第7話
女胤
「聖様、今お時間よろしいですか?」
聖
「デリヘルを頼んだ覚えはないぞ?」
女胤
「あん♪ どうせなら上の口じゃなくて下の口で飲ませてくださいませ(はぁと)」
聖
「カエレッ!!」
俺たちは相変わらずの呼吸でネタを交わす。
もはや、夫婦漫才と言われても否定出来なくなってきたかもしれん…
とはいえ、こんな時間に来られたら変に疑ってしまうわ。
時刻はもう23時、俺はそろそろ寝ようかと思っていた所だが。
女胤
「聖様、次の日曜は私(わたくし)と一緒に出かけてもらえませんか?」
聖
「ん? またデパートにでも行くのか?」
女胤
「いえ、実はゲームセンターに行ってみたいんです」
聖
「ゲーセンか…アーケードに興味があるのか?」
「今なら家庭用本体もあるし、移植作なら中古で探すのも手だぞ?」
女胤
「いえ、出来ればアーケードの雰囲気を感じてみたいのです」
女胤は割りと真面目にそう言う。
ふむ…女胤もゲーム好きだし、その辺は良い経験になるか?
俺は特に断る理由もなく、とりあえず了承する事にした。
聖
「分かったよ、今度の日曜な? 折角だから家族皆で行こう♪」
女胤
「はい! ありがとうございます♪」
こうして、次の日曜の予定はとりあえず埋まる事になった。
ゲーセンか…何気に久し振りだな。
普段は家で携帯ゲームがメインだったからな…今はもっぱらスマホゲーがメインになったが。
女胤
「それでは、聖様がゆっくり眠れる様に1発ヌイてから…」
聖
「いきなりパンツを脱ぐな!? さっさと部屋に戻れ!!」
俺は割と本気で貞操の危機を感じたので強く言う。
ったく…コイツの話になると一気にSAN値が上がるな。
とりあえず、女胤も渋々部屋を出て行った。
パンツを置き忘れて…
聖
「…チクショウ、1枚じゃ家具箱も交換出来ねぇ」
「つか、ワザとだろアイツ!? いい加減にしろ!!」
俺は女胤の脱ぎたてパンツを握り締め、部屋のドアを開けて廊下に投げ捨てた。
全く、これでは俺が変態認定されてしまうではないか…
これでも自家発電すら我慢しているんだ、これ以上下手に刺激しないでくれ…
俺は重い頭と股間を気にしながらベッドに倒れこんだ。
もう寝よ…それが1番良い……
………そして、時間が吹っ飛んで次の日曜日。
聖
「とりあえず、商店街か駅前だな」
女胤
「どちらになさいます?」
守連
「私、レトロゲーやりたい〜♪」
阿須那
「ウチはどっちでもええで? どっちでも格ゲーはあるやろ」
華澄
「拙者もお任せ致します」
聖
「なら今日は商店街にするか、レトロゲーならこっちにしか無いし」
俺たちはそう決めて、とりあえず歩き始める。
まだ昼を過ぎたばかりだから、時間は余裕だろ。
あそこならそんなに混まないしな。
………………………
女胤
「ここが…」
聖
「数少ないこの街のゲーセンだ」
「まぁ、こじんまりしてるから大型筐体はあまり置いてないけど、クレーンやプリクラとかもあるし、好きなのやってみろよ」
ここは商店街のとある一角に存在する、唯一のゲームセンター。
駅前にあるのはゲーセンというよりはアミューズメントスポットだから、実質ゲーセンという意味では、ここがこの街唯一の施設とも言える。
守連
「わぁ〜色々あるね〜♪」
阿須那
「おっ、初代◯ムスピあるやん! 1度やってみたかったんよな〜♪」
華澄
「ふむ、迷うでござるな」
皆それぞれやりたいゲームを探していた。
あらかじめ全員に100円玉を何枚か渡してあり、後は自由に遊ばせるつもりだ。
まぁ、そこまですぐに無くなる事はないだろ。
この店はレトロゲーならほとんど100円2クレだからな。
とりあえず、まずは物色から…
