とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第8章 『聖の選択』
第3話

「…まぁ、しょうがない所もあったさ」
「俺が考えている程、世界は甘くなんか無かった…」
「世界に神はちゃんといるし、見守ってくれてもいる」
「だがそれでも、俺は救いたいと…ただ思ったんだ」


俺は夜のテント内でそう話す。
ここは俺と万丁君と光輝君だけで寝る場所だ。
そんな中、俺はふたりに対して少し昔話をしていた。



「それが本当なら、全部先輩がこんな世界にしちまったって事なんすね?」


「…否定はしない、望んだのは確かだからな」

光輝
「でも、何でこの世界を選んだんだ? それなら別の世界にでも行けば良かったんじゃ?」


「…かもしれない、だけど姉さんにだけは謝りたかった」
「そして、姉さんを残して逃げる事だけはしたくなかった」


望めば、確かに理想の世界も創れたのかもしれない。
だが、それでは俺の全ての望みが叶えられなかった。
姉さんはこの世界で生きると決めていた以上、俺は他の選択肢が浮かばなかったんだ。
いや、それも言い訳なのかもしれない。
奇跡は起こせる、チャンスも与えられた…だけど俺は選ばなかった。
この世界に、未練があったのかもしれない。
何だで俺が産まれた世界だし、俺は心のどこかでは、この世界が好きだったのかもしれない。



「俺はもう何も言わねぇっすよ…受け入れる覚悟は出来てますし」
「俺の野望は変わらねぇ…どうせなら大愛さんと、それを目指しますよ」

光輝
「野望って、何? その髪型と関係あるのか?」


「そういえば気になってたな…世界征服でも考えてんのか?」


「…そんな大それたモンじゃ無ぇっすけど、とりあえず街の支配者になりてぇんすよ」
「それも裏稼業の…」


支配者ねぇ…それも十分大それてると思うが。
まぁ、俺からしたら大した事でも無いか。
現実的な分には、別に驚きもしなくなってるからな。
しかし裏稼業ねぇ…?



「俺には憧れの漢がいる…いつかその人に追い付ける様にと、俺はツッパリを始めたんす」


「それでヤンキーになったのか? どういう発想なんだよ…」

光輝
「暴力で支配者になろうってんなら、おめでたすぎる頭だけど…」


「暴力じゃねぇ! 俺ぁ、正義の悪党を目指してんだ!」


万丁君は握り拳を固め、そう主張する。
かなりおバカな事を力説してるが、本気なのは伝わって来た。
だけど、解らん…何でそんな矛盾めいたヒーローを目指してんだか。



「俺が産まれたあの街は、どこかおかしいんすよ…」
「頭のネジが外れた連中が多すぎる…俺はそんな街をどうにかしたいと思ったんす…」
「そんで、まずツッパリになって、はみ出しモンにでもなれば何かが始まるかと思って…」


「色々アホなルートだな…それならフツーに勉強してフツーに政治家にでもなれよ」


「それじゃ、きっと街は何も変わらねぇっす…俺には何となく解る」
「だから、あの人のお陰であの街は守られてんだ」


あの人、ねぇ…憧れの人だそうだが何モンだ?
後、妙に万丁君は見ている視点が違うな。
あくまで街ひとつに固執してるみたいだが、そうまでして守りたい何かがあるのか?
それも、正攻法ではどうにも出来ない、何か…?



「…その人ってのは、何モンなんだ?」


「ヤクザっすよ…あ、いや極道か?」

光輝
「何でそんなのに憧れてんだよ…?」


確かにな…色んな意味でぶっ飛んだ憧れだが、どこぞのギャングスターみたいな存在なんだろうか?
どっちにしても、万丁君はかなりの憧れをその人に抱いてるみたいだな。
そんな万丁君は、昔を思い出す様に俯きながらあぐらをかいて静かに語り出した。
その顔を見て!俺も少し真面目に聞く事にする。



「5年前…俺は交通事故で死にかけてた猫を助けようと、道路に飛び出した」
「だけど運悪く信号無視した車が、俺に向かって突っ込んで来たんだ」
「俺は死ぬかとその時思ったが、そんな俺を助けてくれたのが極道のその人だった…」


