ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第8章 2話『居場所を失った男 VSホウ』
 (素早さを上げる技を持っているだろうな……間違いなく。動きを封じて一気に決めないとヤバそうだ……)
「今となってみれば、お前の様な単純な馬鹿であった方が幸せだったかもしれんな……シオリを失っていなければ……だがそれが同時に大切な使命を私に与えてくれた……」
 セイヤのレディアンは激しく動き回っていた。元々の素早さもかなり高い様だ。油断は出来ない。
『某に勝ち、先に進もうと言うのならば……阻まねばならぬ!』
 バトル先攻を決めたのはガシャークだった。鋭い牙で噛み付こうと跳躍を行う。しかしその攻撃はあっさり避けられ、ガシャークは無様に床に叩きつけられた。ダメージは無い。
『チッ、ちょこまか動き回りやがってよぉ!蝿みてぇな奴だぜ……シャ、シャ、シャ……』
 ユキナリのチームでは一番の異端児であるガシャークは常に相手をいたぶる傷害快楽者とも言える。
 その為相当のレベルが無いとガシャークにトレーナーである己を認めさせる事が出来ない。ユキナリは半端者であった彼をそこまでの逸材に育て上げたのだ。実力的にはほぼ互角である。
『蝿なら爬虫類の大好物ってな……シャーッ!!』
 もう一度飛び掛ろうとしたガシャークの攻撃を今度は飛び上がる事で避けた。
「フン……ユキナリ。空を飛ぶ虫ポケモンに対して飛べもせん近距離のガシャークを選ぶとは……貴様も所詮その程度なのか?笑わせてくれる。今から面白い事が起きるだろう……」
 レディアンはガシャークの跳躍でも届かない程の天井すれすれまで上がると、全身から青いオーラを出して目視確認出来ない程の勢いで飛び始めた。ぐちゃぐちゃに飛んでいる。
「!マズイ、高速移動で特殊能力を利用するつもりだ!ガシャーク、毒液を吐いてくれ!」
『鳥もちみてえなモンだな。狙い撃ちしてやるぜ。シャ、シャ、シャ……!』
 ガシャークは大きく口を開けると、やたらめったら牙から高熱の毒液を吐き始めた。唯一の遠距離攻撃である毒液は、狙うと言うよりか相手の自滅を狙う様に広範囲にばら撒いている。
 (確かに目視確認出来る動きじゃないものね……下手に狙うよりはずっとマシだわ……)
『!!やべえッ!』
 ガシャークは本能的な恐怖を感じて飛び退いた。その瞬間に地面へと落下してくるレディアン。床に大きなヒビを入れる程の強烈な一撃だった。直撃していたらKOされていたかもしれない。
『勘はなかなかだ……貴殿も相当の修羅場を潜ってきたのだな……しかし、コレならばどうだ?』
 数ターンずっと高速移動をしていたレディアンは相当に攻撃力が上がっている。そのレディアンが手裏剣の様に投げてきたスピードスターを避ける事は出来なかった。防御するだけで精一杯である。
 (速い!ガシャークは見えてたワケじゃない。感じただけなんだ……厄介な相手だな……)
『結構くらっちまったな……まあ、こんなモンか?』
『強がりを申すでない。貴殿の体力は既に半分を切っておるだろう』
 ポケギアを見てみると確かにガシャークの体力はイエローゾーンに到達していた。レッドも目前と言った様相である。次第にユキナリの心にも焦りが生まれてきた。
 (こ、こんな速い相手に組み付けるのか……?さっきの毒液も軽く避けられた……)
『もっとやってこいよ。面白く無いぜ……シャ、シャ、シャ……』
『貴殿が望むなら、一刀の下に切り伏せてご覧に入れよう』
 レディアンは羽をはばたかせて美しい風を生み出した。『ぎんいろのかぜ』だ。威力は少ないが一定の確率で自分のステータスを向上させる効果を持つ。
『油断しやがったな!』
 大きくはばたいて風を当てようとしたレディアンの羽根にガシャークが組み付き、思いっきり噛み付いた。完全に不意をつかれたレディアンは必死に振りほどこうともがく。
 だが一度組み付いたガシャークを振りほどけた猛者はいない。牙がガッチリ楔の様に打ち込まれて相手の体に引っかかるからだ。牙から紫色の猛毒が注入させる。
「クソッ何をしているレディアン。貴様の戦闘力は今奴より上なんだぞ!?」
 プライドが邪魔して具体的な指令を出す事が出来ないセイヤ。ユキナリが彼の立場であったなら迷わず高速移動による振りほどき、さらに戦闘力を高めて追い討ちせよと命令するだろう。
 だが具体的な命令を与えられない限り、ポケモンは自己判断で行動しなければならない。パニックに陥ったレディアンは闇雲に高速移動もせず飛び回った。
『下賤の出身が某の羽根に傷を付ける資格など無いわ!死ぬが良い!』
『噛み付いたが最後ってヤツだ……シャ、シャ、シャ……』
 だんだん目の前が霞んでいく。ゆっくりと体内に猛毒が巡る。じわじわと体力が減る……白目をむきそうになりながらもレディアンはガシャークを引き剥がそうと懸命に飛び回った。
 しかしガシャークの攻撃により大幅にその機動力は鈍っていた。降下していき、遂にそのまま倒れ込んでしまう。HPは既にレッドゾーンにまで達してしまっていた。
『最後の一撃だ、くらいな!』
 牙を引き抜き距離を取ると今度はポイズンクローで襲い掛かろうとする。最早レディアンには襲い掛かる相手の顔を見る事さえも出来なかった。しかし本能的に信念が全身を奮わせる。
『主の為……忠節を尽くす。弱輩なれど未だ滅せず!!』
 巨大な爪が体を引っかこうとした瞬間、無数の手裏剣の様な星がガシャークの胸に突き刺さった。
『スピードスター……だとぉ!?』
 技自体の力は少ないが確実に当たる必殺技。高速移動の連続によってその威力も格段に上がっている。一気に体力を削り取られ、その勢いで無様に床に転がるガシャーク。隙を作ってしまう。
 レディアンは再び銀色に輝く風を起こした。今度はガシャークの周りに集まり、体を傷付けていく。
『殺り甲斐がある敵じゃねえか。シャ、シャ、シャ……ッ!!』
 その場から動けないレディアンに毒液が放射された。空を飛んでいた時は当たらなかった高熱の毒液もレディアンの体にようやっと当たり、体をじゅっと溶かしていく。その瞬間床に倒れこんでしまった。
「不甲斐ないポケモンだ……道具の価値すら無いとはな……」
 相変わらず表情の無い、抑揚の無い声で通すセイヤの本心は全く読めなかった。しかしバトルの状況から見ればそろそろ終盤へと近付いているのが解る。セイヤのポケモンは残り2体だ。
「再戦を挑むからにはそれ相応の備えもある……ユキナリ、少しの間に随分と大幅なパワーアップを獣に施した様だが、所詮は戦での実戦戦果でしかあるまい。
 私の傀儡はカオス本部でのトレーニングと薬物投与によって徹底的に鍛え上げられたエリートだ。今度こそ、勝つ!」
 (絆の力がどれだけ通用するか、やってみなければ解らないけど……僕は絶対にココを通過する。アズマさんに勝負を挑んで、勝ちたい!セイヤさんの心を解すにはそれしか無いんだ!)
