とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第8章 『聖の選択』
第6話

「はぁ〜とりあえず、肩の荷は降りたかな?」

唖々帝
「特に問題は無い様だし、大丈夫だろ…」


アタシは今、自室でくつろいでいた。
城ではアタシと唖々帝が相部屋で、普段は一緒の部屋で寝てる。
李は祭花と同じ部屋で、土筆は未生羅とふたり一部屋。
4人とも今は仕事に出ており、アタシはやや暇をもて余していた。
同室の唖々帝は、黙々と編み物を進めている。
大分慣れてきたのか、今は結構良いペースで編めてる様だった。



「マフラーも、もう少しで完成か…」

唖々帝
「ああ、時間はかかったがな…だが、まだ手袋と帽子もある」
「そろそろ気温も下がって来るからな、まだ9月とはいえ早めに完成する様にしないと…」


唖々帝は、まるで戦いだと言わんばかりに真剣な表情で進めている。
聖さんへのプレゼントなのは解るけど、何か良いなぁ〜
アタシは、聖さんの役に立ててる様には思えないんだよね…
もちろん、いざとなればいつでも出陣はするさ。
だけど、これだけの家族がいちゃ、アタシ程度の戦力はそうそう活躍出来ない。
やっぱ、戦闘以外の何かを探さないと…



「…ちょっと出て来るよ」

唖々帝
「ん…分かった」


唖々帝は目を合わせる事無く集中していた。
アタシはそれを見て、少し寂しくなる。
そしてそのまま、アタシは庭園へと向かった。



………………………



浮狼
「…何か、聖様の役に立てる事、ですか?」


「うん、大将なら何か思い付くかなって…」


大将は今も普通の普段着で庭園の手入れをしている。
アタシはついでで水やりを手伝っていた。
正直、これ位しかやる事も無いんだよね…
大将は鎌を使って器用に剪定し、少し考えてからこう話す。


浮狼
「それならば、直接聖様に聞いた方が良いと思いますが?」


「ちょ、直接!?」


アタシはつい狼狽えてしまうが、ある意味当たり前の事だ。
別に影から支えよう…とか言うんじゃないし、役に立ちたいなら直接聞けば良い。
とはいえ、アタシってどう思われてるのかねぇ〜?
何か酒で絡んだ記憶しかないし、あんまり良い印象持たれてない様な…


浮狼
「ふふ、杏にしては弱気なのですね? しかし、それも恋する乙女ですか…」


「お、乙女って…また、アタシに似合わない称号を」


いくら何でもそれは無い。
どっちかっていうと、がさつな方だし…
几帳面でもあるけど、割りと力技も多いからなぁ〜


浮狼
「聖様は、誰にでも平等ですよ…少なくとも想いに関しては」
「好いてくれる者を蔑ろには絶対しません」


「…そりゃ、そうかもしれないですけど」


な〜んか、違う気もするんだけどな…
でも、直接会うのは悪くないか…今日は日曜日だし、聖さんも家にいるだろう。
ここは強気にチャレンジしてみますかね!


「分っかりました! なら直接行って来ます!」

浮狼
「はい、頑張ってください…貴女ならきっと大丈夫ですよ」


大将は微笑んでそう言ってくれる。
アタシは両手で握り拳を固め、肩の高さまで上げて気合いを入れる。
そして、聖さんの家に突撃する為城門へと向かうと…



「あ、ちょうど良い所に…」


「ぴゃあっ!?」


アタシはアホみたいな驚き方をしてしまい、泣きそうになる。
思わず飛び上がってしまったが、目の前にいるのは紛れもなく聖さんだ。



「お、驚かせてスミマセン…」


「い、いや…別に……」


アタシは恥ずかしくなって、か細くそう答えてしまった。
うわ〜もう最悪…何でこんな時に向こうから来るかなぁ〜?
アタシは顔を明らかに紅くして顔を片手で押さえていた。
そんな中、聖さんは頬をポリポリ掻きながら、あはは…と苦笑している。
アタシは少し気を取り直して息を吐く。
そして改めて大人らしく聖さんに対し、堂々とした雰囲気でこう尋ねた。



