第2話
パルキア
「はい、あ〜ん♪」
聖
「自分で食べるんで勘弁してください…」
今日もパルキアさんはマイペースだ。
ちなみに、ここでの食事は専用のコックがいて、それに作らせているとの事。
そして、今パルキアさんが差し出すスプーンに乗せられているのはカレーだった。
それからは、それなりに良い匂いが部屋に立ち込めている。
俺はパルキアさんから皿とスプーンを受け取り、自分で食べる事にした。
パルキア
「どう、味は?」
聖
「…まぁまぁっすね」
特に悪くはない。
あくまでこれはフツーのカレーだ。
ちなみにライスは無い、代わりにナンの様なパンが付いている。
つまり、これはどっちかっていうとインド式か?
インドならスプーン使うのはおかしくもあるのだが…
まぁ、気にしたら負けか。
俺はパンを手に取り、それをカレーに付けて食べる。
うん、中々悪くないな。
アグノム
「おい、特異点」
「とりあえず、お前には専用のオナホメイドを与えてやる、喜べ」
聖
「突然食事中に噴き出す事を言うなっ!?」
突然部屋に堂々と入って来たのは、エムリットちゃんの青髪版とも言えるアグノムだった。
今回初めて見たが、比較的大人しかったエムリットちゃんに比べると生意気そうな感じだな…いきなり命令形だし。
俺がアグノムをマジマジと見ていると、アグノムの後からひとりのメイドさんが現れる。
アグノム
「自己紹介だ、さっさとやれ」
メイド
「初めまして聖様、貴方様の専用オナホとなる『ミミロップ』です」
ミミロップと名乗ったメイドさんは、深々とお辞儀をする。
その際に、頭に生える長い特徴的な耳が前に垂れた。
服装はテンプレのメイド服だが…あくまでそれはエロゲーの話!
スカートは異様に短く、ほぼパンチラ寸前。
胸元は露骨に谷間が見える様に開いてあるし、この人のバストもパッツンパッツン!
正直、目のやり場に困るっつーのに…
パルキア
「まぁ、とりあえず聖君が寂しくない様にね?」
「本当に好きに命令しちゃって良いから、何でも」
アグノム
「そういう事だ! 俺様の最高傑作品だからな?」
「精々、子作りにでも励んでストレス発散しろ特異点!」
アグノムがそんなアホみたいな事を言うと、ふたりはさっさと部屋を出て行く。
残されたのは俺とそのメイドさんだけだった。
ミミロップ
「………」
聖
「……?」
な、何か落ち着かないな。
完全無表情で食事をガン見されてる。
俺はとりあえず食事を早めに終わらせると、メイドさんがすかさず食器の乗ったトレーを持ち上げた。
は、速いな…まるでこちらの呼吸を読んでいるかの様だ。
すると、メイドさんはトレーを片手に、開いている手で胸元から突然呼び鈴を出して、それをチリンチリン…と鳴らした。
?
「はいは〜い!」
聖
「うわっ!? 床からかよ!?」
鈴の音の後、すぐに床から首だけ出す謎の黒髪少女。
この娘もポケモンか…?
すり抜けてるって事は、多分ゴーストタイプなんだろうけど。
髪はミミロップさんとは違い黒髪の短髪。
ちなみに、ミミロップさんの方は腰まで延びる茶色の長髪だ。
メイドさんは黒髪少女を見て、こう言葉を放つ。
ミミロップ
「…床からではなく、外から扉を開けてほしかったのですが?」
少女
「おっと、そうだった…忘れてたよ」
少女はそう聞いてまた床に潜る。
まるでオアシスの◯タンドだな…
そして数秒後、部屋のドアが開いた。
ミミロップ
「…お願いします」
少女
「はいはい…味は文句無かった?」
聖
「あぁ、フツーに美味かった」
少女
「フツー、ね…まぁ良いや」
「とりあえず自己紹介! アタシは『ゲンガー』…ここのコックでメイドのひとり!」
成る程ゲンガーか…って、ゲンガーはもう、ゲーム中では浮遊出来ないはずなのに彼女は出来るのか…?
