とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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序章 『魔更 聖、17歳への道』
第4話

「今日も1日頑張るぞい!っとぉ〜」


俺は毎朝恒例のランニングに出かける為に、朝早く起きていた。
そして、ジャージに着替えてリビングに降りるが、そこには流石に誰もいない。
時間は6時頃…まぁ、流石に誰も起きてないわな。



「…なら、起こさない様に気を付けますか」


俺はそう思ってゆっくり外に出る。
愛呂恵さんの事が一瞬気にかかったものの、愛呂恵さんでも流石に今は眠っているのかもしれないからだ。
…っても、愛呂恵さんが眠ってる所って、見た事無いから想像し難いんだが。
俺と一緒にいた時はいつも俺より後に休んで、いつも俺より早く起きてるからな…
ある意味、新鮮な状況か…



(まっ、それだけ安心してもらってるなら何よりだ♪)



………………………



俺はいつも通り、1時間程走り込む。
少しづつだが、タイムが速くなっているのに気付いて、俺はやり応えを感じていた。
これなら徐々に距離を延ばしていっても良いかな…?
10kmを30分切れたら考えてみるか…



「ふぅ…ちょっと休憩だな」


今日は1月2日…絶賛冬休みで新年だ。
本当なら家族で初詣とか連れて行ってやりたかったが、流石にあんな人混みに突っ込んだら偽装も何も無いだろうからな…
華澄や女胤はまだしも、やはり守連や阿須那は誤魔化しが効かんだろうしな…



「…しっかし、相変わらずここは人気が無ぇな」


俺は近所の公園『パール小公園』のベンチで座って休んでいた。
とりあえずノルマはこなしたし、少しゆっくりしてから帰るかな…
俺は自販機で買ったコーラを飲みながら、これからの事を考える。



(何はともあれ、資金だ…しばらくは阿須那や華澄に負担はかけるだろうな)


弁護士からの報告もまだ来ないし、実際に裁判までやるとしたら何ヵ月か先になるだろうからな…
つまり、それまでは今ある資産でやりくりしなければならない。
姉さんが支援してくれるとはいえ、姉さんだって2号店開店には金がいるはず。
まだ先の話とはいえ、頼りっきりなのも問題だな。

そして愛呂恵さんの事も考えなきゃならない。
単純にひとり食いぶちが増えるってのは、重い事態だ。
もっとも、愛呂恵さんはそんなデメリットなんぞ、軽く踏み倒させる程のメリットも生み出せる。
家事の事は全て任せて大丈夫だろうし、料理の節約術もお手の物だろう。
最悪、女胤も稼ぎに回せるから来月には大分マシな事になってるはずだ。



(後は俺の問題か…)


成績は問題無いとして、人間関係だな。
俺はとりあえずイジメられっ子だ。
つまり、俺の周りにはロクでもないバカ共が近寄って来るという事。
今の俺はまだまだ種モミ卒業まで遠い…つまり、それまでは何とかして群がるモヒカン共から逃げ回らねばならないのだ!



(…まぁ、問題は間違いなく別の所にも潜んでるんだがな!)


何せ、この街にはヒーローがいるのだ…
万が一俺の身に何かあれば、その時は惨劇が起こりかねない…
可能な限り、俺はその人に手を煩わせてはならないのだ。
とりあえず、やっぱ少しでもケンカの仕方くらいは覚えた方が良いかね〜?
何気に命を賭けた修羅場を潜った俺だが、やはり人間対人間では勝手が違うのだとは思う。
殺し合いじゃないんだから、その辺の手加減も考慮しなきゃならんしなあ〜
とはいえ、そんな格闘技染みた事教えてくれる様な人か…



「…まぁ良いか、しばらくは我流で通せば良いだろ」


どの道子供のケンカだ、本格的な格闘技術は必要無い。
自己防衛程度なら、テキトーにやりゃ出来るはずだ。
少なくとも、異形のバケモノ相手にするのと比べりゃ温いんだから。
俺はそう思ってベンチから立ち上がる。
流石に腹も減って来た…時刻は7時前、そろそろ皆起きてくる頃だ。



………………………




「ただいま〜っとお」

守連
「あ、お帰り〜♪」


いつもの様に守連が玄関で迎えてくれる。
うむ、やっぱ家に帰ったら家族がおらんとな!
朝食の良い匂いも漂ってるし、軽くシャワー浴びてから食うかな。
俺はそう思い、一旦部屋に戻って着替えとタオルを用意する。
そして、早足で俺は風呂場に向かってシャワーを浴びた。