「で、どうかした? 大将に何か用なの?」


「いえ、今回は杏さんに話があって…」


「…アタシに?」


アタシは自分で自分を指差し、ポカーンとしてしまう。
まさかのアタシがご指名とは…い、一体何の用なんだろう?
アタシは少なからずドキドキしていた。
あの聖さんが、アタシに話…か。
アタシは少し眼を細めて気を引き締める。
わざわざここまで来て直接…って事は、それなりに重要な話なのかもしれない。
アタシじゃなきゃ出来ない仕事ってなれば、足を生かした仕事だろうか?



「実は、杏さんにマンションの管理人をやってほしいんですよ」


「………」
「……」
「…はい?」


アタシは多分目が点になっている事だろう。
それ位理解が追い付かなかった。
マンションって、アレだよな? 人が沢山寄り集まって暮らしてる…集合住宅、だっけ?
それの、管理人…って、アタシが?



「色々考えてた結果なんですけど、やっぱり城から俺の家を経由して皆が外に出るのは問題があると思ったんです」
「なので、この際安いマンションを1棟買い取って、そこを皆の家に登録しようかと思ったんです」


「…成る程ね、白那さんの能力を使えば転送は容易い」
「だけど、表向きは普通のマンション経営にしたいから、アタシに管理人をやってもらえれば、家族の皆も安心…って所かい?」


聖さんは少し驚いた顔をしていたので、アタシの予想は大体合ってたって所か。
しかし、管理人ねぇ…具体的に何をすれば良いんだ?



「とりあえず、表向きにはウチの会社で買い取ったマンションという事にしてありますんで、杏さんはその会社の従業員として管理人をやってもらいます」


「ふむふむ…」


「主な作業内容ですが、施設内の清掃やクレーム対応がメインになります」
「マンションと言っても、3階建ての団地みたいな建物なので、それ程難しくはないと思いますよ?」


アタシはすぐに状況をシミュレートしてみる。
まぁ、人付き合いさえ何とか出来れば問題は無いか?
ともあれ、遂にアタシにも定職が与えられるってわけだ!



「OKだ、アタシに出来る事なら喜んで受けさせてもらうよ!」


「ありがとうございます! 詳しい事は専門の人にも付いてもらうんで、まずは説眼を受けてください」


アタシは笑って頷き、とりあえず了承する。
何はともあれ、仕事だ!
妹たちも頑張ってるんだし、姉のアタシがグータラしてちゃ、いけないからねぇ!



………………………



専門家
「…以上が、このマンションにおける業務内容です」


「はい、分かりました」
「何かあった時は、ここに連絡で良いんですね?」

専門家
「はい、それで大丈夫です」
「他に何か質問などはありますか?」


アタシは説明を一通り受け、とりあえず頷く。
基本的な事は大丈夫だろう。
あくまで、アタシが担当するのはただの管理人。
しかも、ほとんどは家族が住むであろう部屋なので、そこまで気負う必要は無い。
ただ、ちゃんと人間の住民もいるので、そこだけは要注意だな…



(とりあえず、まずは住民の確認だな)


アタシは入居者のリストを見ながら考える。
基本的には城に住んでるほぼ全員がこのマンションに住んでいる。
例外は藍ぐらいの物だけど、それ以外は基本的にこのマンションに住んでるって設定だな。



(1階には、悠和、明美、瞳、教子、毬子、櫻桃さん、借音さん、麻亜守)
(2階には騰湖、鳴、喜久乃、舞桜、水恋、神狩、香飛利、鐃背さん)
(3階は白那さん、夏翔麗愛、棗、大将、唖々帝、李、祭花、土筆、未生羅…か)


実質、相部屋で住んでるわけだから把握は難しくない。
部屋割りで言うならこうだ…



102号室…悠和
103号室…明美、瞳
106号室…教子、毬子
108号室…櫻桃さん、借音さん、麻亜守

201号室…騰湖
202号室…鳴、喜久乃
204号室…舞桜、水恋、神狩
205号室…香飛利、鐃背さん

303号室…白那さん、夏翔麗愛、棗
305号室…大将
306号室…唖々帝
307号室…李、祭花
308号室…土筆、未生羅




(で、アタシが住む101号室が実質管理人室って訳だ)