だとすると、彼女は遠い異世界からやって来たゲンガーなのだろう。
ちなみに、服はミミロップさんと同じタイプのメイド服。
だが身長170cmはあるミミロップさんに対し、ゲンガーちゃんは150cm程。
グンバツの巨乳と美脚を誇るミミロップさんに対し、悲しい程まな板のゲンガーちゃん。
そして完全無表情で無口のミミロップさんに対して、ゲンガーちゃんは相当にやる気が無いのか、ダレた感じで猫背のまま浮遊していた。
ゲンガー
「ったく、アグノム様も慣れない事やらせんなよな…」
「料理とかやった事無いんだぞ…?」
聖
「お前、初めてでそれ作ったのか?」
「だったら何気に良いセンスなんじゃないのか?」
「俺なんか初期はもっと失敗だらけだったのに…」
俺がそう言うと、ゲンガーちゃんは複雑そうな顔をして照れる。
お、意外に可愛い反応だな♪
ゲンガー
「まぁ、いいや…あんまり関わると怖いし、アタシはさっさと消える!」
ぶっきらぼうにそう言うと、ゲンガーちゃんはさっさと食器を持って部屋を出た。
怖い…ね。
何気に気になる単語だ。
前にパルキアさんもエムリットちゃんに近い事言ってたけど。
まさか、危険って…俺に関わる事なのか?
聖
「…ミミロップさん?」
ミミロップ
「はい」
聖
「ミミロップさんは、何か知っているんですか?」
「例えば、俺に関わる事とか…」
ミミロップ
「存じません」
「私には、何も教えられていませんので」
ミミロップさんは機械的に答える。
声には一切の抑揚が無く、本当に生きた人間なのか?と疑問を持ってしまう程だ。
ミミロップさんは余計な口を一切挟む事無く、直立不動で俺の命令を待っている。
…本当にエロい事は言わん方が良さそうだな。
聖
(結局…何も解らずか)
(守連たち、今何処にいるんだろうな?)
ミミロップ
「聖様」
聖
「!? な、何…?」
突然の言葉に俺は心底驚く。
まさか向こうから呼びかけられるとは思わなかった…
ミミロップ
「…トイレをお借りしても宜しいでしょうか?」
聖
「あ、ああ…そりゃそうだよな、どうぞどうぞ…」
俺がそう言うと、ミミロップさんは一礼して迷わずにトイレに向かった。
ちなみにこの部屋は中から出られないから、トイレは部屋の中にある。
って、この時点で俺は偉い事に気付いてしまった…
聖
「あのドスケベボディのメイドウサギと、同じ部屋で寝る…だと!?」
どうやら俺の貞操は確実に追い詰められている様だった。
朝起きたらしゃぶられてなければ良いが…
………………………
パルキア
「本当に大丈夫なの? ミミロップ…」
アグノム
「心配はいらない…アレは俺様のメイドでも最高傑作だ!」
「ありとあらゆるシチュエーションで完璧にシュミレートしてある!」
「どんな体位でも正しく膣内で射精サポート!」
「どんなエロい要望もお好きのまま!!」
「激しいドSプレイも逆に罵られたいドM紳士も大満足の逸品だ!!」
アグノムは大満足の表情で、握り拳を作ってそう力説する。
うん…母さん、そういう事が聞きたいんじゃ無いんだけどね…
パルキア
「機能美は解ったけど、消えないよね?」
アグノム
「だからアイツにしたんだ、アイツなら感情は殺せる」
「命令しか聞かないから、愛情なんて抱き様がない」
「それにアイツの『意志』は俺様が握ってる…だから問題無いさ」
それを聞いてオレは納得する。
確かに彼女はメイドの中でも特別だからね。
生い立ちの不幸もあってか、彼女は感情が無い。
ましてや、愛情を抱く事など有り得ない…か。
とはいえ、もしそんな彼女の心でさえ動かしてしまえるなら…聖君は本当に怖い存在だね。
パルキア
「…決して、慢心しちゃダメだよ?」
アグノム
「分かってるよ母さん…アイツには極力気を付ける」
「実験的な試みでもあるからな…例えアレでも消えるのか?とか…」
アグノムはちゃんと解っている様だった。
