1年生編
第14話 『ザルードの黄金週間』
カカ
「………」


アタシは『カカ』、ザルードのPKMであり5人家族(ファミリー)のボスだ。
今年から日本の高校に入学したアタシ達も、あれからしばらくの時が経っていた。
そんなアタシ達は、今とある難題と向き合っていたのだ…


ゼゼ
「ボス、これここで良いんすか〜?」

トト
「だー! これどうすんだ!?」

ノノ
「………」

モモ
「あ、あわわ…」


アタシ達は今、学校の保健室でてんてこまいになっていた。
何でこんな事になってんだ?っつーと、アタシ達は全員『保健委員』だからだ。


カカ
「ゼゼ、トト、慌てるな! 言われてた事を思い出せ!」
「ノノはモモを手伝ってやれ!」


アタシはそう家族に指示を出し、備品の整理を進める。
ゼゼとトトも同じ作業をしているのだが、不器用なふたりは小さな備品を手にあたふたしていたのだ…
アタシは軽くため息を吐くも、先生からの言葉をもう1度思い出す。



………………………



カカ
「は? 今からアタシ達だけで?」

保険医
「そっ、ちょっと仕事でね…街の病院の方に顔出さなきゃならないから」
「まぁよっぽどの事が無い限りは大丈夫だと思うし、任せても良いわよね?」
「基本的には備品の整理と掃除だけしてくれれば良いから♪」


担当の保険医(女性)は放課後アタシ達家族にそう言ってきたのだ。
確かに放課後は部活動関係の生徒位しか来ないだろうし、何なら簡単な手当てはアタシでも出来る。
時間は今からだと1時間半〜2時間ってとこか。


カカ
「別に良いっすけど、17時には帰っても良いんすか?」

保険医
「ええ、一応他の教師にも言伝てはしておくから」
「もし何かあったら、私の携帯に連絡して」
「それじゃあ、任せるわね♪」


そう言って先生はウインクをし、長い髪を翻らせて背を向ける。
そして白衣姿のまま保健室から出て行き、場にはアタシ達だけとなった。
アタシは軽く息を吐き、家族を見渡してこう告げる。


カカ
「聞いたなテメェ等!? こっからはアタシ達がこの場を守る!!」
「ぜってぇにミスするんじゃねぇぞ!?」


アタシの号令に家族は各々のテンションで答える。
こうしてアタシ達は先生のいない中、保健室の掃除等を担当していたのだ…



………………………



ゼゼ
「だー! 終わった〜!!」

トト
「これで大体整理出来たよな!?」

カカ
「よし、とりあえず良いだろ…ノノ、モモ! そっちはどうだ?」


備品の整理を終えたアタシは掃除を担当していたふたりを見る。
すると綺麗にベッドのシーツは取り替えられており、床のゴミもしっかりと掃除されていたのに気付く。
アタシは無言で頷き、とりあえずは一息付く事にした。


カカ
(時間はまだ16時か…後1時間はあるな)


アタシは壁時計を目にして時間を確認する。
保健室の外からは今も部活動をしている人間の声が聞こえており、運動部はまだまだ盛況の様だと感心した。
そしておもむろに窓際へと向かい、アタシはそこからグラウンドを眺める。

活動してるのは主に陸上部の様であり、短距離走のタイムを測ったりしている様だ。
アタシはそんな風景をしばし見学していた。


カカ
(人間の身体能力なんざ、アタシ達の足元にも及ばねぇんだよな…)


今の世の中、PKMと呼ばれる人化したポケモン達はかなりの人数がいるらしい。
その中でもアタシ達みたいに同時5人も揃って現出したのは相当レアなんだそうだ。
当時アタシにはそれが良く解らなかったものの、今だと少し考えはしてしまう。

もし…もしアタシひとりだけが、この世界に来ていたらどうなっていたのだろうか?
そんなもしもを考えてしまうと、何故だか体が震える。
アタシは、もしかしなくても…本当は弱いのかもしないな。


モモ
「…ボス?」


気が付くと隣でモモが心配そうにアタシの顔を見ていた。
アタシの身震いを見てしまったせいだろう。
アタシはグッ、と右腕で自分の体を締め付けて歯を食い縛る。
アタシはコイツ等のボスだ。
なら、少なくともコイツ等に余計な心配は与えちゃいけない。
アタシはそう思って気を引き締めた。


カカ
「よし、お前ら! 今から訓練だ!!」


アタシはバッと後ろを向いて家族にそう叫ぶ。
全員が驚くも、アタシは気にせずに部屋の中央に歩いて全員の注目を集めた。


ゼゼ
「ボス…訓練って何の?」

カカ
「スカかテメェは…技の訓練に決まってんだろ?」


アタシはゼゼを睨み付けてそう言ってやる。
そしてアタシは床に両手を着け、首元から緑色の蔦を4本伸ばす。
そうするとアタシの周囲には緑色のオーラが放たれる。
その草タイプ特有のエネルギーは回りにいる家族全員を包み込み、癒しの力となるのだ。
それを受け、家族達は各々反応を返す。


