とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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序章 『魔更 聖、17歳への道』
第3話
夏翔麗愛
「私たちにとって…いえ、お母さんにとっては聖さんはヒーローだったんです」
「そんな事を言わずに、『地下に○ビルスーツが隠してある』と位言ってください!」


「ふ、冗談はよせ…」


とりあえず恒例の開幕ネタ。
何気に夏翔麗愛ちゃんはネタに愛されている様で何より…
俺たちは結局最上階から地下に向かって歩くという、遠回りをする羽目になっていた。
ぶっちゃければ、白那の能力で送ってもらえば良いのだが、何となくそれに頼るのは負けた気分になる気がしたのだ…



「ってなわけで、地下に到着!」

夏翔麗愛
「なのです!」


とりあえず、もうそろそろ昼になっている頃、俺たちは地下に辿り着いていた。
前に1度来た事はあるものの、俺は道まで記憶に残ってない。
あの時はテンパってたのもあるし、どこに何があるかとかは全く解らんな…



「そもそも、ここの地下ってやけに広くない?」

夏翔麗愛
「実の所、お母さんでも把握しきれてないのですよ…」
「深層に関してはほとんど未踏査区域ですし、想像以上に広いのでお母さんでも空間転移するのは怖いそうです」


そ、そりゃ恐ろしいな…あの白那さんですら恐れる地下か。
流石にそんな所に俺は行きたくもないし、あまり深く立ち入るのは望ましくない。
とりあえず、今はまだ会ってないメンバーに会いたいだけなのだが…


夏翔麗愛
「お姉ちゃんたちならモニタールームにいるのですよ」


「モニタールーム?」

夏翔麗愛
「藍お姉ちゃんが主に入り浸ってる部屋なのです」


藍が、ねぇ…まぁ、とりあえずそこに行ったら藍には会えるのか。
棗ちゃんとかも案外一緒にいるのかね?
俺は夏翔麗愛ちゃんの案内を受け、そのモニタールームとやらに辿り着く。
下に降りてから数分程度で着いたので、そんなに遠くもなかったな…
夏翔麗愛ちゃんはノックもせずに扉を開け、鉄製の扉は軽く開いて夏翔麗愛ちゃんは中に入る。
俺もその背中を追って中に入った。



………………………




「よし、とりあえずテストは良好だな…」


「…気分はどう? そっちから何か変化は感じられる?」


俺たちが中に入ると、まず目に入ったのは夏翔麗愛ちゃんと似た風貌の姉妹ふたり。
青いロングヘアーの少女がアグノムの藍(らん)で、黄色のショートヘアーの方がユクシーの『棗』ちゃん。
ふたりとも浮遊して浮いており、特徴的な2本の尻尾を揺らめかしていた。
ちなみに棗ちゃんは常に目を瞑っており、普段は超能力で幻視して周りを見てるんだそうだ。
どうやら、ふたりは何かの実験をしているみたいだが、側には黒髪長髪の美人さんがいた。
身長は170p位だろうか? って、こんな人間のメイドさんなんて城にいたっけか?
見た目的にポケモンの様には感じず、どう見てもフツーの日本人って感じの美人さんだが…



(あれ…でも、あのパッツンおっぱいに、プリプリのお尻、そして極めつけは直立不動のテラメイドポジション…)


それはいくら何でも、俺の記憶に残っている人にそっくりの立ち姿だった。
いや違う! どう見てもあの人だ!? やっぱ 間違うわけない!!
俺はかなり驚きながらも、その違和感に戸惑う。
すると俺たちの姿に気付いたのか、その人は無造作にこちらを見て、一瞬ビクッと震えて動きを止める。
その時点で俺は確信に変わった。
やっぱりこの人は…!?


