第1章 5話 『繋がる心・受け継ぐ意志』
「フタバ博士!」
『ユキナリ君、どうしたの?何かあったのかしら」
「あ、はい……実は……」
ユウスケが小屋にいない為、ユキナリはポケギアでフタバ博士と話していた。ポケギアの向こうの声は何時もより険しい。
『貴方の捕まえたポケモンが……自分のいた場所に帰りたいと言っているのね?』
「はい、そうなんです。泣いてばかりいます……」
『不思議ね。捕まったポケモンが自我を持つなんて』
「え?」
『ポケモンはね、ボールで捕獲されると自我を失ってしまうの。野生の頃の記憶を断ち切り、知能が与えられるわ。
命令に服従する能力。トレーナーと信頼を築く為の友情とかがそうなの……稀なケースだけど、記憶を失わせる時のミスで野生の頃の記憶が残っている事があるのよね。
私が聞くのは初めてだけれど……』
「記憶の削除、ですか……?」
ユキナリは言葉を失った。
『そうでないと、トレーナーとポケモンとの関係が作れないでしょう?私も良い事だとは思わない。でもこの世界では、それがごく当たり前の事なのよ……』
「そんな、そんな仕掛けがあったなんて!」
『私達はポケモンを捕獲する事によって、初めてポケギアで意志の疎通を図る事が出来るわ。野生のポケモンとは、コミニケーションが取れないのよ』
「……僕はどうしたらいいんでしょうか……」
『貴方が決めなさい。センターに持っていって記憶を改めて削除してもらうか。それとも野生に返すか……
私は、後者を薦めるわ……じゃあね、ユキナリ君』
「有難うございました……」
(僕は、どうしてポケモントレーナーになったんだろう・・・)
今まで気にもしていなかった当たり前の事が大きな疑問となって目の前に立ちふさがった。
「ポケモンは、自我を奪われて、知能を与えられる……今までの記憶と引き換えに人間との生活を営む……正しい事なんだろうか?僕には解らない……」
この世界ではポケモンの無い暮らしなど考えられない。寝たきりの老人の安らぎとなっているポケモン。
建設現場で頑張っているポケモン。友達として遊んでいるポケモン……全てが悪だとは思わない。
「でも、僕が今すべき事……この選択で、僕のトレーナーとしての資質が試される様な気がする」
ハスボーを自然に帰してあげる。それが、ポケモンを愛している者がとるべき行動なのでは無いだろうか。
(ポケモンは物なんかじゃ無い。僕の……仲間、友達・・・パートナーなんだから!)
『おうちに帰りたいよぉ……』
「大丈夫だよ、君がいた林に明日、帰してあげるから」
『父さんと母さんに会えるの……?』
「勿論……君が探すんだ。きっと見つかるよ。僕は君を苦しめたりなんかしない。約束する」
『あ……アナタの名前は?』
「ユキナリ。ポケモントレーナーなんだ」
『ポケモン、トレーナー……』
ユキナリはハスボーをボールの中に入れると、再びベットの上に倒れこんだ。
「僕は、本当に正しい事をしているのだろうか……この旅は本当に僕を正しい道へ導いてくれるのか?」
悩みは終わる事無く、ユキナリが目を閉じて眠りに落ちる時まで続いていた。
次の日の朝……ユキナリは目を覚ました。昨日から何も食べていないせいだろうか、力が出ない。
無理やり身体を起こすと、辺りを見回した。ユウスケの姿が見えない。しかし、ベットの跡からユキナリの隣で寝ていた事が解った。もう起きたのだろうか。
「はぁ……」
(ジムへ行こう。とにかく何か食べなくちゃ……)
重い足を引き摺って、ユキナリはジムに向かった。ゲンタとユウスケはジムにいるのだろう。
(何か食べたら、話をしなきゃ……大切な話を)
ジムの玄関口に回ると、扉は開いていた。開けると、眩い程に輝く白い大理石の床と壁がユキナリを出迎える。
「白……ノーマルの象徴なんだ……」
外は勿論雪が降っている。その白ともあいまって、とても美麗な光景を形作っていた。
ユキナリは肩や帽子についた粉雪を払うと、2人がいるであろうジムの奥に進む。
白い床をしばらく歩くと、回廊が見えてきた。一本道をさらに進むと真っ白なドアが。
金色に輝くノブを開けると、そこはジムリーダーがトレーナーと戦う為のバトルフィールドだった。
「あ、ユキナリ君!」
カップラーメンをすすっているゲンタの隣で同じくカップラーメンを食べていたユウスケが声をかけてきた。
隅に座ってずっとゲンタと話していたらしい。