「命の恩人か…意外に良い人そうだな」


「猫は結局助からなかったけど、俺は助けられた」
「その人は何も言わずに立ち去ったけど、俺の脳裏にはその人の大きな背中がこびりついたんだ」


まぁ、命の危機を救ってくれたんだ、子供心には立派なヒーローに映ったんだろうな。
しかし、極道ねぇ…それに憧れてツッパリってのも、子供の発想と言うべきか?
どっちにしても、色々間違えている気はするが。



「それから、俺は改めてお礼を言おうとその人がいる事務所に向かった…」
「だけど、その人はその場にいなくて…代わりにそこには、綺麗な青白い髪の女性がいたんだ」


「青白…? そんな目立つ髪色に染めてる極道の女がいたのか?」


「…実は、曖昧なんすよね」
「その日、その時から、俺は少し記憶を失ったんで…」


記憶を…だと?
何で突然そんな事に…?



「気が付いたら、事務所はボロボロの廃墟になってました」
「俺はいつの間にか安全な場所で寝てたみたいで、何が何だか解らなかった…」
「ただ、夏だってのにその日は雪が降ってた…」
「バカな話、俺は混乱してその場から逃げる事しか出来なかった」
「そして思ったんす…この街は、何かがおかしいって」


雪…ねぇ。
引っ掛かる部分はあるが、曖昧な記憶って所が何とも言えないな。
まぁとにかく、万丁君の話が本当なら、その街は確かに何かありそうな感じだな。


光輝
「訳解かんねぇな…夏に雪とか、ありえんのか?」


「よっぽどの温度差で偶然発生したんじゃないのか?」


「…真相は知らねぇっす、その日の事件はテレビでも詳細が語られなかったっすから」
「ただ、俺はそれからも度々街で妙に事件を見かける様になったんす」
「ただの交通事故から、強盗、喧嘩、人が死ぬ事も多々あった」
「なのに、その街の人間は何も思わねぇんす…大して騒ぐ事も無く、警察が来て適当に処理して、ハイお仕舞い…」
「そんなのが、何度も何度もあったんす…」


そこまで来ると別の要因も考えられるな。
前のバトルフロンティアの時みたいな、欲望を操作するタイプの能力だろうか?
後から恵里香に聞いた話だったが、あの事件はペルフェと言うディアンシーが引き起こした事件だったそうだが…



「俺は決めたんす…あの人が裏で街を護る様に、俺もそっちでデカくなって街を護ると!」
「多分、表向きには解らない何かがあるんだ…だったら、裏の世界に入ってでも俺は街を支配してそこから護ってやるって決めたんす!」

光輝
「何だかなぁ〜警察とかになった方が良いんじゃねぇの?」


「…本当に何かの悪意が存在するなら、表向きの組織に意味は無いのかもな」


殺人事件にすら無関心となると、感情レベルでコントロールされてる可能性があるのか…
今度、調べて見た方が良いかもしれないな…



「…その街って何処なんだ?」


「ああ、都心の方っすよ…あれ、コスプレ喫茶のあるトコ」


「…2号店かよ!? まさか、姉さんたちまで何かあるんじゃねぇだろうな!?」


俺は突然不安になってしまう。
すぐにスマホを耳に当て、俺は恵里香に尋ねる事にした。



………………………



恵里香
『…確かに、何かありそうな話だけど』
『でも、ペルフェは多分関わってない…勿論、今も』


「…それなら、一体何が?」

恵里香
『これは想像だけど、怨念みたいな何かがあるのかもしれない』
『少なくとも、その街の全員がおかしいとは言えなさそうだし、元凶は案外小さい物なのかもしれないね』
『ただ、リーゼント君の周りだけがおかしくなる呪いでもあるのかもしれない…』


俺は少しゾッとする。
怨念や呪いって…何かがあったのか?
5年前…その時の事件かららしいが、一体何があの街で起こってる?
事件が多発し、誰も関心を示さない。
テレビで詳細を報道する事すら無く、万丁君の周りでは事件が多発していた。
だけど、それなら今でも…か?