 互いに譲り合えないから戦う。どんな時でもそうだ。だがどんな理由も最後には1つに収束する。
 即ち、『どちらが強いか』だ。あらゆる局面で……戦争であれ喧嘩であれ人間は強さを欲する……本能的に、生まれついた時から人は力に固執してきた。今までも、そしてこれからも続くのだろう。
 大海の一滴に過ぎないこの戦いですら、今戦っている2人にとっては重要な意味を持つ。
 (一歩も譲らずここまでの戦いは互角……流石に幹部ともなると格が違うな。俺が雑魚連中と戦った時は1体で数匹相手に出来ていた程だ。俺が戦っても無傷では済まんだろう……)
「そろそろ終わりにしてやる……貴様も退屈になってきただろう。私も同じだ……」
 フィールドに投げ入れられたインセクトボールから出てきたのは毒蛾モルフォンであった。ガシャークと同じどくタイプを持つポケモンである。
 体力が残り少なくなっていたガシャークであったが、俄然やる気が出てきた様で、闘志を燃やしている。
『俺様以外の毒ポケモン等全部格下だって事を思い知らせてやるぜ。シャ、シャ、シャ……』
『おお、何と禍々しい怪物なのだ。今こそ正義の鉄槌を下す時ぞ!』
 (手駒はモルフォンで充分……毒蛇は一撃で粉砕し、残る火狐ともう1匹も片付ける。絶対に負けられん……)
「モルフォンか。粉の攻撃に優れている強敵だ……」
 セオリー通りにポケギアの図鑑項目を開くユキナリ。モルフォンのデータをしっかりと閲覧する。
『モルフォン・毒蛾ポケモン……夜行性で光に吸い寄せられる虫ポケモン特有の性質を持つ。
 撒き散らす毒の粉は羽根のはばたきによって空に舞い上げられ、野生のモルフォンが大量発生する時期になると多くの住民が頭痛や眩暈を起こして病院に殺到するらしい。粉は体内で作られ、汗として分泌されている』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・どくのベール……一定確率で攻撃確率100%の技を避ける事がある』
 (猛毒と毒液は確率が100%じゃないけど、頻度が高い噛み砕きとポイズンクローは……!)
 レッドゾーンに達しているガシャークに倒す事を願っても無理そうだった。だが、生き残ったからには差を出来るだけ広げなければならない。だが、100%の技を避けるとは厄介な相手だ。
「手負いに対して情けをかけるな。容赦なく潰せ……」
『正義の刃の前には何者も敵わぬ。滅び去れ!』
『なめやがって……俺様を愚弄すると後悔する事になるぜ。シャーッ!!』
 手負いであってもまだまだやれるとガシャークは勢い良く飛び掛った。しかし虫ポケモンは総じて素早さが高い。近距離用の技であれば尚更回避される確率が高くなる。だがモルフォンは逃げなかった。
『愚かな。我が智略に溺れたか!』
 紫色のオーラが発生し、それがガシャークに向かって飛んでいく。直線上にいたガシャークはその場から麻痺した様に動けなくなってしまった。
 モルフォンが念を込めるとオーラがガシャークを覆い尽くしダメージを与える。
『畜生……俺様を甘く見るんじゃねえ……くらえーッ!!』
 ガシャークは捨て身で毒液を吐いた。モルフォンの羽根に命中するものの大したダメージが与えられない。
 (そうだ……毒に耐性を持っているモルフォンが、毒タイプのガシャークに負けるハズが無い……)
 がっくりと肩を落とすユキナリの眼前にHPがゼロになり気絶したガシャークが落下してきた。
「足掻いて見せろ、最後までな……」
 セイヤは冷酷にそう宣告した。彼自身は絶対の自信を持っている。ここで引き離されたら勝利は絶望的だ。
 (足掻きますよ、セイヤさん……言われなくとも……僕は足掻いてきたからこそココにいるんだ!)
 ユキナリは気持ちを落ち着かせ、呼吸を整えると再び勇気を取り戻し、バトルフィールドにヤナギレイを出現させた。相性的には有利とも不利とも言えない。
 向こう側にも恐らく『ぎんいろのかぜ』があるだろうからだ。凄まじいHPの削り合いが予想された。
『また随分思い切ったタイプのポケモンですね……私も人の事は言えませんけど♪』
『おお、麗しの姫君よ!されど戦故愛は存在せぬ。これも戦の運命也!』
『……前もこんな相手と戦ってませんでしたっけ?私……いじられてますね……』
 (サイコキネシスとぎんいろのかぜのぶつかり合いかしら……互いに大ダメージを与えるから、両者相討ちになる可能性が極めて高いわね。むしろ一方勝利の場合も考慮しないと……)
「モルフォン、貴様の戦いたい様に戦えばそれで良い。手加減だけはするな」
『騎士道を貫く者に手加減と言う言葉は存在しませぬ!敵に慈愛は注がぬ故に!』
 先に動いたのはモルフォンの方だった。羽根をはばたかせると銀色のオーラを風に乗せて運ぶ。一方それを迎撃せんとヤナギレイも紫色のオーラを体から放出されていた。
『マスター、貴方から貰った勇気で……必ず相手を倒してみせますからね♪』
『悪しき竜に囚われた姫君よ……今こそ目を覚まし共に王国を築く時ぞ!』
 2つのオーラは途中でぶつかって激しく抵抗し合い、そしてどちらも逸れた。
『勝機!ですね……』
 チャンスとばかりにシャドーボールを連発するヤナギレイ。発動直後の隙を突かれたモルフォンはあっさり黒弾の爆発を受けて大きく仰け反った。間髪入れずに『ハイパーボイス』を放つヤナギレイ。
『その歌声もまた、美しい……』
 熱いシャウトを耳で受けたモルフォンはフラフラになってしまっていた。しかしダメージ自体はさほど受けてはいない。全てはサイコキネシスを確実に当てる為の前座なのだ。
『OKですよマスター、一気に決めましょう♪』
「何をしているモルフォン、その程度の攻撃など押し返せ。覚醒しろ!」
 セイヤの呼びかけを受けてモルフォンはすんでの所で意識を取り戻した。サイコキネシスが眼前に迫っている。反射的にモルフォンは同じサイコキネシスを用いて攻撃を相殺した。
『いやいや、姫君とは言え騎士道を解されておるとは……竜さえいなかれば是非我が王国に来てもらいたいものだ……』
『マスター……この相手、一筋縄ではいかないですね。戦いに慣れてます。気を付けないと……』
『今度はこちらの番だ!』
 モルフォンは負けじとばかりに毒の粉を散布した。どく状態になるのは御免と素早く身を翻してそれを避けるヤナギレイ。だが同時に口から吐き出されたヘドロ爆弾を避ける事が出来なかった。
『クッ……まだまだ、勝負はこれからですよ!』
 体力はまたも振り出し状態に戻った。ポケギアで確認してみても両者のステータスはほぼ互角。ステータス配分は違っているものの、得意な攻撃が相手に絶大なダメージを与える事も同じだ。
 (どく状態にならなかったのが救いだな……ヤナギレイも大したダメージを受けてない。防御力が大幅に上がっている。もっともっと強くなろう……一緒に先を目指すんだ!)