………………………




「ふい〜さっぱり!」

阿須那
「おっ、聖〜もう朝食出来てるで?」


俺が脱衣場から出ると、阿須那がエプロン姿でそう言う。
ん? 阿須那がエプロン姿って事は、どうやら今朝は阿須那が朝食を担当したのか?
テーブルを見たら、他の皆もいるな…って、違うひとり足りない。
俺は足りない姿を見て、阿須那に確認を取る。



「愛呂恵さんは?」

阿須那
「あ…そういやまだ起きてへんな、起こそか?」


「いや良いよ、俺が起こすから、先に用意してやってくれ」


それを聞いて阿須那は分かった、と言って皆の朝食をテーブルに並べていく。
そして俺は愛呂恵さんの寝ている元両親の部屋に向かった。



………………………




「…父さんと母さんの部屋か、でも今は愛呂恵さんの部屋だ」
「ふたりは…許して、くれるよな?」


俺は何となくそう思うが、軽く息を吐く。
きっと、ふたりは笑っているんだろうな…
俺に両親の記憶は何も無いけど、何となくそんな気がした。
俺の両親なら、絶対にそう言うと思ったからだ。
根拠は無い…強いて言うなら、血がそう訴えてる
きっと、俺の両親もお人好しだったのだろう…

俺はそんな事を考えながら、部屋のドアを開いて中に入った。
その時点でしまった…と思うがもう遅い。
せめてノックするべきだったんだが…


愛呂恵
「…すー……すー……」


「………」
「……」
(…ヤベッ、見惚れてた!?)


俺はあまりに無防備で安らかに寝息をたてる愛呂恵さんを、素直に可愛いと思ってしまった。
しかし、こんな愛呂恵さんの姿、初めて見たな…
今まで寝てる所を見た事無かったから、ヒジョーに新鮮だ。
愛呂恵さん自身も、こんなに安心出来るとは思ってなかったのかもしれない。
とりあえず、俺は愛呂恵さんの肩を優しく揺すってあげた。
すると…


愛呂恵
「!?」


ガバッ!と凄まじい勢いで体を起こす。
そして俺には目もくれず、愛呂恵さんは高速で着替えを始めた。
パジャマを一瞬で脱ぎ捨て、枕元に置いてあったメイド服に速攻で着替える。
その間、僅か数秒程度で、俺は色目を使う暇も無かった。
愛呂恵さんはそのまま着替え終わると、俺に向かってバッ!と深く頭を下げる。


愛呂恵
「申し訳ございません聖様!」
「初日からこの様な失態どんな罰でもお受け致します!!」
「どうぞ鞭で打つなり縄で縛るなり蝋を垂らすなり」
「何でしたら無理矢理膣出しして孕ませてもらっても構いません!!」


愛呂恵さんはもの凄い勢いの早口で捲し立てた…
俺は唖然となるものの、とりあえずこう言う。



「と、とりあえず、気にしないでください…阿須那がもう朝食作ってくれてるんで、皆で一緒に食べましょう」

愛呂恵
「……はい」


ことのほか珍しい姿を見た気がしたな…
あの愛呂恵さんがあんなに慌てた所は初めて見た。
かなりショックだったのか、気持ち愛呂恵さんの顔が沈んでいる様に見える。
俺に起こされたのは失態だと本気で思ってるんだろうなぁ…
そこまで気を張らなくても良いのに…


阿須那
「おっ、やっと起きたか〜?」
「とりあえず、シンプルな目玉焼き定食やけど、アンタも座って食べ」
「ほら聖も、冷める前に食べ」


「ああ、いつもありがとう」

愛呂恵
「……ありがとうございます」

華澄
「ど、どうかなされたのですか、愛呂恵殿?」

女胤
「無表情なままなのに、ここまで伝わる程暗黒面のオーラが見えますわよ?」


愛呂恵さんは確かにいつもと変わらぬ無表情なのだが、雰囲気は明らかに沈んでいて、このままだと自殺しかねない様にさえ見えた。
今まで完璧だった愛呂恵さんの弱さを見てしまったな…


阿須那
「とにかく、食べるで? ほな、いただきまーす!」


阿須那の合図で俺たちは一斉に食べ始める。
愛呂恵さんも箸を取って目玉焼きをつつき、とりあえず味は問題無さそうだった。
食べるペースが高速なのは変わらないな…


守連
「はむはむ…目玉焼き美味しい〜♪ ○方の塩だけで満足♪」


「やっぱ目玉焼きは○スターソースだろ! 定番だぜ?」

華澄
「拙者は、やはり醤油が一番でござるな」

阿須那
「ウチは塩コショウ一択や! やっぱりこのバランスがエエやろ?」

女胤
「私はオリーブオイルですね♪ これがあれば大抵何とかなります!」


やっぱり、皆それぞれの好みがあるよな〜
何だかこう言うやり取りも久し振りに感じる。
長らく、こんなフツーの日常なんて無かった気がするからな…
改めて、俺は現実に帰って来たのだと今更ながらに思う。
そして、今は新しい家族がここにいる…
俺は、ひとえにそれが嬉しかった。


