1年生編
第5話 『ルナールのメイド接客初体験! パイセンはかく語りき』
ルナール
「…で? 何でアタシがこんなトコに連行されてるわけ?」

海南
「え〜? だって友達なんだし、お昼は一緒に食べようよ〜♪」


その日の昼休み…アタシは唐突に楠に手を引かれ、屋上まで強制連行されていた。
いや抵抗しなかったアタシもアタシだけど、何でわざわざ屋上まで?
あまりにいきなりだから、集団リンチの刑にでもなるんかと思ったよ!?
…って、コイツに限ってそれは無いだろうけど。


ルナール
「別に食うにしても、教室で良くね?」

海南
「う〜ん、それだと別のクラスのグリナちゃんが来にくいかなって♪」


楠は両手を顔の前で合わせて可愛く微笑む。
いや確かに可愛いは可愛いかもだけど、コイツの中身はぜってー黒だから!
それだけは確信して言えるねマジで。


ルナール
「はぁ〜…何でそんな面倒な事してまで集まりたがるのか」

海南
「だって、高校生活3年なんてあっという間だよ?」
「進級したらそれだけ遊べる時間も減ってくるし、今の内にしっかりと絆深めて仲良くならないと!」


楠はそう言ってガッツポーズを取った。
眼をキラキラさせてるけど、私欲まみれなの明らかでしょ…
アタシはもう1度大きくため息を吐き、無言でツカツカと階段を上って行った。
楠はそれを見て上機嫌でスキップする。

はぁ…もう何でも良いわ、腹減ったし。



………………………



紫音
「あ、本当に来た…」

ルナール
「まず最初に言う事がソレか? どんだけ意外に思われてんの…」
「まぁ、これでもロンリーウルフは慣れっこなんだから、別にひとりでも良かったんだけどね?」

グリナ
「うわ、あからさまに機嫌悪いですね…」


やや呆れ気味な顔をしたふたりは、ビニールシートの上に座って待っていた様だ。
用意の良い事で、私の分のクッションまで準備してあるし…


海南
「それより、お腹空いた〜!」
「皆食べよ食べよ♪」


そう言って楠は自分のクッションに座り、早速学食のパンを袋から取り出していた。
思えばアタシも学食だからコイツにエンカしたんだよね…
くっそ…やっぱコンビニで何か買って来とくんだったか?
いや、それだと結局教室で捕まるだけか…アレ詰んでね?


ルナール
「はぁ…かったる、もう良いわ」


アタシは諦めてクッションに胡座かいて座る。
座り心地は微妙で、無いよりマシ程度の奴な…
多分100均か何かで買った奴でしょコレ?
まぁ、別に良いけどね…折り畳めて持ち運び便利なのがポイントだし。


紫音
「そう言えばルナールさんもパンなんだ?」

グリナ
「流石にフランスパンでは無かったですね…」

ルナール
「んなモン学食に無いっての! つか、あってもわざわざ買わないし捌くの面倒だし」
「つか何アンタ等、弁当? もしかして自分で作ってる訳? 女子力高っ!」


橘と琴紀はそれぞれ可愛らしい弁当箱を広げていた。
…いや可愛らし、いか?
まぁ橘のは贔屓目に見て可愛らしくも見える。
綺麗なそぼろ弁当に色取り取りの具材が乗っかってるし、見映えは相当良かった。

対して琴紀の弁当箱は……何か異様なキャラクターが蔓延る可愛らしさとは真逆のベクトルにカッ飛んだ何かだった。


紫音
「私のはお婆ちゃんに作って貰ってるから…」

グリナ
「私もお姉ちゃんにですね〜ひとり分作るのも2人分作るのも変わらないからって…」

ルナール
「あ〜そうなん? んで、琴紀のそれは何? キャラ弁って奴?」


アタシは流石に気になってツッコンでみた。
琴紀の弁当箱はいわゆるキャラ物の奴で明らかに男の子用のデザインだ。
更に中身は形容し難い何かの絵が描かれており、具材を使い分けて表現されている。
ぶっちゃけ無駄に手が込みすぎているキャラ弁だ。


グリナ
「はいっ! 折角なので今回は○ッター1の顔にして貰いました!!」

紫音
「あはは…アセリナさん器用なんだね」

海南
「凄いなぁ〜私、料理とか出来ないからちょっと羨ましい♪」


そう言って海南は焼きそばパンをかじる。
アタシもカレーパンをかじり、橘と琴紀も弁当を食べ始めた。
うーん乙女な空間だねぇ〜、てかぶっちゃけアタシ場違いじゃね?
冷静に考えてもアタシだけ浮いてる気がすんだけど?


