第1話
聖
「守連たちの霊圧が…消えた!?」
俺はこの期に及んでネタをかましてしまう。
いくらもう少しで完結だからって、ここでネタはフツー無いだろう。
とはいえ、それ位今の状況は意味不明なのだ。
聖
「な、何なんだ…ここ?」
まず、居場所が解らない。
いや居場所云々以前に、俺は生きているのかどうかも曖昧だった。
今、俺がいる場所は何も無い暗闇。
だが、自分の体はちゃんと見える。
例えるなら、まるで自分の体だけが光っているみたいに…
足で地面を踏んでいる感覚も曖昧で、何故か重力は感じられた。
しっかりと、歩く事は出来るな…何だか夢の様に曖昧だけど。
俺はとりあえず、そこから歩いて見る事にした…
………………………
聖
「逃げられんよ…この、私の世界からは」
またしてもネタが出る。
久し振りだが良い調子だ。
ツッコミ不在なのがたまにきずだが、贅沢は言ってられない。
歩けど歩けど、本当に何も無いのだから…
まさか、マジに◯ッドペッカーとか出て来ないだろうな!?
俺は永遠の知力25やパーフェクト師範みたいな高性能キャラじゃないんだぞ?
聖
「…くっそ、一体何がどうなったのかの覚えも無いなんて」
俺は、記憶を失っていた。
10月2日、家から帰ろうとした所までは覚えてる。
だが、俺は気が付いたらこの空間にいる。
正直意味不明で、俺は自分の体にすら違和感があった。
しかし、何故か俺は自分の体に普段より筋肉が付いているのが、歩いていて気付く。
俺は体を鍛えた記憶は無いのに、俺の体は過去に鍛えた事を証明していたのだ。
そして、俺は意味不明のノートを服の下に隠していたのを知った。
そのノートの表紙に書かれている題名は……
『パルキアさんたちとの城での思い出』
そんな、シンプルなタイトルだ…文才の欠片も無い。
こんな物書いた記憶も無いのに、この字は間違いなく自分の字だと言うのが、見て解る。
俺は、何かヒントがあるんじゃないか?と、そのノートを開いてみた。
10月2日
この日、俺はパルキアさんと初めて出会った。
パルキアさんに世界について問われ、俺は何となくで答えた。
そして、俺はパルキアさんの城に連れていかれた。
そこで俺は軟禁されるが、パルキアさんはとても優しい笑顔で俺に笑いかけてくれた。
ここから、城での生活が始まる…
聖
「…何だ、コレ?」
全く身に覚えの無い内容がコレには書かれている。
しかし、これは確実に俺が書いたと断言出来る何かがあった。
俺はそれを順にしっかりと目を通していき、やがてとあるページで手を止める。
そこは、10月31日のとある部分だった。
この日、俺はパルキアさんに優しく抱き締められて泣いた。
パルキアさんは、俺にとって本当の母親より母親だ。
俺はパルキアさんたちの事を絶対に忘れない。
例えパルキアさんが死んでしまっても、必ず。
例え忘れそうになっても、その時はこの手記を見て必ず思い出す。
だからもし、俺が本当に忘れてしまった場合の叱咤激励をここに書いておく。
『あんな素晴らしい人たちを、忘れてんじゃねぇぞクソヤロウ!?』
聖
「!?」
ビリッとした感覚が俺の頭に走る。
そして、俺は色々説明しなければならない所なのに、全部省いてまずはこう叫ぶ事にした。
聖
「簡単に忘れてんじゃねぇか!? このクソヤロウがぁぁぁぁっ!!」
「思い出したよ! 全部思い出した!!」
「誰なんだよ!? パルキアさんを殺した奴は!?」
「ここは一体何なんだ!?」
「誰もいないのかよぉぉぉっ!!」
俺は無様でも何でも、とにかく叫び倒した。
そして涙を流して俯き、拳を握り、歯を食い縛る。
もう、絶対に忘れるものか…!!