愛呂恵
「…聖、様」


「やっぱり愛呂恵(あろえ)さん!? で、でも何で人間の姿に!?」


そう、その人は紛れもなくミミロップの『愛呂恵』さんだった。
しかし、俺の目には愛呂恵さんが人間に見える。
特徴的な耳や尻尾は見当たらない。
服こそいつものエロメイド服だが、愛呂恵さんは日本人の様な黒髪と黒い瞳をした、ただの人間になっているのだから…



「あん? 何で聖がここに…って、まぁついでにテスト結果が得られたから良しとするか」


「…そうね、第三者の目からも問題無いみたいだし」
「…ところで気分は? 副作用とか無い?」

愛呂恵
「…問題ありません、パフォーマンスは平常通りです」
「少なくとも、『偽装』は完璧かと…」


は? 偽装…?
何を言ってるのか俺には解らなかったが、藍たちの口振りから何かのテストをしていたみたいだ。



「…ふむ、とりあえず愛呂恵の体調には問題無し、と」
「なら俺様も試すぞ? 姉さん、コメントを頼む」


そう言って藍は何やら白い錠剤を口に入れて水を飲んだ。
タブレット型の丸い錠剤で、藍は少し顔をしかめていたが、何とか飲み込んだ様だ。



「ぐは、マズ…! せめて味付けとくんだった…」


「なっ!? いきなり藍の髪が黒髪に!?」


俺は全力で驚いてしまった。
薬らしき物を飲み込んだ藍は、突如として黒髪の少女に変わってしまったのだ。
体格とかは何ひとつ変わらず、髪と瞳の色が黒になっている…
姉妹共通の特徴的な尻尾も無くなってしまい、フツーの長袖、ズボンの日本人小学生に変わってしまっていた。
い、一体これは何が…?



「…良好ね、でも浮遊してるのはバレるわよ?」


「流石にそこまでは阻害出来ないか…まぁ、その辺は各自注意させるしかないな」
「おい、愛呂恵…そのまま耳でこのペットボトルを掴んでみろ」

愛呂恵
「了解しました」


言われると愛呂恵さんの目の前で突然ペットボトルが浮き上がる。
いや、藍の指示からすると、あれは耳で掴んでいるはずだ。
なのに、俺の目からはペットボトルが急に浮いている様に見える。
訳が解らないぞ…?



「やっぱり、そこまで認識を変える事は出来ないな…ゾロア系統の様にはいかないか」


「…でも、視覚的には成功よ? これなら人前に出てもほとんど問題は無いわ」

夏翔麗愛
「もうそこまで完成してたの?」


「まぁな…あくまで試作品だが、とりあえずこれを飲めば丸1日は『偽装』出来る」


偽装…?
って事は、あの錠剤は見た目に影響する何かの効果があるって事か?
少なくとも愛呂恵さんと藍は見た目日本人の人間に見えてる。
つまり…あれはそういう効果って事か?



「おい、それって一応聞くが何なんだ?」


「話を聞いて理解出来ない程のバカか? 『偽装薬』だよこれは…」


藍は俺の質問を聞いてバカにした様な顔で答える。
腹は立ったものの、今は抑えておく…とりあえず偽装薬、ね。



「…私と藍が開発した薬よ」
「これがあれば、ポケモンでも人間と同じ姿に偽装出来るわ」

愛呂恵
「…これで、ようやく」


愛呂恵さんは自分の手を見て表情を少し変える。
その顔は嬉しそうでもあり、複雑そうでもあった。
だけど、愛呂恵さんは俺の方をしっかり見て、俺にこう言う。


愛呂恵
「聖様、お待たせいたしました…」
「この愛呂恵、聖様専用のメイドとして…これから生涯を尽くします」


愛呂恵さんはそう言って深く頭を下げる。
その姿は人間その物だった。
そして俺は理解する、愛呂恵さんは正式に俺の元に来れるのだと…



「愛呂恵さん…俺も、迎えに来ました」
「これから、よろしくお願いします!」


俺も笑顔を見せ、頭を下げて懇願する。
そう、これが俺の今回の目的のひとつだ。
愛呂恵さんを、正式に俺の家に迎える事…
きっと愛呂恵さんも、それを望んでくれていたはずだから…