………………………
阿須那
「あ〜やられた! 結構難しいな〜」
阿須那は初代◯ムスピでCPU相手に苦戦している様だった。
あれは対人戦でないと駆け引きが無いからな。
きっちりパターンで組めないと全クリはキツいだろう。
守連
「あ〜これ結構難しい〜」
守連は初代◯よぷよをやっていた。
とはいえ、慣れてないのもあってか全然進めなかった様だ。
あれはかなりの計算力と判断力いるからな。
さしもの守連さんも頭の回転までは速くなかったのだろう。
華澄
「おお、こんな弾幕の間をすり抜けれるとは…」
華澄は怒◯領蜂をプレイしていた。
しかも、3面までノーミス…初心者でタイプA装備かよ、よくやるわ。
しかし流石に華澄は反射神経抜群だな、まるで弾の発射見てから回避してる感じだ。
この頃は弾速も遅めだし、初見でも反応はしやすいか。
華澄ならフツーにワンコインクリアやらかしそうだが…
女胤
「………」
女胤はまだ物色している様だった。
アイツもゲームは大体得意だが、ジャンルとなると何が得意なのか。
普段はどんなジャンルでもそつなくこなしてるからな。
女胤
「見た事の無い物ばかりですね…やはり格闘が多めですが」
聖
「まぁ、需要もあるからな」
「格ゲーはとりあえず基本だし、インカムが稼げる」
女胤はとりあえず一通り店内を見てから、改めてひとつの筐体の前で止まる。
そこにあるのは、もう結構古い人気作だ。
難易度はかなり高く、初心者にはチトハードル高いが。
この店でもそれなりに人気があるみたいだし、100円2クレはありがたいだろ。
聖
「やってみるか◯カパカ? 結構難しいぞ」
女胤
「はい、こういった音楽ゲームは初めてですので」
「まずはルールを確認、と」
「成る程、確かに難しそうですね…」
女胤は画面のデモをしばらく眺めた後、意を決して椅子に座る。
そしてコインを投入し、ゲームをスタートさせた。
女胤
「えっと…」
聖
「とりあえず練習モードからやってみろ」
「ワンコインで2クレ入ってるから、2回目でスタンダードをやると良い」
女胤は俺の言葉通りにゲームを進行させる。
そして、曲を選び対戦開始。
とりあえず2ボタンだけだし、ルールはすぐ飲み込めるだろ。
問題は1番簡単な奴でも凄まじい難易度という事なんだが…
女胤
「!…!……!」
女胤は初めてなりに上手くリズムを合わせようとしている。
元々センスはある方だし、何とかクリアは出来そうな感じだった。
まぁ、1ステ位なら流石に何とかなりそうか。
………………
女胤
「ふぅ…確かにこれは難しいですね」
聖
「だろ? でも、貴重な汎用筐体の音ゲーだから、何だで人気はあるんだよな」
「今の時代、こういう古いゲームは置いてる所が珍しいし」
女胤
「そうですか、確かに画像とかもやや古さを感じますね」
「ですが、上手く出来る様になったら楽しそうです♪」
女胤は結局2ゲームやって、どっちも2曲目でゲームオーバー。
やはり初心者には厳しいわな…
だが、女胤は思った以上に楽しかった様で、リベンジを誓っていた。
聖
「さて、次は何やる?」
「そこそこのレトロゲーは扱ってるし、色々やってみると良いだろ」
女胤
「そうですね、折角ですし対戦でもしてみましょうか」
そう言って女胤は阿須那がプレイしている◯ムスピに乱入をした。
当然だが対戦台なので、阿須那側からしたら誰が入ったかは解ってない。
阿須那
「何や? 乱入とはええ度胸やな!」
阿須那はやる気の様だ。
アイツも負けず嫌いな所あるからな…さて、とはいえ女胤も◯ムスピは初心者。
流石に1度プレイしている阿須那が有利だろう。
駆け引きが重要なゲームだから女胤には不利か?