「アンタの分も用意しておいたよ。オイラは自分の分だから、気にしないでよ。喧嘩になっても困るしさ」
「うん……」
湯気が立ち上っているカップラーメン。中に半分入っていたフォークでもそもそと食べ始める。
「それで、しばらくここにいるんだろ?ポケモンを育てないとオイラとの挑戦は難しいしね」
こことは勿論コヤマタウンの事だろう。しかし……ユキナリにはやらなければならない事があった。
「ユキナリ君、どうしたの?顔色悪いよ?」
心配そうにユウスケが聞いてくる。
「大丈夫だよ……後で君とゲンタに話があるんだ。もう一度、始まりの森に戻らないとダメだと思う」
「え?だって一応ポケモンは3匹揃ったんじゃ……」
「ゴメン、今は食べさせて」
ユキナリは重い口調でそう喋ると、スープをすすった。
「ん?オイラに話?どうしたのさ。別に何かあったワケじゃ無いんだろ?」
しかし深刻な表情をしているユキナリの顔を見ると流石に何かあったのだろうと思い、口篭もる。
「僕が捕まえたハスボーが、林に帰りたいって言ってるんだ……帰してこようと思う」
「ユキナリ君、それポケモンがそう言ったの?」
「うん……たまに記憶消去が失敗する事があって、それでこうやって訴えてくる事もあるんだって……
博士は、林に帰してきた方が良いって言うんだ。僕も……同じ気持ちだよ」
「そっか……オイラもついていきたいけど、ジムの留守番を頼む奴なんて誰もいないからさ。
ユウスケと2人で帰しに行けばいい。オイラは何時でも待ってるから……もう1度、捕まえればいいさ」
「ユウスケ、ついてきてくれる?」
「勿論だよ!ポケモンがそう言ってるのなら、僕だってそうする。でも……」
ユウスケは言葉を濁した。
「僕の捕まえたポケモン達も、そう思ってるかもしれないと思うと、哀しいな……友達になりたいだけなのに」
ユキナリの頭の片隅にもその思いがあった。
(コエン……本当に君は僕を信じてくれるの?僕と一緒にいる事が本当に良いと思っているの……?」
2人はカップの片づけをした後、始まりの森に向かった。とは言っても、まずは入り口でハスボーを解放してからの話だ。
地面を歩くと沢山の霜が割れる。ユキナリは曇り空を見上げた。
(ハスボー……僕は、出来る限りの事をするよ……ポケモントレーナーになったからには、ポケモンを思いやって、
ポケモンと一緒に成長していきたいと思ってる。ポケモンの願いも、かなえなくちゃ……)
「ユキナリ君、何時かきっとポケモンの記憶削除システムは廃止されるよ。僕達は本心でポケモンと話し合わなくちゃいけないんだ!」
ユキナリは頷いた。目をつぶったまま、しばらく考える。自分が今どうすべきかをもう1度、頭の中で反芻していた……
粉雪の降る中、ユキナリとユウスケは『始まりの森』の出口に辿り着いていた。ユキナリはボールを手に持つ。
(こんなに早くポケモンを逃がす機会があるとは思わなかったな……)
「ユキナリ君。僕達はポケモンと共に生きている。人間の勝手でポケモンは生きる動物じゃ無いんだ。応えてあげなきゃ……その気持ちに」
ユキナリはユウスケの言葉に胸を打たれた。そのままボールの『解除』ボタンに細い棒を入れる。
鈍い音がして、ボールから変種ハスボーが飛び出してきた。ハスボーはしばらくボンヤリしていたが、すぐに枯れ木の林の中に駆け込んで見えなくなってしまう。
(これで良かったんだ……これで……)
ユキナリは暗い表情で林の中を見つめていた。
「行こうか、ユウスケ」
「勿論だよ、もう1度やり直さなくちゃ」
再び、2人は林の中に入っていった。
意志の疎通は『ポケモンが捕まった後』にしか出来ない……それは大きな問題だった。ポケモンの本心を今まで誰も聞いた事が無い。
だからこそ皆、安心してポケモンを自分のペットや仲間にしていられたのかもしれない……しかし、ユキナリには納得出来なかった。
納得出来ないにも関わらず、トレーナーとしてまたもや野生のポケモンを探している自分が情けなかった。
「元気出そうよ、ハスボーはちゃんと親を探して、今頃感動的な再会を果たし……」
「?ちょっと待って、ユウスケ……あれ!」
「!!……」
林の中で死んでいる2匹のポケモンの姿があった。どちらも変種ハスボー。メスとオスが両方雪の中に倒れて動かなくなっている。
「もしかして、あの2匹は……」
(そんな事は、そんな事は絶対……!)