姉妹の中では1番頭の回転が速いからね…
ただ、もう少し子供らしくしてくれた方が母さん嬉しいなー
………………………
阿須那
「結局、野宿か…」
華澄
「仕方ありません、町まではまだ距離があるのでしょう」
守連
「お腹空いた〜」
私は木陰で倒れ込む。
時間の概念が無いせいか、真昼の日差しで歩き続けるのは辛い。
時間の経過も解らないし、残り体力で判断するしか出来ないし…
しかも食料が無いからこうなると大変だよ。
華澄
「町から出て、8時間経過ですな」
阿須那
「解るんか? 携帯の時計、機能してへんやろ?」
華澄
「はい、ですのでストップウォッチの機能を使って計測しておりました」
阿須那
「成る程な、それならざっくり時間経過は解るな」
華澄ちゃんはコクリと頷き、その場に座る。
阿須那ちゃんも同じ様に座った。
ちなみに、女胤ちゃんは現在探索中。
辺りに何か無いか調べてもらっている。
華澄
「せめて、食料さえあれば…」
阿須那
「魔物は倒したら消えてまうし、狩りってわけにもいかへんもんな…」
あれから、結構な数の魔物と出会った。
もう数えるのも億劫な位で、気が付いたらお金は凄い事になっていたけど。
阿須那
「結構便利な機能よなこれ」
華澄
「ですな、袋に入れたお金は自動で両替されるとは…」
そう、この世界のお金は手に入ると自動的に袋の中に入る。
そして、いくら入っても重くはならず、出す時は獲得した中で望みの金額が出せる機能だ。
RPGでも無尽蔵にお金稼いで持ち歩けるのか?という、答えを知った気分だった。
阿須那
「やっぱ、プログラムなんかなこれ?」
華澄
「その様にも感じます…空間自体はパルキア殿が作ったと思われますが、世界構築に関しては別の力が介入している可能性が高いですな」
華澄ちゃんたちは難しい事を考えている様だった。
私にはさっぱり解らない。
ゲームは好きでも、作れるわけじゃないし…
でも、この世界は食料バランスが理不尽だよ…
私みたいな大食いキャラも想定してバランス取らないと…
女胤
「皆さん、お待たせしました」
「とりあえず、近くにリンゴの樹がありましたので、いくつか摘んで来ました」
守連
「リンゴ〜!」
私はガバッと起き上がり、女胤ちゃんからリンゴをふたつ受け取る。
そしてそれに即かぶりついた。
華澄
「ああ! 守連殿、毒味もしてないのに!!」
阿須那
「食えるかも解らん代物に、よう迷わずかぶりつくわ…」
女胤
「そ、相当お腹が空いていたのですね…」
私は皆の言葉も聞こえずただリンゴをかじる。
酸っぱいだけの微妙な味だけど、お腹一杯になればとりあえず問題無い。
阿須那
「まぁ、この様子やったら大丈夫そうやな」
「いただきま〜す」
華澄
「まずは水で洗いましょう…女胤殿貸してくだされ」
女胤
「はい、どうぞ」
阿須那ちゃんはそのまま食べ始めたが、華澄ちゃんは先に水で洗っていた。
バッグに入るだけ持って来たのか、リンゴはまだ5〜6個はある様だ。
阿須那
「う〜酸っぱ…」
華澄
「仕方無いでこざる…味に文句は言えませんな」
女胤
「樹はそれ程遠くない場所に有りましたので、いくつか補給して行く方が良いかもしれませんね」
華澄ちゃんは頷き、リンゴを食べる。
女胤ちゃんもひとつ食べ、とりあえずその後はその場でしばらくの睡眠を私たちは取った。
………………………
パルキア
「どう? メイドさんのご奉仕は? ちゃんと上手に膣出し出来た?」
「孕ませるなら、膣奥にしっかり先端押し付けて射精しないとダメだよ〜?」
聖
「ヤッてませんから! 断じて童貞は渡しませんから!!」
「後、出来れば部屋の外に配置してください!!」
俺が眠りから目を覚ますと、ミミロップさんは直立不動のまま定位置で全く動いてなかった。
本当に命令しか聞かないらしく、いつ寝ているのかも解らない。
別の意味で不安だよこの人!
