ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
Missing Link2『2人の道標』 後編
『ケッケッケ!やっと俺の出番ですかいマスター、派手に暴れますよ!』
 バトルフィールドを縦横無尽に飛び回るクロバット。回避にも攻撃にも優れ、技が当たってしまえば怒涛のラッシュを展開する事が出来るポケモンである。
『ウウ……羽虫風情が。混乱状態だろうと当たれば一撃。沈めてやる!』
 (クロバットの特殊能力は『加速毒』。相手を毒状態にすると必ず相手は猛毒状態になるが、自分が毒状態となった時も猛毒状態になると言う代物だ。
 だが今は相手が混乱状態にある。火力の高さを活かして相手が攻撃する前に片付けてやるぜ!)
 ケンタロスやクロバットの様な火力アタッカーはダメージさえ受けなければ圧倒的な強さを発揮してくれる。逆を言えば攻撃されれば一気に崩れるのだ。
 サカキもダグトリオやケンタロス等力に固執している部分が見受けられる。それに対してトサカはアタッカーこそ使用するものの変則的な攻めを得意としていた。
「クロバット、ねっぷうで相手を痛めつけてやれ!」
『キキキ、やりましょうかね!』
 飛行タイプのポケモンから炎タイプの技が飛び出す。意外ではあるがこの技に関しては風が関係している為覚える事が出来るのだ。
 混乱状態に陥っているケンタロスに見事ねっぷうが命中し、一気にレッドゾーン手前まで追い詰める。もう1度当たれば文句無しの勝利だ。
『ウガアアアアッ!!』
 混乱状態が治らないケンタロスのとっしんは見当違いの場所に当たり、相手にダメージを与える事が出来ない。
『ケケッ、パワーだけが全てじゃ無いって事ですよ!』
 再び繰り出したねっぷうがケンタロスのHPをゼロにした。

『ドウシタ事ダ……コノ私ガ負ケテイル……!何故ダ!コレ程強イ者達ヲ揃エテイルト言ウノニ!!』
「力押しだけじゃ、勝てねェ時もあるのさ」
『何ダト……!?』
「アンタはミュウツーの圧倒的な力に魅せられ、力の強いポケモンを揃えたんだろうが、力だけが全てじゃ無ェ。
 俺の使う毒タイプのポケモンはさっきから見てきた様に臨機応変に動いて相手を翻弄し疲弊した所でとどめを刺す。
 俺も昔はアンタと同じ力に憧れた人間だった。だが俺より強い力を持っている奴の方が遥かに多いんだ」
 トサカの脳裏にはユキナリやサヤ、リュウジの顔が浮かんでいた。彼等には小細工等必要無い。圧倒的な火力だけで彼を捻じ伏せる事が出来る。
 だがトサカにも勝てる道は確かにあるのだ。特にサカキの様な自分にとって不利なタイプを使うトレーナーが相手の場合には特に有効な道が……
「俺はあいつに約束したんだ、必ず勝つと……俺の人生の為にアンタとの戦い、勝たせてもらう!」
『雑魚ガァ!コノ程度デ勝ッタツモリカ!マダマダ私ニモ手ハアル!教エテヤルゾ、恐怖ト言ウモノヲ!!』
 サカキは歯軋りしながらケンタロスをボールに戻すと、次のボールを出しバトルフィールドに投げ入れた。
『あら、なかなか強そうな蝙蝠じゃない。女王である私に相応しい対戦相手だわ』
 (毒タイプの花形、ニドクインか!面白ェポケモンを出してくれるぜ!!)