「万丁君、高校に入学して引っ越したんだよな? それから何かおかしな事は?」


「それが…不思議と何も無ぇんす」
「それまで異常とすら思えた何かが、住み処変えた途端、パッタリと消えちまって」

光輝
「前の家が呪われてたんじゃねぇの?」


「…怨念か、呪いの可能性」
「その街に何かあるのは多分間違いない…そしてそれに万丁君が関わってる」
「やれやれ、面倒な事になりそうだな…」


俺は頭を掻いてもう寝る事にする。
行動するにしても、もうすぐ夏休みは終わりだ。
姉さんたちには注意だけ促して、何かあればすぐに連絡貰える様にしてもらおう。
とりあえず、今日はここまで……



………………………



愛呂恵
「そうですか、特に問題は無く?」

阿須那
「ああ、そっちもか?」


私は頷く。
既に今は夜であり、阿須那さんたちも帰って来て、今日の事を報告し合っていました。
聖様は今頃キャンプ場で休んでいるのでしょう。
何も無ければ良いのですが…


阿須那
「華澄と女胤はもう寝てるんか?」

愛呂恵
「はい、華澄さんは朝が早いですし、女胤さんも今日は早めに休んでいます」

阿須那
「ほうか…ならウチも風呂入って寝るかな」

愛呂恵
「既にお風呂の準備はしていますので、いつでもどうぞ」


私はそう言ってお辞儀をする。
阿須那さんは礼を言って自分の部屋に向かった。
私はその間に夜の掃除を済ませる事にする。
今日はほぼひとりでしたので、大体やる所は無いのですが、気になってしまうのは職業柄ですね…


愛呂恵
(とはいえ、あまり出来る事もありませんか…)


掃除と言っても阿須那さんが持ち帰った埃や汚れ位の物。
聖様の性格でしたら、特に気にもしないレベルでしょう。
私はささっとそれ等を掃除し、とりあえずリビングでくつろぐ。
今はテレビもドラマを放送しており、何とも言えない物語を展開していた。
正直、この手の番組はありきたりすぎて、どうにも好きにはなれませんね。


愛呂恵
(…むしろ、聖様がこれ位積極的でしたらと思わなくもないですが)


テレビの俳優は濃厚なキスシーンからベッドシーンへと向かう。
いわゆる濡れ場ですが、流石に放送ではここでカットになりましたね。


阿須那
「あ〜疲れたー…ほな、風呂先に入らせてもらうで?」

愛呂恵
「はい、どうぞ…」


阿須那さんはそう言って脱衣所に向かう。
私はとりあえずテレビのチャンネルを変え、今日のニュースに目を通した。
特に気になる様な報道も無く、いたって普通の日常という所ですね。
とはいえ、今年の犯罪件数が増加傾向ですか…この広い世界において、大多数の人間が住んでいる地球。
果たして、そんな地球上で起こるその犯罪とは、世界的にはどれ程の影響なのか…?


愛呂恵
(聖様は、どこまでを救うと言ってくださるのでしょう?)


あくまで聖様が救ってくださるのは、その手が届く範囲であり、誰にでもそれが向けられるわけでは無い。
良くも悪くも、聖様はエゴイストなのです。
だからこそ、こんな風にテレビで報道されてる犯罪にわざわざ介入しようとはしない。
その気になれば全てを救う手段もありますが、決してそれをしようとはしない。
聖様は、決して世界のヒーローでは無いのですから…


愛呂恵
(聖様は、ただ普通に生きたいだけ…大好きな家族と一緒に、普通に)


聖様は親を知らない。
それ故に、風路さんや勇気さんは親代わりを果たしていました。

ですが、ご両親が健在であればどうなっていたのか?
この場に私たちはいられたのでしょうか?
…恐らく無理だったでしょう。
何となく、そんな気がしてしまいました…



………………………



阿須那
「はぁ…」

愛呂恵
「阿須那さん、コーヒーをどうぞ」


私は阿須那さんが出て来るタイミングを完璧に見切ってコーヒーカップを出す。
阿須那さんはバスタオル1枚だけを体に巻いており、下着すら着けていない様ですね。


阿須那
「おおきに、いただくわ…」


阿須那さんはソファーに座り、足を組んでくつろいだ。
表情からは疲れが如実に見えており、仕事量の多さが知れますね。
とりあえず阿須那さんはコーヒーを一口飲んで息を吐いた。


阿須那
「やっぱ、あの豆とは違うわな…」

愛呂恵
「豆…ですか? こちらのは普段阿須那さんが好まれている物ですが…」

阿須那
「前の混沌で、飲んだ事の無いコーヒー出してもろてな〜」
「またそれが美味しかったんよ〜」


成る程、混沌の中で飲んだコーヒーですか。
流石に混沌世界での飲み物となると、どんな豆が使われてるかは知り様がありませんね。


阿須那
「今度、試飲出来る店探そうかな…?」

愛呂恵
「好みの味を探すのであれば、それが良いかと思います」
「異世界の味とはいえ、どこかに近い味の物もあるかもしれませんし」
「最悪、ブレンドで作ってしまうのも有りでしょう」

