ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第1章 6話 『再戦・VSユウスケ』
「驚かされたな……アンタ、やるじゃん!」
 ゲンタはニッと笑った。真剣な表情は消え、久しぶりに良い勝負をした満足感に包まれている。
「私は自分でやれるだけの事をしたまでだ。その結果私が勝った……当然の結果だろう」
「危なかったクセに。ユキナリ、ユウスケ!いや、オイラのカビゴン、良い戦いが出来たって喜んでるよ!」
「カビゴンが3匹目だったの?」
「オイラの自慢の切り札さ。物心ついた時からのパートナーなんだ。『食べ残し』を常時装備してるんだよ!」
「食べ残し?」
「ユキナリ君、ポケモンは道具を持つ事が出来るんだ。それによって、ポケモンが自分の判断で道具を使い、
体力を回復したり……またある時はその道具を使って自分の力を上げたり、戦いを有利に運べたりする。
 良い道具を手に入れたら、装備させてみるといいよ」
「へえ……」
 ユキナリはつい先程ゲンタに勝利した男性をもう一度見つめた。細目の上に太い稲妻型の眉毛、茶髪、顎鬚。
 薄い灰色の衣服に濃い灰色の長ズボン、純白のマントを羽織っている。
 思慮深そうで、常に悩んでいる様な表情を見せていたがその反面、強い何らかの意志を感じ取る事が出来た。
「あの、貴方は?」
「君は……ポケモントレーナーかい?私もそうだ……私はオチ。ひかり属性のポケモンを集めている。
 今日は目的達成の為の祈りの代わりにここへ来た。ここで負けていては、私は到底あの組織を壊滅させる事など出来ないだろう」
「組織……?」
「このエリアにいる悪の組織だ……私は彼等に深い憎しみを抱いている。何としても奴等を叩き潰さなければならない……
 私が忠誠を誓ったマスターの為に」
「オチさん。じゃあ、ジムバッチはいらないんですか?」
「私はリーグを目指しているのでは無い。いらぬ物だ……ジムリーダー、私はもう行く。戦ってくれた事、感謝しているぞ。では……」
 オチは身を翻してジムを後にする。
 その後姿を見ていてユキナリは、(何故だろう……凄く哀しい背中を見せてる……)と思った。

「悪の組織か……僕、トーホクにいる闇組織の名前なら聞いた事があるよ」
「闇組織?」
「……カオスだね」
「え?」
 ゲンタが少し曇った表情をしながら話し始めた。
「今トーホクでは、カオスって言う犯罪組織が蠢いてる。奴等はポケモンを本当の意味での道具としか考えていない。
 だからポケモンを酷使しても平気なんだ。でもそれは……」
「ユキナリ君。カオスはゴシップ記事が作った偽りの組織だよ。誰1人として実際にカオスのメンバーを見たって人も、
逮捕されたメンバーなんかもいないんだ。空想なんだよ、きっと……」
 ユキナリは腑に落ちなかった。本当にそうなんだろうか。さっきのオチさんの真剣な眼差しを見ると、どうしても嘘だとは思えない。
 それに、ユキナリは彼に強い憧れを抱いていた。
 (あんなトレーナーになれたらいいな……)
 冷静の中にも鋭く光る熱き闘志。危うい程の脆い人間らしさ。弱みを見せない強さ……それはユキナリが憧れるタイプの人間に等しかった。

「さてと……客人もいなくなった事だし、アンタ達に特訓でもさせようか。教えるよー。
 強くなるにはどうしたらいいのか!とにかく、ポケモンを鍛えるしか無いよ!!」
「ポケモンを鍛える……」
「野生のポケモンは戦いの中に生きてる。生きるか死ぬかって言う状況の中でね。でもそれはオイラ達トレーナーの戦いじゃない。
 まずはその戦い方を叩き込ませる。そして、相手を倒す為に身体を鍛えて技を覚えるんだ。
 その為には『トレーナーと戦って経験値を得る』しか方法は無い!」
「と、トレーナーって、誰と?」
「僕がいるじゃないか!やっぱりついてきて正解かも……ユキナリ君。互いに経験値を高めるチャンスだよ!」
 ユウスケは目を輝かせた。
「オイラが住んでる街、コヤマタウンはノーマルポケモンを使ってるトレーナーが多くて、しょっちゅうオイラのジムに来るんだ。
 連絡すれば相手をしてくれる奴等は沢山いると思うから、後で会わせてやるよ!」
 ゲンタは笑った。
「ま、オイラは手伝えないから先に謝っておくよ。ジムリーダーが直接トレーナーに力を貸すのはリーグの方から禁止されてるから」
「ウオマサ高原のリーグ本部か……」