こんなクソみたいなルールに負けてたまるか!!
俺は改めて決意した、絶対にパルキアさんを殺した奴を見つけ出すと。
だが、これは憎しみではない。
俺は誰も憎まない。
パルキアさんは、最期まで笑っててくれた…あの笑顔を俺は思い出したんだ。
恐らく、あの謎の敵は真相にかなり近い相手のはず。
会えば、俺はその真相が解る気がした。
だが、そうは思ったものの、まずここが何だかが解らない。
俺は途方に暮れ、その場でとりあえず座ってみた。
何か、妙な感覚だな…地面らしき感覚はあるけど、何も不純物の混じってない、まっ平らな床に座ってる感覚だ。
俺はそこで、とりあえず考えながら少し休む事にした。
…つっても、肉体的な疲れは一切感じないんだけどな。
聖
「くっそ…何で、こんな所に?」
「もしかして、敵から逃がす為にパルキアさんがここに跳ばしたのか?」
俺はそう思うが、その確信は何ひとつ無い。
それより、一体これからどうする?
俺はひとりでしばらく考えていると、突如何か光が見えた事に驚く。
俺はバッと立ち上がり、その光の方へ走った。
ぼやけていた光の像が段々ハッキリしていく、それは俺のよく知っている姿だ。
聖
「守連! 阿須那! 華澄! 女胤ーーー!!」
俺は全力で走るが、ある一定の距離を境に、全く近付けなくなる。
それでも俺は諦められず、疲れないのを良い事にひたすら走り続けた…
女胤
『聖様、申し訳ありません』
『私(わたくし)たちは、使命を思い出してしまいました…』
突然、そんな言葉を言われる。
いや曖昧だ、まるで頭に響く様な声。
そして、皆俺に背を向けて立ち去る様な気配を見せる。
俺は更に全力で走る…が、やはり近付けない。
体は疲れを感じず、スピードも落ちてないのに、それでも…!
華澄
『最期までお側にいられない事、お詫び致します』
『ですが、拙者たちは皆…聖殿の事を愛しております』
どんどん遠ざかって行く。
俺はそれでも手を伸ばして走った。
何だよコレ? 何で皆がそんな…!
阿須那
『ウチ等は、思い出してしもた』
『本当はこんな世界で甘えとるわけにはいかんかったんや』
思い出した? 甘える?
だから一体何の事なんだ!?
守連
『ありがとう聖さん…こんな私たちを選んでくれて』
『でも、今度こそ終わらせるから信じて』
『さようなら…私たちの幸せな時間』
『さようなら…幸せな世界』
『そして、さようなら……私たちの1番大好きな、聖さん』
その言葉を最後に、彼女たちは光の粒子となって消えてしまった。
俺はゾッとしたが、幸いにも忘れてない。
という事は、幻覚か夢でも見たんだろうか?
感覚自体が曖昧なだけに何とも言えなかった。
そしてその時、唐突にどこからか解らない方向から声が響く…
?
「遂に…ここに辿り着けたんだね」
聖
「っ!? 誰だ! 何処にいる!?」
俺は周りを見渡すが、何も見えない。
だが確実にしっかりした声が耳に届いている。
声はクスクス笑って言葉を続けた。
?
