第1章 第1話 三者択一
ココはマサラタウン マサラはまっしろ はじまりのいろ
カントー地方の玄関口とも言えるマサラタウン。フェリーから降りて船着場から歩くと、すぐに大きな建物が見えてきた。
『オーキド博士の研究所ロ!色々なポケモンの生態を調べている所ロ』
フワフワと宙に浮かんだままの状態で喋るロトム図鑑。
リーフは入口付近に立てられている看板の文字を読みながら、首を傾げる。
「街と言うには、建物が少なくないかしら?村だってもう少し建物があると思うけれど」
マサラタウンは元々、静かな場所で研究を進めたかったオーキド博士が森の中に研究所を作った所から始まった。
何軒かの家が並び立ち、その時点では街と言える程の活気は無かったのだがレッドと言う少年が10年前にセキエイリーグを制覇した事により状況が変わった。
レッド本人は旅に出ているがリーグを制覇した少年の生家があるこの場所で何かにあやかりたいと願うトレーナーが集まってくる様になり、この場所を訪れる人の数が増えたのだ。
レッドの家、グリーンとナナミの家、オーキド博士の研究所。それがこの街の全てであり、トレーナー達の聖地の様な場所になっていた。
「科学の力ってすげー!今の遺伝子工学の技術を使えばポケモンのクローンを作ったり、驚異的な力を持った人間を作る事も出来るんだと」
レッドの家を眺めていた青年トレーナーが、隣にいた女性トレーナーに向かってそう叫ぶ。
「ポケモンのクローンって、同じポケモンを沢山作れるって事でしょ?同じポケモン同士なら喧嘩になったりしないのかしら」
女性トレーナーはそう言うと、今も彼の母親の手によってピカピカに磨かれている表札を見た。
「あー、もう!会ってみたい!レッド様に会って、対戦を申し込んでみたいわ!」
(私も、あの人に会う事が出来たら……でも、勝負なんて恐れ多くてとてもじゃないけど出来そうに無い)
リーフは彼女の言葉に賛同しながらも、彼女の様な勇気を出す事は出来なかった。
雲の上、手の届くハズの無い憧れの存在。まだ、ポケモンを1匹も持っていない彼女が大望を抱けるハズが無かった。
ナーバスになりそうな心を無理やり変えようと、リーフは溜息を出し切った後研究所の入口を見つめる。
『誰でも、最初は素人なんだロ。いきなりプロになれるトレーナーなんて存在しないロ!
踏み出す一歩がとっても大事。さぁマスター、勇気を出して扉を開けてみるロ!』
ロトム図鑑に背中を押される様な形で、リーフは研究所の扉を開けた。
自分の部屋から外に出る事すらあまり好きでは無かった彼女が、未知なる冒険の扉を自分の手で開けようとしている。
そこには両親の死の真相を知りたいと言う思いだけでは無く、生まれ変わりたいと願う気持ちがあったのかもしれない。
「やぁ、君がリーフ君じゃな?話はククイ君から聞いておるよ。こっちに来なさい」
男女2人の研究員が横で実験をしている中、その間を通り抜けた白髪頭の中年男性がリーフに声をかけてきた。
見た目よりも声は大分若い。自分にとって申し分ない生活をしていると言う自負の様なものが感じられた。
「貴方が、オーキド博士なのですか?」
「いかにも。ワシの名はオーキドユキナリ。ポケモン研究の第一人者と言われておるよ」
研究所の飼育室ではポケモンの卵が置かれ、孵化したばかりのポケモンが数匹元気に動き回っている。
「ワシはもう何十年もポケモンの生態の謎や、ポケモンがこの世に何種類いるのかと言う謎を追い続けてきた。
特にポケモンの種類は調べれば調べる程増えておってな……1000匹以上いるのではないかと言う者もおるのじゃ」
「せんびき?途轍も無い数のポケモンがいるんですね」
「いや、本当の所は今だ不明でな。ポケモンがこの世界に何種類いるのかと言う謎は長い間謎のままじゃった。
君達にはその謎を是非解明してもらいたい。セキエイリーグに挑む為の旅が、謎を解く大きな鍵になるじゃろう」
オーキド博士は頭を掻きながらそう言うと手帳型のポケモン図鑑を手に取った。
「今、『君達』と仰いましたか?」
「ああ、君の他にもセキエイリーグに挑む若きトレーナーがおる。ワシの孫でな……もうすぐこちらに来るハズじゃ」
オーキド博士がそう言った直後、研究所の扉が開き1人の少年がリーフの近くまで歩いてきた。
「悪ぃ、ジーさんに呼ばれてたのは解ってたんだけど遅くなっちまった」
鋭利な棘を連想させる独特な形をした橙色の髪と、黒のシャツ。
顔や身体から溢れ出ている自信は、相手への侮りや傲慢にも感じられる。
「紹介しよう、ワシの孫のグリーンじゃ。グリーン、こちらはククイさんの所にいるリーフ君。
2人共、まだポケモンを持っておらぬ駆け出しのトレーナーじゃな。
しかしポケモンが1匹おれば、そこからお主達の旅が幕を開ける事になる」
グリーンと呼ばれた少年は、両手を強く握り締め待ちきれないと言った表情を浮かべていた。
「いよいよ俺もポケモントレーナーか。ポケモンを利用して成り上がってやる!