ルナール
「………」

海南
「あれ? どうかした?」

ルナール
「…ん、いや別に良いんだけどさ」
「アタシと一緒にいて迷惑しないの?」


アタシの発言に3人はキョトンとなる。
いや、そんな顔される程変な質問だった?
アタシ的には割とマジな案件なんだけど…


紫音
「迷惑って、何に?」

ルナール
「いやほら、アタシとアンタ達は色々違うじゃん?」

グリナ
「まぁ、種族は確かに違いますけど…」

ルナール
「いやそれもだけど! じゃなくて…何でアタシみたいなはぐれ者と一緒にいようって思うのさ?」

海南
「そんなの関係無いよ♪」


楠は口元をハンカチで吹きながら笑って言う。
コイツの場合は発想その物がブッ飛びすぎてて、イマイチ信用ならないんだけどね!?


海南
「ルナールさんはルナールさん、私たちの友達だもん♪」

ルナール
「いや、だから何で…」

紫音
「じゃ、ルナールさんは嫌なの?」


アタシはそれを言われて言葉を詰まらせる。
そりゃ…面倒ではあるけどもね。
でも…嫌では無い、かな?


グリナ
「そもそも、ここに来た時点で受け入れてたんじゃ無かったんですか?」
「じゃなかったら、そもそも来ないですよね?」

紫音
「実際、来るかどうか私は半信半疑だったし…」

ルナール
「…あ〜、まぁそうね」
「ぶっちゃけ楠との会話が面倒になったから、来たわけだけども…」


どうせ拒否してもすがり付くからな…
面倒なだけだし、それなら受け入れた方がストレスにならない。


海南
「でも、ルナールさんはここにいて良いんだよ?」
「ひとりはきっと寂しいよ…」

ルナール
「だからアタシは慣れてるって言ってんの…別にひとりでも何とかなるし」

海南
「でも、私は寂しいよ? ルナールさんがいなかったら…」


楠は割とガチ目に悲しそうな顔をする。
アタシは色々と関わった事を後悔した。
もうコイツと出会った時点で詰んでたのに気付いたからだ。
願わくば、神様に時間を戻して欲しいと切に思う程に。

…まぁ、無理なんだけどねどうせ。
アレでしょ? バタフライなんとかとか言ってどうせ最後には収束するんでしょ?
ハイハイご都合主義乙…


ルナール
「チッ…ホント最悪」

紫音
「そうは言いながらもここにいるんだよね…」

グリナ
「ツンデレ乙ですね」

海南
「うっふふ! やっぱりルナールさんは優しいね〜♪」


アタシはもう諦める事にした。
下手に突っぱねたら反動がキツイ。
激流に身を任せて同化した方が絶対楽だ。
アタシは普通に楽な人生計画で生きていきたいんだから…



………………………



ルナール
「さて…バイトあるし、すぐに帰んないと」

海南
「ルナールさ〜ん、一緒に帰ろ〜♪」

ルナール
「…はいはい、途中までね」

紫音
「すっかり、諦めた顔になってる…」


橘は同情の目でアタシを見ていた。
むしろこっちは尊敬するわ!
橘の奴、こんなのといきなり友達になったってんだから!
普通、ドン引きしてそのままサイナラ〜ってなるのがテンプレじゃね?
まぁそれも橘のユルい性格あっての事なんかもしれんけど…


海南
「ルナールさん、毎日バイト行ってるの?」

ルナール
「いや、流石に土日は休ませてもらってるっての」
「てか、どんな発想に行き着いて毎日働く事になったん?」
「社畜かアタシは!」

紫音
「あはは…ルナールさんの過剰なツッコミももう慣れつつあるね」

ルナール
「いや勘弁してよ…アタシはコレでもダウナー系でクールに通したい派だから!」


それを聞いて橘は苦笑いしていた…
はぁ…とアタシは何度目かも解らない深いため息を吐き、ツカツカと早歩きで歩き始めた。
それを見て微笑みながら楠が横に並んで来る。
橘は苦笑しながらも後ろに付いて来ていた。


