ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第9章 7話『四天王大将 龍の魔術師 VSリュウジ』
 通路の向こうに扉がもう1つあり、その扉をユキナリは開けた。
 (僕と戦ってくれた沢山の人達……皆、僕に力をください。勝利を掴める力を!!)
 シズカとカツラに勝ち、ユキエを消滅させたユキナリは、最早最高ランクのトレーナーと言い切ってしまっても問題は無い。だがその上に、越えられぬ者がいる。
 数多のトレーナーが彼と勝負も出来ずに散っていった……彼が四天王になる前には数多のトレーナーが彼に敗れ、自分からトレーナーである事を捨てている。
 そこまで人を追い詰めてしまう程、彼は強い。強過ぎるのだ。リュウジ……竜の里では最強であった彼と、ユキナリは戦う。
 扉を開けると、そこは先程と同じ様な広い部屋になっており、壁はエメラルド色に塗られていた。四隅には竜の里の紋章が飾られ、その奥に金色の扉が見えている。
「お初にお目にかかる……」
 ユキナリはリュウジの姿が確認出来ず、左右を確認したが彼の姿が見られない。
「上だよ。上……」
 ユキナリが上を見上げた瞬間、突如空中から多数の鳩が飛んできた。慌てて身を屈めるユキナリ。しかし、鳩はユキナリの上空を掠めて飛んでいき、そして空中に掻き消えた。
 再び空中を見上げると、小型の飛行ポッドに乗った男が立っているのが見える。緑色のレンズがはまっているゴーグル、群青の髪、エメラルドグリーンのマントと明るい緑色の服。
 眩しい色大集合と言った感じの見た目だ。しかし、そんなチャラチャラした格好であるにも関わらず、ただならぬ気迫とオーラを感じる事が出来る。
「お近付きの印に、華を見せよう。イッツ、ショータイム!!」
 彼が指を鳴らすと上空に沢山の桜の花びらが舞い、再び指を鳴らすと彼の姿が消え、そしてまた出現する。その手には綺麗なミミロルが抱かれていた。
「炎!」
 火の玉が空中に出現し、それがクルクルと輝きながら回り煌びやかに空中を彩る。花火が打ち上げられ、炎はユキナリの周囲を取り囲んだ後消えた。偽物では無い。
 実際に熱い。水がスプリンクラーの様に舞い上がり、また消えるとリュウジがその場所から姿を現した。空中からユキナリを見下ろしている。ミミロルはもういない。
「紹介が遅れたね。私の名前はリュウジ。人は私を『ドラゴンイリュージョニスト』と呼ぶ。そう、私は四天王大将であり、生粋のマジシャンでもあるのさ!!」
 ユキナリは怒涛の展開の連続についていけず、呆気に取られてしまっていた。
「君の戦いは先程からずっと見ていた。素晴らしい……実に素晴らしいよ!私と戦う実力は充分にある!そんな君が逆にココまで来られた事も、運命とは思わない。
 私に言わせれば『必然』だったね。でも、ココからは解らなくなる。私が強いからだ」
 リュウジが両手をV字型に高々と掲げると、4隅の彫刻からそれぞれ火花、紅蓮の炎、黒い煙、そして緑色の炎が噴き出した。この戦いが四天王戦の総括とでも言わんばかりの演出だ。
「ユキナリ君……ココで君が勝つも負けるも君の運命。ただ、既に運命が決まってしまった者もいる……残念だが、君のお兄さんは私と戦い、善戦の末に敗れた」
 ユキナリが気配を感じて振り向くと、そこにホクオウが立っていた。
「に、兄さん……嘘だよね?」
「リュウジは強いぞ。お前が思っている以上に強大で……そして、何処までも正々堂々とした熱い男だった。俺はリュウジに負けた事を恥じない。
 寧ろ、リュウジと戦えた事を誇りに思う。お前は勝て。そして……チャンピオンに挑戦し勝つんだ。解ったな」
「そんな……兄さん……」
「彼もまた、実に将来有望なトレーナーだよ。再び這い上がり、私の前に再び現れる事を期待している。その時には、もっと白熱した、もっと素晴らしい戦いが出来るだろう!」
 彼はバトルを心の底から楽しんでいる様子であった。楽しくなければ強くなれない。その言葉通り、ユキナリとリュウジはよく似ていた。
 勝負に拘り、自分が何処まで通用し、そして何処へ向かうのか突き止めようとしている。自分より遥かに強い者に挑む事で……
「リュウジ、防戦に徹したお前では、今のユキナリを止める事は出来んぞ」
「そうかもしれない。でも、一歩も退けないね。今の私には背負っているものがある。リーグのメンバー全員を、私が守らなくてはいけないんだ。
 行き場を失って迷っていた者達を、私が救い上げて表舞台に上げた!私が勝たなければ……絶対に!」
 決意の表情が見て取れた。勿論、ユキナリはそれ以上の荷物がある。でも、憎しみの心や怒りの心では無い。ユキナリの心は澄み渡っていた。青空の様だ。
 単純に、どちらが強いか知りたい。探究心。バトルを愛する気持ちで満ち溢れている。
「さあ、回復ポッドにポケモンを入れ、準備を整えたまえ。試合開始だ!」

「あ、ホクオウさん。お帰りなさい……」
「無様な姿を弟に見せてしまって……いや、情けないよ」
「俺達もアンタを責められやしねえさ。今、トーホク中を探してもアンタをなじれるのは1人しかいねえ……ユキナリだけがアンタを責める事が出来る」
 トーホクリーグ中継は大きな盛り上がりを見せていた。遂にリュウジが公の試合に姿を見せ、ユキナリと戦うと言うのである。
 それが全国に生中継されているとあっては、最早誰もTVから目を離す事は出来ない。トーホク、いや世界中のトレーナーがこの試合の結果を待っていた。早く知りたがっている。
 裏ではユキナリとリュウジどちらが勝つかと言う汚いギャンブルも行われた。結果としては半分半分。どちらが勝っても全くおかしくないと言う見解。
 2人の一挙一動を、ユキナリの両親、仲間達、親友、兄……全員が見守っていた。時間が早く経過してほしいと思う事等滅多に無いと言うのに……

「回復、完了しました」
 ユキナリはランプを確認すると、上空にいるリュウジに呼びかけた。
「了解したよ……正直、本当にワクワクしている。ホクオウ君と戦った時もそうだったが、嬉しくて仕方が無いんだ。君程のトレーナーと自らの誇り全てを委ねてバトル出来るなんてね。
 最高の試合だよ。最高の勝負、そして最高の舞台……お膳立ては全て整ったね。さあ、単純に私とユキナリ君……どちらが強いかハッキリさせようじゃないか!!」
 リュウジはそう言うと、上空からエメラルド色に彩られたボールをフィールド上に投げ入れる。閃光と共に巨大な雲が出現した。白い綿雲から鳥が雲の羽を広げて凛とした鳴き声を発する。
「まずは小手調べ、私の育てたチルタリスと戦ってもらおう!」
 (チルタリス……!確かにドラゴンポケモンだ。ドラゴンタイプは全てのステータスが平均的に高く、今までの戦いとは明らかにレベルが違う……一瞬でも油断したら、負ける!)
