第一章 僕らの色が、交わる時
2. 助ける決意
ーーーーーーたしかに、オレは、ピカチュウになっていた。
でも、人間だったこと以外、何も思い出せない。
これは、どうなってるんだ?

「きみ、少し変わってるね……?
 あ、じゃあ名前は?きみの名前は、なんていうの?」

……名前。
そう、それだけ覚えているのだ。ほとんど記憶がない中で、ひとつだけ。
それさえ、正しいかは分からないけれど。

「……オレは、『ルーブ』」

「ルーブくん?なんか、面白い名前だね。」

お前も変な名前だと思うけど、とは言わなかった。
急に声がしたのは、その時だった。

「だれかぁ~!助けて~!」

声の方を振り向くと、必死の様子の『バタフリー』がこちらへ飛んできた。
やっぱり、ここはポケモンの世界のようだ。人間にはまだ一人も会ってない。

「ど、どうしたの?」

ラグリも気づいたみたいだ。
バタフリーは焦った様子で話し出す。

「大変なのよ!うちのキャタピーちゃんが……ほらあなに落っこちちゃったのよ!」

「ええっ!」

「急に地面が割れて、その中にキャタピーちゃんが!
 自分で出ようにも、あの子、まだ幼いから出られなくて……。
 その上、助けに行こうにもポケモンが襲ってきて……!」

その言葉に、ラグリは不思議そうな顔をする。

「お、襲ってくる?ポケモン達が……?」

「ええ!きっとみんな、地割れで我を忘れているのよ!私の力じゃ、あのポケモン達には
 かなわないし…」

ぽんぽんと言葉を交わしているラグリとバタフリー。
なるほど、なんとなく話は読めた。
バタフリーの子供が穴に落ちちゃって、助けに行きたいけどポケモンが襲ってきて。

強そうに見える、バタフリーでもかなわないのだ。
オレ達に助けることは到底無理だろう。
だから、今のオレ達に出来ることはーーー

「こうしちゃいられない。ルーブくん、その……一緒に、助けに行かない?」

……いやいや。

「お前、本気で言ってる?バタフリーでもかなわないんだぞ。オレ達には無理だよ。」

すると、ラグリはとたんに悲しそうな表情になる。

「だめ、かな……?」

「いや、だめというか……オレ達が役に立つとは思えないんだけど。」

その言葉に、ラグリは一瞬下を向いた後、口を開いた。

「役に立つかは分かんないけど、もしかしたら、意味のないことかもしれないけど、
 僕は困ってるポケモンがいたら助けたい。
 でも、僕は弱虫だから一人では怖くて……。
 だから、一緒に来て欲しいけど、無理にとは言わないよ。」

これを聞いて、すごいと思った。
弱虫?
弱虫なのはオレの方だ。
他人のことを考えて、行動できる。
それって、すごいことじゃないか。

だから、オレは頷いた。

「オレがラグリの役に立つかは分かんないけど、いいよ。一緒にキャタピーを助けに
 行こう。」

そう言うと、ラグリはもう一度こちらを向いた。
そして、途端に嬉しそうな顔になって、大きく頷いた。

「うん、行こう!キャタピーちゃんを助けに!」

ポチャ ( 2022/02/16(水) 17:28 )