とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第9章 『ダウンタウン ポケモン行進曲 それゆけ大運動会』
第2話
サンダース
「次の種目は障害物競走だ!! 10分後に開始するから考えてメンバーを選べ!!」


「…障害物って、どこでやるんだよ?」


俺は素朴な疑問を放つが、サンダースは笑うだけで何も答えない。
まぁ、それも10分後には解る内容なのだが。
とりあえず、未来さんは教室に待機しており、外には出て来なかった。
あくまでメンバーは最後まで秘密って訳だな。
この感じだと、どんなチームになる事やら…?



………………………



愛呂恵
「…障害物、ですか」

鐃背
「どんな障害があるのかは解らぬが、これも競走な以上は足が物を言おう」


「でしたら、また同じメンバーで行きますか?」

守連
「私は別に良いけど…」

香飛利
「私無理〜」


とりあえず、また走る競技なのは確かだ。
だとしたら足が速いのは単純に有利。
でも、どんな障害が待ってるかも解らないし、安易にそれだけで決めるのは危険な気がする。


愛呂恵
「…ここは私と瞳さんで行きましょう」

鐃背
「良いのか? そなたはまだ疲労があろう?」


「でしたら、私が先発します…それなら少しは休めるでしょう」


愛呂恵さんは軽く息を吐いているけど、あれだけの長距離を休みなく駆け抜けたのだから、間違いなく疲れはあるはず。
私も治療を受けたとはいえ、疲労が完全に抜けたわけじゃないし…


香飛利
「ふたり共、ガンバ〜…」

愛呂恵
「…では、先発はお任せします」


「はい、まずはどんな内容かを知らないといけませんからね」

守連
「気を付けてね、瞳さん…」


瞳さんは強い表情で気を引き締める。
愛呂恵さん程じゃないけど、瞳さんもかなり強くなって自信もあるみたいだ。
きっと結果は付いて来ると、私は思った…



………………………



女胤
「………」

喜久乃
「障害物って事は、かなりアスレチックな内容なんでしょうね…」


「どっちにしても、足の遅さは問題だな…誰が行く?」

騰湖
「逆に障害物が多いのなら遅さは技でカバー可能だ、いっその事タイプで選ぶ手もある」


「私は休む…流石に疲れた」


とりあえず、穹さん以外はやる気もありそうですね。
内容が解らないのがとにかくネック…クロスカントリーも予想外のコースでしたし、まずは安全に情報を得るのが優先ですね。
そして、ポイントの獲得は順位だけではない。
あえて危険を承知でも、試す価値はありそうですね。


女胤
「ここは喜久乃さんと私で行きましょう、ある程度身軽な方が有利なのは間違いありません」

喜久乃
「同感です…が、体力とPPは大丈夫なんですか?」


私は表情を変えずに喜久乃さんを見る。
正直疲れはあります…PPはまだ余裕。
とりあえず、前半は喜久乃さんに任せて回復に努めますか。


喜久乃
「…それじゃあ、先に私が行きますよ」
「でも順位は期待しないでくださいね?」

女胤
「構いません、要は最後にポイントで上になれば良いのですから」


私たちは笑う。
この運動会のルールは、理解すればそれだけ有利になる。
他のチームも恐らく気付き始めるでしょうが、初回トップのアドバンテージは大きい。
後は可能な限り引き離す事を考えなければ…



………………………



阿須那
「とりあえず、行動ひとつひとつが何かに直結してる可能性は高いな」

白那
「そうだね…想定出来るのは、技の使用、道具の使用、その頻度かな?」

大愛
「だが、それだと黄組のポイントが腑に落ちん」
「守連も愛呂恵も道具や攻撃はしていなかったぞ?」


白那はんはそれを聞いて黙る。
そして顎に手を当てて考えていた。
謎はある…けど、その詳細はまだ解らへんな。


櫻桃
「とにかく障害物って言うんだから、まずはそっちの走者を決めた方が良いんじゃない?」

浮狼
「確かに、もうそれ程時間はありませんね」

阿須那
「ほな、大愛はんと櫻桃はんに頼もか…」

白那
「悪くないね、オレ達も休む必要はあるし、ここは任せて良い?」

大愛
「ふん、良いだろう…先に行くのはどっちだ?」

櫻桃
「アタシはどっちでも良いよ?」


この運動会はとにかく情報不足がネックや。
となると、比較的安全に初見をこなせるメンバーが優先度高いな。


阿須那
「ほな先発は大愛はんや、櫻桃はんは2走目」

白那
「妥当だね、大愛の能力なら恐らく向いてる」


ウチ等は頷き合ってオーダーを決める。
とにかく浮上や…何とかしてポイント取らんとな。



………………………



華澄
「ここは舞桜殿と水恋殿で行きましょう」

舞桜
「良いけど、私足にはあまり自信が無いよ?」

華澄
「舞桜殿には『影縫い』があるでござる、足の遅さは技でカバー出来るはずです」


とりあえず全員の使用出来る技は既に確認済み。
障害物がどんな物かは解りかねますが、技の相性は重要でござる。
それに、拙者と神狩殿は疲労を少しでも回復させねばなりませんからな…


水恋
「とりあえず、突っ込むだけなら何とかなる!」

舞桜
「…私が先に行った方が良いね、水恋ちゃんはちゃんとコース覚えてね?」

神狩
「…ふたり共、頑張って」

悠和
「ここでしっかりと最下位を脱出しましょう!」


そう、拙者たちはあくまで最下位。
ただ勝利を求めるのであれば、足掻くしか有りませぬ。
しかし、結果は最後まで解らぬのが勝負。
諦めない事が重要でござるよ。



………………………



ケララッパ
『さぁ、いよいよ障害物競走が始まろうとしています!』
『今回のコースは運動場から地下に入り、決められたコースを走って先に出て来た選手がトップだー!!』



「地下ね…あんな所に隠してたのかよ」


実況を聞いて全員が地下への入り口を見る。
運動場の隅の方にそれはあり、広さは結構あった。
果たして中はどんな仕掛けがあるのか…?


大愛
「………」
舞桜
「………」
喜久乃
「………」

「………」


とりあえず、瞳さん以外はおおよそ素早さが高くないメンバー。
しかし技が優秀なら足は十分覆る。
果たして、4人はどんな技が使えるんだ…?



ケララッパ
『今回は設置されてるモニターを見ながら実況させていただきます!』
『さぁ、間も無くスタートだぁ!!』



実況は空を羽ばたきながらマイクでそう叫ぶ。
巨大モニターを前にスタートを待ち、今か今かとサンダースの言葉を楽しみにしている様だった。


サンダース
「それでは、障害物競走1本目! 始め!!」


パァン!とスターターピストルが鳴る。
そして横一列に並んでいた4人は一斉に走り出した。
当然ながらスタートは瞳さんがトップ。
瞬発力は間違いなく1番だからな。
そしてそこから舞桜さん、大愛さん、喜久乃と順に地下へと入って行く。
ここまでは特に争いもなく、割りと平和的だった。



「!? ここは、工場…?」


まずモニターに映ったのは暗い工場の様なコース。
いきなり逆方向のベルトコンベアが回っており、瞳さんはそれに逆らって走っていた。
当然ながら足は遅れ、すぐに後続が追い付いて来る。
そして気が付くと、ベルトコンベアの先に大愛さんがいた。



ケララッパ
『まさに一瞬の出来事! これが時間ポケモンの真骨頂だぁ!!』



「!! 早くも、ですか…!」

喜久乃
「よっ! ちょっと肩を借りますね〜♪」


何と喜久乃は瞳さんの肩に足を乗せて踏み台にした。
そのままジャンプしてベルトコンベアの先に移動し、大愛さんを追って行く。
そして更に後ろから舞桜さんが…


ビシッ!