女胤
「とりあえず、見た目でこのキャラにしましょう」
女胤は見た目だけでとりあえず最強キャラを選ぶ。
まぁ、女胤なら選びそうな予感はしたよ。
対する阿須那は◯ムタムか…って最悪ダイヤじゃあねーか!?
しかし、俺の不安を余所に試合は始まった。
阿須那
「いざ尋常に…!」
女胤
「勝負ですわ!!」
ズバァッ!!
女胤
「くっ! 開幕から!?」
阿須那はいきなりの強斬りぶっぱをカウンターで貰ってしまう。
慣れてないとはいえ、リーチと判定を見誤ったな。
このままだとズルズル行きかねんぞ。
阿須那
「!!」
阿須那はなおも女胤を容赦無く攻め立てる。
女胤は強キャラの◯ャルロットを使っていながら、その強みを引き出せないでいた。
聖
「女胤、相手は食らい判定も大きいし、攻撃発生も遅いから落ち着いて中斬りと蹴りを合わせてみろ」
「少し位遅れても◯ャルロットの発生速度と判定なら打ち勝てる」
「ただ蹴りとジャンプ斬りには気を付けろよ?」
女胤
「は、はいっ!」
俺の助言を受けて、女胤は立ち回りを変える。
すでに怒りは発動しており、逆転は十分可能だ。
女胤
「そこっ!」
ドチュッ!
阿須那
「くっ!? 後出しでカウンター取られた!?」
ただの立ち中斬りだが、これは最強キャラの中斬りだ。
判定も発生もリーチも詐欺臭い牽制だからな。
向こうの性能じゃ上手く蹴りを合わせないと中々返せないだろう。
女胤
「よし、これで…!」
ズバァッ!!
阿須那
「しもた!?」
阿須那はバックジャンプと同時に強斬りを放とうとするが、女胤はそれを追ってジャンプ強斬りを先に当てる。
ジャンプ速度が速い◯ャルロットの主力技だ、慣れてなきゃバッタされるだけでも厄介だからな。
女胤
「貰いますわ!」
阿須那
「!!」
キィィィン!!
女胤はトドメとばかりに強斬りを放つが、惜しくもガードされる。
焦りすぎたな…これは女胤の選択ミスだ。
『一本!!』
結局、女胤は強斬りを逆に返されて敗北する。
とはいえ、まだ一本目だ次はどうなるか…
………………………
女胤
「う〜ん、やはり初めてでは上手く行きませんでしたね…」
結局、女胤は二本目を取る事無く敗北してしまった。
だが、あれはむしろ立ち回りを学習して即対処した阿須那を誉めるべきだな。
最弱キャラの◯ムタムで良く勝てるわ…
女胤
「ですが、やはり名作だけに面白いですね!」
「もう1クレありますし、もう1度対戦しましょう!」
結局、女胤はもう1度乱入する。
だが努力空しく、また阿須那に勝つ事は出来なかった。
でも女胤は悔しくは思っているものの、満足はしている様だ。
まだまだ時間はある、はてさて次はどんなゲームをやるのかな?
………………………
聖
「『世界』! 時は止まる!!」
「そして制止時間9秒以内に決着をつける!!」
ドッバァァァァァン!!
聖
「この○IOがぁーーー!?」
阿須那
「ウチが時を止めた…どうや気分は?」
とりあえず、俺たちは◯ョジョで対戦していた。
俺はゲージMAXまでわざわざ溜めてから起死回生の『世界』を発動したと言うのに、阿須那は『◯タープラチナ ザ・ワールド』で時止め返しをしてきたのだ。
後はカウンターの◯ターブレーカーであえなく再起不能。
チクショウ…やっぱ阿須那は強ぇな。
聖
「くっそ〜◯ョジョなら操作楽な方だし、勝てるかと思ったんだけどな…」
阿須那
「ふふん、格ゲーならウチの天下や♪」
守連
「あはは〜華澄ちゃんにはフルボッコだったのに♪」
守連はたまにキツいツッコミ入れるよな…
流石の阿須那も声を詰まらせていた。
そして当の華澄さんはと言うと…
華澄
「おお…2週目の最後で何やら大きな蜂が出てきたでござる」
聖
「ラスボス来てるーーー!?」
「つか、結局2クレ内で到達したんかい!」
華澄さんは予想通り天才的テクニックで隠しボスにまで到達していた。
蜂ボーナスとか理解してないはずだから、単純にノーボムノーミスで2週目に入ったな。
しかし、いくらなんでもこれは初見だしキツいだろ…
華澄
「む…何やら小さなボスが出て来たでござる」
「くっ…!? いきなりこの様な弾幕を!」
ついに華澄は最終鬼畜兵器まで到達。
しかし、ある意味ここがこのゲームの本番だ。
この隠しラスボスは当時多くのシューターを沈めてきた名ボス。
最終形態まで行ければあるいはだが…?
