とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第8章 『聖の選択』
第5話
女胤
「犯して良い女というのは、犯される覚悟がある女の事なのです!!」

土筆&未生羅
「??〜?」


開幕の私(わたくし)のネタに、おふたりは意味不明になってしまいましたね…
さて、今回このメンバーは何事?と読者の方は思う事でしょう。
実の所、私もかなり戸惑っており、色々と思考が追い付いていません。
何せ、聖様がキャンプから帰って来たと思いましたら、土筆さんと未生羅さんをよろしく頼むと、いきなり言われたのです。
要は、私の担当するここ…『ゲームセンター幸(さち)』の店員として、おふたりを育成してくれという事。
おふたりはいつの間にかペンドラーに進化しており、体格がかなり大きくなっていました。
姉の杏さんと比べても遜色無い程で、女性としてはかなり大きい方でしょう。
しかし、それ以上に問題があるのは…


土筆
「とりあえず、何をしたら良いの〜?」

未生羅
「ゲーム…沢山?」

女胤
(これも、聖様が私に課せられた試練なのですね!)


完全にド素人のおふたりをいきなり店員にしろとは、聖様が私に寄せる信頼は並々ならぬ物なのだと私は理解します!
そう、このおふたりをしっかりと育ててこそ、私の評価もうなぎ登りとなる物!!


女胤
「良いですか、おふたりとも? ここは、いわゆるゲームセンター!」
「ここで店員として、おふたりは働いていただきます!」

土筆
「ゲーム…」

未生羅
「センタ〜」


おふたりは完全に?を浮かべてますね…
恐らく、テレビゲームのひとつも体験した事は無いのでしょう…
しかし私は腐りません、何せ私の方が年下!
ここは謙虚になりながらも、先輩としてちゃんと先導してみせますわ!



………………………



女胤
「…と、こんな所が作業の基本となります!」

土筆
「…うん、覚えた」

未生羅
「掃除、メンテ、コイン回収…うん、大丈夫」


ふたりはそう言って互いに作業の確認をする。
思ったよりも飲み込みが早そうですわね…
しかし、考えてもみれば仮にもあの杏さんの妹。
頭の回転は元々早いのかもしれませんね。


女胤
「とりあえず別館の開店は来週からになりますので、それまでは訓練に徹しまょう!」

土筆&未生羅
「はいっ!」


ふたりは元気良く返事をしてくれる。
何だか、進化して見違える様に見えますね…
さて、では訓練開始です!



………………………



土筆
「これで、起動」

未生羅
「カードも満タン、コインケースは空」


あれから数時間、ふたりはすっかり仕事を覚えて基礎は大体マスターしようとしていた。
後は客との応対が出来れば大丈夫なのですが、流石に訓練でこなすにはシミュレーションでしかないですからね。
とりあえずは私が代理としてやってみましょうか…


女胤
「おふたりとも、これで昼休憩にしましょう」
「昼休みの後は、お客様への対応シミュレーションを行いますのでそのつもりで」

土筆&未生羅
「はいっ!」


私たちはこれで休憩を取る。
時刻はもう12時過ぎ、少し根を詰めすぎましたか?
とりあえず、すぐに昼食にしましょう…


女胤
「おふたりの昼食はどうなされるのですか?」

土筆
「お弁当!」

未生羅
「櫻桃さんが作ってくれた♪」


成る程、ちゃんと用意していただいたのですね。
かくいう私も愛呂恵さんからお弁当を頂いておりますので、今回は休憩室で食べる事にしましょうか。
私はふたりを休憩室に連れて行き、そこで昼休憩を取る事にした。




………………………



土筆&未生羅
「美味し〜♪」

女胤
「流石は櫻桃さんですね、基本的な詰め合わせですがバランスも考えられていそうです」


ふたりのお弁当は定番の唐揚げやウインナー、ミートボール、たまごサラダを組み合わせた内容。
基本的に子供が好きであろうオカズを中心に入れてありますね。
対して愛呂恵さんの弁当は、私の好みに合わせたサラダ中心のカロリーオフな食材。
私は油物が少々苦手なので、嬉しい配慮ですね。


