1年生編
第7話 『紫音、夢への道』
紫音
「………」


10月ももう半ばという時期、私はひたすら勉強に明け暮れていた。
もうすぐ中間テストがあるし、ここでしっかりと成績取っておかないと…
とはいえ、まだまだ私が覚えなければならない知識は数多い。
そもそも小学校高学年レベルの計算ですらまだ曖昧なのだから…


紫音
「えっと…あ〜ダメだー、また間に合わなかった…」


私はひとり自室で頭を抱える。
今やっているのは、1分以内に100問の計算が出来るか?という訓練法だ。
レベルは精々2桁〜3桁の単純な足し算引き算なんだけど、今の私じゃ全問正解にはやや遠い。


紫音
「やっぱり3桁になると急に引っ掛かるんだよね〜」


私は鉛筆をクルクル回しながらも、問題集とにらめっこする。
そしてスマホの動画を見て、数学の授業を習っていたのだ。
今の時代はこうやって気軽に習う事を知れるのはとっても楽だとお婆ちゃんも言ってたんだよね〜


紫音
「…うーん、やっぱり反復あるのみかぁ」
「何度もやれば必ず計算力は身に付く! 地道だけど、それしかないよね…」


幸い、私はまだ1年生だ。
勉強する時間は山程ある。
ただ、それに対して私は人間みたいに小中校を通ってないから、どうしても知識が偏ってしまっているのだ。
特に英語は壊滅的にヤバい…こればっかりはもう慣れていくしか無さそうだし。


紫音
「看護師になったとしても、もし外国人の患者を看る時は英語が出来なきゃダメだもんね〜」


もっともそれは相手が英語圏の人ならば、だけど!
どっちにしても、国語や社会も成績は悪いしから全体的に勉強していかないと…


紫音
「国語はまだ何とかなりそうかな? 社会は、歴史系がイミフなんだよね〜」
「地理はまだ覚えれば何とかだけど…」
「…そう言えば、文系か理系かも来年には決めなきゃならないんだよね〜」
「…私ってどっちが得意なんだろ?」


そりゃどっちかって言うと理系な気はする。
…あくまで成績で言うなら!
とはいえ、別に苦手だからって選択科目を選ばない理由にはならないはず。
苦手科目を選択するって事は、それを重点的に勉強出来るって事でもあるんだから。


紫音
「一学期の期末は平均点50点台だもんね、次の中間では60目指したいけど…」


こればっかりは積み重ねが大事だ。
とにかく教科書とにらめっこして反復するしかない。
…とはいえ今日はもう21時過ぎ、そろそろ休まないと明日の授業に差し支える。


紫音
「あ〜あ、頑張るっきゃない!か…」


私は勉強道具を綺麗に仕舞って明日の準備を済ませる。
そしてしっかりとお風呂に入ってから就寝だ!
何事も常にベストコンディションが重要だって聞いたもんね〜♪



………………………



そして次の日の放課後…


紫音
(あっ! オジさん、はっけーん♪)


帰り道、私はいつものコンビニの喫煙所で大好きなオジさんを遠目に見付ける。
私はすぐにウキウキ気分になり、一気にダッシュで駆け寄って挨拶を…


紫音
「ち〜っす♪ オジ……って臭ぁ!?」


私はあまりの生臭さに鼻を抑えて悶絶した。
するとオジさんは体臭を気にしたのか、タバコを吸いながらもクンクンと袖の臭いを嗅ぐ。
だけど本人は何も気付いていないみたいだった。
まぁ、私の嗅覚は人間とは比にならないからね〜


紫音
「どうしたの〜? 何か血の臭いが凄いけど…?」

オジさん
「マジか…? これでも体はしっかり洗ってんだがな〜」

紫音
「体って言うより、その鞄とかから臭うよ〜?」


私は、オジさんが肩から袈裟がけでかけてるショルダーバッグを指差してそう言う。
良く見ると何やら赤みがかった染みが若干残っており、明らかに何かあったのだと私には予想出来た。
そんな私は、思わず不安になってオジさんにこう尋ねる…


紫音
「もしかして、また何かあったの? まさかまた拐われそうになったりしたの?」


それは、去年の12月に起こった事件の事だ。
ここで詳しくは話せないけど、もし良かったら過去のスピンオフストーリーを読んでみてね!


