ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第8章 1話『恋人を喪った男 VSセイヤ』
 ユキナリ達は完全な立ち往生を強いられていた。ルナからの詳しい説明によると、通信装置の妨害によって電波が阻害され、地元のミサワタウンにいた警察以外の警察に助けを呼べないのだと言う。
「奴等は大規模な組織だから、地元の警察に助けを呼ぶだけじゃ無駄だった……大勢の警官隊、いえ、アクア平和グループやマグマ希望グループでも良い。とにかく私達だけじゃどうにもならない。
 何とか打開策を見つけないとこのまま閉じ込められて餓死してしまうわ。この近くには食べられそうな草も無くて……本当に限界が近付いてきてるの。
 持っていたポケモン達も全てカオスに奪われて足も無い。人間だけじゃ無理……!あの山を登るのは自殺行為だわ。八方塞がりなのよ!」
 ルナは頭を抱えた。近くの住民達も心配そうにルナの方を見つめている。
「いや、俺達はポケモンを持っている。強行突破を果たそう……幸いにも俺のポケモン達は皆元気でね。塀とかだったら無理にでも壊して……」
「正面からは危険だよ兄さん。さっきみたいに取り囲まれてピンチに陥るのが関の山だ……なら、裏から攻めれば良い。地面を掘ってミサワタウンの内部に侵入するんだ!」
「!そうか、冴えてるよユキナリ君!」
「塀の外側から掘り始めれば時間はかからないかもしれんが……塀が分厚かったらどうする?俺達のポケモンは穴を掘る特技を覚えていない。ユキナリもユウスケも俺もタイプが違う」
 ナックラーは既に穴を掘る技を忘れていた為、穴掘りには向いていなかった。
「それでも、もう後戻りは出来ないんだよ兄さん。皆でやれるだけやってみようよ!」
「だけど、塀の周りは見張りがウロウロしてる。私達だって迂闊には近付けないんだよ」
「何とかするさ!……何とかするしか方法は無いんだ!」
 ユキナリはココで後戻りは出来ないと言い切った。勿論現実的にも檻に閉じ込められた格好なのだが、彼の強い意志が感じられる。ホクオウは頷き笑うと、
「そうだな。ユキナリの言う通りだ。ぐちぐち言い合っていても始まらない。まずはやってみる事だ。そうだろ?」と言った。
「貴方達、度胸があるのね……頼もしいわ。でも、度胸と無謀は別。ついてきて頂戴」

 ルナに連れられてユキナリ達はミサワタウンの入り口付近に到達していた。
「あれが見える?監視カメラよ。奴等を倒してもすぐ他の連中がやってくる仕組みになっているわ。入り口が無いのはきっと地下からミサワタウンへ出てきているんだと思うの……
 塀の上には高圧電流が流れる棘の付いた鉄線。まさに理想のバリケードってワケ」
「入り口が無いとは徹底しているな……簡単に壊せる代物でも無さそうだ」
 ホクオウの推察通り、塀は鉄板を何層にも重ねて作り上げた要害になっていた。バーナーでも溶かせそうに無い。体当たりして崩れる様なやわな素材では無かったのだ。
「どうしよう、ユキナリ君……」
「やっぱり、彼等の見えない所から穴を掘るしか無いかもしれない……待てよ?地中から組織の人達が移動しているって事は、何処かに巨大な穴が開いているハズだ!」
「その穴が何処にあるのか解るのか?解った所で深かったら手も足も出ない。ただ掘るにしても位置関係が掴めない以上それは無理だ。だったら……空しか無いだろう」
「空!?」
「ユキナリ、浮いたり空を飛んだり出来るポケモンは何匹いる?」
「ヤナギレイ、フライゴンの2匹だけだよ」
「だがフライゴンは大人を3人乗せても充分平気な体躯をしている。ヤナギレイにせよ誰か1人をおぶって空中に浮かぶのは不可能では無いだろう。それで、上空から潜入するんだ」
「そうか……ポケモンがいないと思ってカオスの連中は空中からの防備を手薄にしてる……チャンスになるって事ね!貴方凄く冴えてるわ!」
「運が良かっただけだ。俺もユウスケも飛べるポケモンは持っていなかった……今の話を総合すると、4人は確実にミサワタウンに行けるって事になる。
 俺達3人と、誰か1人来てくれないか?……実際に街の様子を知っている人間の助けが必要だからな」
「私が行くわ。街の様子がどうなってしまっているのか、気がかりなの」
 ルナの挙手にユキナリとユウスケも顔を見合わせて笑い合った。