ゼゼ
「げぇ〜、俺苦手なんだよな〜」

カカ
「タコ…お前らもいい加減使えるようになれ!」
「同い年のアタシが出来てんだ、同じザルードのお前が出来ねぇ訳無ぇだろ?」

トト
「つっても、こんなコンクリート床じゃ大地の気は…」

カカ
「コンクリートも大地の上に建ってんだ! だったら大地の上と変わんねぇだろうが?」


アタシはそう言ってふたりに無理矢理訓練させる。
ったく、このふたりは口ばっか達者でこういう所は全然なんだからな…


ノノ
「………」

モモ
「お〜! ノノはもうそこまで出来てるですか!?」


見てみると、ノノは小さいながらもしっかりと気を放っていた。
あれこそアタシ達ザルード特有の技…『ジャングルヒール』だ。
悪猿ポケモンと言われるアタシ達一族だが、そんなアタシ達が持っている特有の能力は他者を癒す為の技…
アタシは、そんな能力を持つ事に意味が有ると思って保健委員に立候補した。

例え元暴れ者でも、誰かを癒せるならそれに意味は有るはずなんだと思い…


カカ
「ノノはもう自分の力だけで大丈夫そうだな、モモも負けてらんねぇぞ!?」

モモ
「は、はいっ! が、頑張るです!!」


モモも両手を床に着けて目を瞑る。
そして首元から蔦を出し、気を放とうととした…が、イマイチだな。


カカ
「モモ、意識を大地に集中させろ! もっと地に根付く草の力を引き出すんだ!」

モモ
「は、はい!」


モモは威勢良く答えるも、全く気は集まっていなかった。
やれやれ…モモは真面目でも力の使い方がまだまだだな。
アタシはモモの肩に手を当てて直接気を送ってやる。
するとモモはビクゥッ!と体を震わせてしまった。


カカ
「こん位でビビるな! 気の流れをしっかりと読み取れ!!」

モモ
「は、はいぃっ!!」


モモはビクつくも、しっかりと気をコントロールしようとする。
まだまだ拙いが、まぁ今はこんなモンか。
アタシはモモから手を離し、こう助言してやった。


カカ
「今日から毎日訓練しろ、モモは気の使い方さえ掴めばすぐ覚えるだろ」

モモ
「は、はいっ! 頑張るです!!」


モモは可愛らしくガッツポーズをとって答えた。
さて、このふたりは良いとして問題は…


ゼゼ
「はぁ…」

トト
「やる気出ねぇな…」


アタシは顔を押さえて深いため息を吐く。
コイツ等は当分、缶詰だな…


カカ
「良いかテメェ等!? 夏休みまでに出来なかったら覚悟しとけよ?」


アタシがそう凄んでやるとゼゼとトトは顔を青冷めさせる。
そしていかにも適当なやり方で訓練する姿を見てアタシはまた深いため息を吐いたのだった…



………………………



カカ
「…ゴールデンウイーク?」

ゼゼ
「そうっすよ! 今年は明日から6連休っす!!」

トト
「だから、折角だし旅行でもしねぇかって話なんすよ!」


そんな話を唐突にされてアタシは呆れていた。
旅行って、そんな資金何処にあるってんだ…?
アタシ等5人の保護責任者はそこまで裕福でもない、こんな人数まとめて遠出させる余裕は無ぇだろ。


カカ
「お前ら頭でもやらかしたか? そんな金何処にあんだよ?」

モモ
「ボス、これを見るですよ!」


そう言ってモモがアタシに見せてきたのはスマホの画面だった。
どうやら○INEの画面みてぇだが…そこに表示されてたメッセージを見てアタシは顔をしかめる。
その内容とは…


『味金先生発! 3泊4日温泉旅行!! 関係者のみ参加自由!!』


とまぁ、そんな内容だ。
いかにも怪しさ満点だが、発信元はあの紫音先輩だった。
つか、モモの奴いつの間に先輩と連絡先交換してやがったんだ?
ちなみに紫音先輩はアタシ達と同じ保健委員であり、先月から一緒に活動を続けてたりする。
そんな中、前の縁もあってかモモは特に先輩に懐いてしまっていたのだ。

しかし、紫音先輩からねぇ…味金先生つったら、今年来たばっかの英語教師だっけか?
主に2年担当らしいからアタシはよく知らねぇけど…


モモ
「費用は先生が全額負担してくれるらしいですよ?」

カカ
「…マジか、そんなウマイ話あんのか?」

ゼゼ
「いやでも、あの先輩が言うんだし…」

トト
「流石に詐欺って訳じゃ無いんじゃ?」


イマイチ信用はしかねるんだがな!
先輩はともかく、先生の方は殆ど会った事も無ぇんだぞ?
しかしまぁ、とりあえず話だけでも聞いてみるかな…
アタシはそう思ってモモに返答を指示する。
まずは話だ…判断はそっからだな。



………………………



紫音
「あ、モモちゃんこっち〜♪」

モモ
「先ぱ〜い♪」


時刻は昼休み、アタシ達は弁当を持って屋上に来ていた。
そこには先客で既に何人かが居ており、中でも見覚えのあるPKMも…


ルナール
「おっ、出たね例のザルード軍団…アンタ等も参加すんの?」

カカ
「ども…まぁ、話聞いてからっすね」

グリナ
「まぁあの味金先生が言い出した話ですし、気楽に参加してみては?」


そんな軽く言われてアタシは顔をしかめる。
とりあえずその味金先生ってのは相当な先生みたいだな…
先輩の口振りからすると、以前からそういう話に参加してたんだろうか?