「ここではベクトルなんて自由だって言ったじゃない」
「ほら、下を見てみて?」
俺は言われて足元を見る。
すると、驚きの角度に小さな少女がいた。
その少女は俺の真下にいるのに、俺が見た少女は逆さまの状態で真っ直ぐ歩いて来る。
俺はその場から数歩退がった。
そして、少女がゆっくりと歩いて俺の立っている座標軸に辿り着く。
今、俺の正面には少女の頭頂部が見えている。
まるで俺が空から少女を見ている様な状態だった。
少女
「やれやれ、しょうがない……っと、これで同じ立ち位置だね♪」
そう言って彼女はクルリと華麗に回転し、俺と同じ座標軸に立った。
背は小さい…華澄と同じ位か。
髪は緑でやや短髪。
そして小さな触覚の様な物がふたつ頭から生えている。
服は白のローブで全身を覆っており、首から下は靴と手以外露出していない。
袖もぶかぶかで、指先が少し出ている程度。
目はややタレ目で、透き通る様な蒼。
第一印象は、神秘的…まさにそんな感じの少女だった。
少女
「久し振りだね、聖君」
「いや、キミにとってはそうでもないのかな?」
聖
「ちょ、ちょっと待て! 俺とお前は初対面じゃないのか!?」
いきなり少女は色々◯ングクリムゾンしていた。
それとも、また忘れてるとかそういうのか!?
俺の言葉を聞いて、彼女はああ…と頭に右手を当てて言葉を補足する。
少女
「そういえば、記憶が無いんだっけ?」
「まぁ良いか…とりあえず、ボクは『セレビィ』」
「時渡りの法則から放り出され、もう2度と渡る事も出来なくなった…永遠の16歳さ♪」
俺はギョッとした…遂に幻のポケモンが出て来たぞ?
いよいよ完結編って感じがしてきたな…ここまで来るとどんなトンデモが始まるのか?
セレビィ
「キミがここに着いたという事は、ようやく約束を果たしてくれる決心が着いたのかな?」
聖
「だから待てって! まず順番に説明してくれ!!」
「まず、ここはどこなんだ!?」
俺は自分の世界で一方的に語るセレビィにそう言い、まずは順番に説明させる事にした。
そして、セレビィは仕方なさそうにため息を吐き、やや面倒そうに説明を始めた…
セレビィ
「…ここは、時空の最果て」
「ありとあらゆる現象が終息し、概念が停止した世界」
「ここでは時間も空間も意味は無く、再生や破壊も無い」
「ましてや、創造さえも…」
「そんな…全てが、終わった先の世界だよ」
「いや、もう世界と呼べるのかも解らないか…」
「ボクはここに辿り着いた時点で、もう時渡りをする為のエネルギーを補給出来なくなってしまった」
「だから、ボクはもう永遠にここから出られない…時間の概念も無いのに、永遠とは滑稽だけどね♪」
まさしくトンデモだった。
いわゆるアレか? ◯ロノトリガー的な?
だとすると、俺はここから世界滅亡の未来を救う為の勇者にでもなるのか?
あまりにバカらしい気がする。
流石にフツーの高校生にそれは無いだろう…
セレビィ
「ちなみに、ここにいれば事実上不老不死だよ?」
「最も、永遠に出られないけどね♪」
聖
「待てい! いきなりとポ女完! かよ!?」
「俺ここでバッドエンド確定!?」
セレビィ
「安心してよ、ボクはキミの嫁なんだから♪」
「ここで永遠でも一緒に過ごしてあげるよ?」
「キミが、約束を果たしてくれるまで…」
セレビィは冗談混じりなのか、笑顔でそんな事を言う。
俺は次にこう聞いてみる事にした。
聖
「…その、約束って何なんだ?」
セレビィ
「世界に定められている、滅びの未来を救ってくれる約束」
マジか…ホントに◯ヴォス殺すマンにならねばならんのか?
流石に、この期に及んで冗談の様にも思えないが…
何て約束してんだよ…過去の俺!?
でも、俺がそれを忘れてここにいるって事は…
聖
「…もう、世界は滅んだのか?」
セレビィ
「正確には、ここにる時点で初めから滅んでる」
「もっとも、キミの現実からすれば遠い未来だけどね」
成る程、俺はどうやら真相を知る機会に辿り着いたらしい。
セレビィは全てを知っている様な感じだ。
そして、消える気配は見えない…セレビィには理のルールが効かないのか?