守連
「愛呂恵さんは、何を付けるのが好きですか?」

愛呂恵
「……え?」
「そ、そう…ですね」


愛呂恵さんは話しかけられると思って無かったのか、少し戸惑っていた。
だけど、すぐにニコニコの守連にこう答える。


愛呂恵
「私の場合であれば、作る段階で好みのスパイスを混ぜますが」
「後から付ける、という状況であればそれになりますね」

阿須那
「スパイスかぁ〜あれ結構色々あって、どれがどの料理に合うか探すんが大変なんよな〜」

愛呂恵
「そうですね…特にレシピ無しで複数のスパイスを組み合わせてブレンドするとなると、慣れない内は中々望みの味にはなり難いかもしれません」

阿須那
「そうそう! それで肉料理によく使うんやけど、配分間違えたら香りがエライ事になったんよな〜」


気が付けばスパイス議論になっていた。
阿須那は夢の世界で勇気さんに師事してたし、大体の基本は出来ているはずなんだよな…
それでもやっぱり苦手はあるみたいだし、長年料理をやってる愛呂恵さんと比べたら基礎が違うのかもしれない。


愛呂恵
「…もしよろしければ、今夜にでも1品用意してみましょうか?」

阿須那
「あ、作って作って〜! めっちゃ興味ある♪」


そのまま、阿須那は愛呂恵さんとスパイスの話で盛り上がっていた。
愛呂恵さんも気が付けばいつも通りみたいで、俺は少し安心する。
俺たちはそんな感じで楽しく朝食を取り、とりあえずはその後それぞれ自由行動とした。




………………………







阿須那

「さてと、ほな片付けたらウチも出るわ〜」

「今日も、夕方までには帰るつもりやから」



華澄

「拙者も、昼まで少々出かけて来るでござる」



女胤

「私も、同じく出かけます」



守連

「うん、分かったよ〜♪ じゃあ、私は留守番してるね〜」





確か、阿須那さんは喫茶店で仕事をしていると言っていましたね。
そして、その店は聖様が姉と慕うケンホロウの風路様が一緒に働いているとも聞きました。
聖様の姉…義理とはいえ、聖様が生まれた頃からずっと一緒に育って来た方だという。
その絆は、相当大きな物なのでしょう…聖様の信頼も厚い様ですし。


愛呂恵
「阿須那さん、片付けは私がやっておきます…どうぞ、仕事の準備を」

阿須那
「そんなんエエよ…ウチは自分のペースでやってるさかい、任しとき」
「そん代わり、ウチ等が出てる間は家の事頼むわ」
「守連も最低限の家事は出来るさかい、手伝わせたらええから…」


そう言って阿須那さんは食器を洗い場に持って行く。
私も流石にじっとはしておられず、阿須那さんを手伝う事にしました。



………………………



阿須那
「アンタ、普段からそんなに気ぃ張りっぱなしなんか?」

愛呂恵
「気…ですか?」


私たちはふたりで洗い物をする。
阿須那さんはそれなりに慣れているものの、私にとってはやや気になる部分もあった。
そんな私の気持ちを読まれたのか、阿須那さんは私にそう言ったのでしょう…


阿須那
「まぁメイドさんなんやし、家事に関しては天下一品なんは見てて解るわ」
「せやけど、この家ではそんなに気ぃ張る必要あらへんで?」
「聖かて細かい事は言わへんし、もっと気楽にやったらエエねん」
「アンタの事は皆信頼しとるし、ちょっと位手抜いても誰も咎めはせぇへんよ…」

愛呂恵
「…はい」


阿須那さんは、楽しそうだった。
私は隣で食器を拭いていますが、阿須那さんの顔は嬉しそうです。
まだ、私にはよく解りません…今まで、仕事を楽しいと思ったことは無かった。
あくまで、私に与えられた仕事は完璧な物…全て迅速に、徹底的に。
与えられた命令は絶対…そう、教えられましたから。


愛呂恵
(…とはいえ、それも藍様があの性格だからこそ)


幼かったとはいえ、藍様の要求レベルは高すぎたのかもしれません。
メイドで逆らえるのも櫻桃さんだけでしたし、私は疑う事もしませんでしたから。
結果として今の私のスキルがあるのですから、一概に悪かった訳でもない。
ただ、今の生活からすれば、確かに気を張っている様に思われてしまうのかもしれませんね。