とりあえずアタシはその場に座って弁当を食う事にした。



「あ、綺麗な具材だね〜♪ もしかして手作り?」


今度は唐突に人間の女がアタシに話しかけて来る。
制服を見ると緑のリボン…つまり2年生であり、先輩っつーわけだ。
多分紫音先輩の友達なんだろう。
なので、アタシは極力失礼の無い様に答えておく。


カカ
「まぁ、あんま裕福な家じゃないんで…家族のは全部自分が作ってるっす」

モモ
「皆ボスの手作りなんですよ〜♪」


「そうなんだ〜♪ あ、私は『楠 海南』…よろしくね〜♪」


そう言って先輩は顔の前で手を合わせてニコニコ笑う。
楠 海南…ね、こんなPKMだらけの中なのに違和感無く飯食ってるって事は、もうずっと一緒にいる証拠なんだろうな…
ちなみにモモは嬉しそうな顔で紫音先輩の隣に座っており、弁当を食べ始めていた。
ゼゼとトトも遅れてアタシの側にそれぞれ座る。
ノノは…気が付いたらもうひとりで食い始めてるな。



「ふーん、改めて見ると人間と殆ど変わらないんだな…」


更に別の方向から新たな声。
今度は男であるものの、ネクタイの色から2年生だと解る。
この先輩も関係者って訳ね…



「…俺は柳、『柳 長治』だ」

カカ
「…自分は、林田(はやしだ) カカっす」


アタシはやや素っ気なく自己紹介する。
この先輩…何か掴み所が無い? 微妙にやり難そうな気がするな。
アタシはとりあえずそのまま弁当を食い始める。
今日の具材はありきたりなウィンナーと卵焼き、ミートボールと定番の内容だな。
ご飯にはそぼろを乗せており、一応見た目はそれなりに意識してる。
まっ、腹に入っちまえば見た目なんて意味無いんだがな!


紫音
「とりあえず、費用に関しては味金先生が全額持ってくれるらしいから、安心して良いよ?」

カカ
「その先生、信用出来るんすか?」

ルナール
「まぁ、セレブだしねぇ…本人は金に全く執着しない性格だし」

グリナ
「むしろ楽しめるならそれだけで札束バラ撒きかねませんからね…」


聞いてるだけで目眩がしてくる…セレブなんて存在はアタシに理解出来るわけもないんだが。
少なくとも先輩達は特に不思議がってもいない様だ。
どんな先生なんだよ…その人。



「おー! 皆集まってるわね!?」

紫音
「あ、味金先生だ…」


そんな声に反応してアタシ達は後ろを向く。
そこには片手に宅配ピザの箱を持っていたPKMの先生がいたのだ。
見た目は何と言うか…これがセレブか!?と言う程のバリバリスタイル。
少なくともこんな学校の先生が着て良い衣装じゃないだろ…宝石やら何やら色々付いてんぞ!?

獣型PKM特有の耳と尻尾を携え、にこやかに近寄って来るその先生は紫音先輩の前にピザを置いて自分も囲いに堂々と入ったのだった。


ルナール
「先生、またLサイズなんて頼んで…」

味金
「えー良いじゃない! どうせ皆食べれるでしょ?」


どうやら皆でシェアする前提らしい…
どういう神経してんだホントこの先生?
金に執着無いとは聞いてたが、こりゃマジで金銭感覚がおかしいらしいな。


味金
「で、あの娘達も参加者?」

紫音
「あ、まだ決まってはないんですけど…」

モモ
「ボス〜良いですよね?」


モモは期待感たっぷりの眼差しでアタシを見る。
モモは相当行きたそうだな…まぁ費用かからねぇってんなら、断る理由も無いんだが。


カカ
「マジでタダなんすか?」

味金
「おっ、まずは疑いの目で来るとは関心関心♪」
「そんなウマイ話有るわけ無いって思うのは正常な考えよ?」
「でも、この旅行の話はあくまで私の趣味みたいな物…」
「だから、存分に楽しみなさい!! オーホッホッホ!!」

ルナール
「味金先生って、微妙に高笑い似合わなくね?」

グリナ
「ですよね〜何かいかにも作ってる感が…」

海南
「普段は普通に真面目だしね…」

味金
「Be quiet!! 良いのよこんなのはノリで!!」


そう言って先生は口元にワザとらしく手の甲を当てて笑っていた。
アタシはため息を吐きつつも、もう諦める事にする。
こんなアホな先生相手にイチイチ疑いの目向けてたらアホが伝染しそうだ。
アタシはとりあえずこう答える事にする。


カカ
「はぁ…なら全員参加って事で」
「それで良いんだろ?」

モモ
「は、はい! やったですよ〜♪」


アタシが許可するとモモは誰よりも嬉しそうに笑う。
モモのこんな顔見れただけでも、良しとしておくか…


ゼゼ
「でも温泉なんだろ…どんなのなんだろ?」

トト
「さぁ…テレビで見た事あるだけだしな〜」

味金
「ふふ、温泉旅行って言っても今回は3泊だし、実際には外に出て遊ぶ事も考えてるわよ?」
「詳しいスケジュールはまた後でデータ配布するから、それをよく見ておきなさい!」

紫音
「じゃあ、また私からモモちゃんに送るね♪」

モモ
「はい! 楽しみだなぁ〜♪」


モモはニコニコしながら体を揺らして喜びを表現する。
ゼゼとトトも既に旅行モードになってるな。
ノノは…相変わらず無口無表情だが、それなりに楽しみにしてる様には感じる。
アタシも軽く息を吐き、弁当の残りを全部食ってしまった。


カカ
「…結局、ここにいるメンバー全員で行くって事っすか?」


「いや、俺は行かないよ…部活あるし」

海南
「私も今回はパスかな…部活もだけど、グリュちゃんの事もあるし」

ルナール
「なら、今回はPKMだけでって事ね…」

グリナ
「えっと、じゃあ4 5で9人参加?」

紫音
「そうなるね…飛び入りが無ければ」


飛び入りねぇ…そんなのあんのか。
まっ、アタシ等はアタシ等でやるしかねぇしな。
そん時はそん時! こうなりゃ出たとこ勝負だ!