このマンションは3階建てで、各階8部屋づつ。
さほど大きくもない平屋のマンションで家賃も比較的安く、過去には学生なんかが好んで住む事はあったんだそうだ。
だが、経年劣化で取り壊される予定だったこの物件を聖さんが買い取り、改めて皆の家として再利用する事を決めた、と。
そして最近になってようやく改修工事が完了し、正式に運営が再開したってわけだな。

再オープンの段階で普通の人間も入居しており、とりあえずはその辺の挨拶周りもしておくかね…



………………………




「まずは、104号室から…とぉっ!?」


アタシは前方不注意でつい誰かとぶつかっちまう。
ソイツはアタシの胸に顔を埋めてしまい、呼吸止めてすぐに後ずさった。
そして顔を真っ赤にし、アタシの顔を見てオタオタと狼狽える。
見た感じ、中学生って位かな?
かなり中性的な見た目の子で、学生服を見てなかったら男か女か解らない位美形の子だった。


男の子
「す、すみません! ボク、前を見てなかったから…!」


「ん〜良いよ別に、それより怪我は無い?」


アタシは微笑んでそう聞くと、少年は顔を真っ赤にして息を飲む。
はは…何だか新鮮だねぇ〜
こりゃ、女に耐性無いタイプだな…



「とりあえず、104号室の住民だよね? アタシは今日からここの管理人やる事になった石竹 杏(せきちく あんず)、よろしくね♪」

男の子
「は、はいっ!ボ、ボクは『鉄 兵太』(くろがね ひょうた)って言います!」
「今日からここに住まわせてもらいました、高校1年生です!」


おっとっと…まさかの悠和と同年代かい!
見た目がもっと幼く見えるのは体格や顔付きのせいかね…
まぁ、それならそれで良いや! とりあえず、これで挨拶終わり!



「そんじゃまぁ、何かあったら気軽に言ってね?」
「アタシは101号室に住んでるから…」

兵太
「は、はい! よろしく、お願いします!!」


兵太君はそう言って深く頭を下げる。
やれやれ、 真面目そうな子だ…まぁ、特に問題は起こしそうに無さそうだから良いか…
アタシは続けて1階、2階の住民と挨拶をし、最後の挨拶となる304号室に辿り着いた。



(ここまで、普通の人間ばかりだったけど、最後はどうかねぇ〜?)


アタシはとりあえずインターホンを押すが、誰も出て来ない。
何度か押してみるも、出て来る気配は無かった。



(まぁ、都合良くいるとは限らないか…)


時刻は16時位だし、仕事をしてる人間なら帰ってなくても不思議じゃない。
とりあえず、挨拶は後日でも良いか?
とはいえ、管理人の事は伝えなきゃならないし、連絡用紙位は挟んでおきますかね…
アタシは必要事項が書いてある用紙を折り畳み、ドアに挟んでおいた。
これで帰って来ればとりあえず解るだろ…
アタシは頭を掻いて管理人室に戻る事にする。
やれやれ…初日だし、何も無ければ良いんだけど。



………………………




「…想像以上に何も無い」


アタシは部屋で何をするでもなく、淡々とテレビでも見ながらゆったりしていた。
まぁ、管理人が代わった所ですぐに何かあるわけでも無し、初日はこんなモンなのかね?
アタシはとりあえず入居者のリストをもう1度見直し、情報を把握しておく。
空き部屋は3つで、それ以外は全部住民が住んでいるな。
っても、半分以上は家族の部屋だし、把握は楽勝か。



(普通の人間が住んでいるのは、6部屋か)


内ひとつは住民に会えなかったから、誰かは解んないけど名前の登録はされてるからリストを見れば男か女かは解る。
顔写真も付いてるし、まぁ問題は無さそうだ。
都合上、家族の写真は合成写真で誤魔化してあるけど…
流石の偽装薬もカメラまでは誤魔化せない。
人間の目で見たら偽装出来ても、写真にされたら本当の姿が写り込んでしまうのだ。
学校行ってる悠和とかは、かなり気を付けてるって話だけど…アタシもその辺は注意しないとね。
この世界じゃ、携帯電話ひとつあれば写真は撮れちまうんだから…