海南
「そう言えば、ルナールさんどうしてバイトしてるの?」
「前に言ってた、将来設計の一環?」

ルナール
「まぁそんなとこ…アタシは進学する気無いし、卒業したら安定した職に着きたい訳よ」
「そん時に自立して、金が無かったら何も出来ないっしょ?」
「だーからアタシは今の内にコツコツお金貯めてるわけ…」


「自立って…保護者の人には頼れないの?」


ここで言う保護者とは、『PKM保護責任者』の事だ。
いわゆるPKMを引き取って、衣食住を提供してくれる存在だね。


ルナール
「…あ〜まぁ何て言うん? ウチんトコはそこまでハートフルな家庭じゃないから」


アタシは髪を掻きながら曖昧に答えた。
他の家がどうかは知らないけど、アタシんトコはあくまで引き取って貰っただけの家だしね〜
アタシのランクじゃそこまで保証金出ないし、下手に責任取らされるよか自立してひとりで生きた方が気が楽だ。


紫音
「…家の人と、仲良くないの?」

ルナール
「むしろ良いって思うの? こちとらフランスからいきなりやって来た特定外来種よ?」
「単にフランスの施設から証明書貰って、この学校から近めの家検索して、ちゃんと合格出来たから正式にそこに住まわせて貰ってるだけの居候…」
「そんな厄介極まりない存在が、簡単に愛されると思う?」


アタシの言葉を聞いて橘はおろか、楠まで悲しそうな顔をしていた。
橘や琴紀んトコは違うんだろうけど、ぶっちゃけPKMは大抵が厄介者扱いだ。
去年の大事件は未だに尾を引いてる…特に日本国内外からのPKMには人類は冷たい。
誰も彼もが、PKMを愛でてくれる訳じゃないんだから。


紫音
「そっか…ルナールさんは、まだそんなに家の人と付き合いが長くないんだね」

ルナール
「それもあるけどね…あの家はそもそもハズレだから」
「まっ、こっちも迷惑さえかけなきゃ自由にはさせて貰ってるし、卒業までは我慢我慢…」

海南
「仲良くなろうとは、思わないの?」


楠は少し真面目な顔をしてそう聞く。
アタシはため息を吐いて、軽く言った。


ルナール
「無いね…向こうから歩み寄って来るならまだしも、こっちから行くとか蛇の巣をつつく行為だよ?」

海南
「でも、歩み寄らなきゃ何も変わらないよ?」

ルナール
「人の話聞いてた? 蛇の巣をつつくって言ったの…」
「噛まれんのはアタシなんだよ? 向こうじゃなくてね?」


アタシが少しだけ凄んで睨むと、さしもの楠も言葉を詰まらせた。
流石に意味位察したっしょ? アタシの家はそういう家なんだから…
歩み寄るとか寄らないとか、そういう立場の話じゃない。
アタシは確かに檻から解き放たれた獣かもしれない…
だけど、その外が安全とは限らないのだ。
もしアタシがそこではただの小動物だとしたら、より大きな肉食獣に近寄るか?
そんな事は絶対に有り得ない…それが生物界の掟なのだから。


紫音
「…一体、どんな家なの? 逆に気になるんだけど」

ルナール
「悪いけど、口外しないのが規律だから諦めな」
「少なくとも、アンタ達が想像してる家庭じゃないって事だけ覚えときゃ良いから…」


アタシはそう言って下駄箱から靴を取り出して履き替える。
橘達もそれ以上は何も言わず、自分達の下駄箱から靴を取り替えた。
そのままアタシはひとりで先頭を歩き、校庭に出て行く。
ふたりはそんなアタシの後ろから付いて来ていた…


グリナ
「あ、皆さん!」

ルナール
「ん? いないと思ってたら先に待ち伏せてたの?」


校庭に出ると、琴紀の奴が嬉しそうに尻尾を振りながら待っていた。
どうやら先に出て待っていたらしく、コイツも一緒に帰りたい口の様だ。


海南
「あ、グリナちゃ〜ん♪」


楠は琴紀に抱き付いて頭を撫で回す。
琴紀は複雑そうな顔をしながらも、されるがままの体たらくだった…
まぁ、気持ちは解るけどね。


ルナール
「アンタも抵抗するならした方が良いよ?」

グリナ
「う〜ん、しても無駄な気しかしないので…」


うん、全くの同意見だ!
楠の奴、無駄にフィジカル高いしね…多分力じゃアタシ達でも勝てない!