「決行は今日の夜、闇夜に紛れて行おう。残っている人達は明かりを盛大につけて見張りの注意を逸らしてくれ。見張りが地上に目を向けている間に潜入を試みる」
 街の人間達は不安そうに顔を見合わせた。駐在所の巡査も無謀だと諌めたが、ルナの賛成も手伝って決行される事に決まった。リスクも高いがこのままじっとしているワケにはいかない。

 一方、ミサワタウンに帰還したレイカ達支部の者達はアズマに謁見し、集めてきたポケモン達を見せた。3つの大きな街で盗んできた大勢のポケモン達である。全て飼われていたポケモンばかりだ。
「……ご苦労だったねレイカ君。これだけのポケモンを転送し、転送しきれなかった分も運んでくるとは実に見事な働きだよ。セイヤ君やホウ君にも是非見習って欲しいものだ」
「恐悦至極に存じますアズマ様……しかし、肝心の少年は見逃してしまいまして……」
「邪魔をする種は早々に消しておくべきだが……君程の優秀な幹部が梃子摺った相手だ。出来れば私も彼と戦ってみたいよ。そうだね……招いてあげても良い位だ」
「あ、アズマ様……!」
「いや、冗談だよ冗談。本気にしないでくれたまえ」
 スーツに身を包んだ紳士はそう言うと窓の外を見た。
「この本部が外部に認知されるのも時間の問題だ。その前に急いで全てのポケモンをカオスに服属させ、その力で一気にトーホク中のポケモンを奴隷にする。
 その後はエリアを陣取りゲームの様にゆっくり潰していけば良い。時間はたっぷりあるのだから……」
 ポケモンを憎み、ひたすら悪の炎に身を焦がしてきた男は唇に軽い笑いを浮かべると、葉巻に火を付け、煙をくゆらせながら服や髪の色と同じ紫色のワインをグラスに注いだ。
「『シャトー・ロゼ50』は実に味わい深い。口に残るほのかな酸味と、それを打ち消す甘味が実に絶妙なバランスを保っている……スッキリとしていてそれでいて濃厚……」
 漆黒の鼻眼鏡の奥に浮かぶ紫色の瞳がそのワインの色と同じ色のままで輝いていた。

 アズマが夕暮れ時にワイングラスを愛でていた頃、ユキナリ達は準備を進めていた。
 もしもの緊急事態に備える為に年長者であるホクオウには拳銃が手渡され(現実世界では違法です)、ユキナリやユウスケ、ルナにも警棒や白煙筒が渡される。出発の時は近い。
「危なくなったら迷わず大声で叫んで逃げろ。助けてやる。必ず……」
「見つからなければ騒ぎも起きないわ……多分、ジムの中にカオスの首領がいるハズよ。一番良いのは彼を人質に取る事だけど……難しいわね」
「やはり、助けを呼ぶ人を1人選んだ方が良いのでは……全員捕まれば無駄死にです」
 駐在所の警官はユウスケを見ると彼の肩を叩いた。
「君が一番軽そうだ。どうです、彼をヤナギレイに乗せて山を迂回してでも助けを呼ぶのは」
「確かに、もしもの時を考えれば必要なのかもしれない……ユウスケ、出来るか?」
「ホクオウさんがそう言うなら……すぐに飛んでいって呼んできますよ」
 結局、考えた末にユウスケはヤナギレイの背中に乗ってカイザーシティに戻る事になった。夜にもならぬ内にヤナギレイはシティ目指して飛んでいく。
 その姿を3人は静かに見送った。そして、ユウスケが見えなくなると軽く溜息をつき、作戦の推敲を続ける。
「ユウスケ、大丈夫かなあ……」
「ゴウセツ山を迂回すれば吹雪の直撃は避けられる。多少遅くなっても必ずシティには到着出来るだろう。俺達はその間に突入するんだ」
「私達の街を、取り戻さなきゃ……」
 3人は焦っていた。ジムリーダーであるルナは一刻も早くジムを取り返したかったのだ。
 規定で常に街から遠く離れた所にいれない彼女は、規定破りで資格を剥奪される事を極めて恐れていた。その焦りが後々で思わぬ結果を招く事になる。

 ユウスケがヤナギレイの背中に乗って街に出発してから3時間後……午後8時。辺りはすっかり暗くなり、星も隠れる曇り空になっていた。雪も降りそうな程に真っ暗だ。
「フライゴンは夜目が効く。背中に跨ったらしっかり捕まって、地面に降りるまで我慢するんだ。ユウスケが呼ぶ応援も時間がかかるだろう。上手くいけばいいがな……
 もしもの時は助けが頼りだ。ユキナリ……大丈夫か?」
 (ついに、カオスとの最終決着が付くか……3人もの幹部と戦った……そしてあそこにはカオスのボスであるアズマさんが必ずいる……戦ってみたい!)
