Another Story
チョコクッキー
※人間のころの記憶が少し戻っています。
 また、遠くの地方ですがチョコレートが存在します。

***

ふと思い出す。
ああ、そういえば、そろそろバレンタインだったな。
ポケモンになってから時間感覚が夏休みの時のように分かりにくくなっている気がする。

「バレンタインといえば……チョコ食べたいなぁ」

チョコレート。最近、ずっと食べていない。
まあ、ここにはあまり流通していないっぽいから仕方ないけれど。

「ちょこ?何それ?」

と、その呟きを拾ったラグリが不思議そうに問いかける。

「えっと……」

……なかなか説明が難しい。
話すより見せた方がいいのだが、ここら辺にはチョコレートなんてないし……。

「あ、そうだ。ここって、牛乳とかある?ミルクとかでもいいんだけど」

チョコがないなら作ればいいじゃん!そう思ってきいてみる。

「モーモーミルクなら聞いたことあるけど、ここら辺ではあまり見ないなぁ……」

そっか……残念だ。
っていうか、たとえミルクが手に入ってもカカオが無ければ意味がないじゃないか。
馬鹿かオレ。

***

でも、やっぱりチョコが食べたくて、依頼をこなしたあとガルーラさんに相談することにした。

「チョコレート?……ああ、そういえば遠くの街にそんなものがあるって聞いたことが
 あるような……」

その言葉に、ルーブは顔をほころばせる。

「ほんとか!?それ、取り寄せることとかってできるかな?」

「うーん…まぁ、できなくはないけど……よし、やってみようか。」

「ありがとう!」

どうやらここら辺にないだけでチョコレートは存在するらしい。
チョコがまた食べられると思うだけでワクワクしてきた。
せっかくならバレンタインっぽくチョコを溶かして作ってみよう。
……なんだかお腹が空いてきた。

***

チョコレートは翌日届いた。
ガルーラさんの頼みならと、すぐに届けてくれたらしい。
ガルーラさんの凄さを改めて思い知る。

さて、チョコレートを作っていこう!………と、いうところなんだけど、

「オレ、料理するのなんて家庭科の調理実習以来なんだよな……」

たとえチョコを溶かして固めるだけとはいえ、上手くできるか分からない。
まぁ、でもやってみるか……
………………
………………………ん?

固めようにも型がなくない?
……どうしよう、振り出しに戻った。

うーん……なんかあったっけ……?

「…………あ」

ひとつだけあった。
クッキーだ。チョコクッキー。
まだ人間だった頃、バレンタインにチョコもらったらお返しにクッキーを作って渡そうなんて考えて、そのレシピだけ暗記した。
……結局、チョコはもらわなかったから意味はなかったんだけど。
こんな形で使うことになるとは。

でも、まだ作れるかどうか……
……まぁ、わからないけど、

「とりあえず、やってみるか!」

こうしてオレは、チョコクッキー作りに取りかかった。

***

「ふぅ……なんとか、できた」

あれから試行錯誤も重ねて2時間。ようやくチョコクッキーが出来上がった。
それは上手く綺麗な円にならなくて、形もすごく不恰好。
チョコクッキーとは呼べないようなものだったけど、味見したところ味はまぁ、
美味しかった。

「おーい、ラグリー!」

出来たてのクッキーを持ってパートナーを呼ぶ。
ラグリはすぐに来た。

「どうしたの………ってなにこれ!?すごい、ルーブが作ったの!?」

想像以上に驚かれた。

「うんまぁ……あんま上手くないけど」

「すごいよ!!あ、もしかしてこれがちょこ?」

キラキラした目で問いかけられた。

「うん、正確にはチョコクッキーだけど」

「そうなんだ、すごいね!食べてもいい?」

「もちろん、いいよ」

食べた感じはそこそこ良かったけど、大丈夫かな……?
自分の料理を食べてもらうのって、思ったより緊張する。

「おいしい……!!」

幸せそうに食べるラグリを見てたら、なんだかオレも幸せな気持ちになってきた。

「そっか、よかった」

オレもチョコクッキーに手をのばす。
2匹(ふたり)だけのバレンタインだけど、今までで1番、幸せなバレンタインだった。






(エクションさんから頂いた挿絵です。ありがとうございます!)

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■筆者メッセージ
今思えば、クッキーも型が必要でしたね……
型がいらないのはマカロンでした。ごめんなさい。

読んでくださりありがとうございました!
ポチャ ( 2022/02/13(日) 21:17 )