ユキナリは必死にそれを否定しようとした。どうやら風によって雪の中から顔を出したらしい。
昨日ユキナリ達はこの2匹がいる事に気付いていなかった。
変種ハスボーが走ってきた。ユキナリ達の目の前で2匹の死体を見つける。ハスボーは愕然とした表情をしていたが、そのまますぐに泣き崩れてしまっていた。
「そ、そんな……」
2人はなすすべもなく、雪の降る中立ち尽くす。何も出来ない自分達が心底情けなかった。言葉も出ない哀しみ。
親は……死んでしまっていた。
「ユキナリ君、あのハスボー……これからどうするんだろう。親が死んでしまったなんて……」
「僕にも……どうすればいいのか解らないよ……」
ハスボーは2人の存在に気付き、一旦は逃げようとした。しかし、ユキナリの顔を見るとそのまま近付いてきたのだ。
「……」
そしてユキナリの足にすりよってきた。涙を浮かべながら哀しい表情でユキナリとユウスケの顔を見つめている。
「僕と……一緒に行こうか?」
ユキナリはそう、呟いた。自分でも驚く程、擦れた声だった。
「ユキナリ君。ハスボー……それを望んでるみたいだよ」
ハスボーはハッキリと頷いていた。
「僕達は、選択を迫られてる……でも、僕が今しなきゃならない事は間違いなく、こういう事なんだと信じたい。
僕はハスボーの面倒を親に代わって見るよ……」
ユキナリは先程解除ボタンを押したばかりのボールを投げ、それはハスボーに当たった。ボールは少しも反応せず、すぐにボールの色が青色に変わる。
それは、ポケモンが全く抵抗せずに捕まったと言う事に違いなかった。
ユキナリは疲れていた。精神的にかなり参っている。頭の中がグルグル回る様な、不思議な感覚に支配されていた。
「ユキナリ君……」
「ジムに……戻ろう。とにかく今はそれ以外にする事は無いよ」
始まりの森を抜け、2人はコヤマタウンのジムに向かって歩いていた。
「ユキナリ君、あれは何だろう」
「ん?」
昨日は辺りが暗かったのでポケモンセンターとジム。それにベータショップしか確認出来なかったのだが、もう1つ大きな建物があった。
『マウンテンショップ・オイカゼ』
「自転車を扱ってるお店なのかな?」
「マウンテンバイクかな……ホラ、サーキットを走る為に使われる競技用とかの」
「ユキナリ君、行ってみようよ!」
「今はジムに……って、うわっ!」
ユウスケは面白そうにユキナリの手を引いて店の方に走る。
(寄り道するの……?)
そんな元気は無かったが、ユウスケの笑っている顔を見ると断るワケにはいかないだろうと思った。
「破産だ、破産!」
店長は悩んでいた。あと数日でこの店を畳まなくてはならない。
誇りにしていた素晴らしいマウンテンバイク達も、商品としてでは無く、借金のカタに取られてしまうのだ。
「イヤだ。この自転車は、走る為にあるんだ!この沢山の自転車をどうして闇金融なんかに手放さなくてはならない!
