とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第9章 『ダウンタウン ポケモン行進曲 それゆけ大運動会』
第5話

「さて、最後のメンバーは誰なんだ?」

サンダース
「…すぐに解る、少なくとも貴方にとっては身近な存在だ」


サンダースはそう言って、いつもの様に両腕を組んで成り行きを待っている。
つまり、間も無く現れるって事だろうが…俺の身近な存在?
だとすると家族の誰か…と言う事になるが。
身近な家族…となると。


三海
「やぁ、ようやく会えたな♪」


「まぁ、お前しかいないわな…」


俺は予想通りの結果に苦笑いする。
気が付けば俺の前にいたのは、紛れもなく家族の『三海』だった。
ここまで、出て来なかったのが不思議な位だがな。
成る程、身近だわ…そりゃ。



「お前は、詳細を知っているのか?」

三海
「さて…? 知っているとも言えるし、知ってないとも言える」


相変わらず、哲学的な応対だ。
三海は精神が成長してから、こんな風にどうとでも取れる言い回しが多いからな。
俺をからかっている可能性も高いが、こうやって笑って対応してる内は、本当にどっちでも良いのかもしれない。



「…やれやれ、これが黒組のメンバーかよ」

サンダース
「そうだ、最高のメンバーだろう?」

未来
「………」

舞理愛
「…ふん」

ペルフェ
「……!」(ギリッ!と歯ぎしり)

三海
「…ふふ」


俺は改めてメンバーを見渡す。
確かに最高のメンバーと言えるな…
パワーなら未来さん、テクニックなら舞理愛、残虐性はペルフェ、宇宙的戦闘は三海、そしてスピードならサンダースか。

このメンバーならウチの家族と総力戦をやっても最強クラスだろう…
つーか、マトモなバトルでやったらマジで最強かもしれん。


サンダース
「ふっ、とはいえこのメンバーといえども、ルールの前にはどうなるか解らん」


「…? そう言えば、黒組とのバトルは同じルールでやるのか?」

サンダース
「いや、全く新しい種目で戦う! 当然だが、これに関しては詳細は誰にも話していない!」


全く新しい種目だと…?
だとしたら、ほぼ全員が初見でやった事も無い種目をやるって事か…?


未来
「…何があろうとも、小生は己に出来る最善を尽くすのみ」

舞理愛
「例えどんな種目だろうが、勝つのは私よ?」

ペルフェ
「ふん、憎しみに抗える者はいない…それを証明してあげるわ!」

三海
「聖が望むのなら、私は無敵だよ…♪」


良くも悪くも、協調性0のパーティ。
しかし、その実力は紛れもなく最強候補のポケモンたち。
果たして華澄たちは、このチームに勝てるのか…?



………………………



華澄
「………」

舞桜
「華澄ちゃん、全権は委ねるから」

水恋
「正直…私は多分、あまり役に立てないと思う」

神狩
「…決めるのは華澄に任せる、何を選んでも私たちは文句を言わない」

悠和
「…はい、あくまで勝利を優先で選択してください」


拙者は悩んでいた。
ここまで勝ち抜いて来れたのは、紛れもなくチームワークの勝利。
そのメンバーを入れ換えて、果たして良い結果を導き出せるのか…?
正直、このまま突き進んだ方が良い気もする。
しかし、サンダース殿の自信は紛れもなく、こちらの最高戦力を想定しての言。
このまま戦って、無様に負ける様では…


華澄
「…拙者としては、このままで戦いたいでござるが」

舞桜
「でも、それは勝利を優先してないよね?」

神狩
「この戦いは、聖さんを取り戻す戦いだよ?」


拙者はそれを改めて考える。
サンダース殿は、およそ悪人とは思えませぬ。
果たして、本当に聖殿に危害を加える方なのでしょうか?


水恋
「アタシは良く解んないけど…負けたら台無しだと思う」

悠和
「…そうですね、聖様が望んでいるかは解りませんけど、どうせなら勝ってほしいと思っているんじゃないですか?」


拙者は聖殿の考えを想像する。
確かに、聖殿ならそれを望んでおられるでしょう。
ですが、本当に拙者が決めて良いのでしょうか?
自問自答した所で、良い考え等浮かばない。
でしたら、せめて家族に相談しましょう…それ位は許されるはず。



………………………



阿須那
「…それで、言いたい事はそれだけか?」

華澄
「…はい」


拙者はまず赤組の控え室に向かった。
他のメンバーは誰も連れず、あえて拙者ひとりでここに来た。
そんな拙者に対し、阿須那殿はため息を吐いて、つまらなさそうにしている。


阿須那
「正直、ウチはどうでもエエわ」
「負けたモンに口無し…引き抜きたきゃ好きにせぇや」

華澄
「…本当に、それで良いのでしょうか?」

阿須那
「そんなん知るかっ、アンタ仮にも大将やろ!?」
「そん位、自分で決めぇや! そんな度胸も無いなら、ハナから戦うな!!」


阿須那殿の言葉は、拙者の胸に突き刺さった。
度胸…ですか、阿須那殿は割り切っているのですな。
確かに、勝つ事だけを考えるのでしたら、そういった視点で見なければならない。
拙者は、やはり甘いのでござろう…


華澄
「申し訳ありませぬ…拙者には、どうあっても非情にはなりきれないのかもしれません」

阿須那
「…ならさっさとリタイアでもせぇ」
「ウチやったら、何があっても勝つ為に戦うけどな…」



………………………



女胤
「…それで、華澄さんは満足なのですか?」

華澄
「…解りませぬ、ですから…こうやって相談に来たのです」

女胤
「…はぁ、とりあえず私の意見を言わせてもらえば」
「話にもなりませんね、今の華澄さんでは到底黒組には勝てません」
「サンダースさんの顔を見ましたか? 明らかにこちらの総戦力を把握した上で、あのルール設定」
「それを踏まえた上で笑っていたのですよ?」
「つまり、彼女は勝つ気満々…それに対して、無策で何の手も打たずに貴方は戦うおつもりですか?」


女胤殿の言葉も辛辣でした。
改めて拙者は甘いと思われてるのでしょうな。
そしてそれはまさに真実。
女胤殿は、あくまで正論しか言っていない。


華澄
「女胤殿も、同じ考えですか…」

女胤
「その言い方ですと、阿須那さんにも同じ事を聞いたのですね?」
「阿須那さんの事です、きっと怒鳴られたでしょう?」

華澄
「…はい」


女胤殿はまたため息を吐く。
明らかに呆れている顔でした。
それだけ、拙者はおかしいと思われているのですな…


女胤
「…これが、本当にただのスポーツなら、好きにすれば良いと思います」
「ですが、あのサンダースが何を目的に聖様を賭けたのかは全く解らない」
「華澄さんは、本当に聖様を救いたいと思っているのですか?」

華澄
「それは無論です! 聖様の為でしたら拙者は…」

女胤
「なら非情に徹しなさい! 華澄さんの行動ひとつで、聖様の命が天秤にかけられるのかもしれないのですよ!?」


拙者は心臓が止まりそうになった。
女胤殿は、あくまで最悪の事態を想定している。
そして拙者は改めて理解した。
女胤殿はこう言っているのだ…黒組を疑えと。
例え何があっても、勝つ事だけを考えろと。


女胤
「少し頭を冷やした方が良いでしょう…」
「その気であれば、私は交渉を断るつもりはありません」
「ちゃんと考えを整理して、また来てください」

華澄
「…申し訳ございませぬ、そうさせてもらいます」



………………………



守連
「…華澄ちゃんは、それで良いの?」

華澄
「解りませぬ…ただ、聖殿は救いたい」

愛呂恵
「でしたら悩む必要は無いのでは?」


守連殿と愛呂恵殿は優しくそう言ってくださる。
それも解ってはいました…守連殿なら、きっと拙者を否定はしないと。
愛呂恵殿は、本音としては否定的なのかもしれませぬが、それでもこちらの想いを汲んではいる様です。


守連
「私は、良く解らないけど…それでも聖さんの為なら頑張れる」

愛呂恵
「華澄さんの気持ちは解らなくもないですが、最悪の事態は考えておく必要はあるでしょう」

華澄
「…やはり、拙者は甘いのですな」


拙者は目を瞑って気持ちを整理する。
無論、必要であれば非情にはなれます。
ですが、可能であれば拙者は穏便に済ませたい。
少なくとも、拙者にはあのサンダース殿に悪意があるとは思えない。
あくまで、正々堂々こちらと戦ってみたい…そんな気持ちがひしひしと感じるのでござる。


守連
「華澄ちゃん、私は華澄ちゃんの好きにして良いと思うよ?」

華澄
「…好きに、ですか? それが原因で、聖殿を失ったとしても?」

愛呂恵
「それは所詮結果論です、華澄さんが必ず勝つのであれば、それは問題点になるとは思えません」

華澄
「つまり、勝つ為に最善を尽くせ…という事ですか」
「負けなければ、それが勝ち…」

守連
「正直、何が正しいのかなんて私には解らない」
「でも、やって後悔する位なら、後悔しないやり方を私は選ぶと思う」


守連殿の顔は真剣でした。
そして拙者の心もここで決まる。
黒組がどんなチームかは解りませぬ。
ですが、聖殿の為…やれる事はやりましょう!



………………………



サンダース
「さぁ、待たせたな! これより、我ら黒組のメンバーを発表する!!」
「まずはバンギラスの未来!」

未来
「………」

華澄
「!? み、未来殿…」


拙者は最初に檀上に現れた未来殿に衝撃を受ける。
服装は体操服でありますが、その姿は紛れもなくあの未来殿。
間違いなく強敵…やはり、サンダース殿は並のメンバーを集めてはいなかった。


サンダース
「次はガブリアスの舞理愛!」

舞理愛
「ふん…」


愛呂恵
「…!」
鐃背
「ほう…! あ奴か」


愛呂恵殿と鐃背殿は反応していた。
拙者は知りませぬが、ここで出て来るという事はかなりの実力者と見るべきですな。


サンダース
「次! ディアンシーのペルフェ!」

ペルフェ
「………」


次に檀上に上がったのは、見た事も無い少女。
だが、その名は聖殿から聞かされてはいました。
前のバトルフロンティアでの一件…その事件の首謀者と聞いています。
そんな輩が、聖殿の味方として堂々と…?


サンダース
「そして最後のメンバー! ミュウツーの三海!!」

三海
「…ふふ」


拙者は目を丸くする。
そこに現れたのは紛れもなく家族の三海殿。
表情は、まるで全てを悟ったかの様な達観した顔付き。
そして、明らかな自信に満ちたその顔。
まさか…三海殿が敵に回ろうとは!


サンダース
「そして最後はこの私! さぁ、優勝チームの青組よ! そっちはどんなメンバーで挑む!?」

華澄
「………」


拙者は目を細め、ひとり前に出る。
そしてそれを追う様に、舞桜殿が付いて来てくれた。


舞桜
「…大丈夫、華澄ちゃんが決めたなら私は全力でサポートするから」


舞桜殿の力強い声で拙者は勇気を貰う。
そして、そこに付いて来る3人は…


白那
「………」

「…はぁ」
愛呂恵
「………」


そう、この3人が新たなメンバー。
拙者はあらゆる感情を殺し、あくまで最良の結果を得られるであろう選択肢を選んだ。
もはや迷いは無い…後は、全身全霊を持って挑むのみ!


サンダース
「ふっ…成る程、そう来たか…面白い!!」
「ならば、これより種目の発表を行う!! まずは1400mハードルだ!!」


「1400mハードル!? どんだけ長いんだよ!!」


聖殿はそうツッコミますが、そもそも拙者にはその意味が良く解りませぬ。
ハードルと言えば…確か障害物の一種で、ジャンプしてかわしながら走る物だと記憶していますが。


サンダース
「例によってただのハードル走ではない! 何でも有りのハードルがどんな勝負になるか、見物だな!!」

華澄
「何でも…有りと?」

サンダース
「そうだ! まぁ例を挙げるなら、ハードルは飛び越すだけが脳では無い!」
「破壊しても良し! スライディングで抜けても良し! 壊した破片を相手に投げ付けても良し!!」


聞いてるだけで頭が痛くなりますな…
しかし、それならば割り切る事も容易。
後は、誰に任せるか…?


サンダース
「ここからは1種目1本勝負! 精々慎重にメンバーを選ぶ事だ!!」

華澄
「…1本、ですか」


つまり、圧倒的にこちらは不利。
ルールを熟知している黒組が明らかに有利と言えますからな。


サンダース
「ふっふっふ…まぁ心配するな、基本のルールブックは配布してやる」
「それを読んでしっかりと対策を立てるんだな!!」


そう言ってサンダース殿は拙者にルールブックを投げ渡す。
そこには基本のルールと、やっても構わない事の詳細がびっしりと書き記されていた。
確かにこれを見れば大体の作戦は立てられそうです。
とにかく、最初の1番手は重要になりそうですな。


サンダース
「選手は今から移動するぞ!? 全員ヘリに乗れ!!」


サンダース殿がそう叫ぶと、唐突に上空からヘリコプターが2機運動場に降りて来た。
これに乗って場所移動ですか…?



「って、これ戦闘ヘリじゃねぇのか?」

サンダース
「心配はいらん、6人位は軽く収容出来る」


「いや、そういう心配はしてねーから!」


聖殿はサンダース殿にツッコミ、やれやれと言ってヘリに向かう。
サンダース殿はこちらを一瞥し、微笑して背を向けた。
拙者は、とりあえず1度深呼吸し頭の中を整理する。
そして、後は無言のままヘリに乗り込む事にした。



………………………




「…1400mハードルって言ったが、それだけの距離に設置したんだよな?」

サンダース
「無論だ、直進距離にして30本のハードルを設置してある」
「カーブは一切無しの直線勝負…後は、有る物をどう使うか」


有る物、ね…まぁ間違いなくハードルの事なんだろうが。
破壊しても良し、投げても良しか…さて、どうなる事やら?
誰が出るかはまだ聞いてないが、華澄たちは誰を出す気かな?



………………………



華澄
「…純粋に、スピードは要求されそうですな」

愛呂恵
「相手側でスピード自慢なのは、間違いなくサンダースさんですね」

舞桜
「でも、三海ちゃんもスピードには相当自身有るんだよね?」

白那
「ガブリアスの舞理愛ちゃんも要注意だと思うよ…? パワーもスピードも相当有ると思う」


「…私はパス、走るのはしんどい」


穹殿は早くもですか…まぁ、今回は仕方無いかもしれませんな。
となると、純粋に足で勝負となれば…


華澄
「拙者か愛呂恵殿で行くべきですな」

愛呂恵
「…でしたら私が行きます、華澄さんは休んでいてください」


愛呂恵殿は自ら志願する。
何か考えが有るのでしょうか…?
愛呂恵殿はいつものポーカーフェイスで、一切表情が変わりませぬが。


白那
「愛呂恵、必要と思うなら、利用出来る物は利用するんだよ?」

愛呂恵
「はい、理解しているつもりです」


拙者はルールブックをしっかりと読んでおく。
今回は一切ポイントは関係無し。
5本ある種目で、先に3本を先取したチームが勝利となる。
つまり、余計なポイント計算は考えなくとも良い。
ただ、ひたすらに…何をしてでも勝利する、その気概が要求されるのかもしれませぬな。



………………………



サンダース
「よし! 先鋒は舞理愛、お前だ!!」

舞理愛
「しょうがないわね…やってあげるわ」


「………」


舞理愛はツインテールの髪をサラリと右手でかき上げ、不満そうにしながらも前に出た。
今いる場所は周囲が森で、真っ直ぐ約1400mの距離だけ道が開けている。
ふたり分のコースラインが引かれており、互いの距離はすぐ隣。
下手な妨害は、そのまま手の届きかねない位置で繰り出されるわけだ。
スピードが拮抗する様なら、何が起こるか解らないな。


愛呂恵
「………」

華澄
「愛呂恵殿、お願いします」

舞桜
「愛呂恵さん、気を付けて」

白那
「頑張ってね」


「………」


青組は愛呂恵さんか…スピードもテクニックも申し分無し。
いくら舞理愛のスペックでも、単純な足の速さだと不利と言えるな。


サンダース
「それでは始めるぞ!? 位置につけ!!」


サンダースは自らスターターピストルを手に取り、それを天高く向ける。
舞理愛と愛呂恵さんはただ前を向き、互いにいつでもスタート出来る体勢に入った。
クラウチングスタートとか、そんな気の利いた構えは両者共に無い。
ふたりとも、ただ己の能力を信じて走るだけだ。


パァン!!