 純粋に、ユキナリはポケモントレーナーとしての高みを目指し始めていた。
 当初は戦う事もおぼつかなかった素人トレーナーであったが、レッドと同じ様にだんだんとコツを掴み、そして何時しか最強と言う言葉を目指して彷徨い続ける事になる。
 見つからない答えを無理やりに探し出そうとする。ユキナリもまたその深みにはまりつつあった。

「それじゃ、行きましょう」
『マスター、私がついている限り滅多な事はありませんよ。いざと言う時には盾となってでもマスターをお守り致します。それが、マスターの器を信じた結果なのですから』
 フライゴンは粗野な印象を失い、むしろコセイリンの様な丁寧で腰の低い性格へと変化していた。羽音を立てずに飛べる事がフライゴンの特技でもある。3人はそのまま空中へと飛び出していった。
「そのまま炎を絶やすな、もっと照らせ、地面が明るくなる程に!」
 巡査と一緒にミサワタウンの住民は沢山の松明を地面に突き刺して火を付けていた。地面が明るくなる事でより一層上空の3人の影は薄くなる。
「何だありゃ、奴等とうとうおかしくなって祭りでも始めたのか?」
「いや、火災かもしれねえぞ……こっちに来たらマズイな。俺がちょっと様子を見てくる」
 見張りのカオス下っ端が向こうの明かりに気を取られた事で、上空からの潜入には成功した様だ。塀をアッサリ通り越えると、フライゴンは見つからない様にゆっくり建物の裏側へ降りていった。
「下っ端連中は建物の中にいるのかしら、それともやっぱり内側でも見張りを……」
「ユキナリ、フライゴンは目立つ。早くボールの中に戻しておけ」
 ユキナリは慌ててフライゴンをボールの中に戻した。
「赤外線ゴーグルでも付けられていたら厄介だな……あの幹部の女が付けていたあの装置、ポケモンの戦闘力数値を計るだけでは無さそうだった。
 こんな夜に視界が効かない状態でウロウロしている馬鹿もいないだろう。とにかくジムに向かえれば良いんだが……」
「駄目だわ。迂闊に動けない……こんな真っ暗じゃあ……」
 そんな時、懐中電灯の明かりが近くを通り、話し声が聞こえてきた。
「オイそろそろ見張りの交代の時間だろ。早く行って代わってもらえよ」
「そうね。私あんまりこういうの好きじゃ無いし……今日は疲れたから早くシャワーでも浴びて寝たいわ。
 もうすぐ大きな動きが組織内であるってレイカ様が仰っているし。私達にまでそのツケが回ってくるのよ……」
 大欠伸をした女性の下っ端は向こうの方へ歩き出していった。
「懐中電灯とはレトロな犯罪組織だな。それとも吝嗇なだけか?まあ良い。懐中電灯を頼りにして見張っているのならまだ動きやすいだろ。あの女を追うぞ」
 ホクオウの指示に従ってユキナリとルナは下っ端を追った。闇に紛れて上手く下っ端の見張りの光を避けると、夜目でも解る程巨大な建物が見えてくる。
「位置関係からすると、ココは……私のジムじゃない!勝手に取り壊して変な建物を作ったりして!……リーグに説明したら建て直してくれるのかしら……」
「あまりデカイ声を出すな。見つかったら面倒な事になる……何だ、自動ドアじゃ無いか……無用心なモンだ。案外見張りもたかをくくりながら行っているのかもしれないが……」
 そう言いながら元ジムであった建物に入る3人。明かりが煌々と照らされ、3人の姿が丸見えになる……身を隠す様なものは一切無かった。
「マズイ、ココは一旦戻って……」
 もう遅い。気付いた時には自動ドアが開き、下っ端とセイヤが入ってきていた。
「久しぶりだなユキナリ。あの時とは違い大分精悍な顔つきになってきた様だ……迷いを捨てたか。随分吹っ切れた様な表情をしている。面白い・・・面白いぞ!」
「せ、セイヤさん……」
「捕まえろ」
 屈強な下っ端2名によってあっと言う間にホクオウとルナは捕らえられてしまった。武器もことごとく没収され、ユキナリはセイヤと対峙する事になる。
「拳銃まで持ってきているとは準備の良い奴等だ……あとの2人はお初にお目にかかる。カオス3幹部の1人蠢きのセイヤと言う。最強の虫使いを自負しているがな……」
「ユキナリに一度負けたくせに、よく最強と言えたものだな!」
「……それなのだ。私が小僧に負けた事実がどうしても認められんのだよ。
 アズマ様の為に懸命に働き、常に最前線で戦ってきた私が、どうして取るにも足らない新米トレーナーに負けたのか……あの時よりずっと強くなっている様だが、勿論私も腕を上げた」
 よく見てみると、この巨大な部屋自体がポケモンバトルを行う為のフィールドになっていたのだ。セイヤは歩いて、部屋の隅にあるポッドとPCを指差した。
「この端末とポッドで回復なりなんなりするが良い。PCのネット通販は便利だぞ。買った商品が即登録されるのだ……この機会に補助アイテムでも付けてみてはどうだ?