「やれやれ…まぁ、好きにしろ」
「その代わり、ちゃんと孕めよ? そんで人間とポケモンが子供を作れると証明しろ!」


「…まぁ、その辺はどうでも良いから、とにかく頑張りなさい」
「…聖さんなら、幸せにしてくれるでしょうし」

愛呂恵
「棗様、藍様…はい、行って参ります」
「おふたりから受けた恩は、決して忘れはしません…」

夏翔麗愛
「しみったれてはいけないのです! 別に今生の別れでは無いのですよ?」


確かに、そりゃそうだ…
とはいえ、愛呂恵さんにとってはここまで主従して来た主。
鞍替えするからには、それなりの覚悟もいるんだろうな…


白那
「…おっと、間に合ったかな?」

愛呂恵
「白那…様」


突然白那さんが空間転移で現れる。
その表情はおっとりしているものの微笑んでおり、どこか寂しくもあった。
そして、愛呂恵さんを見て白那さんは軽く肩を叩く。


白那
「まぁ、すぐ近くに住むんだし、会おうと思えばいつでも会えるから♪」
「だから、聖君の為に尽くしてあげて…君ならきっと聖君の役に立てるから」

愛呂恵
「白那様…これまでのご恩、感謝しても、し足りません」
「ですが、私は聖様の為に生きると決めました…」
「どうか、お許しください…」


愛呂恵さんは深く頭を下げる。
白那さんはそんな愛呂恵さんを見て、ただ微笑むだけだった。
まるで我が娘を優しく送り出す様に、白那さんは微笑んでいる。
そしてうんうん…と涙ぐんで頷き、愛呂恵さんを最後に抱き締めた。


白那
「許すも許さないもないよ…愛呂恵は愛呂恵の遺志で決めたら良い」
「そして、君が自分で決めたなら、オレたちは何も言わないよ…」

愛呂恵
「…はい、ありがとうございます」


白那さんはその後優しく愛呂恵さんを離し、愛呂恵さんはこちらを向いて駆け寄って来る。
そして愛呂恵さんは俺を見て、やや潤んだ瞳でこう確認した。


愛呂恵
「聖様、どうか…最初のご命令を」


「…じゃあ、一緒に家で昼御飯を食べましょうか?」


俺は、何となくそんな事を言ってしまった。
時間は昼…腹もちょっと減ってきていた。
そして、愛呂恵さんは無表情ながらも真面目にこう答える。


愛呂恵
「かしこまりました、この私にお任せを」



………………………



愛呂恵
「お待たせいたしました、昼食のお時間です」

守連
「わぁ〜♪ カレーだぁ〜!」

華澄
「おお…シンプルですが、香りが違います! これは食欲をそそられますな〜」

女胤
「た、確かに…! ただのカレーと侮れませんわ! この香り、間違いなく達人の腕前!!」


俺は愛呂恵さんと共に家に帰り、早速昼食の準備をしてもらった。
と言っても冷蔵庫には必要最低限の物しかなく、有り合わせの食材でカレーになったというのが現状だ。
しかし、愛呂恵さんのカレーは食べる前から美味しそうな香りを漂わせている。
これは確実に美味いと俺は容易に確信出来たのだった…



………………………



守連
「愛呂恵さん、お代わり〜♪」

愛呂恵
「はい、かしこまりました」

華澄
「…少し拙者には辛いですが、それでもこれは見事」

女胤
「はい、こんな美味しいカレーは初めてですわ…阿須那さんでもここまでの味は出せないでしょう」


愛呂恵さんのカレーはやはり絶品だった。
辛さは俺にはバッチリで、守連も問題は無さそう。
華澄と女胤には少し辛かったみたいだが、それでもしっかりと平らげる位には満足していたみたいだ。
愛呂恵さんは守連のお代わりを継ぎ足し、守連はそれもすぐに平らげてしまった。
さしもの愛呂恵さんも少しは驚いていた様だ。


愛呂恵
「…守連さんは、かなりの食欲があるのですね」
「それに対し、華澄さんは少食…女胤さんはそれよりかは多め」
「辛さのバランスもバラバラ…好みの食材も考慮しなければ」


愛呂恵さんは冷静に俺たちの食事を分析している様だった。
改めて愛呂恵さんはスゴいな…自分の食事はさっさと終えて、他の人の食事を観察してるんだから…



………………………



守連
「ごちそうさまです、とっても美味しかった〜♪」

華澄
「はい、流石は愛呂恵殿…抜群の腕前ですな」

女胤
「これから共に過ごす家族、歓迎いたしますわ♪」

愛呂恵
「皆様…ありがとうございます」


愛呂恵さんは丁寧に頭を下げてお辞儀する。
やや他人行儀ながらも、それが愛呂恵さんなのだから今は仕方ない。
でも、きっと愛呂恵さんも直に馴染む。
俺たちは主従関係なのではなく、あくまで大切な家族なのだと言う事に…