ケララッパ
『さぁ、遂に始まった最終決戦1本目!!』
『1400mハードル、果たして勝つのはどちらかーーー!?』



スタートはほぼ同時、しかし初速の速さはダントツで舞理愛だった。
流石はマッハポケモンのガブリアス、本気で弾丸の様な加速だな…
とはいえ、あれでも腕輪の制御は受けてる…流石に本領の速度とは言えないだろう。



ケララッパ
『少し遅れて愛呂恵も加速し始める! 1歩1歩ショートジャンプの様に踏み込み、徐々に舞理愛との差を詰め始めたぁ!!』



愛呂恵さんは一般的な人間の走り方とは違い、本当に兎の様な移動を取る。
しかし、その脚力は鍛え抜かれたミミロップの物…並の踏み込みではない。
種族的な速度差もあるだろうが、愛呂恵さんのトップスピードは舞理愛を上回っている様だ。



ケララッパ
『互いの距離が縮まって来た所で、ハードルが見えて来たぞぉ!?』
『何でも有りのこのハードル走! どうやって越えていくのかぁ!?』


舞理愛
「…ふん」

愛呂恵
「!?」


舞理愛は僅かにため息を吐き、そこから軽くジャンプしたかと思うと、そのまま地面に潜る。
間違いなく『穴を掘る』だ…あれが舞理愛の使える技かっ。



ケララッパ
『何と舞理愛、地中に潜る!! これでは障害物もクソも無い!!』



ハードル同士の間隔は、およそ30m間隔でほぼ均等に並んでいる。
舞理愛の潜れる距離がどれ程か解らないが、このままゴールまで潜り続ける事も可能なのだろうか?

対して愛呂恵さんは愚直にジャンプで飛び越えて行く。
奇しくも愛呂恵さんのスピードはそこまで落ちず、これなら追い抜いていても不思議じゃない…

が、当然そんな甘い話は無い。
やはりこのハードル走はフツーじゃ無いんだ。
俺は、次の瞬間それを改めて知る事になった…


ドガァッ!!


愛呂恵
「!!」

舞理愛
「!! 読まれたですって…!?」


突然地中から飛び出す舞理愛。
その位置は自分のラインではなく、愛呂恵さんの真下。
舞理愛はハードルを越える為に技を使ったのではない、あくまでそう見せた上で愛呂恵さんを攻撃する為に放ったのだ。
しかし、愛呂恵さんはそれを読んでジャンプの間隔を変えていた。
同じリズムで跳んでいたら、恐らくマトモに舞理愛の技を食らっていただろう。



ケララッパ
『ここでまさかの奇襲! しかし愛呂恵は遥か上!』
「舞理愛、タイミングを完全にズラされていたぁ!!」


愛呂恵
「貴女の移動距離は把握していました…高速で土を掘り進む音は、流石に走っていても聞こえますね」

舞理愛
「音…! 成る程ね…」


舞理愛は舌打ちしながらも、走り続ける。
これ以上地中を進むのは得策じゃないと判断したのか、戦法を変えて来た。
しかし、それはあまりにも強引な手段…



ケララッパ
『舞理愛、ハードルを切断!! まるで豆腐の様にスパスパと切り飛ばして行くーーー!!』



舞理愛は低空姿勢で走り、ハードルに当たる前に腕の鰭(?)でハードルを切り飛ばす。
ほとんど減速せずにそれを行い、ハードルの破片は左右に飛び散ってしまっていた。
そして徐々に愛呂恵さんとの距離を詰めて行く。
ここまででまだ半分にも到達していない…このままだと後何回かは交戦するか?


舞理愛
「はっ!」

愛呂恵
「っ!!」


ある程度距離が近付いた所で、舞理愛はハードルを愛呂恵さんに向けて弾き飛ばす。
愛呂恵さんはジャンプ中にそれを向けられ、辛うじて回し蹴りで弾くものの、バランスを崩して着地の硬直を作られてしまった。
この隙に舞理愛はニヤリと笑い、愛呂恵さんの横を駆け抜けようとする。
…が、互いがすれ違う瞬間、愛呂恵さんの左耳が舞理愛の首を掴んだ。


舞理愛
「がっ!?」

愛呂恵
「あくまでルールは何でも有り…勝利条件は先にゴールする事」


愛呂恵さんはそう言って、舞理愛を片耳だけで投げ飛ばす。
舞理愛は進行方向とは逆に投げられ、怒りを露にして地面に着地した。
愛呂恵さんはすぐに移動を開始し、再び加速する。
舞理愛は全速力でそれを追い、再び距離を詰めて行った。



ケララッパ
『愛呂恵ここで掟破りの作戦! 走るだけが脳では無い!!』
『何でも有りな以上、これもまた有効な手だーーー!!』



舞理愛
「調子に乗るんじゃないわよ!!」

愛呂恵
(やはり、このままでは速度で勝てませんね…ハードルは後10個、そこさえ先に抜ければ私の勝ちですが)


舞理愛はハードルを全て愛呂恵さんに向けて的確に弾いて行く。
スピードは犠牲にしてるが、愛呂恵さんもそれを回避して行かなくてはならない。
結果的に、ふたりの差はドンドン縮まる…そしてハードル残り3つという所で、遂に愛呂恵さんは舞理愛に捕まった。


愛呂恵
「!!」

舞理愛
「力ずくなら、いくらでも受けて立つわよ!?」


舞理愛は愛呂恵さんの左腕を掴み、無理矢理引き止める。
愛呂恵さんは一旦停止し、ここでまさかの静寂が生まれてしまった。
互いの放つ気迫は、まさに戦闘モード。
もはや走る事も忘れ、互いが既に次の手を打っていた。


愛呂恵
「!!」
舞理愛
「!!」


凄まじいスピードで互いの腕が交錯する。
舞理愛は腕を離したと同時に右の鰭を振り、愛呂恵さんはそれに対して的確にパーリングした。
衝撃で互いの髪が舞い上がるも、ふたりの目は相手の目だけを捉えている。


ケララッパ
「ここで互いが戦闘開始!! もはやハードル走もクソも無い!」
『最後に立っていればソイツが勝者!! これもこの戦いのルールだぁ!!』



愛呂恵
「!!」

舞理愛
「くっ…!」


舞理愛は目にも止まらぬ速度で両腕を振るうが、愛呂恵さんは両腕、両耳を使って全てを捌く。
舞理愛も十分スゴイが、やはりここは愛呂恵さんのテクニックが目立つ。
こと無手での接近戦なら愛呂恵さんの右に出る物は早々いないだろう。


愛呂恵
「ふっ!」

舞理愛
「ちぃぃっ!!」


愛呂恵さんの拳が舞理愛の頬を掠める。
徐々に舞理愛は押され始め、均衡は崩れていった。
だが、舞理愛もただのガブリアスじゃない。
次の瞬間、愛呂恵さんの体はくの字に曲がる…



ケララッパ
『舞理愛、高速突進で愛呂恵の腹に肘打ちぃ!!』
『愛呂恵の体がくの字に曲がり、悶絶ぅ!!』



舞理愛
「これで、終わらせて……づっ!?」


次の瞬間、舞理愛は顎を跳ね上げられていた。
愛呂恵さんは右膝を振り抜き、舞理愛ごと斜め上に飛び上がる。
愛呂恵さんの十八番、『飛び膝蹴り』だ。
舞理愛はカウンターで吹っ飛びながらも、空中で体勢を整えて何とか着地した。


舞理愛
「ふー! ふー!!」


舞理愛は口から血を流し、息を荒らげる。
自分の鋭利な牙で口を切ったな…一応鮫モチーフだからな。
だがまだ元気そうだ…流石に一撃で落ちる程甘くは無いか。
対して愛呂恵さんのダメージは…?


愛呂恵
「……べっ!」


ビチャア!と愛呂恵さんの痰が吐き出される。
それには血が伴っており、さっきの一撃で内蔵をやられてるのがよく解った。
技でも何でもない肘打ちだったが、あのスピードとパワーだ…やっぱ並じゃ無いな。


愛呂恵
「………」


愛呂恵さんは口元に垂れる血を、右手の親指で拭う。
そして右膝を腰の高さに上げて構え、舞理愛を無表情に見てからクイクイ…と右手で挑発した。
舞理愛はそれを見て激昂し、全身を震え上がらせて力を溜める。
舞理愛の奴は相当短気みたいだからな…それに対していつもクールな愛呂恵さんよ。
さぁ、どうなる? ああいう時の愛呂恵さんは自信に溢れている証拠だからな。
そして決して油断はしない人でもある。
ただぶつかり合うだけなら、舞理愛に勝ち目は無いかもしれない。

だけど俺の中にはある種、期待感もあった。
舞理愛だって多分成長しているんだ。
鐃背さんに負けて、戦いに挑む姿勢も、覚悟も学んだ。
初めて見た時に比べたら、黒組に来た舞理愛は少しだけ大人びて見えたしな。
まぁ、見た目子供っぽいのは変わらなかったが…



ケララッパ
『舞理愛、再び突進! 愛呂恵は迎え撃つ体勢!!』
『状況からすると愛呂恵が接近戦では有利かぁ!?』


舞理愛
「ふぅぅぅっ!!」

愛呂恵
「……!?」


舞理愛は、愛呂恵さんとぶつかり合うかと思えばここで地中に潜った。
呆気に取られてしまった愛呂恵さんは直後に後ろを向く。
その先、ハードルを全て越えた所で、舞理愛は地上に現れた。



ケララッパ
『な、何と舞理愛ここで戦闘拒否!?』
『だが、これは想像以上に効果的だぁ!! 愛呂恵は完全にスタートが遅れてしまったぁ!!』



愛呂恵さんはすぐに走り出すも、舞理愛はもうトップスピード。
互いのダメージはそれ程では無かったが、ここで腹に直撃を貰っている愛呂恵さんは、明らかに出足が悪かった。
残りのハードルを全て跳び越えるも、舞理愛との距離は開いていく…

残り約100m…舞理愛はややフラつきながらも、歯を食い縛って走る。
もう少しでゴールだ…これは決まった。
…と思った矢先、何と舞理愛は前のめりに転ぶ。
頭を揺さぶられているんだ…平衡感覚がやはりおかしくなっていたな。
対して愛呂恵さんは腹を押さえながらも追い付いて来る。
舞理愛はゴール目前だというのに、おぼつかない足取りでフラフラと歩き始めた。
愛呂恵さんはすぐ後ろに迫っている。
これは微妙か…!?

舞理愛はゴールテープに倒れ込む。
愛呂恵さんはそれに対してほぼ同時のタイミングで頭から飛び込んだ。
そしてゴールテープは切れ、第1種目が終わりを告げた…



ケララッパ
『遂に決着!! だが目視ではどっちが勝ったか解らない!!』
『ここは判定士のネイティオさんが過去を見て判定します!!』
『果たして判定の結果はぁ!?』

ネイティオ
『……!』



全員が注目する中、ネイティオの女性は右手で黒い旗を掲げた。
つまり、黒組勝利! 勝ったのは…舞理愛だ。



ケララッパ
『決まったーーー!! 勝ったのは舞理愛!!』
『初戦を制したのは、黒組だぁーーー!!』



………………………



愛呂恵
「…申し訳ありません」

華澄
「お気にならず…今回は相手の覚悟が上回っていたのでしょう」

白那
「…先制されたのは痛いけど、まだ1本目だよ」

舞桜
「はい、まだきっと取り戻せます! 後は任せてください!」


「…面倒、だけど負けるのは何か嫌」


初戦は失いましたが、あくまでポイントは考えなくても良し。
不利になったのは確かですが、残り3戦を勝てればこちらの勝ちです。



………………………



舞理愛
「…っ」

未来
「見事、そなたの覚悟は見せてもらった」


未来さんはフラついている舞理愛の体を支え、そう話す。
舞理愛は良くも悪くもプロ意識だった。
ルールに対して、あくまで勝利を優先する。
愛呂恵さんは、確かに実力では舞理愛よりも上だったかもしれない。
だけど、ルールの上では舞理愛が勝利を奪ったのだ。



「…とりあえず休んどけよ、後は他のメンバーが何とかしてくれるさ」

舞理愛
「…ふん、負けたら承知しないんだから」

三海
「ふふ…成る程、聖の想いは…やはり予想外の結果を生み出すらしい」

サンダース
「ほう、やはりお前もそう感じるか?」


「…?」


俺は三海の何気無い言葉に?を浮かべた。
そしてサンダースは相変わらず胸の下で腕を組み、微笑している。
何だ一体…? サンダースは何を考えている?
いや、三海は何を言った? 予想外の…結果?


三海
「規格外の結果と言い換えても良いな…少なくとも、ワタシの予知にこの結果は映らなかった」

サンダース
「ククク…そうか、やはりそうなのか!」


サンダースは笑いを堪えられないと言った感じで、体を震わせて笑う。
三海が予知なんて出来た事も驚きだが、その結果が違っていただと?
サンダースは何かを確信し始めている。
一体それが何なのかは、俺に判然としないままだ。
だけど、何となく見えてきた気もする。
サンダースは、この結果が見たくて俺を引き抜いたのではないのかと…



………………………



サンダース
「2種目目! ハンマー投げゴルフ!!」


「完全に○血新記録だな!? 色々と大丈夫か!?」


俺は定番のツッコミを入れながらもゴルフ場を見る。
距離は800ヤード程みたいで、メートルにしたら大体731m程だ。
ポケモン娘たちの腕力で、1投がどこまで飛ぶのかは解らないが、人間で飛ばせるのは鍛えた人で50〜60m前後って位だったはず。
世界記録となれば、80mも超える程飛ばすらしいが、当然ポケモンがその程度であるはずが無い。
ましてや、どう考えてもパワー競技、黒組から出るのは当然…


未来
「…ふむ、これを投げれば良いのか」


そう、未来さんだ。
間違いなく、腕力なら今大会でもトップクラス。
青組の連中は、良くも悪くも軽量級たちだ。
流石にこの戦いはガン不利なんじゃないのか?