聖
「…セレビィは世界の理を知っているのか?」
「あんなクソみたいなルールを設定したバカヤロウの正体を、知っているのか!?」
セレビィ
「…恵里香(えりか)、って呼んでくれない?」
聖
「えっ?」
セレビィ
「お願いだ…その名は、キミがボクに与えてくれた大切な名前だから」
そう言ってセレビィは悲しそうに俯く。
俺は自分を責めた。
何で、こんなにも忘れやすいんだ…?
これも世界の理って奴のせいだとしても、酷いモンだよなホント…
聖
「ゴメンな、恵里香」
「いや、恵里香様って言った方が良いのかな?」
恵里香
「別に何でも構わないさ…」
「ボクの時間は、16歳で止まってしまっているからね」
「キミにとっては、ただの少女か嫁で構わない」
16って事は俺と同じか…いや、俺は遅生まれだから俺より1個下か?
しかし、そうなると幼く見えるな…それもセレビィだからなのだろうか?
基本的にポケモン娘の体格は、ある程度種族で反映されるみたいだからな。
まぁ、例外もあるみたいだが…
恵里香
「とりあえず、今から真相を話すけど…覚悟は出来てるんだよね?」
聖
「ああ…俺は知らなきゃならない」
恵里香
「…多分、キミが思ってる以上に残酷な内容だと思うよ?」
恵里香は念を押してそう言う。
その口調は低い声で、やや怖がらせるかの様な言い方だった。
だけど、それでも俺は知らなきゃならない。
パルキアさんのあんな最期を見て、知りたくありませんなんて誰が言えるか!!
恵里香は俺の真剣な目を見て納得したのか、語る決意をした様だ。
恵里香
「…まず、今のキミが6月末から過ごした現実っぽい世界は、キミが造った世界だと覚えておいてくれ」
聖
「………え?」
開幕からバットで頭を殴られたかの様な衝撃的事実がいきなり判明する。
俺たちが過ごしていた世界が、俺の造った世界…?
いや、そうなるとそれは同時にトンデモない事実が判明する事になるぞ?
世界の理…パルキアさんたちを排除しようとした、忌むべき世界のルール…
聖
「ま、待ってくれよ…? じゃあ、あんなクソみたいな世界のルールを設定したのは…」
恵里香
「キミ自身だよ、良かったね判明して♪」
「このクソヤロウ!」
恵里香はネタの様にワザとそんな言い方をした。
こっちはツッコム気力も無い。
何だよそれ…? 何でそんな事になってんだ!?
聖
「何で、何であんなクソみたいな世界を俺は造ったんだ!?」
恵里香
「その理由を今から話すよ…だからまずは落ち着いて」
激昂する俺を恵里香は冷静に宥める。
こうなる事は予想通りって事か…
俺はとりあえず恵里香の話を聞く事にした。
いくら俺が激昂した所で、パルキアさんたちはもう帰っては来ないのだから…
恵里香
「とりあえず、キミは相当な特異点だと覚えておいてくれ」
「そして、キミが現実世界で今までやってきた事の一端をこれから話すよ」
相当な特異点か…一体現実で俺は何をやっていたんだ?
っていうか、今更ながら俺は過去の記憶がヒジョーに曖昧だと気付く。
正確には、あの6月末以前の記憶が特に。
何をやって過ごしたのか、どうやって遊んでいたのか、全てが曖昧。
例えるなら、ぼやけている様な記憶。
だけど、俺はそれを何とも思わなかったし、どうせフツーだと思って気にもせずにいた。
まず、それ自体がおかしかったんだ…
何故、疑問にも思わなかったんだ?