阿須那
「よし終わり! ほな、ウチは着替えて出るわ」

愛呂恵
「はい、後の事はお任せを…」



結局、それ以上阿須那さんは何も言わなかった。
ただ鼻歌混じりに楽しく歩いている阿須那さんの背中が、とても羨ましかった…







………………………







守連

「わぁ〜埃ひとつ無い…」



愛呂恵

「掃除は徹底すればここまで取れます」

「特にこういった埃は、エアコン等の風でも体内に侵入してくる可能性が高いですので」

「皆さんの健康を考えても、可能な限り綺麗にするのが良いでしょう」



守連

「はぁ〜やっぱり愛呂恵さん凄い〜」





守連さんは心底感心している様です。

私としては普通に仕事をこなしているだけです、が…それはそう叩き込まれた私だからなのでしょう。

そう、守連さんはそうではない…阿須那さんもそう。
私はここで考える…それなら私はどうすれば良いのでしょう?
聖様たちは、恐らく私が失敗したとしても、笑って許してくださる。
ですが、それでは私のプライドが許せません。
しかし、それを家族の皆さんに押し付けるのは、おこがましい事…
で、あれば…私がするべき事はひとつ。
私は家族の皆さんを立てつつ、自分の仕事を遂行する…やはりこれでしょう。





愛呂恵

「守連さん…守連さんは、自分の出来る範囲でやってくれれば構いません」

「もし守連さんが何かを見逃したとしても、それは私がしっかりとフォローします」
「私たちは…家族、なのですから」



守連

「うん、ありがとう〜♪ うふふ…ふたりで掃除すると、楽しいね♪」





守連さんはそう言って上機嫌になった。

守連さんも、楽しい…ですか。

やはり…それは、まだ私には解らない感情なのですね。

どうすればそれが解るのか? 私は心の中でそれを模索し続けていた。

ですが、まだ見付かりません。

きっと…それはまだ私には早いのかも、しれませんね…







………………………






愛呂恵
「それでは、次は買い物です。守連さん、忘れ物はありませんか?」

守連
「うんっ、ちゃんと財布も持ったよ♪」

愛呂恵
「それでは、行きましょう」


私たちは事前に薬を飲み、人間に偽装して商店街へと向かった。
服も外出用の普段着に着替え、私はメイド服以外の服に着替える。
良くも悪くもあのメイド服は世間的に問題ですからね…聖様への風評被害だけは起こさない様にしなければ!
ちなみに、家族全員に家の合鍵は渡されていますので、誰もいなかったとしても家には入れます。
そして、まずは食料品の調達です…今日作るスパイスも探すとなると、出来れば専門店にも行きたいですね…


守連
「商店街はこっちだよ〜♪」

愛呂恵
「はい…守連さん、転ばない様に注意してください」


私がそう言うと、守連さんは大丈夫♪と、笑顔で笑ってくれた。
守連さんは本当に楽しそうですね。
私にはこんな笑顔は到底出来ない。
ですが、悪い気分は一切ありません。
むしろ、心地良い?
こんな気持ちは、聖様の時にも覚えました。
それでも、これはその時とは少し違う気もしますね。



………………………



八百屋
「へいらっしゃい! おっ、初めて見るけど美人さんだね〜♪ こっちは妹さん?」

守連
「ん〜ん、家族だけど妹じゃないの♪」

愛呂恵
「とりあえず…これと、これと、これ…後は、これが良いですね」


私はある程度野菜を見たり触ったりして調べた。
そして、自分の目にかなった物を店長に注文する。
資金はあらかじめ聖様より預かっていますので、問題はありません。
現状ではあまり資産が多くなく、極力節約しては欲しいとの指示ですので、なるべく安く良い物を揃えなければ…


八百屋
「うっし、んじゃあこれな!」

愛呂恵
「ありがとうございます、ではこれで」


私は商品を受け取り、代金を渡す。
そして、店主に一礼して次の店に向かった。


守連
「今日は何を作るんですか?」

愛呂恵
「昨日がカレーでしたので、今夜はシンプルにパスタの予定です」
「ちなみに、昼食は何か食べたいリクエストはありますか?」

守連
「ん〜じゃあ、愛呂恵さんの好きな物が食べたい♪」


私は考えて固まってしまう…私の好きな物?
料理を自分で作り慣れる内、気が付けば特にこれという好みも無くなっていました…
そもそも、料理人において好き嫌いなど言語道断。
ありとあらゆる料理を提供するには、まず自分で味を確かめなければなりませんし。
となると…当面、私が1番知りたいのは風路さんの料理ですね。
聖様を小さい頃から育てた料理…やはり気になります。
阿須那さんも絶賛する程の腕前だと聞きますし、事実超一流のコックとしてお店に貢献していらっしゃる。
となれば、誰の舌に何が合うかを考える能力も相当長けているでしょう。
単純に不特定多数の舌に対しての料理対決であれば、私が勝利する自信はありますが、あの聖様の一番となるには、今の私でも相当高いハードルと言わざるを得ません。