と、そんな感じで参加表明をしたアタシ達…果たしてどうなる?



………………………



カカ
「…マジか」

ゼゼ
「これ、飛行機っすよね?」

トト
「でも小さくね? あ、この人数だから別に良いのか…」

ノノ
「………」

モモ
「おお〜凄いのです!」


アタシ達は指定された場所に集合していたのだが、そこはまさかの飛行場だった。
それも、味金先生の家の私有地らしい。
少なくともアタシが今見渡せる全ての範囲がその私有地内らしいのだ。
そして目の前にあるのは味金先生のプライベートジェットであり、私物だそうだ…セレブスゲェ!?


味金
「ほら、全員乗った乗った! 欠員はいないわね?」

紫音
「えっと……はい、全員います!」

ルナール
「うほー結構スペースあるじゃん! 座席は12席しかないけど」

グリナ
「うわ…例によって冷蔵庫とかテレビとかもありますよ!?」


アタシ達は先輩の後から乗り込み、とりあえず荷物を置いて席に座る。
座席の座り心地は相当ヤバく、この時点で普通じゃないのは理解出来た。
しかも前の座席のシートにモニター付いてんぞ?
これ、全席テレビ内蔵って事か!?


モモ
「あ、紫音先輩お隣良いですか〜?」

紫音
「うん良いよ♪ 楽しみだね〜」


モモはしっかり紫音先輩の隣を確保していた。
座席は総数12席だが、左右に6席づつ配置されてる。
まぁよくある配置だろ、多分。
ちなみにアタシの隣にはノノが黙って座っていた。
ゼゼとトトは反対側の席で一緒に喋ってるな…アイツ等はアイツ等で上の空って感じか。


味金
「よっし! なら発進するわよ!? しっかりベルトしときなさい!!」

カカ
「…え?」


アタシはそれを聞いて微妙におかしな事に気付く。
何故なら味金先生が操縦してるのだから…
こういうのって、普通専属のパイロットとかがいるんじゃないのか?
それともアタシの想像がそもそも間違っていたのだろうか?

そんなアタシの考え等おかまいなしに機体は空へと上がって行く。
シートベルトをしていなかったアタシは思いっきりバランスを崩すも、何とか持ちこたえる事には成功した。
危なかった…帰りはちゃんとベルトしとこ!



………………………



紫音
「はい、モモちゃんこれで良かった?」

モモ
「はいっ、ありがとうございます♪」


モモは紫音先輩からピーチ○クターの缶を貰って喜んでいた。
モモの奴、アレが1番好きな味なんだよな…
アタシも少し喉が渇いたので冷蔵庫を漁る事にした。
その際、ノノに声をかけておく。


カカ
「お前はどうする? いつもので良いのか?」

ノノ
「………」


ノノは静かにコクリと小さく頷く。
アタシはそれを聞いて冷蔵庫まで歩いた。
中を開けると、色々な味のジュース缶が入っている。
アタシはノノの好きなコーラを探し、それを取る。
しかし何かいつもの奴と違うな…何て名前だこりゃ?
ディーペ…何たら? まぁコーラに違いはないだろ…
アタシはその缶を2本持って席に戻った。


カカ
「ほらコーラ」

ノノ
「……♪」


ノノは若干嬉しそうな顔をして缶の栓を開ける。
アタシも同じ様に栓を開けると…まずその臭いに怯む。


カカ
「ぶっ!? な、何だこりゃ!? 薬品かっ!?」

ノノ
「……!」


ノノも少なからず怯んでいた。
だがノノは意を決してそれを飲む。
そしてグビッと飲んだ後、特に問題は無いのか軽くゲップをしていた。
アタシはやや躊躇いつつも飲んでみる事にする。
むぐ…! 1口目が相当ヤバイ! だが、スパイスの効いたフルーツ系の味だな…
とりあえず、飲んでも良い物なのは理解出来た。
しっかし、この臭いはどうにかなんねぇのか?


ルナール
「お、カカっち達もドクペ派? 意外に気が合いそうね♪」


そう言ってアタシ達と同じ缶を一気に飲むルナール先輩。
飲んだ後、か〜っ!!と唸って缶を専用のゴミ箱に捨てていた。
…とりあえず、好きな人には堪らないらしい。
アタシはとりあえずチビチビ飲む事にする…そこまで炭酸得意でもないし。


グリナ
「ルナールさん、良くそれ飲めますね〜? 薬臭くて私はダメですよ!」

ルナール
「あーに言ってんの! それがドクペの味っしょ?」
「まぁ人選ぶのは理解してるけどね」


やっぱ人選ぶのかよ! そうだろうよ!!
チクショウ…普通のサイダーにしときゃ良かった!
ノノはそれなりに気に入ったみたいだが…



………………………



味金
「うっし到着よ野郎共!!」

カカ
「案外速く着くんだな…って、ここ何処だ?」

紫音
「ここからまた移動だよ? ここからは車で旅館まで行くから」


紫音先輩からそう説明され、アタシは周りを見渡す。
どうやらここは例によっての私有地っぽい飛行場であり、あくまで着陸する為の土地らしい。
そして味金先生を先頭にアタシ達は車の方へと向かう。
見ると、あまり見ないタイプの車が停車してあった。
味金先生は遠隔操作でキーを開け、堂々と荷物を上に置いてそれから運転席に座る。
アタシ達はそれに習って荷物を上に上げ、座席に座る事にした。