紫音
「あはは…海南ちゃん、少しは自重しない?」

海南
「うう…まさか嫌がられていたとは」

グリナ
「せめて手加減してもらえませんかね? 海南さん力が強すぎて…」


琴紀はややダルそうな顔で俯いて言った。
まぁ勢いがアレよな…うん。
つーか楠はアレで懐かれると本気で思っていたのだろうか?
どう考えても威嚇される案件でしょ?
…早足だったら知らんけど!


海南
「うーん、私って何故か動物に好かれないんだよね〜」
「犬とか猫とか可愛いの大好きなのに、いっつも逃げられるんだよ…」

ルナール
「いや自覚しろし、アンタ自身が原因だよ!?」
「いくら人畜無害の犬猫でも、アンタの1000万パワーで撫でられたら脱兎の如く逃げ出すわ!!」


せめて手加減を覚えろと言うのに…楠の奴、全力でガシガシやりやがるからな。
あんな事されたら、ライオンや熊でも嫌がるわ!
…楠ならやりかねんと思うのが逆に怖いけども!!


海南
「うう…でも可愛いのに逃げられるとその分ストレス溜まるし、仕方無くない!?」

ルナール
「アンタのストレスは永久機関か!?」
「改善しろっつってんの! 撫でたいなら力加減を覚えろ!!」


楠はガックリと項垂れる。
コイツの原動力が解った気がする…全部ストレスかっ。
良くも悪くも可愛い物好きでありながら、その過剰なパワーのせいで全てに逃げられるという…
そしてその時にストレスが蓄積されて、どんどんパワーは増すばかり…
そして無理矢理抱き付いてストレスを解消し、逃げられてはストレスを溜める…

何っつー負の永久機関…救いが無い。


紫音
「…海南ちゃん、いっつも全力だもんね〜」

グリナ
「そうなんですか? これが後2年続くと思うと気が滅入るんですけど…」

海南
「そこまで!? うう…だったら頑張るよ!!」
「撫でても問題無くなる様に!!」

ルナール
「そうしな…もっとも上手くいくか知らんけども」


コイツの性格考えても上手く行く気がしない。
まぁ、出来る限りのストレス解消法を考えるしか無いでしょ。
…アタシは面倒だから考えたくないけど。


ルナール
「ったく…」

海南
「あ〜ん、ルナールさん待って〜!」


アタシは楠の手から逃れながら帰路に着く。
結果的に更にストレスを溜める事になり、その後橘や琴紀に被害及ぶのは自明の理だった…



………………………



ルナール
「ちぃーす、おはーっす」

蛭火
「…アンタ、もう少し愛想良く出来ないんですか?」


私がバイト先で挨拶しながら店内に入ると、いきなりパイセンにそう注意される。
この人は蛭火(ひるこ)という名前のPKMで、『ドヒドイデ』という種族らしい。
見た目はかなりアレで、ぶっちゃけお客さんの前に出せる代物じゃないのが特徴のパイセンだ。

何て言うか…頭部がヒトデみたいな風になってて、それで全身を隠してる風貌?
その脚(?)は自由に動かせるらしく、脚らしく歩いたり出来るのが特徴だ。
他にも毒針飛ばしたり、毒液巻いたり、千切れても再生したりとかなりアレな能力持ち…
ぶっちゃけ、良くコレでキッチン担当出来るとマジに思うわ。


ルナール
「…まぁアタシ、コレが素なんで」

蛭火
「繕えってんです! それで客の前に立つ気ですかっ」


そう言って蛭火パイセンは脚の1本でアタシの頭を小突く。
ブニュンとした独特の柔らかさをしている脚で小突かれるも、それなりの重量がある為アタシは軽く仰け反った。
ちなみにパイセンの脚は基本的に前2本を常に開いており、それで視界を確保してるらしい。
見えない部分は直感で解るそうだ…パネェ。


ルナール
「…って、アタシの担当レジ打ちだけっすけどね」

蛭火
「ドアホウ、それだけで給料貰う気ですかっ!?」
「そろそろ接客の方もさせるらしいですから、覚悟しておくんですよ?」


そう言って蛭火パイセンはコック服に着替える。
何気に小さな体ながらスタイル良いんよな〜
性格も割かし真面目だし、あの見た目さえなけりゃ人気者になれたろうに…
本人もそれを理解してるから裏方専門になったんよな〜