女胤
「おふたりとも、仕事に抵抗はありませんか?」

土筆
「う〜ん、とりあえず大丈夫〜」

未生羅
「これ位出来ないと、お姉ちゃんに絶交されるし〜」


成る程…杏さんはあの性格ですから、結構甘やかしてる部分もあったかと思いますが。
厳しい部分はトコトン厳しい方でもありますからね…
良くも悪くも、妹であるおふたりはそんな姉を見て、今のお姿になれたのでしよう。
これは、想像以上に頼もしい助っ人なのかもしれません。
私たちはそれから他愛も無い会話を交わし、昼食を終えるのでした…



………………………



女胤
「店員さん! コインが反応しませんわよ!?」

土筆
「は、はいっ! すぐに直します!!」


私はあえて正常な機械に対してそうクレームを入れる。
土筆さんはそれに対して狼狽えながらも、正確に対応していた。


土筆
「これで大丈夫です! どうぞ!!」


土筆さんは完璧に近い対応でスイッチのチェックをする。
私はそれに頷き、次のシミュレーションを進めた。



………………………



女胤
「店員さん! このクレーンおかしくないですか!?」

未生羅
「えと…お客様、それは何もおかしく無いです、そういう設定ですので…」


やや強めのクレームに対して、未生羅さんはオドオドしながらもそう反論する。
私はそのまま強気にクレームを返してみると、未生羅さんは少し厳しい顔をして口調を強めてこう言った。


未生羅
「お客様! それ以上のクレームは業務妨害の可能性も考えられます!」
「あくまでお客様がそういう態度を取られるのであれば、こちらも然るべき対応をさせていただきますが、よろしいでしょうか!?」


私は頷いて、頬笑む。
解りやすいクレームとはいえ、しっかりと未生羅さんは強く対応してみせた。
これなら、並のクレーマーは何も出来ないでしょう。
仮に力技となっても、おふたりはそこらの人間に負ける程弱くもない。
これは予想通り、頼もしい助っ人になってくれそうですね!



………………………



女胤
「お疲れ様です、思ったよりも大丈夫そうで安心しました♪」

土筆
「うん、それなら良かった…」

未生羅
「私たちも、早くお姉ちゃんみたいにならないと…」


やはり、おふたりはあくまで姉の杏さんが目標なのですね。
今までおふたりは姉を神格化するあまり、自分たちの事は蔑ろにしていたと聞いています。
しかし、前のキャンプでの一件でおふたりはペンドラーに進化。
杏さんとの訓練を経て、かなりの成長を遂げたのは目に見えますね…


女胤
「…しかし、疑問はあります」
「おふた方は、本当に聖様がお好きなのですか?」


それは、単純な疑問でした。
土筆さんと未生羅さんは、あくまで姉が第一。
そこに聖様の存在は意味があるのか?と言うのが、私の疑問です。
聖様が言うには、それなりに想いが強くなければ呼び寄せられる事は無いはず、と言われていましたが…
このおふたりには、その気が全く見られないのです。
果たして、おふたりは聖様をどんな視点で見ているのでしょうか?


土筆
「…よく、解らない」

未生羅
「でも、お姉ちゃんは絶対好き」

土筆
「だから、私たちも好きになれると思う」

未生羅
「聖さんは、救世主だから…」


よく解らない…ですか。
やはり、おふたりは家族の中でも特別聖様への愛情が薄い。
しかし、それでも助けたいと思う気持ちはあるのでしょう。
それが愛情になるかは解りませんが、私はとりあえず信じてみたいと思います。
少なくとも、選ばれた家族であるのであれば、必ずその資格があるのだと私は思いますので…


女胤
「…まぁ、良いでしょう」
「ですが、警告はしておきます」
「少なくとも私にとっては聖様は全て、その聖様へ不都合がある存在は私が許しません」
「そしてそれは、家族であっても例外無しと、覚えておいてください」

土筆&未生羅
「………」


おふたりは何かを悩む様に俯き、言葉は返せなかった。
恐らく、自分でも悩んでいるのでしょう。
何故、自分たちが選ばれてしまったのか…?
そして、聖様を好きになれるのか?…と。