恵里香
「まず最初に言うけど、キミは小さい頃両親を失っている」
聖
「は? そんな馬鹿な! 前に電話もらったぞ!?」
恵里香
「それはキミが造った世界の『設定』だよ」
「『現実』のキミは、産まれてまもなく孤児になったんだ…」
益々トンデモ設定が出て来た。
どうやら、俺が造った世界は本当の現実とは違う設定らしい。
恵里香
「両親を失い、キミは親戚に引き取られたものの、キミの両親を疎んでいた親戚たちは、キミを放置して育児は雇いの家政婦に任せるだけだった」
「ただ、それでもキミは幸運だったんだ…キミの事をちゃんと守ってくれる、優しい姉がいたんだから」
聖
「姉!? 俺に、姉さんがいたのか?」
当然だが、そんな記憶は全く無い。
そもそも孤児だって設定も、親戚に引き取られたってのもまるで実感が無いのだから。
恵里香
「まぁ、その辺はあえて省略するよ」
「どの道、キミが記憶を取り戻せばすぐに思い出すし」
そう言って恵里香はやや面倒そうに息を吐く。
そして、本題とも言える内容をこれから話す気の様な雰囲気を放ち始めた。
俺は、無言でその言葉を待つ。
恵里香
「その姉のお陰で、キミは何とか元気に生きていたものの、学校でも友達ひとり作れないキミは、いつもひとりきりだった」
「姉は年が離れている為に、四六時中キミの事を姉は見る事も出来ない…」
「幸い、キミは家事とかに関しては姉から教わり、最低限ひとりでどうにか出来ていたけどね」
そうか、俺の家事スキルは元々その姉さんから教えてもらったスキルだったのか…
しかし、一体誰なんだその姉さんは?
疑問には思うものの、それは俺の記憶が完全に戻れば自然と思い出すと恵里香は言った。
とりあえず、まずは俺の記憶をどうにかしないと、だな…
恵里香
「やがて、キミはひとつのゲームに夢中になる事になった」
「そして、いつしかキミは…何故か唐突に世界を超える力を手に入れてしまったんだ」
「キミは、その力でポケモンの世界に転移した」
聖
「世界を…超える!? ポケモンの世界に転移!?」
恵里香
「そう、キミの持つ『夢見の雫』(ゆめみのしずく)の力によって…」
「ちなみに、ボクたちポケモンが存在している世界は実は現実にある」
「ゲームの世界ではなく、現実に」
「そして、キミはその世界に渡ってしまったんだ…ある意味、不幸な事にね」
もうホントにトンデモだらけだ!
ポッと出の新情報多すぎて、読者の理解が追い付いているか心配だよ!!
でも、恵里香の顔はとても悲しそうだった。
俺はその顔を見て、とてもふざけられる気はしない。
ある意味、不幸か…それは一体どれ程の重さなのか…?
恵里香
「もちろん、今でもキミは夢見の雫を持っているよ?」
「試しに出してごらん? 現実の存在を認めた今なら、出せるはずだ」
「簡単に願えば良い…キミが、いつもやっていた様に」
俺は言われて頭の中で願う。
出て来い…夢見の雫!
聖
「!?」
俺がそう願うと、目の前に突然浮かび上がる水晶の様な、やや透き通った球体が浮かんでいる。
大きさはテニスボール位だが、色は…説明しにくい!
何だか流動的に様々な色が混ざりあっており、あえて言うなら虹色のマーブル模様?
一応、そこまで濁っている様には感じず、雫の先はしっかりと恵里香の姿が見える位には透明度があった。
恵里香
「出せたね、それが夢見の雫だよ」
「条件付きで夢を現実にする、文字通りのチートアイテムだ」
聖
「マジかよ…そんなヤバイアイテムが、ホントに存在してんのか?」
恵里香はコイツを軽くチートと言うが、これにそんな力があるのか俺には実感は無い。
夢を現実にするとか…つまり何でも叶うって事なのか? …条件付きで。
恵里香
「もちろん制限はある…恐らく相当厳しめの」
「とはいえ、正直ボクにはそれが本来どんな用途の為に産み出されたかは、まるで解らないんだ…」
「あくまでキミが使ってみせた結果に基づいて、その効果とリスクを推測する事しか出来なかったからね…」
「そのリスクに関しても、多分叶える願いの難易度に寄るみたいだから、ボクには何とも言えない所だよ」
成る程、結局コイツは相当危険なアイテムって事だ。
全てを叶える反面、滅ぼす側面もあるのかもしれない。
使う際には、細心の注意がいりそうだな。
恵里香
「とりあえず、今までの経験で説明するけど、それを使えばキミは世界を渡る事が可能となる」
「ただし、その際には明確に厳しいルールが存在するはずだ」
聖
「ルールって、世界の理みたいなの、か?」
恵里香はコクリと頷く。
そして、一瞬寒気がした。
下手に使うと、パルキアさんたちみたいな被害者を生むのか…?