 サカキは地面タイプを使うトレーナーだが寧ろニドクインは毒タイプでの印象が強い。
 勿論じしんの様な高火力の技も持っているが、相手をいたぶりながら攻めるにはうってつけのポケモンである。
『ケッケッケ!同じ毒タイプのポケモン同士、仲良く殺りましょうや!』
『ええ、望む所よ!女王の貫禄と言うものを貴方に見せてあげましょう』
 (さて、特殊能力はどうなってやがるのか……)
『ニドクイン・ドリルポケモン……ニドキングと並ぶ毒タイプポケモンの代表的存在。母性本能が強く縄張り意識もある為近付く事自体が難しい。
 気位が高くちょっとやそっとでは懐かない為ニドキングやニドクインは玄人向けのポケモンだと言われている』
 (特殊能力の項目をタッチするんだよな)
『特殊能力・猛毒鎧鱗……直接攻撃でダメージを与えてきた相手を一定確率で猛毒状態にする』
 (どくタイプの対決はお互いがどく状態にならないから正面きってのガチンコ勝負しか無ェ。奴の動きが鈍い事はこっちにしてみりゃ有難ェ話だぜ)
 クロバットにしてみればいかに相手の攻撃を避け、短期間で片付ける事が出来るかにかかっている。
 対するニドクインは豊富な体力と堅固な防御力を使って長期戦に持ち込み、最終的に勝利するパターンを狙っていた。
「よし、まずは先制攻撃だ。さいみんじゅつで相手を眠らせろクロバット!」
『ケケ、了解!』
 クロバットは相手を混乱させたり眠らせたりする撹乱技を覚える事が出来る。圧倒的なスピードで飛んでくる眠気を誘う波動にニドクインは勝てなかった。
『う……ZZZ……』
『バ、馬鹿ナァッ!!催眠術ガ簡単ニ当タルダト!!』
 命中率こそ低いものの当たれば最低2ターンはニドクインは目覚めない。このチャンスを逃すワケにはいかなかった。
「よし、チャンスだクロバット!引き続きねっぷうを使って相手のHPを削り取れ!」
『ケケッ、燃えな燃えなァッ!!』
 クロバットの羽ばたきによって生まれる風が熱を纏ってニドクインに迫る。
 どく・じめんタイプのポケモンでも炎タイプのダメージは普通に受ける為、ダメージは免れない。クロバットの攻撃も高い為一撃でHPを半分程削り取ってしまった。
「そのまま瀕死に追い込んじまえ!相手の反撃を許すなよ!」
『ケッケッケ、全く楽な相手だぜッ!!』
 熱風が再びニドクインの豊富な体力を奪い取っていく。倒されるかと思われたニドクインのHPはギリギリで止まり、ニドクインは目覚める事が出来た。
『この一撃で私の実力を思い知らせてあげるわ!』
 お返しとばかりに強烈な火炎放射を浴びせるニドクイン。元々攻撃力は高くともHPが少なく脆いクロバットは受けに回ると弱く、みるみる体力を減らしていく。
『クソッ!大した攻撃力でも無ぇってのに!』
 クロバットも踏ん張って何とか耐え切り、熱風を当てニドクインを瀕死に追い込んだ。ゼエゼエと荒い息を吐いている。
 (やはり、クロバットはスピードとパワーはあってもスタミナが無ェ。防戦に持ち込まれると転んじまうのが厄介な所だな)
『私ハ認メンゾ小細工等!圧倒的ナ力ヲカツテ私ハ手ニ入レテイタ……世界ヲ掌握出来ル程ノ強大ナ力ヲナ!!』
 (力に溺れている男、か……まるでかつての俺を見ている様だぜ。溺れた奴は淘汰されていく。俺はそれを知り、変わったんだ。
 力だけじゃ無く、誰かと一緒に強く生きていく道を見つけた。もう俺は迷いはしねェ!)
「確かにアンタは強い!今まで俺が戦ってきた相手の中じゃ相当上だぜ。だが世界にはアンタなんかよりもっと強いトレーナーがいる事を俺は知っている!
 だから、俺はアンタを倒し本当の強さってものを証明してやるんだ!」
 サカキは憤慨しながらも不気味な笑顔を見せつつバトルフィールドにモンスターボールを投げ入れた。
 閃光と共に漆黒の翼を持った威厳漂うポケモンが出現する。
『この俺に用たァ、随分追い詰められているらしいじゃねぇカ。まぁ任せておけヨ。すぐに戦況を引っくり返してやル』
 (ドンカラスか!あく・ひこうタイプの珍しいポケモンで、クロバットと同じ攻撃重視のポケモンだ)
 トサカはポケギアを用い早速ドンカラスの情報を収集する。
『ドンカラス・おおボスポケモン……ヤミカラスの群れを率いる強大なリーダー。一定の数を派閥として持ち他のドンカラスが率いるグループと諍いになる事も多い。
 勢力争いに勝ったドンカラスだけがさらに多くのヤミカラスを率いる事が出来る為、野生のドンカラスも勝利に対しての執着心が非常に強いと言える』
 (特殊能力は?)