 ウオマサ高原……トーホクの最北端に位置しているトーホクリーグの本部。
 最強の称号を持つトレーナーの憧れ、四天王とチャンピオンが若き挑戦者達の挑戦を待っている。
 ユキナリとユウスケはまさにその第一歩を踏み出したばかりだった。

 ユキナリとユウスケはジムを離れ、ジムの後ろにある小屋へと戻っていた。
 ゲンタによると、ここにゲンタを慕っているトレーナーが手合わせしに来てくれるらしい。
「ま、その人達が来る間に僕と勝負しようよ!」
 ユウスケは顔を輝かせてボールを取り出した。
「3vs3のジム戦と同じルールの勝負。ポケモンが3匹戦闘不能になったトレーナーの負け。単純なルールだよ。それでいいよね?」
「勿論!」
 ユキナリはハスボーが入っているボールを握った。
 (僕は、君と一緒に強くなるよ……心も、身体も!)
「じゃあ、バトルフィールドにポケモンを出そう。ここは公式の場所じゃ無いから、随分狭くなっちゃうけどね。」
 ユキナリとユウスケが練習をする場所は小屋の外。粉雪が相変わらず降り続けている中での戦いだった。
 土は冷たく、水溜りが凍っている程だったので、この日は昨日より寒かったのだろう。

 お互いの衣服が雪をくっつけ、北風が容赦無く2人を苦しめる。ジャンパーを着てはいるものの、その寒さは部屋の中とは違い過ぎていた。
「戦闘開始!」
 一斉に2人はボールを投げる。閃光と共にポケモン2体が姿を現した。コエンとカレッキーだ。
「ユウスケの本命が登場か……」
 ユキナリはポケギアの図鑑をチェックした。
『カレッキー・トーホク地方の寒さによってウソッキーから突然変異した新種のポケモン。
 完全に樹木に変わり、手や頭がまるで枯れ木の枝の様に分かれている。吐く息は相手を凍らせ、巻き起こす風は全てを切り裂く』
「僕が手塩にかけて育てたポケモンなんだ。勿論パワーベルトを付けてるから対等な戦いが出来るよ!」
 強さを制御し、コエンとカレッキーは同じレベルになっていた。互いに間合いを計り、睨み合う。
『ユキナリさん、相手のカレッキー……かなり強いですよ。ひしひしと自信に満ちたオーラを感じます』
「とにかく攻撃あるのみだ。相手の懐に飛び込んで叩くしか無い!コエン、まずは化かすで相手を惑わすんだ!!」
『解りました!』
 ユウスケがクスッと笑った事にユキナリはまだ気付いていなかった。
 コエンはそのまま相手にぶつかり相手をよろめかせると、『化かす』を使う。
 しかし、幻影はカレッキーの前で跡形も無く消えてしまった。
『俺っち、そんなに甘く無いッスよ』
 カレッキーはニヤリと笑い、『冷たい風』を挨拶代わりに吹いてくる。
「コエン、避けるんだ!」
 コエンは慌てて飛び退いたが、自分から懐に飛び込んだのが裏目に出た。逃げられるワケも無く自分から当たりにいったかの様にくらってしまう。
『うわあっ!』
「こ、コエン!」
「ユキナリ君。カレッキーには特殊能力があるんだ。チェックしてみて。ちょっとズルイかもしれないけど」
 ユキナリはポケギアの『バトル』から『相手の情報』を選択し閲覧した。
『なまくらボディー・こんらん状態にならない。その代わり技をかけられると防御力が少し下がる』
「防御力が下がる?」
「うん。でもこんらんするよりはマシだと思うんだ。その証拠に……」
 ユウスケは拳を振り上げてガッツポーズをした。
「連続で技を繰り出せるしねッ!」
 ユキナリはユウスケがまた『冷たい風』を命令しようとしている事が解った。2度続けて当たるのは洒落にならない。
「コエン!早く距離を取るんだ!」
 しかしコエンはその場から動く事が出来ない。
「ど、どうした?」
『ダメです。冷たい風で素早さを下げられちゃったみたいで……これじゃ、飛び退こうにも飛び退けません!』
「そ、そんな!」
「カレッキー、冷たい風をもう1度当てるんだ!」
『解ったッス、マスター!』
 カレッキーは口を尖らせた。