守連
「愛呂恵さん?」

愛呂恵
「…すみません、少し考えていました」
「私の好きな…と言うより、食べてみたい料理はありますね」
「それでも、構いませんか?」


私がそう言うと、守連さんはうんっと笑顔で頷く。
守連さんは本当に無邪気ですね…ですが、守連さんの優しさは皆を沢山癒している事でしょう。
こうして私たちは買い物を終え、一旦帰宅しました。
この時点で時刻は11時、まだ昼食までには少し時間がありますね。



………………………



愛呂恵
「昼食ですが、外食でも構いませんか?」

守連
「外食ですか? 良いですけど…それなら聖さんに言っておかないと」


そう言って守連さんは聖様の部屋に向かう。
少し待った後、守連さんが戻って来る。
どうやら聖様はとりあえず家に残られる様で、昼食は自分で作るとの事。
今回はワガママを言う事になってしまいましたが、仕方ありません。
とりあえず、私たちはふたりで出かける事にしました。



………………………



守連
「あ、ここ風路お姉ちゃんと阿須那ちゃんが働いてるお店…ここで食べたかったんですか?」

愛呂恵
「はい、と言うより厳密には…風路様の料理が食べてみたいのです」


そう、私たちがやって来たのは喫茶『こすぷれ〜ん』です。
とはいえ、私はこの店に並ぶ行列を見て絶句しました。
そこまで大きく無い店にも関わらず、長蛇の列…これでは何時間待たされるか解りません。
流石にこの列に並んでいてはとても昼は過ぎてしまう…ここは諦めるしか無いのでしょうか?
とか思っていると、いつの間にやら守連さんが入り口近くの店員さんに話しかけていた…


守連
「えっと、一般席ふたり大丈夫ですか?」

店員
「はい、大丈夫ですよ! 阿須那さん、一般ふたりご案内お願いします!」


店員が何やら耳元に付けてる通信機を介し、阿須那さんに指示をした様ですね。
ああいう文明の利器は、やはり純粋に興味があります。
そして、少し待つと阿須那さんが現れました…奇妙なナース(?)服で。


阿須那
「何や、守連と愛呂恵やん? わざわざここまで食事に来たんか…まぁ、とりあえず入りぃな」

守連
「阿須那ちゃん、凄い服だね〜天使の羽も付いてる…」

阿須那
「ナースエンジェルって言うコンセプトらしいで? まぁ、これはこれで可愛いやろ♪」


そう言って阿須那さんはスキップして見せる、その際に完全にパンチラしましたが、阿須那さんは一切気にしてない様です。
ちなみに一部の客は相当どよめきました。
阿須那さん、中々の人心掌握術を持っていますね…
とりあえず私たちは店内に入り、誰も座ってないカウンター席に案内された。


阿須那
「ほな、メニューこれな? 決まったら誰か近くの店員呼んで、すぐ来てくれるわ」

愛呂恵
「はい、ありがとうございます」

守連
「うわ〜現実でのメニューは初めて見たけど、やっぱり色々あるね〜」


成る程、守連さんは以前来た事があるのですね。
道理で迷わずに判断しているわけです。
ただ、現実…ですか。私はそれを聞いてあの時の戦いを思い出してしまう。
聖様にとっても、白那様にとっても望まぬ戦い…
それは、聖様が自ら作り出した夢の世界が原因…


愛呂恵
(ですが、今は現実です…)


私はそう思い、とりあえずもうひとつのメニューを開いた。
そして、最初のメニューを見てすぐに決める。
やはり、ここに来た以上…これを食べてみなくては!