ちなみに、最終鬼畜兵器は実の所手前のデカイ蜂の事を指す…これマメな?
華澄
「ギリギリまでボムで耐えて…!? 体力が減らない!?」
聖
「華澄、そこからはレーザーボムは無効だ!」
「ボムるならショットボムにしとけ!」
「そんで無敵状態の間に接敵してオーラ撃ちするんだ!」
華澄
「は、はいっ!」
華澄は言われた通りに、ボムをショットボムに切り替えて何とか捌いていく。
しかしながら、凄まじい弾幕の前に少しづつボムと残機を削られていった…
華澄
「後…少し!!」
そして遂に出た…通称『フグ差し』と言われる名物弾幕だ。
当時あまりの速度と物量で見る者を震撼させたらしい。
その物量は今でも色褪せる事はないよな〜
華澄
「……つ!!」
華澄はギリギリまで回避に専念し、ダメだと思ったら即ショットボムを撃って接近し、ギリギリまでオーラ撃ちする。
すると少しづつだがボスのライフは確実に減っていく。
後は例えやられてもこれの繰り返しだ。
とはいえ流石は華澄さん、慣れてきたのか段々自力で回避し始めた。
そして、ついに真ボスは最後を迎える。
華澄
「や、やりました…!」
聖
「スゴイじゃないか華澄!」
「まだ2回目なのに、もう全クリかよ!」
華澄
「い、いえ…自機の食らい判定が小さいのが解ったからです」
「それに聖殿の助言が無ければ、為す術無く倒されていたでしょう」
それでもやっぱりスゴイ。
華澄にこういうゲームやらせたら本当に世界一になってしまいそうだ…
俺はそんな華澄をベタ褒めしつつ、今度は守連の方を見た。
聖
「守連は気に入ったのあったか?」
守連
「う〜ん、アクション系が多くてやっぱり難しいね…」
「私、やっぱりRPGが1番好きかな?」
「でも、皆で遊ぶと難しくてもやっぱり楽しい♪」
何だかんだで守連も楽しんでる様で良かった。
さて、女胤は今何やってるのかな…?
女胤
「!…!…!!」
女胤は音ゲーが気に入ったのか、ハマってる様だった。
今やってるのは初代◯ーマニだな、中身はコンプ2。
古い筐体だけに結構モニターがヤバくなってるけど、しっかり遊べる名作だ。
女胤は☆3〜4位の難易度で頑張っている様だった。
何だで慣れないとゲージの減りも判定もキツ目な時代だからな。
この時代ならではの特殊判定もあるから、曲によっては面食らうだろう。
女胤
「ふぅ…何とか☆4位ならクリア出来る様になりましたわ」
聖
「調子良いみたいだな」
女胤
「あ、はい…このゲームも良いですね♪」
「専用筐体で味があって、雰囲気が最高です♪」
確かに、この筐体ならではの味があるよな。
スピーカーも少しこもった音だけど、逆にコレが良いって言う人もいる位だし、何より思い出深い曲が多いのがコンプ2の魅力だからな。
聖
「さて、大概遊んだと思うけど、まだやりたいのあるか?」
女胤
「いえ、私はどちらでも」
阿須那
「ウチも別にええで」
華澄
「拙者も楽しめました」
守連
「あ、じゃあ私最後にあれやりたい♪」
そう言って守連はパンチングマシンを指差す。
…って、マジか。
聖
「やるのは構わんが、筐体壊すなよ?」
守連
「あ、そっか…思いっ切りやれないと意味無いもんね〜」
思いっ切りやる気だったんかい!