 私はお前の最強の状態と戦い、そして勝ってみせる。手加減はせん。絶対に……潰す!」
「リベンジマッチかセイヤ……見苦しいぞ。一度負けた者が戦いを挑むとは!」
「好きなだけ罵るが良い。さあユキナリ。お前に拒否権は無いのだ。戦わなければお前の大切な仲間を、この拳銃で殺す!……お前が負けても同じだ。どうだ、やるのか?」
「……準備には少々時間がかかりますけど、セイヤさんが良いのなら……」
「フン、賢くはなった様だな……私の実力を認めているのか?舐めてかかれば後悔する事になるぞ」
「解っています。セイヤさんは強敵だ……」
 あの時、セイヤと戦った時つくづく自分の弱さを実感した事は無い。さんざん苦しめられ敗北まで覚悟した。薄氷を踏む様な勝利だったハズだ。相手は慢心している。
 慢心しているからには勿論万全な準備を行っているハズだ。ユキナリはPCの端末を開いてネットワークショップを閲覧した。
 (レイカさんと戦った時ハッキリ解った……ポケモンを強くさせる補助アイテムは必要不可欠なんだと……
 今ココでそれぞれのポケモンに補助効果を持つアイテムを持たせておこう。大事な事だ……)
 ネットワークショップは少々割高だが、即自分の手元に来るのが魅力だ。50万円のポケモンくじに当たった彼にとっては微々たる金額ではあるが……
 結局ユキナリはオードソックスな補助アイテムを購入する事にした。

『焔霊……炎タイプの技威力が上昇』2000円
『神秘の雫……水タイプの技威力が上昇』2000円
『サイコスプーン……エスパータイプの技威力が上昇』2000円
『毒針……毒タイプの技威力が上昇』1500円
『龍の牙……ドラゴンタイプの技威力が上昇』3000円
『黒帯……格闘タイプの技威力が上昇』1500円

 (そう言えば、ヤナギレイがいない……そりゃそうだ。ユウスケと一緒にカイザーシティに向かったんだから。PCに入ってないかな……あ、いた!)
 実はこの数分前、ユウスケはカイザーシティに到着しており、PCにヤナギレイを回復させて戻しておいてくれたのだ。ユキナリは彼に感謝しながらヤナギレイをボールに戻した。
 一応念の為に5匹のポケモンをポッドに入れて回復させる。その間妙な事はさせまいとずっとセイヤはユキナリを睨み付けていた。
「準備は整いました、セイヤさん」
「結構な事だ……今回のバトルは6VS6の真剣勝負にて執り行う。交代制でどちらかのポケモンが全て戦闘不能になるまで戦わなければならないオードソックスなルールだ。解っているな?」
「ハイ、勿論です」
「どれ程成長しているのか楽しみだ……今度ばかりは貴様も敗北を喫する事になるだろう」
 セイヤは冷静を保とうとしている様だったが、復讐に燃えているせいか何時もより少し興奮している様にも見える。セイヤとは3VS3バトルで戦った。
 強豪ポケモンを用意しているだろう。いや、下手をすれば全てのポケモンが入れ替わっているのかもしれない。あの時の経験は役に立たないかもしれないのだ。
 ユキナリは自分が置かれている立場を確認し、そして心の中で誓った。
 (僕なら……出来るハズだ。1度は勝てた。苦しい戦いになる事は解ってる……でも、僕は勝たなきゃいけないんだ!大切な人を守る為に、自らが切磋琢磨する為に!!)
「粋な計らいだろう……ユキナリ。このカオス本部のビルは4階建てになっていてな。アズマ様は宴をお望みだ……あのカメラで私達の戦いを見守っておられる。
 2階にはホウ、3階にはレイカがいる。即ち私と勝っても、ココから先に進むにはさらに2人を倒さねばならんのだ。不可能だな……」
 (アズマさんが、僕達の戦いを見ている……!?)
「ユキナリよ。アズマ様をせいぜい楽しませるが良い。お前の実力を評価しておられるぞ、クックック……我々3幹部を苦しめたその実力を見せてもらおうか!」
「ユキナリ、戦え!……お前の力を、そいつに見せ付けてやるんだ!」
「私からもお願いするわ!……それに、兄さんを倒したその力なら、きっと勝てるわよ!」
 ルナは、セイヤが窮地に陥っていた事を知らない。そして逆に、今ルナが生命の危機に立たされている事をセイヤは知らないのだ。
 (ユキエさんも強敵だった……いや、今まで戦ってきた全てのジムリーダー、トレーナーに僕は敬意を抱いている……セイヤさんだって同じだ。立っている場所は違っていても、その熱意に違いは無い)
 ユキナリは迷いの無いセイヤの冷たい瞳を見つめた。3幹部に再び勝てば、4階にいると言うアズマに会える。彼等を統率してきた程のトレーナーであれば、是非勝負してみたい……
「フハハハ、蛮勇を気取るか!それも良いだろう。だが今度こそ貴様を奈落の底へ突き落としてやる!……同じ過ちは繰り返さぬ。ホウやレイカの出番は無いぞ!」
 既にセイヤの手にはインセクトボールが1個。ポッドには5個のボールが陳列されている。
「思い知らせてやろう……」