………………………



華澄
「そういえば、愛呂恵殿の姿は人間の様ですが、一体どうなっているのですか?」

女胤
「確かに、ミミロップにしては特徴らしい特徴が見えませんね…」


「何でも、偽装薬ってのを飲んだかららしい」


俺は、とりあえず藍たちから聞いた情報を皆に伝える。
そして、愛呂恵さんは試作品として預かっていた偽装薬を皆に渡した。


守連
「これ、不思議だよね〜?」

女胤
「ですが、便利なのは確かですね…気兼ねなく人目に触れられるのは助かります」


守連と女胤は試しに飲んでみたが、効果はすぐに出る。
守連も女胤も黒髪黒目に変化し、耳や尻尾は消えてしまったのだ。
女胤の特徴の花も消えてしまい、見た目は完全に日本人。
改めてスゴい薬だなアレ…


愛呂恵
「なお、聖様の分はこちらになります」


「えっ? 何で俺に?」


愛呂恵さんは俺にまで薬を渡す。
って、俺は見た目気にする必要ないんだが…
いや、何か違うなコレ? 守連たちが飲んだ錠剤とは形が違う。
丸い錠剤じゃなくて、四角い奴だ…何か違う効果だろうか?


愛呂恵
「そちらは、逆に聖様が誤認しない為の薬です」
「それを飲めば、私たちが偽装していても正しい姿で見える様になります」


成る程、それは助かるな。
わざわざ錠剤の形を変えてあるのは効果の違いの為か。
まぁ、俺のはとりあえず明日からでも良いか…今日は別に必要無いだろ。



「でも、やっぱり急に皆の見た目が変わると違和感あるな…」
「愛呂恵さんとかパッと見だと割と別人に見えるし…」
「女胤なんか花が無いだけでここまで違和感あるかのかと思ったよ…」

女胤
「うふふ、でしたら折角ですのでこの状態でベッドにでも…!」


「さて、俺は部屋に戻る…愛呂恵さん、解らない事があったら気軽に言ってくださいね?」

愛呂恵
「無問題です、全て私にお任せを」

女胤
「ああん、いつもながら素っ気ない…」


女胤は例によって崩れ落ち、愛呂恵さんはすぐに自己判断で動き始めた。
まずは家内部の把握か…これはすぐにでも全部覚えられそうだな。
俺はそう思い、とりあえず自室に戻った。



………………………




「さってと、とりあえず筋トレでもするか…」


俺は今日の分のノルマを始める事にする。
1日でもサボると癖になる、が俺の持論だからな。
俺はいつもの日課で腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットと基本メニューをこなし始める。
俺はそのまま1時間程やって、それから少し休む事にした。



………………………




「…さて、そろそろかな?」


俺はあれからテキトーに時間を潰し、ある程度時間を見計らってから部屋を出る事にする。
すると、狙い済ましたタイミングで華澄が俺の部屋の前にいた。


華澄
「あ…」


「そろそろ夕飯か?」

華澄
「は、はい…気付かれたのですか?」


「いや、ただの勘…」


俺はそう言って華澄と一緒に下に降りる。
そしてそこには、今までとは少し違う夕飯の食卓があった。



「おお…洋食か〜オムライスにハンバーグ、ナポリタンにシーザーサラダまであるな」

愛呂恵
「はい、守連さんのリクエストに答えてみました」
「味は問題無いと思いますので、どうぞ」


そう言って椅子に促される。
阿須那も今日は帰ってきており、既に着席していた。
守連もスプーンとフォークを両手に嬉々として待ち構えている。
俺と華澄は、空いている椅子に隣同士で座り、これでテーブルには家族全員が揃った。
そして、俺は両手を目の前で合わせ…



「それじゃ、皆さん…」

全員
「いただきます!」


と、全員で声を合わせ、賑やかに夕飯は始まる。
いつもよりひとり人数の多い食卓で、俺たちは楽しく愛呂恵さんの料理を食べ始めた。


守連
「はむ〜これ美味しい〜! 卵ふわトロで蕩けそう〜♪」

阿須那
「ホンマに美味しいな…きっちり味も仕込んどる」
「大したモンやな、ガチのメイドさんは…」

華澄
「はい、ここまでの味は記憶にありません…素晴らしい料理です♪」

女胤
「確かに、文句のつけ様が見付かりませんわね…まさか家庭でこの味を食べられるなんて」


皆大絶賛だった。
それ位愛呂恵さんの料理は美味しい。
愛呂恵さんは元々料理専門のメイドだったらしく、昔は赤ん坊の棗ちゃんの世話をしながら、白那さんに教わって料理を作っていたそうだ。
その後も愛呂恵さんは努力を続けて今の腕があると言っていた。
やっぱりこの辺りは経験が大きいよな…
特に、誰かの為にと思って作る料理は格別美味い。
この料理からも、愛呂恵さんの気持ちを感じられる気がするな…


