぬがな』


『どうしてです? それなら、アルセウスさんにとっての楽しみって何なんですか?』

アルセウス
『我にとっては、我が子たちが元気に生きている…それだけで、幸せなのだ』


アルセウスさんは虚空を見つめ、そう笑った。
アルセウスさんにとっての我が子…それはまさしく人類やポケモン全てなのだろう。
あまりにスケールがデカ過ぎて、俺の頭じゃその程度にしか想像出来ないけど…
アルセウスさんにとっては、それだけ意味がある事なのかもしれない。


アルセウス
『さぁ、雫を浄化しよう…』


『はい…つっても、ほとんど濁ってないですけど』


俺はそう言って夢見の雫をアルセウスさんに渡す。
アルセウスさんは無言でそれに手を当て、優しい光と共に濁りを吸い取ってくれた。
雫はまた濁りの無い美しい透明色に変わる。
俺はそれを再び自分の体内に戻した。


アルセウス
『聖よ、迷うな』


『え…?』

アルセウス
『世界は、確かにギリギリで保たれている』
『だが、そなたが気にする事は無いのだ』


『ですが、それだと貴女が…!』

アルセウス
『良いのだ、我にとってはそなたも大事な我が子…』
『我が子が元気に、自由に、楽しそうに育つ姿を見て、悲しむ親などいないのだから…』


俺は、胸にズキリと痛みを感じる。
夢の中だと言うのに、痛みを感じるのだ。
俺は親を知らない、物心付く前から両親は他界したのだから。
その代わりに、勇気さんや姉さんが親の代わりになってくれていた…

でも、やっぱりふたりは本当の親ではないのだ…



『………』

アルセウス
『聖よ、我が子よ、どうか…正しくあれ』


アルセウスさんは優しい笑顔でそう言ってくれる。
俺は何故だか涙が出そうになった。
俺の事を、我が子と言ってくれるアルセウスさんは、ある意味俺の母親なのかもしれなかったからだ。
そう思うと、俺は嬉しくも悲しくもある。

それなら、この人は最初から家族のはずなのに…
家族なのに…こんなにも近くに感じるのに。



(この母親は、こんなにも遠い…)



………………………




「………」


気が付けば、そこは近所の公園。
今日は珍しく子供たちが遊んでおり、喧騒が良く聞こえる。
俺の姿は制服のままで、下校中だと言うのを俺は思い出した。
そして右手にある鞄の重さを感じ、俺はそれを肩に担ぎ直して歩き始める。
またいつも通りだ、なら帰ろう…

俺の家族が待つ、ただひとつの家に……











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第6話 『運動会閉会! 更なる明日に向かって…』


第9章
『ダウンタウン ポケモン行進曲 それゆけ大運動会』





To be continued…

Yuki ( 2019/09/10(火) 18:16 )