ルナール
「1番後ろもらーい♪」

グリナ
「ルナールさん、ホント遠慮無いですよね…」

紫音
「じゃ私達はその前に座ろうか?」

モモ
「はいっ♪」

ゼゼ
「トト、こっちだ…って、ノノはどうするんだ?」

味金
「前に後ひとり座って、残りはどっかで3人並んで座りなさい!」

カカ
「ならアタシが助手席に座りますよ…ノノは好きな所座れ!」


アタシがそう指示してやると、ノノは少し黙ったのちゆっくりと最後尾に向かった。
よりによって先輩の方に行くとは…ノノの奴、肝が座ってるな。


ルナール
「お、ドクペの同志!」

グリナ
「マジですか…? アレ好きな人まだいたとは…」

ノノ
「………」


ノノは無言ながらもルナール先輩に何かシンパシーを感じたらしい。
まぁ変な所で家族とズレてるとこあるからなアイツは…
アタシはとりあえず助手席に座ってしっかりとベルトを付ける。
全員が座ったのを確認し、味金先生はサングラスをかけてエンジンをかけた。
ディーゼル特有のエンジン音が鳴り響き、味金先生は楽しそうに運転を始める。
この人、何でも自分で運転するのな…


カカ
「先生って、セレブなのに運転手とか使わないんすか?」

味金
「人任せにして何か楽しいの?」


あっさりとそんな答えが帰ってくる。
要は楽しいからやってると…ホントにこの人セレブかっ!?
どうやらアタシが思ってるセレブとは相当違う存在らしいな、この先生…


味金
「こういうのは自分で運転するから意味があるのよ!」
「人任せにして後ろでふんぞり返るのは私の趣味じゃないの…」


そう言いながら警戒に運転する味金先生の技術は伊達では無い様だった。
少なくとも乗っていてこんなに快適なのは稀だろう。
ブレーキングひとつ取っても無駄が殆ど無いもんな…


カカ
「先生って、何で教師になったんすか?」

味金
「楽しいと思ったからよ♪ アンタ達みたいな生徒と一緒に過ごせるなら、特にね!」


味金先生は嘘の感じられない口調ではっきりとそう答える。
その言葉はしっかりした大人の言葉であり、アタシみたいな子供にとってはことのほか大きく刺さる言葉だった。


カカ
(アタシに、ここまで楽しむ事は出来るだろうか?)


少なくとも、隣で楽しそうに笑ってる味金先生を見たら無理だと思える。
この人は良くも悪くも大人だ。
アタシはボス面してるとはいえ、やはり世間的には子供…
いざ社会に放り出されたら、きっと何も出来ないんだろう。
だからこそ、アタシは学校に入って勉強したかった。
きっと、卒業する頃にはちゃんとした『力』が身に付くと思い信じて…


味金
「ん〜? 何初日から暗い顔してんのよ!」
「折角の連休で旅行なんだから、しっかり楽しみなさい!」

カカ
「…はぁ」


怒られてしまう。
アタシは軽く頭を掻くも、イマイチ割り切れそうになかった。
心配事が多すぎるのも問題だな…
そんな事を考えてると、アタシはフッと思い出す。


カカ
(…そういや、この世界に来て1度も楽しいとか思った事ないな)


この世界に来てからというもの、アタシは家族の為に常に奔走していた。
最初は日本とは違う南米のジャングルでアタシ達は過ごしていたんだ。
そこでたまたま出会った考古学者の日本人にアタシ達は拾われた…

その縁でアタシ達は日本へと渡り、そこの施設で1年程訓練を受けた。
そして一定の成績を出せたアタシ達は、正式にその考古学者の元に迎えられたのだ…
それが…今のアタシ達の保護責任者でもある。


カカ
(だけど、その後も気苦労は絶えなかった…)


アタシをボスとして家族は纏まるも、まだまだ個人単位では難が有りすぎるのだ。
ゼゼとトトは気性も荒く、ちょっとした事で喧嘩もザラ。
ノノは無口で他人とは滅多に口を利かない。
モモは臆病過ぎていつもビクビクしてるしな…
そんな尖った家族をアタシはボスとて導かなきゃならないと思ったんだ…
学校に入ろうと思ったのは、そんな尖った家族が少しでも自立出来ればと思ったから。
そして、その思いは少しづつ実を結ぼうとしている。


モモ
「紫音先輩! ウチここに行ってみたいです♪」

紫音
「うん、それじゃあ後で行こうね♪」

ルナール
「へぇ、ノノっちコスプレに興味あんの?」

ノノ
「……」コクリ

グリナ
「ノノさん、無口で無表情だけどちゃんと趣味が有るんですね〜」


モモやノノはああやって自分から他者に関われる様になった。
ふたりとも以前からしたらまず有り得ない光景だ。
それも、先輩がいてくれたから…なんだろうな。


ゼゼ
「トトは何したいんだ?」

トト
「うーん、あんまこういうの知らねぇし任せるぜ?」


ゼゼとトトも以前程は棘が無くなった様にも感じる。
保健委員になって紫音先輩と一緒に活動してからか、大分物腰も柔らかくなった気はした。
まだそれでも不安が多いがな…


カカ
(そうか…もう、アタシだけなのかもな)


高速で流れる風景を横目に見て、何となくそう思う。
アタシだけが、あれから変わらないままだ。
でも、変わって良いのかアタシは?
まだ、家族にはアタシが必要だろ…
それでも……良いのだろうか?