「コエン、鬼火だ!」
 反射的にコエンは鬼火を出していた。そして鬼火を投げた瞬間、それが冷たい風と衝突し、バチバチと激しく火花を散らす。
『クッ……技の点では俺っちの方が負けてるッスけど、威力に関してはひけを取らないッスよ!』
「コエン、そのままふんばるんだ!」
「カレッキー、そのまま押して攻撃を当ててくれ!」
 2人は自分のポケモンを応援し、励まして何とか勝たせようとした。勿論それが関係するハズも無く、あくまで2匹の精神力で勝負は決まる。
 混乱にはならなかったものの、カレッキーは特殊能力の代償で防御力が下がっている。そして鬼火には滅法属性的に弱い。
 対するコエンは属性的には有利なものの、冷たい風を2度もくらってしまっては大きな痛手になる。
 最悪の場合、動けずにそのままやられてしまう可能性もあった。
 2匹のポケモンは技を出したまま膠着状態になっている。2人も何時の間にか応援を止め、固唾を飲んで行方を見守っていた。
 果たしてどちらが攻撃を当てるのだろうか……

 膠着状態になったまま、2匹は身動き1つしなかった。互いにふんばって力を出し切っているものの、力は勿論互角。
 ゆっくりと体力が寒さによって奪われていく。
「負けるな、コエン!」
「もうちょっとだけ頑張って、カレッキー!!」
 ポケモンはこの瞬間、完全にトレーナーの手を離れて互いの勝負に持ち込んでいた。もう周りなど見えない。
 ただ目の前にいる相手を倒したい。その執念でどちらも一歩も引かなかった。
 鬼火と風がグルグル回ってぶつかり合う。2匹の精神力は同等に減っていき……

 両方とも同時に地面に倒れこんでしまった。フルに精神力を使い果たしたのだ。
 しかし、コエンの方は若干体力が残っていたらしい。ゼーゼー荒い息を吐いているカレッキーに向かって再び鬼火を当てる。
『これで、この戦いを終わりにしましょう!』
『まだ、勝負が決まったワケじゃ無いッス!』
 カレッキーもなんとか体勢を立て直して息を吐こうとしたがもう立っていられなかった。大きく態勢を崩してしまう。