大護
「まぁ、心配すんな…何があっても俺は死なねぇよ」


そう言ってオジさんは微笑んでくれる。
だけど、何処と無くその表情からはオジさんの不安が伝わる様でもあった。
だけど、私はオジさんの『仕事』の事は良く知ってる。
だからこそ、その言葉の意味の深さも…


紫音
「うん…」

オジさん
「………」


私は、それでも頷いた。
例え私が何を言おうとも、何をしようともオジさんを止める事は出来ないと理解しているからだ。
そして、オジさんは絶対に約束は破らない事も知ってる。
そんなオジさんが死なないと言っているのだ、だったら私は信じる事が1番なんだと思う…


紫音
(去年の時みたいに、下手に首を突っ込んで誰かが助けてくれるとも限らないんだから…)


あの時は、結果的に通りがかってくれた華凛さんがいてくれたから助かったんだ…
華凛さんがいなかったら、私は確実に……


紫音
(あ、れ? 私あの時…誰に殺されそうになったんだっけ?)


何故か、そこだけスッポリと記憶が抜けていた。
とはいえ、何かあったのは確かだし別に気に留めない事にする。
今はそんな事よりオジさんの事だよ!


オジさん
「………」

紫音
「オジさん?」


気が付くとオジさんはタバコの灰の事も忘れて考え耽っていた。
やっぱり、いつになくオジさんは雰囲気が違う。
こういう時のオジさんは、大抵危ない橋を渡ろうとしている時だから…


オジさん
「…大丈夫だ、心配すんな」


そんな私の気を察してか、オジさんはニコッと笑ってくれた。
私もそれを見て、少し安心して笑い返す。
オジさんは、やっぱり優しいね♪


オジさん
「紫音ちゃん、これだけは約束してくれ…例え俺の身に何があっても、危険な事には首を突っ込まないと」

紫音
「…!! それって、何かあるって事?」

オジさん
「ああ、だが今度は必ず戻って来る」
「絶対に約束は守る…だから、頼む」


そう言って、オジさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
私はそれを聞いてコクリと頷き、今度はしっかりした顔でオジさんを見る。
私、信じるよ…! 絶対にオジさんは無事に帰って来るって!


紫音
「うんっ! オジさんがそう言うなら、私は信じる!」
「だから、絶対に約束守ってね♪」


私の満面の笑顔を受けて、オジさんは軽く笑ってタバコを吸う。
そして腕時計で時間を確認し、オジさんはタバコを吸い切って灰皿に吸い殻を捨てた。
そして軽く背伸びをし、首を鳴らす。


オジさん
「さ〜て、そろそろ動くか」

紫音
「頑張ってね、オジさん♪」


オジさんは背中越しに指を立てて反応を返した。
私はそんなオジさんの背中を見て祈る…
どうか、どうか神様がいるなら…オジさんを護ってくれます様に、と…



………………………



そして更に次の日、遂に世界は揺れ動く事になる。


紫音
「北極上空に巨大ゲート出現!?」

赤井
「テメェ等、緊急警報だ!! 全校生徒はすぐに校庭に集合!!」
「本日の授業は中止だ!! 急げ野郎共!!」


突然、校内放送でゲート出現のアナウンスが放送され、そのすぐ後に担任の赤井先生が竹刀を持って教室に飛び込んで来た。
そして開口一番避難を促し、私達は俄に慌てて校庭へと向かう事に…


ルナール
「ちょっ、何でいきなりゲートとか? まさかとんでもないポケモンでも出て来るわけ?」

海南
「でも、今年に入ってからゲートの出現はどんどん減少して今はもう確認されなくなったのに…」


ゲートとは、私達PKMが異世界からこの世界に出現する時に現れる扉だ。
私も、ルナールさんも、グリナも…皆ゲートを通ってこの世界に現出した。
つまり、今回のゲートも…ポケモンが?



………………………



校長先生
「え〜大変急な事なので、対処が難しいのですが…」


とりあえず校長先生の長々した話はほとんど誰も聞いていない。
今、校庭に全校生徒が集まり、皆戦々恐々としているのだから…


女子
「まさか、また去年の事件みたいな事が起こるんじゃないの!?」

男子
「前だって、戦争一歩手前だったじゃねぇか!!」


皆、不安ばかりが募っている。
そんな中、私は皆の視線を気にしながらもグリナの元に向かった。
するとグリナは安心した様に尻尾を振り、私にスマホを見せる。
それは北極の映像みたいで、赤黒く禍々しい超巨大なゲートが渦を巻いて開いていた。
そして、そんな映像の中…かなり小さいけれどふたりの人影が見える。
そして私は、その内のひとりの後ろ姿を見て愕然とした…


紫音
「!?」

グリナ
「こ、これ…やっぱり、あの」


私は口を抑えて声を出さない様にする。
下手に声をあげて不安を煽らない様にする為だ。
だけど、私の嫌な予感は当たっていた。
やっぱり、今回の事件も…オジさんが関わっていたのだから。


紫音
(ダメ! 信じるの!! オジさんは約束を守るって!)