『特殊能力・真闇帝王……自分の攻撃が急所に当たるとさらに2倍のダメージを与える』
 (クロバットは疲弊している……ココはまた眠らせて攻撃していくしか無ェか)
『フン……私ノ勝チトサセテモラウゾ。ドンカラス、サッサトソノ蝙蝠ヲ潰スノダ!』
『了解。俺が何故ボスと呼ばれているカ、それをすぐに理解させてやろウ』
 ドンカラスはクロバットが催眠術を繰り出す前にサイコキネシスを放った。紫色のオーラを纏いそのオーラを直接放出してダメージを与える。
 クロバットはダメージを負いそのまま瀕死状態に追い込まれてしまった。
「チィッ!!」
『コノ程度デ済マセハセンゾ。サラナル恐怖ヲ味ワウガ良イ』
 (ドンカラスはいわタイプの攻撃に弱い。相手の大将も気になるし、ココは切り札を温存すべき時だろうな)
 トサカはクロバットをボールに戻すと、次のポケモンをバトルフィールドに投げ入れた。
 現れたのはトサカの持つポケモンの中でも屈指の攻撃力を誇るニドキングである。
『ウオオオオオオオ!!暴れさせてもらうぜ、マスター!!』
「アンタも使っていたどく・じめんタイプのポケモンだが、ニドキングは防御に優れ、ニドキングは攻撃に優れる。
 一気呵成に攻めて、アンタの持ってる最後のポケモンを引き摺りだしてやるぜ!」
 ニドキングの最大の特徴は様々な技を覚える事だ。事実トサカのニドキングはじめん・いわ・むし・かくとうの4種類のタイプの技を覚え、様々な敵と戦う事が出来る。
 その技のどれもが破壊力抜群で、1発当てて相手を倒す程のパワーを秘めていた。
『どくタイプ等俺の敵では無イ。サイコキネシスを当てるだけで充分ダ』
 ドンカラスは先制攻撃とばかりにサイコキネシスを打ち出した。ニドキングにしてみれば効果抜群故気軽に受けれる技では無い。
 一撃で体力を半分近く削られてしまうが、ニドキングにも相手の体力を奪い去る大技がある。
『受けてみろ、ストーンエッジ!!』
 突如ドンカラスの眼前に円錐型の巨大な岩が出現し、胸に突き刺さった後ドンカラスを壁に打ちつけた。
『グフッ……』
 命中率こそ低いものの、命中すれば急所に当たる確率も高く一発逆転が可能な技だ。ドンカラスは効果抜群と急所の影響もありその一撃でHPがゼロになってしまう。
 (ふう、ヒヤヒヤさせてくれるぜ。当たれば一発だが当たらなければサイコキネシスで逆にお陀仏も良いトコだからな)
『ストーンエッジデ一撃粉砕ダト!?コノ私ガココマデ追イ詰メラレルトハ!』
「俺のニドキングは汎用性が高くどくタイプは弱いと言う概念を払拭した。
 むしタイプと同じくあまり使うトレーナーがいないタイプだからこそ、様々な可能性を追求出来るとも言えるだろうな。さぁ、もうアンタの方は後が無いぜ」
『クックック……小僧、コノ私ガココデ負ケヲ認メルト思ウナ!貴様ニ地獄ヲ見セテヤルゾ!』
 サカキは自身の切り札であるポケモンを回収後バトルフィールドに出現させた。その巨大な体躯は何処と無くニドキングに似ている様にも見える。
『地面タイプの最強はこのドサイドン様よ!!どんなポケモンも俺様の相手にはならねぇぜ!!』
 (ドサイドン!!切り札に相応しいポケモンが出てきやがったか!攻撃力も防御力も半端じゃ無ェ。おまけにタイプ一致の大技『がんせきほう』を覚えている可能性がありやがる)
 トサカはポケギアで相手の情報を収集した。
『ドサイドン・ドリルポケモン……進化した結果掌から岩の塊を凄まじいスピードで射出出来る様になった。縄張りを荒らすポケモンに対する威嚇として用いる事が多い。
 非常にプライドが高く実力もある為、進化させた後飼い慣らすのは困難を極める。ゴローニャにあらゆる点で勝っている点も見逃せない』
 (特殊能力は?)