喜久乃
「げっ!? 足が!?」


ケララッパ
『これは見事! ジュナイパーの得意技で喜久乃は足を止められたぁ!!』


舞桜
「ゴメンね喜久乃ちゃん…」


舞桜さんは大きくジャンプして両腕を広げる。
舞桜さんの腕には独特の羽が付いているので、それを広げると少しだけ滑空する事が可能になるのだ。
飛行タイプでもないのに飛べるのは、あの羽のお陰もあるらしい。
しかしスピードはほとんど出ず、ゆっくりと舞桜さんは喜久乃近くまで飛んで着地した。
それを見て、喜久乃はすかさず手をかざす。
そこから放たれるのは…


バチバチィ!!


舞桜
「くっ!?」

喜久乃
「さっきのお返しですよ!」


ケララッパ
『喜久乃が反撃ぃ!! 電気の網が舞桜を包み込んだぁ!!』



喜久乃が放ったのは『エレキネット』だった。
それは文字通り電気で編まれた網。
舞桜さんはそれに絡まれ、少し顔を歪める。
あれは食らうと素早さが下がる技だからな。
とりあえず足止めとしては優秀な技だ。
そして、次は瞳さんが目を細めて屈む。
次の瞬間、瞳さんは壁に向かってジャンプした。
かなりの高速ジャンプで、側面の壁に移動し、今度は壁を蹴る。
そのまま斜め前、反対側の壁に到達し、また壁を蹴る。
この繰り返しで、瞳さんは一気に舞桜さんと喜久乃を抜き去ってしまった。


舞桜
「嘘っ!?」
喜久乃
「そんなの有りですか!?」


ケララッパ
『これは凄まじい! 直線的な動きだが、身体能力の高さを生かした攻略法だぁ!!』



「……!」


瞳さんは無言で先に進む。
大愛さんは既に上の階層に階段で上っており、大分先に行っていた。
流石に『時の咆哮』による時止めは予想も付かないからな…
どんなギミックでも、5回までなら大愛さんは無効化出来るってわけだ。
もちろん、あれは妨害にも使える。
その気になれば汎用性は素晴らしいのだ…触れられさえ出来れば。

瞳さんは過去に対戦成績もあるから、能力の良し悪しは理解している。
大愛さんとのレースは熾烈になりそうだな…



………………………



大愛
「ちっ、流石にもう追い付いて来たか」


(妨害は来る? それとも温存するでしょうか?)


大愛さんは舌打ちしながらも瞳さんを先に行かせた。
今後のプログラムも考えたら無駄撃ちは避けたいはずだからな。

しかし、瞳さんは気付いているのか?
このままだと自分が先に罠にかかる事を…

ガション!と音がし、突然壁が開く。
瞳さんのすぐ横で、そこから何かが飛び出して来たのだ。
それは何と超巨大なマジックハンド。
瞳さんは反射的にそれを前に倒れて回避するも、動きを止めてしまった。



ケララッパ
『瞳、ギリギリで回避! あれを初見でかわすとは見事です!!』



(危なかった…一瞬でも踏み込みが甘ければ食らっていた)
(逆側の側面は崖で、下には下水…成る程、その為のギミックですか)


今のでギミックは反応したのか何度も規則的に出たり引っ込めたりしていた。
大愛さんは手前で止まり、タイミングを見計らう。
瞳さんはすぐに立ち上がって再び走り始めた。
そして後ろからは舞桜さんと喜久乃の影が…


舞桜
「かなり遅れてる、でもここなら!」

大愛
「ちっ!」


大愛さんは後方から影縫いを受け、影を縛られる。
そして後ろから舞桜さんと喜久乃が走って来た。
瞳さんはそこから連続で開閉するマジックハンドを全てかわし、更に先に進む。


舞桜
(くっ…ノーマルタイプの瞳ちゃんは技で縛れない、どうしよう?)

喜久乃
(迂闊に抜くとまた縛られますからね…ここは後ろをピッタリ張らせてもらいますよ)


喜久乃は舞桜さんから少し離れた所を維持していた。
舞桜さんには影縫いがある以上、レースでは絶対有利。
しかし、本人の足がそれ程でないのと、瞳さんに無効という点はやや辛い所だな。

舞桜さんたちもタイミングを計って罠を回避して行く。
舞桜さんたちがそれ等をクリアした辺りで大愛さんはようやく動ける様になったみたいだ。


大愛
(ちっ、流石にあれは厄介だな…毎回時を止めて対処は出来ないし、回避するスピードも無い)
(とりあえず、ここは落ち着いて隙を伺うか…)


大愛さんは全てのマジックハンドを楽々とクリアする。
まるで完全にタイミング解っていたかの様な動きで、止まる事すらなく涼しげに走り抜けたのだ。



………………………




「!? ここからは水中!?」


ケララッパ
『さぁ、次のエリアは水中戦だ!! ここを泳いで先に進むしかない!!』


まさかの水泳…しかも人工的に流れを作られているのか、所々に渦潮が見られた。
しかも流れは逆流で距離も長い、エリアの端は通路が無く恐らく潜らないと先には進めないんだろう。



(とにかく、行くしかない!!)


瞳さんは覚悟を決めて飛び込む。
今回は部屋の横幅が広く、壁を蹴る戦法は無理みたいだった。
しかし、瞳さんはそれでも前に進み続ける。
修行で鍛えた体は決して無駄じゃない…後はスタミナ次第だな。


舞桜
「!? 水…ここを泳ぐの?」

喜久乃
(瞳さんは愚直ですね…まぁ、とりあえずここは様子見ますか)


足を止めた舞桜さんに対し、喜久乃は迷わず飛び込む。
舞桜さんは驚くものの、マッギョの生態を思い出しのか、すぐにハッ!?となっていた。

そう、喜久乃はマッギョなのだ。
つまり、本来なら水中で生活する水棲生物。
泳ぐのは苦手かもしれないが、肺活量は地上生物の比じゃ無いからな…


舞桜
「とにかく、今は瞳ちゃんに追い付くしかない!」


ケララッパ
『ここで舞桜が再び飛ぶ! そして天井スレスレからゆっくり下降し、そのまま瞳を空中で追い抜いたぁ!!』



(やはりそう来ましたか…! ですが、それも折り込み済みです)
(いかにジュナイパーと言えど、泳ぎはどうですかね?)