私はそう自分に言い聞かせて神に祈る。
ポケモンにとって、人間の神様に祈るなんて馬鹿げてるけど、それでも祈らずにはいられなかった。


紫音
「……!」

グリナ
「紫音、さん…?」


グリナは不安そうに私を見る。
そんな中、私は皆から視線を浴びながらも膝を着いて祈っていた。
一見、異様にも見えるこの状況がしばらく続き…やがて。


グリナ
「…あっ!? ゲートが、消え…た」

ルナール
「ちょっ、マジで!? やったじゃん!! これで一件落着みたいな!?」

海南
「うう、良かった〜! もうダメかと思ったよ〜!!」


海南ちゃんは思わずルナールさんに抱き付き、すぐに拒絶されていた。
グリナはそんなふたりを見て苦笑いし、周りの生徒達も安堵の息を吐く。
そして、ただひとり…私だけがその意味を理解していた。


紫音
(やったんだね、オジさん♪)

赤井
「よっしゃあ!! とりあえず緊急事態宣言は解かれた!」
「だが、大事を取って今日は休校とする!!」
「全員、解散だー!! 速やかに帰宅しろ!?」


何故か赤井先生が勝手に仕切って話を進めてしまう。
全校生徒はそれに倣い、皆散り散りに下校する事になったのだ…



………………………



ルナール
「いやぁ〜結局あのゲート何だったんかね?」

海南
「今までで1番大きかったって話だもんね〜そんなおっきなポケモンが出て来ようとしてたのかな?」

グリナ
「…あれ、トキトワさんだけログインしてない?」

紫音
「グリナ、何見てるの?」


私達は仲良く(?)4人で下校しながら話し合っていた。
そんな中、ひとりスマホに目を向けるグリナに私は話しかける。
すると、スマホの画面には何やら掲示板が写っているみたいだった。


グリナ
「あ、いえ…ちょっとログが気になってたんで」
「やっぱり、ゲートのせいで更新がされてないみたいです…」


ふーん、グリナってそういうネットなら知り合い多いのかな?
私は調べ物位でしかネット触らないから、その辺は良く解らないけど…


ルナール
「まぁとりあえず良いんでない? もう終わった事だし…さっさと帰ろ帰ろ」

海南
「うん、流石に今日は寄り道しないで帰らないとね…」

グリナ
「確かに! その方が良いですね!」

紫音
「うん、今日は皆家に帰ってゆっくりしよう!」


私達はそんな風に意識を合わせ、4人で帰宅する。
結局その日はそれ以降平和な物で、あのゲートの事はすぐに忘れ去られる事となってしまったのだった…



………………………



そして更に更に次の日…


紫音
「オッジさーーーん!!」

オジさん
「うおっ!? 紫音ちゃんかっ!?」


私は再会したオジさんに向かって全力ダイブする。
オジさんはそれを受けて少し怯むも、優しく私を抱き留めてくれた。
そんな私を見て、一緒にいた海南ちゃんは苦笑いをする。


海南
「あはは…その人が例のオジさんなんだね」

紫音
「うう〜ん! やっぱりオジさんの匂いが無いと寂しいよ〜!」

オジさん
「はっはは…たったの数日じゃねぇか」


た、確かにそうなんだけど!
でも寂しいのは寂しいんだよ!


海南
「…へぇ? 紫音ちゃんってこういうダンディが好みなんだ〜♪」

オジさん
「ダンディって、俺はそんな紳士じゃねぇぞ?」

海南
「いえいえ、何となくですよ?」


海南ちゃんは何故か微笑んでそう言った。
私もオジさんも?を浮かべるけど、海南ちゃんはそれ以上語らなかった。
私はそろそろオジさんから離れ、改めてこう挨拶する。


紫音
「オジさん…お帰りなさい♪」

オジさん
「おう、ただいま…」


オジさんは優しく微笑んで私の頭を撫でる。
ちょっと疲れてるみたいだけど、まだ仕事の影響があるのかな?