『特殊能力・爆裂覇王……がんせきほうが命中した場合動けない1ターンの間防御力が増す』
 (しかし、ドサイドンにも弱点はある。それが素早さが低過ぎる事だ。俺のニドキングでさえドサイドンに対して先制攻撃が出来るからな)
『ドサイドンハアラユル状況下デアロウトモ実力ヲ発揮スル地面ポケモンノ雄ナノダ。貴様ノニドキングモ灰ニシテヤルゾ』
『地面ポケモンの雄なら俺だって負けちゃいないぜ!地面タイプを代表するポケモンでもあるからな!!』
 ニドキングは最後の大技とばかりにばかぢからを繰り出した。動きは鈍いドサイドンに近付き、ありとあらゆる打撃技でHPを削っていく。
 次のターンで倒されてしまう事を見込んだ攻撃だ。威力も命中率も高いが攻撃力と防御力が下がってしまう諸刃の刃でもある。
 いわタイプを含んでいる為に効果抜群ではあったが、ドサイドンの屈指の防御力の前ではイエローゾーンに持っていく事しか出来ない。
『俺様のHPを半分も削れねぇとはな。大人しく寝てやがれ!!』
 ドサイドンはニドキングも持っているじしんを繰り出し相手のHPをゼロにした。

 ドサイドンの体力を削り有利にはなっているトサカであったが、全く油断は出来ない。毒タイプの天敵とも言える地面タイプを相手にする事自体が過酷である。
 (正直、勝てるかどうか解らねェ所まで来ちまった……だが、ユキナリには勝てなくとも、コイツにだけは負けられねェ!!
 何としても勝って、シズカと一緒に生きるんだ!俺はアイツにそう誓った。約束は守る!!)
『所詮毒タイプハ私ノポケモンノ敵ニハ成リ得ン。無様ニ床ヲ這イズリ回ル汚物如キニドサイドンノ鉄壁ハ崩センノダ!』
「諦めてたまるかよ!アンタのポケモンにも弱点はある。防御力に自信があろうと特殊防御力では大きく劣っているからな!」
 ニドキングをボールに戻し、トサカは最後のポケモンをバトルフィールドに送り出す。
 閃光と共に出現したのは変種進化のドロドロンであった。こおり・どくと言う珍しいタイプではあるがその反面じめん・いわへの耐性は無い。
『んあ……なんだトサカぁ。最終戦かぁ?』
「負けられねェんだ。頼むぜ」
『解った解った……しかし随分と瞼が重いぞぉ、んあああ……』
『ギャハハハハハハ!!俺様の相手として最後に出すポケモンがこんな形も無い奴とはな!サッサと潰して終わりにしてやる!!』
 ドサイドンは相手を見くびっていたが、素早さの低さは相変わらずネックである。そして特殊攻撃に対しての耐性が無い為、相性の悪い技を喰らうと命取りになりかねない。
『んあー』
 やはり先程と同じく先手を取れたのはドロドロンであった。れいとうビームで相手のHPを削る。こおりタイプの特殊技とあっては流石にドサイドンも耐えられない。
『畜生、どうせ最後なんだ。この技で終わりにしてやる!!』
 レッドゾーンまで追い詰められたドサイドンは反動覚悟のがんせきほうを放った。当たれば瀕死も免れない一撃必殺の技である。
 しかし回避に優れた特殊能力を持つドロドロンはそのロックオンから抜け出し、がんせきほうを華麗に避けてみせた。
『バッ、馬鹿な!俺のがんせきほうを回避しただとッ!?』
「ドロドロンの特殊能力は回避率が大幅に上がるもの。おまけにがんせきほうは命中率90だ。当たる方が珍しいぜ!」
『んあー。コレで終わりかぁー』
 ドロドロンは再度れいとうビームを撃ち、呆然としているドサイドンの息の根を止める。トサカの勝利が確定した。

『ウォォォォォォォォォォッ!!!!!』
野獣の様なサカキの咆哮がバトルフィールドに響き渡る……
『私ガ負ケタ……ダト!?』
「アンタと俺では俺の方が強かったってだけの話だ。所詮アンタは俺と同じで最強にはなれねェのさ……」
凍死しているドサイドンの無様な姿を暫し眺めていたサカキであったが、不意に甲高い声で笑い出した。
『クックック……負ケタ……私ガ……クハハハハ……カッカッカ……ヒャハハハハハハ……』
 理性を失い高笑いを続ける彼を刑務官が連れ出す。負けたショックがあまりにも強過ぎたのかサカキは精神に異常をきたし、この戦い以降彼とバトル出来る者は1人も出なかった。
「おめでとうございます」
 感情の読めない冷めた表情の刑務官が彼を祝福した。トサカはやりきれないとばかりにドロドロンをボールに戻し、外へと向かう。