 ユキナリは早速ポケギアでチルタリスの特徴を調べた。
『チルタリス・ハミングポケモン……ソプラノの高い音域で相手を陶酔させ、一気に仕留める鳥ポケモン。竜の血が混じっている為、攻撃的でプライドが高く、非常に好戦的。
 上昇気流に乗って高く舞い上がり、獲物を見つけると急降下して獲物の腹に鋭い嘴を叩き込む。昔は遥か上空から聞こえてくる鳴き声を、神の歌声と思っていた時代もあった』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・綿雲……直接攻撃を仕掛けてきた相手を一定確率で『麻痺』状態にする』
 (特殊能力も厄介な相手だな……なら逆に、直接攻撃でさえ無ければ大丈夫なのか……)
 ユキナリの手持ちには遠距離攻撃のスペシャリストが存在する。まずは彼女と一緒に戦おうと考えた。
「私は竜の里では最も成績優秀な生徒で、ワタルさんとの激闘の末勝利し、その結果破門されてしまった。だが今現在、最強のドラゴン使いと言えば、エリア中のトレーナーが私の名前を呼ぶだろう。
 今君と戦うに最も相応しい相手は……この私であるとは思わないか?ユキナリ君……」
 圧倒的な自信、威厳、存在感。あのアズマや他四天王よりも強い、最強者に次ぐ実力を持つ相手……高揚した。怖い気持ちもあるが、戦ってみたいと言う純粋な気持ちの方が強くなってきている。
「リュウジさん、僕はヤナギレイを使わせてもらいます!」
 ユキナリはモンスターボールを取り出すとフィールドに投げ入れ、ヤナギレイを出現させた。
『いやぁ、ココまで来ちゃいましたねぇ……♪マスター、こうなったらリーグ制覇に一直線ですよ!最後まで諦めずに頑張りましょう!!』
『あら貴方、綺麗な声をしてるじゃない。どちらが最高の唄を歌うか、勝負してみない?』
 チルタリスは雲の羽を大きく広げると、自分の実力を誇示し、そして相手への威嚇を仕掛けた。
『唄はあんまり自信無いんですけど、美貌だったら少しは……失言ですかね』
「ヤナギレイか。良いポケモンを選んできたね。どちらも遠距離に秀でているポケモンか……迎撃が望めないのならば、一気に攻め入った方が得策だろう。チルタリス、作戦Bに変更だ!」
『了解致しましたわ、マスター……』
 阿吽の呼吸でリュウジと会話するチルタリス。攻撃の仕方を暗号にする等、情報を露呈しない所も最強者たる所以なのだろうか。そのままチルタリスはりゅうのいぶきを放ってきた。
『試合開始、ですか♪』
 ヤナギレイのレベルは相当に向上していた。ヒュードロ時代であれば絶対に避けられなかったであろう攻撃をあっさり避けると、シャドーボールを的確にチルタリスに命中させる。
『わ、私の顔に泥を塗る様な真似を……!!』
 続いて一瞬で射程距離に入ってきたチルタリスのドラゴンクローを避け、サイコキネシスを放つ。
『くッ……動きが速いッ……』
 紫色のオーラに包まれ、ダメージを受けるチルタリス。だがドラゴンタイプの防御力の高さ故か、2回の攻撃でもイエローゾーンに突入しただけだ。ユキナリは焦った。
 (ヤナギレイの素早さの向上には驚いたけど……向こうの堅さも相当だな……とにかく、相手を翻弄しながらチクチクとHPを削っていく戦法の方が無難だ。暫くは任せよう)
 オーラが消え、身動き出来なかったチルタリスはやっと解放される。荒い息を吐いていた。
『なかなかの強さじゃない……見直したわ。おのぼりさんと思って油断していたら……なら、本気を出してあげる。私の強さ、胸に刻み込んで倒れなさい!!』
 再び羽を広げ、全身に力を溜めるチルタリス。体からは黄金のオーラが放出されている。
「ゴットバードだ!攻撃をくらったら即死する可能性もある。回避に集中しろ!」
『は、はいッ!!』
 慌ててチルタリスから逃げて距離を取るヤナギレイ。しかしチルタリスの方は彼女を捉えていた。
『射程距離よ……その程度じゃね!!』
 チルタリスの瞳がキッと見開かれ、瞳が黄金に輝くと同時に全身が金色に変わる。
『受けなさい、神の一撃を!』
 フッとユキナリの眼前からチルタリスの姿が消えた。ヤナギレイにはその姿が見えない。咄嗟にヤナギレイは巨大なシャドーボールを作り出すと、自分の目の前にそれを放った。
『グウッ!!』
 壁に叩き付けられたヤナギレイの腹に、鋭い嘴が見事に命中している。チルタリスがそれを抜くと、腹から青い血がだらだらと流れてきた。それを押さえながらヤナギレイはヨロヨロと宙に浮かぶ。
『貴方賢いわね。咄嗟の判断にしては上出来だったわ。あのシャドーボールで致命傷を避け、おまけに私へのダメージにも変換した……その傷、意外と浅いんでしょう?』
『ハァ……ハァ……ええ、何とか即死は免れましたけどね……』
 ヤナギレイのHPは大きく削られ、レッドゾーン手前にまで追い込まれていた。
 しかし無茶な突撃をしたチルタリスもエアバッグの役割を果たしたシャドーボールに突っ込んだ為、手痛いダメージを受けている。
 (チルタリスも脂汗をかいている……攻撃が効いている証だ。ヤナギレイには酷だけど、逆に攻めなきゃ負けてしまう!相手に攻撃させる隙を無くす事が先決だ!)
「ヤナギレイ、シャドーボールとハイパーボイスで攻め抜け!!」
『ハイ、ユキナリさん……』
『フン、そんな傷を負ってこの私に勝てるのかしら?もう1度神の一撃を受け……』
 チルタリスの羽にシャドーボールが命中し、構えが中断された。痛みを感じたチルタリスは一瞬怯んでしまう。その隙を突いてヤナギレイは背後に回り、ハイパーボイスを発動した。
『ラ・ラ・ラ――――ッ!!』
 超高速の旅客機に匹敵する騒音が耳に届いてダメージを与える。チルタリスは鼓膜に激痛を感じ動きが固まった。ヤナギレイはサイコキネシスで相手を捕縛すると、そのまま床に叩き付ける。
『おのれ……下等な幽霊風情が……私に勝てるとでも思っているのか!』
 激昂したチルタリスはスイートソングを発動した。ハイパーボイスに匹敵する騒音が辺りに響き渡る。負けじとヤナギレイもハイパーボイスを繰り出し、周囲は騒音に包まれ何も聴こえなくなってしまった。
 (耳が痛い……)
 塞いでいても耳がジンジンする程の騒音に、ユキナリは座り込んだ。
「貸そうか?」
 リュウジはヘッドホンをユキナリの近くに落とした。どうやらリュウジはこの光景に慣れているらしい。スイートソング発動を解り切っているからなのだろう。
 ユキナリは防音性のヘッドホンを耳にはめた。ユキナリとリュウジには最早何も聴こえなくなったが、光景を見ればいかに強烈な騒音の出し合いをしているのかが良く解る。
 両者共に喉が嗄れるまで、倒れるまで攻撃を止めるつもりは無さそうだ。
 (私のハイパーボイスの方が、上です……!!)