 あの時と同じ緑色のゴーグルは、レイカと同じ様に自らの本音を隠すかの様に装着されていた。セイヤは巨大なフロアの中央にある自分のバトルフィールドにポケモンを出現させる。
『ふわぁ……マスター、ご命令ですかぁ?』
「さっさと潰せ……方法は任せる。どんな手を使ってでも相手を倒すのだ!」
 カオスの幹部達は絶対にポケモンとの信頼関係を持とうとしない。絆など不要。ポケモンを駒としてしか見ていないのは明らかだった。だが結局は強い絆を持つユキナリに負けてきたのだ。
「アメタマ……みず・むしタイプと言う珍しいポケモン……」
 ユキナリはポケギアで図鑑を見て確認を急いだ。
『アメタマ・あめんぼポケモン……水草や苔を食べて幼年期を過ごす。頭上の突起物からは甘い汁を出し、それを他の虫ポケモンに与える事で外敵の侵入を阻止してもらうと言う共生関係を築いている様だ。
 ポケモン自体の総合戦闘力は極めて低いが、みず・むしと言うタイプの相性は互いの弱点を補填しあっており、まともに攻めるのはかなり厳しいと思われる。素早さも非常に高い』
「特殊能力は……」
『特殊能力・みずながし……水の攻撃を受けると受けるハズのダメージの2分の1を回復する』
 (ルンパッパと同じ様な特殊能力か……ただ、格闘タイプのエビワラーには関係無いかな)
『僕、マスターの為に頑張るよぉ!』
 ユキナリはフィールドにエビワラーを出現させた。レベルの差は開いていないものの、進化していない分だけアメタマの方がステータスの低さで目立っている。最初の戦いは若干優勢かと思われた。
『初手から俺を使いますかマスター。まあ見ててくださいよ。かなり鍛えさせてもらいましたからね……ケンゴ師匠のもとで学んだ事、マスターから貰った戦闘の意味……それを果たす為にも俺は負けられないんだ!』
 エビワラーはユキエとの戦いで攻撃力を大きく上げていた。既に補助アイテムを装備している為その分余計にステータスが上がっている。しかし、向こうの方も補助アイテムを付けているのだろう。
「エビワラーか……サワムラーより作戦の幅が広く、様々な技を覚えるオールマイティな初心者ポケモン……貴様もやっと解ってきた様だな。器が大きくなればなる程、こちらとしては好都合だが……」
 腕組みをしたままセイヤはユキナリを見つめていた。エビワラーも自分の膝程も無い大きさのアメタマと戦う事に若干困惑の色を示している。
『チッ、バルキーの頃だったら簡単にけたぐりを当てられたものを……今の俺じゃあまともに攻撃を当てるのも一苦労だぞ……不味いな』
 (確かにユキナリのポケモンはステータスで大きく相手を上回っているが、相手はカオス幹部。少々卑怯な手を使ってきても全く不思議では無い……気を付けろ……)
 ホクオウの言う事も最もであった。しかしユキナリとセイヤはあくまで互いの真剣勝負を望んでいたのだ。
「奴に、真の虫ポケモンの戦い方を見せてやれ!」
『それじゃあ、行くよぉー!』
『手加減はしねえ。押し潰すだけだ!』
 最初に攻撃を仕掛けてきたのはアメタマの方だった。頭の触覚の様な部分からいきなり氷の光線を繰り出してくる。エビワラーは仰け反ってその攻撃を避けた。
『馬鹿な、れいとうビームだと……!?』
「フン……虫ポケモンの魅力は技のバリエーションにこそある。特にアメタマは色々な技を覚えてくれるので非常に扱い易い。かたや貴様のポケモンはかくとうとノーマルが関の山だろう」
 セイヤは唇の端に歪んだ笑みを浮かべると、指を刺してアメタマにこう告げた。
「方法は構わん。私がお前に与えた力で存分に戦うが良い」
『避けるなんて、反射神経良いんだねぇ。じゃあこれはどおぉ?』
 アメタマはしっかりエビワラーを捉えると、触角から凄まじい水流を噴き出した。
『危ねえな、この野郎!』
 エビワラーは床にワックスがかけてある事を利用して一気に体を落とし、スライディングでアメタマを勢い良く蹴り飛ばした。
 明後日の方向に向けられた触角はさらにアメタマの吹き飛ぶスピードを上げ、余計に壁にぶち当たったダメージを増大させた。
『ワンパターン戦法じゃ、俺には勝てないぜ!』
 エビワラーはどんな攻撃も避けて見せるとファイティングポーズを取ってしっかりと構えた。
『やるねぇ、キミ……でもさぁ、僕に勝とうって言うのはちょっと虫が良すぎるよぉー』
 そう言うとアメタマは素早く身を立て直し、体から緑色のオーラを噴出させる。
「いけない、エビワラー。メガドレインだ!急いでアメタマを攻撃しろ!」
「いやいや、ユキナリよ……ギガドレインの間違いだ。私は常に最強の技を欲するのでな」
 エビワラーは攻撃を阻止する為に駆け出したが、逆に遠くへ吹っ飛んだアメタマに近付くのには時間がかかる。アメタマはにんまり笑うと、さらに強いオーラを出現させて体力を奪い始めた……

 エビワラーは必死のダッシュでアメタマに追いすがり、体力を奪おうと体を広げている所を殴りつけた。
 だが攻撃に若干の遅れが出た為、少々体力を吸い取られてしまった様だ。焦りの色が見える。