女胤
「…さぁ、もう終わりにしましょう」
「最後はちゃんと掃除をして閉店準備です! 立つ鳥跡を濁さずですよ!?」

土筆&未生羅
「は、はいっ!」


ふたりはシンクロしながらも同時に答える。
そして、私が何も言わなくとも、おふたりはしっかりと掃除をこなしてみせた。
私は逆に少し悲しくなる…何故、これだけの才能を持った者が聖様に惹かれないのか?
何故、夢見の雫はこのふたりを選んだのでしょうか?
私には、その点だけが…どうしても解らなかった。



………………………



女胤
「………」


「女胤ちゃん、どうかしたの?」

女胤
「お婆様…お婆様から見て、聖様はどんな男性に見えていますか?」


私は今1号店、つまりお婆様の家で食事を取っています。
今夜はここで食事を取ると聖様には連絡してありますので、今は私とお婆様のふたりだけ。
出ている料理はお婆様が作ってくださった和食で、煮魚や漬物、サラダといったメニューがテーブルに並んでいる。
どれも見た目以上に手が込んでいるのが解り、まさに母の味…と思える感じの料理に見えました。
お婆様はゆっくりと腰を下ろし、座布団に正座する。
そして、にこやかな顔で私を見つめ、こう話してくださいました。



「そうねぇ…私は、小さい頃の聖君とは顔を合わせてもいなかったけど」
「それでも、やっぱり子供なのねぇ…とは思ったかしら」

女胤
「子供…ですか?」


それは意外な答えでした。
いえ、冷静に考えればおかしくも何ともない。
現にお婆様からすれば、聖様はあくまで孫。
年齢的に見ても、子供だと言うのは妥当な所でしょう。



「聖君は、父も母も知らないまま育ってしまった…」
「きっと、とても辛かったろうし、苦しかったと思うの…」

女胤
「ですが、風路さんはそんな聖様の心を、ちゃんと埋めてくださっていたと思います」


「でも、やっぱり違うのよ? 本当の肉親でないという現実は…」


本当の、肉親…
私はそれを聞いて黙ってしまう。
確かに、絆は深いかもしれない…それでも聖様にとって、直接的に血の繋がった肉親はお婆様ただひとり。
お父上の肉親も既に残ってはおらず、直系の血筋としてはもはやこの方だけだそうですから…



「やっぱりね…親は必要なのよ、子供には」
「聖君は、無理に大人になろうとしている…大人という者がどんなものかも解らずに」
「ただ自分のイメージを固めて、想像して、そして親はきっとこうなのだ…と、自分で考えている」
「それでも、そこに正解は無いの…本当の親の事は、知りもしないのだから」


お婆様は、悲しそうに俯いてそう言った。
そして私は気付いた…そうだったのか、と。
思えば、聖様は常にひとりからスタートしていた。
私と出逢う前も、必ず聖様はひとりで全てを決めて、仲間を集める。
誰も、何も教えてもらえなくとも、自分で考えて何かを進める。
聖様は常にそうやって何かに足掻いて、叩き落とされて、絶望して、諦めて…そしてまた立ち上がった。
両親の事は知らない、それでも両親はきっとこうなのだと自分のイメージで塗り固め、そして成長していった。
奇しくも、聖様に集まった家族は皆優秀で、聖様の足りない部分を全て補って来た。
思えば、それが間違いだったのかもしれない。

聖様は、子供なのに…子供ですのに……子供らしい事は、何ひとつやっていなかった。
幼き頃から既に世界を渡り歩き、災厄すらはね除けてみせる。
神に天罰を降され、絶望のままに幼年期を終え、青年期になってからは神をも救ってみせた。
そんな聖様を見て、誰がただの子供と思うだろうか?
ですが、このお婆様の前には、聖様は可愛い孫でしかない。
例え世界を救う救世主であったとしても、お婆様にとっては最後の肉親。
恐らく、お婆様は怖いのでしょう。
もしかしたら、自分よりも先にいなくなってしまうのではないか?と…