………………………


味金
「さぁ若人共! 好きなだけ食え!!」

ルナール
「いよっ! 大将待ってました!!」

カカ
「……」(;´д`)


アタシ達は昼過ぎ、休憩も兼ねて食事を取る事にしていたのだ。
…で、今居るのは何と焼き肉店だった。
しかも定番のチェーン店とかじゃなく、いわゆるいかにもな個人店だな。
当然ながら、こんな店に入った経験はアタシ達にあろうはずもない!


ゼゼ
「うげっ!? 0がひとつ多くね!?」

トト
「こんなん頼んだら秒で小遣い無くなるぞ!?」

グリナ
「どうせ味金先生のお財布から出ますし、大丈夫ですよ?」


そう言ってグリナ先輩は驚くふたりを横目に肉を焼いていく。
ジュー!と良い音をたてながら肉は網焼きで焼かれ、匂いからして旨そうな感じが確実にしていた。


紫音
「はい、モモちゃんの分♪」

モモ
「あ、ありがとうございます! うわぁ〜このタレに浸けて食べるんですよね?」


モモは焦りながらも先輩に教えてもらい、しっかりと箸を持って焼き肉に挑戦していた。
そろりそろり…とした慎重な手付きでモモは焼いたばかりの肉をタレに浸ける。
やや控え目な位のタレを肉に絡ませ、モモは恐る恐る口へと運ぶ。
そしてパクッ!と肉を口に入れた瞬間…モモの顔は露骨に変化するのだった…


モモ
「く、口の中で溶けて消えやがりました!? 何なんですコレ!?」

味金
「アッハハハ! 脂身の多い高級部位だしねぇ〜♪」
「そらそら! ドンドン焼いてドンドン食え!」
「遠慮なんかしても腹は膨れないわよ!?」


そう言って楽しそうに先生は次々肉やら野菜やらを焼いていく。
こういうのって、本来下っ端の奴が担当するとか聞いた事あるが。
改めて味金先生って気さく過ぎるというか…


ノノ
「………」

カカ
「…ん? それ、アタシの分か?」
「お前も別に遠慮するなよ? 食いたいだけ食って良いらしいから…」


手が出ていなかったアタシを気遣ったのか、ノノは無言で肉を皿によそってくれていたのだ。
アタシはその皿を受け取ってから野菜も取り寄せる。
肉も良いが、しっかりと野菜も取らなきゃ体は仕上がらねぇからな。


カカ
「ゼゼとトトも! 肉ばっかじゃなくて野菜も食え!!」
「この野菜だって、良い味してるんだぞ?」


アタシは肉ばかりを食べまくるふたりを諌めて野菜を食う。
うん、しっかりとした歯応えもあるし鮮度も良い。
このちゃんとした野菜の甘さが、タレの辛さも引き立てるんだろうな…


ルナール
「いやぁ〜ホント味金ちゃん先生様々だわぁ〜♪」

味金
「そういうアンタはホントに遠慮しないわね〜」


ルナール先輩はマジに遠慮の2文字が見えない位に食いまくっていた。
まるでこれ逃したら2度と食えなくなる…とでも言わんばかりの勢いだな。
さしもの味金先生も少し呆れてるし…


グリナ
「次何頼みます? 私ハラミにしよ〜っと♪」

紫音
「あ、それじゃ塩タンも頼んでよ! モモちゃんは何か食べたいのある?」

モモ
「え、えと…! ジュースとか頼んでも良いですか?」

味金
「気にするな気にするな! 何でも好きなの頼んで良し!!」
「その代わり、残すのは絶対に許さないからね!?」


味金先生は少しだけ釘を刺すも笑って許可を下す。
モモは元気にハイッ!と答え、頬を緩ませてオレンジジュースを頼んでいた。
やれやれ、本当にモモは1番楽しんでるな…

…とまぁ、こんな感じで約1時間程の昼食を終えてアタシ達は再び車で移動する。
それから1時間もしない内に、アタシ達は目的の旅館へと辿り着くのだった。



………………………



カカ
「ここが、旅館か…」

ゼゼ
「温泉があるんだよな? いつ入る!?」

トト
「流石に寝る前で良いんじゃね? 風呂ってそんなモンだろ…」


とりあえずフロントでアタシ達は受付をしていた。
今は先生がひとりで色々手続きを済ましている。
この旅館は古風な感じながらもかなり広くて良い感じに思える旅館だ。
いわゆる高級旅館…と言えば多分間違いないんだろうな。

しばらくすると、やがて先生が笑顔でアタシ達の元に戻って来る。
そしてアタシ達を促し、まずは寝る為の部屋に案内される事になった…



………………………



味金
「とりあえず、1部屋3人づつで取ってあるから割り振りは任せるわよ?」

紫音
「えっ? それじゃどうしよっか…2年は丁度3人だけど」

ルナール
「いつものメンバーってのもそれはそれだし、折角の泊まりなんだから混ぜた方が良いんじゃね?」

グリナ
「私もそれで良いですよ? 折角だし、ノノさん達とも色々話してみたいですもんね♪」


まずは部屋の割り振りか…先輩達はバラバラになるみたいな雰囲気だが。
アタシ達は何せ5人家族…どうやっても分割せざるをえん!
とはいえ、折角の機会なのは同意だ。
この際こっちで決めてやるか?