瞳さんは愚直に水面でクロールをして泳ぐ。
舞桜さんは瞳さんよりやや前の位置で着水し、そこから泳ぎ始めた。


舞桜
(想像以上にキツイ! 流れがあるから、思う様に進まない…)

喜久乃
(さて…と、予想通り色々ありましたね〜♪)


ここで水中モニターも同時に表示され、喜久乃の姿が見られた。
喜久乃は水底を悠々と歩き、足元に落ちてる凶器を物色する。
とりあえず選んだのは鉄アレイ。
それ程大きな物じゃないが、20sはありそうだ。
それを持って喜久乃は水底を走る。
流石にスピードは遅いが、それでも上を泳ぐふたりよりも若干速い様だった。

鉄アレイの重さもあってか、喜久乃はしっかりと床を踏んで前に走る。
そんな中、大愛さんも下に潜って来ていた。


大愛
(ほう、こんな所に凶器か…成る程使えそうだな)


大愛さんはメリケンサックを右手にはめ、薄ら笑う。
何を考えているのか予想出来ないが、大愛さんはそのまま水底深くを泳ぎ始めた。
速度はゆっくりで、喜久乃の背中を見逃さない位の距離を何とか保つ。
上は瞳さんが舞桜さんに追い付いていた。
そして、ふたりは壁際でようやく潜り、更に先を目指す。
隣のフロアに移動するには、約1mは潜らないとならない。
喜久乃と大愛さんは相当余裕があるのか、息継ぎ無しで水底を移動している。



(これはマズイ…! まさか下に凶器が落ちていたなんて!)

舞桜
(とにかく先に進むしかない! 多分肺活量なら瞳ちゃんより私の方が上だ)


舞桜さんは遅いながらも水中を泳ぐ。
鳥がモチーフの舞桜さんは間違いなく肺活量がある。
下手な哺乳動物じゃ舞桜さんの潜水には勝てないだろう。
しかしそれを言うなら下の相手は魚類と爬虫類…更に水中では強い種族とも言える。

やはり、ここが大きなターニングポイントになりそうだな。



ケララッパ
『全員が水中で流れに逆らって移動する!』
『次に息継ぎが出来るのは、5m先のフロアからだぁ!』




(行ける…! このままトップで切り抜ける!)

舞桜
(やっぱり泳ぎじゃ勝てないね…でも、ちょっと油断しすぎかな?)


瞳さんはいきなり動きが止められる。
それもそのはず、何と舞桜さんが瞳さんの足を掴んでいたからだ…
そして舞桜さんは瞳さんを思いっきり後方に振り回す。
ああ見えて舞桜さんは結構な馬鹿力だ、瞳さんは完全に妨害がノーマークだったな…



ケララッパ
『ここで舞桜が瞳を妨害! 瞳、ここで一旦息継ぎに上がります!!』



(くっ…しまった、あそこで足を捕まれるなんて)

舞桜
(ゴメンね瞳ちゃん…これも勝負だから、非情にならせてもらうよ)

喜久乃
(これは良いですね…! 面白くなって来ました♪)

大愛
(クク…今のは失態だな、さてどこで仕掛けるか?)


残りの3人は悠々と次のフロアに移動する。
舞桜さんは息継ぎをし、再び水面で泳ぎ始めた。
後数mで再び地上だ…さてまだ何か起こるか?
下のふたりが不気味すぎるが、一体何を考えているのか…



………………………



舞桜
「ぷはっ!! や、やっと泳ぎきれた…って、私がトップ?」


舞桜さんは1度周囲を見渡して状況を確認する。
とりあえず間違いなくトップは今の所舞桜さんだ。
しかし、後ろからは瞳さんが必至に追って来てる。
喜久乃と大愛さんも徐々に浮上してるし、うかうかしてたらすぐに差は無くなってしまうな…


舞桜
「とにかく、それならこのままトップでゴールする!」
「この先に何があるか解らないけど、行くしかない!」


舞桜さんは意を決して先頭を走る。
そしてゆっくりと喜久乃が水中から這い上がり、その背中を追った。
右手には鉄アレイが持たれており、何かと不気味だな…

大愛さんは更に後ろから出て来る。
長い髪がビショビショになっており、少し鬱陶しそうな顔をしていた。
こちらも右手にはメリケンサックを装備しており、何かの対策だろうか?
瞳さんはまだ泳いでいた、陸に上がるにはもう少しだな。



………………………



ケララッパ
『さぁ、ここまでに順位は入れ替わり、トップは青組!』
『それを緑と赤が追い、黄組はかなり遅れてようやく次のフロアだー!!』



次のフロアは要所要所の高さにトランポリンが設置されているアスレチックエリア。
足場はあまり広くなく、正確にジャンプしなければ下に落ちてしまうだろう。
出口は上に上った先にある、果たして誰が最初に抜けられるか…?


舞桜
「…これなら」


舞桜さんはフロアの構成を良く見て1度大きく屈み、その場から思いっきり腕を振り回して飛び上がる。
飛行タイプでなくとも、彼女は鳥ポケモン。
舞桜さんは比較的低い位置にあった足場に飛び乗り、そこのトランポリンでバランスを取っていた。

やはり舞桜さんはこういう所なら俄然有利だ。
高低差のあるエリアなら、ジュナイパーの特徴がこれでもかと生きる。
スピードが無くてもやり様はあるのだと言う好例だ。
しかし、これはあくまでルール無用の障害物レース。
少しでも油断したら、何が起こるか解らない…



ケララッパ
『舞桜、速い! 得意の空中機動を巧みに使い、楽々と上っていく!!』


舞桜
「これで、1番上…!」


ゴスッ!と鈍い音が響く。
それはタイミングを完全に計った一撃だった。
舞桜さんは空中で後頭部に鉄アレイを食らい、そのまま真っ逆さまに落ちていく…って、それ大丈夫なのか!?
いくらなんでも5m以上ある高所から落下したら、骨折なんかじゃ済まな…!

バチバチィ!と舞桜さんは落下寸前にエレキネットに包まれる。
そのお陰で落下死は避けられたものの、舞桜さんは再び痺れて動けなくなってしまった。
そのまま、ひとりの少女がひとつづつ足場を跳んで行く。



ケララッパ
『喜久乃非情!! 完全に狙い済ました鉄アレイで舞桜を妨害し、そのままエレキネットで足止め!』
『いくら舞桜の不注意とはいえ、容赦が感じられません!!』


喜久乃
「勝負は非情ですよ…これ位が何ですか!」

大愛
「同感だ、気が合うな…」


恐らく喜久乃の頭には!?がドォン!!と表示されている事だろう。
気が付けば喜久乃は下のフロアに落ちており、上には大愛さんが入れ替わっていたのだ。


喜久乃
「あ、ありのまま起こった事を話しますよ…」
「私は足場を上っていたと思っていたら、逆に降りていた…」


「やっと…追い付きました!」

舞桜
「くぅ…! こんな所で!!」


下は一気に大混戦だ。
大愛さんは薄ら笑って楽々と足場を順にクリアする。
このタイミングで時間停止は流石にヤバすぎた。
こりゃもう覆らないかな…?