パルキア
「アハハッ、案外紳士なんだね〜?」
「普通、こんな状況なら猿みたいに体重ねる物だと思ったけど…」
聖
「勘弁してくださいよ…」
どこまで本気か解らない。
だが、逆に何を考えているか情報は引き出せないもんだろうか?
今の所、情報はパルキアさんやアグノムが知ってそうな感じだけど。
俺に接触して来るのはほとんどパルキアさんだけだし、何か聞けないもんかな?
聖
「この際、回り道は無しだ…」
「パルキアさん、俺は何なんですか?」
パルキア
「…何、とは?」
パルキアさんはトボけた様に微笑んで聞き返す。
俺は至って真剣な顔でこう言った。
聖
「特異点って、何なんですか!?」
パルキア
「…それは言えない」
聖
「危険って俺の事なんですか!?」
パルキア
「…そうだね」
「聖君、ゴメン……出来れば、これ以上は聞かないでくれ」
パルキアさんは顔を俯け、苦しそうな顔をする。
俺は確信した。
きっと言うと何かが起こるんだ。
ここまで出た重要ワードは…
『特異点、世界、計画、危険、約束』…辺りか。
俺は無い知恵を絞って連想してみる。
まず特異点…これは間違いなく俺の事だろう。
アグノムも言っていたし、確定と思って良いはず。
俺は恐らく何かの重要なポジションらしく、理由があって今はここに軟禁されている状態だ。
そして世界…これはパルキアさんが言った言葉にヒントはある。
世界の一部になる、これは一体どういう事だ?
この世界とは何の世界を指している?
かなり重要な気がするが、これはまだ情報が足りない気がした。
計画…これはパルキアさんが守連たちと戦う事を示唆する物。
恐らく、どこかの空間にいるであろう守連たちは、今も俺を探しているのだろう。
そして、この計画には俺が必要であり…守連たちは邪魔という事。
危険…これは恐らくだが場所ではなく、俺に関わる事を指している気がする。
俺が特異点と言うなら、それに関わるのが危険…?
約束…パルキアさんとエムリットちゃんの間に交わされた物。
これはどうやら危険と隣り合わせの物みたいだな。
エムリットちゃんはあれから姿を見せないし、アグノムも現れない。
恐らくいるであろうユクシーに至っては、まだ顔見せすらしてないな。
ここから今割り出せる事は…
聖
(俺に関わる事が、とにかく危険って事)
(そして、パルキアさんはエムリットちゃんたちがその危険に晒されるのを恐れてる)
(パルキアさんに悪意は全くと言って良い程感じない…むしろ優しすぎる位だ)
(少なくとも、こんなパルキアさんが、守連たちと殺し合うなんて想像が付かなかった…)
(それでも、パルキアさんは守連たちと戦う事を選んだのか?)
(俺は特異点であり、両陣営の中心…)
(一体、俺には何がある?)
それは、かつて守連たちと出逢った頃に思った疑問。
いくら考えても、何も解らなかった疑問。
よく解らないが、俺の周りには人間になったポケモンが集まって来る。
だけど、それは女胤までで、それ以降はパルキアさんが現れるまで誰も来なかったのに。
聖
「………」
まさか…? と、俺は思った。
パルキアさんが守連たちと戦う理由はそこにあるのか…?
あくまで推測に過ぎないが、守連たち4人にも何かがあるのか?
俺は今まで俺を中心に何かがあるのだと思っていた。
恐らくそれは間違ってない、故に特異点なのだろう。
だが、俺は見落としていたのかもしれない…
そもそも、守連たちも特異点ではないのか?と…
パルキア
「…何も、聞かないのかい?」
聖
「聞かないでくれ、と言われました」
「優しいパルキアさんにそんな辛そうな顔されたら、俺はそれ以上何も言えません」
「俺には、パルキアさんが悪人とは思えませんから、今は信じます」
パルキア
「優しいんだね…君は、だからオレは……」
パルキアさんは、今にも死んでしまいそうな顔で背を向け、空間を開けて何処かへ消えてしまった。
俺には、その悲しみの全容は何も解らない。
そして、そんな自分の無力さが、これ程憎いとは思わなかった!