愛呂恵
「私はオムライスにします」

守連
「うん! これとっても美味しそうですよね〜、それじゃ私もそれにしますね♪」

愛呂恵
「良いのですか?」


私が確認を取ると、守連さんはうんっとニコニコ笑顔で答える。
無理をしている様な顔ではなく、自然な顔でした。
とはいえ、それは守連さんが最初に言っていた事ですね…


守連
「私、愛呂恵さんが好きな物が食べたいって言ったもん♪」

愛呂恵
「そうでしたね…では注文をしましょう」

守連
「あ、私が呼んであげるね〜♪ おーい! 阿須那ちゃーん!!」


守連さんはわざわざ阿須那さんを名指しで呼び、阿須那さんはこちらに駆け足で来た。
近くには他の店員がいたにも関わらず、平然と遠くの阿須那さんを呼びましたね…
まぁ、阿須那さんも嫌な顔はしていませんし、大丈夫な様です。


阿須那
「はーいはい! で、何食べる?」

愛呂恵
「オムライスをふたつお願いします…守連さんのは3倍増で」
「後、この料理は風路様に直接作ってほしいのですが、大丈夫でしょうか?」


それを聞くと、阿須那さんは?を浮かべるも、とりあえず聞いてみてくれる様でした。
阿須那さんは通信機越しに誰かにオーダーを伝える。


阿須那
「風路はん! オムライスふたつなんですけど…お客さんが、どうしても風路はんの作った物が食べたいんですって!」
「はい、はい…あ、了解です! あっ、ひとつは3倍盛りでお願いだそうです! ほな、お願いします〜」
「オッケーやって! せやけど、ちょっと時間かかるかも…って言うとったから、とりあえず飲み物でも飲んで待っとって♪」

守連
「あ、それならオレンジジュース欲しい〜♪」

愛呂恵
「では、私はホットミルクを…」

阿須那
「分かった、すぐ出したるわ♪」


そう言って阿須那さんはカウンターの裏に回り、コップをふたつ出してドリンクサーバーから注文の品を抽出した。
そして、オレンジジュースには軽く果物を添えて完成。
氷のカランッと言う独特の音と共に、それは守連さんの前に置かれた。
一方、私のホットミルクは可愛らしいキャラの印刷がされたカップに注がれる。
湯気の立つそれは私の前に置かれる。


阿須那
「ほな、伝票ここに置いとくから…」

守連
「うん、頑張ってね〜♪」

愛呂恵
「………」


私は料理が来るまでの間、阿須那さんの仕事を見ていた。
阿須那さんはこの上なく笑顔で、それをお客さんに分け隔てなく振り撒いて行く。
その笑顔に偽りは何ひとつなく、阿須那さんの楽しさを存分に表していた。
私は…そんな阿須那さんを、素直に凄いと思います。
ああやって、皆さんに幸せを純粋に提供出来る阿須那さんは、私とは明らかに違う。


愛呂恵
(私は…笑う事も、楽しむ事も出来ない)


生まれて初めて、悔しい…と思ってしまいました。
こんな負の感情は初めて、ですが悪意はありません。
むしろ、自分に少し腹を立てる程度です。
自分は、メイドとして完璧だと自負していました。
ですが、この人間世界において私というメイドは完璧でも、人に笑顔を振り撒く事は出来ない。
自分の持つ楽しさを、誰かに与える事も…出来ない。


守連
「阿須那ちゃん、とっても楽しそうでしょ?」

愛呂恵
「…はい」

守連
「阿須那ちゃん、この仕事が大好きだって言ってました」
「大好きだから、お客さんもこの店が好きになってほしいって」
「そんな楽しい事しながらお金も貰えるって、こんな幸せな事無いって…そう言ってました」
「…夢の、世界でですけど」


守連さんは最後まで笑顔を見せてそう言う。
それを聞いて私は気付く、私は自惚れていたのだと…
常に自分は完璧だと…自分なら聖様への奉仕を全てひとりで出来ると。
ですが、それは愚かな考えでした…私には到底、守連さんや阿須那さんの様な仕事は出来ない。
もしかして私には、誰かを幸せにする事は出来ない…?


風路
「お待たせしました! 通常オムライスとオムライス3倍盛り!」
「って、守連ちゃん…だよね? どうしたの? 私の料理が食べたいだなんて…」


風路さんはかなり自信が無さそうにそう言いました。
今の私たちは偽装薬で人間の姿に見せています。
なので、風路さんからしたら普通の人間に見える事でしょう。


守連
「あ、私じゃなくて…こっちの愛呂恵さんが」

愛呂恵
「初めまして風路様…私は、先日より聖様の家でメイドをやらせていただいております」
「ミミロップの、愛呂恵…と申します」


私がそう挨拶すると、風路様はとても驚かれました。
しかし、すぐに顔を笑顔に戻し、風路様は初対面の私に対してとてと気さくにこう仰られる。


風路
「とりあえず、私に様付けはいらないわ」
「貴女がどういう経緯で聖君と知り合ったかは解らないけど、聖君が受け入れているのなら、私からは何も言う事は無い」
「はい! とりあえず冷めない内に食べてね? 今回のはとっても自信作なんだから♪」


そう言って風路様…いえ、風路さんは口元に人差し指を当て、ウインクして頬笑んだ。
これです、これもなのです…どうして、皆は自然と笑えるのですか?
私は、全く理由の見付からないまま、とても良い香りのする風路さんのオムライスをいただく事にした。
その一口目の瞬間、私の全身に雷が落ちたかの様な衝撃が走る。
それは、今の私のプライドを木端微塵にする程の破壊力を秘めていました…!