『どうしたのぉ?おかしいなぁ……ワンランク下の選手であるハズの僕に負けるなんてねぇ……』
『ちょっと面食らっただけだ!雑魚が……俺は、マスターの為にも、負けられねえんだよッ!』
 続けて鋭い一撃を見舞ったエビワラーであったが、動きの素早いアメタマはそれを避けた。
『ちいいいッ!』
 右手と左手が千手観音の様に残像で沢山見えたが、アメタマはそれを避けている様には見えず、寧ろユキナリ達から見ると動いていない様にさえ見えた。
 攻撃が呆気なく避けられる憤りと焦りから、どんどんスピードが鈍ってくるエビワラー。重い一発に賭けたがそれも見切られ、バックステップしたアメタマはれいとうビームを叩き付けた。
 慌ててガードし、その攻撃の威力を削ごうとするが避けられはしない。
「な、なんて身軽な……」
「アメモースではこうはいくまい……現時点で学会に発表されているみず・むしタイプのポケモンはアメタマしかおらんのだ。故に私は考えた。
 戦闘力で劣るアメタマをどう使うか……答えは明白だろう?」
 セイヤはユキナリを嘲笑うと、再びバトルフィールドの方へ目を向けた。
『畜生……ダメージはそこまで受けてねえが、ジャブを何度もくらえば俺だって昏倒しちまう……当たらねえと勝てねえんだ……
 とにかく相手の隙を見つけるしかねえ……奴の体力は半分を切ってるハズだ……』
 (違うな……先程の体力回復も合わせれば恐らく半分を過ぎた辺り……かと言ってエビワラーが負けると決まったワケでは無い。1発当てさえすればアメタマは完全によろめく……)
『そっちの方は、まだまだ攻撃を受けても大丈夫そうだねぇ。よぉし、頑張っちゃうぞぉー♪』
 残酷な笑いを浮かべると、アメタマは素早くエビワラーの後ろに回った。
『馬鹿なッ!?』
 アメタマのシャドーボールがまともにエビワラーに当たった。ヤナギレイの技と同じ様に背中に当たった後爆発し、エビワラーは痛みで思わず膝をついてしまう。手をついた眼前にアメタマが立っていた。
『嘘だろ……?』
『吹き飛べ!』
 しかしエビワラーは咄嗟の判断で横に回転し、ハイドロポンプの猛威を避けると雄々しく立ち上がってメガトンパンチを繰り出した。頬に拳が激突し、水を撒き散らしながら吹っ飛んでいくアメタマ。
『チッ、まだHPが残ってやがるのか。往生際の悪い奴だぜ。くたばれ!!』
 それを追いかけてきたエビワラーの姿を捉えるとアメタマはニヤリと微笑み、そのままハイドロポンプをもう1度繰り出す。防御もしていないエビワラーはそれをくらってしまったが……
『なめるなぁ!』
 ジャンプして拳を振るい、水流の流れを無理やりに変えるとその隙間から再び『爆裂キック』を繰り出したのだ。当たる確率は低かったが必死の思いが通じたのかアメタマに当たった。
 今度こそ床に倒れこんだアメタマのHPはゼロになり、戦闘不能状態となる。セイヤは全く冷静さを失っていなかった。
「エビワラーの最大体力は178。アメタマが与えた累積ダメージを差し引くと残りは36か……まあ次第点だな。逆に言えばワンランク下の相手にそこまで苦戦させられたと言う事だぞユキナリ。クックック……」
『ガタガタぬかすな!勝てば良いんだろ!勝てば!マスター、世間知らずのガキに俺の強さを思い知らせてやりますからね!何もしてねえのに平気で俺達を見下しやがって……』
「世間知らずか……自惚れるのも大概にするが良い。私は真実を知っている。それだけで充分だ……」
 (セイヤさんが負った傷は深い……僕達じゃ癒せない事も解ってる。だけど……僕はどうしても貴方を倒して、先に進まなければならないんだ!……理想論かもしれないけど、守らなければならないものがある!)
 最初の試合はほぼ実力伯仲の戦いだった。セイヤはインセクトボールを取り出すと、次のポケモンをバトルフィールドに出現させる。光と共に姿を現したのは毒々しい色をした蠍に近い虫ポケモンだ。
 (パラセクトか……どくとじめんタイプの技を覚えるむしポケモン。またユキナリのポケモンに匹敵するヤツが出てきたと言うワケだが……さあユキナリ、お前はどうする?)
「このまま、エビワラーで戦わせてもらいます!」
「良いだろう。パラセクト、相手は弱っている……絶対に傷を付けられない様にする事だな」
『ええマスター……フガッフガッフガッ。こんな葦みたいなヤツに、俺が負けると思ってるんですか?』
 ユキナリはポケギアの図鑑ページを開くと、パラセクトの情報をインプットした。
『パラセクト……冬虫夏草と言う菌類が精神を乗っ取ってその指示のままに動いている。普段は巨大なキノコを守る為に土の中で生活しているが、いざ危険が迫ると虫の体を使って対抗する面も』
(特殊能力は、っと……)
『特殊能力・あなほり……でんきタイプの技ダメージを無効にする』
 (電気タイプのポケモンは僕のパーティの中にはいない。悩む必要は無いさ、一気に攻めよう!)