阿須那
「愛呂恵はブレンドも出来るん?」

愛呂恵
「はい、詳細に味が解っているのでしたら、再現は出来ると思います」


私がそう言うと、阿須那さんは少し考える。
流石に味が解らなければどうしようもありませんが…阿須那さんはブラック派なので、記憶している可能性は高いでしょう。


阿須那
「これより苦味は薄かったんよな〜…ほんで、酸味も控えめでコクがあった」

愛呂恵
「…成る程、後は実際に試飲してみるしかありませんね」
「いかに私といえども、この世界のコーヒー豆の味はまだ解明出来ていませんので…」
「それでは、明日幾つか見繕って買っておきます」
「そこから、幾つかのパターンをブレンドして、阿須那さんに試飲していただきましょう」

阿須那
「ホンマ? 何か悪いな〜手間かけさせてもうて…」

愛呂恵
「構いません…私も興味はありますので」
「折角ですから、コーヒー豆の勉強もしておきます」


私はそう言って、阿須那さんが飲みきったコーヒーのカップを片付ける。
そしてそれを洗い、私は明日の予定をとりあえず決めたのだった…



………………………



愛呂恵
「…コーヒーショップは、とりあえず駅前のショッピングモールにありますね」
「商店街にも1店ありますが、どうしましょうか?」


私は翌日街を歩いていた。
距離は離れますが、駅前ならラインナップも豊富でしょう。
対して商店街なら近いですし、値段も比較的良心的。
資金に余裕はありますし、まずは駅前に向かいますか。
私はとりあえずそう決めて駅前に向かう。

ちなみに当然ですが、今の私はメイド服は着ていません。
というより、普段から着る事は無くなりましたね…
あのデザインは悪くありませんが、良くも悪くもエロ特化。
第三者に見られれば、聖様は色んな意味で社会的に抹殺される事でしょう。
それだけは避けねばなりませんので、私は普段から普通の服を着用して過ごしています。

今の私は茶色のタンクトップに、夏用の薄い生地で作られた紺色のズボン。
靴も歩きやすいスニーカーで、いつ暴漢に襲われても対処は可能です。
特にこのズボンはお気に入りで、思いっきり蹴りを放っても破れる事の無い伸縮性が素晴らしい物ですね。
買い物用のピンク色トートバッグも私は肩に担ぎ、とりあえず前進します。



………………………



愛呂恵
(夏休みも、もうすぐ終わりですね)


暑さもピークは終わり、少しづつですが日照時間は減っている。
9月に入れば台風も上陸しやすくなり、少し過ごし難くはなるかもしれませんね…
私はそんな事を考えながら歩き、道行く人と挨拶を交わしながら進む。
既にこの辺りの人たちはほぼ顔見知りで、私はそれなり有名になっている様でした。
…少々複雑ではあります。
やはり、私はあくまで偽装しているポケモン。
本当なら極力、人との交流は避けた方が良い。
とはいえ、それでは逆に不審な目を向けられる可能性もある。
様々な状況をシミュレートした結果、私は今の環境を選択したのです。


お婆さん
「あら、こんにちは七宝(しっぽう)さん…今日もお買い物?」

愛呂恵
「こんにちは田中さん…今から駅前まで行くつもりです」


この人はここの家に住んでいるお婆さんです。
基本的に人の良い方で、会う度にニコニコして挨拶をしてくださいます。
年齢は60前半位で髪は短く切り揃えられており、白髪が目立つものの体調は健康そのものに見えますね。


田中
「ふふ、交通事故には気を付けてね?」

愛呂恵
「ご心配ありがとうございます、それでは…」


私はそう言って丁寧にお辞儀し、その場から離れる。
こんな感じで、私はある程度の注目を浴びながら駅前へと向かった。
聖様は昼過ぎに帰ると言っておられましたし、昼食は私と華澄さんだけの分で良い。
当面、冷蔵庫の蓄えは大丈夫ですし、今回は純粋にコーヒーの勉強といきましょう。