………………………




「それじゃあ、早速やってみましょうか?」

ルナール
「…マジデ?」


アタシは店長の金剛寺 晃(こんごうじ ひかる)さん直々に接客のレクチャーを受けていた。
即ちアタシはコレからキャピって接客しなきゃならないわけで、マジにやらなきゃならない様だったのだ…


ルナール
「店長〜マジに良いんすか? アタシ自慢じゃないですけど愛想振り撒くとか無理ゲーっすよ?」


「それで良いのよ? だってそれが貴女の個性なんだから♪」
「さっ、しっかりご奉仕してきなさい!」


そう言って店長はアタシの背中をバシッ!と力強く押し、気合いを注入してくれる。
スポ根かっ…と内心思いつつも、アタシはとりあえず客のいるテーブルに向かうのだった。


ルナール
「ちぃーすご主人様コノヤロウ、今日も暇を持てあましてんすね? ご苦労様でーす」

客A
「いきなりキツイ出迎えやな!? 嬢ちゃん新入りか? 初めて見るPKMやが…」


何やら綺麗なスーツ姿の男性客は、ツッコミを入れつつそう聞いてきた。
何か仕事終わりに寄った…ってトコかな?
アタシはとりあえず、そうで〜すとだけ返してお冷やとおしぼりをテーブルに置いた。


客B
「うーむ、犬耳っぽい感じするけど何のポケモン?」

ルナール
「クスネっすよ〜、そんな珍しいんすか?」


今度は向かい側の席に座っていた太めの客がそう聞いてくる。
アタシは無難に返しながらも、とりあえず注文を待つ事にした。


客A
「ふーん、初めて聞くな〜」

客B
「最近、今まで見た事の無いPKMも確認されてるらしいし、この娘もそのひとりなのかも…」

客A
「…その辺のソースって確かなんか?」

客B
「少なくとも少数ながら確認されてる事例だし、現にこの娘もそうじゃね?」


ふたりは何やらそんな感じで論議を交わしながら、おしぼりで手を拭く。
そして会話しながらも、メニューを確認してオーダーをするのだった…
アタシはそれを確認しながら、手に持っているメモに記載する。
後はそれを見ながら店長にオーダーを伝えた。


ルナール
「3番テーブル、アイスコーヒーセットケーキで〜」


「オッケー♪ じゃあその調子で頼むわね?」


店長は軽くウインクしてそのままキッチンに向かう。
ああ見えて、ガチムチ系のスキンヘッド男性なのだから世の中解らない…
まぁ人間にも色々いるって事で!



………………………



ルナール
「ちぃーす、コーヒーセットお待ち〜」

客A
「おおきにな♪」

客B
「うーむ、典型的なダウナー系っぽいけどワルさはそこまで感じない?」
「見た目で損してるタイプ臭いけど…」

客A
「こういうタイプは、デレさせたら可愛い奴や!」

ルナール
「いや流石にそれは無いし、アタシがデレる未来も無い」

客B
「ウホッ、コレはツンデレの素質有りと見た!」
「ポケにゃんにも遂に新鋭の風がキターーー!!」


太めのご主人様は興奮しながらコーヒーを飲んでいた。
一体何が気に入って興奮してるのか、アタシには到底理解出来なかった…


ルナール
「つか、ご主人様達もこんなトコで萌え萌えしてないで家庭省みたら?」

客A
「生憎俺は独り身や、せやからここでPKMを愛でるねん!!」

客B
「ウ、ウチは理解してもらってるし!? コレも重要な情報収集ですしおすし!!」

ルナール
「あれ、冗談のつもりで言ったのにそっちはマジで妻子持ち? だとしたらヤバイ案件でしょコレ? 家庭崩壊的な?」


アタシがそうツッコムと、太めのご主人様は慌てながらも大袈裟にリアクションを取る。
色んな意味で衝撃的な事実を知った気がする…
普通、妻子持ちならこっちのイケメンじゃね?
まさか、キモデ…ゲフンッ!! 太めのご主人様の方が妻子持ちとは…!