カカ
「先生、ゼゼとトトの事お願いしても構いませんか?」

味金
「ん? 良いわよ〜♪ じゃあ私はそのふたりとね!」


アタシがそう言うと先生は気さくに笑ってゼゼとトトを引き連れた。
その際、ルームキーをアタシにふたつ預けて…
さて、これで後は…


モモ
「え、えと…」

カカ
「お前は紫音先輩のとこ行け、ノノはどうする?…って」


ノノは既にルナール先輩の所に行っていた。
アイツ、決断力だけはアタシ以上に有るよな…


ルナール
「そんじゃグリナこっち来る? ノノっちとなら話合うかもだし…」

グリナ
「あ、良いですね〜♪ ちゃんとDVDプレイヤーも持って来てますから、徹夜で語れますよ!?」

ルナール
「それはまだ封印しとき…ノノっちが引いたら可哀想だから!」


…と、そんな感じでノノは一足先に先輩と混ざっていた。
アタシはそれを見て息を吐きながらもルナール先輩にカード型の鍵を投げ渡す。
これで、残ったアタシ達が相部屋って訳か…


カカ
「じゃあ、迷惑かもだけどよろしくお願いします!」

モモ
「よ、よろしくです!!」


アタシはわざわざそうやって丁寧に頭を下げてお願いする。
隣のモモもそれに倣って頭を下げていた。
当然だが、紫音先輩は複雑そうな顔をしてしまう…
そして、紫音先輩は優しくモモの前でしゃがんで頭を撫でていた…
それを受け、モモはビクッ!と反応してしまう。


紫音
「モモちゃん、今日は一緒に楽しもうね♪ カカちゃんも!」

カカ
「…え? あ、はい…?」


頬を赤らめて喜ぶモモに対し、アタシはそんな微妙な答えしか出来なかった。
こういう所も、アタシはやっぱダメな所なんだろうな…
紫音先輩の表情からは全く不安とか見えず、まるでこれから楽しい事が始まるのだと確信しているかの様な風にすら思えた。
改めて、紫音先輩はまるで考え方が違うんだと思い知らされた気がする…


カカ
(この人は、何もかもがアタシと違う…たった1年違うだけで、こんなにも差がある物なのか?)


アタシは鍵を紫音先輩に預け、その背を追いかけた。
モモは紫音先輩に手を繋がれ、嬉しそうに微笑んでいる。
そんな幸せそうな家族の姿をアタシはただ、後ろから黙って付いて行くだけだったのだ…



………………………



紫音
「…うわ、凄い部屋だねここ」

モモ
「……」( ; ゚Д゚)


アタシ達3人はオートロックの鍵を開けて部屋に入り、既に愕然としていた。
ある程度予想はしてたものの、本当に凄い部屋だったのだ。
まずとにかく広い! 3人用どころか5〜6人入ってても余裕そうな気がするんだが!?


紫音
「ベッドも4つ有るね…どれにする?」

カカ
「…じゃあ、アタシはこっちで」


そう言ってアタシは1番入り口側のベッドに荷物を置く。
するとモモはその隣に荷物を置き、先輩は更にその隣に荷物を置くのだった。
さて…こっからどうするんだ?


紫音
「えっと、とりあえず夕飯までは自由って事なんだけど…どうする?」

モモ
「ど、どうしますボス?」

カカ
「…部屋でダラダラしてても仕方ねぇ、アタシは外に出てみる」


そう言ってアタシは軽く荷物を整理して必要な物だけを抜粋し、別のポーチに入れ換えた。
そしてそのポーチを腰に装着し、アタシは準備を終える。


紫音
「一応ルナールさん達にも連絡してみるよ、どうせなら一緒に行動した方が良いと思うし」


そう言って紫音先輩はベッドに座ってスマホを耳に当てる。
どうやらルナール先輩にかけてるみたいだな…
アタシは腕を組んで暫く待つ事にした。
やがて、紫音先輩は通話を終えてアタシ達にこう伝える…


紫音
「ルナールさん、食べすぎで動きたくないらしいからこの3人で行こっか?」
「グリナとノノちゃんはふたりで話してるからパスだって…」


そうか、ノノの奴早速打ち解けてるんだな…そりゃ安心だ。
先輩達と一緒なら、問題は多分無いだろうし。


モモ
「ゼゼとトトはどうするのです?」

カカ
「先生が一緒だしな、一応連絡してみるか…」


アタシはそう言ってポーチからスマホを取り出し、ゼゼを呼び出そうとした。
…が、一向に繋がらず時間だけが過ぎてしまう。
アタシは?を浮かべながらも、今度はトトにかけてみる…が、これまた繋がらない。
電源切ってるとかじゃないみたいだが、何かあったのか?


紫音
「繋がらないの?」

カカ
「はい…どうしたんだか」

モモ
「先生に聞いてみたら良いのでは?」

紫音
「そうだね、番号知ってる?」


アタシはいや…と首を横に振ると先輩は自分のスマホで先生にかけていた。
そしてそっちも全く繋がらないという…
あの3人、何やってんだ?


