第一章 僕らの色が、交わる時
3. でんきショック
「……で?技はどうやって出すって?」

キャタピーちゃんを助けようと、小さな森に来たオレ達。
でも、ただいま、ちょっとしたハプニングが起こっています……。

「えーっと、なんか、こう、力を溜めて、グッ!て感じで……」

「だから、その説明じゃ分からん!もっと的確な指示を出せ!!」

ぐっすり寝ている野生のポケモンのケムッソを前にして、
技を出してポケモンを倒さなきゃいけないんだけどーーー


ーーラグリは、説明がすごく下手なのだ。

「えええ、だって技が使えないポケモンなんて、ほとんどいないんだもん……!」

……うん。
たぶん、これ以上の説明は求める方が無意味だ。

「オレは人間だってば。ってかお前が倒せばいいんじゃねぇの?」

「え。」

え?
ちょっと待て、なんで固まった?

「ええっと……ほら!じ、実習?実習っていうかなんかその、やっぱり実際やった方がいいというか…!」

んん?
あからさまに焦ってるし。

……嫌な予感がする。

そして、その予感ほどよく当たってしまうってことを、オレは知っている。

「なぁ」

「は、はい?」

なぁって言っただけで動揺してるんだけど、大丈夫だろうか。
オレは単刀直入に言う。

「技、使えないの?」

「………使えはする、よ?……でも、すごく下手。」

なんだ。使えはするのか。

「じゃあ、とりあえず技出してよ。そろそろケムッソも起きちゃうかもだし。」

そう言うオレの言葉に、ラグリはうう、と言って、渋々といった感じで技を繰り出す。

「っ、『みずでっぽう』!」

ラグリがそう叫ぶ。
それと同時に、『みずでっぽう』が勢いよく繰り出された……のだが、

その『みずでっぽう』が当たったのは、ケムッソからだいぶ離れた、左の方にある木。
それに、技を繰り出す時にラグリは目をつぶってしまっている。

「……だから、言ったでしょ。技、下手だって。」

ちょっとふてくされた様子のラグリがオレに言う。

「…………なんか、ごめん。」

微妙な間が開く。
技が下手だというのは謙遜だと思ってた。
上手い、とは言えないし、ラグリの言葉に肯定もできなくて、とりあえず謝る。
……技が出せるだけすごいと思う、とか言った方が良かったかな。

「とりあえず、ルーブもやってみなよ。」

気を取り直したように言うラグリに言われて、想像する。
正直、あの説明で理解はできていない。

でも、やってみるしかない。
オレはピカチュウ。ってことは、有名な技としては『10まんボルト』。
……だけど、たぶん今のオレにはできないと思う。だから、『でんきショック』あたりが妥当だろう。

目を閉じて、オレの身体中の電気を一つの方向に飛ばすことをイメージする。

「『でんきショック』っ!!」

その瞬間、オレの身体が黄色の稲妻で少し光る。
そして、電撃がケムッソの方に向かって勢いよく進んでいった。

……次の瞬間、ケムッソは戦闘不能になっていた。

その様子にラグリも少なからず驚いている。
技を繰り出したことがないとは思えない。

「…………できた……?」

思わず呟きが漏れた。
その言葉に、ラグリは我に返った様子で言う。

「……っすごい!すごいよ、ルーブ!!」

そう言うと、ルーブはこっちを向いて笑った。

「……やった。オレ、技が出せた!!」

自分のことのように嬉しそうにしているラグリを見ると、ラグリが上手く技を出せないことなんか、どうでもよくなってきた。

まだまだ始まったばかりだけど、思ったよりダンジョンは怖くないのではないか。
もし、仮に何かあってもなんとかなるのではないか。
そんな予感を感じて、ルーブも同じくらいの笑顔で、ラグリとハイタッチをした。

ポチャ ( 2022/02/20(日) 08:01 )