当然、最強のトレーナーになる事が最終目標だ。目指すべき場所が高ければ高い程燃えるぜ」
期待に胸を膨らませているグリーンとは対照的に、リーフは生まれて初めて『自分のポケモン』を持つ事への不安を抱えていた。
(私に、本当の意味でポケモンのパートナーが務まるのか不安だわ。
ずっと一緒に歩いていける様な関係を構築したいけれど……言う程それは簡単じゃ無いわよね)
男性職員がオーキド博士の命令に従い、3個のモンスターボールが入ったケースを机の上に置く。
「リーフ君、そしてグリーン。2人にはこの3匹のポケモンから1匹を選んでもらう。
君達の旅を最初から最後までサポートするパートナーになるであろう1匹じゃ。よく考えて決めるんじゃぞ」
リーフは隣にいたグリーンと目を合わせたが、グリーンはニヤリと笑って腕を組み、近くにあった柱によりかかった。
「勝てる奴の余裕ってやつだ。先に選んでいい。俺は残った2匹から1匹を選ばせてもらう」
リーフはガラスのケースの上蓋部分を外した後、等間隔に並んだ状態で設置されている3個のモンスターボールを見つめる。
モンスターボールの横にはそれぞれ名前が書かれたプレートが置かれていた。
(ヒトカゲ……フシギダネ……ゼニガメ)
リーフの隣にいたロトム図鑑がモンスターボールをスキャンして情報を収集する。
『ポケモンにはタイプによる相性があるんだロ。この3匹の場合、相性は『3すくみ』の関係にあるロ。
つまり、炎は水に弱く、水は草に弱く、草は炎に弱い。
ポケモンは相手に対して相性の良い技で攻撃して、なおかつその技が自分と同じタイプの技ならダメージが増えるロ。
ヒトカゲは炎タイプのポケモン。種族値としては特殊攻撃と素早さに秀でていて、HPは少し劣っているロ。
フシギダネは草タイプのポケモン。特殊攻撃と特殊防御に秀でていて、他の種族値も平均的なステータスロ。
ゼニガメは水タイプのポケモン。防御と特殊防御に秀でていて、他の種族値も平均的なステータスロ。
ただ、ヒトカゲは攻撃的な技を覚えていって先手が取り易いから、他の2匹に見劣りする事は無いと思うロ』
どのポケモンを選べばいいのかリーフは迷った。そもそも、選ぶと言う行為があまり好きでは無かった。
1匹のポケモンを選ぶと言う事は、2匹のポケモンを自分の選択肢から外した事になってしまう。
それでも決めなければならない。これからの自分と運命を共にするパートナーを。
(私は、あの人に憧れて……あの人の様なトレーナーになりたいと言う夢を見た事もあった。
だから、私はあの人がかつて選んだポケモンを選びたい。同じポケモンで、夢を追いかけてみたい)
ほぼ自然に伸びた手が、ヒトカゲが入っているモンスターボールを握り締めていた。
微かな温もりを残しているボールが、貴方の選択は間違っていないと言っている様に感じられる。
「ほほぉ、ヒトカゲを選んだか。本当にそれでいいのじゃな?」
「はい。全く後悔はしていません。私は、ヒトカゲと一緒に旅がしたい。心からそう思いました。
憧れている人に追いつきたい。少しずつでも近付きたい。だからこそこのポケモンを選んだのだと思います」
彼女の光を失った目の奥に、微かな光のきらめきが見えた様な気がした。
ヒトカゲがリーフを照らす新たな希望の光になるのではないか。ボールを両手でギュッと握り締めている彼女を見て博士はそう思った。
「憧れているうちは、そいつを追い越す事なんて出来やしねぇよ。そいつの首を取る位の気持ちで挑む覚悟が必要だぜ。
本当に強くなりたいのならな……さて、俺はコイツにするか。俺の為に働いてくれそうだ」
グリーンはそう言うとケースの前にいたリーフの隣に立ち、横からフシギダネの入ったボールを取る。