守連って、意外にストレスとか溜まってるのか?
一応確認しておくか…
聖
「守連、お前もしかしてストレスとか溜まってるんじゃないのか?」
守連
「えっ…? そ、そうかな…?」
守連は何とも言えない顔をした。
とはいえ、あえて人畜無害の守連がパンチングマシンを選んだんだ。
何かある気がするな…
ってか、確かピカチュウってたまに放電しないと、ストレス溜まるとか図鑑に書いてあった気が…
聖
「おい守連、お前放電ちゃんとしてるか?」
守連
「えっ? う、ううん…やると家が黒コゲになっちゃったりするし」
「それに、私電力調整が下手だから、間違えて雷落としちゃうかも…」
それはヒジョーに物騒だ。
しかし、これでハッキリしたな。
間違いなくストレスだろ!
いくら守連でも、ストレスが溜まったら寿命が激減するぞ。
とはいえ、現実世界のストレスを和らげるハーブとかそこまで効果あるんだろうか?
守連の場合は放電出来てないせいだからな。
華澄
「それでは、外で思いっ切り放電してみますか?」
聖
「いやダメだろ…何を焦がす気だよ?」
華澄
「無論、拙者が受け止めるでござるよ」
華澄さんは無茶苦茶言う。
あんた水タイプでしょうに…
とはいえ、あの華澄が無謀な事を言うとは思えない。
何か手があるのか?
阿須那
「華澄、『守る』とか使えるんか?」
華澄
「いえ、それは使えませぬが…ですが、拙者には『畳返し』があるでござる」
「1発限りでござるが、ストレス解消には利用出来るかと」
成る程、攻撃無効技があるなら納得だ。
しかし、そうなるとどこでやるかだよな…
女胤
「とりあえず、やるにしても人目の付かない所を探す方が良いのでは?」
聖
「う〜ん、森とかだと火災になるしなぁ…」
「何だで家の近くだと住宅街だし」
「わざわざ電車使ってまで行くのも何だかアレだしなぁ…」
「他にストレス解消法探した方が良くないか?」
全員、ゲーセンの中で悩んでいた。
俺は流石に他の客に迷惑になると思って店を出る。
そして、どうやって守連のストレスを何とかしようか、考える事になった。
………………………
とりあえず、俺たちは休憩もかねて同じ商店街にある『喫茶こすぷれ〜ん』で話し合っていた。
一般扱いのカウンターで俺たちは5人座り、飲み物を飲みながらとりあえず対策を考える。
阿須那
「…で、具体的にどうするん?」
「守連はゲームでストレス解消とはいかへんみたいやし」
華澄
「難しい所ですな、守連殿は放電出来ないストレスですからな」
女胤
「ですが、代わりにストレス解消となると…」
聖
「う〜ん、守連は食うのが好きだし、食べ物で何とかならんのか?」
守連
「う〜…食べるのは好きだけど、何か違う気がする」
やはりストレス問題は難しい様だ。
きっちり放電させるべきなんだろうが、雷レベルの電力を軽く出す守連に、それでストレス解消させるには場所的に難易度が高い。
採石場とか、そんな所が近くにあれば現実的だが…
女胤
「後は◯クロス位しか思い付きませんわね」
聖
「ハイ却下! お前はソッチ系しか浮かばんのか!?」
女胤の意見を速攻で却下し、俺は改めて考える。
放電か…撒き散らすのか危険なら、絶縁体を利用すれば…?