(土筆と未生羅にも、注意をしろとは言ってあるけど…)


まぁ女胤が一緒だし、多分大丈夫とは思ってるが…
よくよく考えたら、アタシたちは常に危険な状態で生活をしている事になる。
写真ひとつで正体がバレ、下手すりゃ世界で大騒ぎ。
常にどこかで眼を光らせてないと、安心して眠る事すら出来ないってわけだ…



(そんなアタシたちは、この世界に来て良かったのか?)


聖さんの事は好きだ、でもアタシたちはこの世界にいるべきじゃ無いんじゃないのか?
下手をすれば迫害の可能性すらあるこの世界で、アタシたちポケモンはいない方が良いんじゃないのか?
もちろん、聖さんは断固としてアタシたちを守ってくれるだろう。
だが、その結果、聖さんが苦しむ事も大いにあるんじゃないのか?
アタシたちの存在が、聖さんを苦しめてるんじゃ…?


ピンポーン!



「!? あ、はいはーい!」


突然のインターホンにアタシは驚いてしまう。
とりあえず、すぐに玄関へと向かい、アタシはドアをガチャリと開けた。
するとそこには、皆の愛しき聖さんが立っていた。



「こんにちは、一応様子見で訪ねてみたんですけど、大丈夫ですか?」


「あ、ああ…そんな事? まぁ、とりあえず入りなよ…立ち話もなんだし」


「はい、それじゃあお邪魔します」


まさかの聖さんとふたりきり…いや、やましい事は何も無いんだけど。
何気に珍しい事なんだよね、今までこんな状況有り得なかったから…
アタシは冷蔵庫に仕舞っていた麦茶をとりあえずコップに注ぎ、それをテーブルに置いて聖さんに差し出してやった。



「ありがとうございます、まだまだ暑いですからね…」


そう言って聖さんは麦茶を一口飲む。
聖さんは半袖を着ており、汗はそこそこかいてる。
部屋の中は冷房をかけているが、設定温度は高めでそこまで涼しくも無いからな。
アタシ的にはこの位の方が丁度良い。



「…まぁ、でも次第に寒くなってくるだろ」


「もう秋ですからね、残暑も後僅か…台風も増えるでしょうね」


聖さんはどこか遠い目で窓の方を見る。
部屋の窓は完全にカーテンで塞いでおり、外を見る事は出来ない。
もちろん外から中を見られない様にする為だ。
盗撮なんかされて大騒ぎになったら、不祥事じゃ済まないからな。
だが、聖さんはそんなの関係無い…って感じの表情だった。
何かを思い出しているのか…?



「…何か相談があるなら、話は聞いてあげるよ?」


「いえ、そういうわけじゃ無いんですけど…」
「ただ、この時期になると軽く不安になるって言うか…」
「まぁ、気にしないでください…過去の話なんで」


聖さんはそう言って笑った。
アタシは軽く息を吐き、とりあえずそれで良い事にする。
それ以上アタシが踏み込める話でも無さそうだ。
アタシは壁時計を見て時間を確認する、19時前か…そろそろ食事の事も考えないとな。



「…杏さん、何か不安事はありませんか?」


「不安…ね」


アタシは言われて少し俯く。
あると言えばいくらでもある。
アタシたちポケモンは、所詮異界の存在だ。
本来ならこの世界にはいてはいけない存在…でも、アタシたちはここに来てしまった。
大将みたいなのならともかく、アタシみたいな半端者が来てしまったのは、本当はミスだったんじゃないのか?