 (私が、こんなおのぼり如きに負けるハズが無い!!負けるハズが……)
 パン!とチルタリスの鼓膜が破れたのが最後だった。耳から血を流して倒れ込むチルタリス。ポケギアを見るとチルタリスのHPの方がゼロになっていた。歌声でヤナギレイが勝ったのだ。
『無茶な声は無闇に出すものじゃないですね……耳が痛いです……』
 耳と腹を押さえながら嗄れた声を出すヤナギレイ。戦い抜いたが、HPは殆ど残っていない。
「チルタリスに勝つとは……やはり君には高い才能を感じるよ、ユキナリ君!他のトレーナーとは違う様だね。私と互角に渡り合えている。そこまでポケモンを育て切れた証だ……」
「貴方も強い。リュウジさん……貴方のポケモンも本当に強いです。でも……勝ちたい。最後の砦を突破して、最後の場所へと辿り着きたいんです!絶対に退けません!!」
「勿論そうだろうね。だが、私の強さはまだまだこんなものでは無いぞ。今度は君が今まで見た事も無い、竜の限界を超えた最強の竜達を見せてあげよう!」
 リュウジはポッドに乗ったままチルタリスを回収すると、黄色に彩られた稲妻の紋章が付いているボールを取り出した。それは、シズカが使っていたボールによく似ている。
「我々四天王の結束力は、私が使うポケモンで体現される!蹂躙しろ、ストラキア!!」
 フィールドに投げ入れられたボールから巨大な竜が出現した。蜥蜴を単純に大きくしただけの様な概観とは裏腹に、鋭い牙や爬虫類特有の瞳が雑魚とは言えない事を物語っている。
『ヒュルルル……何だ、年端も行かねェガキじゃねえか。大した事は無さそうだな……』
『クッ……傷さえ無ければ、対等に戦えたハズですよ……』
 ヤナギレイは確かに相当弱っていた。貧血状態に陥っており若干のふらつきが認められる。とてもこの化け物と渡り合う力は残されていない。ユキナリはポケギアで図鑑項目を開いた。
『ストラキア・プラズマポケモン……身体から発する強烈な電撃によって周囲の電磁波を無効とし、微弱なイオンを全て吸収して強力なエネルギーを得ている。
 稲妻の様な駿足の動きで相手を翻弄し、鋭い牙で相手の喉笛に噛み付き息の根を止めると言う。元々は蜥蜴であったが雷の直撃により細胞が突然変異を起こした』
 (特殊能力は……?)
『特殊能力・強烈磁場……ストラキアがフィールドに出現した時、ストラキアが倒れるまで相手はポケモンの変更が出来なくなる』
 (ナックラーが持っている『蟻地獄』と同じ効果があるのか……と言う事は、ヤナギレイを今他のポケモンに交代させる事は出来ない。ヤナギレイは負けるしか無い事になるな……)
「ストラキア、相手は瀕死なれどチルタリスを倒した。決して侮らず、一撃で仕留めろ!」
『ヒュッヒュッヒュッ。解ってますよリュウジ様。俺が油断するとでも思ってるんですかい?』
『マスター、リュウジさんとの戦いはまた魂の削り合いになるでしょうが……マスターならばきっと勝ってくれると信じています。夢、今は託しますよ……!!』
 そう言うとヤナギレイは最後の力を振り絞り、掌底から特大のシャドーボールを生み出し、放った。
『ヒュフフフフフフフ。避けてくださいと言っている様な攻撃だぜ!』
 シャドーボールの動きが遅かった為、ストラキアは軽々とそれを回避してみせる。
「いかん!それは罠だ。油断するなと言っただろう!!」
 その瞬間、念動力を使いヤナギレイが軌道を変更した為、いきなりカーブを描いたシャドーボールを避けきれず、顔面に直撃してしまう。
 ゴーストタイプの攻撃は普通に効果がある為、ストラキアはいきなりイエローゾーンの手前までHPを失ってしまった。
『コッ、この野郎……最強の電磁竜、ストラキア様に傷を付けやがってェ―――ッ!!』
 地面を這い進み、あっと言う間にヤナギレイの眼前まで近寄ると、手が汚れるとばかりに血まみれになっているヤナギレイを平手打ちで床に叩き付けた。その瞬間、ヤナギレイのHPはゼロになる。
『ヒュ―――ッ……ヒュ―――ッ……小娘如きが……』
「その小娘にチャンスを与えたのはあくまでもお前の油断が原因だ。四天王大将の私がお前を信頼していると言う事を忘れるな……代わりは幾らでもいるんだぞ。シズカやカツラとは違ってな』
 冷たい言葉を浴びせられ、ストラキアの背筋が凍り付いたのが解った。勿論、リュウジ流の発破のかけ方なのだが。粗暴なポケモンを冷静にさせるには相手に恐怖感を与えるしか無い。
 (リュウジさん、ポケモンをやる気にさせる方法を熟知している……ユキエさんと同じ様に、勝利する事に対して貪欲になるのは当然か。僕だって、必死なんだから……)
「今のは素晴らしかったよ。敵ながら天晴れと言う所だね。私のストラキアを動揺させる程の良い攻撃だった……だが、本気にさせたストラキアと君のポケモンでは、少々勝機が薄くなる」
「そうかもしれません……でも僕は勝ちたい。貴方がこの場所に留まろうと必死になる様に……僕だって貴方を超えたい思いで必死なんです!絶対に貴方の先へ進みたいんだ!!」
 リュウジは微笑んだ。やはり私と君は同じタイプの人間なんだな、と言いたげな笑みなのだろう。
「出番だ、コセイリン!」
 ユキナリが投げたボールからコセイリンが出現すると、ストラキアはニヤリと笑った。
『ヒュッヒュッヒュッ……小娘の次はこんなチビかよ。まあ、今度は完膚無きまでに叩き潰してやるけどな。俺の腹で押し潰してやろうか?ヒュッヒュッ……』
『ユキナリさん。もう僕が必要なんですか?それ程強い相手なんですね……』
「相性で選んでいるだけだよ。それに単純に強いから……充分に相手を牽制出来ると思う」
 (確かに……驚異的な潜在能力を秘めているな。あんなポケモンがいるとは思わなかった……私のストラキアでも勝てるかどうか解らない相手とは……絶対に全力で戦わせなければな)
 リュウジは既にコセイリンの奥に眠る真の力の一端に触れていた。戦いを続けてきた戦士にしか解らない、危険信号を無意識に感じたのだ。戦闘力だけでは測れぬ何かを……
「ストラキア、予想以上に相手は強い!油断するな。一撃で決めるんだ!」
『ヒュ――ッ。何を怯えているんですか、リュウジ様……こんな奴は俺様の敵じゃありませんや。だろ、おチビちゃん……』
『なら、その小さい僕の全力を受け切れますか?』
 先に動いたのはコセイリンの方だった。素早く後ろに回り込み、吹雪を発動する。
『な、何ィ!?』
 (クソッ、素早さも天下一品か……電気タイプを持つストラキアが背後を取られてしまうとは……)
『電磁砲!!』
 ストラキアは口を開くと、強烈な電撃光線を繰り出した。コセイリンはバックステップでそれを回避した為、吹雪も当たらない。電磁砲は壁に当たって大きな焦げを作った。
『ちょこまかと動き回りやがって……良いだろう。動きには俺様も自信があるんでな……』
 ストラキアはまさに蜥蜴と言った感じで四つん這いになると、素早い動きでコセイリンに近付き、爪を立てた。ドラゴンクローを繰り出そうとしたのだ。
 だが逆にコセイリンはせいなるほのおで無理やりにその攻撃を止めてしまう。
『素早さだけでは僕には勝てませんよ。力も大切な要素ですから』
『ヒュッヒュッヒュッ!!炎攻撃は確かに発動が速いがな。竜には炎が効かねえ!発動が遅い吹雪を当てるのは至難の業だぜ!!』
 今のは驚いただけだとばかりに自分の強さを誇示するストラキア。確かにポケギアを見ると先程ヤナギレイが与えたダメージから少し、本当にほんの少し体力を削っただけとなっている。
「コセイリン、相手は予想以上に素早い!逃げに徹するよりも力で捻じ伏せろ!」
『そのつもりでしたよ、ユキナリさん……』
『ヒュフフフフッ!!俺様と力比べかァ!?馬鹿だぜテメェは。身の程知らずが!!』
 (ストラキア……相手のペースにはまるのは最悪だと知っているだろう。だが、コセイリンの力は真っ向からぶつかれば不味いが、受け流せば一方的に攻撃出来る……チャンスにもなる!)