 完全に無防備な状態となったカレッキーに容赦無く鬼火が襲い掛かった。
『やっぱり、アンタは強いッスね……』
 そのまま燃えて、カレッキーのHPはゼロになってしまう。ユウスケは急いでカレッキーをボールに戻した。
「僕が適切な命令を出していれば……」
 ユウスケはほぞを噛んだ。
「ユウスケ、かなりポケモンを鍛えてるんだね……」
「僕の自宅でね……やっぱり外に出て野生のポケモンと戦わないと成果は出ないよ。仲間同士で戦ってても、経験値は殆ど入らないしね」
 ユウスケは次のポケモンを出そうとしていた。
「次の試合でも対戦相手との相性は重要だよ。どうする?ポケモンを交代させるのなら僕に言ってね」
 (どうしよう……)
 先程冷たい風のダメージを受けたうえ、かなりの精神力を消費したコエン……続けて戦わせても負けるのは目に見えている。
「ジグザグマに交代させてもらうよ」
「OK!じゃ、次のポケモンも同時に出そう」
『ユキナリさん、僕はまだ戦えますよ!』
「無理しないでいいよ。僕はポケモンを酷使したくなんか無い。僕の友達なんだから」
 そう言うとユキナリはコエンをボールに戻した。次のボールを腰から外して手に持つ。
「せーのっ!」
 また同時にボールが地面に落ち、ポケモンが姿を現した。ユキナリの方は昨日捕まえたジグザグマで、ユウスケの方は相棒の1匹マッドだった。
 マッドは空中をフワフワ浮いている、カブの様なモンスターだった。凶悪な面構えをしている。
「えーと、図鑑は……」
『マッド・普段は地中で眠っており、掘り出されると五月蝿い声で喚きだす。あまりに五月蝿い声なので相手にダメージを与えてしまう程だ。
 タイプはくさ・こおり』
「特殊能力はあるのかな?」
 先程カレッキーの特殊能力のせいで痛手を受けたせいか、ユキナリは慎重になっていた。
『特殊能力・騒ぐ……相手のモンスターに少しずつダメージを与えていく。マッドが瀕死状態になると相手のモンスターに死の叫び声を聞かせて道連れにする。
 ただし、倒れる直前のマッドの残りHPより相手モンスターのHPが少ない時にはこの効果は通用しない。少量のダメージはマッドが瀕死状態になるまで続く』
「長ったらしい説明だなあ……」
『要するに、俺のHPが奴のHPを下回ってる時に奴を攻撃すれば勝てるってんだろ?任せときな!
 俺はアンタに惚れたんだよ。凄え相棒を持ってるじゃねえか。俺の素早さについていける奴を始めて見たぜ!』
 ジグザグマは吠えて相手を睨みつけた。マッドはただ薄笑いを浮かべながらこちらを見ている。
「戦闘開始!」
 ユキナリの命令でジグザグマは昨日披露した素早い動きを展開する。マッドはとりあえず喚きだした。
「ユキナリ君。マッドはそんなに簡単には倒せないよ!有利に立てば引き分けになってしまうから、ワザと自分を不利にして勝たないといけないんだ!」
 そう言いながらユウスケは何かをユキナリに投げた。
「何これ……」
「耳栓。五月蝿いし、死の叫び声は強烈なんだ。下手すると僕達が気絶しちゃう位鋭い叫び声だからね」
 ユキナリは背筋が寒くなった。すぐに耳栓を付ける。しかし、これだとジグザグマの受け応えも聞けなくなる。
 ユキナリは命令するだけの立場になってしまっていた。

 ユキナリとユウスケはこの戦いにおいて耳栓を付けていたので、自分のポケモンに命令が伝わったかどうか互いに解らない状態だった。
 しかし命令しなければ戦えないのでユキナリは叫ぶ。
「ジグザグマ、たいあたりだ!」
 ポケギアの『バトル』・『コンディション』によるとどうやら変種ジグザグマの使える技は『体当たり』と『アイスアタック』の2種類らしい。
 『体当たり』はノーマルの常套手段で、『アイスアタック』はこおりの技だ。しかしダメージの通常設定はどちらも同じ。
 ならば『こおり・くさ』のマッドに効果的なダメージを与える為には『体当たり』を使うしか無いのだ。