『全身全霊で貴方を倒します!』
『それはこちらも同じ事……最善を尽くさぬのは騎士の恥!!』
 再び互いの全身から銀色のオーラと紫色のオーラが出現した。一方は風に乗り、もう一方はそのまま噴出されてぶつかる。今度こそ当ててやろうとどちらともがそう思っていた。
 先に屈した方が負けになる。互いに一歩も退けず、ずるずると膠着していく戦局……精神力が鈍ってくる。
『負けない……絶対に負けるワケにはいきません!マスターに私は……そう誓ったんですッ!』
「絆か……バカバカしい。戦いを制するのは圧倒的な戦闘力だ。貴様もユキナリの傀儡に過ぎぬ……消え失せろ、その愚かな志と共にな!……何ィ!?」
 ぶつかり合っていた思いは砕け散り、双方にダメージを与えて粉々になってしまった。大爆発の中立っているのは……ヤナギレイだけだ。
 ふんばっただけで、HPは13程度しか残っていないものの、モルフォンに勝利した事だけは間違いない。
『やりましたよ、マスター……』
「セイヤさん……僕にも貴方にも、それぞれの未来がある様に……決着を付ける時が来ましたね」
「ここまで粘るとは正直予想外だったぞ、ユキナリ……褒めてやろう。だが、アズマ様を守り貴様を葬るのはこの私だ!ホウやレイカに任せておけるか!!意地に賭けて貴様を倒す!!」
 セイヤはモルフォンをボールに戻すと、最後のボールを場に投げた。出現したのはユキナリを最後まで苦しめたミノガーだ。しかし、あの時のミノガーとはステータスが大きく異なっている。
「このミノガーは、アズマ様から譲り受けた新たなミノガーだ。特殊能力が違う故戦法も攻撃的なものへと変化している。今度こそこの切り札で終わらせてやるぞ、必ずな……クックック……」
 (特殊能力が違う……って、マズイんじゃないか?)
 ユキナリは急ぎポケギアを開いて新しいミノガーの特殊能力を確認した。
『特殊能力・ふゆごもり……ターン終了ごとに少量体力を回復する』
 (長引かせずに決める……それだけだ。あの時の脅威に比べればまだ戦える……)
「解るぞ、貴様の心が……ミノガーの特殊能力なぞに恐れを感じるな。実際にミノガーが貴様を苦しめるのはそのステータスにある。その圧倒的な攻撃力にな!」
 (セイヤのあの圧倒的な自信……恐らく技が非常に強いのだろう。こおり・むしと言う極めて珍しいタイプのポケモンだけに、覚える技もトップクラスのものばかりだろうからな……)
 ホクオウの危惧は正解だった。虫ポケモンが覚える最高クラスの技『メガホーン』と氷の最高クラス『吹雪』。
 おまけに銀色の風と長期戦に持っていく為の『からにこもる』まで覚えている。その攻撃力・防御力も今まで出してきた虫ポケモンとは桁違いだった。
 まさにセイヤが誇る『完璧な虫ポケモン』の集大成と言えよう。最後の切り札に相応しい。だがユキナリの切り札もチーム内で一番の実力を誇っている……
 コセイリンならば勝てるとユキナリは踏んだ。コセイリンと一緒に戦ってきて、絶対の信頼を持っているのだ。

『マスター……この心は決して折れません。最後まで、飛べる場所まで……ッ!』
 ヤナギレイがユキナリを守る様に前に立ってミノガーと対峙した。バトルフィールドは一触即発のムードを醸し出している。
 全身傷だらけであるが、ヤナギレイは何としてもダメージを与えようと必死だ。対するミノガーはあの時と同じ様に何も喋らず相変わらず不気味である。
『受けてくださいッ!!』
 掌底から発射される風の渦。凄まじい勢いの風がミノガーに対して飛んでいった。
『エアロブラスト』だ。むしタイプのポケモンに対して効果抜群となる必殺技。動かないミノガーにしっかりと命中する。しかし……
『そ、そんな……効いてない……?』
 確かに相性は抜群のハズだ。だが削り取ったHPは微々たるものである。ゲージの20分の1が減った程度。ミノガーにとっては平手で一発殴られた程度のダメージでしかない。
『戦闘力がダメージで落ちているからと言って、ここまでダメージを与えられないなんて……』
 愕然とするユキナリとヤナギレイ。一方セイヤは涼しい顔をしている。絶対に勝てると確信している表情だ。ミノガーは何も言わずにれいとうビームを発射した。
『そんな、馬鹿な……私の全力が通用しないんですか……?』
 ヤナギレイはそのままあっさり倒れこんでしまった。HPがゼロになってしまった事を確認すると、ユキナリは苦い表情を浮かべたままヤナギレイをボールに戻す。
「どうした、さっきまでの勢いは。足掻いてみせるつもりでは無かったのか?クックック……」
 (防御力が高過ぎるんだ……おまけに特殊能力があるからあのダメージもチャラになってしまう……でも、まだやれる!仲間がいる限り、僕が諦めるワケにはいかない。
 頑張ってくれる仲間、兄さんやルナさんの為にも、絶対退けない。退けるものか!!)