『くらえッ!!』
 再び口を開けて電磁砲を発射するストラキア。コセイリンはそれを受け流すと逆に突っ込んで吹雪を直撃させようとした。しかしそれを見切っていたとばかりに、爪がコセイリンの腹を襲う。
『ぎっ!!』
『ヒュヒュヒュヒュ。油断するからだ馬鹿野郎!!解らねぇとでも思ったか!?』
『互いに互いを甘く見ていたって事ですね……今のは効きましたよ……』
 (なんてパワーだ!コセイリンの体力をごそっと奪っていった……もう1度喰らったら即死だ!!確かに、リュウジさんのドラゴンポケモンだけはある……)
『……真っ向勝負と言いましたよね?』
『それが出来ない狐には、お仕置きが必要だよなあ!!』
 傷を負って動けないコセイリンに、再びストラキアの長くて鋭い爪が襲い掛かる。しかし、その瞬間熱湯の粒がストラキアの背中に降り注ぎ、一瞬動きが止まった。
『ヒュッヒュッヒュッ。こんなの、ちょっと熱い位で何ともねェな!!鍛え抜かれた俺の鎧は、そう簡単には壊せやしねえぜ!!』
『僕はストラキアさん、貴方を見てはいない。ユキナリさんと同じ……目線は貴方の奥にある扉に注がれています。貴方と戦う場所は終着点じゃない!!』
 コセイリンは手を振り回し、今度こそ命中率が低い吹雪を直撃させた。
『ギャアアアアアアアッ!!!!』
 逆に火傷の様な白煙を上げてのたうち回るストラキア。そしてもう1度コセイリンが吹雪を発動させると、断末魔の悲鳴を上げて倒れ込んだ。身体が真っ白になってしまっている。
 (やはり、一筋縄ではいかないか……本当に素晴らしいよ、ユキナリ君……強ければ強い程、私もワクワクするんだ。もっと楽しませてくれ。もっと魅せてくれ!!)
『ハァ……ハァ……まだ、充分に戦えますよ……ユキナリさん……』
 体力は半分程残っているものの、腹に直撃したドラゴンクローの傷は深く、ヤナギレイと同じ青い血が流れ出ている。ユキナリは次の戦いでの活躍は期待出来ないと思った。
 (リュウジさんのポケモンは攻撃を掠るだけでも怖い……!!一番恐ろしいのはその底が知れない攻撃力だ。コセイリンでさえあの状態じゃないか……)
「もっと楽しもうじゃないか。今、私と君の戦いは全世界に放映されている。歴史的に価値のある試合なんだ。どちらが勝とうと、どちらが負けようとね!!
 でも……君は勝ちたいんだろう?私もだよ。戦いを通じて成長してきた君の真の力を私は見てみたい。この私を超える程の実力があるか、真正面から立ち向かってきたまえ!!」
「望む所ですよ……!」
「さて、現在若干君が有利……ストラキアは残念ながら君のポケモンの実力を引き出すには至らなかった様だ。それでも、次の相手は大分違うぞ。掃討せよ、ギャンガ!!」
 リュウジが投げたボールから出てきたのは、甲殻類の様な堅い鱗に包まれた、いかにも堅そうなポケモンだった。紅蓮の殻を纏ったその姿は、まるで立ち上がった戦車の様である。
『小僧……どうやらお前の足掻きもこれまでの様だな……』
 (全身から炎が噴き出ている……僕と同じタイプ、炎を持っているな……!)
「待っててコセイリン、今調べるから……」
 ユキナリは再びポケギアの図鑑項目を開き、ギャンガの能力を確認した。
『ギャンガ・しゃくどうポケモン……生まれたばかりのギャンガは海老程の小ささしか無いが、脱皮と戦闘経験を積んでいく事で最終的には体長5m以上の巨体を得る。
 鎧は傷を受ければ受ける程堅くなり、ギャンガの強さはますます強大なものへと変化していく。体内の血はマントルの流れと同じ様な強烈な熱を持ち、あらゆる植物を枯渇させる』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・強烈赤銅……ギャンガがフィールド上にいる間は、フィールドの状態が『ひでり』状態になる』
 (ひでり……炎ポケモンの攻撃力をアップさせる特技だ!だが、ギャンガはほのお・ドラゴンタイプだろう。コセイリンの炎がアップしても、4倍防御を持つギャンガには効かない!しかも……)
 ユキナリの危惧は当たっていた。ギャンガのタイプは凶悪なもので、こおりタイプも効果抜群とはならない。つまり、コセイリンとギャンガが戦うのはまるきり無駄だと言う事になる。
 (交代させよう。ストラキアの特殊能力は消えている……じゃあ誰に?)
 (やはり、交代させるか……私にも解っていたよ。君は無駄な戦いを強行する様な愚かなトレーナーでは無い……引き際を心得る事もまた、最強の道へ近付く為の力となる……)
「僕は……ルンパッパと交代させます!!」
 ユキナリは高々と宣言し、疲れているコセイリンをボールに戻すと、ルンパッパが入っているボールをフィールドへと投げ入れた。出現したルンパッパも、ギャンガと比べればかなり小さい。

 (勿論、ドラゴンタイプを併せ持つギャンガには水が普通に効くけど、ひでりの効果によって威力はさらに弱まる……後々、他の切り札を出す為には、踏ん張ってもらうしか無いんだ!)