まるで幼児が初めて玩具に触った時の様にボールを何度も上に投げてはキャッチしていたが、その後バッグにボールを入れた。
「これでお前達のパートナーとなるポケモンが決まった。じゃが1匹だけでジムリーダーに挑める程世の中は甘くない。
この1匹のポケモンを使って野生のポケモンとバトルを行い、捕まえる事こそが重要なのじゃ。
冒険の旅に出るお前達に、ワシからもう1つプレゼントを送ろう」
オーキド博士はそう言うと、グリーンに2つに開く手帳型のポケモン図鑑と黄色いカードを渡した。
リーフも黄色のカードを受け取り、そこに書かれている番号を見る。
「このカントー地方には殆どの街にポケモンセンターがあり、センター内には誰にでも使用する事が出来るパソコンが設置されている。
お前達に渡したカードにはトレーナーが個人使用する事が出来るポケモンと道具のバンク(銀行)システムを利用する為のIDとパスワードが記載されているのじゃ。
そのカードを作成する際に名義はお前達の名前に変更してあるし、旅に出るお前達への贈り物としてモンスターボールを10個送信しているんじゃよ」
6匹までしかポケモンを携帯する事が許されていないこの世界では、バンクシステムが確立されている。
ポケモンや道具を預けて、何時でも取り出す事の出来るシステムが構築された事でトレーナーの数は爆発的に増えていった。
リーフやグリーンはその恩恵を受けて各地のジムに挑む事が出来る『新世代のトレーナー』であり、オーキド博士も彼等が結果を残す事を期待していたのだ。
「それでは2人共、出発するがいい。これはカントーの歴史に残る偉大な功績への第一歩となるじゃろう!
お主達が立派なポケモントレーナーになって活躍する事を期待しておるぞ」
最初のポケモンをバッグに入れ、重い荷物を背負うと研究所の入口に向かって歩き出すリーフ。
彼女の背中からグリーンの声が聞こえてきた。
「待てよ!折角俺とお前がポケモンを手に入れたんだ。初めて同士ポケモンバトルをしてみようぜ」
あまり人と馴れ合いたくは無いリーフであったが、ポケモンバトルを行わないまま旅に出るのは危険を伴うと判断し振り返る。
グリーンは手に入れたばかりのモンスターボールを片手で持ち挑発するかの様な笑みを浮かべていた。
「……解ったわ。やってみましょう」
研究所の中で向き合い、睨み合う両者。だがそこにオーキド博士が割って入る。
「ま、待った待った!バトルを行うのはいいが、こんな所で戦われて研究所内の備品が破損したら大変な事になりかねん。
奥にバトルスペースがあるから勝負はそこで行ってくれ。そこならば安全じゃ」
研究室の奥に見える扉を指差しながら、2人をその扉の前まで案内する博士。
扉を開けるとそこには調度品も何も無い真っ白な空間が広がっていた。
「床に長方形の枠が書かれているじゃろう。中央に描かれているモンスターボールの模様の中でバトルを行うのじゃ。
この部屋でボールの解除スイッチを押すとポケモンがその枠の中に出現する。試しにやってみなさい」
リーフとグリーンがモンスターボールに付いている『出べそ型』のスイッチを押した瞬間、閃光と共にポケモンがボールの中から飛び出してきた。
ヒトカゲとフシギダネがバトルスペースの中で向き合い、戦う事を理解したのか真剣な表情を浮かべる。
「ポケモンバトルと言うのは危険が伴うからの。公式なバトルの時はこういった特殊な空間内で戦わせるのじゃ。
バトルスペースの周囲を覆う透明なバリアが炎や電撃の広がりを防ぎ、トレーナーの安全を確保してくれる。
そしてこんな時こそポケモン図鑑の出番じゃ。ポケモンをスキャンすればそのポケモンのHPや使える技もすぐに解るぞ」
リーフの隣にいたロトム図鑑がフシギダネとヒトカゲをスキャンし、互いのHPを画面に映した。
『さぁ、いよいよポケモンバトルの始まりロ!