 しかしユウスケは命令を出していなかった。何故か口が全く動いていないのが確認出来る。
 (ど、どうして命令しないんだ?)
 ジグザグマは思い切り走って浮いているマッドに体当たりをくらわした。マッドは先程からずっと騒いでいる。
 ジグザグマは攻撃をしただけなのに耳を押さえてうめいていた。
 (そ、そうか。引き分けを狙ってるんだ!)
 ジグザグマが受けるダメージは微々たるものだが、このまま何の考えも無しにダメージを受け続ければ特殊能力の餌食になってしまう。
 ユウスケの残り手持ちはボタッコ。コエンと戦い、互角の勝負を披露した兵だった。
 ユキナリの手持ちはまだ戦いに慣れていないハスボーと深手を負っているコエンの2匹。
 ここでジグザグマが倒れてしまうと数的には有利でも実際には断崖に追い詰められる事になる。
「ジグザグマ、待つんだ!」
 しかしジグザグマは騒ぐマッドのせいか全く聞こえていないらしい。ユウスケは何も言わず、ただ戦いを不安げに見つめているだけだった。
 (参ったな……)
 ユキナリはやっと解った。このユウスケの戦法がどれだけスタンダードで手厳しいものなのかを。
 ジグザグマは痛みをこらえる事で精一杯。ユキナリの命令が聞こえていない。
 対するユウスケは何も言わず、ただ勝手にジグザグマが攻撃し続けて自滅するのを待つだけだ。
 (ま、負けるかもしれない……)
 ジグザグマは雄々しく立ち上がると、またマッドに向かって体当たりした。ユキナリの命令は全く届いていない。
「やめるんだ、相手の思う壺なんだぞ!」
 ジグザグマは引く事を知らぬ真っ向勝負のポケモンだった。今回はそれが完全に裏目に出たと言える。
 ジグザグマが3度目の体当たりを当てた瞬間、ユキナリは地面が少し揺れているのを感じた。空気がビリビリ震えている。
 マッドが『死の叫び声』を発しているのだ。耳栓を付けていても、その叫び声の凄まじい事がよく解った。
 ジグザグマは当然マッドよりHPが多かったのでその叫び声の犠牲になる。倒れて、ピクピク痙攣していた。

 ユウスケは倒れて気絶しているマッドをボールに戻すと、耳栓を外してもいい事を手振りで伝えた。
 ユキナリは痙攣したままのジグザグマを戻すと、耳栓を外し、溜息をつく。
「ユウスケ、マッドって強いんだね……」
「そんな事は無いよ。だってもしマッドが3匹目として残っちゃったら、戦闘不能にしたトレーナーが負けになるルールなんだから。
 相手のポケモンの中には、別のポケモンを引きずり出す『吠える』って技があったりするしね」
「へえ、残っているポケモンを場に無理やり出す事も出来るんだ……」
 ユキナリは苦渋の表情でハスボーの入ったボールを見つめていた。
 (今信じられるのは、君しかいない。君と相手をするのはポケモンバトルを知り尽くしているボタッコだ……勝負は見えてる、でも!)
「可能性が1%でも残っているならば、僕は抗う!オチさんの様に……最後まで諦めはしない!!」
 ユキナリはハスボーの入っているスーパーボールを手に持った。
「僕も知ってるよ……そのハスボー、バトルには慣れてないんだよね。でも、僕はあくまでこれが対等のバトルだと思ってる。
 同じ『こおり・くさ』タイプのポケモンで最後の戦いをしよう!」
 ユウスケもボタッコが入ったボールを握り締めた。同時にボールを地面に投げつける。閃光と共にまたポケモンが2体姿を現した。

『ユウスケ、このヒトは?』
「ユキナリ君が捕まえたハスボーだよ。バトル慣れしてないけど、君は全力で戦ってほしい、いいね?」
『えー?そ、そんな事していいの?』
「僕からもお願いするよ。これは僕が最初に体験する試練だと思ってるんだ。ハスボーと一緒に、このバトルに勝つ。絶対に!」
 ユキナリの決意は固かった。ユウスケは頷くと、命令を出す。事実上ほぼ最後のバトルになる戦いだった。