取られてしまう位なら、いっそ……」
経営悪化の時、悪魔の囁きに乗ってしまったのが破滅への始まりだった。
なんとか不況を乗り切り、金を返そうとしたがそのまま利子は雪だるま式に大きくなっていく。
そして、もうどうにもならない所まで追い詰められてしまったのだった。
「こんにちわー」
オイカゼは振り返る。店長以外の店員は全員夜逃げしてしまい、コヤマタウンの住民からも破産の事がばれて近寄ってもくれなくなってしまった。
(客か……客なのか……?)
「うわー、色んな自転車があるなあ……」
2人の子供が自転車に見に来てくれた。オイカゼは決心した。今しかチャンスは無い!
「やあ、坊や達。自転車は好きかい?」
「大好きだよ!走るととっても風が気持ちいいしね!でも……僕の自転車はずっと前壊れて捨てられちゃったんだ。」
エメラルドグリーンの髪色をしているメガネをかけた男の子。オイカゼは運命の出会いを感じた。
(この子達なら、きっと自転車を大切に使ってくれるに違いない!そうだ、もう2度と無いチャンスだぞ!!)
「実は……おじさんの店、破産寸前なんだ」
「ええ、そうなんですか!?」
帽子を被った男の子が驚いた。
「うん……おじさん、自転車は色んな所で走らせてこそ真価が出ると思ってる。私が大事に扱ってきた……そんな自転車達を埃まみれにはしたくない!」
オイカゼは2人にマウンテンバイクを見せた。
「ごらん、私が最も大切に保管してきた最高級のマウンテンバイク、『青空』だ。こっちは『緑芝』。この2台を、君達2人にあげたいんだよ!」
マウンテンバイクは輝く様な水色と、透き通る様な草の色の2台だった。どちらもピカピカに光っている。
「貰ってほしいんだ。おじさんはもうこの自転車の持ち主になれない。怖い人達が来る前に、この2台だけには逃げてもらいたいんだ。解るね?」
「凄い、2台合わせて100万円……!?」
帽子の男の子は息を呑んでいた。
「頼む、貰ってくれ!マウンテンショップの店長としての最後の頼みだ、どうかこの自転車を好きなだけ、色んな場所で走らせてやってくれ!」
土下座までして店長は彼等にお願いした。
「どうする、ユウスケ……」
「ユキナリ君、ここは貰っておいた方がいいんじゃないかな。僕達も得になるし、何より店長さんが頼んでいるんだから……」
数分後……ユキナリとユウスケは2台のマウンテンバイクを持って店を後にしていた。
成り行きで手に入れてしまったこの自転車、綺麗でかっこよくて、普通には絶対手に入らない品だろうと言う事は2人とも承知している。
とにかく、貰ったからには使わなければならない。それがユキナリとユウスケの結論だった。
ジムに戻ると、何やら奥から声が聞こえてくる。2人は貰った自転車をジムの壁に立てかけると、とにかく中に入ってみる事にした。
「誰か挑戦者が来てるのかな」
「ハッキリとは断定出来ないけどね……」
玄関を通ってバトル場の間の廊下を通る時、声は一層大きく聞こえてきた。どうやらゲンタの他にもう1人男がいるらしい。
(やるねアンタ、でももう後が無いんじゃない?)
(こんな所で……私は負けるワケにはいかないんだ!)