ボクの『リンゲルトランスミューター(自動言語翻訳装置)』でポケモン達が何を喋っているのか解るし、自分と相手のHP残量も解るロ。
ただし、バトルの規定により相手のポケモンが覚えている技を教える事は出来ないロ。
自分のポケモンが覚えている技を知りたい時はボクを手に取ってほしいロ。全部教えるロ!』
リーフは宙に浮いているロトム図鑑を掴むと、先程までロトムの顔の部分であったタッチパネルを操作する。
(今覚えている技は、『ひっかく』と『なきごえ』……ひっかくは攻撃の為の技で、なきごえは攻撃を行う技じゃないのね。
なきごえは『相手の攻撃力を下げる』って書いてあるけど……多分連続で使えば攻撃力をゼロに出来るって事でも無いみたい)
リーフには見えていなかったが、グリーンの所持ポケモンであるフシギダネも同じ様な技構成であった。
現時点での2匹のレベルは5。攻撃力も防御力も体力も殆ど差は無く、あとはどう戦うかと言う問題だけである。
『バトルはターン制で、素早さの高いポケモンから先に攻撃する事が出来るんだロ。
この場合、素早さの種族値が高いヒトカゲに分があるロ。どちらの技を使うロ?』
リーフは少しの間考えていたが、相手に何かをされる前に攻撃すべきだと考えひっかくを選択した。
『マスター、僕と貴方の初陣ですね!ワクワクしちゃうなぁ』
フシギダネに近付いたヒトカゲが自慢の爪で相手の身体を傷付ける。
HP残量を示すゲージが減り、フシギダネのHPを全体の3分の1程削れた事が解った。
「案外、考え方が似てるのかな?俺達は」
一方、フシギダネも突進しての『たいあたり』を敢行。攻撃の威力は変わらない為受けたダメージもほぼ同等。
お互いに同じ技構成であり攻撃を行うか邪魔をするかと言う二択だった為リーフは逆に悩む。
(攻撃あるのみ!と言いたい所だけれど……向こうが攻撃を選択して私が攻撃力低下を選択すればHP残量で向こうが優位に立ってしまう。
相手が攻撃力の低下によって同じだけのダメージを与える為に2回攻撃が必要になると言うのなら話は変わるわ。
今は『なきごえ』によってどれだけ攻撃力が低下するのかが解らない以上、変化技には頼り難い)
リーフは2ターン目に再度『ひっかく』を選択。相手のフシギダネのHP残量は3分の1まで減った。
グリーンは素早さで先手を取られている以上まともに戦っては勝てないと判断し、『なきごえ』でヒトカゲの攻撃力を下げる。
『ハァ、ハァ……マスター、僕はまだ戦えるよ!』
「ああ、解ってるよ。差が無い以上、先に攻撃されちまうのが地味にキツイな……
やっぱりポケモンバトルはどうやって先手を取るかってのが重要かもしれねぇ」
グリーンは負けるかもしれないと言う思いを抱えつつ、次に勝つ為の方法を既に模索し始めていた。
彼自身、無敗で頂点を目指そうとは思っていない。絶対に負けてはならない試合の時に勝てばいいのだと思っていた。
3ターン目でヒトカゲが再びフシギダネを攻撃するも、攻撃力が下がった影響でHPをゼロにするまでには至らない。
フシギダネはもう1度攻撃すればヒトカゲのHPをゼロにする事が出来る所は追い詰めたが、敗北は濃厚だった。
『補助技、攻撃技を出すタイミングが重要なのは言うまでも無いロ。そして最も大事なのが先手を取る事だロ!