「やっぱり、不安なんですね…」


「…そりゃ、不安さ」
「アタシたちポケモンは、どうやっても人間にはなれないんだから」


「…すみません、俺は余計な事を願ったのかもしれません」


「ゴメン、そういうつもりじゃないんだ…アタシだって、聖さんの事は好きさ」
「ただ、この世界は思っているよりも、残酷な世界なのかもしれない…そう、思っちゃってさ」


聖さんは、暗い顔をした。
俯きながらも何かを考える様に眼を瞑り、そしてしばらく黙る。
しばしの静寂に、テレビの音声だけが流れる。
他愛もないバラエティ番組が放送されており、笑い声やら何やらが部屋に響いていた。
良いよな、人間は…とても楽しそうで。



「もし、辛いなら…元の世界に帰る事も出来ますよ?」


「辛い…か」
「そうだよな…あんなクソみたいな世界に比べたら、ここの方が何万倍マシか…」


アタシは昔の日々を思い出す。
弱いフシデの妹たちを守りながら、アタシはひとりペンドラーに進化して戦い続けた。
弱い内に策で切り抜ける頭も育ち、アタシたちは実力を覆しながらも生き残って行った。
森の奥深くに住み、定住はせず常に移動して暮らす。
弱者は強者の餌にしかならない、アタシたちはそれをよく知っているから、極力争わずに食料は奪うしかなかった。
だけど、そんな生活も長くは続かず、やがてアタシは妹たちに枯渇しかけている食料を与え、ひとり痩せこけていった。
次第に体も動かなくなり、妹たちは泣く事しか出来ない。
やがて、アタシたちは野盗に追い詰められ、最期を迎えようとしていた。

だけど、その時奇跡は起こった。
野盗は無惨にも両断され、アタシたちの前には堂々と立つ英雄が現れたのだ。
アタシはとにかく懇願した、妹たちを助けてくれと。
アタシはどうなっても良い、妹だけは助けてくれと。
そんなアタシを見て、英雄はニコリと微笑んでくれた。
そして差し伸べられた手を見て、アタシはこう思ったんだ…

このクソみたいな世界にも、救世主はいるんだって…



「…弱いよな、アタシは」
「いつもどこかでビクビクして、何かに怯えて、そして誰かに迷惑をかけて」


「そんな事はありませんよ、杏さんはきっと優しいだけです」
「杏さんが優しいからこそ、土筆さんたちも今を元気に生きていられるんだと思いますから」


違うよ…優しいのは聖さんだ。
聖さんが優しいから、アタシはここにいようって思えるんだ。
アタシは、この時気付いた…
そうか、アタシは…甘えたかったのかもしれない。
今までひとりで突っ張って、妹たちの為に身を削って、大将に出会って皆を率いて。
アタシは、産まれてから誰にも甘えた事が無かった。
だから、そうなんだ…アタシは、ただ甘えたかったのか。



「…ゴメン、聖さん今日はここまでにして」
「これ以上、聖さんといたら…アタシ、我慢出来なくなるかもしれない」


「…分かりました、今日はこれで帰ります」
「何かあったら、いつでも言ってください…協力出来る事なら、必ず助けますんで」


そう言って聖さんは立ち上り、部屋を出て行く。
そんな聖さんの背中を見て、アタシは色んな想いが錯綜した。



(協力、ね…どうせ出来っこ無い願いだろうさ)


アタシはテーブルに額を埋め、無心になる。
これ以上考えてもダメだ、少し忘れよう。
仕事は仕事、今のアタシは管理人なんだから。



………………………




「…って、料理とか始めてやってみたり」


アタシはレシピ本を見ながら実際に料理をしていた。
ちゃんと外に買い物に行き、食材を買ってそれを調理している。
基本的な道具は聖さんに揃えて貰ったし、まずは基本から覚えないとね〜



「…味付けは、こんなモンかね?」


とりあえずレシピ本は色々本格的すぎてややこしい。
そこまで凝った料理を作ろうとは思わないし、とりあえず簡単そうな一品物を今作ってる。
いわゆる肉じゃがとか言う奴なんだが、これが中々難しい。
野菜ごとに味の染み込み方が全然違うし、肉がちゃんと良い感じに煮込めなきゃならない。
IHヒーターの火力でも変わってくるみたいだし、初見じゃ難易度高いかね〜?