『暑いワイ……こりゃ、どうなってるんじゃろウ』
『グフフフ……小僧の後に続くは老兵か。つくづく仲間に恵まれておらんらしい……』
 (ルンパッパの攻撃力で無理やりHPを削り、コセイリンでとどめを刺そうと言う腹か……どうやら先程から見ていた戦いで登場した、他のポケモンをとっておきたいらしいな……)
「ルンパッパ、でんきもほのおもくさも効きにくい。だが水ならギャンガには普通に通じる!ひでりの効果で向こうの攻撃力は増し、こちらは下がるが……アウェーで戦い抜いてくれ!!」
『マスター、心配するでない……我輩はマスターの心を解っておる。不利な戦いでも後に有利となればこそ。他の仲間の為に道を切り開かなければな……』
『ココで貴様と小僧を葬り、大きく差を付けてやるわ……さすればマスター、貴殿の勝ちも確固たるものとなり、俺の力を世界中に誇示出来るチャンスともなる……』
「侮るな。相手は百戦錬磨の兵だ……今まで一度も負けた事が無い白星一徹のトレーナーだよ。運だけでは無い。私自身実力は充分に感じている……彼は強く、そして仲間もまた強い」
『ならば、それを向こうに示してもらおうか……』
 ギャンガはそう言い放つと、地響きを立てながらルンパッパに向かって歩き始めた。
 ギャンガの得意としている炎攻撃は強烈赤銅の特殊能力により攻撃力が1.5倍に跳ね上がり、さらに水タイプこそ普通に効くものの特殊能力は水タイプの攻撃力を下げてしまっている。
「ルンパッパ、ハイドロポンプだ!攻撃を連続で出して、隙を与えずダメージを加え続けろ!!」
『大きな的には、必ず当たるゾイ!』
 ルンパッパは流れ出す汗を気にせず、口からハイドロポンプを繰り出した。ギャンガの顔面に命中する。
『クハハハ、考えたな。確かに口から出る攻撃を防ぐには口を攻撃するのが手っ取り早い……』
 だがそれが何だと言わんばかりに、ギャンガはカッと口を開いた。
『その程度の水、我が焦熱の煉獄火炎で砕いてくれるわ!!』
 それは赤と言うより白に近い強烈な炎だった。口から吐き出された巨大なエネルギーを持つ炎は顔に向かって発射されているハイドロポンプを一瞬で蒸発させ、逆にルンパッパ目掛けて飛んでいく。
『クオッ!!』
 渾身の横っ飛びでそれを回避すると、床に炎が撒き散らされ、一瞬赤く滾り、また元の床の色へと戻った。
「最新鋭の設備を取り入れているリーグ対戦室では、床や壁の耐火対策もバッチリさ」
『よく避けたな。だが、無様な姿で床に転がっていては、再び逃げる事は出来まい。さあ、もう一度受けてみよ!!』
 再びカッと口を開き、炎を吐き出すギャンガ。床から黒煙が噴き上げ、辺りが一瞬闇に包まれる。
「ゲホッゲホッ……うう、ドラゴンタイプのポケモンは皆こんな感じなのか……」
 激しく咳き込むユキナリ。瞳を閉じ、口を押さえて煙が消えるまで耐える。
『きっ、貴様!?』
『まさか巨大な甲殻類に乗る事が出来るとは思わんかったゾ!ゼロ距離では避けられんじゃろう?』
 水の音。煙が消えていく……ユキナリは目を開き、目の前の光景を凝視した。
「ギャンガ、即座に叩き落せ!!」
『マスター、言う通りにしたいのだが……必死に踏ん張ってくる!!』
 先程の黒煙の中、炎から逃れたルンパッパはギャンガの背中に乗っていたのだ。ロデオ感覚で相手に跨り、振り落とされない様にしがみつきながら攻撃を続けている。
「良いぞルンパッパ!そのままハイドロポンプを続けるんだ!確実に相手は弱ってきている!」
『馬鹿な!我よりも遥かに格下の相手に……こんなハズは無い!!有り得ぬのだ!!』
 力一杯ギャンガは首を振るが、首に捕まったまま身体に水が容赦無く当たり続けていく。
『ハァ……ハァ……くそ……』
 ポケギアを見ると、ギャンガの体力はレットゾーン手前にまで迫ってきていた。
 (やはり、今までの戦いで見れば……長期戦に秀でたルンパッパが最終的には勝つ!!)
『駄目だ。ただ振り落とそうとするだけでは……こうなればッ!!』
 ギャンガは突如その巨体を宙に浮かせた。不意を突かれたルンパッパは振り解かれて落ちてしまう。
『よくも我を追い詰めおって……消え失せろ!!』
 再び口を開く!そう思ったルンパッパはハイドロポンプを繰り出したが……違った。それを見越していたギャンガが一気に全体重を乗せたプレスを行ってきたのである。
 ルンパッパよりも遥かに巨大な相手の一撃に、体中の骨が砕けた様な気がした。そのままギャンガは巨大な爪で相手を切り裂く。
「ルンパッパ、戦闘不能って所かな」
 (……駄目だったか……それでもギャンガの体力は大きく減った。今度はコセイリンだな……)
『マスター、面目次第もございませぬ。雑魚に梃子摺らされてしまっては……』
「いや、ルンパッパは必死に頑張っただけだよ。ギャンガ、お前が油断していただけに過ぎない……勿論、トレーナーとポケモンの絆の深さもあるだろうけどね。私も正直驚いているよ」
 (ルンパッパ、最終決戦に向けてゆっくり休んでくれ。後で必ず回復させる)
 ユキナリはルンパッパをボールに戻し、今度はコセイリンの入ったボールを取り出した。
 (解ってる……でも、君の頑張りが必要なんだ。堪えてくれ、コセイリン!!)
 床に投げられたボールから、コセイリンが姿を現した。傷は完全には癒えておらず、青い血が身体から少量流れてきている。肩で息をしている所を見ると、やはり半分のダメージは大きかった様だ。
『小僧!!満身創痍の状態で我に挑むか、舐められたものだ!!』
『……そういう貴方も、体力を半分以上も削られているじゃないですか。誰にやられたんですか?』
「挑発に乗るなギャンガ……速やかにただ、与えられた任務を遂行するだけで構わない」
『クフフ……炎タイプの攻撃等、我にとっては蚊が止まった程のダメージにしかならんわ……』
 確かにギャンガは炎に対してクォーターの耐性を持っている。しかし、ひでりの効果を受けないのが氷タイプであり、しかもギャンガはその攻撃を普通に受けてしまうのだ。
『小僧、貴様如きこの炎で軽く屠ってくれる!』
 再び、戦闘が始まった。ギャンガの炎を避け、吹雪を発動させるコセイリン。しかしギャンガは宙に浮いてそれを避けると、今度はエメラルドグリーンに光るりゅうのいぶきを吹いてきた。
 (攻撃が一点集中型で、スピードが速い。ご丁寧に攻撃方法を変えてきたってワケか……)
 それを祓うかの様に、コセイリンはせいなるほのおを用い攻撃を相殺させた。緑色の炎と青色の炎がぶつかり合い爆発する。ギャンガはニヤリと笑うと、今度は積極的に前へ飛び出してきた。
『くらえッ!!』
 (馬鹿な、速い……!)
 一気に距離を詰められて狼狽し、焦ったコセイリンは慌ててバックステップを取ろうとしたが、その前に爪がコセイリンの腹を貫いた。口から青い血が吐き出される。
『ドラゴンクローも避けきれんとはな。終わりだ……』
『いえ……逆に……お礼を言わなくちゃいけませんよ……願っても無いチャンスが来たんですから……』
『まさか……貴様ッ!!』
 意識が朦朧とする中、最後の力を振り絞って吹雪を発動させるコセイリン。相手は目の前にいるのだ。避けられるハズも無く、ギャンガは凍り付いた。
 執念の攻撃がギャンガを倒すに至ったのである。
『繋ぎましたよ……ユキナリ……さん……』
 コセイリンは爪を無理やり引き抜くと、自分の血に塗れながら倒れ込んだ。周囲が青色に染まる。
 (相討ちか……やはり見くびっていた所があったのは否めないな……この強さ。劣勢でも決して揺るがぬマスターへの忠誠心……私を大きく上回っている。だが、白星は渡せない!!)