………………………



愛呂恵
「………」


私はすれ違う人間に細心の注意を払い、人混みを歩き続ける。
このショッピングモールはかなり大きいモールで、まだ10時過ぎだというのにかなりの人が入って来ている。
私は比較的人型に近いミミロップなので心配は薄いのですが、それでも特徴の長い耳はやはり異端。
私は両耳を背中側に垂らし、極力揺らさない様にして歩行する。
こうすればぶつかられたとしてもそれ程違和感は抱かれないでしょう。
ただし、この状態では問題もひとつ生まれます。


愛呂恵
(…やはり、聴覚に異常が起きますね)


仕方の無い事ではあります。
私の耳は武器としても使えますが、あくまで五感のひとつを司る器官。
ただでさえ私の聴力は野生の獣並み。
ここまで大多数の喧騒に囲まれては、正確に音を聞き分けるのは難しい。
なので極力、聴覚以外で周囲を確認しなければなりません。
慣れては来たものの、まだ多少の危険はありますね…
とはいえ、私は特に怪しまれる事も無く目的のお店に到着する。
店内はまだ客がおらず、どうやら私だけの様でした。


店員
「いらっしゃいませ…」


眼鏡をかけた若い男性がそう言ってこちらを見る。
私はとりあえず店内のラインナップを見てみた。
今回はテストのブレンドですし、とりあえず味のチェックが目的。
とはいえ、細かい味の差を一々確かめていては時間も迷惑もかかりますし、ここはある程度絞り込んで試してみますか…



………………………



愛呂恵
「………」


とりあえず、いくつか試飲をさせていただき、私は10品程見繕って購入した。
苦味、酸味、コクの3つがコーヒーには重要ですので、それ等で気になった味を今回は選びました。
昨日の阿須那さんの証言から推測して選びましたので、これだけあればそれなりに細かく調整出来るはず…

さて、時間はまだ11時前…今から戻れば丁度昼頃になりますね。
今回は商店街に寄らずに真っ直ぐ戻りましょう。
私は徐々に強くなる日差しに汗をかく。
バッグからタオルを取り出し、顔や腕の汗を拭いた。
やはり夏場は辛いですね…水分補給もちゃんとしておかなければ。


愛呂恵
「……?」


私はすれ違う人に注目されていたのに気付く。
この辺りは駅から遠ざかっていますし、それ程人混みはありませんが…
私は改めて聴覚に意識を向ける。
そして聞こえて来た人の呟きを聞いて私は理解した。


愛呂恵
(汗で服が透けていますね…ブラが丸見えですか)


仕方無い事ではありますが、タンクトップがピッチリ過ぎたのはマズかったですね。
私は少し首下をパタパタさせ、空気を流し込む。
そこから軽く『冷凍ビーム』を口から吐き、体を冷却した。
ほんの一瞬で止めるのがコツです…これだけでも大分マシになりますからね。


愛呂恵
(しかし、やはり世の男性はおっぱいが好きなのですね)


藍様も常々言っておられましたが、やはり女性の胸は母性の象徴。
誰しもが憧れを抱く部分であり、そして性欲の対象。
かの聖様とて、これには抗えないと仰られておりました。
他人に注目されたのは少々不覚ではありましたが、これも私の胸が十分な武器なのだと証明出来たとも言えますね、えっへん。


愛呂恵
(とはいえ、聖様の情欲が向く事は無いのですね…)


もちろん、お好きなはずなのです。
ですが聖様は常に我慢しておられます。
その理由は私も理解していますし、もちろん尊重してもいます。
…ただ。


愛呂恵
(それを求めてしまうのは、欲望…と言えるのでしょうか?)


私は、これまで自分の為に何かを求めた事は少ない。
仮に求めたとしても、それは生きる為の術を学ぶ事が殆ど。
自分にとって、欲望とは何なのでしょうか?
女胤さんは、あって当たり前の感情と言い、華澄さんはそれが怖いと恐怖していた。
私の欲望は、どちらでしょうか?


愛呂恵
(私が聖様を求めるのは…悪い欲望なのでしょうか?)