華澄
「サンダース殿、一応確認を取りたいのでござるが」

サンダース
「何だ?」

華澄
「…参加する選手に間違いがなければ、多少見た目が変わってても許されますかな?」


華澄は突然意味不明な事を質問した。
サンダースは、ふむ…と顎に手を当てて考える。


サンダース
「別段、丸腰であれば見た目はどうでも良いぞ?」
「腕輪さえ付けていれば、ポケモンとしての能力は制御されるし、露骨なドーピングの類でも無ければ許可しよう」

華澄
「そうですか、でしたらこちらは予定通り穹殿でいきます故…」


そう言ってヘリから現れたのは、見た事も無い女だった。
いや、無い訳じゃない…似た様なのは過去に見ている。
その姿は、まさにキュレムの特徴…だが、同時にゼクロムの要素も含んでいる。
体格は明らかに鳴を一回り超えており、その体は筋肉の塊。
間違いなく穹なんだが、これは…



「むぅ…体重い、胸デカイし、あいつ筋肉付け過ぎ」

サンダース
「…む」


穹は露骨に嫌そうな表情をし、ノシノシと歩いて来る。
顔付きは穹の顔を大人にした様な見た目で、あくまでこれは穹の姿なのだと認識は出来るな…


華澄
「見た目はこうですが、間違いなく穹殿です」
「ドーピングの類いは使用していません、何なら検査をしてもらっても結構ですが?」


かなり無理矢理なゴリ押しに感じるが、サンダースは微笑していた。
まぁ、実際にクスリは使ってないからな。
でも良いのかコレ? 事実上ふたり分の戦力なんだが…


サンダース
「良いだろう! 面白くなってきた!!」
「こちらも予定通り、バンギラスの未来でいく!!」


良いのかよ!! まぁ、良いなら良いか…
俺が口出すのもバカみたいだし、とりあえず面白いなら良いとしよう!


未来
「…ルールは理解したが、どちらからやるのだ?」

サンダース
「まずはチュートリアルも兼ねて、こちらからだ! やり方は解っているな?」

未来
「ビデオは見た…まぁ、とにかくやってみよう」


未来さんはそう言って、鉄球から伸びているワイヤーの先端を掴む。
そして所定の位置に立って大きく息を吸い込む。
その瞬間、未来さんの腕はパンプアップし、一回り大きく見えた。
そのまま、未来さんは両手でワイヤーを握って回転を始める。
何回転かした後に、未来さんは咆哮と共にハンマーをブン投げた。
うむ、実にテンプレートな投げ方だ…チュートリアルと言うだけある。



ケララッパ
『これは良い角度!! 初っ端からトンデモない記録が出そうだぁーーー!!』



未来さんが投げたハンマーは、前方にあった林を優に越えてあっさり視界から見えなくなる。
間違いなく100m以上は飛んでるな…こりゃ思ったよりも少ない投数で決着が着きそうだ。
ちなみに、このゴルフ場はフツーに現実的なゴルフ場で、当然障害物もそのまんま。
バンカーもあれば池もあるし、コースから外れれば林に突っ込む。
約800ヤード…その距離は決して短くない距離だろう。



ケララッパ
『出たぁーーー!! 163ヤード!! ほぼ一直線でグリーンに近付けたぁ!!』



やっぱ想像以上の記録だな…あのハンマーは本物の競技で使われる物と同じらしいから、改めて人間離れしてる。
いや、腕輪の制御下でさえアレなのだから、やっぱ無茶苦茶だな…


華澄
「では穹殿、よろしくお願いいたします」


「ん…メンドイけど、仕方無い」


穹はやや野太くなった声でそう答え、見よう見真似でワイヤーを掴む。
風で髪が靡くが、騰湖と合体した時とは違い、髪型は鳴みたいに少し短かった。
とはいえ、鳴はお下げにしてたから、後髪は長いんだよな…
今の穹はお下げにしておらず、後ろ髪はサラサラと風になびいている。
うーむ、改めて見ると綺麗な黒髪だな…半分は青白いけど。
ホワイトとブラックでキュレムの見た目は反転し、前と違って今はゼクロムの黒と折半。
腕力は間違いなく鳴のそれを上回るはず…!



「……!」


穹が力を込めると、軽く手から電気が迸る。
右腕はゼクロムとしての性質を持っている為か、静電気みたいな物だろう。
あくまで氷タイプのキュレムだからな、若干乾燥しているのかもしれない。
とにかく、これもスゴイ記録が出そうだな…

穹はそのまま回転してハンマーを回す。
そして遠心力が十分にかかった所でブン投げ、それは未来さんをも上回る高さを持って飛んで行った。



ケララッパ
『これも良い角度!! やや右にブレましたが距離は十分だぁ!!』
『…距離180ヤードォ!! だが残念! そこはバンカーだぁ!!』



穹の記録はあっさりと未来さんを上回る。
しかし、そこはやはりゴルフ…奇しくもハンマーはバンカーに落ちた様だ。
現実のゴルフと違い、これはあくまで自分が回転して投げるハンマー投げ。
足場がバンカーだと当然マトモに回転運動なんて出来ない。


サンダース
「ふむ、流石だな…よし! では移動するぞ!!」


サンダースの指示で俺たちは歩いて移動する。
やれやれ…面倒だが仕方無いな。



………………………



華澄
「穹殿、これが地図です…ルールの確認は大丈夫ですか?」


「問題無い、ゴルフのルールはゲームで覚えてる」
「現在位置さえ解ったら、後は何とかする」


華澄と穹は共に地図で位置を確認してるな。
とはいえ、まずは未来さんの投球だ。
そんなに離れてはいないが、バンカーの差は大きい。
さて、次はどれだけの距離を飛ばすかな?


未来
「………」

サンダース
「感触はどうだ?」

未来
「ふむ…やはり中々慣れぬな」
「まぁ、相手も十分な強敵…ならば小生は全力を尽くすのみ!」


未来さんは何度かワイヤーを握って感触を確かめていた。
サンダースは相変わらず余裕の笑みで腕を組んでいる。
まるで逆転など容易い…とでも言わんばかりだな。



ケララッパ
『さぁ、未来の第2投! このままだとおよそ4投前後でグリーンに着きそうだがぁ?』



未来さんはキッ!と目を鋭く開いて力を込める。
そして1投目よりも力強いフォームでハンマーを投げた。
その高さとスピードはさっきの穹の物を更に上回る。



ケララッパ
『行ったぁーーーーっ!! 198ヤードォ!! まだまだ負けはしないといった未来の投球に余裕すら感じます!!』



未来さんは軽く息を吐きながらも穹を見つめる。
穹は全く意に介せず、珍しく集中力を高めている様だ。


華澄
「穹殿、無理はなさらずここは安全にバンカーを抜けましょう」


「良いからどいてて…凍るよ?」


穹はバンカーの手前で、何やら両腕を軽く開いて光を放つ。
青白い輝きに包まれ、それは穹の体に吸収されて力を蓄えているのが解る。
華澄はすぐに後ろへ退いて穹から離れた。



ケララッパ
『な、何だ!? 穹は一体何をするつもりだぁ!?』



「…ふっ!」


穹は両手を胸の前で合わせ、そこに氷の玉を作り出した。
同時にそれには電気が纏われており、それが穹の技なのだと俺は気付く。
だが、穹の技は『凍える世界』のはずなのに…?
いや、違う…今はブラックキュレムである以上、凍える世界は使えないんだ!
つまり、それに変わる新たな必殺技!
あれは…『フリーズボルト』!!

なお、原作ゲーム的には死に技かロマン技の類いに分類される残念技だがな!
むしろ凍える世界を返してくれ!と、一部の使い手には怨嗟の声があがったとかあがらなかったとか…



ケララッパ
『穹の放つ技で、何とバンカーが凍り付いたぁ!?』



「…ふぅ、これで足場は問題無い」


穹は軽く氷のバンカーの上を滑ってハンマーの元に辿り着く。
そして、ワイヤーの先端を掴んで氷の床からバリバリッ!と引っ張り出した。
そしてそれをしっかりと握り、ハンマーの鉄球は何やら凍り付いていく…
何だ…? 一体何を狙って…



ケララッパ
『こ、これは速い!! 穹! 氷の上で高速回転!!』
『凄まじいスピードで遠心力がかかるぅ!! これはトンデモない記録が出そうだぁ!!』


穹の第2投はまさに圧倒的な速度で投げられる。
未来さんのそれを更に超えるであろう距離をそれは軽く叩き出した。
…が、その先は更に不幸な池が!



ケララッパ
『おっと〜? これは不運!! このままだと池ポチャだぁ!!』
『あ、ああーーー!? これは一体どういう事だぁ!?』



何と、穹の投げた鉄球は池に着水したと同時に一瞬で凍り付いた。
鉄球はそのまま水面に半分刺さった位で止まり、池の水は綺麗に凍ってしまったのだ。
しかし、これはどうなるんだ? 本来池ポチャはやり直しだけど…


サンダース
「ほぅ…予測しての事か! ならば良いだろう! 特例としてそのまま続ける事を認める!」

未来
「ふむ、技をあの様に使ってみせるか…見事!」
「ふっ、これには小生も答えねばなるまい…!」


未来さんは微笑し、嬉しそうに歩き出す。
今の穹の記録は215ヤード…早くも半分程を消化してしまったな。



………………………



サンダース
「何か策でもあるのか?」

未来
「策と呼べる様な物など無い、だが…要は遠くまで投げれば良いのだろう?」


未来さんは軽く地面を踏み、そこから岩の槍を作り出す。
得意技の『ストーンエッジ』だが、一体何に使うんだ?



ケララッパ
『こ、これはぁっ!?』



何と未来さんが引き抜いたストーンエッジは、剣などでは無かった。
それは地面をバリバリバリッ!と破って姿を表した…棍棒だった。
強いて言うなら鬼棍棒とでも呼べる代物。
未来さんはそれを軽々と片手で持ち上げ、数度振り回す。
その風切り音は尋常でなく、まるで木のバットを振ってるかの様な軽さに見えた。
って事は…間違いなく?


未来
「サンダース殿、離れるが良い…」

サンダース
「ふっ…面白い事を考える! 良いだろう、見せてもらうぞ!?」


サンダースは腕を組んだまま離れる。
すると、未来さんは左手でハンマーを真上に高く放り投げた。
そしてすぐに岩の棍棒を両手でしっかり握り、筋肉をパンプアップさせる。
そしてタイミングを計って振り被り、未来さんは咆哮と共に思いっきり振り抜いた。
バッキャァァァァァァッ!!と凄まじい音が鳴り響き、ハンマーは空高く舞い上がる。
未来さんはそれを見ると棍棒を捨て、すぐに歩き始めた。
距離的には満足らしいな…



ケララッパ
『きょ、距離は!? 250ヤードォ!?』



まさに馬鹿力…あんな方法で飛ばすなんて。
いや…そもそも、その衝撃に耐える腕がスゴい。
単純に考えて、そりゃ投げるより打った方が距離は出るだろうけど…



………………………



華澄
「…流石は未来殿、凄まじいパワーですな」


「…ウザい、それならこっちも本気出す」


穹は相当ウザそうな顔で何やら屈み込む。
そして両手で電気と冷気を同時に操り、また『フリーズボルト』を使う様だ。
しかし、回転力を上げてもあの距離は超えられないと思うが…
それとも何か別の方法でもあるのか?



ケララッパ
『な、何やら穹の腕から強烈な電気と冷気が同時に出ている!』
『そ、そしてそれを受けたハンマーが勝手に浮き上がるぅ!?』



俺は何となく察した。
そして同時にこう思った…あのバカヤロウ!!と。
間違いなくあれは超伝導リニアだ!!
あのバカ、こんな所でリニアレールガン撃つ気か!?
冷静に考えたら、今の穹は電気と冷気の神様みたいなモンだ!
単純な出力考えても、本気出したらそりゃ…

ビシィィィィィィィィィッ!!と凄まじい音をたて、ハンマーは一直線に低空軌道で飛び出してしまう。
障害物もお構い無しの貫通力で、火を吹きながらハンマーはグリーン上付近でボトリ…と転がった。
その後、大炎上…当たり前だが、摩擦熱で鉄球は溶けかけてる。
やれやれ…ある意味反則だが、どうすんだコレ?


サンダース
「消化班!! 急げぇ!!」


サンダースの指示で、上空から水タイプのポケモンたちが降下して来る。
どうやらぺリッパーたちの様で、いきなり雨が降ってすぐに鎮火作業が行われた…



………………………



華澄
「さ、流石に今のはマズかったのでは…?」


「…本気出しすぎた」


「つかアホかお前はぁ!? 危うく大火事になる所だぞ!?」

サンダース
「素晴らしい! ひとつの技を極めればあそこまでになるのか!!」
「流石は伝説と言われるキュレム!! 見事な1投…?だ!!」


うん、まぁ良いけどね!
つーか、これで続行かよ!!
とりあえずグリーンオンしてるし、このまま連続で穹が投げて入れば終了かな?


サンダース
「よし、そのまま続けろ! 後は入るまでの投数を数えてお前は終了だ」


「ん…こんなの簡単」


穹はそう言って手をグリーン(焼け野原?)に手を当てて一気に凍らせる。
すぐにグリーンは氷の床となり、穹はそれに向けて新しいハンマーをカップに向けて放り投げる。
ハンマーはビキィ!と氷を割ってカップの側に落ち、そのまま氷の上を滑ってカップインに成功した。



ケララッパ
『穹、第4投でカップイン! この時点で黒組の敗北が決定したぁ!!』



「あれ、そうなの?」

サンダース
「うむ、同じ投数でカップインした場合は、先に入れた方が勝ちとなるルールだからな」
「こちらの投数は次で4投目だから、入ったとしてもルール上負けだ」


あらら…何かあっさり終わっちまったな。
まぁ、今回は乱闘とかも出来ないルールだし、仕方無いか?


華澄
「やりましたな、とりあえず…」


「はぁ…もう分離して良い? この体動き難い…」


そう言って穹はさっさと分離してしまう。
って、そんなにしんどいのか?
キュレムの気持ちは何とも理解出来んが、やっぱあそこまで体格変わると本人的には辛いのかね?