紫音
「オジさん、大丈夫?」

オジさん
「ああ…まだちっとフラフラするがな」
「まぁ、肉体的には問題無ぇよ♪」


そう言ってオジさんはタバコを灰皿に捨てる。
そしてうーん!と背伸びをし、私達に背中を向けてこう言った。


オジさん
「そろそろ帰るわ…暴君が喧しいからな」

紫音
「あ、はは…そうだね、煩そう」

海南
「暴君って?」

紫音
「…海南ちゃんは、合わない方が良いかな」


私がそう言うと、海南ちゃんは?を浮かべて首を傾げる。
オジさんはいつの間にかいなくなっていた。
うーん、折角だからオジさんの家に行ってみようかな?
ここの所、勉強ばっかりであまり寄ってなかったし…


海南
「それじゃ、私はここで」

紫音
「あ、うん…また明日ね〜♪」


私は海南ちゃんと別れ、そのまま帰路に着く。
後は家に帰って色々準備してから出掛ける事にする。
久し振りになるし、皆元気にしてるかな〜?
って、細歩さんとは1度会ってるか…
確か蛭火さんも同じ職場らしいし、この時間だとまだいないかな?



………………………



紫音
「ごめんくださーい! 紫音ですけどー!」


『泥棒猫を入れるスペースはありませんよ、とっとと帰れ!!』


いきなりインターホンからそんな声が飛び出て来る。
相変わらずの暴君の態度に私は苦笑いしか出来なかった…
すると、すぐに横からオジさんの声が聞こえて暴君は狼狽える。
しばらくドタバタした会話が挟まれた後、ようやくドアが開く事となったのだ…



「待たせちゃって、ゴメンなさいね」


まず顔を見せてくれたのは、黒人みたいに肌の黒いセクシー美女。
綺麗なピンクのワンピースに身を包み、独特のカールが特徴のピンク髪ロングな見た目の人は、『カプ・テテフ』と言われる伝説のポケモン。


紫音
「あはは…『カネ』さんも毎日大変なんじゃ?」


私がそう言うとカネさんは苦笑する。
彼女はこの家のPKMでは最年長だし、苦労してる事だと私は予想したのだ。
そして多分その予想は外れていないはず…

私はカネさんに導かれ、オジさんの家に上がる事になった。


暴君
「ふんっ、相変わらず図々しい泥棒猫ですね!?」

紫音
「そういう貴女も、全く変わらないよね〜?」


次に目に入ったのは暴君の姿…
長袖の白いTシャツに秋用の青いズボンと、至極普通のスタイル。
最も、プロポーションという意味ではカネさん程じゃないにしろ暴君もかなり凄いけど。
そして、頭には種族特徴の赤い角が後ろ向きに生えており、青い尻尾も下に伸びている。
髪はサラッと真っ直ぐ伸びる、赤く綺麗なストレートロングだ。


オジさん
「おら、客に茶ぐらい出せ! ただでさえ俺は疲れてんだ…」


リビングにはオジさんも座っており、何だか疲れ切っていた。
やっぱり、あまり回復はしてないんだろうなぁ…
そんなオジさんに言われてか、暴君は渋々冷蔵庫へと向かう。
そして麦茶の入ったポットを取り出してコップと共にリビングのテーブルにドンッと置いた。

ちなみに、この家は床に直接座ってテーブルを囲む形式だ。
なので、私は持参したクッションを下に敷いてから座らせてもらう事にする。


暴君
「注ぐのは自分でやりなさいよ?」

紫音
「はいはい…」


私は軽く言いながらもコップに麦茶を注ぐ。
特に変哲も無い、普通の市販品の物だけど…


オジさん
「ピ〜ス〜? お前なぁ、少しは礼儀ってモンを…」


オジさんはそう言って低い声で暴君を睨む。
ちなみに、『ピース』と言うのが暴君の名だ。
オジさんが直接名付けた唯一の名であり、それこそが彼女の持つ確かな証。
そう…この暴君ことピースさんこそが、オジさんの1番大切な女性なのだ。


ピース
「別に良いじゃないですか、紫音さんにとっては勝手知ったる他人の家みたいな物なんですし」
「それに今更礼儀だのなんだの、逆に馬鹿馬鹿しくないですか? 完全な他人ならまだしも…」