客A
「カッカッカ! まぁあの奥さんなら大丈夫やろ♪」
「旦那の事、信じきっとるし…」

客B
「そ、そうよ! 僕の嫁は何があっても切れない絆で結ばれてるんですし!!」

ルナール
「熱々の熱弁乙、そこまで信じてあげれるならさっさと帰って奥さん愛してあげなって…」


アタシの無情なツッコミを受けて太めのご主人様は悶えてしまう。
あまりにオーバーなリアクションを見て、アタシは軽く引いた。
まぁこういう職業なのは理解してたけど、ね…


客A
「ハハッ、嬢ちゃん言い難そうな事をズバッと言いよるな〜?」

ルナール
「アタシ繕うの苦手なんで、言いたい事は基本言う性分なんすよ…」

客B
「そういう意味でもレアな属性だよね〜、ポケにゃんの娘達は比較的大人し目だし」

客A
「せやな…まぁ、例外もおるけど確かに全体的に見たら大人しいか」


アタシは他のパイセン達を見ながら考えてみる。
ここにいるPKMは多数いるが、確かにアタシみたいな性格の人はいないと言えるだろう。
…いやいるわ、ここからは見えないけど蛭火パイセンならぜってー似た様な事言う。
あの人、口悪い癖に面倒見良いし、アタシみたいなのにも細かく口出してくれるんよね…
ホンット、見た目さえアレでなきゃ!



………………………



ルナール
「ありがっしたー、またのお越しを〜」

客A
「おおきに、嬢ちゃんも頑張りや〜♪」

客B
「期待の新人だもんね! 応援してるよ〜♪」


そう言ってふたりは満足しながら店を出て行った。
奇しくもアタシの接客は成功を納め、十分に相手を満足させられたらしい…
いやマジデ? あんなんで良いん?


華凛
「ふふふ、初めての接客にしては上出来と言った所か?」


アタシの背後から声をかけてきたのは、偉大なる華凛パイセンだった。
アタシと同じ悪タイプであり、アブソルのPKM。
美しい銀髪に立派な角、そして見る者全てを釘付けにする巨大なパイオツ!
ぶっちゃけ、ここの店員では図抜けた人気を誇る看板娘であり、主な収入源の柱と言えるパイセンだ…

そんなアタシでも尊敬に値するパイセンが、上出来と?


ルナール
「いや、流石に無いでしょ…アレは相当特殊な性癖の客だっただけっすよ」

華凛
「だが、満足させたのは確かだろう?」


そう言って華凛パイセンは両胸を手で支え直す。
あのサイズの物体ともなると、さしもの華凛パイセンでも維持するのが大変らしく、男には永遠に解らないであろう苦悩があるのがよく解る。
デカさは大事かもしれんけど、ここまで大きいのを持つのも諸刃の剣なのだ。


ルナール
「…まぁ、たまたまでしょ」
「次も同じ反応が来るとも思えませんし…」

華凛
「確かにそうかもしれんが、それでもお前の個性はお前だけの物だ」


華凛パイセンはそう言って何処か遠い目をする。
アタシはそんなパイセンに若干の違和感を覚え、何となくこう聞いてみた…


ルナール
「華凛パイセン、何か悩みでも?」

華凛
「…悩み、ではないんだがな」
「何だかんだでほぼ1年、ここには世話になったからな」


そう言って華凛パイセンは別のテーブルに向かう。
すぐに切り替えて仕事に移る様はもう立派なプロであり、本当に1年位の経験しかない店員とは思えない程だった…



………………………




「皆お疲れーーー! 今日はこれで店仕舞いよーー!?」


店長の一声を持って、アタシ達の勤務は終わる。
各々今日の成果などを話しながら、店仕舞いの作業に勤しむのだった…
そんな中、店長はバチン!と手を叩いて皆の注目を集める。
やや静かになった店内で、アタシ達は店長の言葉を待っていた…



「皆! 今から華凛ちゃんに注目!!」

華凛
「………」


店長の横に並んでいたのは、尊敬する華凛パイセンだった。
何処か寂しげな顔をパイセンは覗かせており、アタシは何故か嫌な予感を感じてしまう。
そしてその後、華凛パイセンの口から信じられない言葉が放たれるのだった…


華凛
「私、常葉 華凛(ときわ かりん)は本日を持って…この店を卒業させてもらう!」


その言葉にほぼ全員が驚く。
店長や蛭火パイセンは予め知っていたのか、特に反応はしてなかった。
後は、ピジョットの凪(なぎ)パイセンや細歩パイセンも…


華凛
「この1年、本当に感謝しか出来ない日々だった…」
「マトモに働いた事の無い私にも優しく仕事を教えてくれ、働く事の大切さを知る事が出来たのは何にも代え難い経験と言えるだろう!」
「だが、私には夢がある…! その夢に近付く為の資金がようやく貯まった…」
「私は夢を叶える為に、劇団へ入る!!」