「…あ〜? 終わったのか〜?」


「やれやれ、鳴は記憶すら無いみたいだな…」

サンダース
「ふっ、改めて伝説の力を見せてもらった…良い経験にさせてもらおう!」

未来
「うむ、今回は小生の負けだ…しかし、いずれ本気で仕合たい物よ」


いつの間にか辿り着いた未来さんも、とりあえず満足そうな顔だった。
しかし、本人的にはやっぱりポケモンバトルで勝負したかったのかもな…
良くも悪くも今回は畑違いの戦いだったし、未来さん的には不利だったのかもしれない。



………………………



サンダース
「よし、とりあえずはヘリで移動するぞ!? そこからは一旦昼休憩だ!」


「何だで移動に時間がかかってるもんな…」


時間は既に昼前…競技自体はそんなにかかってないけど、やっぱ準備やら何やらで時間は過ぎてたみたいだ。
まぁ、とりあえず休憩だな…



「そういや今更だけど、どうやって鳴をこっちに呼び寄せたんだ?」

華澄
「それは、白那さんに腕輪を外してもらって…」


ああ…成る程、別に競技中以外で腕輪を外すなとは言われてないもんな!
冷静に考えたら、そりゃそうか…


サンダース
「ふっ、知恵を絞るのは重要な事だ…ルールに抜け道などいくらでもある」
「勝つ為に必要なら、いくらでもルールの穴を突くが良い!」

華澄
「…サンダース殿、ひとつよろしいか?」


華澄はそう言って少し不安そうな顔をする。
俺は特に何も言わず、サンダースも腕を組んで華澄の言葉を待っていた。


華澄
「…サンダース殿は、何故こんな大会を?」

サンダース
「ふむ、お前は理由が無ければ戦えないタイプか?」


華澄は?を浮かべる。
そしてその顔は、サンダースにとってはややつまらない物だったらしい。
サンダースはため息をひとつ吐き、少し強い口調で華澄にこう言った。


サンダース
「この大会は、あくまで確認作業に過ぎない…」
「その為には戦う必要がある」

華澄
「確認…? 一体何をでござる?」

サンダース
「それを言う必要は無い…お前たちはただ全力で戦えば良い」
「魔更 聖を、取り戻りたいのであればな…」


華澄の顔は一瞬で引き締まる。
どこまで本気で言ってるのかは疑問だが、サンダースの奴は明らかに挑発してる。
コイツはあくまで楽しんでやってる、そこに悪意は感じない。
そしてその目的…俺は少し解り始めていた。


華澄
「…解りました、ならば拙者はこれ以上何も言いませぬ」
「こちらの勝利を持って、聖殿は返していただく!」

サンダース
「そうだ、それで良い! それでこそ競い甲斐がある!!」
「精々、つまらない戦いにはするなよ? 私は楽しみにしていたんだからな…」


そう言ってサンダースは俺の手を引き、ヘリに向かって歩き出す。
俺も黙って付いて行く…それがルールだからな。
華澄もまた無言で背を向ける…決意は固まっているだろう。
迷いがあるままなら、きっとここに立ってはいないのだから。



………………………




「…で、ここでもレーションですかい!」

サンダース
「安心しろ、空腹を満たすだけの量はある!」

舞理愛
「それより味を何とかしないよ!? 不味いのよコレ!!」


それでも、しっかり残さず食べる舞理愛は意外に律儀だよな〜
今時の食わず嫌いに見せてやりたい好例だ。
例え不味くても、ちゃんと平らげるのは作ってくれた人に対する恩だからな。


未来
「ふむ…そんなに不味い物なのか?」

ぺルフェ
「知らないわよ…気にもならないわね」


このふたりは余程の味音痴なのか、文句ひとつ言わないな。
つーか、マトモな物を余程食ってないんだろうか?
ふたりの食事事情は全く解らないから、何とも言えないが。
少なくともフツーの味じゃないだろ…


三海
「うーむ、料理とは深い物だな…味は最悪だが、栄養は満点」
「しかも存外食べやすく作られており、実に効率的に栄養を摂取出来る所はポイントと言える」


三海は苦い顔をしながらもあっさり平らげていた。
流石に大食いの三海には物足りないのか、少なからず不満そうな顔をしているな。
とはいえ、否定的な評価はあえてせずに評価点を挙げるとは…



「やれやれ…これなら自分で作った方が良かったかもな」

サンダース
「ふん…それでは時間がかかるだろう? 次の競技説明もあるのだから、時間は有効活用せねばな!」


サンダースはとにかく前向きだな…
基本的にマイナスを見ない性格なのか、とにかくプラスに注目してしまう所は、どことなく不安も覚える。
どう見ても反則だと言える行為も、逆に好意的に捉えてしまうみたいだからな…
まぁ、そのお陰で家族は助けられてる訳だが…



「…それで、確認作業ってのは順調なのか?」

サンダース
「ふむ、何とも言えない所だな…そもそも、私はそれを本気で信じてはいない」


俺は不味いレーションを食っていた手を止める。
サンダースの横顔から除かせるその表情は、どことなく寂しげに感じた…


サンダース
「だが…何故、姉は勝てた? 対して結果も出せなかったあの姉が…」
「貴方は、あの姉に名を与えた…変わったのだ、その日…明らかに」


「…それは、ただの嫉妬か?」

サンダース
「そんな感情は無い…私にとって、あんな姉は評価にも値しない存在だ」
「ひとりでは何も出来ず、力は有りながら使い方を覚えない」
「長女でありながら、いつもひとりクヨクヨして泣いてたあの姉になど…」


唯ちゃんが…ねぇ。
まぁ、想像したら何となく解るか…最初に会った時の唯ちゃんはそれこそ自信なんか一欠片も感じない娘だったからな。
でも、俺には何となく解ってた…唯ちゃんはただ、力の使い方を知らなかっただけなんだって。
多分、唯ちゃんは自分の力が大きい為に逆に萎縮してしまったんだ。
優しい性格の娘だから、余計だったんだろうな。
逆に、それが姉妹への亀裂になってたなんて…


サンダース
「…あの姉に力以外の能力など無い」
「今回の確認作業は、それを証明する為の戦いだ!」


バチィ!とサンダースの手から電気が弾ける。
あのいつも笑っていたサンダースが険しい顔をしていた。
そんなに…そんなに唯ちゃんの事が信じられないのか?
いや、違うな…きっと信じたいんだ。
でも、それには確信を得る必要がある。
そして、それこそが俺の存在に繋がる訳か…

詰まる所…ここで家族が負ける様なら、俺にそんな能力は無い。
唯ちゃんは自分の才能で勝って見せたのだと、その証明になる訳だ。
逆に、サンダースはそれが信じられない。
俺の力とか本気で信じてはいないけれど、それでも姉の出した立派な結果の方が信頼に値しないらしいな…



「ちなみに俺に、そんな能力は無いぜ?」

サンダース
「どうかな? それを貴方が知っていないだけかもしれない」
「現に、ハードルの結果は予知を超えた…!」


三海の予知か…それもどこまで信憑性があるのか?
もちろん、あのメガミュウツーである三海が見た予知だ。
決して無視は出来ない物だろうが…


三海
「…興味は深いが、別段どうでも良い事項だな」
「何があろうとも、ワタシたちは聖を救うし、聖は救える者全てを救う」
「その仮定に関しては、正直どうでも良いと言えるし、重要と言えるかもしれない…」

サンダース
「少なくとも、私には重要だ! 勝負に勝つ事以上にな!!」

未来
「では、サンダース殿は勝つ為に戦っているのではないと?」


サンダースはそれに関しては答えなかった。
勝負に手を抜かない性格なのは俺にでも解る。
だが、サンダースにとって今回の戦いは、勝負の結果以上に重要な要素が有るって事だ。


舞理愛
「アンタねぇ…やるからには勝たなきゃ意味無いのよ!?」

サンダース
「無論だ、タダで負けるつもりなど毛頭無い」
「その為に、魔更 聖を人質としたのだ…奴等に本気を出してもらわねば困るのだから!」

ペルフェ
「その上で、魔更 聖の特異性を証明しようと?」


「…お前は、何か知ってるのか?」


ぺルフェはクスクス笑っていた、まるでこちらを小馬鹿にする様に。
元々が悪意の塊みたいな女だが、少なくともコイツは恵里香やメロディさんと関わりのあるポケモンだ。
それこそ、理から外れたディアンシー…俺が知り得ない情報を持っている可能性も高いか?


ぺルフェ
「さて、ね…知っているけど、貴方の存在が気に入らないから教えてあ〜げない♪」


「よし、なら恵里香に聞こう、役立たずのディアンシーに頼るまでもない」

ぺルフェ
「誰が役立たずのディアンシーよ!? 恵里香ごときに頼ってるんじゃないわよ!!」


そう言ってぺルフェは俺のスマホを奪ってしまう。
おいおい…勘弁してくれよ。
執念深そうとは思っていたが、そこまで恵里香に張り合いたいのか?


ぺルフェ
「ふん! 夢見の雫がどれだけの異物かよく考える事ね!!」


そう言ってぺルフェは俺にスマホを投げ返してプイッとそっぽを向く。
俺はそれをキャッチし、ズボンのポケットに突っ込んだ。
雫、か…



(異物…ねぇ)


そりゃ有り得ない事だらけだわな、ソイツにかかっちゃ。
願えば奇跡を起こせるチートアイテム。
しかし、それは決して無償で使える力では無い。
そして、頼りきってしまっていけない。
あくまで、この力は最後の力で無ければならないのだから…



(俺は…信じたい、いや信じる!)
(こんな程度の混沌で、負けたりする家族じゃないと!)



………………………



華澄
「………」

白那
「あまり思い詰めるのは良くないよ?」


ヘリでの移動中、拙者たちは昼食を取っていた。
何でも、れ〜しょん…とかいう食べ物だそうですが、何とも言えない味をした食事でした。


愛呂恵
「栄養分のバランスは問題無し…ですが、ここまで味を無視した食事では、満足感を満たす事は難しいと判断します」


「味は不味い…でも食感は悪くない」

舞桜
「まさか、こんな昼食を出されるなんて…何かの嫌がらせなの?」


とりあえず、満場一致で味は最悪と判断出来ましたな。
しかし、あえてここで言いますが、断じてこの味に対して思い詰めているわけではござらぬので、そこはあしからず!


白那
「…肝心な事は解らなくても、大事な事は変わらないからね」

華澄
「理解はしています…ですので、勝負には勝ちます」
「しかし、あのサンダース殿は…何かを恐れている様にも感じました」


拙者はサンダース殿の顔を思い出す。
楽しみにしていた…その言葉は、嘘偽り無いと断言出来ましょう。
ですが、拙者が理由を説いた時、サンダース殿はどこか遠い目をした…
そして、何かを恐れるかの様な顔付きを一瞬見せたのだ。
拙者には、それがどうしても引っ掛かってしまっていた。


白那
「恐れ…か、だとしたら前みたいに最後に何かあるって事かな?」

華澄
「いえ、そういう類いでは無いと思います」
「あくまで、あのサンダース殿の個人的な感情に思えました」

白那
「ふ〜ん、だったら…彼女には、その確認作業とやらが相当重要なんだろうね」


そう、確認作業です。
その為に戦う必要がある…
その理由は語られませんでしたが、少なくともサンダース殿にとっては相当重要な事の様でござるな。



………………………



サンダース
「次の種目は…鉄球争奪高飛び込み!!」


「…またマニアックなのチョイスしたな、GBA版だけの種目じゃねぇか! …微妙に変えてあるけど」


例によって説明は省かせて貰うが、かなり危険な臭いがプンプンする種目だ…
そもそも、今俺たちがいるのはヘリの中で、地上4000m。
つまり、高飛び込みな以上、ここから飛び降りろって訳だな。
ちなみに、元ネタではパラシュートの傘を奪い合う、ヒジョーにデンジャラスな種目だ。


華澄
「…下は海ですか、ですがマトモに落下したら死にかねませんぞ?」

舞桜
「それはパラシュートを付けるから大丈夫みたいよ?」
「ある程度の高さに到達したらオートで開くみたい…」

白那
「ふ〜ん…ならとりあえず、落下死の心配は無さそうって訳だね」

愛呂恵
「とはいえ、この中で空中戦をやるとなると…」


「翼有っても私飛べないからパス」


そう言えば、同じ伝説のドラゴンでも穹殿は飛べないのですな…
騰湖殿と鳴殿はあれでも短時間は飛行可能と言っておられましたが…
まぁ、確かにおふた方の翼に比べても穹殿のそれは、およそ飛べる様には見えない物ですが。


舞桜
「…私しかいないよね」

華澄
「お願いしてもよろしいですか?」


舞桜殿は苦笑するも、頷いてくださる。
あくまで舞桜殿は『元』飛行タイプ…今でも少々の飛行は出来るものの、能力制限下のこの状態では、その能力はほとんど機能していない。
せいぜい自らのジャンプで飛び上がり、そこから翼を広げて滞空時間を伸ばすのが精一杯…


舞桜
「これでも空中戦ならそれなりに自信あるよ?」
「私の技も向いてるし、それなりに戦えると思う」

白那
「でも気を付けてね? 相手が三海ちゃんとかになったら、そのアドバンテージが役に立つか…」


確かに、三海殿の能力を考えると、どこまで制限されているのか解らない所ですな。
あくまでひとつの技以外の能力は制限されるこの腕輪…
特性や、種族として持つ特殊能力も全てが封じられる。
発揮出来るのは、あくまで自ら鍛えた身体能力のみ…
そうなると、三海殿の身体能力がどこまでなのかが気になる所ですが…


愛呂恵
「…まだ、誰が出て来るかも解りません」
「誰が来ても良いように、対策は多方面に渡って考えるべきでしょう」


拙者は頷く。
とにかく、こちらは舞桜殿に頼らざるを得ない…
この5人で空中戦が出来るのは舞桜殿だけなのですから。



………………………



サンダース
「こちらは予定通りペルフェで行く」


「良いのか? どう見てもドン臭そうだが…」

ペルフェ
「貴方ねぇ〜! 舐めてるんじゃないわよ!?」
「この私を、どっかの草エスパーと同じに考えるんじゃないわよ!」


「ほう、素早さ55族で体重120sのポケモンと同レベルか…それはスゴそうだな」

ペルフェ
「誰がナッシー並みなのよ!? 確かに草エスパーだけどね!!」


ちなみに草とエスパーの混合は、未だにナッシー系とセレビィだけだ。
2世代以来追加が無いんだから、何気に貴重なタイプだよな〜
貴重という意味なら、ペルフェの岩フェアリーもメレシーしか同タイプがいないのだが。



「まぁ、俺は恵里香が跳んだり走ったりしてるのは見た事無いから、比較が解らんが…」


少なくとも、人化前の恵里香の事も覚えてないからな…
今思えば、どこの世界で出逢って、今の関係になったんだろうか?
俺が覚えているのは、既に人化した恵里香と最果てで再会し、そこから今に至る記憶だけだ…

そういう意味では、ペルフェはその以前の恵里香を知っている…?


ペルフェ
「ふん! まぁ足の速さで負けてるのは認めてやるわよ!」


「つか、お前はぶっちゃけナッシー以下の素早さだろ!」
「高々50族程度の速度域で100族に勝てると思ってんのか!?」

ペルフェ
「う、うるさいわね!? パワーなら互角よ!」


「デオキシス並みのHPで何を言う!!」

三海
「あっはは…そろそろ痴話喧嘩は止めたら?」


何がよ!?と、ペルフェは全力でツッコム。
俺は軽く笑い、ペルフェをおちょくってやった。
三海もクスクス笑っており、後ろでは未来さんも微笑している。
舞理愛はため息を吐いて鬱陶しそうにしていた。


サンダース
「全く、元気なのは結構だが、頼んだぞ?」
「この時点ではまだイーブン…だが負ければ後が無くなるからな」

ペルフェ
「ふんっ! 私があんな雑魚共に負けるわけ無いでしょう!?」
「力の差を思い知らせてあげるわ!!」


そう言ってペルフェはパラシュートを背負い、外に飛び出す準備をした。
やれやれ…自信過剰なのは舞理愛だけで十分なんだがな。
ウチの家族も、舐められたもんだ…



………………………



ケララッパ
『さぁ、第3種目は鉄球争奪高飛び込み!』
『青組の選手はジュナイパーの舞桜、対する黒組はディアンシーのペルフェだぁ!!』



(予想通りのマッチメイクだが、果たしてペルフェがどんな動きをするのか…?)