きっと、聖様は首を横に振るだろう。
ですが、それを受け入れる事はまだ無い。
私はそれが解っていても、少しだけ…ほんの少しだけ、胸が痛んだのです。

私はバッグから水筒を取り出し、水を飲む。
そして意識を切り替えて帰宅する。
今日のお昼は、冷麺に致しましょう。



………………………



華澄
「コーヒーのブレンド、ですか?」

愛呂恵
「はい、阿須那さんが前に飲んだコーヒーの味が忘れられなかった様でしたので」
「今回はオリジナルのブレンドでそれを再現してみようかと思ったのです」


私たちはお昼の冷麺を食べながら雑談を交わしていた。
華澄さんは昨日の事は特に気にしてない様で、今はいつもの冷静な華澄さんですね。


華澄
「ふむ、拙者…コーヒーはあまり飲まないので解りかねますが」
「何か手伝える事があるのでしたら、いつでもご用命を」

愛呂恵
「はい、その時はお願いします…」


私はそう言って麺をすする。
華澄さんも同じ様に食べていた。
華澄さんは少食なので、量はあまり盛っていない。
体格の差もあると思いますが、華澄さんはあれで私に匹敵する胸の持ち主。
恐らく、目下最大のライバルと言えますね。


華澄
「…な、何か?」

愛呂恵
「…いえ、聖様はどちらの胸がお好みなのかが気になりまして」


私が真顔で言うと、華澄さんは吹き出してしまう。
私はすかさず布巾でテーブルを拭き、華澄さんに手拭いを差し出した。
ちなみに、この間約3秒です。
華澄さんは口元を布巾で覆いながら咳き込んでしまっていた。
そして冷たい緑茶を飲んで一旦落ち着く。
やがて深呼吸して華澄さんは複雑そうな顔でこう言った。


華澄
「愛呂恵殿…一体急に何を?」

愛呂恵
「聖様はおっぱい星人です」

華澄
「いえ、ですから何故急にその話に!?」


華澄さんは?を浮かべて疑問に思っていた。
解っていないでしょうか? それとも気にもならないと?
いえ、聡明な華澄さんの事、恐らく自分が負けているとすら思っていないのですね?
これは、流石に負けられません…やはり聖様が望むおっぱいは私が1番だと証明しなければ!


愛呂恵
「…華澄さん、私は今負けたくないと思いました」

華澄
「えっ? な、何に…でござるか?」

愛呂恵
「○イズリの性能でならば、私は華澄さんに負けないと宣言いたします!」


またしても華澄さんは吹き出して咳き込んでしまう。
私はすかさずテーブルを拭きあげ、すぐに新しい布巾を華澄さんに渡します。
この間約5秒…複数布巾を用意していて良かったですね。


華澄
「あ、愛呂恵殿〜○イズリとか、拙者経験無いでこざるよ〜!?」

愛呂恵
「ご安心ください、私も実践した経験は皆無ですので」


もっとも藍様の超能力により睡眠学習で経験済みなので、手順は解っています。
つまり、私と華澄さんとではアドバーテージは絶大!
しかし、これではフェアではありません…やはり華澄さんにも○イズリの極意を取得していただかなくては!


愛呂恵
「華澄さん、まずは○イズリのやり方から教えます…それが対等の立場という物」

華澄
「い、いや待ってくだされ!? いきなり言われても拙者、そんな事出来ないでござるよ!!」


やはり華澄さんは臆病ですね…こういう時、ライバルとしては堂々と立ち向かって欲しい物ですが。
しかし、それもまた聖様の好感度を上げている要因なのかも…
私は迷っていた…この華澄さんと勝負をした所で、意味はあるのでしょうか?と…
華澄さんは良くも悪くも争いをしたがらない誠実な女性。
だからこそ聖様の信頼がもっとも厚く、そして好みのタイプ。
つまり、無理矢理勝負に持ち込むのはマイナス点になりかねない…


愛呂恵
「………」

華澄
「あ、愛呂恵殿…?」


華澄さんは心配そうな顔で私を見ていた。
私はそれ以上何も言わず、温くなっていた冷麺をすすり直す。
そしてすぐに食べ終わり、私は水を飲んだ。


愛呂恵
「…申し訳ありません、忘れてください」

華澄
「…は、はい?」


華澄さんは困った感じで食事を続ける。
私は自分の食器を洗い場に持って行き、そのまま洗い始めた。
そしてまた考える、自分はどうすれば良いのか?と…

果たしてこのままで良いのでしょうか?
もちろんそれでも聖様は微笑んでくださるでしょう。
私が下心を抱いたとしても、それすら受け入れてくださるはず。
そんな聖様に対して情欲を抱いてしまったこの私は、メイドとして失格でしょうか?
その答えは、今は帰って来ない。
そして改めて感じる…聖様が家にいない事が、これ程寂しいとは……










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第3話 『宙の疑念、愛呂恵の欲』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/21(火) 07:08 )