ケララッパ
『ディアルガ恐るべし!! まさに恐怖の片鱗!!』
『あの能力の前には、いかなる物も無力としか言い様が無い!!』



「まぁ、触れられる距離じゃなきゃ逆に無力なんだがな…PPも少ないし」

サンダース
「だが、扱える頭はある! 間違いなく強敵のひとりと言えるだろう!!」


サンダースは嬉しそうに笑っていた。
大愛さんの能力を見た上で笑えるのだ、攻略出来る自信があるって訳か…
唯ちゃんのレベルを考えると、コイツのレベルもそこまででは無さそうだが、一体どんな強さなのか?
とりあえず、当面それは解りそうには無かった…



………………………



ケララッパ
『さぁいよいよ最終フロア!! ここからは暗視モニターに切り替えます!!』



実況がそう言うと、突然暗視モニターに切り替わる。
どうやら完全に暗闇の様で、大愛さんはいきなり落とし穴に落ちていた…
流石のディアルガも目が見えなきゃああなるのか…
それとも腕輪のせいでなんだろうか?
とりあえず、端から見たらかなり滑稽な状況だな…バラエティ番組とかでよくあるパターンにも思えた。


大愛
「く…! まさか暗闇で落とし穴とはな…シンプルに恐ろしい罠を!!」

喜久乃
「真っ暗!? この、とりあえずこれでどうです!?」


喜久乃はバチバチィ!とエレキネットを飛ばし、その光で周囲を照らす。
すると喜久乃はギョットとなり、状況を理解した。
こっちは暗視モニターで見えているのだが、このラストフロアは所々に落とし穴やら段差がわんさかある。
しかも完全暗闇仕様で、マトモに進むと間違いなくどれかには引っ掛かると言う訳だ。
しかし、喜久乃のエレキネットで状況は全員に伝わる。
すると、先ずは先に動いたのは瞳さん。



「…!!」


瞳さんは全速力で駆け抜ける。
エレキネットはもう消えてまた暗闇だが、既に安全地帯を把握したのか、迷いは無い様だった。
対して舞桜さんは腕を広げて屈む。
そしてそのまま思いっきり飛び上がった。
あれなら着地さえしっかり出来れば安全だ、しかも舞桜さんは夜目が効く、現実の梟の様に僅かな光でもしっかりと周りを見る事が出来るのだ。
しかし、ここは完全な暗闇…あれでも見えるのか?


舞桜
(流石に正確には見えない…だから音で探す!)


舞桜さんは空中で棍棒を投げ、それが地面に当たった音を聞いて向きを変える。
棍棒は入り口付近に落ちていた物をこっそり拾っていたみたいだ。
そして、音の反響で距離を計ったって所か…舞桜さんは耳も良いからな。
後は着地場所をしっかり見定めて降りるだけ…

ゴンッ!とまたしても金属が舞桜さんの頭に当たる音。
舞桜さんは空中でバランスを崩し、着地場所を間違えて穴に落ちてしまったのだ。
そして投げられたのはメリケンサック…どうやら大愛さんの物らしい。
よく当てられたな…あの状況で。


大愛
(棍棒の音から大体の距離を計ったが、当たった様だな…)


大愛さんはかなり警戒しながらもゆっくり進む。
その間に瞳さんが駆け抜けて行くが、瞳さんもかなり外回りのコースを取っている為、思う様に距離は稼げてない様だった。


喜久乃
(最下位は出来れば避けたいですけど…とにかく、ここは技でポイント稼ぎますかね!)


喜久乃はエレキネットで瞳さんの進行を妨げる。
その光ですぐに罠を見極め、喜久乃は走った。
瞳さんは咄嗟にブレーキするも、飛び上がってエレキネットを回避する。
正直、誰が先に出られるのかが全く解らない。
一応トップは舞桜さんだけど、瞳さん、大愛さん、喜久乃と差はほとんど無い状態だ。
となると、最後に物を言うのは己の技…!


舞桜
(こうなったら、先に出るしかない! ゴールはもうすぐだ!!)


(このままじゃ間に合わない…! トップは、無理ですか…)

大愛
(流石にトップはくれてやるか…が、2番手は渡さん!)

喜久乃
(面倒ですね…まぁポイントは結構稼げてますし、これで良いですかね?)


舞桜さんは全力で飛んだ。
今度は誰も凶器は投げられない。
瞳さんも続こうとするが、再びエレキネットが正面に。
瞳さんは同じ方法でそれをジャンプ回避するが、今度は喜久乃も読んでいた。
瞳さんは跳んで来る凶器に向かって右拳を振り抜く。
すると、棍棒は木っ端微塵に砕けてしまった。
どうやら、瞳さんは『岩砕き』が使える技だったみたいだな…何ともレースには不向きの技だ。
瞳さんはそれでも足止めを食らい、大愛さんはいつの間にか出口前。
舞桜さんは既に出ており、どうやら大勢は決した様である。



(喜久乃さん、まるでゴールを優先で目指していない?)
(どちらかと言うと妨害する為に動いているかの様な…)

喜久乃
「迷ってる暇はありますか!?」


喜久乃は走りながらエレキネットを再び撃つ。
瞳さんは3度それをかわし、ようやく外に出る事に成功した。
喜久乃はそれに遅れてゆっくり走り、疲れた顔で息を吐いている。
流石にこれ以上は諦めたか。



ケララッパ
「これにて1本目決着! 激闘を制したのは青組!!」
「続いて赤組、黄組、最下位は緑組だぁー!!」


歓声と共にまず1本目が終わる。
やれやれ、こりゃ次も相当荒れそうだな…
高々障害物競走と侮ったらこれはヤバイ。
規模がフツーじゃないし、そもそもポケモンの技が飛び交う中じゃ仕方が無いんだけどな…


サンダース
「ふふ、実に楽しみだ…! 今回は久し振りに体が疼く!」


(コイツも良く解らないんだよなぁ…なーんか秘密はある臭いんだけど)


まぁ、悪い奴じゃないとは思う。
だけど、何か計画的にこの混沌に関わってるのは確かだ。
未来さんの口止めも気になるし、最後はどうなるのやら…




………………………



舞桜
「はぁ…まさかこんなに疲れるなんて」

水恋
「こりゃ相当しんどそうだね〜距離は大した事ないのに」

華澄
「とにかく、ここでの1位は相当大きい」
「次の水恋殿も1位でゴール出来れば、かなりの差を付けられるでしょう」

神狩
「…だと良いけど」

悠和
「何か気になる事でも?」


神狩殿は無言で目を細めましたが、確信は無いという所ですか。
しかし、その勘は意味がある様な気もしますな…
ただ愚直なだけでは、順位は変えられないのかもしれませぬ。



………………………



白那
「とりあえず、お疲れ様」

大愛
「ふん、別に体力はそれ程減ってもいない」
「この辺りが妥当な順位だろうさ…」


大愛はんは軽く息を吐いてそう言う。
白那はんはそれを見て微笑していた。
まぁ浅からぬ因縁やし、互いに意識する所もあるんやろうけど。
思った程大愛はんにも角は無い。
今の所はチームワークも良好そうやな…