「いけ、エビワラー!爆裂パンチで一発逆転を狙うんだ!」
『くらえや、オラアッ!!』
 しかし、エビワラーの渾身の一撃は呆気なく避けられてしまった。突如パラセクトが地中に潜ったのである。
『フガッフガッフガッ……』
 (どく・むし・じめんタイプのポケモンとも言えるパラセクトを出すとは、このセイヤと言う男侮れんな……特に近距離攻撃しか持ち合わせていないエビワラーにとっては分が悪い。残念だがコレでは……)
 エビワラーは心眼を使ってパラセクトの襲ってくる位置を判断しようとしたが、HPが少なくなっている分集中力が鈍ってきている。足元が多少ふらついていた。
 その瞬間、パラセクトの顔が地中に出てヘドロ爆弾を放つ。
『ま、真下か……畜生ッ!……マスター、面目次第もありません……俺の不覚でした……』
 HPがゼロになったエビワラーは紫色のヘドロにまみれて倒れこんでしまった。慌ててユキナリはエビワラーをボールに戻す。セイヤはゴーグルをかけたまま余裕の表情を浮かべていた。
 (前に戦った時より、断然強くなっている……!)
「醜態は見せられぬからな。私は、アズマ様の下己のプライドを賭けて戦っているのだ。さらにあの監視カメラを見よ!私とお前の戦いはアズマ様にキッチリと見られているのだぞ!!」
 ユキナリがそちらを向いた瞬間、監視カメラもユキナリの方向に向いた。

「レイカ君が敗北したと言うのも頷けるね。あれだけ力を増したセイヤ君と互角とは……」
 4階ではたった1人、アズマが大きな黄金の椅子に座りワインを嗜みながらモニターで彼等の戦いを見物していた。
 それぞれの階層に監視カメラが設置されており、2階と3階ではホウとレイカが戦いの準備を進めているのが解る。葉巻の煙が紫色に染まった。
 アズマは立ち上がり、赤い絨毯の敷かれた床を歩くと外を見る。
「年貢の納め時とはよく言ったものだが……」
 外を見ると大勢のカオス団員が警官隊と激しい戦いを繰り広げていた。入り口は閉ざされ、それを守ろうとしている軍勢と、突破しようとしている軍勢同士のぶつかり合いで大変な事になっている。
「まあ、切り札がある限り奴等にはどうする事も出来んだろう。なあ、ゴウセツ……」
 部屋の隅でうずくまっていた野獣が低い唸り声を上げた。息が部屋の温度を下げていく。
「涼しい位が丁度良い。暑いとワインが悪くなってしまうからね……フフ、良い味だ……」
 再びどっかと椅子に座り込むと、彼は再びワインと葉巻を嗜み始めた。

「ユウスケ君、もう少しだ!なんとかして彼等を助けなくては!!」
 ビルの外ではアクア平和グループの幹部、そしてトーホクのアバシリー刑務所を拠点とするトーホク警察が徒党を組んでカオスの本拠地を攻めていた。
 思ったよりカオス下っ端の勢いが強く、徐々に警官隊すらも押されつつある。何でもアリのカオスと、治安を守る程度の武器しか持っていない警官隊では負けるのが明白であった。
 それでも応援がどんどん駆けつけてくる。
「キリが無え!俺達の人員には限りがあるが、奴等の方はどんどん増えてくるぞ!」
「我等の指標、アズマ様の為にも、絶対にココを死守しなくてはならないのよ!!」
 外のざわめきはビルの中にいる者達には聞こえない。だからユキナリには外がどんな事になっているのか全く解らなかった。それ故にバトルに集中する事が出来たのだが……
「イズミ、裏口はダメなのか?」
「裏口なんて無いわ。それにタウン全体がカオスの組員ばかりよ!混沌の海って所ね……」
 ウシオは溜息をついたが、連絡をくれたユキナリを庇う様に組員を攻撃し続けた。
「争い等無益だ!もう逃げられないのは解っているだろう!」

「フン……何やら外は騒がしい事になっている様だな……」
 セイヤのゴーグルには外の警官隊がハッキリと映っていた。だが彼は動じない。扉は頑丈でカードキーが無い限り開かない。
 無理やり開けようとしても数時間はかかるだろう。バーナーでも焼けない強度を誇っているのだ。
「私とお前の戦いだ。誰にも邪魔はさせんぞ……決着を付けなければならんからな」
「僕も、セイヤさんと戦ってどちらが純粋に強いのか……絆の強さを見せます!」
「絆か……くだらん。アズマ様が聞けば一笑に付すだろう」
 (残りポケモンはどちらも5匹……まだ戦いはどちら側にも傾いていないわね。後はやっぱり精神力の問題かしら。兄さんに勝ったユキナリなら、倒せるハズ!)