守連
「うわ〜! このオムライス凄く美味しい〜♪」

風路
「ふふ、ありがと♪ 私の得意料理だからね! お客さんも、これ目当てで来る人多いから♪」


そう、それは掛け値無しに美味しい物でした…
正直、同じ味は絶対に自分では出せないと確信する。
この味付けはまさに風路さんのオリジナルで、とても市販品が出せる味ではありません。
無論、好みは人それぞれ…人によっては評価は左右されるでしょう。
ですが、このオムライスにはこもっている物が違う!


愛呂恵
(何と…何と私は傲慢だったのか……!)


私は、所詮独り善がりな料理で誉められていただけなのだと痛感しました。
風路さんの料理は、まず大前提として食べる者の気持ちが先。
そして、恐らく守連さんのオムライスの味は微妙に違うのだと予想出来ます。
私は試しに守連さんに頼んで、守連さんのオムライスを一口食べてみました。


愛呂恵
「………」

守連
「うわっ!? ど、どうしたの愛呂恵さん!?」
「何かズゥゥゥゥゥゥンッ…!って擬音が付いてそうな程のうなだれ方ですよ!?」

愛呂恵
「か、完全敗北です…私はまだまだ未熟者でした……これが、これが聖様の一番好きな味」


そう、聖様が1番大好きな食べ物はオムライスだと聞いていたのです。
そして、その聖様にずっと側でこのオムライスを食べさてあげていたのは、他ならぬこの風路さん。
これは、私の想像を遥かに越えている…!


風路
「あははっ、まぁ聖君も小さい頃はよく作ってくれってせがんでたからね〜」
「でも、愛呂恵ちゃんだってきっと作れるわよ?」


風路さんは笑顔で軽く言う…が、私には自信がありません。
少なくとも、今の私には…聖様がきっと幸せになれるであろうこの味は、きっと出せない。


風路
「愛呂恵ちゃん、愛呂恵ちゃんも聖君の事大好きでしょ?」

愛呂恵
「はい、愚問です」


それだけは間違いない。
私の胸の中にある聖様への愛情。
これだけは…誰にも否定はさせたくありません…!
何故なら、私が生まれて初めて覚えた、愛という感情なのですから…


風路
「だったら、絶対大丈夫…」
「愛呂恵ちゃんが、その心と愛情を持っている限り、きっと聖君は笑ってくれるわ♪」
「私が保証する、絶対大丈夫!」
「…おっと、そろそろ厨房に戻るね! お義父さんに怒られちゃう♪」


そう言って風路さんは楽しそうに厨房へと戻った。
そういえば、今の風路さんはコスプレではないのですね…
私は、未だに驚愕する味のオムライスをゆっくり味わう事にした。
そしてその味を学び、私はまだ強くなります…


………………………



守連
「美味しかった〜流石風路お姉ちゃん♪」

愛呂恵
「はい、まさかこれ程差があろうとは…」

守連
「でも、きっと愛呂恵さんのオムライスも聖さんは好きだと思いますよ♪」


守連さんは恐らく根拠も無しにそんな事を言う。
守連さんが世辞を言う性格でないのは私でも解る事。
つまり、守連さんは本気で言っている。
私の料理でも、聖様は好きだと…


愛呂恵
(いえ、違いますね…聖様なら、必ずそう言うのです)


例え、不味かったしても聖様はそう言う。
そしてそれは、聖様が私の事を信じてくださるからこそ…
私は、そんな聖様の信頼に答えなくてはならない。


守連
「大丈夫…聖さんは、愛呂恵さんの事も大好きですから♪」


守連さんはそう言って笑ってくれた。
気を遣ったと言うわけでもないでしょう。
つまり守連さんにとっては、少なくとも私の料理は風路さんに負けていないと言う事なのでしょう。
もちろん最大目標は聖様の1番ですが、ここは目標が大きい物だと解釈しましょう。
風路さんの料理を直接食べて私は学びました、料理とは…食べてくれる人の事を思って作るのだと。
決して、料理に無関心であってはならない…機械の様に、ただ同じ味を作るだけになってはならない。
私は慣れすぎた為に、そこを軽視していたのでしょう。
自分なら間違う訳がない、と…己の料理に何の疑問も抱かず、何の愛情も込めていなかった。
いえ、聖様に関しての想いは込めてあるのです…ですが、それだけ。