少なくとも舞桜さんは仮にも元飛行タイプ。
空中での戦い方も熟知してるだろうし、何より飛び道具の所持者。
傍目に見たらガン有利にも思えるが…


ペルフェ
「………」


ペルフェは余裕そうな顔で舞桜さんを睨み付けている。
目を細め、怨みでもぶつけてそうな視線だな。
舞桜さんは逆にそれを冷静に受け流し、風を受けて状況を読み取っている様だった。



(良くも悪くも、互いに相性有利の技は持っていない)


舞桜さんは『影縫い』でゴーストタイプ。
ペルフェは確か『ダイヤストーム』と聞いてたな。
つまり岩技…進化前ならともかく、今の舞桜さんには抜群にならない。
だが、互いに飛び道具持ちとなると、勝負は解らないな。

この戦いのルールは、互いにヘリから飛び出し、落下しながら鉄球を奪うと言う戦いだ。
鉄球は他の種目でも使ってる物とほぼ同一で、いわゆる砲丸投げとかで使う奴と大体同じサイズ。

で、ある程度の高さになったら、自動的に背中のパラシュートが開き、その時点で鉄球を持っていた方が勝者となるって訳だ。
ちなみに、ここで注意点がひとつ有る…この種目に限り、明確な反則行為が存在するという点。

それは、パラシュートもしくは鉄球の破壊。
例え意図的で無くても、それをやった側は問答無用で失格となる。
つまり、最悪パラシュートや鉄球を盾にして、飛び道具を封じるなんて戦術も有りって訳だ。



(舞桜さんはその辺スナイパー気質で、正確な射撃が可能だからな)


少なくとも隙間を縫って撃ち込む位の芸当は出来るはず…
対して、ペルフェのダイヤストームは間違いなく広範囲攻撃…下手に撃てる代物じゃないだろ。
もっとも、その辺を制御出来るなら解らんわけだが…

少なくともペルフェは自信満々の様だったし、何か策は有るんだろうな。


サンダース
『それでは、第3種目開始だ!!』


サンダースの声が無線で響き、互いの選手がほぼ同時にヘリから飛び降りる。



ケララッパ
『さぁ、互いがヘリから落下!! 鉄球も3秒後に投下されるぞぉ!?』


舞桜
(高度4000m…! パラシュートが開かれるのはおよそ40秒前後とみるべきね)

ペルフェ
(さて、手っ取り早く終わらせましょうか…)


俺たちはちなみにヘリの中からモニターしている。
専用のカメラマンが一緒に落下しているので、やや遠景で俺たちは舞桜さんたちの戦いを見ていた…
この戦い、想像以上に短い戦いとなる。
実質1分以内に決着は着く短期決戦だ。
つまり、互いの行動はひとつふたつ交わせば終わりかねない…


舞桜
(相手が何をしてくるかは解らない…鉄球はすぐに追い抜いて来る…なら先にやるべき事は!)


舞桜さんは逆さまになりながら自由落下。
鉄球はまだ上だが、舞桜さんがペルフェの下を取る形になった。
ペルフェは軽く舞桜さんを睨むも、上から落ちて来る鉄球を確認する。


ペルフェ
(大方、鉄球を取ろうとした隙に撃ち込もうって腹ね…くだらないわ)


ペルフェはつまらなさそうな顔をし、落ちて来る鉄球に近付いて行く。
それを見て舞桜さんは矢を構える。
いくらなんでもバカ正直すぎないか?と思うが、恐らく空中での戦いに自信がある舞桜さんだ、何があっても切り返せるという自信の表れなんだろう。

そして、開始から僅か7秒…まずは舞桜さんの影縫いがペルフェを襲った。


ヒュン!!


ペルフェ
「…!」

舞桜
(!? 直撃したはずなのに…無傷!?)


ケララッパ
『ペルフェ、影縫いを腹に受けても動きが止まらない!!』
『一体どうなっているんだぁ〜!?』


ペルフェ
(温い攻撃ね…この程度の技で私の防御は射ち抜けないわ)


ペルフェは腹に黒い矢が刺さったまま鉄球を余裕で掴む。
そして舞桜さんを見下ろしてニヤリと笑った。
流石はディアンシーって所か…!
恐らく純粋な防御力で止めやがったんだ…ディアンシーの防御はかなり高い部類だからな。
ペルフェの腹辺りは、確かダイヤの様な皮膚に覆われていた。
あの腹に矢を当てた所で、ペルフェはビクともしないってこった…


舞桜
(まさか、そこまで肌の装甲が厚いなんて…!)
(それとも、腹部だけがそうなの? 胸や腕を射てばあるいは…?)


舞桜さんはこの数秒の間で試行錯誤しているに違いなかった。
その証拠に驚いてはいるものの、慌ててはいない。
あくまで冷静に今の結果を分析し、次の手をどうするか考えている様だ。

しかし、残り時間はおよそ30秒…このままだとペルフェから鉄球は奪えない!



ケララッパ
『ペルフェ、鉄球を確保〜!! 舞桜は両手を広げて減速の体勢に入ったぁ!!』



舞桜さんとペルフェの距離がみるみる内に縮まって行く。
ペルフェは特に対策も取らずに、余裕を持って自由落下している。
左手には鉄球が握られており、取れる物なら取ってみろと言わんばかりの笑みで見下していた。


舞桜
(胸を下手に撃ったら、パラシュートごと貫きかねない)
(なら肩を射つ? 少なくとも腕の肌に装甲らしき物は見えない)

ペルフェ
「網にかかりに来たの!? 笑わせるわね!!」


ペルフェは右手を掲げ、何やら光を集める。
あれがダイヤストームか!? 岩タイプの大技で、ディアンシーの専用技。
ディアンシーの能力は、一瞬でダイヤを精製する能力らしいが、果たしてどれだけの威力があるのか?

やがて、ペルフェの右手から大量のダイヤが放たれる。
それはまさに某○メラルドスプラッシュの如く…色は黒だが。
本来のディアンシーならピンクっぽい白のはずだが、ペルフェのそれはまさに憎悪とも呼べる黒さだった。
何故、ペルフェはあんな風になってしまったのか?
恵里香も詳しくは教えてくれなかった…言いたくない、って訳じゃ無さそうだったが。


舞桜
(これならかわせる! 空中での軌道なら私が上よ!!)


ケララッパ
『舞桜見事! 華麗な空中軌道でアクロバット飛行!!』



舞桜さんは回転しながら軌道を変え、ダイヤストームを全回避する。
その際に今度はペルフェが下になり、舞桜さんは再び弓を引く。
…が、ペルフェはそのまま両腕と両足を畳み、逆さまになって落下速度を加速させた。
アイツ…ダイビング経験有るのか?
それとも勘とかでやってるんだろうか…?


サンダース
「ほう、ビデオで見ただけであそこまで出来るか…意外だったな」


「って事は初見かよ…プロ顔負けのセンスだな」


あのサンダースも感心している。
ペルフェの奴、口だけの女じゃ無いって事だな。


舞桜
(くっ…距離が開いた上にこの落下速度じゃ、下への矢は追い付けない!)

ペルフェ
(私を下にした時点で負けよ…! もうこの戦いは貰ったわ…)


舞桜さんは苦い顔をしながらも急降下の体勢に入る。
ペルフェよりも更に角度を縦にし、空気抵抗をギリギリまで下げていた。
それにより舞桜さんはペルフェに追い付いて行く。
ペルフェは完全に舞桜さんを見ていない、勝ちを確信して隙だらけだ。
舞桜さんは、まさに猛禽類の様な鋭い瞳で獲物を狙っている。
時間は後15秒…いや10秒か?

果たして…間に合うのか!?


舞桜
(もうすぐパラシュートが開く…その前に鉄球は奪わなきゃ!)

ペルフェ
(矢を受けた所で私は怯まない…この鉄球さえ、放さなければ私の勝ちよ)


迫る時間の中、ふたりはどんどん加速して行く。
舞桜さんとペルフェの距離は徐々に縮み、やがて舞桜さんの射程にペルフェの足が入った。


舞桜
(油断大敵…! これがラストチャンス!!)

ペルフェ
「なっ!?」


舞桜さんはペルフェの右足を右手で掴み、瞬時に回転して腕を広げて減速する。
舞桜さんの腕には独特の羽根が付いており、それはしっかりと風を受ける事が出来るのだ。
ペルフェは舞桜さんの上に振られ、舞桜さんはペルフェの背中側から一瞬で首を取る。
ペルフェは苦しそうな顔をして耐えるが、舞桜さんはお構いなしにペルフェの首を両腕で締め上げた。



ケララッパ
『この土壇場でスリーパーホーールドォ!! ペルフェ、完全に油断していたぁ!!』


ペルフェ
(こ…の……!!)

舞桜
(離しはしない…! 後数秒あれば…!!)


徐々にペルフェの体から力が失われていく。
いくら防御力があっても、馬力はそこまでじゃない。
体力も低いし、単純な力比べなら舞桜さんは伊達じゃないからな。
これは…決まる、か?


舞桜
(まだ耐えるの!? こうなったら、先に鉄球を……)


バササァッ!!とパラシュートが開く音。
舞桜さんが鉄球に手を伸ばそうとした瞬間だった…
惜しくも…勝ったのは最後まで鉄球を離さなかったペルフェだ。



ケララッパ
『ここで決着!! 勝ったのは黒組ぃ!!』
『青組、追い詰めたものの惜しくも敗北です!!』



………………………



舞桜
「…ごめんなさい」

華澄
「いえ、舞桜殿は良くやってくれました…今回は完全に情報不足が敗因です」

白那
「そうだね、ディアンシーなんて幻のポケモン、流石にどんな体をしてるのかも解らなかったからね」

愛呂恵
「しかし、舞桜さんの影縫いを受けて平然としているとは…」


拙者も驚きました…まさかそこまでの防御力が人体に有るとは。
いえ、これもあくまで腕輪による制限のせいも有りましょう。
本来の威力であれば、舞桜殿の矢はペルフェ殿を貫いていたはず。



「…どっちにしても、これでリーチ」

華澄
「…はい、もう負けは許されませんな」

白那
「後出てないのは、三海ちゃんとあのサンダースか」


恐らく、サンダース殿は最後でしょうな…そんな気がします。
つまり、次に出て来るのは十中八九、三海殿でしょう。


華澄
「残りの種目は、ビル越え幅跳びと……??」

白那
「最後の種目だけ、記載が無いね」

舞桜
「うん、私も気になってたんだけど、最後は何になるんだろう?」


拙者たちはルールブックを読むが、最後の種目に関しては一切記載が無かった。
いえ、一応注意書きは書いてありますが…


愛呂恵
「最後の種目は、その時に公表する…ですか」


「どうでも良い…それならその時考えれば?」


穹殿の言い分ももっともですな。
解らない事を考えても仕方がありません。
少なくともサンダース殿は、あくまでフェアな戦いを望んでおられる。
わざわざヘリにビデオセットも付けてくれていますし、それを見れば、大まかに競技の流れが解る様にもしてくれてますからな。


白那
「とにかく、次の競技のビデオを観よう…対策を考えないと」

舞桜
「ビル越え幅跳びって…どんな競技なんですかね?」

華澄
「始まりましたな……こ、これは」

愛呂恵
「成る程、厄介そうですね」



拙者たちはビデオを観て絶句していた。
そしてルールのひとつを思い出す。


〈禁止事項〉
5人の内、ひとりが複数の競技に出てはならない



………………………




「よっ、お疲れ」

ペルフェ
「…ふん」


ペルフェはヘリに戻り、俺を見る事なく通りすぎて離れた椅子に座る。
誰の隣でもなく、ひとり寂しく…
俺は頭をかき、今座ってる椅子から立ち上がり、ペルフェの隣に移動してドカッ!とワザとらしく座ってやった。


ペルフェ
「な、何なのよ!? 何か用なの!?」


「別に…今だけでも仲間なんだから、少しは仲良くしようと思ってな」


ペルフェは、はぁ!?と露骨に嫌そうな顔をして俺を睨む。
その瞳はやはり憎悪を感じさせる物で、俺にはその理由が解らなかった。
ただ、コイツは根っからの悪人って風には感じない。
何となく…前の絶望した俺を見ているみたいだった。



「…なぁ、そんなに周りが憎いのか?」

ペルフェ
「何を今更? 私は自分以外を信用しない!」
「人間なんて、それこそ欲望の塊! 富や栄誉、性欲でしか物を見ないわ!!」


成る程…こりゃ根深そうだ。
俺とは絶望のベクトルが違うっぽい。
多分…相当な何かが過去にあったんだな。



「…なら、俺も信じられないか?」

ペルフェ
「当たり前でしょう? 貴方なんか特によ…!」
「欲望に忠実で、自己満足に満ちている…!」
「自分がこうと決めたら、絶対に曲げない傲慢さ!」
「貴方、これまで救世主を気取ってるけど、そのせいで苦しめた人間がどうなったか知ってるの?」


「…知らないさ、そもそも気にしない」


俺はあっさりと答える。
もちろん、思う所が無い訳じゃない。
救えるなら俺は全部救う…その為に、多少の犠牲が出たとしても。
俺は絶対に後悔しないし、信念は曲げない。
結果不幸になった人には、死んだ後に地獄で償うさ。



「俺はエゴの塊だよ、自覚してる」
「だからと言って、救うのを止めたりはしない」
「お前の言う通り、俺は傲慢だからな」

ペルフェ
「最低ね…だから憎いのよ」


「…お前は、どうしてそんな憎しみに墜ちたんだ?」


ペルフェは顔を背けて嫌そうな顔をする。
話したくは無いってか…
まぁ、聞いた所でどうにかなるわけでも無いのかもしれないが。


三海
「ふ〜ん、過去に利用されるだけされて、裏切られたって事か」
「まぁ、良くある私利私欲の道具だね…御愁傷様かな?」

ペルフェ
「あ、貴女ねぇ!? 何勝手に人の記憶を読み取ってるのよ!?」


三海はクスクス笑ってバナナを頬張っていた。
ちなみに腕輪は外しており、超能力で宙に浮かしている。
つまり今の三海は全力状態で、ペルフェの記憶を超能力で読み取ったって所か。


三海
「ふふふ…でも、君は運が良いよ、こうやって聖に会えたんだから」
「いや、悪いとも言えるか? うーん、難しい所だね」


「三海、それ位にしてやれ…誰だって知られたくない黒歴史はある」

ペルフェ
「勝手に黒歴史にしないでくれる!?」


三海は少しバツが悪そうにするも、甘えた声で謝って俺に抱き付く。
例によって、たわわな胸が俺の首筋に押し付けられ、俺の欲望が暴走しそうになってしまう。


三海
「ふふ、折角なんだから…ここで性欲を爆発させてみるのはどうだい?」
「そしてペルフェに見せ付けてやれば良い…人間の欲望は、正しく振るえば幸せを産み出せるのだと」


「いや、それ完全に子作り案件ですよね!?」
「ってか、他のメンバーも見てるから!!」

サンダース
「やるなら速く済ませろ、後10分程で次の競技だからな?」


「お前は止める立場だろうが!! 競技前に選手がやらかしてどうする!?」

ペルフェ
「って言うか、わざわざ見せ付けるな!! 犯るなら外でしなさいよ!!」

三海
「それでは意味が無いだろう? 君に見せなければ幸せは伝わらない…」

ペルフェ
「必要無いから!! 誰が好き好んでどうでも良いカップルのHシーンを見ろってのよ!?」


ペルフェもギャーギャーと騒ぎ始め、にわかにうるさくなってきた。
三海は完全におちょくっているのが俺には解っており、既に萎えている。
良くも悪くも、ペルフェを試しているんだろうな…


未来
「…聖殿も、やはり男か」

舞理愛
「ふ、ふんっ! 何よ、猿みたいに盛っちゃって…」
「これだから人間の男は…」


「よーし、とりあえず正座しろ…まずは冗談だって事を教えてやる!」


とまぁ、そんなこんなで騒がしくしつつも場は和んだ…と思う。
ペルフェも前よりかは少〜〜〜しだけ、表情が和らいだ気がする。
まぁ、ほんの一瞬だったんで気のせいかもしれんが。
とにかく、残る競技も後ふたつ…次勝てば、黒組の勝ち。
そうなったら、俺はどうなるのかね〜?