紫音
「…ダメだね、3人とも繋がらないって事は一緒に何かやってるのかも」

モモ
「どうします?」

カカ
「もう良いだろ、さっさと出ようぜ?」


アタシはもう諦めて外に出る事にした。
仕方無くモモと先輩も一緒に外へと出る事に…



………………………



カカ
「へぇ、思ったよりも色々あるんだな…」

紫音
「お店とかもあるし、山って言っても人がいっぱいいるもんね〜」

モモ
「ジャングルに比べたら、ちっちぇですけど…」


そりゃそうだろ…あんなトコと比べられる場所が日本にある訳ねぇ。
まぁその分こっちの方がよっぽど歩きやすい訳だが。
道はしっかり整備されてるし、山って言っても道路だしな…


紫音
「モモちゃんは、ジャングルの方が好き?」

モモ
「う〜ん、ザルードは元々森とか険しい山に住んでましたし…確かに好きと言えば好きなんですけど」

カカ
「良くも悪くも、この世界はポケモンだけの世界とは違う」
「いくら似た様な場所でも、アタシ達ザルードに自由なんて物はこの世界に無かった…」


アタシは当時を思い出して少し俯く。
モモも思い出してしまったのか、やはり顔を暗くしてしまった。
すると、紫音先輩は慌ててフォローをしてくる。


紫音
「ゴ、ゴメンね!? 何か嫌な事思い出させちゃったみたいで!」

カカ
「別に良いっすよ、もう過ぎた話だし」
「今はちゃんと勉強して、訓練して、人の世界に混じったんだから…な?」


アタシがそう言ってモモの肩を叩いてやると、モモはビクッ!とするも強く頷いた。
そう、アタシは変わると決めたんだ…家族の為に。
そしてこの世界で生きる為に、強くなる!


カカ
(って、アタシは強くなれたのか?)


いくらそう思おうとも、全くその気になれない。
良くも悪くも、アタシ達はマイナスからスタートしただけなのだから…
そこから人並みに努力して、やっと0になれただけなんだ…

だったら、それで強くなった気になるのは流石に有頂天ってモンだな…


紫音
「そっか…そうだよね」
「私達PKMは、まだやっと人に認められたばかり…」
「私達がもっと努力して、もっと勉強しないと!」


紫音先輩は、そう言ってガッツポーズを取る。
可愛らしくも、力強いその姿は明らかにアタシよりも強い意志を持っている様に感じた。
アタシは…純粋に知りたいと思った。
先輩が何故そうまで真っ直ぐ生きられるのか、何故迷わずに進めるのか…
アタシとの違いは、何なのだ?
そう思ってしまったアタシは、思わず先輩にこう尋ねてしまっていた。


カカ
「先輩は、看護師になりたいって言ってたけど…」
「それは、何でなんすか?」

紫音
「え? 理由って事…?」
「うーん、そんな大した理由じゃないよ?」

モモ
「ウチも気になります! どうしてなんですか?」


モモに言われて、先輩はやや気恥ずかしそうに頬を掻く。
そしてやや俯いてから少し考え、静かにこう一言だけ告げた…


紫音
「…大切な人を助けてあげたいから、かな」

モモ
「大切な、人…?」

カカ
「それって…」

紫音
「そう、それが理由…私は何の力も無い存在だと気付いたから」


空を見上げ、淡々と自分の過去を語り始める先輩の姿は神々しささえ感じた。
そしてその話を聞く内に、アタシは先輩との違いをようやく理解したのだ。
紫音先輩というPKMは、初めからアタシとは違う考え方だった。
そしてその理由がようやく明確になった…

アタシには、先輩が抱いている様な『覚悟』が無かったのだ。


カカ
(先輩は、初めからただのPKMという枠の外にいる考えを持っていたんだ…)


だからこそ、先輩には明確な覚悟がある。
何があっても、人間という種を愛するという覚悟が。
アタシには、それが無かった…アタシが救いたかったのは家族だけ。
先輩はスケールがまるで違う…救うなら人間も含めて全部。
看護師を目指すのはあくまでその過程に過ぎず、先輩が本当に目指しているのはもっともっと先の世界の行く末だったのだ。

ああ…そりゃ、敵うわけない。
たった4人の家族しか見えてなかったアタシには…
しかし、ようやく胸の支えが取れた気がした。
アタシはまだまだマイナスだったのだと気付けたのは大きい。
とても0になんかなれてなかったんだな、先輩でさえもそんな当たり前以下の0を目指しているのだから…


紫音
「…とまぁ、PKMの私が本当になれるかは解んないんだけどね!」

モモ
「先輩なら絶対なれるですよ! だって先輩はこんなにもでっけぇんですから!!」


モモは全身を使って先輩の『心』の大きさを表現しようとした。
先輩よりも体格の大きいモモがそれをやるのは実に滑稽だが、アタシにはそれがちゃんと理解出来た。
当の先輩は…ひたすらに苦笑してるが。


カカ
「アタシも、もっと努力するっす!」
「まだまだ全然足りてなかった…満足しかけてた」
「この程度で、何粋がってたんだか…!」


アタシは自分の掌を見つめて、ちっちぇ…と思った。
そして拳を握り、アタシは顔をしかめて覚悟を改める。
そのまま俯いて目を瞑り、アタシはこう宣言する。


カカ
「アタシも! 先輩に負けねぇ位、人間を好きにならねぇとな…!」

モモ
「人間、ですか…?」

紫音
「うん、良いと思う♪ だって私達は…人間という同じ世界に住む、隣人なんだから!」


アタシは先輩の覚悟を知って意識を改めた。
モモはまだまだ解ってなさそうだったが、それでも先輩のデカさは理解した事だろう。


この旅行は、改めてアタシ達に良い刺激をくれた旅行となった。
短い間ながらも、アタシ達家族は全員がそれぞれ大きく成長出来たのだから…

そして忘れてはいけない…まだまだ、アタシ達と先輩達との関係は始まったばかりなのだ!










『突ポ娘異伝録 春夏秋冬 〜四人娘の学園生活〜』



第14話 『ザルードの黄金週間』


…To be continued

Yuki ( 2022/06/22(水) 18:27 )