ユキナリは扉を開けた。
「うわ、ジムバトルしてるんだ……」
ユウスケは思わず立ちすくんでしまった。バトル場では2匹のポケモンが互いに睨みあっている。
1匹は巨大なネコの様なポケモン。もう1匹は星の様に光り輝いているポケモンだった。
「ユウスケ、あのポケモンは何て言うの?」
「こういう時の為にポケギアがあるんだよ」
「あ、そっか」
ユキナリはポケギアの図鑑説明を聞いてみる。
『カビゴン・1日の殆どを睡眠にまわし、時々起きては食べ物を貪り食うと言う不規則な生活を営んでいる。
太ってばかりでロクに動けないが、寝起きの悪さは天下一品。無理やり起こすと暴れまくる』
『ストーム・流星の様な光を放っている見た目にも大変美しく、珍しいポケモン。
全身が発光体になっており、その日の気分で体の色を自由に変える事が出来る』
「ひかりタイプ?」
ポケギアに表示されている『ひかり・いわタイプ』の文字にユキナリは首をかしげた。
「フタバ博士が最近発見した、新しいポケモンのタイプなんだ。あくとゴーストに強いんだって」
「へえ、あくとゴースト……」
「私は、勝たなければならない!あの方の為に力を尽くすと誓った。ここはあくまでも通過点にしか過ぎないのだ!」
「ここで負けてちゃ、他のジムリーダー全員に勝負したって負けるよ。オイラにだって誇りがあるんだ。易々と勝たせてあげるワケにはいかないね!」
ゲンタと戦っているのは、ボサボサの茶髪、閉じているとしか思えない程の細目をした男性だった。随分やつれている様だったが、その顔には決意が宿っている。
ユキナリはこの男に底知れぬ何かの力を感じた。
「この人、凄いオーラを出してる……!」
「ストーム、こうはだんだ!」
『OK、派手に決めるよ!』
ポケギアからどうやらストームの声を翻訳したものと思われる声が聞こえてくる。ユキナリは『コミュニケーション』に設定を切り替えていたのだ。
ストームはいきなり七色に光ると、大量の小さな光の粒をカビゴンに向けてばら撒いてきた。カビゴンは巨体なので動けず、そのままダメージを受けてしまう。
「カビゴン、そのまま眠るんだ!」
『ふわぁ……ああ……ZZZ……』
カビゴンは面倒くさそうに巨体を寝かせるとグーグー眠り始めた。
「対戦中なのに、寝てていいの?」
「ねむるには、体力を全回復する効果があるんだよ。カビゴンの恐ろしい所は、これだけじゃ無い……」
いきなりカビゴンは凄まじい鼾をかき始めた。思わず耳を塞ぐ2人。ゲンタは何時の間に用意していたのかヘッドホンを耳に装着している。
「し、しまった。鼾を使ってきたか!」
男性は歯をくいしばった。ストームは軽くではあるが、ダメージを受けている。このままではロクに攻撃も出来ないまま敗北してしまうだろう。
ただでさえ弱っていたストームにとってこれは命取りだった。
「くそ、もうあの技を使うしか無いのか……」
『そんな、僕も倒れちゃいますよ!』
「ストーム、引き分けは敗北にはならない。てんからのむかえを使うんだ!」
『は、ハイ……』
ストームはいきなり天高く舞い上がると、上空からカビゴンに向けて光を発射してきた。
「うわ、引き分けだ……てんからのむかえはひかりの技。相手のポケモンを戦闘不能にするんだけど、それを使ったポケモンも90%の確立で戦闘不能になる攻撃だよ」
「残りの10%は?」
「HPが1残る可能性があるって事」
『グウウウ・・・フガ・・・』
カビゴンは喉を押さえてうめいていたが、倒れこんだ。
「か、カビゴン!ボールに戻れ!」
「これで引き分けか・・・敗北よりは悪くない結果だ……」
男性は戦闘不能になり、そのまま落下してくるはずのストームを回復させようと、ボールを構えた。
しかし、ヨロヨロとストームは上から自力で降りてきたではないか!紙一重の勝利を獲得したのだ。
ゲンタは唖然として口を開けたままの状態になってしまっている。
「紙一重の勝利か……寧ろ有難い」
『マスター……勝ったんですよね?』
「ああ、勿論だ。ゆっくり休んでくれ。あのお方の為に、私とお前はさらなる勝利を掴まなければならないんだ」
ストームをボールに戻すと、彼は自嘲気味に微笑んだ。ユキナリとユウスケが彼に初めて出会った瞬間である……