櫻桃
「次、アタシがアレやるの? 泳ぐのとかほとんどやった事無いんだけど…」

浮狼
「確かに、身軽さはあっても泳ぐとなると…」

阿須那
「まぁ、もうオーダーは出してもうてるし、しゃあないですわ」


そう、この運動会は種目が決まったら、先に出場させる2名を先に決めなアカン。
もちろん決めたら途中で変更は不可能、こうなったら櫻桃はんを信じて見守るしか無いわな…



………………………




「申し訳ありません、あまりお役に立てず…」

守連
「そんな事無いよ〜…瞳さんは頑張ったから」

鐃背
「うむ、胸を張るが良い! 努力した物全てが、必ず報われるわけでも無いのじゃから!」
「今回はたまたま運が悪かっただけじゃろう、また次の機会で更に努力するが良い♪」


鐃背さんは楽しそうに笑ってそう労った。
瞳さんも少なからず表情を緩めてるし、気は安らいだのかもしれない。


愛呂恵
「…とにかく、次は私が何とかします」

香飛利
「愛呂恵さん、ガンバ〜…」


香飛利ちゃんは少し不安そうな顔をしていた。
愛呂恵さんはいつも通りの顔に見えるけど、どことなく不安そうな気を放っている様に見えた。


鐃背
「…愛呂恵、体はどうじゃ?」

愛呂恵
「問題ありません、少なくとも体は」


「…愛呂恵さん、この大会は何か目的がおかしい気がします」


瞳さんは少し厳しい顔でそう呟く。
愛呂恵さんは瞳さんの顔を見て少し俯いた。
どこか、気付いている部分はあるのかもしれない。
でも、それが一体何なのか? 残念だけど私にはそれは解らなかった…


愛呂恵
「…気になる部分は私にもあります、ですが今は解っている範囲でやるしかないでしょう」


愛呂恵さんの表情は変わらない。
でも、今度はどことなく引き締まった顔に見えた。
愛呂恵さんは本気になっている…私には、そう感じられる何かが愛呂恵さんから感じられる気がした。



………………………



喜久乃
「…まぁ、やるだけはやりましたよ?」

女胤
「上出来でしょう、あれだけやれば最下位の不利はほとんど無いと予想します」
「ただ、最大のネックは水中戦ですね…」


こればかりはオーダーを決めた以上どうしようもない。
確実に、順位は捨てる事になりそうですね。


騰湖
「どうするつもりだ? ポイントの取り方は何となく理解したが…」


「まぁ、こうなったら信じるだけだけど」


「…好きにやれば? 今回はノータッチだし」


良くも悪くも、進退極まってますね。
余力はとりあえずありますし、今回はポイント重視で体力温存といきますか…



………………………



サンダース
「障害物競走、2本目…始め!!」


パァン!とスターターピストルが鳴り、2本目が始まる。
今回は櫻桃さん、水恋さん、女胤、愛呂恵さんが走者だ。
女胤と愛呂恵さんは連続での出場となるが、疲労はそれ程見られない。
だが、減ったPPは確実に回復してないだろうし、不利は確実だろうな…

パッと見だと、疲労は少なめの女胤と疲労がややありそうな愛呂恵さん。
PPは女胤がそれなりに使っているが、愛呂恵さんは技をひとつも使ってない。
そして櫻桃さんと水恋さんは完全な状態…か。



(既にギミックはバレているわけだし、それも駆け引きと言える)


つまり今回は、そのコースに適した選手が勝つって事…だろな。
もちろん、不確定要素もあるとは思うが。



………………………



ケララッパ
『まず先頭を飛び出したのは水恋! 続いて櫻桃が追い、愛呂恵、女胤と続く!』
『女胤は露骨にスピードが遅れて全く張り合えていないぞ〜!?』


ここは流石に予想通り。
だが女胤は特に表情を変えていない。
そして狙い済まして、全員の背中に両手をかざす。
そこから放たれるのは女胤の十八番…!


ケララッパ
『女胤、いきなり「種マシンガン」!! しかし、愛呂恵は読んでいたのかジャンプ回避! 水恋は「アクアジェット」で一気に加速!!』
『櫻桃だけが、背中にモロに食らってしまったぁ!!』


櫻桃
「いったぁ…! 効果今ひとつでもこれかよ!!」


櫻桃さんは走りながら背中を擦るが、そこまでのダメージでは無かったみたいだ。
とはいえ、背中の服は穴が開いており、相変わらずの脱衣KO狙い。
女胤は笑う事は無かったが、特に予想外という程でも無かった様だ。


女胤
(やはり、上手くはいきませんか…しかし、これでポイントは先手を取りました!)

愛呂恵
(成る程、攻撃その物に意味があると…そういう事なのですね?)


愛呂恵さんはチラリと女胤を一瞥し、難なく着地して一気にダッシュする。
その速度は櫻桃さんを抜き去ろうという速度であり、櫻桃さんは横目に愛呂恵さんを見て、右手を横に薙ぐ。
その手には黒い球体が作られており、それは愛呂恵の顔面に向かって飛び出していった。
いきなりの不意打ちだが、愛呂恵さんは全く表情を変えずに顔面でそれを受ける。
だが愛呂恵さんは全くの無傷でダメージを受けていない。

それもそのはず、今のは間違いなく『シャドーボール』…ゴーストタイプの技はノーマルタイプに、無効なのだから。


愛呂恵
(…目眩まし、いや違う?)

櫻桃
(とりあえず、これがポイントになるんだろ!?)


櫻桃さんは険しい顔ながらも狼狽えてはいなかった。
つまり、今の攻撃には意味がある。
例え無効でも、何かのプラスになる行動なのだ。


女胤
(櫻桃さんは既に感付いている! 水恋さんの速度に勝てる者は恐らくいない…だとしたら、順位を捨ててでもポイントを取る事を意識しなければならない!)


女胤は、そのまま連続で種マシンガンを放つ。
愛呂恵さんは射程外まで走り、櫻桃さんは横に跳んで避ける。
女胤は険しい顔をし、あまり余裕が無さそうな感じで1番後ろを走っていた。


女胤
(このままではマズイ! ただでさえ順位は望めないのに、こちらの目的が読まれてしまっては…!)

櫻桃
(何となく焦りが見える…成る程、阿須那の予想通りみたいだね)

愛呂恵
(やはり、攻撃その物にポイントが割り振られる…)
(だとすると、こちらはかなり不利ですね…コース的にも、水恋さんは図抜けて相性が良い!)