華凛パイセンの声は高らかだった。
その声は店全体に響き渡り、誰もがその強い意志に心を奪われる。
そして、誰ひとりとして…引き止める者はいなかった。
やがて凪パイセンが拍手をし始め、それに引きずられる様に全員が拍手を始める。
そして各々が応援や労いの言葉を伝え、華凛パイセンはそれを受けて軽く涙していた。

そんな中…アタシはひとり呆然と立ち尽くしており、蚊帳の外だった。
新人のアタシが何を言えば良いのかも解らないし、短い関係にも関わらず尊敬してたパイセンがいきなりいなくなる…
そんな現実を前に、アタシは何も出来ない弱者だったのだ…



………………………



ルナール
「………」


結局、アタシは何も華凛パイセンに残せなかった。
今私ははひとりで寂しくロッカールームで着替えており、アンニュイに浸っている。
わざわざ時間をずらしてまで独りになりたかったのだ…
だけど、そんなアタシの行動を見透かしていたひとりのパイセンがアタシの頭を優しく撫でる。

…ブニュっとした脚で。


ルナール
「…何すか蛭火パイセン? 惨めな醜態晒した後輩に叱咤激励すか?」

蛭火
「ドアホウ、まだ何も経験してないド素人が何背負おうとしてんですか?」
「大方、華凛の卒業宣言に気圧されて何も出来なかった最悪〜!」
「そんな感じで落ち込んでんでしょ? キモッ!」


やっぱこの人アタシと同類だわ…言い難い事をズケズケと言って来る。
いや、ある意味アタシの上位互換か…このパイセンはアタシよか太い精神してるし。
自分の見た目は気にしてる小心者の癖に、他人の事にはこれでもかって位に親身になってくれんだから…アタシじゃ到底敵わない。


蛭火
「アンタは何も気にする必要無いですからね?」

ルナール
「………」

蛭火
「華凛は、別に金が貯まったから卒業したんじゃないです」
「今卒業しても、この店は大丈夫だと確信したから卒業したんですよ?」


アタシは?を浮かべながらも、蛭火パイセンの顔を見る。
脚に囲まれた暗い中でのパイセンの顔は真剣その物であり、決してアタシを元気付ける為の方便でないのは良く伝わってきた。
だからこそ、逆にアタシは何だか惨めになる。
それでも、構わずにパイセンは言葉を続けた…


蛭火
「アンタはまだ新人ですけど、それでも華凛は結構期待してるんですよ?」
「そりゃ、お世辞にも接客向いてないとは思いますけど…」

ルナール
「…それ、フォローのつもりすか?」

蛭火
「それもアンタの個性だから思い詰めんなっつってんですよ!?」


また個性…そればっかじゃんか。
アタシの個性って何よ? こんな扱い難い性格と気性で個性?
そりゃ、今日の客は割と気に入ってくれたけども…そんなの特殊な例っしょ?


蛭火
「とにかくアンタは気にすんな! 明日から気持ち切り替えて仕事しなさい!!」
「…じゃなきゃ、華凛だって安心して夢追えないでしょうが」


アタシはそれを聞いてハッとなる。
そしてすぐに気持ちを切り替えた。
そうだ…アタシのせいで華凛パイセンの足引っ張ったら、それこそただの足手まといだ。
そんな風にはぜってーなれねぇ!
こんなのがアタシの個性だってんなら、それでやってやろうじゃんか。
そんで店の評判がどうなっても、文句言うなよ〜?


ルナール
(ふん…ホントに、何でアタシみたいのが)


そう心の中で愚痴るも、アタシの気分は晴れ渡っていた。
こんなアタシでも気に入ってくれる人がいるなら、それはそれで良いのかもしれない。
何故ならそれがアタシの個性らしいから…

今は…少しだけ偉大なパイセンの言葉を信じてみよう。










『突ポ娘異伝録 春夏秋冬 〜四人娘の学園生活〜』



第5話 『ルナールのメイド接客初体験! パイセンはかく語りき』


…To be continued

Yuki ( 2021/08/23(月) 10:02 )