愛呂恵
(風路さんは、食べてくれる全ての人に、注げるだけの愛情を常に注いでいる)


考えてみれば、それは大きな差です…そして、すぐには埋め様が無い。
私は、ここでまた聖様の格言を思い出す。


『1度染み付いた習慣は、すぐには取れない』


私のありとあらゆる生活スタイルがまさにこれだ。
そして、この世界で聖様と暮らす以上、私は変わらなくてはならない。
いえ、変わりましょう…例え時間がかかっても。
私は、聖様が好きです…愛しています。
あの時とは違う…今なら堂々と言えます、もう…消える心配は無いのですから。
ですから、少しづつ…



………………………



阿須那
「へぇ〜これがそのスパイス?」

愛呂恵
「はい、以前とは少しレシピを変えてありますが、基本的には万能で使えるスパイスです」


夜、食事後に私は阿須那さんと厨房でスパイスの味見をしていた。
阿須那さんは小皿に盛られたそれをペロリと一口舐め、その味を確かめる。


阿須那
「うわ…こんな味出せるんや!?」
「香りもええなあ〜これやったら、肉でもサラダでも汁物でも合いそうや…」
「これ、どんなレシピなん?」

愛呂恵
「私のレシピは基本的に独自のオリジナルです」
「むしろ下手に同じ物を作ろうとすると、妙な癖がついてバランスが悪くなる可能性もあります」
「ですので、作るのでしたらここは自分のオリジナルをゆっくり探す事をお薦めします」
「そしてそれが出来れば、その時きっと阿須那さんの専用レシピとなっているでしょう」


阿須那さんはそれを聞いて納得する。
そして、私は阿須那さんに各種スパイスのレクチャーをしました。
阿須那さんは真剣に学んでくれている様で、教え甲斐があります。
…懐かしいですね、悠和さんの事を思い出します。
あの娘も、必至に料理を覚えていましたね。
そして、私も…でしたね。
私は白那さんから初めて料理を教わった時の事を思い出す。
今思い出しても、その味は独特でとても慣れた料理の味ではありませんでした。
ですが、白那さんは常に笑顔で料理を作る。
私たちは、そんな…基礎から始まったのでしたね。


愛呂恵
「すみません、そろそろ休ませてもらっても?」

阿須那
「ああ、堪忍な…こんな夜遅くまで」

愛呂恵
「いえ、お役に立てたのでしたら何よりです…それでは、お休みなさい」


私はそう挨拶して阿須那さんと別れる。
その後…私は入浴した後、着替えて布団に入った。
その日は、すぐに眠る事が出来ました。
今度は、目覚まし時計と言う文明の利器を使用しますので、寝坊はあり得ません!
同じ過ちは決して犯さないのが良いメイドです、えっへん。
…もっとも、この目覚ましは聖様のご両親が使っていた物だそうですが…



………………………



ジリリリリリリリリリリリリリリッ!!


愛呂恵
「………」


私は目覚まし時計の音ですぐに起き、すぐにそれを止めた。
予想以上に大きな音に驚きました…まだ耳が少し痛いです。
音量調節もある様ですので、設定し直さなければなりませんね…
さて、まだ時刻は5時半…私の仕事はここからです。
6時には聖様が起きて来られる、ランニング用の飲み物をご用意しなければ。
その後は、朝食の下ごしらえです。
この家で家族として過ごす以上、家族への負担は減らすのが私の役目ですから。



………………………




「あ…おはようございます、今日は早いですね」

愛呂恵
「はい、これが本来の勤めですので」
「聖様、こちらペットボトルのスポーツドリンクです」
「無理は決してなさらず、汗をかいたら適度に水分補給をお忘れなく」
「まだ冬とはいえ、体を動かせば汗はかきますので」


「ありがとうございます、それじゃ気を付けて行ってきます!」


はい、と私は聖様を見送ります。
そして、改めて朝食の準備を始める。
メニューとしては、紅鮭、玉子焼き、漬け物に味噌汁と、定番の和食と言った所です。
それらを作りながら、私は改めて料理の在り方を考える。
そして、私は知りました…今、私はこうやって家族の為に料理を作るのが、楽しいと思ったのです。
それは、心踊るという様な感じなのでしょうか?
私は今、楽しいと…思っているのですね。
そして、私は願う。
聖様が、笑顔でこの料理をを食べてくれます様に…と










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第4話 『クッキングファイター愛呂恵』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/17(水) 21:30 )