………………………



サンダース
「よし、次は『ビル越え幅跳びだ』! 両者位置につけ!!」


(予想通り、相手は白那さんか…決してスピード重視ではないが、頭の良さは特筆物だからな)


こちらの出場者は当然の様に三海。
三海は微笑みながらも、余裕そうに爪先でトントンと床を叩く。
今いる場所は高層ビルの屋上…ここから約400Mを幅跳びでゴールまで目指すのだが。


白那
(見た所、ビルの屋上幅は平均50mって所か…ビルとビルの幅は約5m程、落ちたら復帰は無理だろうね)


白那さんはそれなりに真剣な顔をしており、集中力は高そうだった。
多分冷静に状況を確認してるんだろう…


三海
「………」


三海はあくまで余裕の笑み。
能力制限の腕輪は付けているし、あくまでエスパーとしての能力はほとんど使えない。
つまり、純粋な身体能力だけで戦わなければならないはずだが…



(超能力無しで、どこまでやれるんだ?)


正直、俺には全く想像が出来なかった。
元々三海は超能力で身体能力を強化しているタイプ。
純粋に筋力とかがあるとは思えないのだ。
いや、これが通常のミュウツーである姉の二海なら解らなくもない。
体付き自体はかなり良かったし、超能力無しでも二海なら十分やれるだろう。

しかし、三海はあくまで基本がメガミュウツーYだ…
この形態は本来のミュウツーよりも体が小さくなり、あくまで超能力を高める為の形態…つまり、見た目的には身体能力は低下しているのでは?と、個人的には危惧しているわけだが…



(あの顔は自信に溢れている顔だ…少なくとも三海はやる気でいる)


三海は俺が願うなら無敵だと言った。
果たして、ここで青組は敗退になるのか?
その結果は…もうすぐ解るだろう。


サンダース
「…よし、始め!!」


パァン!!と、もはや恒例のスターターピストルが鳴り響き、両者がほぼ同時にスタートする。
三海はややワザとらしく前を譲り、白那さんは軽く三海を見て訝しげな顔をする。
しかし、白那さんは構わないといった感じで前を向き、全力で加速してビルからジャンプした。
約5mの幅をしっかりと跳びきり、白那さんは次のビルに着地する。
白那さんの顔からは汗が垂れており、それなりにギリギリだった様にも見えるな。


三海
「…ふふ」


続いて三海は軽くジャンプする。
その高さは白那さんのジャンプを軽く凌駕しており、三海の身軽さを如実に知らしめる物だった。
まるで華澄のジャンプを見てる様だが、まさかここまでの能力を秘めていたとは…


白那
(やはり身体能力も化け物か、これは普通にレースしていたんじゃ勝負になりそうもないね…)


白那さんは走りながらも目を細める。
恐らく三海のジャンプを見て一瞬で能力を見抜いたな。
あくまでギリジャンの白那さんに対して、余裕の三海。
しかも、明らかに手を抜いてる風に見える三海は、本気にすらなっていない。
やはり、このままじゃ白那さんは勝ち目が無いぞ?


サンダース
「………」


「……?」


俺は横目にサンダースを見ると、珍しくサンダースは厳しい顔をしていた。
俺は?を浮かべるも、改めて設置されているモニターを見る。
モニターは上空からの映像で、ふたりのレースを映しており、はっきりと互いの差が映し出されていた…



ケララッパ
『まだまだ序盤戦! しかしこの時点で既に青組には暗雲が立ち込めている!!』
『もはや負けは許されない青組に対し、余裕すら見える黒組の三海!』
『これは、想像以上にあっさり終わってしまうのかぁ〜!?』


白那
(それは、ただの走り幅跳びなら…だよ)

三海
(ふふ…白那さんがこのまま黙って走るはずが無いだろう)


三海は突然スピードアップする。
3つ目のビルを白那さんが越えようかという所で、三海は白那さんの横に並んだのだ。



ケララッパ
『三海が仕掛けるぅ!! ここで抜き去ってしまうのかぁ!?』


白那
「!!」

三海
「ふ…」


白那さんはタイミングを合わせ、軽く手を薙ぎ払う。
三海はそれを屈んで回避し、そのままビルを飛び越えてしまった。
白那さんもそれを見てすぐに跳び上がる。
…が、飛距離が足りない! あれじゃ落ちてしまうぞ!?


三海
「!?」


ケララッパ
『何が起こったぁ!? 突然空中で白那と三海が入れ替わったぁ!!』



俺は目を丸くするが、成る程…とすぐに思う。
恐らく、白那さんはジャンプ中に『亜空切断』で空間を切り、その空間が戻る反動で互いの位置を入れ換えたんだ。
先に手で払ったのは、多分三海の意識から亜空切断を外す為…
現に三海は着地寸前で体を入れ換えられてしまい、驚いた顔をしている。
逆に白那さんは足りない飛距離を技で埋め、完全に優位に立ってしまった。
白那さんは振り向かずにそのまま全力疾走する。
対して三海は、足場の無い中空で落下を始めていた…


三海
「やれやれ…解っていても対策のしようが無いな」


ドガァ!!と凄まじい音が響き、突如三海の前後にあるビルの壁が弾ける。
それと同時に三海は斜め上に飛び上がり、悠々と次のビルに着地してみせた。



ケララッパ
『三海間一髪!! 今の技は何だぁ!?』
『まるで突然空間が爆発したかの様な衝撃で、自身を吹き飛ばしてしまったぁ!!』



(今のは、見た事無いが…まさか『サイコブレイク』か?)


モニターからだとイマイチ曖昧だが、物理的に衝撃が発生してたって事は、そうなんじゃないかと予想する。
もしかしたら『サイコショック』なのかもしれないが、あえてひとつの技しか使えないのであれば、ミュウツー専用の『サイコブレイク』だと思うのが自然だろうな…

しかし、それだと三海はほぼ落下の心配が無いのか…?
白那さんは多分三海の技は見てない、このまま終わるとは到底思えないが…


三海
「ふむ…少し本気を出してみるか」


そう言うと三海は一瞬で加速する。
凄まじい踏み込みでビルの屋上は抉れ、信じられない速度で白那さんを追って行った。
既に白那さんは5つ目のビル。
残りは既に100m程度で、後ふたつビルを越えたらゴールとなる。

だが三海はその前に白那さんに追い付いてみせた。
表情には余裕が有り、全く動じていない。
対する白那さんも、顔は冷静その物。
まるで追い付かれるのが当たり前と言わんばかりの顔で反転する。
そして三海は急ブレーキし、屋上の床をめくり上げて立ち止まった。



ケララッパ
『何とここで互いが停止!! まさか、ここでバトル勃発かぁ!?』



もちろん反則でも何でも無い。
やるならトコトンやれのこのルール。
要は先にゴールすれば良いだけで、別に相手を倒してからゴールしても全く問題は無いのだから…



(いや、むしろそれこそがこの運動会の醍醐味!)

サンダース
「さぁ、見せてみろ…お前たちの覚悟を!」


サンダースは珍しく声を低くしてそう呟く。
軽く怒気を込めた様な感じで、こちらにもその感情が伝わって来る。
サンダースの奴、一体どうしたってんだ?


白那
「…このままレースなんかしてても、結果は解りきってる」

三海
「だから実力行使か、実に解りやすいな…だが、嫌いではないよ」
「しかし、いくら白那さんといえども、ワタシを止められるかい?」

白那
「止める…? 何の事かさっぱりだけど…」
「自信過剰過ぎるんじゃないのか?」


白那さんがやや呆れた顔をした瞬間、三海は白那さんに引き寄せられる。
三海は驚く暇も無く、強烈な膝蹴りを腹に貰う羽目になった。


三海
「かっ…はっ!?」

白那
「これでオレの技は後3回だが、君は後何分動ける?」


ドガッ!と、白那さんは膝蹴りを追加する。
三海は悶絶しながらも歯を食い縛り、すぐに超能力を弾けさせた。
それは紫がかった球体がまるで弾ける様…
その瞬間白那さんは後ろに数m吹き飛ばされ、ビルの端で踏みとどまる。
高さ30cm程のパラペットに踵を付け、白那さんは軽く口から血を垂らして三海を睨んだ。


三海
「不意打ちとは恐れ入ったよ…いや、ワタシの傲りか」
「だけど、成る程…確かに、余裕はさほど無いな」
「貴女の能力は制限されてるとはいえ、見てから反応するのは今のワタシでは難しい」

白那
「…口が達者なのは結構だけど、もう1度確認しようか?」
「後、何分動ける? 君は少なくとも補給無しで動ける時間は限られている」
「ましてや、能力を封じられてるも同然のこの状況…」
「君が思っているよりも、稼働限界は近いんじゃないのかい?」


白那さんは、ある程度確信したかの様な口振りで三海にそう言う。
ちなみに白那さんの服はさっきので派手に破け、腹部は吹き飛んでいる。
白那さんのたわわな下乳が破れた服からマトモに見えており、かなりエロい状態になっていた。
だが、白那さんの腹は軽く抉られている…青く内出血しており、サイコブレイクの威力の高さを思い知らされた。
正直、白那さんのダメージは低くないはず…?


三海
「ふふ…時間稼ぎのつもりかな? でも予想は当たっているかもしれないな」
「確かに、本来ならワタシの稼働限界はおよそ30分…ここまでの時間は約5分で、技は2回使用」
「サイコブレイク1回につき、10分消費と考えたら、もう数分しか猶予が無いな…」


三海はそう言ってダッシュする。
かなりの瞬発力で間合いを詰め、白那さんに殴りかかった。
白那さんはあえて両腕を上げてガードし、仰け反りながらも後ろに吹き飛ぶのは阻止する。
そして口から血が飛び、白那さんは右回し蹴りを放った。
が、三海はそれをノーガードで腹に受け、右手でボディブローを打つ。
白那さんの脇腹にそれは突き立てられ、白那さんは顔を歪めるもまだ耐える。
三海はそのまま両手で乱打を放ち、至近距離で白那さんをサンドバッグにした。



ケララッパ
『三海のラッシュが白那を襲う!!』
『反撃の隙すら与えずに白那はズタボロにされていくぅ!!』



(…! 覚悟、か)


俺はサンダースの言った言葉を思い出した。
今、あのふたりは確かに覚悟を決めてる。
互いに俺の事を想い、そして勝利を目指してるんだ。
そして、そこに邪念は一切無い…ただふたりは純粋に覚悟を決めている。


三海
(…!! しぶとい、な…! まだ、耐えられる…の、か?)

白那
「!!」


ベキャァッ!と鈍い音がモニター越しに響く。
三海が一瞬失速したと同時に、白那さんは右拳を打ち下ろしたのだ。
そして、次の瞬間三海と白那さんの位置が入れ替わる。
今度は三海がパラペット側に立ち、白那さんは三海に対して背を向けながら右腕を振る。
その瞬間、三海は横に転がり三海のいた場所は空間が切り裂かれる。
三海はぜぇはぁ…と息を切らし、体が痩せ始めていた。
稼働限界だ…これ以上三海は力を遣えない。
逆に白那さんは天を仰ぎ、大きく深呼吸する。
そして、ベッ!と血を屋上に吐き、首をコキコキ鳴らしてゆっくりと振り向いた。
俺は軽く恐怖を覚える…かつて、ここまで本気になった白那さんを見たのは、大愛さんと戦った時以来だ。
普段おっとりとして、誰にでも優しい白那さんだが、こういう時は誰よりも怖い。


三海
「…時間切れか、さてどうする? ワタシを殺してでも先に進むか?」
「それとも、ここでワタシに殺されて命を落とすか…?」

白那
「面白い冗談だな、笑えない」


白那さんは右腕を更に振るって三海を攻撃する。
が、三海は微動だにせずそれを見ていた。
空間は切られたものの、三海は無傷。
切れたのは三海の背中側の空間だった。


白那
「…これでPP切れだ、よく逃げなかったね?」

三海
「逃げていたら真っ二つだったな…やはり貴女は甘い」
「その気になれば、家族を皆殺しにしてでも聖を奪えるのに、貴女は絶対にそれをしないのだから…」

白那
「らしくないね…? 今更そんな事を何で考える?」

三海
「最近、思うのさ…聖は、救いすぎたんじゃないのかって」


三海は何か小さく呟いたみたいだった。
白那さんは顔をしかめてそれを聞いているみたいだ。
三海はもう動く事も出来ないのか、その場で震えて膝を着く。
実質勝負は着いた…これで、終わりか。


三海
「…このまま聖が誰かを救い続けたら、何が起こるんだろうね?」
「ワタシは…聖の為なら、何でも出来るよ……」


ドシャアッ!と、三海は倒れる。
白那さんは何かを考えながらも、倒れた三海に歩み寄りら三海を抱き抱えてその場で立ち尽くした。
そして、フラつきながらもその場で尻餅を着き、あぐらをかいて三海を抱き締める。
もう、それはいつもの白那さんに見えた。
だけど、表情はどこか暗い…一体、三海から何を聞いたんだ?
モニター越しじゃ、結局最後の会話は聞こえなかったな…


サンダース
「…時間切れだ!! 両者失格!! よってこの勝負は引き分けとする!!」


「なっ…!? それじゃこの先どうする気だ?」
「後1種目しかプログラムが無いんだぞ!?」

サンダース
「ルールはルールだ、あくまでこれは幅跳び走!」
「ゴール出来なければ失格となる!!」


ケララッパ
『何とまさかの両者失格!! 結局互いに争った結果、ビルを越える体力すらも失ってしまった様です!!』
『つまり、これで黒組は負けが消えたぁ!!』



とんでもない事になってしまった…
つまり青組に勝ちはもう無い。
例え最後を勝っても、判定は引き分け…か。


白那
(三海ちゃんは、何を見た?)
(それとも、ただの予感なのか?)
(聖君は、絶対に間違えたりしない…オレは信じているよ)
(例え何があっても、もう絶対に悲劇は起こさせない!)
(家族の絆だけは…絶対に守ってみせるから)



………………………



華澄
「…最低でも、引き分けですか」

舞桜
「…一体、どうなるんだろう?」

愛呂恵
「とにかく、勝つしかありません…少なくともそうすれば負けはしないのですから」


拙者たちはヘリの中で話し合う。
既にヘリは皆がいる運動場にむかっており、そこで最後の種目が開催されるとの事。
とにかく勝つしかない…最低でも引き分けですが、決して負けは許されないのです。


舞桜
「白那さんはとりあえず先に運ばれたけど、怪我大丈夫かな?」

華澄
「見た目以上に重症でしたからね…よく引き分けに持ち込めたと言うべきですが」

愛呂恵
「とにかく今は無事を祈りましょう、少なくとも命に別状は無いと思いますが」


穹さんは既に飽きたのか横になって寝ている。
拙者たちも若干の疲れがありますが、気を抜く事は出来ません。
最後は拙者が必ず勝利し、最低でも引き分けに持ち込まなければ…!