 互いに1匹残ったものの、その実力は離れているかもしれない……だが今まで何度と無くユキナリはコセイリンと共に、いやコセイリンのおかげで窮地を脱してきた。賭けるしか無いのだ。
 (コセイリンのステータスもまた狂気じみている……俺は戦った時奴の潜在能力の高さに驚かされたものだ。まだまだあんなモンじゃ無い……この勝負、セイヤが負けるな……)

 バトルフィールドに登場したコセイリンの表情に迷いは感じられなかった。
『セイヤさんじゃ無いですか……ユキナリさん。リベンジマッチですね?』
「しかも相手はミノガーだよ……あの時戦ったミノガーじゃ無いけど」
『僕にもユキナリさんにも、先に進む道は1つしか無いでしょう?勝つしか無いですよ……』
「幾ら貴様のコエンが腕を上げ進化していた所で、このミノガーには及ぶまい。何しろあの時とは戦闘力が違うのだ。圧倒的にな……それでもまだ解らんのか?」
『憶測で物を言うのは過信ですよ、セイヤさん……僕だって、沢山の強敵と戦って切磋琢磨し合ってきたんです。この戦いで決めて見せます。勝って、ユキナリさんと一緒に同じ場所へ!』
 コエンの体から青色のオーラが出現していた。こおり・ほのおと言う特異なタイプを持ちながら、その強さもまた常軌を逸している。
 セイヤのミノガーが幾ら桁外れとは言っても、その戦闘力はほぼミノガーと互角、いやコセイリンの方が僅かに上回っていた。
「貴様の強さを見せ付けろ、ミノガー!」
 ミノガーは小手調べとばかりに吹雪を繰り出してきた。口から極寒の吐息が漏れていく。
 凄まじい雪の風がコセイリンにまとわりつこうと飛んできたが、コエンは青い炎を口から吐いて吹雪を鎮圧した。『火炎放射』だ。
 間髪入れずに掌底に溜めていた力を解放し、青き炎を発射する。ミノガーに命中した炎はHPを全て回復していたミノガーのHPをイエローゾーンまで削り取った。
 セイヤはあまりの速さとその攻撃力に驚きを隠せない。
「馬鹿な……それ以上、だと……!?」
『長丁場はマズイみたいですね。一気に決めます!』
 だが危険を察知してかミノガーはその場から動けない弱点を解消しようと『からにこもる』特殊攻撃を始めた。
 防御力が高まればそれだけ相手から受けるダメージも少なくなり、特殊能力の効果がより強固なものになる。だがコセイリンはそのコンボすらも許さなかった。
『一気に決めると言ったでしょう?』
 再び獄炎がミノガーの全身を焼き始めた。聖なる炎の効果は絶大で、ミノガーの体力は先程の減り方が嘘の様にレッドゾーンへと近付いていく。
「まだだ……私は、負けるワケにはいかん!再戦の意地があるのだからな!」
 ミノガーは防御さえも許されない事を悟るとメガホーンを発動した。ハイパーボイスと同じ様に叫ぶ攻撃だが、技のタイプは虫となっている。
 しかし虫タイプの攻撃がコセイリンの体力を削れるハズも無く、強力な攻撃もコセイリンの体力を軽く削った程度だった。
「赤子扱いだと……この私の手駒が……嘘だッ!私が2度も負けるハズは無い!!」
 ミノガーは意地になってメガホーンを連発しだした。いかに効果が少ないとはいえダメージはあるのだ。しかも全方位に広がる攻撃は危険である。体力も徐々に回復している。
『やっぱり僕でも一筋縄ではいかない相手とは……流石セイヤさんだ。虫ポケモン使いの重鎮と言い切っても過言では無いでしょう。相性が悪かったら危なかったかもしれません』
 再び火炎放射。ミノガーは焼き尽くされ無言のまま頭を垂れた。

 終わって見ればコセイリンの体力は半分以上減っていた。戦いが長引けばあるいはセイヤの逆転勝利に終わっていた可能性も否定出来ない。だが結果的には……ユキナリの勝利が決まった。
「ウオオオオオオオッ!!」
 セイヤの咆哮が虚しくバトルフィールドに響き渡った。彼は……負けたのだ。12歳の少年に2度も。
「こんな馬鹿な……カオス3幹部である私が、弱輩如きに負けるとは……アズマ様お許しください。私の力では及ばぬ相手で御座いました……」
「やったな、ユキナリ……」
「兄さん……何とかセイヤさんを倒せたよ……兄さんとルナさんを解放してくれますよね?」
「俺と彼女はココで待機していよう。お前の邪魔はしたくない」
「頑張ってユキナリ君。貴方ならきっと、他の幹部、いえ総帥でも倒せるわ!」
 下っ端連中はホクオウとルナから離れると、くずおれていたセイヤを抱き上げた。
「セイヤ様、行きましょう……打ちひしがれている場合ではありませんぞ。」
「わ、解っている……外で起こっている事態は把握済みだ。私も加勢に行かなければな……ユキナリ、確かに貴様は大きく腕を上げていた。最早私の出る幕は無い。
 後はホウとレイカに全てを託そう……行くぞ!」
 セイヤは立ち上がると下っ端2名と共に外へと飛び出していった。扉がまた閉められる。
「退路は無い、か……外側から鍵をかけられてしまった様だな。閉じ込められた……」
「あの階段から2階へ行けそうね。ユキナリ君……待っているわ」
「……行ってきます」

 奥の階段を1人で上り2階に辿り着くと、スライドになっていた次のバトルフィールドへの入り口、今入ってきたばかりの入り口が閉鎖されてしまった。今度は下にも戻れなくなったワケだ。
「久しぶりだな、ユキナリよお……」
「ええ、本当にそうですね。ホウさん……」
「予想外の事態ではあったぜ。まさかセイヤを倒すとはな……あそこまで腕を上げていた奴をギリギリとは言え倒したのは立派だった……だが所詮そこまでの話だ。そうだろ?」
 岩のモニュメントで飾られたバトルフィールドに回復ポッドと簡易PCが鎮座している。向こう側にはあの時と全く同じ姿のホウが立っていた。ただ、その戦いに対する覚悟はあの時よりずっと強くなっている。
「アズマ様も見ておられただろうな。お前の強さに、バトルに満足しただろうさ……だから、もう終わりにしようぜ。茶番はよ……俺が今度はセイヤの代わりに盾になってやる!!」