俺は改めて決心する…強くなる、と。
俺を好きになってくれる皆に、あんな辛い顔をさせない様に、もっと強くなると!!
………………………
パルキア
「ダメだ…ダメだダメだダメだぁっ!!」
「好きになるなっ、まだ好きになるなぁっ!!」
「これ以上は耐えられない…! オレが消えてしまう!!」
「忘れろ、忘れろ忘れろぉぉっ!!」
オレが自室で必至になって頭を掻きむしりながら絶叫すると、突然頭が真っ白になった。
するとオレは気を落ち着け、ゆっくりと背後を見る。
そこには、目を開いた娘のユクシーがいた。
エムリットやアグノムとは違い、髪はやや短く黄色。
それ以外の姿は同じだが、ユクシーは普段常に両目を瞑っているのが特徴だ。
ユクシーの目は、能力を使う時のみ開かれる。
そして、能力を使ったユクシーはゆっくりと瞳を閉じた。
ユクシー
「……また、危なかった」
パルキア
「そっか〜また、やっちゃったか〜」
「ゴメンねユクシー…? 力使わせちゃって」
ユクシー
「…お母さんの為なら、大丈夫」
ユクシーは気丈にそう言う。
ユクシーがオレに使った能力は記憶消去。
オレが持つ、聖君との記憶をいくつか消去してもらったのだ。
これで、まだ大丈夫…まだ、消えない。
ユクシー
「…もう、近付かない方が良い」
パルキア
「そうはいかない、聖君とは家族になるんだ」
「その前に、ちゃんと聖君にオレたちの事好きになってもらわないと…」
そう、これは下積みだ。
勝利の後、オレたちがちゃんと幸せになる為の。
聖君がちゃんとオレたちを愛してくれる様に。
だけど、今回みたいにオレがちょっとでも傾いたら危険だ。
あくまで、まだ本気で好きになってはならない…
理に則り、オレは必ず勝利する!
ユクシー
「…いざとなったら、全部消すから」
パルキア
「それはダメだ!? オレは聖君を忘れたくない!!」
ユクシー
「…すでにそれがマズイって言ってるの」
「…お母さんは既にギリギリ」
「…いつ消えてもおかしくない位、彼を好きになってる」
「…それで消える位なら、私はお母さんの記憶を消す」
「…この計画は、そんな形で終わって良い物じゃないでしょ?」
オレは改めて実感した…本当に怖いな、聖君。
オレをそこまで虜にするなんて…
だから、オレは聖君の事が……
ユクシー
「…!!」
また、頭が真っ白になる。
今度は何があったのか、ほとんど覚えていない。
オレは…今どこにいる?
パルキア
「ここ、どこ…? …って、オレの部屋…?」
ユクシー
「…うん、そう」
「…ちなみに、今は計画の途中、まだ4人は第一大陸よ」
オレはそれを聞いて、ようやく状況を理解する。
そうか、まだ始まったばかりか…それなら。
パルキア
「あれ? えっと…誰だったっけ?」
「連れて来た、特異点の男の子…」
ユクシー
「…彼の名は魔更 聖よ」
「…今は城の最上階に軟禁してるわ」
パルキア
「…ああ、そうだったっけ?」
「そっか…じゃあ、ちゃんと挨拶して、説明してあげないと」
ユクシー
「…大丈夫、もうしてる」
「…彼もお母さんの事は知ってるから」
そっか…ユクシーはやっぱりしっかりさんだな♪
何か悪いな…後で、ちゃんと聖君に謝らないと。
ユクシー
「…今日はもう休んで」
「…後の事はメイドたちに任せてるから」
パルキア
「でも、聖君の顔も解らないし」
ユクシー
「…お願いだから、休んで」
ユクシーは珍しく強い口調で言った。
オレはこの時、何となく気付く。
パルキア
「…ユクシー、これ何回目?」
ユクシー
「……もう、5回目」
「…今回は、完全に消したから助かったけど」
「…お母さん、もう5回消えてる計算なのよ?」
「…私の力も無尽蔵じゃないの、少し休ませて」
「…そして、私の目の届かない所で、絶対彼に会わないで…!」
そう言って、ユクシーは弱々しく飛び去る。
あの娘があんなに強く言うなんて。
そんなに…彼の事、好きになっちゃったのか〜
パルキア
「嬉しいな、何か…これ、勝ったら絶対世界で1番幸せになれるエンディングのルートだ♪」
オレは更に夢を膨らませる。
勝てば、絶対に幸せになれる。
オレたちは理に則り、あの世界の一部となるのだから!