愛呂恵さんは全力で走り続ける。
櫻桃さんも負けじと走るが、その差は開いていく。
そして女胤はひとり置いていかれる形で次のフロアに突入する事になった。



………………………



ケララッパ
『水恋速い! 最速で工場エリアに到達だぁ!!』



水恋
「とりあえず、ここは一気に行くよ!!」


水恋さんは全身に水を纏い、『アクアジェット』を放つ。
そのスピードはベルトコンベアを一気に飛び越し、水恋さんは全く問題とせずに上のフロアへと進んでしまった。


愛呂恵
「…!!」


愛呂恵さんは超低空にジャンプして、低い天井スレスレに滞空する。
そしてそのままベルトコンベアを飛び越し、難なくクリアしてしまった。


櫻桃
「くっそ、これは素直に面倒だね!」


櫻桃さんは後ろの女胤を気にしながらも、足元に落ちていた棍棒を手に取って前方に投げる。
前にいた愛呂恵さんはそれを即座に蹴り上げ、棍棒は軽く砕け散る。
櫻桃さんは舌打ちしながらもジャンプしてベルトコンベアに乗り、すぐに再ジャンプして前に進んで行く。
後から来た女胤は種マシンガンで櫻桃さんを狙うが、櫻桃さんはシャドーボールで相殺し、無傷で過ごす。
女胤は舌打ちしながら、同じ様にベルトコンベアをクリアしようとした。

しかし、女胤はかなり遅れた形で追いかけており、この時点でかなりの不利を被っているのが解った。


女胤
(参りましたね…これは予想以上にポイントを捨てる事になりそうです!)

櫻桃
(くっそ、ここから先挽回出来るのか?)

愛呂恵
(水恋さんは速い…妨害無しには追い付けませんが、これは…無理ですか)



………………………



ケララッパ
『水恋、ここまで他の追随を許さず! このままパーフェクトでゴール出来るのかぁ!?』


水恋
「ここは、もう見てる! 追い付かせるもんか!!」


水恋さんはマジックハンドのエリアも難なくクリアして行く。
後ろからは遅れて愛呂恵さんと櫻桃さんが突入して来るが、水恋さんの速度には追い付けない様だった。


愛呂恵
(この先は水中エリア…そうなったら勝ち目は無いですね)

櫻桃
(どうする? アタシの技じゃ愛呂恵の妨害にはならない…となると、落ちてる凶器を使うしかないけど…)


櫻桃さんは落ちてる鉄アレイを拾って愛呂恵さんに投げ付ける。
愛呂恵さんはそれに反応して避けるも、マジックハンドの反応も相まってその場で止まってしまった。
櫻桃さんはその間に愛呂恵さんとの距離を詰め、横並びに並ぶ。

愛呂恵さんは冷静に櫻桃さんを見るが、櫻桃さんは右手にメリケンサックを持っており、それを愛呂恵さんに向けて投げ付ける。
愛呂恵さんはそれすらも避けてみせるが、櫻桃さんはそのまま愛呂恵さんを無視して先に進む。
そしてそれはマジックハンドの引っ込むタイミングで突入しており、櫻桃さんは軽く笑って先に進んだ。
愛呂恵さんは表情を変えなかったものの、内心狼狽えていたのかもしれない。
愛呂恵さんは完全にタイミングを外され、櫻桃さんに先を譲ってしまったのだ…


愛呂恵
(流石は櫻桃さん…! 無駄と思える行動にも結果が伴っている…完全にやられましたね)

櫻桃
(何年一緒に育ったと思ってるのさ…! アンタの思考はアタシにも解るんだよ!!)


櫻桃さんは冷や汗をかきながらも、愛呂恵さんの先を進む。
的確にマジックハンドをかわし、数mとはいえ愛呂恵さんの前を確実に進んでいた。



ケララッパ
『ここで順位変動!! 櫻桃が愛呂恵を抜いて僅差で前に踊り出たぁ!!』



女胤
(何という事ですか、まさかこんな差になろうとは…!)
(これでは妨害する暇も無い! ポイント的にも、やむを得ませんか!!)


女胤は苦虫を噛み潰した顔をしながら走っていた。
どうやっても、もはや追い付けない距離…しかも女胤は相当息が荒い。
前の疲労を持ち越してるのが見え見えだ。
同じ条件の愛呂恵さんと比べてもその差は解る。
女胤は明らかに遅れている…このままじゃ勝つ目は全く無い。



ケララッパ
『女胤、大きく遅れています! しかし、落ちている道具を拾って無駄に投げている!?』
『完全に順位を捨てた行動ですが、何か意味があるのかぁ!?』


何となく読めた…
女胤はもう勝負を捨てている。
だけど、ポイント勝負は捨てていない。
きっと、女胤はポイントを取りに行っているんだ。
各エリアでは時間制限があるが、女胤はその中で『一見』無駄とも言える道具の投げ捨てを繰り返している。
そう、一見無駄に思えるが、その行動は前にいる相手に攻撃している様にも見えるのだ。
俺は気付く、これこそが女胤の本命なのだと…



………………………



水恋
「来た! こっから水中戦!! もう誰にも追い付かせない!!」


ケララッパ
『水恋、これは凄まじい!! まさに水を得た魚!!』
『ただでさえ差を付けているのに、ここから更に加速だぁ!!』



水恋さんの泳ぎは、まさに水ポケモンとしての本業。
その速度は家族の中でも間違いなくトップの泳ぎと言えるだろう。
当然、後から続いた櫻桃さんや愛呂恵さんが追い付ける要素は無い。
これは…水恋さんの独壇場になりそうだな。


櫻桃
(くっそ〜流石にこんな真面目に泳いだ事なんて無いってのに!)

愛呂恵
(ここが分かれ目ですね…櫻桃さんを抜くにはここしか無い)


櫻桃さんは端から見ても、慣れてないのが解る泳ぎ方で流れに挑んでいる。
対して愛呂恵さんは高い身体能力を生かし、潜水しながら櫻桃さんを抜き去っていた。
櫻桃さんは妨害する事も出来ず、愛呂恵さんを無視してひたすらに泳ぐ。
その泳ぎは健気さすら感じるものの、かなり遅い。
正直、時間以内にクリアは無理なんじゃないかと思う程だ。
そして、そんな櫻桃さんを不適に笑って見つめる変態が、後ろにはいた。


女胤
(ふ、ふふふ…残念ですが私はここまで! しかし、道連れはさせてもらいますわ!!)


女胤は右手に持っている鉄アレイを振り被り、全力でそれを愛呂恵さんに向けて投げ付けた。
流石の愛呂恵さんも潜水中では空中の飛来物など把握出来るわけがない。
今回は女胤を誉めるべきだろう…愛呂恵さんは突如として水中に放り込まれた凶器に対し、ただ無造作に食らうしかなかったのだから…


ケララッパ
『あーっとぉ!? 愛呂恵、ここでまさか頭部に鉄アレイが飛来!!』
『女胤、素晴らしいコントロールで愛呂恵を地上から攻撃だぁ!!』



櫻桃
(ちょっ!? 冗談でしょ!?)