「…さぁ、暖かい内に食べましょう?」
「今日は女胤ちゃんの為に、ちょっと頑張って作ってみたから、きっと美味しいと思うの♪」


そう言われ、私は俯いた顔を上げて頷く。
そして、ふたり和室のリビングで手を合わせ「いただきます」と言って食事を始めた。
私は、この時の食事の味は決して忘れません。
お婆様の愛情がたっぷりこもったこの料理は、きっと誰にも真似が出来ない物でしょうから。



………………………



女胤
「………」


食事を終え、私はお婆様に礼を言って帰宅する事にした。
お土産にと、余った煮物をタッパーに入れて私はそれを持ち歩いている。
きっと聖様も喜ばれますね…


女胤
(しかし…考えを、改めなければなりません)


私たちは、聖様の家族です。
ですが、決して聖様に頼りきっていてはならない。
確かに夢見の雫は奇跡のアイテムです。
ですが、それはいわば諸刃の剣。
恐らく、家族の内の何人かはこう思っているはず…


『何があっても、きっと聖様なら何とかしてくれる』


それは決して間違いではありませんし、誇張表現でもない。
ただ、それはある意味、堕落の象徴。
もし、万が一にでも、絶対に有り得ないとしても、その時が来てしまったら…


女胤
(私たちは、全ての拠り所を失ってしまう…)


勿論、全員が全員そうではないと思います。
華澄さん程達観していれば、例え何があろうとも皆を支えてくださるでしょう。
阿須那さんであれば、割り切ってでも前を向く。
守連さんはああ見えても芯はしっかりしています、崩れてもきっと立ち直れるはず。
愛呂恵さんは、とてもしっかりした女性…例え主を失ったとしても、生涯聖様に尽くし続けるでしょう。
三海さんは今や聡明、例えその時が来ても、その時は自分なりに答えを出して生きていくはず。

逆に、悠和さんの様な者だと、完全に絶望しきってしまうかもしれません。
夏翔麗愛さんも依存度は高い方でしょうし、影響は大きいはず。
今はまだ良いですが、聖様が身を置かれている環境は多くが死と隣り合わせ。
そんな環境で、聖様に無用な負担は決してかけてはいけません。
今後の混沌も見据えて、私たちは常に先を見据えておかなければ…!



………………………



女胤
「ふっ!」


ドバァァンッ!と、爆発音。
私は夜、白那城の地下を借りて戦闘訓練をしていた。
思えば、こんな訓練をしたのは初めてです。
良くも悪くも、私は戦いながらレベルを上げていたのですからね…

果たして何度やり直したでしょうか?
暴走したアルセウスに勝つ為に、私たちは何度も何度も聖様と一緒に抗い続けた。
その中で私たちは果てしないレベルアップを繰り返し、気が付けば今の様なレベルに到達していました。
そのレベルは、神と呼ばれる白那さんですら恐怖を抱く程のレベルで、並のポケモンでは決して到達出来ないレベルの高さ。


女胤
「はぁっ!!」


私は迷いを断ち切る様に『ソーラービーム』を全力で放つ。
いまいるトレーニングルームは、藍さんの能力で造られた疑似世界。
見た目はただの草原で、多数の魔物が襲いかかって来ています。
私はそれに対して、技を繰り出し撃破していく。
あくまで訓練ですので、所詮相手は雑魚。
ですが、その数はかなり多く、藍さんの複雑なプログラムもあって実にいやらしいアルゴリズムをしている。

私はこの時点で自分の弱点は理解していた。
私の技は良くも悪くも草技に特化しすぎている。
威力は高い反面、汎用性はかなり低く、小回りが一切利かない。
前の混沌でも、私は痛感しました。
逆上していたとはいえ、牙皇さんに対して私の技は必殺にはなり得ない…
どうやっても、タイプ相性の差は覆らないのです。


女胤
「ちぃっ!」


私は時間差で距離を詰めて来る獣型の魔物に舌打ちした。
数は数10おり、それらはいくつかの分隊で執拗に隙を突いて来る。
統率がしっかり取れており、とあるグループは背後に回り、とあるグループは正面から攻め、とあるグループは左右から遠距離攻撃。
流石の私も無傷で切り抜けるには手数が足りない。
いえ、その方法を取らない。
やはり、私の最大の弱点はこれなのです。


女胤
(傲慢、有頂天、唯我独尊…!)