 ユキナリはしっかりと気を引き締めるとホウの顔を凝視した。まだ、アズマを守る障壁が続く……

 バトルフィールドの前に置かれた回復ポッドとPCは、ポケモンを回復する様に置かれた物だと言う事を暗に示していた。
 ユキナリはポケモンを回復させている間にさらなる戦力の補強を画策する。
 (これからさらに厳しい戦いが続く……技マシンを購入すれば道が開けてくるかもしれない……そう、ポケモンのタイプにこだわらずに技を選べば、どんな状況にも対応出来るハズだから……)
 長考し、悩んだ末にユキナリは、チームの中で最もパワーがある反面、動きが遅いルンパッパの補強の為、弱い技を捨て、新しい技を得る事にした。
 PCショップで技マシンの『かみなりパンチ』と『れいとうビーム』を購入する。
 (電気タイプの技はひこう・みずに強い……同じ水同士の対戦になった時に便利だし、ドラゴンタイプ最強のキングドラにも対抗出来る手段の1つになり得るだろう……)
 ユキナリのチーム自体は技のバリエーションが豊富になっていた。そのタイプだけ見てみれば一目瞭然である。

 ほのお・こおり・でんき・くさ・みず・ノーマル・エスパー・ゴースト・ひこう・かくとう・じめん・あく・ドラゴン・どくを網羅したのだから。
 鋼タイプの技は鋼タイプを持っていないと覚えにくいので致し方無い結果ではあるだろうが。ユキナリは技マシンをルンパッパに装着させ、2つの技を覚えさせた。
 持ち物も含めて相当のパワーアップが見込めたハズである。ユキナリにとって3幹部との戦いは今までの自分を追い越し、彼等を追い抜く為の重要なチェックポイントに等しかったのだ。
「どうだ、準備は済んだのか?ッたく、手間かけやがって……」
 腕をグルグル回して鈍っている体を覚醒させ、やる気を見せているホウ。前回の戦いではアーマルドとユキダルマに苦しめられた。
 特にユキダルマとは優位に戦える相手がルンパッパしかいない。しかもそれは相手に与えるダメージのみを計算した結果でしか無く、みず・くさと言うタイプ相性では削り合いになるだろう。
 一発当てて終わりにする様なパワータイプのトレーナーであるホウに対してそんなギャンブルは出来ない。
 (ホウさんは強い……鋼に押されているハズのいわタイプを見事に使いこなしている……育て方が上手いのかどうかは解らないけど、そこらにいる鋼タイプのモンスターなんかとは比べ物にならない程の防御力だ……
 それを崩すには、出来るだけ相性を考えて場にポケモンを出すしか無い。綱渡りの戦いになりそうだな……)
「フッ……お前と戦うと言う事が、今純粋に楽しくて仕方が無いぜ。戦い自体に善悪の概念は無え。思いをぶつけたモンの勝ちだ。今度は……俺が魂の一撃を見舞ってやる!」
 ホウはそう言い放つと、バトルフィールドにポケモンを出現させた。ユキナリは前にこのポケモンを見た事がある……いや、若干違う様な気がしてきた。コレは……
『マスター、俺を出してくるって事は、総力戦覚悟って事ですよね』
「まあな。一応大将のユキダルマがいるからお前を入れる事に若干の躊躇いはあったが、全体的なステータスやタイプを見てみるとやはりお前を使う価値は充分にある」
 ゴローニャだ。ユキダルマは変種であるからその元となったポケモンである。
 (最初から本気だ。本気で潰しにかかってきている……気持ちは折れてない、僕だって本気で戦う!勝ってアズマさんと戦って……上に行く!)
 ユキナリは自分を励ますとポケギアでゴローニャの情報を呼び出した。これからは応援してくれる仲間もいない。気が楽ではあるがその分孤独感が漂う。
『ゴローニャ・がんせきポケモン……1年に1回脱皮を経て体がどんどん硬くなっていく。最終的にはダイナマイトが爆発しても平気な体になるとか。
 坂道を球体になって転がり落ち移動をする為、山岳地帯ではゴローニャに押し潰されない様常に警戒しなければならない』
 (特殊能力は……?)
『球体ボディ・転がるの命中率が100%になる』
 (転がるはどんどん攻撃力がアップしていく厄介な技だ……絶対に外さないなら迎撃していくしか無いだろうな……エビワラーなら、拳で弾き返せるかも……)
 ユキナリはバトルフィールドに早速エビワラーを出現させた。
『いわタイプを相手にするとなれば、マスターの期待に添える様に俺が圧倒すると言う流れが望ましいな……何時もそうだ。この俺の活躍を見せてぇんだ!』
 ジャブを繰り返すエビワラーに連戦に対しての精神的疲労の色は全く見られなかった。それどころか先程セイヤのポケモンと戦った時よりその眼の鋭さは磨かれつつある。
『ギャオ――ン!俺様と勝負する事になった事を悔やむんだな!俺様は半端無く強いぜ!』
 一方ゴローニャの方もやる気は充分と行った様子である。常にバトルで重要なのは初回のバトルだ。このバトルで勝敗の行方が定まってくると行っても過言ではあるまい。
 (常に優位を保ちながら戦っていかないと、あのユキダルマに対して有効には戦えない……いわ・こおりに立ち向かえるポケモンが残る様に調整していかないといけないけど……)
「陳腐な表現で悪ィが、俺もセイヤと同じ様に手駒を育て、新たな強豪達を取り揃えたからな。ま、あの時の様に簡単に終わると思っていちゃ困るって事だ。本気で行くから覚悟しとけよ……」
 ホウは腕組みをして仁王立ちの状態のままゴローニャが動き出すのを待った。カオスの幹部達は皆、ポケモンに決して具体的な命令を出そうとはしない。
 だがそれを侮って先に攻撃を仕掛ければ命取りにもなりかねなかった。慎重に、相手の出方を伺わなければならない。
 (とにかくエビワラーは近距離で効果を発揮するタイプだ。積極的に動かないと長所を利用する事は出来ない。だが、相手が動くのならばむしろ迎撃した方が……いや、攻める!)