『な……これは、何?僕は、どうしなきゃならないの?』
 狼狽した変種ハスボーはユキナリに尋ねた。
「ハスボー、よく聞いて。僕は、君と一緒にリーグを目指したいんだ。他のポケモンと戦って勝つ……負けたって構わない。
 とにかく、今はボタッコと戦ってほしいんだ。命令は僕が出すから……」
『た、戦う!?僕が他のポケモンと戦うの!?』
 ハスボーは明らかに怯えている。
「頑張って!僕は君と一緒にリーグを目指したいと思った。親を失った君と共に、成長していきたいと思ったんだ……
 だから、僕と一緒に、ユウスケのポケモンに立ち向かってほしい、お願いだ。頼む!」
 ユキナリはハスボーに土下座までして自分の意志を伝えた。雪が土下座をしているユキナリの背中に当たり、消えていく。
 ハスボーは、ブルブルと震えていたが、ユキナリのあの一緒に悲しんでくれた憂いの顔を思い出し、決意を固めた。
 (僕を育ててくれる人……僕と一緒に人生を生きると誓った人……その恩に報いなきゃいけない!
 例え怖くても、それが僕に出来る『お返し』なんじゃないのか?)
『……ルールを、教えてください。』
 悲痛な顔を浮かべて、ハスボーはユキナリにバトルをする事を述べた。ユキナリは顔を少し上げると、とてもすまなそうな表情を浮かべる。
 心を痛めながらも、ユウスケに勝ちたい。そんな矛盾の中で、芽生えたのは『勝利したい』という本能だった。

「君が覚えている技は僕が全部知っている。僕の命令に合わせて、攻撃をしてほしい」
『わ、解りました!』
「ねえ、ホントに大丈夫なの?」
 ユウスケも止めた方がいいんじゃないかと言う表情をしている。
「傷薬ならまだあるから、今回だけ特別にコエンに与えてボタッコと勝負させても……」
「ここでハスボーに逃げる事を教えちゃいけない。戦わなきゃいけないんだ。僕とハスボーは」
 ユキナリはじっとボタッコを見つめた。
『ユウスケが言ったんだ。全力を出して頑張るよ!』
『あの人と、戦うんですね。』
「うん、同じタイプだから、泥沼になるかもしれない。やばいと思ったら、負けたとしても君をボールに戻す。すぐに手当てしてあげるからね」
『……出来るだけ、やってみます。』

 数分後、ようやくユキナリとユウスケのラストバトルが始まろうとしていた。2人は、いや2匹のポケモンは互いに睨みあっている。
 いや、ハスボーは完全に気合負けしていた。顔が引き攣っている。
 (だ、大丈夫かな……)
 ユキナリはそう思いながら、ボタッコの特殊能力を確認した。
『特殊能力・しめったからだ……やけど状態にはなりにくいが、こおり状態にはなりやすい』
 (そうか、前コエンが勝てたのはこの能力のおかげだったんだ……で、ハスボーの特殊能力は?)
『みずけのかれは・じめんタイプの攻撃技が効かないかわりに、いわタイプの攻撃技をくらうとその技の通常ポイント×3倍のダメージを受ける』
 (今回の勝負には関係無いかな……こおりタイプも持ってるハスボーにとっては、相手の特殊能力は意外といいかもしれない……って、あれ?)
 ハスボーが持っている技は、確認してみると『みずげい』と『はっぱカッター』、『体当たり』の3種類だけだ。
 みずは相手には効かない、同じ草タイプも効かないだろう、頼れるのは『体当たり』だけだ。
 (苦しい戦いになりそうだな……)
「戦闘開始!」
 ユウスケの声と共に、ボタッコが動き出した。
『面白いんじゃない?こういう戦いも』
 ボタッコは笑うといきなり上からボタッコに体当たりしようとしてきた。『のしかかり』だ。
「ボタッコ、避けて落ちた所を『体当たり』するんだ!」
 ハスボーは素早さが早い方なので、ボタッコののしかかりを避ける事が出来た。
 ハスボーは歯をくいしばって体当たりをする。ボタッコに当たり、ダメージを与えた。しかし体当たりでは満足なダメージにはならない。
 パワーベルトを付けているボタッコは、HPの1/4程が失われた様だった。
「ボタッコ、気にせずもう1回のしかかりだ!」
 しかし動きが緩慢だったのか、またしてものしかかりは外れた。地面がボタッコの形にへこむ。
『うわああ……』
 強い衝撃。ダメージの恐怖。死の恐怖。ハスボーはその恐怖に完全に負けてしまっていた。いきなり逃げ出そうとする。
「ハスボー、逃げないでくれ!ここで逃げれば、攻撃も出来ないでただ相手の技をくらってしまうだけだぞ!」
 しかし恐怖にかられたハスボーにはユキナリの声が届いていない。後ろ向きになったハスボーに、ボタッコが追い討ちをかけてきたのは当たり前の事だった。
『全力で勝負するよ!禍根が残らない様にしようね!!』
「いいぞボタッコ、そのまま『冷たい風』を使うんだ!」
 ハスボーの周りを氷の風が襲う。逃げだそうにも逃げ出せず、ハスボーはただ痛みと苦しみに泣いていた。
『嫌だよ、助けて父さん……母さん!!』
 (もう、ダメか……)
 ユキナリはガックリと肩を落とした。