守連
「愛呂恵さん、オムライスお代わりしていいですか?」

愛呂恵
「はい、少々お待ちを…」


そう言って愛呂恵さんは椅子から立ち上がり、厨房へと向かう。
そして数分後、再び大盛りのオムライスが姿を表した。
守連はそれを受け取り、幸せそうに食べる。
その後、愛呂恵さんもようやく自分の分の料理を食べ始めた。
愛呂恵さんの食事はかなりのスピードで、正確にこぼす事なく、食事をハイスピードに進めていく。
前にも見たが、愛呂恵さんは基本的に食事を高速で終わらせる。
いつでも自分が先に動けるようにする為、極力食事時間は早く終わらせたいそうだ。
食事量も必要最小限で、愛呂恵さんの分は華澄と変わらない位少ない量だった。
でも、愛呂恵さんの体格を考えたら、もうちょっと食べた方が良いと思うんだけど…



「愛呂恵さん、その量で満足なんですか?」

華澄
「確かに、見た感じ少食の拙者と同じ位の量に見えますが…?」

愛呂恵
「問題ありません…日常行動に支障が出る事はありませんので」

阿須那
「いや、それでもホンマはもっと食べるんやろ?」
「せやったら、ウチらに気ぃ使わんと遠慮せずに食べぇな…」
「アンタも、折角家族になったんや…皆の事、もっと信用し?」
「何もかも、全部アンタがやる事はあらへんねんから…」


阿須那は優しくそう言う…実際本心なのだろう。
俺は嬉しくなって微笑した。
愛呂恵さんは不思議そうな顔をしていたが、少し俯いて考えている。
やがて、顔を上げて無表情ながらもこう言った。


愛呂恵
「申し訳ありません…では、お言葉に甘える事にします」


そう言って愛呂恵さんは空になった皿を持って厨房へと向かう。
恐らくお代わりだろう…愛呂恵さんも、ちゃんと分かってくれたんだな。


女胤
「彼女、かなり不器用な様ですね…」


「まぁ、多分特性だからな…」

女胤
「あ…いえ、そうではなく」


俺は軽くボケてやる。
流石に女胤もツッコミが弱かった。
やれやれ、それではお前の立場が危うくなるぞ?
ただでさえ愛呂恵さんの存在感は相当だと言うのに、このままでは守連とセットで珍獣空気枠に入ってしまうぞ…?
と、冗談はさておき、俺は真面目にこう答える。



「愛呂恵さん、昔っからあんな感じだったらしい」
「感情が何ひとつなく、それこそ昔はロボットみたいな反応で、自分から話す事も無かったそうだ」

華澄
「余程、壮絶な過去があったのでしょうか…?」

守連
「ねぇ、聖さん…」


「何だお代わりなら自分で持って行けよ?」


俺が言うと守連は複雑そうな顔をした。
したいはしたいんだな…でも今は違うと。
とりあえず守連は少し情けない声でこう話した。


守連
「とりあえず、違うよ〜」
「ねぇ、もしかして愛呂恵さんって、あの村の出身なんじゃ?」


「は? あの村って何だ…?」

守連
「…ミミロル狩りの、村」


俺は固まる、そして思い出した。
あれは…俺が昔、ポケモンの姿となって守連とパーティを組んで旅をしてた頃。
その途中で、胸クソ悪い風習の村があったのを…


阿須那
「ミミロル狩りやて…何やその物騒なんは?」


「いわゆる、迫害だよ」
「その村で産まれるミミロルは、村の為にと、常に主(ぬし)ポケモンへの生け贄にされてたんだ」
「あくまで、村長と主ポケモンの結託で長らく続けられていたしきたりだったそうだが、俺は守連と一緒にその村の村長と主ポケモンをぶっ倒した」
「その後は、その村のポケモンは自由になり、もう事件は起こらなくなったはずだ」


今思い出してもムカムカする。
RPGなら割と定番のブラックな設定だが、それをリアルで体験させられた俺は、子供ながらにブチ切れたモンだ。
とはいえ、守連の助けもあってそんなに苦戦はした記憶も無いんだが…