「先手必勝だエビワラー、けたぐりで先制攻撃を仕掛けろ!」
『了解。フッ、お前が重ければ重い程好都合なんでな!くらいやがれッ!!』
 素早く相手の足をくじかせ、一気に優位に立とうとエビワラーは威勢良く飛び出していった。
「坊主、まだ甘い……ゴローニャ、近距離に持ち込ませるな、お前の領域で挑め!」
 ゴローニャは向かってきたエビワラーの攻撃を回避する為に手足を引っ込めると、そのままエビワラーに対して球体のまま突っ込んできた。まともに直撃すればダメージを受ける。
『甘いのは、俺の戦闘力を知らねえお前のポケモンの方だ!』
 渾身の一撃が球体を吹っ飛ばした。鉄球にも等しい重さのゴローニャが、まるでスーパーボールの様に打ち上げられて地面に勢い良く叩きつけられる。
 今までの戦いでエビワラーは確実に力をつけつつあった。相性的に有利な相手を完璧に圧倒している。
「よし、良いぞエビワラー!相手が体勢を立て直す前に飛び出して追撃してくれ!」
『今のは着地が良かった様だな……ダメージを大して受けてねえ。今度は与えてやるさ!』
 フラフラになって身動きが取れないでいるゴローニャに拳の追撃が入った。硬い殻で守られているハズのゴローニャの体にヒビが入る。凄まじい威力だと言う事が窺い知れた。
「畜生、新参者にまでやられてたまるか!ゴローニャ、そのまま耐えろ!」
『ギャギャギャ。頭上不注意、かい?』
 エビワラーはその瞬間、いわなだれの直撃を受けて沢山の岩の下敷きになってしまった。
「エビワラーッ!!」
「今のうちにサッサと距離を取れ!ったく、何も言わねえと窮地に陥るとは、使えねえ手駒だ。もう少し俺にその忠誠ってヤツを見せたらどうなんだ。ああ?」
 ゴローニャはこれ幸いとばかりに距離を取ると、今度はこちらの番だとばかりにまた球体の状態になると回転を始めた。動きの取れないエビワラーをいたぶるつもりだ。
(ダメージはさほど受けてない。だが抜け出せずに転がるを連発されたら勝機は遠のく!)
「エビワラー、早くそこから抜け出すんだ!」
『うおおおッ!こんなチンケな攻撃で負けちまったら、師匠に合わせる顔が無え!』
 衝撃波で一気にゴロゴロ転がっていた岩を吹き飛ばすと、転がってきた球体にまた標準を合わせた。ゴローニャは方向転換しようとしたが命中率100%故止まれない。
『俺と戦った事が不運だったって事じゃねえか?ま、もう1回出直してこいや……』
 上半身を後方に下げ、元に戻る勢いを拳に宿しバネの如き速さで球体をぶん殴る。喧嘩の様なファイトスタイルだが、ゴローニャの様な近距離専用の相手と対戦するには申し分ない戦闘スタイルであった。
 そのまま壁に叩きつける。壁に大きなヒビが入ったが、その防御力の硬さ故にまだ若干のHPを残していた。
「!?エビワラー、相手はまだ戦闘不能にはなってないぞ!」
『ギャ……ギャオ―――ンッ!!』
 白目を剥いたゴローニャは全身を奮わせ、叫ぶと地震が起こった。
「ちっと特殊な技だ。マグニチュードは攻撃力が発動の時点でランダムに変化する。地震と違って確実性は無えが……その分当たった時のダメージはでけえぞーッ!」
 ホウはニヤリと笑うと攻撃を受けたエビワラーを見た。凄まじい揺れでエビワラーはヨロヨロしながらも必死に持ち応えている。
 ポケギアを見るとその地震は相当凄まじかった様で、エビワラーのHPも同じくゴローニャと同じ所辺りまで減ってしまっていた。
「さあ、そのままやっちまえゴローニャ!」
 ゴローニャの瞳が真っ赤に光ると、今度は金色のオーラを出しながら再び地震を起こした。近距離のエビワラーではこの地震に対抗する術が無い。
 膝を打ち崩してガクッと倒れこんでしまった。ゴローニャは全身にヒビが入った状態のまま何とか堪えている状態だ。そこまで差が広がっているワケでは無い。
「さっきのマグニチュードはM7ってトコか……M8なら確実に奴を葬れたんだが……」
 ユキナリも恐怖を感じた程の揺れだった。現実に起こる地震はM7からM8になる時に100倍エネルギーが多くなる事が実証されている。
 すなわちM5(震度5)からM8(震度8)になる時には10000倍エネルギーが多くなっているのだ。被害が数字一つ違うだけで異なってくる理由がよく解るだろう。
 その攻撃を受けてエビワラーは倒れてしまったのだ。攻撃力はざっと110と言った所か。エビワラーがあの頃から比べると確実にタフになっているのが実感出来る。
 ユキナリはエビワラーを見据えると、黙ってボールにエビワラーを戻した。
「小手調べにしては良い滑り出しだ。だがお前のその眼を見る限り、全く油断は出来やしねえ。その絶対に諦めない瞳がお前を勝利に導いてきたんだろうが……今日でそれも終わりだ」
 ホウ達カオスの幹部連中には独特のオーラがあった。ユキナリが戦ってきた時に感じたのは勿論『傲慢』と『悪意』だ。
 ユキナリの強敵として立ちはだかってきた幾多の強豪達にはその2つが存在しなかった。トサカでさえも今ではそのオーラが薄れつつある。
 総じて傲慢な相手はユキナリ達の前に屈してきた。過去の戦いにおいても、悪の組織が次々壊滅に追いやられている。
 現時点ではカオスは『ただ1つの強大な悪意』である。ロケット団もアクア団もマグマ団も皆解散したか正義に転じるか衰退して相応の道を辿ってきた……その運命が3人を飲み込もうとしていたのだ。
「まだまだ試合の結果は見えねえさ……さてと、今度はどいつがゴローニャの相手になるんだ?」
 (ココは相手の攻撃を許さずに決めて、次の試合に進みたい……とくれば、彼しかいないだろうな……)
 ユキナリは心の中で頷くと、ボールを投げ、ポケモンを出現させた。
『おお、ユキナリ殿!今度はワシの出番か。早速やってみようかの!』
 ルンパッパの強烈な攻撃力ならば相手の反撃を許さずに次の試合に持ち込む事が出来る。そう判断しての選択だったが、ホウはニヤニヤと笑っていた。
「ほう……あの時の小僧が随分なめた口を叩くモンだな……後悔させてやるとするか……」
『ギャ……ギャ……ギャ、オオオオオオ!!』
 既に正気を失って魂のみで動いている様なゴローニャの事。何をしてきても全くおかしくない。
 (大丈夫だ。ハイドロポンプの威力なら確実に仕留める事が出来る。動きの素早いポケモンならばともかく、岩タイプのポケモンは殆どがパワータイプだ。何とかなるさ……)