私は、突き詰めてしまえば隙だらけなのです。
自分の力を過信しすぎている。
苦戦する事など想定もしていない。
いつだって私は…油断しかしていない。


ビーーー!!


女胤
「………」


「…らしくないな、反撃出来る隙位は作ったつもりだが?」

女胤
「ご冗談を…私の性格と技レパートリーを熟知した上でのアルゴリズム」
「雑魚とはいえ、あの数相手に私ひとりでは荷が重かったという事でしょう…」


私は無惨に敵の波状攻撃を浴び、死亡判定を食らった。
あくまで訓練ですので、傷はありません。
ただ、多少の痛みはもらいますが…
今はただの地下訓練室で、やや薄暗い中、藍さんがあくびをして私を見ていた。



「まぁ、とやかくは言わないさ…向上心があるのは良い事だからな」
「だが、とりあえず今日はここまでだ、俺様はこれから登校なんでな」

女胤
「そういえば、時差があるのでしたね…申し訳ありません、迷惑をかけたみたいで」


「構わない、と最初に言ったぞ? 確かに面倒だが、別に俺様が納得した事なら、俺様は文句を言っても、とやかくは言わない」
「お前が何かを思って必要と思ったから俺様を頼ったんだろう?」
「なら、期待された分位は働くさ…それが大人ってモンだ♪」


大人…ですか。
確かに、藍さんは体感時間で言えば20歳ですものね…私よりも年上です。
藍さんも、多分私の考えは解っている。
だからこそ、あえて何も言わずに協力してくれるのです。
そして同時に、これは必要な事なのだと私は確信した。


女胤
「ありがとうございました、また機会があればよろしくお願いします」


「ああ、だが…どうせなら他の連中も頼ってみろ」
「今後の混沌で、またポーションになりたくないならな」


私は、心に刻んでおく。
そう、決して安易な負けは許されない。
以前は牙皇さんが相手のお陰で助かった様なもの。
もし、明確に殺意を持った敵が相手であったなら、私はとっくに死んでいたのですから…

もう、改めなければならない。
私たちも、強くならなければ…!
このままで満足してはいけないのです。
平和なのは現実だけ…混沌が存在する以上、いつでも戦う必要はある。
皆、努力している…土筆さんや未生羅さんも、そうして進化した。
私たちは、特別なのかもしれませんが、無敵ではない。
私たちより強い可能性を持ったポケモンは確かに存在するのですから…

私は、既に姿を消した藍さんの跡を見ながら、拳を握る。
強く…強く、ならなければ……



………………………




「女胤、疲れてないか?」

女胤
「え? いえ、大丈夫ですよ…問題はありませんので」


翌日の朝、私は聖様にそう指摘を受ける。
昨日は夜遅くまで訓練していましたからね…流石は聖様、良い洞察力です。
ですが、私は微笑んで強がってみせる。
心配をかけさせるわけにはいきません。
自分の体調も、しっかりしっかり管理しなければ…!


三海
「…聖、とりあえず朝食だ、早く席に着け」
「女胤の事なら、別にお前が心配する事ではない」


「ん、そうか…なら、良いけど」

阿須那
「ほな、早速いただくで?」


私たちは同時にいただきますと言い、朝食が始まる。
気のせいか、私の食事だけスタミナに良い食材が盛り込まれている気がしますね…
恐らく、愛呂恵さんにも見抜かれている。
私の体調を見越した上で気を遣ってくださったのですね。
三海さんも、それを見抜いた上でああ言ってくれたのでしょう。
私は気力を高める。
そうです…皆、家族なのですから。
しっかり食べて、しっかり働きましょう。
今日も、土筆さんたちを訓練しながら別館のオープン準備ですので…



………………………



そして、仕事が終わって私はすぐに城へ向かう。
また訓練室に私はいた…今回は、対戦相手と共に。


華澄
「…女胤殿、こちらはいつでも構いませぬ」

女胤
「はい、こちらも同様です…くれぐれも手は抜かないでください!」


フィールドは草原、障害物は無く日差しも普通。
平坦な草むらで私は華澄さんと対峙していた。
華澄さんも仕事の後で疲労は少なからずあると思いますが、顔には出ていませんね。
改めて、私は華澄さんの強さという物を理解する。
訓練とはいえ、実際に正面から対峙すると、ここまで怖いモノとは…!