華澄
「何と惨い…その様な事件が」

女胤
「ですが、愛呂恵さんがその村出身という根拠は?」

守連
「似てたの…あの村のミミロルちゃん」
「何も喋らず、感情も無く、話しかけられても反応しかしない…」
「まるで聖さんの言う、昔の愛呂恵さんみたいで…」


守連は悲しそうに俯く。
そして、皆が沈んでいるタイミングで、愛呂恵さんはお代わりを持って戻って来た。
自分の分だけじゃなく、守連の分まで持って…


愛呂恵
「守連さん、どうぞ」

守連
「えっ? ど、どうして?」

愛呂恵
「まだ、物足りなさそうに見えましたので、自分の分のついでに追加しました」


やはり愛呂恵さんの気遣いには頭が下がるな…
基本的に愛呂恵さんはこちらの呼吸を読んでいるかの様に、完璧なタイミングで行動をする。
まるでこちらの心を読んでいるかの様な仕事振りは、流石に藍の最高傑作と言われるだけあった。
数あるメイドの中でも、櫻桃さん自身も推してそれを認めていたからな…


守連
「あはは…ありがとう愛呂恵さん♪」

愛呂恵
「お気になさらず、家族…なのでしょう?」


守連は幸せそうに笑う、そしてうんっと、力強く頷いた。
愛呂恵さんはいつもの無表情でお代わりを高速で食べ始める。
やっぱり、さっきの倍は食べるんだな…フツーなら。


阿須那
「そういや、愛呂恵はミミロル狩りの村って知ってる?」

愛呂恵
「……はい、知っています」


愛呂恵さんは露骨に動きを止めた。
やはり、そうなのか…?
だったら、あまり古傷を抉る事はしたくないけど…


阿須那
「…堪忍な、嫌な事思い出させたみたいや」

愛呂恵
「いえ、構いません…所詮、忘れるべき過去です」
「私は、元々ミミロル狩りの村に産まれ、10歳の時に生贄に選ばれました」
「村では毎年そうやって、当時最年長のミミロルが生贄に選ばれていたのです…」
「あの村ではミミロルは全て家畜扱いし、ロクに屋根のある寝床すら与えてはくれませんでした」
「そんな中で生かされる内、村のミミロルはやがて涙さえ枯れ果て、感情を全て失いました」
「会話すら許されず、全てを管理され、私たちはただ養殖されてるだけの餌…」


俺は聞いてて吐き気がする。
何が養殖だよ…!
現実の養殖だって、ストレスとか与えない様に、空腹にならない様にって、気を遣っているのに…
そんなのは養殖ですらない! ただ、無責任に飼っているだけだ…!!


阿須那
「…ホンマにクソったれやな」

華澄
「ですが、愛呂恵殿は助かったのでしょう?」

女胤
「ええ、現実に私たちの目の前にいるのですから」

愛呂恵
「私が主ポケモンに差し出された後、私は白那様の手によって助けられました」
「あくまで白那様にとっては偶然の事でしたが、それでも私の事は大事にしていただきました…」
「そして、同時に人化を果たして記憶を失い、今に至ります」
「まぁ、今となれば黒歴史と言うべき過去ですね」


愛呂恵さんはさほど感情も込めずにそう語った。
そうか、白那さんはずっと理から逃げ続けていたから、たまたま並行世界に空間が繋がって、愛呂恵さんだけが偶然引き込まれてしまったんだな…
まさに奇跡…いや、これも必然か。
俺たちの縁は本当に深い。
ひとつやふたつの奇跡では足りない位の偶然で今ここにいる。
それは、もう偶然とはとても思えなかった。
やっぱり、俺たちは出逢うべくして出逢った家族なんだ…
だから、俺は改めて愛呂恵さんにこう言った…



「愛呂恵さん、改めてこれからよろしくお願いします」

守連
「私も、よろしく〜♪」

阿須那
「まぁ同年代やし、何でも気軽に言いや?」

華澄
「拙者も、よろしくお願い致します」

女胤
「これからは、皆で協力して生きていきましょう♪」

愛呂恵
「皆さん…ありがとうございます」
「この愛呂恵…聖様のメイドして、そしてこの家の家族として、精一杯…頑張ります」


愛呂恵さんは丁寧にお辞儀し、そう答える。
こうして、正式に新たな住人が増えた。
愛呂恵さんも、きっとこの家族を愛してくれるだろう。
そして、いつか本当に知ってほしい…これが、本当の愛情なのだと言う事を。