「有難うルンパッパ……コセイリン。ギャンガを倒したのは君達の力だ。絶対に、皆の力であの扉の向こうに行こう!背負った思いを1つにして!!」
 コセイリンをボールに戻すと、ユキナリはリュウジをキッと見据えた。その瞳にもう迷いは見えない。
「チルタリス、ストラキア、ギャンガ……3匹の猛者が倒れた。戦いが中盤戦に差し掛かっている事を承知していると思うが、未だ両者の力は拮抗している。面白くなってきたよ……」
 ゴーグルの奥の瞳は見えず、彼の真意は掴めなかった。ただ、純粋に楽しんでいる。この戦いを自分の中で最高の試合にしたいと言う事は自然と伝わってくる。
 マントをはためかせ、自分を見下ろしているリュウジを見ていると、ユキナリは彼が見果てぬ高みに立っている事を嫌でも思い知らされる。勿論、それを越えなければならない事も理解していた。
「次はコイツだ。ナイトロウ、殺戮せよ!!」
 リュウジが投げたエメラルド色のボールから、今度は紫色の巨大な竜が出現した。
『さて……数多の兵と戦ってきたお前の相棒を見せてもらおうか……』
 見る者に恐怖を与える残忍そうな顔。長く伸びた爪はまるで1つ1つが剣の様に研磨されていた。時折開いた口から出てくる黒紫色の炎が、ナイトロウの併せ持つタイプを示している。
 (とにかく、相手を知る事から始めないと……)
 ユキナリはポケギアの図鑑でナイトロウの詳細を見た。
『ナイトロウ・しにがみポケモン……神話に登場する悪魔の姿に酷似している為、太古の昔から魂を取るポケモンであると恐れられてきた。
 鋭い爪は状況に応じて伸び縮みさせる事が可能であり、漆黒の翼を使い空中に舞い上がると、そのまま爪で相手を捕縛し、地面に叩き付けて息の根を止める。バトルでも扱いが非常に難しい』
 (特殊能力は?)
『特殊能力・強烈深閻……ナイトロウがフィールドにいる時、ノーマルタイプの技は一切使えない』
 (ノーマルタイプの技が使えるのはヤナギレイだけだし、大した特殊能力じゃ無いな……ただし、相手のステータスの高さに問題がありそうだ。弱点を突いていかないと難しいかもしれない……)
「ナイトロウはゴースト・ドラゴンと言う組み合わせ。攻撃力と素早さに特化している。弱点があるとするならばやはり防御力だな。大体、素早さを持つポケモンは防御力が低いからね」
 同じ土俵で戦うならば、丁度良いポケモンがいた。早速、ユキナリはボールを投げてそれを呼び出す。
『シャ、シャ、シャ……おうおう、随分強面の顔してんじゃねえか。そいつは自信って奴か?』
『愚かな。地べたを無様に這いずり回る蛇如きに我が負けると思ったか……』
 ガシャークは攻撃力・素早さ共に秀でており、実際の所ステータスは同じ程だった。あくタイプの『かみくだく』を覚えている為、ゴーストを持つナイトロウには効果抜群となる。
 ドラゴンの弱点は、比較的マイナーなタイプに対する耐性が無い事だ。
 毒タイプはその全体的なステータスの低さから敬遠されがちだが、実際に戦ってみれば相手をじわじわと追い詰めていける数々の技を備えている事に気付くだろう。
 (成程、悪くは無いな……的が小さければ当然、命中率も低くなる。かみくだくのダメージも受ければ半端なものでは済まないだろう……何処まで魅せてくれるんだ?ユキナリ君……)
 リュウジは勝利に執着していたが、同時にこの幼い少年が持っている魂に強い興味を持ち始めていた。自分が幼かった頃、勝負には常に全力で挑んでいた……相性を考え、なりふり構わず攻め続けた。
 その自分が、今自分の目の前にいる。自分よりも遥かに強い心を持って。これは鏡を壊す戦い……
 (そうだ。私が、私を越える為の戦い……そして、トーホクの歴史に新たな頁を刻む為の戦いだからな!!)
「ナイトロウ、相手は空中には上がれない。空中戦に持ち込めば地の利はこちらにある!!」
『仰せの通りに、マスター……』
 空中に飛び上がったナイトロウは、そのまま先制攻撃とばかりに掌底からシャドーボールを打ち出してきた。
『危ねェッ!』
 ガシャークは慌てて前に飛び、被弾を免れた。巨大なシャドーボールが床に命中し、暗黒の煙を漂わせる。
『チッ……遠距離攻撃には自信が無ェが、相手がああ高い所にいるんじゃしゃあねェよな……』
 ガシャークが牙から精製される猛毒の熱液を発射するも、射程距離には届かず、避けられてしまう。
『我に勝てぬ理由は1つ。お前が飛べぬからだ。いかな兵であろうとも、近距離攻撃に秀でていてはな……』
「ガシャーク、耐え抜くんだ!相手がしびれを切らして近付いてくるまで耐えろ!!」
 ユキナリの命令にガシャークは頷くと、次々に繰り出されるシャドーボールを避け始めた。
 高い所から打ち出すシャドーボールには攻撃されないメリットこそあるものの、着弾が遅い為、軌道を読まれ易いと言うデメリットもあるのだ。だんだんナイトロウもイライラしてきた。
『クッ……何故だ!何故あんな蛇如きに我の攻撃がことごとく避けられている!こうなれば……』
 ナイトロウは手を大きく広げると、手を思いっきり叩き指先から暗黒のオーラを出現させる。
『我が暗黒の波動を受けるが良い!!』
 襲い掛かるオーラを横っ飛びで回避するガシャーク。しかし追尾性能があった『じゃあくなはどう』を避け切る事が出来ずに、ガシャークは捕まってしまう。
 闇のオーラがガシャークを包み込んでその身体を蝕んでいった。
『このまま、床に叩き付けてやろう!』
 ナイトロウはオーラごとガシャークを空中に持ち上げると、そのまま手を下に振って床でオーラを爆発させる。
『フ……フハハハハハ……!?き、消えたッ!?』
 高笑いから一転、ナイトロウの体が固まった。爆発に巻き込まれて倒れているハズのガシャークの姿が見当たらない。
『テメエの……背中だッ!!』
 瞬間、毒の楔を打ち込まれ、ナイトロウの体内に猛毒が注ぎ込まれる。激痛に悲鳴を上げ、再び動きが固まった所でナイトロウは爪を身体に食い込ませ、『かみくだく』を行った。そのダメージは凄まじい。
『グアアアアッ、貴様ァ!!』
『本音を出しやがったな。解るぜ、テメェの意識が恐怖に傾き始めてるのがハッキリと……解る!!』
 もう1度、ガシャークはかみくだくを実行し、ナイトロウは猛毒状態でレッドゾーンと言う窮地に追い込まれた。
 (オーラが床にぶつかる為に落ちる瞬間、逆の方向に飛び出したのか……空中のナイトロウにしがみつけるとは並の反射神経では無い……面白い。君のポケモンは実に面白いよ!こちらを飽きさせない!!)