聖
「よく考えたら、ゴム手袋とか装備して、それでちょっとづつ放電すれば良くね?」
阿須那
「…成る程なぁ〜その手があったか」
華澄
「しかし、守連殿程の電熱に耐えられる手袋があるのでしょうか?」
確かに、電熱となるとキツいだろうな…使い捨てで用意するのはコストもかかるし。
聖
「いっその事、殴り合わせてみるか?」
「それが最もローコストだが」
華澄
「さ、流石にそれは守連殿がつらいかと…」
守連
「私も、喧嘩は嫌だよ〜…」
まぁ、これは流石に冗談だ。
しかし、本当にどうするかな…何か別の解消法があれば。
人間なら運動なり音楽なり色々あるんだが…
ゲーマーなら格ゲーやシューティングは爽快感重視で良いんだけど、守連はソッチのタイプじゃないしな。
阿須那
「考え方を逆にしたらええんちゃう?」
「どうやって放電するんかやなくて、どうやったら放電出来るかを考えるんや」
女胤
「ですが、それには場所の問題が…」
阿須那
「それも逆転、出来る場所が無いなら、どこでも出来る方法を考えるんや」
成る程、その考えはまだ無かったな
ふむ、移動も必要無く、かつ特別な条件無しで放電する方法か。
守連は電力調整が苦手と言ってたから、余計に難しい所だが。
風路
「色々考えてるみたいだけど、どう?」
聖
「何とも言えないですね…何か電気を上手く放電出来れば良いんですけど」
俺は何となく近付いて来た風路さんに、思わずそんな事を言ってしまう。
って、いきなりそんな話されても風路さん戸惑うだろ。
風路
「うん? とりあえずアースや避雷針っていうのはダメなの?」
「何を放電させるのか解らないけど…」
しかし、思いのほか風路さんは真面目に答えてくれた。
そして至極現実的、これは大きなヒントになるな。
聖
「そうか、よく考えたら地面に流せば良いのか!」
華澄
「確かに、電気は地面に相性が悪いですからな」
阿須那
「…ふむ、行けるかもしれへんな」
俺たちはソッチの方向で話を進める事にした。
俺は風路さんに礼を言い、とりあえず店を出る事にする。
風路さんはニコニコしていたが、多分話の筋は理解出来てないんだろうな…
………………………
守連
「えっと…これを握って」
俺たちは近所の公園に来ていた。
そこで、電気屋で買ったアース棒を砂場に深く差し、それを守連に握らせる。
理論上はこれで地面に流れるはず。
守連
「えっと、ホントに大丈夫?」
聖
「電気に関しては大丈夫のはずだ」
「だけど、電熱までは考えてないから、ある程度セーブしろよ?」
「所詮、電動工具用の安物なんだから」
守連は相当不安そうだった。
初めて出会った時以来、コイツの電気は見ていない。
ましてや、戦闘レベルの電気なんて想像も出来ん。
雷の電圧はおよそ200万〜10憶ボルトと言われるが、守連のそれは雷の様に一瞬の出力ではないらしいし。
本気でやれば、数秒以上も1億ボルト前後の電力を放電出来ると言うのだ。
ピカチュウは本来コツコツ溜めた電気を戦闘で放つそうだが、守連はほとんど放たずに溜めっぱなし。
守連が言うには、体から溢れる余剰分は電気玉に溜められていくそうだが…
それも許容量がどれ程あるのか解らないし、守連のストレス状態を見るに、限界は近そうな感じも何となくする。
ただでさえ、前に風邪で倒れた時も放電出来ないのが原因だった可能性もあるからな…
また、あんな事になるのはゴメンだぞ?
華澄
「守連殿、思いっ切りやる必要はありません」
「少しづつ、少しづつ放電していくのです」
守連
「難しいよ〜とにかく、やってみるね!」
バチバチバチィ!と、突然守連の足元が青白くスパークし始める。
前髪が静電気で浮き上がり、どこぞの第三位の人みたいな状態になっていた。
つか、これやり過ぎじゃないのか!?