………………………




「三海は大丈夫なんだろうな?」

サンダース
「…心配するな、選りすぐりのメンバーが治療している」
「必ず無事に返してやる、私のメンツにかけてもな」


サンダースはいつもの様に腕を組んでそう言うも、どこか顔は暗かった。
結果的に負けは無くなったが、心境は複雑そうだ。
サンダース的には、姉の活躍がフロックだった事の確認作業。
黒組が勝てばそれは証明され、あくまで唯ちゃんが勝てたのは俺のお陰だと証明される。
逆に青組が勝てば、そんな物は関係無く、唯ちゃんにはちゃんと素質も才能もあった事の証明。

だが、よりにもよってどっちにもならない可能性が出るとはな。



「どうする気かは知らないが、引き分けだと俺はどうなる?」

サンダース
「さてな…考えてもいなかった」
「だが、安心しろ…私が勝って姉が無能なのは証明してやる」
「貴方がいれば、黒組は勝つさ…」


そうは言うものの、サンダースの口調は沈んでいた。
いつもの強気で自身に溢れた口調じゃない。
まるで、俺にすがるかの様な口調で、彼女は力無く宣言したのだ。



「…まぁ、とりあえず今は仲間だ、応援はしてやる」
「だけど、勝つのは多分華澄だぞ? アイツは強いからな」

サンダース
「ふっ、承知の上だ…それでも勝つのは私だがな」


「なら証明すれば良いさ、お前が正しいか、唯ちゃんが正しいか」


サンダースはそれ以上何も言わなかった。
俺たちは互いに隣り合わせで椅子に座り、そのまま移動が終わるのを待つ。
三海は今頃白那さんと一緒にドクターヘリの中だ。
まぁ多分大丈夫だろう…三海ならどうせ飯食えば元に戻るだろうし。
白那さんは…まぁ、大丈夫だと信じよう!



………………………



阿須那
「…やれやれ、やな」

女胤
「最低でも引き分けにしかならないとは…」

守連
「で、でも皆頑張ったし…」

阿須那
「甘いわ守連…そんなんやから元ネタの人がロンチから実装されてへんねん!」

女胤
「良いですわよね阿須那さんの元ネタの方は…無料配布で序盤から仲間になるんですから」

守連
「…女胤ちゃんの元ネタの人は、課金キャラだもんね」

阿須那
「そんな事言うたら、華澄の元ネタは何やねん!? 実質主人公の初期メンバーで正ヒロインポジションやんけ!!」

女胤
「まぁ、あの方が優遇されているのはいつもの事ですし…」
「むしろ、参戦権すら当たえられなさそうな愛呂恵さんの元ネタの方の方が不憫でなりませんよ…」

守連
「むしろ、同じジムで別のリーダーが先に出てるもんね…」

阿須那
「ポケモンまで被っとるからな…流石に色々絶望的そうや」


と、ここまでネタに走ってもうたが、そろそろ華澄たちが帰ってくる頃や。
最後の種目は運動場に戻ってやるみたいやし、一体何をやるつもりなんか?
とにかく、聖の安否が気掛かりや…結果的にどうなるか解らんけど。


阿須那
「最悪、全員焼き殺してでも聖だけは取り戻したる…!」

女胤
「気持ちは解りますが、そこまで気を張る必要は無いと思いますよ?」

守連
「…? 何か、解るの?」


女胤はふぅ…と軽く息を吐き、守連を見て肩を竦める。
やや呆れた様な感じやが、別に悪気があるわけや無さそうやな。


女胤
「あのサンダースさんが何を考えているのかは解りませんが、聖様は特に気にした風にはしていませんでした」
「でしたら、少なくとも聖様は安心しているのでしょう」
「本当に必要になるのであれば、聖様自身が自分の意志で全てを終わらせるでしょうし…」

阿須那
「…確かに、な」
「聖もアホや無い、サンダースが本気で敵なら堂々と立ち向かうやろ」
「動くのはそれを確認してからでもええ…ってか」


女胤はコクリと頷く。
あくまで最終判断は聖に委ねる。
その結果次第で、ウチ等はどう動くか決めるって事やな…


守連
「…でも、私はサンダースさんが悪い人とは思えないよ」

女胤
「それに関しては、少なからず同意しますわ」
「容易に信じるつもりはありませんが、それでも彼女から明確な悪意は感じられませんし」

阿須那
「純粋に楽しんでたんは間違いないやろな…あれでそう見せてたってんなら、大した策士やが」


多分それは無いやろ…と、守連は思っとるやろうな。
女胤はあくまで最悪のシナリオを想定しとるみたいやが。
あのサンダースはイマイチ目的が見えん…せやけど聖は心を許してる節がある。
騙されてなければ、やけど…


守連
「ねぇ…華澄ちゃん、勝つよね?」

阿須那
「さぁなぁ…華澄は変な所に甘いからな、油断はせぇへんやろけど」

女胤
「ここぞという時の華澄さんは間違いなく便りになります…大丈夫だと信じましょう」


とりあえず、残すは最終戦だけや…
見せてもらうで華澄、アンタの覚悟を。



………………………



サンダース
「………」
華澄
「………」


(これが…最後の種目か)


混沌に巻き込まれた家族全員が見守る中、サンダースと華澄はそれぞれ対峙する。
運動場の中心、地面に長方形の白線が引かれたコートがあり、そこでふたりはそれぞれ自陣にて立っていた。


ケララッパ
「さて、今回は私も運動場の実況席にて、直接実況を行わせていただきます!」
「さぁ遂に開始目前となった最終種目! その名も『ケンカドッジボール』!!」
「ルールは単純! 互いにドッジボールで相手をKOした方が勝者となります!!」

守連
「ドッジボールでKO〜?」

阿須那
「何やねんそれ…」

女胤
「確かに解りやすいですが、たかだかボールでKOなど出来るのですか?」


確かに見た感じ、コート中央の審判が持っているボールは、あくまでフツーのボールに見えた。
それをぶつけ合った所で、ポケモンの身体能力を持つふたりがKOなんて出来るのだろうか?


サンダース
「最初に手本を見せておいてやる…審判、ボールを貸せ」

審判
「はい!」


審判はサンダースに命令され、ボールを放る。
それを片手で軽くキャッチし、サンダースは両手でボールを持った。


サンダース
「良いか? このボールは特殊な素材で出来ていてな…」
「こうやって、技を込めれば…!」


サンダースが全身を震わせて帯電し、両手からボールに電気が伝わっていく。
すると、どうだろう? ボールはたちまち電気を吸収して光り輝いていくのだ。
そして、サンダースはおもむろにジャンプし、それを華澄の足元横に投げ付けた。


バチバチバチィ!!


華澄
「!? こ、これは…」


華澄はボールの着弾点を見て驚く。
そこは電気で焼け焦げており、ボールはそのままバウンドして外野に転がっていった。
まさに必殺シュートか…成る程、確かにあれならKOは出来そうだ。


サンダース
「今のは一例だ、そして今度はこれを…」


サンダースは指をパチン!と鳴らし、外野から部下を呼び寄せる。
そしてソイツは華澄に青い腕輪を持って来た。
デザインは前の黒い腕輪と同じで、ただの色違いみたいだが…


サンダース
「その腕輪と付け替えろ、そうする事でお前は技をふたつまで使う事が可能になる」

華澄
「…ふたつ?」


華澄は黒い腕輪を外し、新たに青い腕輪を付ける。
重さも変わらないのか、華澄は特に違和感は感じていない様だった。


サンダース
「少し練習させてやる、試しに技を使ってみるが良い」
「お前が普段よく使う技なら多分放てるはずだ…」


華澄はそれを聞いて外野からボールを受け取る。
ちなみに互いの外野は全くのモブで、いわゆるガヤ。
攻撃をする事も無いし、邪魔をする事も無い。
いわゆる、外に出たボールを互いの大将に回す事だけが仕事の、文字通りの外野だ。


サンダース
「今回、外野からのパスはカットを禁止とする、一応頭に入れておけ…」

華澄
「…了解でござる、それでは失礼して」


華澄はボールを持ち、華麗に垂直ジャンプする。
そして空中で体を捻り、右手に水を集めてボールに伝えた。
するとボールは水を纏い、凄まじい勢いでサンダースの足元横に着弾して水が弾けた。
今のは…『水手裏剣』じゃ、無いよな?


華澄
「成る程…『ハイドロポンプ』なら、ああなるのですな」

サンダース
「ふむ、流石に理解が速いな…なら、もう始めても大丈夫か?」


サンダースは微笑し、涼しい顔でそう言う。
華澄は無言で頷き、コート中央に向かった。
そして互いが中央で向き合い、目を合わせる。
互いに細く鋭い目を光らせ、互いを威圧。
思ったよりも華澄は本気の様で、珍しく勝ちに来ているみたいだ。


審判
「それでは、始めますよ?」

サンダース
「ああ、いつでも良いぞ!」

華澄
「……!」


ふたりは互いに構え、ジャンプする体勢に入る。
単純なジャンプ力なら華澄が多分有利…だが身長はサンダースの方が大分上だからな。
さて…まずはファーストコンタクト、どっちがボールを握る?


審判
「!!」


ピーーー!!と、審判がホイッスルを吹き、ボールを真上に高く上げる。
すると、ふたりは同時に飛び上がり、互いにボールに手を伸ばした。


ケララッパ
「さぁ始まったぁ!! 最初にボールを取るのはぁ!?」

華澄
「!?」


華澄は空中で吹き飛ばされる。
何とサンダースはワザとぶつかる様にジャンプして華澄を吹っ飛ばし、そのまま悠々とボールを取ったのだ。
華澄は不意を突かれた感じで自陣に着地し、サンダースを見る。
そして華澄はすぐにその場から斜め後方に飛び退いた。


バチバチバチィ!!


ケララッパ
「ボールを取ったと同時に必殺シューーーートォ!!」
「しかし華澄の反応が速い!! 惜しくもボールは外れて外野行きだぁ!!」


(華澄の奴、妨害の警戒すらしてなかったな…)


まだまだルールをしっかり飲み込んでいなかった証明だ。
直接の殴り合いは禁止でも、あの程度の妨害なら許される。
ましてや、必殺シュートが飛び交うこのケンカドッジ。
回避だけじゃ、勝ち目なんて無いぞ?


阿須那
「あのアホ、油断しすぎや…」

女胤
「華澄さんらしいミスですが、これで一気に不利になりますね」

守連
「電気タイプは華澄ちゃん苦手だよ〜」


確かに、タイプ相性も問題だよな。
良くも悪くも華澄は水しか使えないみたいだし、折角の『変幻自在』も宝の持ち腐れだ。
って、そういや特性は制限されてるから変化も出来ないのか?
まぁ、どっちにしても電気が弱点なのは変わらない。
華澄は開始から手痛い洗礼を受ける事になったな…


サンダース
「ふふ、よくかわしたと言っておこう」
「が、私のシュートを止めない限り、貴様に勝ち目は無いぞ!?」


サンダースは外野からボールを受け取り、ボールを持ってダッシュする。
華澄は身構え、今度はキャッチする覚悟を決めた。
サンダースは笑い、コートの中央手前でジャンプして必殺シュートを放つ。
それはまさに稲妻の様な速度で電気を放ち、真っ直ぐに華澄へと向かって行った。
華澄はそれを両手でしっかりキャッチし、足を踏ん張って止めてみせる。
が、華澄は顔をしかめ、ボールを持ってしばらく歯を食い縛っていた。
やはり、電気は弱点タイプ…例えキャッチしたとしてもダメージは負う、か。


サンダース
「見事だ! よく私の『雷(かみなり)シュート』を止められたな!」

華澄
「…この威力、やはり並みではありませんな」


華澄はふぅ、と息を吐き、改めてボールを構える。
痺れは抜けたか、とりあえず今度は華澄のターンとなった。
サンダースは水が弱点でもないが、打たれ強いわけでも無い。
マトモにシュートを受ければ、十分ダメージは負うと思うが…


華澄
「では行きますぞ! 今度はこちらの番でござる!!」


華澄はそう言ってダッシュし、走りながらボールを振り被る。
ただのダッシュシュートとは思えない、技を練り込むはずだ。
華澄の手からは大量の水が圧縮され、それがボールに伝わる。
最初に見せたハイドロポンプだろう、さぁサンダースはどうする?


サンダース
「………」


サンダースはまず軽く動いてシュートをかわす。
すると、ボールは水柱を引きながら外野へと一直線に向かい、サンダースはそれを見て何かを確認している様だった。


華澄
(間違いなく、こちらの技の威力を見ましたな…)


華澄も冷静に今の動きを分析している。
この戦いはただ投げ合えば良いとは限らない。
あくまでKOすれば勝ちだが、そこまでに打つ布石はいくらでも出て来るのだから…



(ああ見えて、サンダースは頭で考えるタイプみたいだな)

サンダース
「………」


サンダースは外野から華澄へのパスを見送り、再び構える。
今度はキャッチするつもりだろうか?
少なくとも、威力という点に置いて今の『ハイドロシュート』(俺が勝手に名付けた)は、かなりの威力に見える。
細身で馬力の無さそうなサンダースが正面から受けるには少々難しそうにも感じるが…


華澄
(わざわざ1度見てから構えるのです、キャッチする自信はあるという事ですな)


華澄は再び構え、ダッシュする体勢に入る。
そしてそのまま真っ直ぐ中央に走り、今度はジャンプしてハイドロシュートを放った。
…が、サンダースはそれを見てニヤリと笑い、一瞬でサイドステップして回避する。
そしてバウンドしたボールを瞬時に掴み、無傷でボールを奪ってしまった。


サンダース
「バカめ、ジャンプシュートは確かにキャッチ難易度が高まるが、回避された時のリスクも高まる!」
「お前の技はジャンプ向きではない、功を焦ったな…」

華澄
「…! 成る程、そうでござるか…」


華澄は狼狽える事無く冷静に考える。
華澄も頭が良い方じゃないが、回転は速い。
物覚えはすこぶる良いし、1度覚えたら基本的に忘れない。
つまり、ミスは基本的に1度まで、そして…


サンダース
「さぁ、今度はこっちのターンだ! 次も同じ様に受けられるか!?」


サンダースはダッシュしてジャンプシュートを放つ。
サンダースの雷シュートはかなりのスピードで飛ぶから、バウンドしてもそのまま外野まで高速で跳ねてしまう。
なので、さっきのサンダースがやった様な対策はやや取り辛い。
さて、華澄はどう対応する?