女胤
(相性は有利、とは言えませんね…特性のせいで)


華澄さんの特性は『変幻自在』…いつでもタイプは変えられる。
多種多様な技を習得している華澄さんのタイプはもはや予測不能。
スピードの速さも相まって、撹乱されればあっという間にやられてしまいかねない。
私は集中力を高める。
読みをひとつでも間違えればそれで終わる。
ましてや、華澄さんは家族の中でも特別読みが上手い。
絡め手は…無駄でしょうね。


女胤
(ですので、あえてそれを利用させてもらいます!)

華澄
「……!」


華澄さんは前傾姿勢に構え、いつでも動ける体勢。
私はすかさず踊る体勢に入り、華澄さんの動きを待つ。
さて、どちらを予測しますか!?


華澄
「!!」
女胤
「!?」


私は反射的にその場から飛び退く。
私のいた場所は、鋭い『水手裏剣』が1枚弾け、私はそのまま『蝶の舞』で加速する。
結果オーライですが、考えてる暇は無い!!
私は一気に華澄さんを越える速度で動き、水手裏剣を連続で回避していく。
その全てをかわしきるのはあまりに難しく、的確な予測で放たれたそれで私は左足を軽く切られてしまった。
効果今ひとつとはいえ、この技はあまりに鋭い!
その気になれば人体など軽く両断する鋭さの前には、タイプ相性など無意味!


華澄
「さぁ、続けて行きますぞ!?」


華澄さんはここで『挑発』し、私の補助技を封じて来る。
牙皇さんの時もそうでしたが、私のアイデンティティはやはり変化技。
それを封じられてしまえば、ただ汎用性の低い攻撃技しか使えない。
しかし、これは訓練…! 弱点が解っているなら乗り越える方法も模索するのです!


華澄
「!?」
女胤
「!!」


私は横移動から一気に直線の動きに切り替える。
急な移動角度に華澄さんはタイミングを見誤り、私は華澄さんの近距離技が届かない位置まで踏み込んだ。
そして、私の十八番でもある『種マシンガン』をそこから放った。
ショットガンの様に一瞬で弾けるそれは、容易く人体を貫く。
華澄さんは水手裏剣を盾にして目の前を守るも、いくつかの弾は華澄さんの手足を傷付けた。
本来なら怯む所ですが、華澄さんは鋭い眼を更に細くし、すかさず口から低温の息を吐く。
それはすぐに風となり、広範囲に気温を低下させる程の『凍える風』でした。


女胤
「くぅ…! 足が…!」

華澄
「これで、速度は拙者が上でござる!」


華澄さんは逆に踏み込んで来る、痛みはあるはずなのに、全く衰えが見られない。
私は痛む足を全力で踏み込み、舞を行う。
私の全身から花弁が多数舞い、接近する華澄さんに襲いかかった。
リスクはありますが、この距離でしたら回避は困難な『花弁の舞』です。
威力は私の技でも最高クラスの火力! さぁ、どうしますか!?


華澄
「くっ!!」


華澄さんは急ブレーキをし、太もも辺りから血を吹き出して大きく息を吸い込んだ。
そして口から『吹雪』を放ち、私の花弁とぶつかり合う。
タイプ相性は最悪、ですが威力の高さはこちらが上!
互いの大技がぶつかり合い、華澄さんの吹雪は私の花弁に吹き飛ばされた。
華澄さんは両手でガードし致命傷は避けるも、宙に吹き飛んでしまう。
私はここで動きが止まり、視界がブレた。
チャンスだというのに、混乱するしかない…!
リターンは大きいものの、リスクも負う…特性が『葉緑素』なのが悔やまれますね。


女胤
(思考は安定していても、相手が見えない)


闇雲に技を放っても命中は難しい。
華澄さんは空中で体勢を立て直し、そこから技を放つ気配がした。
私はそれに対してとにかくバックステップする。
が、予測されていたのか私の肩が瞬時に切り裂かれた。
水手裏剣を先読みで回避方向に…!
ですが、これなら位置は解りました!!
私は挑発の効果が切れた事を理解し、すぐに『日本晴れ』を発動する。
ここから私の速度はまた華澄さんを越える。
そして、ここからは『ソーラービーム』がリスク無しで放てます!!