聖
「守連、もうちょっと抑えろ!」
守連
「もう無理! これ以下に調整するのはもう出来ない!!」
守連がそう言った瞬間。
まるで轟雷が落ちたかの様な凄まじい音がした。
あまりの電力に目が眩んだが、数秒後にはどうやら無事収まった様だ。
しっかし、守連の奴本当に調整とか出来ないんだな…
守連
「はぁ…はぁ……! うぅ、やっぱり溶けた…」
女胤
「見事にアース棒が融解しましたわね」
「守連さん、手は大丈夫ですか?」
女胤は砂場に座り込んでいる守連に近付く。
守連が握っていたアース棒は見事にドロドロに溶けていた。
熱を感じた瞬間に手を離したのか、守連の手には火傷の類いは幸い無い。
それ所か未だバチバチとスパークしている。
どこまで溜め込んでたのか…?
守連
「女胤ちゃん、まだ近付かない方が良いよ?」
「もう少しで、安定すると思うから…」
そう言って守連は全身からバチバチと音を鳴らす。
女胤は流石にそれ以上近付けず、心配そうに守連を見ている事しか出来なかった。
守連はかなりお疲れの様だ…
やれやれ、これはやっぱ何か対策考えないといかんわな。
阿須那
「とりあえず、何とか1発放電出来たし、後はゴム手袋で普段からちょっとづつ放電しとけばええんとちゃう?」
「今ならコントロールもしやすいやろ」
華澄
「そうですな、溜め込むよりも普段から定期的に流しておけば、細かいコントロールも次第に出来るのでは?」
守連
「うん、皆に迷惑はかけたくないし、私も頑張るね♪」
守連はそう言って小さくもガッツポーズを取った。
とりあえず、今回は一件落着か…?
後はゴム手袋か…テキトーに買って来るかな。
………………………
聖
「どうだ守連?」
守連
「うん、何とか」
守連は家でゴム手袋をして少しづつ手から放電していた。
この位なら、とりあえず融解する事無く放電出来ている様だ。
守連
「でも、あんまり放電し過ぎると、いざ使う時困るかも…」
聖
「その為の電気玉じゃないのか?」
「基本、それに電力満タンにしておいて、入らないのを放電すりゃ良いだろ」
俺がそう言うと、守連は納得する。
今回のでどんだけ減ったかは解らないが、入る内は入れときゃ良いだろろうし。
守連
「そっか、それならいざっていう時も大丈夫だね♪」
「ありがとう、聖さん」
聖
「お、おう…気にすんなよ、家族なんだから」
俺は突然のありがとうに思わず頬を掻く。
守連はそんな俺の事を見てニコニコしているだけだった。
やっぱ、コイツも何だで美少女だよな。
貧乳だけど体は細くスレンダーだし、筋肉の付き方もスポーツ系だ。
海行った時も感じたけど、守連は肉付きが凄く良い。
普段から食うだけに運動神経も良く、何気に本当はアウトドア派なんだろうな…
守連
「♪〜♪♪〜〜今日の晩御飯何かな〜♪」
聖
「そういえば、お前普段運動とかはしてるのか?」
「あれだけ食っても太る気配無いし、妙に肉付き良いよな?」
守連
「ん〜あまり外には出れないから、いつも寝る前に筋トレはしてるよ?」
それは意外…してたのな。
成る程、食うだけじゃなかったのか。
道理でバランスの良い筋肉してるわけだ。
本気でパンチングマシンやらせなくて良かったぜ…
阿須那
「そろそろ晩飯にするで〜今日はナポリタンや!」
守連
「やった〜ナポリタ〜ン♪」
嬉しそうに守連はテーブルに向かって行く。
アイツ、本当に普段人畜無害だけど、本気出したら相当なスペックなんだろうな…
むしろ、あれ程の電力を溜め込めるのだ…守連が本気を出す相手が現れたら、世界はどうなっちまうのかね?
等と、自分でも訳の解らない事を考えてしまった。
そして、そんな馬鹿な考えを俺はとっとと忘れ、食卓に向かう事にする…
『とりあえず、彼女いない歴16年の俺がポケモン女と日常を過ごす夢を見た。だが、後悔はしていない』
第7話 『女胤のゲーセンタイム、守連のストレス対策』
To be continued…