ピースさんは予想外に正論っぽい事を言った。
流石のオジさんもそれには反論出来ず、やや罰が悪そうにしてタバコを口に咥える。
私はそれを見て、やや違和感を覚えた。


紫音
「…あれ? オジさんって電子タバコ吸ってたっけ?」

カネ
「皆が集まるリビングではそれを吸う様にしてるのよ」
「セーラが臭いとかに色々と煩いから、流石の大護も折れたって訳…」


ちなみにセーラというのは、人間の女性で元ローマ正教の司祭様らしい。
今は割愛するけど、とにかく癖だらけの性格でPKMの事を毛嫌いしている人でもあるから、あまり私とも顔を合わせる事は無いのだ。

それと、大護(だいご)って言うのがオジさんの名前!
何気に今まで出て来なかったけど、ここでようやく公開だね!
…って、まぁスピンオフ2作読んでる人には解りきってた事なんだけどね!?


大護
「まぁ、自室では普通の吸ってるし…ここ位ではな」


そう言ってオジさんは煙を吐くも、何処と無く物足りなさそうだった。
うーん、タバコの事は良く解らないけど、そんなに味が違ったりするのかな?


紫音
「蛭火さん達は仕事ですか?」

カネ
「ええ、帰って来るのは夜になると思うわ」


カネさんはそう言いながら棚からお菓子を出す。
普通に市販されてるポテチだね…
とりあえず1番大きなサイズのそれを開け、カネさんは大皿に全部出してしまった。
するとピースさんが早速それをポリポリ食べ始める。


紫音
「相変わらず、食欲旺盛だね…」

ピース
「食わなきゃ動けませんからね!」

大護
「オメーは先悪電気だけでも動けるだろ」

ピース
「それだけだと味気無さすぎますよ!? せめて非常手段にしてくださいね!?」


私はあはは…と笑う。
そう、ピースさんは『ポリゴンZ』というポケモンで、自身を電気信号に変換出来る能力を持っているのだ。
その能力は多種多様であり、スマホの中に潜ったり、ネット回線に侵入したりは朝飯前。
その気になればGPS乗っ取ったりも出来るらしいし、このネット社会の現代においてはまさに何でも有りのチート能力。
幸い、本人はそれを悪用する事はほぼ無いので『ほぼ』安心なのだけど…



「ちょっと〜何皆だけでお菓子食ってるのよー!」

紫音
「…誰?」

ピース
「ったく、この駄女神は…ひとりでネトゲに集中してるからでしょうが?」


突然リビングに現れたのは、長袖シャツとパンツ一丁のラフすぎる女性だった。
髪は暗い青色のストレートロングで、豊満な胸元からは何か石みたいなのがチラッと見える。
PKM…だよね?


大護
「おいアミバ、お客さん来てんだから下位履け」

アミバ
「誰がアミバなのよ!? せめてトキって言いなさいよ!!」

ピース
「その性格でトキは無ぇでしょう? むしろアミバ様になれるだけ誇りに思いなさい!!」

紫音
「…で、そのアミバ様は何なんですか?」

アミバ様
「アミバ言うな!?」


アミバ様(?)は全力でツッコム。
うわぁ…またキャラ濃いのが増えてるなぁ〜
ただでさえこの中だと私影薄いのに、更に地味になりそうだよ…


カネ
「その娘は、『ディアルガ』ってPKMでね…まぁ色々あってここに居候してるのよ」
「特に名前も無いらしいから、皆適当に呼んでたりするんだけど…」
「まぁ、便宜上ネットで使ってる『トキ』ってHNが今の呼称かな?」


成る程…で、それが何でアミバ様になるの!?
その辺が私全く理解出来ないんですけど!?
うーん、怖いけど今度グリナに聞いてみようかな?


アミバ様
「それより、その猫娘何? やたらと可愛さ振り撒いてるけど喧嘩売ってんの?」

大護
「お前は何処の姑だ…自分に可愛さが無いからって僻むなよ」

アミバ様
「違うわよ! アタシはこういう露骨に他人の家で堂々としている野良猫が嫌いなだけよ!!」

ピース
「言っておきますが、貴女よりも紫音さんの方がこの家の事知ってますからね?」
「むしろ貴女の方が一方的に喧嘩売って、その他人様に駄女神っぷりを見せ付けている滑稽な存在に見えますよ…」


その痛烈なツッコミを受けてアミバ様はプルプル震える。
うわぁ…何か可愛そうになってきた。
色んな意味で、この人残念そうだ…


アミバ様
「あ、哀れむ様な目で見るなーーー!!」


そう叫んでアミバ様は別室に逃げてしまった。
一体何しに来たんだろ?