恵里香
「最初にキミがそれを使った時、キミはポケモンの世界に渡った」
「記憶を失い、自身をポケモンと化す事を条件として」
聖
「…何だって? 俺が…ポケモンに?」
それって、ポケダンのアレか?
俺は、そんな世界に渡ったのか?
恵里香
「そう、そしてそこでキミが救った世界のヒロインが『守連』たちだよ」
聖
「!?」
俺が過去に救った…ポケモン。
そして、それが守連たち?
って事は、やっぱりあの4人は特別な関係だったのか…俺の元に集ったのは、慕ってくれたのは、救われたから…なのか?
恵里香
「守連の世界を救った後、キミは雫の力で再び現実に帰った」
「そして、雫の力を理解したキミは面白い様にそれから世界を渡り続けた」
「そしてその度に、キミは数多くの世界とヒロインを救ったんだ」
聖
「その中に、阿須那や華澄、女胤もいたのか」
恵里香は頷く。
そして、他の3人は別々の世界のヒロインで、その世界において俺のパートナーだったらしい。
恵里香
「それこそ、数えるのも大変な程の世界をキミは救った」
「だけど、その行為はあまりにも危険だったんだ…」
「キミが救った世界は、全て本来の世界の道筋から逸脱し、並行世界として分離してしまった」
聖
「何だって…? 並行、世界…」
それはつまり、可能性の分岐、パラレルワールド。
本来、救われないはずの世界が救われてしまった事による弊害か。
いや、ひょっとしたら俺がやらなくても救われる世界はあったのかもしれないが。
恵里香
「いわゆる、世界の広がりをキミは乱してしまった」
「そして、それを阻止する為に、ひとりの創造主が動いたんだ」
「それが、全ての滅びの元凶となる…『アルセウス』だよ」
俺は驚愕する。
創造主、アル…セウス。
ポケモンの世界の中でも特段ヤバイ奴だ。
俺はそんなポケモンに目を付けられてしまったのか?
恵里香
「それでも滅びの未来を止める為に、キミはアルセウスと戦う道を選んだ…」
「だけど、その結果は燦々たる物だったよ…」
聖
「ど、どうなったんだ?」
俺は少し怖くなりながらも、そう聞く。
恵里香は少しだけ間を置き、やや俯きながら言葉を紡いだ。
恵里香
「…キミはアルセウスを倒す為、ある日偶然この最果てに辿り着いた」
「そして、過去に別の並行世界で助けてくれたボクと再会し、キミはボクの力とキミの雫を利用して、何度もアルセウスに挑戦する事になったんだ」
「だけど、キミは何度やっても勝てなかった…」
「ボクがこの世界で得た新たな力、世界送り(ワールドメール)と夢見の雫を最大限利用しても、キミは勝てなかったんだ…」
「そして何度も何度も敗北を繰り返す内、やがてキミは諦めてしまった…」
「そして、キミが救った全ての並行世界は、アルセウスによって消滅させられたんだ」
聖
「!? じゃ、じゃあ…守連たちは!?」
恵里香
「滅んだよ、当然ね」
俺は想像する。
全てが滅ぶ世界を…だけど、そこからまた始まったりはしないのか?