 必死に振り解こうとナイトロウがもがくものの、もがけばもがく程爪は深く刺さり、体力が低下していく。
『こうなれば……我の闇のオーラ全てを我が体内で解き放ち、貴様を道連れにするのみだ!!』
 ナイトロウの紫色の瞳が赤く変わり、体から黒のオーラが噴出される。逆にガシャークはその攻撃から逃げられなくなった。
 攻撃あるのみともう1度かみくだくを使おうとした瞬間、オーラがガシャークを襲う。
『グッ……クソ野郎―――ッ!!』
『その力は賞賛に値する……だが、結局は蛇!我を一方的に葬る事は出来んのだ!!』
 しかし、猛毒状態はナイトロウのHPをチマチマと削り、HPをゼロにした。その瞬間ナイトロウのオーラも消え、ナイトロウはガシャークを下にして床に落下していく。
 ガシャークは押し潰されて床に思いっきり叩き付けられた。寸前で持ち堪えたのか、這い出てくる。
『畜生、最後までコイツのペースにされちまった。何て奴だ……』
 ナイトロウを倒したものの、ガシャークのHPも風前の灯火だった。次のポケモンを倒せる様な余力は殆ど残っていないだろう。ユキナリは改めて、リュウジの使う竜の恐ろしさを思い知った。
「あと2体……この戦いが終わった時、君と私の道が決まる!退くか、進むか……2つに1つだ。他の選択肢は残されていない!!ここまで来た君の為に、私のとっておきを披露してあげよう!!」
 リュウジはナイトロウをボールに戻すと、再びエメラルド色のボールを床に投げた。閃光と共に、巨大な体躯の竜が姿を現す。その姿はまさに『正統派』の貫禄を見せ付けていた。
『グオオオオオオ!!さあ、俺と戦う奴は誰だァ!!!』
 部屋中に響き渡る咆哮。耳にビリビリと響く程の巨大な吼え声に、思わずユキナリは耳を塞ぐ。
『お、俺だ……デケェ声出しやがって、イライラさせんなよ……』
『フン。お前が俺を倒せるだと?傷だらけの身体でよく吼えれたモンだ……』
「私の切り札の1枚をココにお見せしよう。全ての竜の頂点に立つボーマンダだ!!」
 (ボ、ボーマンダ!!その破壊力は軽くカイリューをも凌ぐと言われている最強の竜……確かにリュウジさんが切り札と言うだけはある!勿論、真打では無い所が恐ろしいけど)
 ユキナリはポケギアでボーマンダの図鑑項目を開いた。
『ボーマンダ・ドラゴンポケモン……タツベイ・コモルー・ボーマンダと言う過程を経て頭突きによる破壊力、殻に包む事で防御力、覚醒による翼で機動力を得る。
 破壊の炎で自由気侭に暴れ回り、古代の民達を大いに震え上がらせた。神話の中では破壊神として度々壁画に登場している』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・強烈威嚇……自分が出現したターンのみ発動。相手の防御力を2段階下げてしまう』
 (ガシャークが助かっていて救われたな……満身創痍のガシャークの防御力が下がろうとも、次のポケモンはその特殊能力の影響を受けずに済むんだから……)
「君がボーマンダと戦わせる相手が楽しみだよ。さあボーマンダ、殲滅せよ!!」
『グルルル……お前はもうまともに戦える状態じゃねえ。サッサと交代するんだな』
『言わせておけば……調子に乗りやがって!!』
 渾身の力を振り絞って何とか飛び掛ろうとしたガシャークだったが、咆哮によって防御力を下げられ、その気迫に押された為かガクッと倒れてしまった。その顔には諦めとも取れる涙が流れている。
 (畜生……畜生!!戦えねェワケじゃ無ェのに……心が折れちまって身体が震えてやがる……)
『コレが、俺の力だ!!』
 蟻を潰す様にボーマンダが手でガシャークを弾くと、あっさりと壁に当たってHPがゼロになった。
「リュウジさん……今貴方のポケモンの強さを見て、正直動揺しています……勝てる相手じゃ無いかもしれない……だけど、僕は最後まで諦めません!!
 僕と同じ様に諦めなかった人達の思いを背負ってココに辿り着いたんですから!!」
「私の生涯においても、ワタルさんと激突したあの戦いに匹敵する、最高の試合になっているよ!私は見たい。
 君の魂の強さをじっくりと味わい、そして最後には私の力で屈服させてみせる!!君が如何に強くなろうとも、まだ頂上には遠い事を知りたまえ!」
 ユキナリはガシャークをボールに戻すと、再び別のボールを取り出し、フィールドに投げ入れた。眩い閃光と共にフライゴンが出現する。ボーマンダはフライゴンの姿を認めると唇の端を吊り上げた。
『グフフフ……フライゴンとは驚いたな。小僧如きが竜を操れる等予想外だったが……俺に匹敵する力を持てる相手は竜しか存在しない。正解と言っておこうか……』
『貴様には解らんだろう……私が彼に忠誠を誓っている理由が。子供と言えどその志は貴様のマスターと同じ遥かな高みを目指すものだ……私もまた勝たなければならない!』
 (フライゴンはボーマンダに対してダメージを与えられるが……勿論ボーマンダだってそうだ。ドラゴンタイプの相手ならば同士で効果抜群のダメージとなる。これはもう先に動いた方の勝ちだな……)
 ユキナリもリュウジも、互いのポケモンを見て壮絶な殴り合いを覚悟していた。肉弾戦でHPを出来るだけ多く、与えていった方が勝ちとなる。
 実力は五分五分で、両者のステータスにそれ程の違いは見当たらない。
「命の削り合いと言った所かな。私もフライゴンが出てきた時覚悟はしていたが……結論としては同じ事。醜い争いになろうとも勝てば官軍。攻め続けるのみ!!ボーマンダ、ドラゴンクローだ!!」
 素早く動き、ドラゴンクローをフライゴンの腹に見舞うボーマンダ。ダメージを受けてフライゴンは一歩退がった。ボーマンダはさらに一歩踏み出し、強烈な一撃を見舞おうとしてくる。
 フライゴンは身を屈めてタックルし、ボーマンダを押さえ付けマウントポジションを取るとダメージを返した。
『グウウッ!!』
『勝負はまだこれからだ!!』
 ボーマンダは不利な状況を打開する為、即座に火炎放射を放ちフライゴンを一瞬怯ませた。ダメージの事等考えてはいない。ただこの刹那、逃げる事だけを考えた攻撃だ。
『クッ……』
 顔を背けた瞬間、ボーマンダはニヤリと笑ってフライゴンの腹に再び爪を立て、思いっきり引っ掻く。
『ウオオオオオッ!!』
 激昂したフライゴンはまたボーマンダの腹を抉る様に引っ掻いた。両者は一歩も退いていない。

『グ……グルルルル……楽しいじゃねえか……なあ?』
『思ったよりもやるな。見直したぞ。敵ながら天晴れと言った所だ……』
 数分後、両者のダメージは同じくレッドゾーンに突入していた。激しい傷の付け合いはどちらも退かず離れずの猛攻で、ボロボロになりながらも自分が生き残るチャンスを伺っている。
 (次の1発で決まるか……コレは相討ちだな……)
 (仕方あるまい。両者倒れるは自明の理。最後の戦いに全てを委ねるしか無いだろう)
『ガアアアアアッ!!』
『うおおおおお―――ッ!!』
 両者の攻撃はカウンターを兼ねた同時攻撃となり、凄まじいダメージを受けた両者はその場に崩れ落ちて動かなくなった。沢山の傷が両者の戦いの苛烈さをよく表している。
 (有難う、フライゴン……最後の戦いはもうすぐ始まる。見ていてくれ……絶対にリュウジさんに勝ってみせる。僕は、あの扉の向こうへ行く!!)