………………………



愛呂恵
「成る程、それではここに…」

女胤
「はい、基本的な服はその棚にも収まっていますので」
「…元々は、亡くなられた聖様のご両親の部屋だそうですが、どうぞお使いくださいとの事です」


私はそれを聞いて少し動きを止めた。
聖様のご両親は、既に亡くなられていたのですね…
そしてそのご両親のお部屋を、私が使っても良いと…
ここで私は考えます、そして瞬時にシミュレート、結論を導き出しました。


愛呂恵
「これは、ここで聖様と夫婦の営みをせよと理解します」
「流石は聖様…この様なプロポーズは想定していませんでした」

女胤
「何をどうやったらその結論に行き着くんですの!?」
「確かに過去にこの部屋で聖様のご両親が、ずっぷずっぷ…ああもう出そう…! とかやったんでしょうが!」
「ここはそういう事の為の部屋ではありませんわよ!?」


女胤さんに、見事にツッコマれましたね。
と言う事は深い意味は無い様です…ぐっすん。


愛呂恵
「しかし、聖様から特別な愛は感じます」
「愛と言う感情はまだ理解出来ませんが、これがそんな気もします」

女胤
「貴女、本格的に思考が特別製ですわね…」
「まぁ、聖様の事ですから、愛があるのは確かでしょうが…」
「くれぐれも、妙な気を起こさないでくださいよ?」

愛呂恵
「問題ありません、私は聖様が望まれぬ限り、そういった行為は決して致しませんので」


私がそう言うと、女胤さんは意外そうな顔をする。
まさか、同類とでも思われていたのでしょうか?
それとも、単に共感されただけなのでしょうか?


女胤
「成る程、聖様が気を許すわけですね…」
「それだけの悩殺ボディを持ちながら、聖様とあの城で間違いが起こらなかったのは、そういう事ですか」


…どうやら、理解された様です。
とはいえ、私としては聖様に愛してほしいのは本音。
聖様に限って、まずそんな事はあり得ないと思ってはいますが…
あえて、その中で私は1番になりたい…この様な想いは、初めて抱きます。
これは…我儘、なのでしょうか?


『許す』


そんな風に笑って言う聖様が想像出来てしまった。
そして、私は何故か安心感を覚える。
実の所、こんな個室で無防備に寝た事は1度も無い。
白那様に拾われ、それから私は棗様を護る役目をいただいた。
それから聖様との出逢い…私は聖様を護ると、信じると誓った。
そして、今は家族を…


女胤
「…何か心配事でも?」

愛呂恵
「はい…私は、こうして布団で寝た事は無いので」

女胤
「でしたら、安心してください…この家には私たちがいます」
「貴女が私たちを守ってくださる様に、私たちも貴女を守りますので」


女胤さんの言葉は感慨深い物だった。
そして、私はようやく理解する…
そうですか、これが…愛なのですね。
それはこの胸の中に生まれた、小さな温もり。
ここには、安心がある。
そして、家族がいる。
私は、皆に愛されている…そして、私も。


愛呂恵
「ありがとう、ございます」

女胤
「礼なら、聖様に」
「私たちは、聖様が許した貴女だからこそ、無条件で信用しています」
「ですので、貴女も信じてください」


私は無言で頷く。
そして、女胤さんはその場を後にし、私はひとり部屋で立ち尽くす。
とりあえず、私は初めて寝巻きに着替え、初めてベッドに横たわった。
全てが初めての感覚だ。
いつもなら、立っていても目を開けたままで眠れるし、そうしていた。
そのせいか、私は夢を見た事が無い。
熟睡と言う物を経験した事が無い。
不思議な感覚だった。
普段ならほとんど瞬きせずとも問題無いのに…
ですが、普通の人ならば眠る為に目を瞑る。
たったそれだけの事が…私にはこれ程難しいとは。
この時、私は聖様の格言を思い出した。


『長く続けた習慣って言うのは、中々抜けない物ですからね』


まさしくその通りだと私は理解しました。
とりあえず、私は目を瞑ります。
そして、力を抜いてリラックス…
後は…意識……が………










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第3話 『むちむちラビット愛呂恵さん♡』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/15(月) 00:13 )