滅びと再生は表裏一体ってイメージあるけど…
恵里香
「アルセウスは、キミのせいで怒りと憎しみを大量に取り込んでしまったみたいなんだ…」
「その結果、アルセウスにはもはや正常な思考が保てなくなった」
「暴走したアルセウスは、そのまま全ての世界を消滅させる」
「その後、暴走したアルセウスは新たに世界を創造する事もなく、全ての世界を捨てて別の次元を求めて消えていってしまう…」
「その先にあるのが、虚無となってしまったこの世界」
「ここは、歴史の果てなんだ…」
「ボクはキミに救われた後、未来で滅ぶ事を知り、時渡りの力を駆使してその未来を変えようと躍起になった」
「だけど、何度渡っても、何度別の選択を選んでも、最終的な滅びを回避する未来には辿り着けなかった…」
「やがて跳び続ける内、ボクはいつの間にか人化してこの最果てに辿り着いたんだ…」
「前にも言ったけど、この世界はもう時間のエネルギーが存在しない」
「ボクは時を渡る力を完全に失い、ひとり孤独になったんだ…」
聖
「…それから、俺に再会したのか?」
恵里香はコクリと頷く。
そして、その時に恵里香という名前を貰ったと聞いた。
ついでに、世界が救えないなら、ここで結婚して永遠に住もうとも…
何て約束してんだ過去の俺!?
聖
(しっかし、結局ダメだったのか…)
狂ったとはいえ、アルセウスがそんな事をするなんて。
しかも、狂ったのは俺が原因らしいじゃないか…
だけど、気になる事もあるな。
聖
「俺は…負けた後、どうしたんだ!?」
恵里香
「キミは、変えられない未来を神の天罰だと思い、全てに絶望した」
「ボクとの約束も反故にし、ひとり現実に戻った…」
「そして、少年のキミは怖くなって雫を封印したんだ」
「だけど、それからキミはより一層不幸になる」
「同年代からは虐められ、親戚からは遺産を貪られ」
「手を差し伸べてくれる姉の事も突き放して、キミは心身共にボロボロになった」
「それでも、キミは何とか高校生にはなったんだけど…」
「高校2年の12月25日に…キミは、自殺したんだよ」
聖
「………」
「……」
「…え? 自殺した…? 俺、が…?」
俺はどんなアホな顔をしたのか解らない。
それ位意味が解らなかった。
死んだなら、だったら何で俺はここにいる!?
死んだら何も……っ!?
恵里香
「気付いたようだね…? そう、キミは最後の最期に、封印したはずの夢見の雫を使ってしまったんだ」
「睡眠薬の大量投薬により、自殺を図ったキミは…死ぬ間際、無意識にこう願ってしまった」
「どうか次は、幸せな世界に生まれ変われます様に、と…」
聖
「…まさか、それが?」
俺は思考がグチャグチャになっていた。
全てに絶望して行き着いた先。
全てが無くなるのが解っているから、選んだ世界。
恵里香
「高校2年の6月から、同年のクリスマスまで」
「キミはこの短い半年間のみだけ、いつまでもループする世界を造った」
「そこに存在出来るのは人化したポケモン娘のみ」
「しかも、入れるのは先着4人まで」
「それ以上の存在は、夢見の雫が設定したルールである理に則り、キミに恋をした時点で存在を消される」
「ただし、キミの意志とは別に雫がルールを設定したが為に、このルールには裏技が存在してしまった」
聖
「!? パルキアさんの、計画…」
俺はパルキアさんの計画を思い出す。
世界の理に則り、パルキアさんはそんなクソみたいな世界に入ろうとしたのか?
そして、結果敗北して…
恵里香
「実は、パルキアが現れたのは、偶然だったんだ」
聖
「えっ? 偶然…?」
恵里香
「本来、雫のルールでは、あの世界に入れるのはキミが過去に救ったヒロインだけのはずだった」
「その中でも、特にキミと親しかったパートナーが優先でね」
「それが一応あの4人なんだけど…パルキアたちはそうじゃない」
「パルキアたちだけは、キミが救った世界のヒロインじゃないからね」
どういう事だ?