「いよいよ最後か……嬉しいよ。君と言うトレーナーと最高の試合が楽しめた事を私は誇りに思っている。しかし、最後に笑うのはこの私だ!繚乱せよ、エルシール!!」
 トレーナー2人が互いのポケモンをしまい、そして同時にフィールドに登場させた。残るはリュウジの切り札の為に用意していたエビワラー。そして相手は……
 最後を象徴するかの様な、エメラルド色に輝く美しい氷の竜であった。

「おいおいおい……あれがユキナリが挑む最後の相手かよ」
「エルシール……初めて見た。ボーマンダによって全滅させられた俺はアレと相手する事も無かったワケだが……やはり、格が違うと言う事か……」
 リーグの応援席では、沢山のサポーターに紛れて戦いを見守る、3人の姿があった。
「こおりとドラゴンって……反則だよ。ドラゴンとしての弱点は無効化だ……4倍ダメージを受ける事も無い。ユキナリ君、勝てるのかな……」
「いや、誰でも解る。だからこそユキナリはエビワラーを残しておいたんだ。こおり・ドラゴンと言う鉄壁の防御を崩すには格闘タイプで砕くのが手っ取り早いからな」
「何にせよ、リュウジとの対決はこの戦いで終わりだ。俺はユキナリが勝つと信じてるし、実際そうだろうよ。もう、届かねェ……あいつの領域には踏み込めなくなっちまった」
 トサカは俯くと、自嘲気味に笑った。完敗だった。自分を最強だと誇っていた暴走族のリーダーはもうココにはいない。
 敗北を知り、己の実力を悟った男が自分の弱さを嘆いているだけである。ユウスケもホクオウも同じ様なものだった。
 彼1人に、自分の叶わなかった夢を託している……彼が最後の希望であった。トーホクのトレーナー達の期待を背負っている。
『私も始めて見ました……変種ポケモン最強格の竜、エルシールを出してくるなんて、やはり四天王筆頭も後が無くなって、形振り構わなくなったと言う事でしょうか?』
『ウーム……ステータスにおいては他の追随を許さない程デスが、どんなポケモンも弱点を突かれてしまえば脆いモノでス。特に氷ポケモンを持っている事が裏目に出ましたネ』
『それでは、ユキナリ君に勝機があると見て宜しいのでしょうか?』
『私は信じマス。彼の心の強さに賭けているんデスから』

『さて……貴方が私の対戦相手ですか。せいぜい頑張って、結果を見せてくださいね……』
 (コイツ……何なんだこの凄まじいまでの威厳と自信は!膝が、震えてやがる……)
 フー、フーと時折氷の吐息を吐きながら微笑む紳士の様な態度が逆に、底知れぬ力の差を見せ付けている様であった。エビワラーは必死に首を振り、考えを改める。
 (いや、俺が勝つんだ!ココで勝たなきゃ……この旅をしてきた意味が消えて無くなる!!)
 (やはり動揺しているか、エビワラー……僕もだよ。正直震えてる……こんなポケモンが存在していたとは驚きだ。だけど、弱点を突けさえすれば勝機は必ずある。ココが踏ん張り所なんだ!)
「エルシールは神と崇められた竜達の中でも特に特別な存在……竜を束ねる無敵の戦士さ。吐く氷は一瞬にして植物を凍らせ、身体は氷の様に固く鋭く、殴った相手にダメージを与える……」
 ユキナリはポケギアでエルシールの情報を確認した。
『エルシール・とうけつポケモン……オーロラが見える程の極寒の地域に生息し、霞を食べて生きている伝説の竜とされている。
 他のポケモンを捕食する際に凍結させ、保存状態を良くさせ出来るだけ自らの食料を長く保存すると言う知能の高さも見せる。
 滅多に人前には姿を現さず、余程のトレーナーで無い限り捕まっても絶対服従をする事は無い』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・強烈雪崩……エルシールがフィールドに存在する限り、ずっと『あられ』状態となる』
 (天候『霰』……ポケモンがこおり・はがねタイプを持っていなければダメージを受けてしまう特殊状態の事か……
 バンギラス戦でも同じ様な事があったが、相手の強さによりもっと効果が増してしまう……)
「泣くも笑うもコレで終わりだ。君のポケモンの心技体が試される。敵を圧倒する攻撃力。自己を律する精神力。そして、攻撃を軽減させる防御力……全ての心技体が完璧で無ければ、私のエルシールには勝てない!」
『そういう事です。私のマスターは百戦錬磨の兵……そうで無ければ私自らも彼をマスターとは認めませんでしたよ。さあ、最終決戦と行きましょうか。そこの小さな対戦相手さん』
『マスター、最初から全力で飛ばしますよ。後の事は後で考えりゃ良い。今は、この生意気な緑色の竜を倒すだけ……そうでしょう?』
「解ってる……それだけだ。解ってくれているなら、敢えて僕から言う事は無いよ」
『なら、俺も飛ばすだけです!!』
 その瞬間、エビワラーは床を蹴って大きく飛び上がり、エルシールの顔面に拳を当てていた。
『グッ!?』
 1発の力が恐ろしい。それがエビワラーの長所だった。逆に言えば、その1発の攻撃の回避が比較的容易な為、攻め込まれやすいと言った短所でもあるのだが。
 床に無様な格好で倒れ込んだエルシールは慌てて起き上がると、れいとうビームを放った。それを素早く避けると、今度はエルシールの腹にハイキックを叩き込む。
『馬鹿なッ……』
 倒れ込んだ所に追い討ちをかけようとした所で、尻尾がエビワラーの足を弾き、エビワラーは前のめりになって倒れ込んだ。エルシールは足でエビワラーを押さえ付ける。
『ハッ……ハハッ……こ、こうなってしまってはもうどうする事も出来ないでしょう!今度こそれいとうビームで凍り付いてもらいますよ!!』
 カッと口を開いた瞬間、地震が発動し、エルシールは僅かによろめいた。そのチャンスを見逃さず、エビワラーは足から抜け出すと再びエルシールを殴って壁に激突させた。破壊力が格段に向上している。
『暖かくなってきた……本番はこれからだ!!』
『グウウ……私が、こんなチビに負けるハズは無い……何かの間違いだ……そうに決まっている―――ッ!!』
 エルシールは咆哮すると、カッと口を開いた。
 (出るか……破壊光線!!)

夜月光介 ( 2011/08/16(火) 21:21 )