土筆
「お姉ちゃん、ど〜お?」

未生羅
「上手く出来る〜?」


「あんまし期待しないでよ? ってか、アンタ等は城で食えば良いだろうに…」


妹たちは、アタシが料理をしているのを見て興味津々の様だった。
美味いか不味いかも解らない料理に、ふたりは眼をキラキラさせて期待しているのだ…
勘弁してよ全く…ド素人なんだからねこっちは?



………………………




「それじゃあ、いただきます!」

土筆&未生羅
「いただきま〜す♪」


まぁ、何だかんだで肉じゃがは完成した。
味見はしてるし、そんなに悪くは無いと思うけど、ふたりにはどうかね?
とりあえず、白ご飯と味噌汁、漬物も用意してアタシたちは食べ始めた。
ちなみに味噌汁はお湯かけるだけのインスタント、漬物もスーパーで売ってた完成品だ。



「うん、結構美味いねコレ」

土筆
「きゅうりの○ューちゃん♪」

未生羅
「お姉ちゃん、お酒〜♪」


アタシは小さなお猪口(ちょこ)に酒を注いでもらう。
これも普通にスーパーで売ってた日本酒だ。
とりあえずCMとかやってる銘柄だし、不味くは無いでしょ。



「ありがと…うん、美味い!」


アタシは 一口だけ飲み、肉じゃがとご飯を食べる。
アタシは酔いやすいから、ペースは抑えないといけない…酔い潰れる前に食事は終わらせないとね〜


土筆
「結構美味しい♪」

未生羅
「初めてでも食べれる〜♪」


「ははは…まぁ、初めてなら上出来かな?」


アタシたちは初めての料理でそれなりに満足し、とりあえずお腹一杯にはなれた。
土筆と未生羅は食後にすぐ自分の部屋に戻り、アタシはひとりでテレビを見ながら酒を飲む。
余った漬物をつまみにしながら、アタシはほろよく酔っていく。
すると、次第にアタシは悩んでいるのがどうでも良くなってきた。
そうだよね〜…アタシに出来る事はどうせ大した事無いんだし、出来る事をとにかくやれば良いんだ。
出来ない事は、少しづつ鍛えれば良い。
辛い事も、苦しい事も、悲しい事も沢山あるけど、全部幸せな思い出に塗り替えれる様に頑張ろう……



………………………




「…あ? しまった〜寝てた〜」


アタシは管理人室のテーブルで頭を突っ伏して寝ていた。
完全に酔い潰れて寝ていた様で、テレビは既に早朝番組を放送しようとしている。
アタシは頭を掻き、とりあえずテーブルを片付けて掃除を始める。
やれやれ、初日から飲みすぎたかな〜? 200ml位しか飲んでなかったはずだけど…



「恐るべし日本○! まさに良いお酒〜だね!」


アタシはそんな事を良いながらさっさと洗い物を済ませ、掃除に入る。
ちゃっちゃとそれらを終わらせ、時刻は6時になろうかという頃、アタシは外に出てマンションの周りを掃除する事にした。
確か今日はゴミの日だし、集積所もチェックしないと…
アタシは朝早くから業務に徹する。
管理人という仕事は、こういう基本が重要だからね。

アタシはそんな感じで無難に作業を進め、7時半位になると一旦部屋に戻る事にした。
が、そんな時にまたしても前方不注意でアタシの胸に顔面ダイブする少年が…



「あらら、またやっちゃったね…兵太君、だっけ? そんなにアタシの胸がお好みかな〜?」

兵太
「はわわっ!? す、すみませんでしたぁ!!」


兵太君は慌てまくって後ろに飛び退き、そしてお辞儀をする。
制服を着ているから、学校に行くのか…聖さんとは違う制服だけど、どこの高校なんだろ?