華澄
「!!」


バチバチバチィ!!とまたしても電撃の弾ける音。
だけど、今度は華澄が痺れる事は無かった…
華澄の右手には水が練られており、そこから電気が分散して散っている。
いわば水のクッションで受けており、華澄は直接電気を受ける事無く、難なくボールを止めてみせたのだ。


華澄
「確かにスピードは申し分ありませんな…威力も中々」
「ですが、拙者を仕留めるにはややパワー不足といった所ですか…」

サンダース
「…ほう、言ってくれるな」


華澄は小さく息を吐き、表情を少し弛める。
リラックスした風で肩の力を抜き、華澄には余裕が出てきた様だった。
対してサンダースからは若干余裕が消える。
俺は、ここまでの展開は何となく予想していた。



(唯ちゃんのレベルからしたら、サンダースだってそんなモンだろう…)


そう、あくまでサンダースは唯ちゃんと同クラスのレベルでしかないのだ。
それは、華澄たちと張り合える様な規格外のポケモンじゃない。
腕輪で制限してるとはいえ、華澄は十分体も鍛えている。
少なくとも、この程度であれば華澄が慌てる事も無いって事か…


華澄
「…この試合は、拙者が勝ちます」

サンダース
「出来るか? それは私を倒してから言う物だ」


華澄は落ち着いた顔でボールを持ち、ダッシュする。
そしてまたしてもジャンプし、右手に水を集めた。
サンダースは余裕の笑みを見せ、またしてもサイドステップする。
だが、今度のシュートは真っ直ぐ飛ばず、5つのボールに分身して飛んでいった。


ケララッパ
「こ、これはぁ!? ここで華澄が第2の必殺シューーートォ!!」

サンダース
「ぐぅっ!?」


サンダースは辛うじて身を捻るも、分身したボールが掠って服が切れる。
間違いなく水手裏剣だ、ふたつまで技は使えるって言ってたからな…
ここで華澄は遠慮無くもうひとつのカードを切った。
不意を突いた結果だが、サンダースには精神的にもダメージを与えた感じだな。


華澄
「成る程、ああなるのですか…覚えましたぞ」

サンダース
「…ふっ、流石に初見では対応出来んか」
「だが、2度目は無い! 今度は止めてやる!!」


サンダースは強気にそう言うが、顔には汗が伝っている。
本当にキャッチする気かは解らんが、今のシュートはただのシュートじゃない。
あくまで技の性質をボールが受けて変化するのだ、つまりあの『手裏剣シュート』(俺が名付けた)は、切れ味も手裏剣その物。
下手に手を出したら…真っ二つになってもおかしくない。


華澄
「…警告はしておきます、拙者の水手裏剣は鋼をも切り裂く」
「威力が落とされているとはいえ、肉を削ぐ位の事は容易く出来ますぞ?」


華澄は脅す様にそう言う。
華澄の性格だ、恐らくこうなるのが解っててワザと封印してたな。
殺傷力が高すぎるが故に、優しい華澄は水手裏剣を使わずにいた。
だけど、ここではワザと相手の戦意を削ぐ為に発言する。
これはタイプ相性ではなく、互いの技の性質に対する問題に直結するんだ…


華澄
「拙者の水は電気を散らしますが、そなたの電気は水を阻害出来ない…」

サンダース
「……!」


そう、確かに華澄は電気が弱点だが、ボールという媒介を利用して放つ電気技なら水で軽減出来てしまうのだ。
だけど、逆にサンダースは電気を使った所で水を消す事は出来ない。
だからこそ、華澄の脅しは意味を持つ。
マトモに当たれば死ぬ、と華澄は警告してるのだ。
サンダースはそれを受けて冷や汗を流す…それでもアイツは止めるつもりか?


サンダース
「ふっ、舐めるなよ? その程度のシュートで私が倒せると思うな!」

華澄
「…分かりました、ならば」


華澄は外野からボールを受け取り、すぐにダッシュする。
そして再びジャンプし、またしても手裏剣シュートを放つ。
5つのボールに分身したボールは営利な刃物となり、サンダースめがけて飛んで行った。


ケララッパ
「華澄の必殺シュートォ!! サンダース止められるかぁ!?」

サンダース
「はあぁぁぁぁぁっ!!」


サンダースは右手を前にかざし、手首を左手で抑えて右手に電気を集中させる。
そこからは青白いスパークが放たれ、その電力の高さを物語る。
確か、図鑑説明によればサンダースの電力は1万ボルト…守連の最大電力からしたら10万分の1だが、それでも人は軽く死ぬ電力でもある。
そして、俺は理解した…サンダースが狙っているのは。


バチィッ!! ズバァァァァァァァンッ!!!


凄まじい爆発が起こる。
サンダースの右手にボールのひとつが当たった瞬間、それは電熱で瞬間蒸発し、水蒸気爆発を引き起こしたのだ。
確かにサンダースが倒れる事は無かったが、これはこれで何て無茶をしやがるのか…


サンダース
「…くっ!」


サンダースは髪の毛を総毛立たせ、バチバチと音を立てて立っていた。
体は所々黒焦げており、無理矢理止めたのが良く解る。
死にはしなかったが、これじゃダメージが大きすぎるだろ。


華澄
「サ、サンダース殿……」

「バカヤロウ!! 何て無茶しやがる!?」


俺は華澄よりも速く叫ぶ。
その声を聞いてサンダースは目を見開いて華澄を睨んだ。
その瞳に絶望は無い、むしろ強い遺志で勝つのだという覚悟が伝わる。
だけど、俺は決して悲惨な結果は望まない。
サンダースにとって、それ程姉が信じられないのは辛い事だが、それでも俺は叫ばずにはいられなかった…


サンダース
「…デカイ声で騒ぐな、この程度何の問題も無い!」


「何が問題無いだ!? 思いっきりボロボロになってんじゃねぇか!!」

サンダース
「安心しろ、次で仕留めてやる! さぁ、行くぞ!?」

華澄
「!? …っ」


華澄は気持ちを切り替えてバックステップする。
距離を離し、サンダースのシュートに備えた。
サンダースは息を荒くしながらもボールをしっかり握る。
全身から電気を帯電させ、それをボールに伝えていく。
そして、サンダースは鬼気迫る顔でダッシュし、真っ直ぐボールを投げる。


華澄
「こ、これはっ!?」


華澄は目を見開いて驚く。
サンダースが投げたのは雷シュートでは無かったのだ。
ボールは射出されたと同時に何10本の針弾(?)に変わる。
そして、それらは不規則な軌道を描いて華澄に襲い掛かった。
華澄はそれらをかわそうとするも、流石に数が多すぎてかわしきる事は出来ない。


華澄
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


華澄は針を受けて絶叫する。
俺はこの時点で理解した、アレは『ミサイル針』だ!
サンダースは感情が高ぶると全身の毛をミサイルの様に放つと言われている。
そしてミサイル針は虫タイプの技で、悪タイプでもある華澄にはトコトン効果抜群…!!
あくまでボールが技を再現しただけなので、針はすぐに刺さって消えたが、華澄は全身を震わせて背中から倒れてしまった。
ボールはトン…トン…と華澄のコートに転がる。


ケララッパ
「ここでサンダースの隠し球発動!! まさかの弱点技で華澄ノックダウンかぁ!?」

阿須那
「アホか!! 立てや華澄ぃ!!」

女胤
「ここで負けたら終わりなんですよ!?」

守連
「華澄ちゃん!!」


守連たちはそれぞれ声をあげ、華澄を激励する。
それを見て、他の家族も大きな声をあげ始め、華澄は上半身をゆらり…と起こした。
俺はゾッとする…華澄は顔や体全体から血を流しているのだ。
さっきの技はそれだけ殺傷力の高い技だと言える…サンダースもまた、これだけ危険な技を隠していたんだな。


華澄
「ぅ…ぐ……! あ、ぁ…ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


華澄は咆哮する。
今までの華澄からは想像も出来なかった姿だ。
逆に、それだけ追い詰められたのだと言える。
いや、違うかもしれない…



(俺が…俺が、サンダースを心配したのがそんなに辛かったのか?)


華澄は一途だ…いつも俺の事を、家族の事を考えて戦ってくれる。
だけど、今回だけは違う…俺は敵に回ってしまった。
そして、サンダースは奇しくも応えてしまったのだ。
それが解ったから、身に染みたから…華澄は吼えた。


ケララッパ
「華澄が執念を見せるぅ!! まだ、まだ戦いは終わらない!!」

サンダース
「…そうか、そこまで大事か」

華澄
「はぁ…! はぁ…っ!!」


華澄は怒りの形相でボールを握る。
右手1本でボールを握り締め、小さな手でそれを握力だけで掴んでいた。
まさに鬼気迫る気迫だ。
サンダースにしろ、華澄にしろ、負ける事は考えていない。
そこまでして、この勝負の結果が重要なのか…?


サンダース
「良いだろう…! ならトコトン来い!!」
「このサンダース!! 絶対に退かん!!」

華澄
「負けは…せぬ」
「例え聖殿がそなたに与したとしても! 拙者は家族の為に戦う!!」


「華澄…!」


華澄は何ひとつブレていなかった。
そして、その絆を知る。
俺も、ここで覚悟を決めた。
華澄は、俺にすら勝とうとしているのだと理解したからだ。
恐らく、始めてだろう…華澄が俺に牙を向けるなんて。
あくまで間接的にだが、俺は敵に回っている。
それでも、華澄は戦って勝つと吼えた。
なら、俺は信じてやらなきゃならない…華澄は、俺にすら勝つのだと!



(華澄、俺はお前に声をかけないぞ? それでも勝つと言うなら、勝ってみせろ!!)

華澄
(解っております…理解しております)


(俺はお前を信じている…だから勝て)

華澄
(サンダース殿は、死をも恐れぬ覚悟で戦っておられる…)


「サンダース! 絶対に死ぬ事だけは許さねぇぞ!?」

サンダース
「安心しろ…私が勝つんだ! 私が正しいのだと、ここで証明する!!」

華澄
「なれば…! 拙者は全力を尽くすでござる!!」


華澄は全身から血を吹き出してダッシュする。
痛々しい姿だが、華澄は構わず全力でハイドロシュートを投げた。
その威力は今までの中でも最高の威力で、サンダースはそれを体で受け止める。


サンダース
「ぐ…っ!! おおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」


サンダースは激しく後ろに吹っ飛ばされるも、ボールは自陣にとどめた。
だがサンダースは外野まで吹っ飛び、すぐには立てない。
ボールを投げた華澄自身も膝を突いて四つん這いになっていた。
もう、互いに体力は残り少ない…ここからは、死力かっ。


ケララッパ
「サ、サンダースがまだ立ち上がる!! まだ、まだ戦おうと言うのかぁ!?」

サンダース
「…ふ、ふふ」
「ふは、ははははははははははっ!!」
「面白い…! 面白いぞ!!」
「かつて、ここまで楽しんだ事は無い!! 最高だ!!」


サンダースはここで高らかに笑う。
だが明らかにフラついており、天を仰いで虚空を見つめていた。
一体、アイツは誰を見てるんだろうな?



(なぁ唯ちゃん…お前がアイツを見たら、何て声をかけるんだ?)

華澄
「まだ、まだぁ…!!」

サンダース
「ふふふ…! さぁ行くぞ…! これ位で…死ぬなよぉっ!?」


サンダースはまたしてもミサイルシュート(俺が命名した)を放つ。
もはや殺す気しか感じない必殺シュート相手に、華澄はしっかりと立ち上がって地面を踏み締める。
そして、それ相手に水手裏剣を放ち、ほとんどの針を撃墜してしまった。
そして残った少ない針を華澄は右手で止め、それはボールへと戻る。
華澄の右手からは血がボタボタと落ちるも、強い瞳でサンダースを睨み付けていた。


ケララッパ
「サンダースの必殺シュート破れる!! 遂に、絶体絶命かぁ!?」

サンダース
「ふ、ふふ…本当に、見事だな…貴様らは!」

華澄
「サンダース殿…拙者は負けはしませぬ」
「そして…! これが最後でござる!!」


華澄はダッシュする事すらなく、その場でボールを片手1本で投げ返した。
もはや大した水も伴わず、それは真っ直ぐサンダースの顔面に向かう。
サンダースはそれを見て、ただ笑うだけだった…
その顔は満足そうで、喜びに満ちている。

そして…ボールはサンダースの顔面に直撃し、サンダースは真後ろに倒れた。
そこから…サンダースが起き上がる事は無い。


審判
「…! サンダース戦闘不能!! よって、勝者! 青組の華澄!!」


ワァァァァァァァァァッ!!と、大歓声が起こる。
守連たち家族はダッシュで華澄の所に向かい、華澄をもみくちゃにしていた。
そして、誰ひとり集まる事もないサンダースの元に、俺は歩いて行く…
それを見てか、他の黒組メンバーも集まって来た。



「…完全に気絶してるか」

未来
「…見事な試合であった、サンダース殿も満足そうだな」

舞理愛
「ふんっ、まぁ別に負けたわけでもないし、これで満足してあげるわ!」
「私個人は勝ってるし!」

ペルフェ
「…無様ね、だけど面白い物は見れたから良しとしておくわ♪」


やれやれ…とにかく、これで全プログラム終了。
後は表彰式か? つっても、引き分けだしなぁ…



「ったく、最後は手間をかけさせるか…」


俺はサンダースを抱き抱えてやる。
そして家族の方をチラ見し、俺は満足して医務室に向かった。
そして心の中で俺は称えてやる。
皆、お疲れ様…頑張ったな、って。



………………………



三海
「そうか、負けたか…予知は外れたな」


「予知って、そんなポンポン外れる物なのか?」


俺は医務室でベッドに寝ている三海と会話していた。
サンダースは治療室におり、ここには治療後の三海と見舞いに来ている愛呂恵さんがいるだけだな。
白那さんはまだ治療中みたいだ…


三海
「まぁ、ワタシのはあくまで漠然とした遠い先の予知だからな…ちょっとした運命の噛み合わせで、すぐに変わる事もあるさ」

愛呂恵
「…つまり、それだけ不確定要素が多かったと?」

三海
「どうかな? 少なくともワタシが見た予知では、華澄お姉ちゃんは負けていたよ」
「でも勝った…その理由は何だろうね?」


「それは華澄が強くなったからさ…今までよりも、もっとな」


俺が笑って言ってやると、三海はふふふと笑う。
愛呂恵さんは無表情だけど、納得はしているみたいだった。


三海
「ふふ…やっぱり聖は面白いね♪」
「聖が何もしなくても、例えいるだけでも、敵に回っても、皆には力が与えられる…」

愛呂恵
「力…ですか?」


「正直、俺には理解出来ない…まさか、雫が暴走でもしているのか?」


俺はそう言って雫を取り出す。
だがその色はほんの少し濁っている程度。
前に色さんと話す為に使っただけだからな…
って事は、別に勝手に発動はしてないって事か?


三海
「ワタシにも全く解らない…だけど、これだけは言えるよ?」
「聖は、例え何もしなくても…皆に希望を与えてくれる存在なんだ」


「俺が…希望?」

三海
「それこそ、会ったばかりのポケモン相手にすら、ね…」

愛呂恵
「…サンダースさん、いえ黒組の皆さん全員にも、ですね?」


三海はクスクス笑うだけで頷きはしない。
だけど肯定しているのだと俺は思った。
多分、愛呂恵さんもそう思っているのだろう…だから、それ以上は何も言わないんだ。


三海
「とにかく、これで終わりなのだろう? だったらワタシは望みを叶えてもらうかな…」


「は? 望み? 何だ剃りゃ…?」

三海
「サンダースお姉ちゃんとの契約さ、結果に関わらず、終われば私の望みをひとつだけ叶えてやるって…」
「もちろん、あくまで簡単な望みだそうだけどね?」
「黒組はそれを条件に集められたそうだから、あんなメンバーでもそれなりに纏まったんだろうね」


成る程な、道理でペルフェや舞理愛みたいなのが黙って従う訳だ。
そんな美味しそうな餌で釣られていたとは…


愛呂恵
「ちなみに三海さんはどんな望みを?」

三海
「ん? そりゃ世界的に有名な高級デザート店の限定商品さ!!」
「ああ…! 日本にいる限り絶対に手に入らない様な何年も予約待ちで、まず食べる事なんて叶わないレアスイーツが遂にワタシの手に!!」


うん、オジさん嬉しいよ!
三海ちゃんみたいな純粋な娘、オジさん大好きだから!!


愛呂恵
「興味は有りますね、その時は是非私にも味見をさせてもらってよろしいですか?」

三海
「もちろんだとも!! 愛呂恵さんだけじゃなく、皆で一緒に楽しもう!!」
「ちゃんと家族全員の分も要求するから!!」


「はは…そりゃ楽しみだ、あ…色さんの分も忘れるなよ?」


三海はもちろん!と強く返事をし、目をキラキラさせていた。
やれやれ、白那さんとやり合った時は肝を冷やしたけど、とりあえず何も無くて良かったな♪
さて…とりあえずサンダースの治療が終わるまではまだかかるし、他のメンバーにも声をかけに行くかな。











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『青組VS黒組! 譲れぬ想い』


To be continued…

Yuki ( 2019/09/09(月) 18:22 )