 ハスボーは凍える様な寒さの中にいた。風が周りを覆っていく……後ろを見るとボタッコがいた。
 (冷たい風を口から出している。……そうだ、僕はこの人と、戦っているんだ!)
 ふいに自分の道が見えた。自分が今しなければならない事、それだけがハッキリと自分の頭を刺激する。
 ハスボーは気力を振り絞ってその風から逃げ出した。
 (父さんと母さんが僕を見ててくれてる……そんな気がするんだ。僕が勝つ事を望んでる気が……!!)
「ボタッコ、一旦飛び退くんだ……ああっ!」
「は、ハスボー……」
 命令も何もしていないのに、ハスボーは自らの意志でボタッコに体当たりした。
 それはボタッコの急所に命中し、ボタッコはそのまま地面に倒れる。
『ゆ、ユウスケ……まだ、戦えるよ……』
 ヨロヨロと立ち上がるボタッコ。思わぬ攻撃に何も出来なかった自分が悔しかった。
 (もう油断なんかしない。絶対に勝つ……それが目の前の敵であるならば!)
「ぼ、ボタッコ!体勢を立て直して……」
『イヤです!』
「ユウスケ、もう僕達の戦いじゃ無いんだ、これは。ボタッコとハスボーの戦いなんだよ!」
「うん……そうなっちゃったみたいだね。もう、見ているだけでいいのかも……」
 ユウスケはボタッコを見つめた。
 (こんなに熱くなったボタッコを見るの、初めてだな……)

『体当たりで、勝負しましょう……』
 ハスボーはそう言うと、走る構えをとった。
『別にいいけど。ボクが勝つから!』
 ボタッコは息を吸い込んだ。叫びはポケモンの戦闘力にも大きく影響する。
 人間が最大限の力を一瞬発揮出来る様に、ポケモンにもその能力が秘められていた。
 唐突に、しかも一斉に2匹は走り出した。勿論相手しか見つめていない。相手の腹にぶつかる事しか頭の中には無い。
 勝つか負けるか、相手を倒すか自分が倒れるか、究極の二者択一があった。しかもそれは自分では選べない。

 ユキナリとユウスケの目の前で、2匹のポケモンは激しくぶつかりあった。そしてその反動で2匹とも地面に倒れこむ。
 どちらが体当たりしたのか、2人には全く解らなかった。
「ど、どっちが勝ったんだろう……」
「ポケギアでHP残量を確認してみれば?」
 ユキナリは慌てて『バトル』の『互いのHP』を見る。
『ハスボー(ひんし)ボタッコ(ひんし)……』
 壮絶な引き分けであった。正直、ユキナリはこの戦いが引き分けにもつれこむなど予想もしていなかったのだ。
 ハスボーが勇気を出し、ボタッコに真っ向から立ち向かったのは彼にとって大きな喜び以外の何者でも無い。
「ユキナリ君。……コレは僕の負けみたいなものだよ」
「コエンがひんしにならなかったのは奇跡だよ……ユウスケとマッド・カレッキー、そしてボタッコとの戦いは引き分けに近かった。それでいいじゃないか」
 ユキナリは空を見上げる。相変わらず曇り空から粉雪が無い落ちていたが、何故か今のユキナリにとってはとても暖かい天気の様に思えた。

夜月光介 ( 2011/04/10(日) 22:34 )