「ふふ、とりあえずおはよう、事故とかには気を付けるんだよ?」

兵太
「は、はい! おはようございます!! そ、それじゃあ行ってきます!!」


兵太君はアタシの横をすり抜けて走って行った。
この時間で慌てるって事は、別の街の学校かな?
大きな鞄も肩に背負ってたし、クラブ活動なのかもしれないけど。
どっちにしても、健康そうで何より! 子供はあれ位元気じゃないとね♪



(改めて、聖さんは落ち着いてるよな〜)


同じ高校生とはいえ、やっぱり聖さんは達観している。
潜って来た経験値が普通じゃ無いのもあるだろうけど、少し学生としては不安があるかな…


悠和
「あ、杏さんおはようございます」


「あれ、悠和も早いね? こっからなら学校は近いからもっと遅くても良いんじゃ?」

悠和
「そうなんですけど、つい早起きしてしまって…この際、学校に行って少し予習してきます!」


そう言って悠和は歩いて行く。
やれやれ、真面目だね〜
アタシは箒を片手にその背中を見守り、とりあえず微笑んで見送った。


夏翔麗愛
「杏お姉ちゃんなのです! おはようございます!」


「…おはようございます、掃除ですか?」


「おはようふたりとも! まっ、そんなとこさ…」

白那
「おはよう杏、どう管理人の仕事は?」


夏翔麗愛たちの後ろから白那さんが現れる。
そういや、朝は付き添いなんだったな…
アタシはとりあえず笑いながらこう答えた。



「おはようございます白那さん、まぁ慣れない仕事ですけど何とかなってますよ♪」

白那
「そっ、だったら良いけど…何かあったら気軽に相談してね?」
「家族として、オレも協力は惜しまないから」


白那さんは微笑み、ややおっとりとした口調でそう言ってくれる。
アタシが礼を言うと、白那さんは軽く手を振って子供たちと一緒に学校へ向かった。
うーむ、やはり若妻の匂いがするな…年齢的にはもうすぐ三十路らしいけど。
あれで熟女とは口が裂けても言えんわな…ってか、熟女ってどこからがボーダーなんだろ?


鐃背
「おはよう杏! 朝から掃除とは精が出るのぅ?」


「鐃背さん…おはようございます、また早朝トレーニングですか?」

鐃背
「いや、それはもう終わっとる…今から、少し山にな!」


流石は鐃背さん…トレーニングの後に即登山とは。
鐃背さんは暇があれば鍛練してる人だから、本当にスゴいよな〜
とはいえ、働いてないのは少し問題な気もするけど…



「鐃背さん、仕事とかはしないんですか?」

鐃背
「一応しておるぞ? これでも山でゴミ拾いを手伝っとる」
「たまに神狩とかにも会うし、あやつもそういう仕事をやっとるみたいじゃな!」


あれま、そうだったのね…
そりゃ失礼しました、と…
しかし、ゴミ拾いって、つまりボランティア?
神狩のはほぼ無給って聞いてるけど、鐃背さんもそうなんだろうか?



「それって給料はどの位なんですか?」

鐃背
「良く解らんが、この前暴れてる熊を気絶させてやったら、賞金が貰えたの〜」
「色んな山に行ってみたが、危険な野性動物に襲われる人間も多い故、たまにボディーガードを依頼される事があるんじゃ」


それ、もうゴミ拾いが仕事じゃないよね!?
明らかにゴミ拾いがついでだよね!?
何て言うか、やっぱ鐃背さんはやる事のベクトルが違う…
改めてスゴさが再認識されるよ…



「と、とにかく頑張ってください…」

鐃背
「うむっ! では行って来るのじゃ!」


そう言って鐃背さんは走って行った…元気だな〜
アタシは鐃背さんの背中を見て思う。
皆、それなりに楽しくやってるんだ…不安とかも、そういうのも飲み込んで。
アタシは、やっぱり弱いんだと思い知る。
そして何となく解った。
今のアタシに足りない物は、多分それなんだと。
何かを楽しもうという気持ちが、アタシには足りない。
与えられた仕事を淡々とこなすだけじゃ、意味が無いんだ。
アタシはそれに気付いた時、不思議と肩が軽くなった気がした。



(うん、それなら…もっと頑張ろう、アタシも心から楽しいと思える様に!)










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第6話 『旅立ち荘の管理人、杏さん』


To be continued…

Yuki ( 2019/06/01(土) 21:30 )