カネ
「ふふ…あまり虐めちゃダメよ?」

紫音
「虐めてませんよ!? 私、ただあまりに残念そうだと思っただけで…」

大護
「カカカッ! まぁ残念なのは確かだしな!」
「とはいえ、一応居候は居候だ…仲良くしてやってくれや♪」


そう言ってオジさんは電子タバコを仕舞う。
そして特に面白い番組もやってないTVを寝転がりながら見ていた。


紫音
「あ、そうだ…宿題やらないと」

ピース
「何でわざわざここに持って来るんですか…? 家でやりゃ良いでしょうに」

紫音
「え〜? だって今日の宿題良く解らないし、教えてもらおうと思って〜」


私がそう言うと、ピースさんは露骨に嫌そうな顔をする。
何気にこの中で1番頭良いのはピースさんだからね…
入試の時も何度か教えてもらったし、実力は折り紙付きだ。
ただ、本人のやる気次第だけど…


ピース
「…ったく、何処が解らないんです?」

紫音
「えっとね、これなんだけど…」


結局、何だかんだ言いながらもピースさんは宿題を見てくれた。
基本的に口は悪いけど、しっかりと的確に解りやすく教えてくれるからホントに助かるんだよね〜
とりあえず、これで明日の授業もバッチリでしょ!



………………………



紫音
「それじゃ、今日はありがとうございました♪」

ピース
「ふんっ、代わりに今度奢ってもらいますからね!?」

大護
「おーい、アミバ! もう暗いから送って行ってやれ!!」

アミバ様
「だからアミバ言うな!?」


そんなこんなで、帰り際までドタバタしていた。
そして私はアミバ様に送られて家に帰る事になったんだけど…


アミバ様
「はい到着、じゃあね〜」

紫音
「えっ!? ちょっ!?」


気が付けば私は家の近くだった。
そしてアミバ様も既にいない。
一体何が起こったのか私には全く理解出来ず、私は途方に暮れてしまったのだ。
まるでここまでの時間が夢みたいな気分だよ…


紫音
(うーん、ホント良く解んない…)


とりあえず私は家に帰った。
そしてすぐにご飯を食べ、また自室で少し勉強をする。
ピースさんがあらかじめ範囲を教えてくれたから、今夜はそれを重点的にやる。
今夜の勉強は思いの外気が楽だった。



………………………



紫音
「…看護師の合格率って90%近くもあるのか〜」


ピースさんに聞いた話だけど、あくまで基礎的な学力がしっかりしてれば看護師の試験はそこまで難しくないらしい。
ただ、専門的な知識は必須だから、そこは必ず勉強するべし!とのことらしい…
やっぱり専門学校や大学で専門の知識をしっかりと学ぶべきだよね。

とはいえ、私の場合はまず苦手科目をしっかりと勉強しないとダメだ。


紫音
「…まずは専門学校か大学に、だけど」
「専門学校なら短期で行けるけど、その分詰め込まなきゃならないし、大学は猶予があるけど入るのも出るのも難しいしなぁ〜」


私の学力からいったら、やっぱり専門学校一択だろう。
意欲はあるつもりだし、専門学校で専門知識を学ぶのが1番近道な気がする。
そっちの方が、費用も安いもんね。


紫音
(だけど、まずはそこに入れる学力を得られないと…)


看護学校の入試に必要なのは数学、国語、英語、生物の科目らしい。
他にも小論文なんかも書かなきゃならないし、社会もしっかり勉強しておかないと…
うう…考えただけで大変そうだよ。


紫音
(だけど、弱音は吐かない! 私は絶対に看護師になる!)


私はそう自身を奮い立たせて勉強を開始した。
ピースさんが作ってくれたテスト用紙とにらめっこし、私は机に向かう。
まだまだ時間はあるけど、私は人間よりも学習が遅れているのは確かだ。
だからこそ、努力しないと…

私の夢は、PKMにとっては大きすぎるハードル。
それでも、私はその夢を叶えると決めたから走り続ける。
誰かの助けになりたい、そんな私の些細な夢だけど。
私は、その夢に向かって走り続ける……










『突ポ娘異伝録 春夏秋冬 〜四人娘の学園生活〜』



第7話 『紫音、夢への道』


…To be continued

Yuki ( 2021/10/01(金) 12:02 )