女胤
「次は、貴女ですよ!?」


女胤は再び振り被り、今度はメリケンサックを櫻桃さんに投げ付ける。
櫻桃さんは咄嗟にシャドーボールでそれを迎撃するも、流れによって少し戻されてしまった。
女胤は悪魔の様にほくそ笑み、プカプカと水面に浮かんでダラリとしている愛呂恵さんを見て高笑いした。


女胤
「アーッハッハッハッハッハ!! この際おふたりにはここでリタイアしてもらいますわ!!」
「もはやカナヅチの私に勝ち目は無い! でしたら、なりふり構いませんわ!!」


櫻桃
「バッ! バカかアンタ!? ふざけんな!! こんな事して何に……っ!?」


顔を蒼くする櫻桃さんは何かに気付いた様だった。
もはや今更なタイミングでカナヅチをカミングアウトした女胤に、後退の2文字は無い。
つーか、俺自身も知らんかったわ。
女胤が泳いでる所は海でも見た事無いし、露骨に近付かない様にしてたのは察してたが…まさかカナヅチだったとは。
そりゃどうにもならんわな…オーダーミスとはいえ、泳がなきゃここは越えられんし。


櫻桃
(こりゃヤバイ! このままじゃやられるだけだ!)


櫻桃さんは気絶していそうな愛呂恵さんを抱え上げ、とりあえず救助した。
しかしながら女胤は両手を構えて種マシンガンを準備しており、それを容赦無く櫻桃さんたちに向ける。



ケララッパ
『女胤更に追撃!! 櫻桃、愛呂恵を気遣って庇うも、ダメージは避けられないぞぉ!?』


櫻桃さんは服に穴を空けられてでも愛呂恵さんを庇った。
肩口と背中に技を受け、櫻桃さんは歯を食い縛っている。


櫻桃
(クソッタレ! 流れがあるからドンドン戻される!)
(このままじゃマズイんだよ…! さっさと目を覚ませバカウサギ!!)

女胤
「アッハハハハハハハ!! 恨むのでしたらこのルールを作った者を恨んでください!!」


女胤は尚も種マシンガンの体勢に入る。
櫻桃さんは睨み付けながらも愛呂恵さんを離そうとはしなかった。
美しい師弟愛だな…それに比べて女胤の悪党振りよ。
負けるにしても他を道連れにするという、およそ正義のメインヒロインが取るとは思えない残虐ファイト。
もはや女胤は己の人気が失墜しようと構わないというのだろう…


女胤
「食らいなさい!! 半径5m種マシンガンをーーー!!」

櫻桃
「短けぇ射程だな!? せめて結界位張ってから言え!!」


櫻桃さんの鋭いツッコミも空しく、女胤の種マシンガンは櫻桃さんを襲う。
櫻桃さんの肩口から背中の服が千切れ、上半身の服が水流に流されてしまった。
…そう、ブラジャーごと。


櫻桃
「こんのぉ〜いつまでも無抵抗と思うなよ変態!?」


ケララッパ
『櫻桃、反撃ぃ!! 貧乳に羞恥心など知らぬ!とばかりに思いっきり振り被ったぁ!!』



まさにアーン♪な光景だ。
残念ながら貧乳代表の櫻桃さんだけに色気があまり無いが、櫻桃さんは頭に血が上りすぎてもはや胸がモロにはだけている事など些細な事の様だった。
そしてそんな本気のシャドーボールも女胤にはイラつく位華麗にかわされる。
櫻桃さんは息を荒くし、片手で愛呂恵さんを抱えながら何とか浮いている状態だ。
こんな状態で女胤に勝てる訳は無い。
どう見ても櫻桃さんはガン不利の状況だ。


女胤
「アッハハハハ!! まぁ櫻桃さんったら、そんな貧相なモノをこれ見よがしに見せ付けなくとも♪」

櫻桃
「やかましい!! どうせ女同士だろうが!?」


櫻桃さん、これモニターされてる事忘れてるんじゃなかろうか?
現地に実況がいないから閉鎖空間と勘違いしてるのかもな…
まぁ、色んな意味で放送事故だ。
流石に観客には男もいるし、これは一旦止めるべきだろう。



「おい、これはマズイって、一旦モニター切るとかだな…」

サンダース
「素晴らしい!!」


俺は口をあんぐりと開けていただろう。
そしてサンダースは目を輝かせながらこう喋る。


サンダース
「大衆に裸を見られようが勝負に徹する! 敵ながら天晴れ!!」
「こんな名勝負を止められるものか! 制限時間一杯までやってみせろ!!」


どうやら、コイツも別ベクトルの変態らしい。
俺は頭を抱えてこれ以上は何も言えなかった。
とりあえず制限時間はもう少しだし、これは見守るしかないな…


愛呂恵
「…っ、櫻桃…さん?」

櫻桃
「このクソビッチが! テメェもひん剥いてやる!!」

女胤
「アッハハハ!! ですが水中ではロクに身動きが取れないでしょう!?」


嘲笑う女胤はウザイ程に調子に乗っていた。
流石に同じ飛び道具持ちでも、自由に動ける女胤とそうじゃない櫻桃さんじゃ結果は見えてる。
ましてや冷静さを失ってる櫻桃さんは女胤の掌の上だ…
しかし、ここでようやく櫻桃さんの努力が実る…愛呂恵さんの意識が戻ったのだ!


愛呂恵
「…櫻桃さん、お手数をおかけしました」

櫻桃
「ああん!? 怪我人はじっとしてろ!!」


櫻桃さん、口は悪いけど気遣い抜群や〜
ホントにメイドの鏡だな…対して女胤のド悪党振りよ。


女胤
「今更目覚めても遅いですわ! もはや時間はありません!!」
「ここで仲良くタイムアップと行きましょうか!?」

愛呂恵
「そうですね…ですが、まだ時間は有ります!」

櫻桃
「うおっ!?」


愛呂恵さんは櫻桃の背中を足場にして思いっきり真上に飛び上がった。
そのジャンプ力は容易に天井へ届き、愛呂恵さんは反転して天井に両足でしっかり踏ん張り、そこから女胤のいる地上を睨み付けた。
…その反動をモロに受けた櫻桃さんは、思いっきり水中に沈んでしまったが。


愛呂恵
「後…10秒!」

女胤
「くっ!? ですが、最後まで…!!」


その速度は尋常ではなかった。
天井から弾丸の様な速度で斜めに飛び出した愛呂恵さんは、明らかに女胤の反応を越えた速度で接近する。
ここまでに種マシンガンを撃ち疲れていた女胤は全く反応が追い付いておらず、目の前に迫る愛呂恵さんの『飛び膝蹴り』をモロに顔面にめり込まされた。
が、流石に軸はズラしたのか女胤は後ろではなく横にズレて叩き付けられる事は回避した。
そして、女胤は顔面から鼻血を出しながらも不適に笑う。
そんな女胤は、胸元から爆弾を取り出していたのだから、改めて奴の執念を俺は思い知った…!