『任せてくれい。ワシの攻撃の勢いならば、手負いのあやつなぞ一捻りじゃ!』
 ルンパッパの実力は高く評価出来る。あのボスゴドラの突撃を止めてみせた一戦からさらにレベルアップを果たし、攻撃力も防御力も格段に向上しているハズだ。
 問題なのはやはり守りが厳しい事だった。なまじ防御に秀でていても素早さが低ければ攻撃を避けきる事は難しい。結局ダメージが蓄積して負けてしまう。
 それ故スピードタイプの相手と戦わせるワケにはいかない。相手の出方次第で動かすつもりだった。
「手負いだろうが何だろうが、一発当てて一気に形勢をこっち側に引っ張り込むまでだ!引き離せれば勝負はこのホウ様の掌の上に収まるからな。そうだろ?」
 ゴローニャは再び眼を輝かせると、大地を再び大きく震わせ始めた。しかしその前にルンパッパのハイドロポンプがそのままゴローニャ目掛けて飛んでいく。
 自らの動きは遅くとも、相手が動かない限りこの強力な水流から逃れる事は出来ない。ゴローニャは壁までそのまま吹っ飛ばされて再度叩きつけられ、完全にKOされた。
「ふう……とりあえずルンパッパは軽いダメージだけで済んだな……」
「運の良い奴だぜ。お前程強い相手を俺は見た事が無え。結成から既に5年以上の月日が経過して初めて、コレ程の実力を持つ好敵手に巡り合えた。幸か不幸か、な……」
 ホウは全く動揺していなかった。前より神経が太くなっているのか。それともまだ勝算は充分にあると考えているのだろうか。ともかくホウは次のポケモンをフィールドに出現させた。
『ギャ――ス!ギャッ、ギャッ、ギャッ……』
 現れたのは古代の翼竜と言うに相応しい化石ポケモン、プテラだった。ホウは前に戦った時も古代ポケモンを愛用している。
 あの強敵アーマルドも分類上は化石から再生される古代のポケモンだ。ユキナリはポケギアを開いて急ぎプテラの情報を収集した。
『プテラ・こだいポケモン……石の様に硬い翼は大昔に生息していた天敵カブトプスから身を守る為であったと考えられている。
 鋭い鉤爪の様に発達した足で魚ポケモンを捕食して生活していたらしい。現在、ニビ博物館にてプテラの化石が展示されている』
「それじゃ、特殊能力は……?」
『いわのつばさ……いわタイプの技で受けるダメージを無効化する』
 (大丈夫だ。いわタイプ同士の戦いに有利な能力ではあるけれど……全く関係無い!)
「特殊能力を二の次にしてもだ。プテラの総合戦闘力はかなり高いぜ……特にいわタイプだが素早さはかなり高い。それ以外は可も無く不可も無くって所か」
 ステータスの成長で見れば確かに若干防御力が低いと言ういわタイプらしからぬ特徴があるにせよ、全体的に見ればバランスが取れている。
 ルンパッパは相手の攻撃を避ける術が無いので、攻撃で押し切っていくしか無い事が弱点なのだ。だが勿論みずでもくさでも与えるダメージは2倍である。
 ユキナリは自問自答しながらもそれを心の中で確認した。相手に動揺を悟られてはならない。いかなる時も冷静に……だ。
「とにかく相手にダメージを与えなくては……ルンパッパ、まずはハイドロポンプだ!」
『行くゾイ!』
 口から放たれた水流は渦を巻きながらプテラ目掛けて飛んでいく。だがプテラはそれをあっさり避けて空中に舞い上がった。『そらをとぶ』攻撃だ。
「さて……ユキナリ、これからどうなると思う?」
 ホウは意地悪な笑みを浮かべてユキナリに質問してきた。先程の教訓もある事だしまた無闇に射程距離目掛けて飛んでいくワケでもあるまい。だとしたら……?
 (まさか……飛び道具での応酬合戦になるんじゃ……)
『ゲギャギャ、ギャ―――ッス!!』
 ユキナリの予測通り、叫びと共に白い光の光線が口から放たれた。ルンパッパは慌ててハイドロポンプで応戦する。しかしジリジリと力の差からルンパッパの方が危うくなってきた。
「はかいこうせんの攻撃力とハイドロポンプの攻撃力は30違うからな。そうやって頑張っても相殺したダメージは確実に与える。着実に構えていくぜ、俺は……」
 遂に耐え切れなくなったルンパッパの元へ光線が突っ込んできてダメージを与える。爆発の煙からルンパッパの姿が確認出来たが意外と手傷を負ってしまっていた。
『上手く相殺する事が出来なかった事が悔やまれるのう……ワシも老いたか……』
 しかし怯んでいる場合では無い。破壊光線は諸刃の剣。確かに攻撃力は大きいが使った次のターンは動けない。ルンパッパはここぞとばかりにハイドロポンプを放った。
 水流が一気にプテラを吹き飛ばし、壁に叩きつけられた翼竜はそのまま倒れてしまった。
『ギャ……ス……ギャー……スウウウ……』
 何とか立ち上がろうとするプテラであったが、ルンパッパは手負いにも容赦はしなかった。体が緑色に光るとプテラの体力を奪い始める。
 プテラの体力自体は減っていたので思った程相手から体力を吸い取る事は出来なかったが、そのままプテラは倒されてしまった。
「クッ!何だと?俺のプテラがこんなにもアッサリと……確かに成長はしている様だな」
 ホウは歯軋りして悔しがるとユキナリをキッと睨み付けた。凄味は流石元荒っぽい職人だったので多分にある。それでもユキナリは怯える事無く、ホウを見つめるだけだった。
 (ホウさんは悔しがっているけど、大して差が縮まったとは思えない。回復のタイミングが違った……
 差分のダメージを受けると思ったのに意外とくらって結局イエローゾーンに入ってしまっている……だけど、次の相手次第ではもっと活躍出来そうだな……
「なめるなよ……思い知らせてやるぜ。相性だけが全てじゃ無えって事をな!」
 ホウはバトルフィールドに再度ボールを投げポケモンを出現させた。その姿は前に見た事がある……その素早さと技の切れに驚いたものだ。もう彼が出てくるとは……
『キシャ――ッ!!』
「カブトプス!厄介な相手だ……だけど、いわ・みずのタイプだからくさで何とかなる!」
 特殊能力は『鋭い鎌・かまいたちの攻撃力が上昇する』だったハズだ。ただ、いくらルンパッパが強いとは言えスピードタイプの敵との相性の悪さは否めない。
『ユキナリ殿。マスターであるお主が決めてくれんかの……ワシが選ぶ事じゃ無い』
 (相性的には有利なんだ……多少動きが早くてもあの時は何とかなった!)
