第一章 僕らの色が、交わる時
6. 初依頼
開いた窓から差し込む暖かな日差しに心地よい風。
どこか懐かしさを感じる明るい部屋。

……ここは、どこだ?

記憶を探って、ああ、と思いだす。
そうか、昨日、オレはポケモンに…………

そこまで考えて、慌てて手を顔の前に持ってくる。


その色は、『黄色』。


「……やっぱり、ポケモンの姿のままか。」

予想はしていた。
でも、もしかしたら夢なのではないかと、少し期待もしていた。

まだ眠い、だけど起きなきゃと、どこかぼんやりする頭で考える。
でも重いまぶたは言うことを聞かない。
もう、起きないとーーーー





ーーーーさっきよりも強くなった明るい日差し。
結局寝てしまっていたみたいだ。
数時間前よりも気分もいいしすっきりしている。

「っ、そうだ、起きなきゃ……」

そこまで言いかけて、はっとする。
おそるおそる、自分の身体を見る。

「……はぁ。」

その身体は、ピカチュウのすがたのままだった。
だいぶはっきりしてきた頭で、これからどうすべきかを考える。

そういえば、ラグリっていうゼニガメと救助隊をやるって約束していたんだっけ……
ラグリはどうしてるんだろう。もう来てるのかな。

そう思って家を出た。思ったより眩しい日差しに目を細める。

ラグリは……
…………ん?
足元で、ぽつんと置かれている甲羅。
これ、もしかして……

甲羅に手を伸ばしかけた瞬間、ラグリが飛び起きた。

「危なっ」

ぶつかりそうになって、慌てて身を引く。

「あ、ルーブく……ルーブ、おはよう。
 えへへ、わくわくして明け方から待ってたら寝ちゃってたみたい。ごめんね。」

ルーブくんと言いそうになりながら、はにかみつつラグリがオレに言う。

「おはよ。
 まぁ、とりあえず今日から救助隊活動開始だな!」

こうなったら、今できることをやるしかない。
もしかしたら、そのうちに思い出すかもしれないし。

「うん、頑張ろうね……!
 ……って、まだ仕事ないんだけど。うーん、届いてるかな。」

苦笑いでラグリが言って、家の横にあるポストを覗く。
そして、何かを取り出すと、きらきらした目でオレの方を見た。

「やっぱりあった!『救助隊スターターセット』!!」

「救助隊スターターセット?」

なんだそれ。
うん、と頷くラグリの手にあるものの中には、新聞っぽいものとか箱みたいなものとか、
様々な物が入っている。

「救助隊を作ったら必ずもらえるんだよ。」

昨日の今日で送られてくるってすごい。
ラグリはそんな素振り見せなかったけど、書類でも書いていたりしたのだろうか。

「じゃあ、簡単に説明するね。これが『救助隊バッジ』。救助隊の証だよ。」

そう言ってラグリが指さしたのは、羽根のついた卵のような形をしたもの。

「そしてこれが『道具箱』。ダンジョンで拾った道具もとっておけるんだ。
 バタフリーさんからもらったのもここに入れておくね。」

次に箱みたいなものを指し示して、中にバタフリーからもらったきのみを入れる。

「で、これは『ポケモンニュース』。
 救助に役立つ情報が書いてあるから後で読んでみよう!」

最後に紙の束を見て説明してくれる。
たぶんこれは、新聞と同じようなものという認識でいいだろう。

ひととおり情報を整理してラグリを見ると、ラグリはまだポストを覗き込んでいた。

「どうしたんだ?」

まだ何かあるのかと、ラグリにきく。

「救助の依頼があればポストに入ってるはずなんだけど、まだ手紙は入ってなかったや。やっぱりチームを作ったばかりだからかな……」

少し悲しげに笑いながらラグリが言う。


[バサッバサッ!]

オレたちの頭上を飛んでいるのは……ぺリッパー??

[スコン!]

ぺリッパーはこっちに向かって来たかと思うと、ポストに何かを入れてまた飛んでいってしまった。

「な、なんだろう……?」

びっくりした様子で呟くラグリ。
その様子を視界の端に捉えながら、俺はポストの中を覗いた。

「手紙か……?」

入っていたのは一通の手紙。

「きゅ、救助の依頼かも……!ねぇルーブ、読んでみて!」

ラグリの言葉に頷いてから手紙を読み上げる。

「えっと……?

『ビビビ!
 キミタチノ コトハ キャタピーチャン カラ キイタ。 タノム。 タスケテクレ。
 コイル ガ ピンチ ナノダ。 ドウクツニ フシギナ………』
 
 何これ、めっちゃ読みづらいんだけど……」

カタカナのみで書かれた依頼(たぶん)に、多少の苛立ちと困惑が起きる。
途中で読むのをやめてしまったオレの代わりに、覗き込んでいたラグリが読み始める。

「『ドウクツニ フシギナ デンジハガ ナガレタ ヒョウシニ コイル ト コイル ガ
 クッツイテ シマッタ ノダ』

 よ、よくわかんないけど、洞窟にコイルを助けに行けばいいってことだよね!?
 初依頼だね、頑張ろう!」

オレの苛立ちを察したのか、ラグリがとりあえず話をまとめた。
そして、オレにもう一度手紙を渡す。

『レアコイル トシテ イキテイクニモ イッピキ タリナイシ コノママデハ
 チュウトハンパ ダ』

そんな、冗談なのか本気なのかわからない文が目に入ったけど、それは無視して。

オレは、ラグリに頷いて用意をした。

ポチャ ( 2022/06/24(金) 23:59 )