女胤
「あああぁぁぁっ!!」


私は以前混乱しながらも、右手1本でソーラービームを放つ。
左腕は上がらない…さっきのでやられてしまった。
私は恐らく地上にいるであろうと予測してビームを横薙ぎに薙ぎ払う。
手応えが有るのか無いのかも解らない。
ただ、我武者羅に薙ぎ払った。
私はその勢いのまま地面を転がり、どっと疲労が押し寄せる。
そして視界がぼやけたまま、すぐ側で着地するかの様な足音が聞こえた。
私は理解する、敗北が確定したのだと。
やはり、勝てませんか…これが、今の私の実力。


華澄
「…女胤殿、立てますか?」

女胤
「は、はい…ありがとうございます」


訓練シミュレーションは終わり、私たちは現実に戻る。
今回の訓練は仮想現実で、自身の体をもデータ化して対戦していたのだ。
なので、現実的には一切傷は無い。
もっとも、痛みは感覚的に受けますし、受けたダメージは精神的にどっと疲労しますが…
とりあえず、私は倒れていた様で、華澄さんの手を握って立ち上がった。


女胤
「…流石に、強いですね華澄さんは」

華澄
「いえ、今回は時の運…もし最後のソーラービームが空に薙ぎ払われていたら、負けていたのは拙者でござった」


運…ですか。
実際にはどうでしょうね…華澄さんの事ですから、読んでいた気もしますが。
それも含めて、今回は私の負け。
まだまだ、改善点は多いですね…


華澄
「女胤殿、何か不安事でもあるのですか?」

女胤
「…では逆に聞きます、華澄さんは不安で無いのですか?」


華澄さんは眼を細め、何かを理解した様でした。
解ってはいるはず、私たちとて戦う為の努力は必要なのだと。
聖様に無用な負担はかけてはならない、その為には私たちがしっかりと露払い出来なければいけないのですから…


女胤
「華澄さん、私たちは決して鍛練を怠っていい立場ではありません」
「今後の混沌で、もし今の私たちを全滅させる様な敵が現れたら、誰が聖様を護るのですか?」

華澄
「…確かに、想定はするべきかもしれませんな」

女胤
「今の強さで満足をしてはいけないと、私は思いました」
「聖様を護る為、家族を護る為、無関係な人々を護る為…私は、強くなろうと思います」


これは決意だ。
例え何があっても、努力はする。
現実世界は大切ですが、それにかまけて弱くなってはならない。
もし、たったひとりで聖様を護らなければならない時、弱くなっていたので無理でした、では許されないのですから。


華澄
「分かりました、拙者も覚悟はします」
「今後、自主的にも鍛練を致しましょう…普段から癖を付けておかねば」

女胤
「そうです、聖様が常に努力している様に、細やかな鍛練でも良いのですから」


私は聖様が普段からやっているトレーニングや勉強の風景を思い出す。
私たちも努力しなければ、特に私は一対一が弱い。
多対戦ならどうにでもなる事が、一対一では全く活かされない。
改善点も多いですが、何とか出来る様にならなければ。

私は、今後の訓練メニューも想定して仕事の事も考える。
世の大人たちは本当に尊敬しますね…ちゃんと仕事をして、他の努力もしている。
普通の人間にですら、私は劣っている所が多いのです。
逆に言えば、まだまだ成長出来る余地はあるという事…でしたら。


女胤
(私は、まだ成長してみせます…! 聖様の為に!)










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『果てしなき混沌を見据えて、女胤の決意』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/28(火) 22:51 )