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1章
はじめてのポケモンと事件の香り

 小さい頃、ある映像を見て強い衝撃を受けた。それは、カントー地方のポケモンリーグの映像だった。
 眩いほどの電撃を放つ小さな体の黄色いポケモン、ほとばしる炎を放つ大きな翼を持ったポケモン、その巨体からは想像もできない動きを見せるポケモン…。そこには言葉では言い表せないような高揚感があった。
 そのポケモン達の主人であるトレーナーは、10歳の赤い帽子をかぶったまだ幼さが残る少年だった。その映像を見てから、おれの夢はポケモンリーグのチャンピオンに決まった。
 …とは言うものの、おれは当時、5歳で、小さくて、臆病で、その上口下手で(これは今も)友達がいなかったので(残念ながら今もいません)、母さんはなかなかポケモンを与えてはくれなかった。もちろん、旅なんて論外。
 でも、母さんは一つ約束をしてくれた。

「私の後輩に、ポケモンの研究がしたいっていう変わり者がいるの。もし、彼が研究職に着いた時、あなたに図鑑を渡してもらえるよう頼んでみるわ」

と。
 それから時は流れて現在、おれは故郷のホウエン地方から太平洋を挟んだチチカカ地方のペケノタウンにいた。(というか、昨日つきました)
 事の発端は、一昨日の朝の母さんの「良かったわね、ポケモンもらえるわよ!」と言う一言だった。それはもう天地がひっくり返る勢いで喜んだけど、「じゃあ、準備しなさい」と明らかに多すぎる荷物(家具類をダンボールに詰めたりを含む)を用意させられ、図鑑を託してくれるという博士と連絡を初めて取り、飛行機に乗せられ、ニュースで聞いたことしかない地方やってきたのだった。

「マコトー!アザレア博士のところに行く時間よー!」

「わかってるー…」

 母さんが玄関で叫ぶ。なんであんなに大変だったのに、こんなに元気なんだろう、怖。自分の部屋の時計を合わせてから、急ぎ足で階段を降りる。

「ポケギアもってる?タウンマップは?」

「持ったよ。博士の家はお隣だっけ?」

「そうだけど、気をつけて行くのよ。あんたどんくさいんだから」

 一言多いんだよなぁ…。と思いつつ、玄関の扉を開ける。

「それじゃあ、行ってきます!」








「いやぁ、ごめんね。今ちょっと立て込んでて…」

 アザレア研究所を訪ねてみると、黒くて、首に赤い首飾りをつけたようなポケモンが暴れまわっていた。たしかあれは、ムウマだっけ…。

「君がマコト君だよね、で、そちらが…」

「カエデです、あの忙しいようでしたら…」

「いや、忙しいというかその、いきなりなんだけどね。手伝ってほしいことがあるんだ」

 そう言いながら博士は、モンスターボールを2つ取り出して、それぞれ一つずつをおれとカエデと名乗った少女の手の上においた。

「君たちにある人を探してほしい。もちろん僕たちも探すつもりなんだけどね。場所は1番道路のすぐ近くにあるオスクロの森だ」

「人探しですか?」

とカエデ。

「うん、この子のトレーナーだよ」

 博士は書類をぶちまけているムウマを指さした。

「勿論、手ぶらでとは言わないよ。そのモンスターボールを開いてご覧」

 赤と白の間にあるボタンを押して見る。すると、ポンっ、という軽快な音とともに、黄色い体に真っ赤な頬を持った、おれにとっては慣れ親しんだポケモンが出てきた。そのポケモンはふんふん、とおれの匂いを嗅いでから、上着の中に滑り込んだ。

「ピカチュウだ…!」

「うん、そうだよ。よく知ってるねマコト君、カエデちゃんのポケモンは…」

「チコリータ、ですね!」

 カエデは嬉しそうに目を細めてチコリータを抱きしめた。

「いいかい、二人共。オスクロの森は穏やかな森だけど、ムウマの様子が気になる。多分この子達の身になにか起こったんだ。だから、君たちは一緒に行動してほしい」

 博士の真剣な表情に、おれとカエデは一瞬目を合わせてから、「はい」と返事をした。
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ぶち ( 2018/09/24(月) 00:34 )