「交代無しでお願いします」
「ヘッ、かかったな!」
 その瞬間、ルンパッパは背後にカブトプスの気配を感じて振り向いた。
「一気に仕留めろ!」
 一瞬の出来事だった。ユキナリが命令する間も無く一方的にルンパッパが切り刻まれる。
「そ、そんな……見えなかった……」
 愕然とするユキナリを尻目にカブトプスは自慢の鎌でルンパッパにダメージを与えていく。
『まだ……まだ、ワシは……』
 体力がレッドゾーンに達した時、ルンパッパは無意識の一撃を繰り出していた。『かみなりパンチ』だ。初めて覚えたこの技を繰り出されたカブトプスは仰け反って倒れる。
「!……あんな技まで覚えてやがったってのか?油断したぜ……」
 効果は抜群だ。そこまで攻撃力の強い技では無いにせよ、これはチャンスである。
『よし、まだワシは行けるゾイ!見ていて下されマスター。ワシは……』
 カブトプスの刃がルンパッパの腹を真一文字に切り裂いた。倒れたばかりであると言うのに起き上がりの速さも天下一品である。ルンパッパはそのまま血を流して崩れ落ちた。
 (僕が、油断していたんだ……敵はホウさん。卑怯な手を使ってきてもおかしくない相手だと言うのに……!ただ、先手を取るにせよあの速さはルンパッパには捉えられない。
 速い……!あの時のカブトプスとは次元が違う!やはり順当に強くなっているか……)
「まさか、一発くらわされるとは……大した技じゃ無かった事が救いだぜ。これでもまだ俺がリードを許しているとは泣ける話じゃ無えか。次でこっち側に引き戻す!」
 カブトプスは一発くらったもののまだまだ動けると言った風情だ。ユキナリ側は既に重要な仲間を2体も使ってしまっている。ココで誰を選ぶかが勝負の分かれ目になるだろう。
 (カブトプスの素早さに対応出来る僕のパートナー……いないな、アイツしか……)
 ユキナリはルンパッパをボールに戻すと、次のポケモンをバトルフィールドに向けて投げた。

『オイオイ、俺様の相手はまたリベンジャーかよ。頭痛えな……オイ』
『ウ……キシャ――ッ!!キッシャアアア!!』
 本能的に相手の事を悟ったのだろう。ガシャークがフィールドに姿を現した瞬間、カブトプスは吼え声を上げて鎌をブンブン振り回し始めた。ホウはそれを眺める。
「良い刺激になってるじゃねえか……あの時のノコッチもココまで育てたとは……言っておくが、復讐なんて生易しいものになるとは到底思えねえがなァ」
 カブトプスは噛み付かれ、毒液を流し込まれた傷があった所に青筋を立て、鎌をジャキジャキ鳴らしながら真っ赤に血走った瞳をガシャークに向けていた。半端な激昂では無い。
『シャ、シャ、シャ……また俺様に噛み付かれてえのか?面白え。かかってこいよ。怖いか?え?オイ……そりゃ格好悪いもんな。負けるってのは……』
 相手が激昂すればする程好都合であるとガシャークは考えている様だった。我を見失えばそれだけ相手に隙が生まれる。その隙を突けば容易く倒せるものだと思っているからだ。
「もういいガシャーク、止めてくれ。公式の試合に乗っ取っているんだから、失言は控えた方が良いよ。マスターである僕の品格だって疑われる事になるんだし……」
「いや、お前は優しいよ。立派な人格者だ……それだからこそお前のポケモンより数倍は苛立つんだがな……真面目ぶった顔しやがって。俺はお前が大嫌いだ!!」
『シャウッ!!』
 フッとカブトプスの姿がユキナリの視界から消えた。いや、同時にガシャークの姿も視界から消えている。2匹の姿がフィールド上から消えてしまった。
 だが次の瞬間、鋭い鎌を振る風の音や、ガシャークの醜悪な笑い声がそこかしこから聞こえてきたのでユキナリは呆然としてしまった。目視確認が出来ない。
「見えねえな……これじゃあお前も俺も何も言えねえが……」
 ホウは向こう側のポッドに置いてあった特殊なゴーグルを装着した。セイヤやレイカが付けている代物だ。ユキナリは初めてゴーグルを装着したホウを見た。
「断片的にしか確認出来ねえ。こりゃ驚いたな……この赤外線ゴーグルで見ても判別が難しいってのは……」
 咄嗟にユキナリはポケギアを見た。2匹のHPは戦闘が始まってから全く変わっていない。だが何もしていないワケでは無いのだ。
 2匹とも互いの全力を尽くして何とか相手を倒そうと奮戦しているのは明らか……しかし、どちらも素早いのでどちらの攻撃も当たっていないのだろう。
 本気を出したガシャークの実力をユキナリはハッキリ見せ付けられた形になった。そう思った数秒後、フィールドの中央で牙と鎌がぶつかり合う音が鳴り響き、2匹の姿が確認出来る様になった。
『ハア……ハア……やべえ、バテてきた……』
『シャ……キシャ……ア……』
 どちらも疲労困憊と言った様子で、ゼエゼエ荒い息を吐きながらその場に立ち尽くしている。お互い数十秒間クイックを飲んだかの様な勢いで戦う事に無理があったのだろう。
「畜生、やはり俺のカブトプスと張るってのか。こういう流れは予想してなかったぜ……」
 (どっちも疲れている……となれば後は両者の技で決する事になるな……)
『キシャウッ!』
『俺様を……なめんなよ――ッ!!』
 カブトプスの口から吐き出された水流がガシャークの横を通っていった。反射的にガシャークは最善たる近付き方を本能で弾き出していたのだ。
 ハイドロポンプが避けられたのを見たカブトプスは水流を止めると鎌を銀色に光らせる。『メタルクロー』で鋭い一撃を浴びせるつもりだ。
『シャッ!』
 まさにあと数cm前にいたら腹を切り裂かれていた。仰け反ってその一撃を避け、ガシャークはカブトプスの懐に転がり込む。しかしカブトプスも勝負の本能を理解していた。
『キシャ―――ッ!!』
 いきなりジムの床が水浸しになり巨大な波がカブトプスとガシャーク目掛けて襲い掛かる。このまま引き剥がされてはたまらないとガシャークは死ぬ気でカブトプスの腹に噛み付いた。
 牙は楔の如くしっかりと打ち込まれ、少々の衝撃では容易に外れない。波乗りのダメージは受けたが同時にガシャークも噛み付かれたダメージと、毒を注入されたダメージを受けていた。
「チッ……俺がこんな事を言うのもおかしいが……何て見応えのある戦いなんだ!」
 ユキナリも心の中でそう思っていた。2匹の戦いにはついていけそうも無い。

夜月光介 ( 2011/07/25(月) 11:34 )