 (狂気の淵か……奴もまたポケモンの強さに魂を奪われ、平衡を失ってしまったトレーナーの1人……欲に溺れれば自分を見失い全てを失う。俺はまだそこから抜け出せただけマシってワケだろうな)

 アバシリー刑務所からリーグ本部に戻ったトサカはサカキに勝利した事を伝え、リュウジはそれを確認した後トサカをリーグ四天王次鋒にする事を約束した。
 これによって2人が結婚し夫婦として共に生きる事が可能となったのである。
「トサカ……本当におめでとう!コレで貴方も立派な四天王の仲間入りね!」
「お前の為に頑張っただけさ……やっぱり、誰かの為に頑張った奴が勝つんだな」
 彼を出迎え、誰よりもトサカの勝利を祝福してくれたのはシズカであった。
「それと……貴方に伝えたい事がもう1つあるの。私達2人にとってとても大事な事……」
「何かあったのか?」
 トサカの脳裏にあの時の記憶がおぼろげに浮かんだ。薄々そんな事を言いながらもトサカにはとっくに解っていたのかもしれない。
「検査してみたら、妊娠してたの……あの1回で当たったらしくて……女の子よ」
「……俺達に娘が……」
 心なしかシズカは単なる少女から、母性を持つ大人の女性へと、短期間で急速に変化しつつある様に見えた。
 彼女は怯えも怯みもしない。ただ目の前にある命を受け入れ、共に育もうとしている。
「3人で……ずっと歩いていこう。今度こそ、3人でずっと……」
 トサカは手をそっとシズカの腹に当ててみた。まだ妊娠したばかりと言う事もあり腹が膨らんではいなかったが、生命の息吹を感じられる様な気がして、暫く彼はその手を腹に当てていた……

「突然の急死には慌てたが……トサカ君が入ってくれればとりあえずは安心と言った所かな」
 奥の部屋では、トサカ勝利の報を既に受けていた四天王メンバー2名とユキナリが話し合いを行っていた。
「赤ちゃんがいるってシズカさんから聞きましたけど、どうしましょう?」
「暫くは他のメンバーで育児の手伝いをする他無いでしょうね……現段階であれば堕ろすと言う選択肢も一応ありますが、選択肢として考えない方が良いでしょう……そもそも私はそんな話が出れば反対ですし」
「突然の事で驚いているが……何しろ私は育児経験が全く無いからね。
 トサカ君やシズカ君には勿論子供を見る義務があるが、サポートとしてサヤ君やスタッフのスミレ君、マサミ君についてもらう可能性も検討しなくては……」
「僕も出来る限り協力したいと思っています」
 リュウジは内心手がかかる育児に関して不満を感じていた。リーグ四天王として日々鍛錬を行うべき自分達が他の事柄で忙殺されるのは耐えられない。
 今回の事に関して冷たい態度ではあるが、リュウジは間接的な関与すらも避けたかった。ユキナリが手伝いに関して手を上げるのも信じられないと言ったふうである。
 (ユキナリ君にはチャンピオンとしての責任感が感じられないな……我々にコレ以上の公式な敗北は許されないと言うのに……義理や人情をある程度排除しなければ、最強者にはなれない……)
 リーグを担う責任。重圧。四天王大将であるリュウジはそのプレッシャーに耐えながらも一生懸命に運営を続けてきた。
 現在実質的な運営はユキナリとリュウジが相談する形を取ってこそいるものの、その実リュウジが全てをこなしていると見るのが妥当である。
「少なくとも落ち着くのは5歳かそこらでしょうか……それまでは女の子と言えども凶暴な野生のポケモンと似た様なものです。
 スタッフに出来る限りの支援をしてもらって、数年間を乗り切るしかないでしょう……リュウジ様、今回のシズカさんの懐妊についてはコレで宜しいでしょうか?」
「ああ。くれぐれも面倒は起こさない様にと2人に釘を刺しておいてくれ」

 新たな問題は山積しているものの、2人はようやく互いに愛し合い、歩き出した。
 後に生まれた女の子は『カオリ』と名付けられ育つものの、彼女がトレーナーとして歩き出すにはまだまだ時間がかかりそうである。

■筆者メッセージ
約束を破ったユキナリとキクコの物語とは対照的に、約束を果たした
トサカとシズカ。違いこそあれど、それぞれ2人は互いを認め、
愛し合っていたのです。僅かなズレでもその愛は歪んでしまう……
現実世界でも同じ事が言えるのかもしれませんね。
夜月光介 ( 2011/09/29(木) 20:10 )