じゃあ、パルキアさんたちは何で?
恵里香
「…非常に、奇跡的な事が起こってしまったんだ」
「キミが造ったクソ世界は、全ての並行世界からヒロインを呼び寄せる為、全ての並行世界と繋がってしまっていた」
「パルキアは滅びの確定した世界の住人で、たまたま空間移動でキミの世界に迷い込んで人化したんだ」
「ちなみにボクが人化した理由も、恐らくその偶然のせいだろう」
聖
「そんな…じゃあ、俺が諦めたせいで、パルキアさんたちは…!?」
そんな残酷な事無いだろ…? 全部俺のせいじゃないか。
俺が、俺がパルキアさんたちの世界を見捨てたんだ!!
俺は絶望しそうになるが、それでも堪えた。
絶望する為に真相を聞いているんじゃない!
俺は拳を固め、歯を食い縛る。
前を見ろ! そして、全てを知るんだ!!
恵里香
「パルキアは滅びを回避しようと、3人の娘を連れて空間を越えた」
「そして、たまたまキミの造った世界に迷い混んでしまったんだ」
「パルキアたちはその際人化し、記憶を失った」
「だけど当然、世界の理はイレギュラーを、異物を許さない」
「パルキアはそれに気付き、雫が作った夢世界から空間を剥離させ、自分の城だけを別の空間に移して難を逃れた」
「とはいえ、その限られた空間も、やがて雫のルールに侵食されるんだけど、それでもパルキアは幾度も空間を張り直す事で、理からの消滅をギリギリまで遅延させた」
「その際に、他の世界から30人以上のポケモンを結果的に巻き込んでね…」
「だけど、それも10年目で遂に限界を迎えた」
「パルキアたちは、長い逃亡生活の果てに記憶を若干取り戻し、やがて世界の理のカラクリに気付いたんだけど…」
「それも、もう手遅れになった時点の話で、結局最後の暴挙に走ったんだ…」
聖
「…それが、守連たちを殺してすり替わる計画」
あの凄惨な結果は思い出したくもない。
誰も悪くないのに、悪いのは全部俺だったのに…!
俺が絶望し、諦めたからパルキアさんは結果的に死んだんだ!!
俺は怒りと決意を固める。
もう、決して絶望しない…そして、今度こそ勝つしかないんだ。
恵里香
「パルキアは不幸だったけど、それでも意味はあった」
「彼女がキミと出逢ったが為に、キミは再びここに辿り着いたんだ」
「さぁ…大体理解したかい? それなら、もう1度問うよ…?」
「この滅びの未来を…キミは、救ってくれるかい?」
そう言って恵里香は、右手を俺の前に差し出した。
俺は迷わずにその手を取る。
そして、恵里香は優しく笑い、小さく震えて涙する。
恵里香
「お帰り、聖君…」
「ありがとう…もう1度この道を選んでくれて」
「だからもう、夢を見るのは…終わりにしよう?」
「雫に願って、夢から覚めるんだ…きっと、その程度の願いなら、リスクは無いと思うから」
俺は黙って頷く。
あんな夢現のクソ世界はもういらない。
だから、俺は夢見の雫に願った。
あの世界を、消してくれと。
雫は俺の意志に反応し、白く光輝く。
そして、俺は…幸せな夢の世界と引き換えに、全ての記憶を取り戻した。
………………………
聖
「…今まで悪かったな恵里香、俺は今度こそ約束を果たすよ…」
「パルキアさんたちの無念は、俺が晴らす!」
「そして、守連たちをまずは絶対に助け出す!!」
『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』
第5章 『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢から覚めた。俺は、絶対に皆を救う!』
第1話 『サヨナラ、クソヤロウ』
To be continued…