………………………
ユクシー
「………」
アグノム
「随分疲れてんな?」
ユクシー
「…少し、ここで休むわ」
そう言って姉さんは地下指令室のソファで横になった。
こりゃ、母さん相当やらかしたな…もう何回消えかけたのか?
俺様は薄暗い指令室の椅子に座り、フライドポテトを食いながら、目の前の巨大モニターを見ていた。
画面には敵の現在位置と所持品のリスト等が表示してある。
現在、まだ第一大陸の序盤。
全部で7つある大陸の1番最初だ。
まぁ、想定通りなら全体で数ヵ月、約100日はかかる計算だ。
そこまで出来りゃ、時間稼ぎとしちゃ十分だろ。
ただ、母さんは本当にこんなバケモノ共と戦えるのか?
ザコ戦から、いくらかパラメーターを弾き出してみたが、はっきり言ってふざけ過ぎてる。
こんな数値は、本気で人間がバケモノに挑むレベルだ。
空間の神と呼ばれるパルキアの母さんだが、人化の影響で神としての肉体は実質無くなっている。
つまり、能力はチートでも人間としての肉体のままだから、殺られる時もあっさり殺られるわけだ。
そんな即死ルールであの4人と戦うのは、いくらなんでも無謀すぎるな。
せめて、最低でも一対一に持ち込ませねぇと…
こっちで有利になる手はいくつか考えてあるが、成功するかもまだ解らない。
とにかく、今は俺様が作ったこの疑似RPG世界で時間を稼がせてもらうぜ!
アグノム
「つか、このポテト塩足りねぇ!」
「おまけにパサパサで食感悪りぃし!」
ゲンガー
「文句あんならテメェで作りやがれであります!」
アグノム
「げっ!? き、聞いてた…?」
気が付けば、背後にゲンガーがいた。
俺が命令してコックにしたからな…
ゲンガーは今にもキレそうな顔で俺様を睨み付けていた。
ヤバ…これ『黒い眼差し』だよな…?
ゲンガー
「アグノム様〜? 好き嫌いは直すって前に言いましたよね〜?」
「それで、早速アタシの料理に文句とは…」
アグノム
「い、いや、待て!? 文句はあっても好き嫌いはしてない!」
「ほ、ほらっ、ちゃんと牛乳も飲んでるし!」
ゲンガー
「だったら、今日のご飯はたくあん」
「ご飯もおかずもぜーんぶ、たくあん」
「でもアタシたちはカレー♪」
「好き嫌いするなよ?」
アグノム
「あぁぁんまぁぁりだぁ〜〜〜!!」
こうして、俺様の必至の涙も虚しく、食事は本気でたくあんになった…
これからは2度と料理に文句を言わない事を、俺様は神に誓う。
って、仮にも意志の神と呼ばれる俺様が他の神に祈るのはどうなんだ?
………………………
守連
「…!? 今、たくあんの叫びが聞こえた様な…?」
阿須那
「…は?」
華澄
「流石に、この様な中世ふぁんたじ〜の世界観でたくあんは無いと思うのですが…」
女胤
「とりあえず、ようやく次の町が見えましたわ!」
「さぁ、急ぎましょう! 聖様を早く助けなければ!!」
私たちは頷き合って走る。
ここまで特に問題も無く、私たちは順調に歩みを進めていた。
だけど、私たちはまだ知らない。
この世界が示している、本当の目的を…
『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』
第2話 『ポケダンのリンゴは世界一ぃぃぃっ!! 満腹にならないポケモン等無いぃぃっのだ!!』
To be continued…