女胤
「I'll be back…!!」

愛呂恵
「!?」


チュッドォォォォォンッ!!と小爆発。
女胤と愛呂恵さんはその爆発に巻き込まれ、互いに吹き飛んだ。
そして、時間切れのブザーが鳴り響く。
ようやく、2本目が終わったのだ…



………………………



サンダース
「素晴らしい! 見事な戦いだ!!」


サンダースは感激しながらモニターに向かって拍手を送る。
俺はやれやれ…と頭を抱え、とりあえず家族の無事を祈った。
とりあえず、これで障害物競争は終了。
まずはここまでの得点発表だな。


サンダース
「さて、これで第2種目も終了! 次の種目と得点発表は30分後だ!!」
「それまでにしっかり休んでおく事だな!!」


(…やれやれ、想像以上にハードな展開だったな)
(…とりあえず、櫻桃さんのおっぱいは記憶の奥に閉まっておこう)
(形は何気に綺麗だったな〜…大きさは残念だけど)



………………………



水恋
「…と、とりあえず勝ったんだよね?」

舞桜
「う、うん…今回は青組の完全勝利だと思うけど」

華澄
「水恋殿たちに不備はありません、今回は確実にこちらの勝利と言えるでしょう」


誰が見てもそのはず。
1本目、2本目とトップを取った以上、ポイントは相当入るはず。
少なくとも最下位からは脱出出来るはず。


神狩
「幸いダメージも少ない、今回は運が良かったね…」

悠和
「確かに…大きな怪我が無かったのもポイントですね」


確かに、結果として見れば大きなポイントですな。
戦力的にやや不利なこちらはダメージだけでも抑えなければならない。
その点で言えば他のチームよりも有利と言えますな…



………………………



櫻桃
「あー! 最悪っ!!」

阿須那
「まぁ、仕方ありまへんな…あれは女胤の執念を誉めるべきやろ」


櫻桃さんはとりあえず新しい体操服に着替えて毒づいていた。
とりあえず、青以外は今回ズタボロやな…まぁその分収穫も多そうやが。


白那
「…後はポイント次第だね」

大愛
「ああ、結果によっては今後の方針を考えねばならん」

浮狼
「しかし、次の種目も同じ様な競技とは限らないのでは?」


浮狼はんの言葉ももっともやな、次も走る競技とは限らへんし、得点の方式も同じとは限らん。
とにかく、現状の状況と次の種目から上手い事オーダー決めな…



………………………



守連
「…愛呂恵さん、大丈夫かな?」

鐃背
「心配はいらぬ、愛呂恵はああ見えて鍛えておる」
「ちゃんと治療を受ければ、回復しよう…」


鐃背さんはそう言うも顔は暗かった。
確かに回復はするかもしれない…でも、それはきっと次の種目には間に合わないという事だ。
奇しくも女胤ちゃんの作戦はこれが目的だったと思える。
愛呂恵さんが次の種目に出れない…それだけでこっちの戦力は落ちるのだから。



「不安はありますが、沈んでいても仕方ありません」
「とにかくこの4人で次の種目を越えなければ…」

香飛利
「あう〜…」

鐃背
「そう言えば、舞桜はあれで少し飛んでおったが香飛利は本当に飛べんのか?」

守連
「あ、そう言えばそうだね…?」


皆に注目されるが、香飛利ちゃんは困った顔をしてしまう。
そして翼をはためかせるも、それはちょっと滞空するのがやっとの様だった。


鐃背
「むぅ…舞桜の様にジャンプする脚力があれば可能かもしれんな」


「ですね、香飛利さんの身体能力ではとても滞空するのは難しそうです」


要するに、鍛え方が足りないって事だね…
香飛利ちゃんは争いが嫌いな優しい娘だから、体を鍛え様とはしないもんね…
でもその優しさは誰よりも立派な心だと私は思う。
香飛利ちゃんには、香飛利ちゃんの強さできっと活躍の場はあると、私は思っていた。



………………………



喜久乃
「やれやれ…ここで大将がリタイアですか」


「いや、一時離脱だろ! 別に再起不能じゃないから!」

騰湖
「どの道ポイントは微妙だぞ? 次の種目も足が物を言うならかなり不利と言えるな」


「…また走るの?」


穹さんは露骨に嫌な顔をしましたね。
とはいえ、そこまでワンパターンな競技を選ぶでしょうか?
少なくとも次は別の種類の競技になると私は予想してますが。


喜久乃
「とにかく、女胤さんはしっかりとポイントを稼いでくれました」
「犠牲も大きいですが、それはこちらだけではありませんし…」


「だな、とにかく女胤が回復するまでは俺たちで何とかするしかない」

騰湖
「ふん、仕方あるまい…」


「まぁ、楽しめるなら何でも良いけど」


良くも悪くもこのメンバーを統率するのは骨が折れますね。
改めて女胤さんは心臓が太いのだと思います。
単純に決断力や判断力は尊敬出来ますからね…性格がアレじゃなければ!
私ははぁ…とため息を吐きながら次の発表を待つ。
どの道、乗りかかった船なんだから後はやるしかないんですよね…



………………………



サンダース
「待たせたな! まずはここまでの経過発表だ!!」
「まず現時点での1位! 青組42P!!」

華澄
(やった…! これでクロスカントリーの遅れは取り戻しましたな!)


(まぁ、妥当な順位か)


青組は最下位からの下克上。
だが逆に言えばそれは次の種目次第でまた覆るという事だ。
とにかく、今後が重要だな…


サンダース
「続いて2位! 緑組41P!!」

喜久乃
(無駄では無かったですね! やはり順位など宛に出来ない証明です!!)


女胤の犠牲は十分な戦果を上げていた。
己の人気を犠牲にしてでもこの順位を留めるとは…!


サンダース
「3位! 赤組29P!!」

阿須那
(ちっ…想像以上に差が開いたな、これは苦しくなりそうや)


阿須那の顔はやや暗い。
だが諦めてる様子は見られなかった。
この運動会のルールはあまりに異質だ。
どんな行動がポイントに割り振られるか解らない。
まだまだ、赤組にもチャンスはあるだろうな。


サンダース
「最後に4位! 黄組22P!!」

守連
(!? そ、そんなに差があるの…?)


守連は愕然としていた。
そして強く握り拳を握る。
守連も諦めてはいない…むしろ、自分の不甲斐無さを戒めている様にも見えるな。
まぁ、とにかくこれで今の順位は確定した。
後は次の種目の発表だ…


サンダース
「さて、次の種目の発表だ! 第3種目は、玉割りサバイバル!!」


「…サバイ、バル?」


俺は?を浮かべてサンダースを見るが、サンダースはいつもの様に腕を組んで笑うだけだった。
そして嬉しそうな顔でこう説明を始める。


サンダース
「次の競技は3人一組で出場してもらう!! もちろん2本やるから考えてメンバーを選べよ!?」
「ルールは、それぞれ4チーム同時に争うサバイバル!」
「最後まで玉を割られなかったチームが1位となる!!」


成る程な、だからサバイバルか。
生き残った順にポイントが割り振られる訳だ…
もっとも、それだけで決まる種目じゃ無いんだろうがな。
俺はとりあえず大怪我だけは無い様に祈る。
出来るだけ雫を使う事は避けたいからな…頼むぜ、本当に?










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『魔境! 地獄の障害物競走!!』


To be continued…

Yuki ( 2019/07/02(火) 18:30 )