当然攻撃力と素早さが高いポケモンが理想ではあるロが、それだけでは勝てないのがポケモンバトルロ。
自分のポケモンの長所と相手の弱点を見つけて最適解を導き出す。コツを掴んでもっともっと強くなってほしいロ』
4ターン目、ヒトカゲの『ひっかく』によってフシギダネのHPがゼロになりヒトカゲの勝利が決定した。
「うーん……後手に回る事が最初から解ってりゃ補助技で攻撃力を下げまくると言う方法も取れたかもな。
いや、この試合は俺の負けしか無かった。今は素直に認めてやる。だが、次に会った時は勝たせてもらうぜ」
倒れて動けなくなったフシギダネをボールに戻すと、グリーンは白い部屋を後にする。
「瀕死になったポケモンはポケモンセンターで回復してもらうんじゃぞ!」
オーキド博士はグリーンにそう言った後、部屋に残されたリーフとヒトカゲに労いの言葉をかけた。
「初めてのバトルにしては随分しっかりした戦いを披露しておったぞ!リーフ君。
ポケモンはバトルに勝利する事によって経験値が入り、一定の経験値を越えるとレベルが上がる。
一定のレベルに上がると『進化』して攻撃力がさらに上がるポケモンもいるんじゃ」
オーキド博士は傷付いたヒトカゲに『キズぐすり』を投与してHPを回復させた後、リーフにロトム図鑑の画面を見る様薦める。
『今のバトルで勝利した事により、ヒトカゲのレベルが6に上がったロ!
16まで上がると進化してリザードに進化するから、まずはレベル16を目指すと良いロ』
「解ったわ」
回復して元気を取り戻したヒトカゲをボールに戻した後、リーフはオーキド博士の前に立った。
「……私は、強くなりたい。トレーナーとしてはまだスタート地点に立ったばかりで未熟である事は解っています。
でも、一歩一歩前を向いて歩いていけば、大きな目標を達成する事が出来るかもしれない。
私はゆっくり歩いていこうと思っています。色々な事を知る為にも」
僅かに震える肩。決意を胸に歩き出したいと思っていても、怯えや不安が彼女の心を覆っている。
そんな彼女の気持ちを察したのか、オーキド博士は彼女の肩に手を乗せ、一生懸命励ました。
「躓いても、挫けても、必ずまた歩き出せる。未知なる冒険をするにあたって不安があるのが解るが、踏み出す事が大事なんじゃ。
ワシもポケモン研究者として研究を続ける中で、失敗による心無い中傷を数多く浴びてきた。
じゃが100%成功し続ける人物などおらん。転んでも苦しんでも、最後に1つの成功をおさめればそれは勝利なんじゃよ」
リーフに自信を持たせる事が必要だと考えたオーキド博士は、彼女に1つの提案をする。
「そうじゃ。折角じゃからワシのもう1人の孫であるナナミに会ってみたらどうじゃ?
彼女はワシの自宅におる。優秀なブリーダーじゃから、きっと教わる所も多いと思うぞ」
リーフはオーキド博士の自宅を見る事、ナナミと会う事も1つの経験だと思いその提案を受け入れた。
リュックを背負い、ロトム図鑑と共にオーキド博士の自宅に向かう。
『あそこがオーキド博士、グリーン、そして先程博士が言っていたナナミさんが住んでいる家みたいロ』
研究所の近くに建つ博士の自宅は、レッドの家の隣に建てられていた。
リーフは玄関に設置されているブザーを鳴らし、インターホンから聞こえてきた声に対応する。
『どちら様ですか?』
「あ、あの。オーキド博士からポケモンを貰ったリーフと申します。
貴方の祖父から貴方に会うべきだと薦められまして……」
こういう時に緊張してしまうのは、リーフが今まであまり人とコミュニケーションを取ってこなかった証でもあるだろう。
すぐに扉が開き、少しオレンジがかった長い髪の女性が姿を現す。
「初めまして。祖父から貴方の事は聞いていたわ。私はナナミ。
ポケモンの毛づくろいをするブリーダーをしているの。宜しくね」
彼女がグリーンの『姉』である事を認識しつつ、握手を交わすリーフ。
「玄関で立ち話をするのもなんだから、入って頂戴。お茶でも飲みながら話しましょう」
家の中に招き入れてくれるナナミの厚意に感謝しながら、リーフは博士の自宅へと足を踏み入れた。