「次のポケモンは……戦いは彼に任せます!」
 バトルフィールドに出現したフライゴンは涼しい表情でパラセクトを見つめていた。
『私に戦いを挑むつもりか……今ならまだ間に合う。貴様には手加減出来んぞ』
『フガガガガ……俺に脅しをかけるつもりか?面白え。やってみな……勝つのはこのパラセクト様だ!』
『互いに退けぬは道理か……マスター、この戦いは長丁場になりそうですね』
 先に攻撃を仕掛けたのはパラセクトだった。再びヘドロ爆弾を繰り出してくる。攻撃の速度が遅いのでフライゴンはそれを簡単に避けてしまった。反撃とばかりにりゅうのいぶきを吹く。
『フガッフガッフガッ……』
 素早くパラセクトは先程掘った穴の中に潜り込んだ。その瞬間フライゴンはエメラルドグリーンのオーラを出現させ、全身を震わせて地震を繰り出す。地面に潜ったパラセクトには2倍ダメージだ。
「馬鹿者、何をやっている!相手のタイプすら把握出来ていないのか!!さっさと……」
 セイヤはそこで口ごもった。ポケモンを下僕として見ている彼等にとって命令を下すのは屈辱。恐らく『穴から出ろ』と言いたかったのだろう。パラセクトはそれを感じて這い上がってきた。
『半分以下になったか……私の勝ちは濃厚だな』
『これ位窮地に陥らねえと面白くねえんだよ。バトルってのはな!』
 そう言うとパラセクトはいきなり毒の唾をフライゴンに吹きかけた。不意の一撃を避けられず、フライゴンは顔面に洗礼を受けてしまう。相手を猛毒状態に追い込む『どくどく』だ。
「ヤバイ……フライゴン、相手はターンを稼いでHPを減らすつもりだ!早く決着を!」
 そう言った瞬間、再びパラセクトは地中に潜り込んだ。フライゴンは顔についた毒を落とす事で隙が生じ、相手の動きが見えていない。だが勘で地震を繰り出した。
 だがその瞬間空中に飛び上がったパラセクトはフライゴンの背中にくっつく。そして背中に毒液を吐き続けた。
『苦しい……マスター……命令を……』
『フガッフガッフガッ!今の攻撃で俺の体力はレットゾーンだが……俺の勝ちだ!』
 不意をつかれ、動揺しているフライゴンはパラセクトの重みで振りほどく事が出来ない。ヘドロ爆弾を背中で連発され、あっと言う間に体力が減っていく。
「地震だ、もう1回地震を繰り出せば勝てる!」
 再びオーラを出現させ、最後の力を込めて地震を繰り出すフライゴン。
 しかし両者体力は著しく減っており、フライゴンはヘドロ爆弾の猛追で、そしてパラセクトは3度の地震攻撃でHPがゼロになってしまっていた。
 崩れ落ちる両者。またも壮絶な相討ちに終わってしまった。セイヤは冷たい瞳でユキナリを睨み付ける。
「腕を上げたな……ナオカタウンで戦った時よりも……互いの実力は再び五分へともつれ込んだ。
 しかし、勝つのは私だ!私が勝ってアズマ様への忠誠心を見せ付け、そして禍根を完全に断つ!!」
 拳をしっかりと握り締め、セイヤは吼えた。信じている者の為に、自らの野望の為に彼は戦っている。善も悪も無い。どちらも同じ概念で戦っている。信奉する対象が違っているだけなのだから……
「勝負を続けるぞユキナリ……どちらかが屈するまで終わらんのだ!」
 (負けるワケにはいかない……セイヤさんを倒して、皆を守るんだ。先に進むんだ!!)
 両者互いにボールを投げ、フィールドにポケモンを出現させる。ユキナリはそのポケモンに見覚えがあった。
「バタフリー……!」
『……お久しぶりですなぁ。バタフリー殿……ナオカタウン以来でしたかな!』
『そうだネ……君と戦った事よぉく覚えてるヨ。君に倒されたって事モ……』
 互いに対峙するルンパッパとバタフリー。あの時死力を尽くして戦った宿敵でもある。
『まァ、今回ばかりはどうかナなんて思ってるけド……幾ら君が進化してもネ……』
『そうかもしれんが……ワシもココで簡単に退いたらマスターに申し訳ありませんからな!』
 バタフリーは大きなパワーアップこそ無いもののレベルアップにより強さを増している。一方あの時ハスボーでありながら辛くも勝利を収めたハスボーはルンパッパとなり大きな成長を遂げていた。
 (覚えているよ……バタフリーの特殊能力……『はばたくつばさ』。粉系の能力を受け付けない……むしろ技の相性がこっちにとって不利なんだ。むし技はくさに2倍ダメージを与えるから……)
「バタフリー……前回の屈辱を晴らしてやれ。格下の相手に倒されたのだぞ」
『ハッハッハ、来るならどぉんと来い!ワシの再戦相手としてこれ以上相応しい相手はおらんワイ!』
『不足は無いヨ。気負いも無イ……だからこそ全力で戦えるかナ!』
 バタフリーはいきなり挨拶代わりとばかりに『サイコキネシス』を繰り出した。それを跳ね返さんとルンパッパはハイドロポンプを放つ。ルンパッパは動きが鈍い分、圧倒的なパワーでそれを補うのだ。
『おやぁ?進化した分だけ強くはなってるけド……動きは大分鈍ってるみたいだネ!』
『ワシも随分年を取ったからの。ま、若いモンには負けんゾイ!受け返してみるが良いわぁ!!』
 ルンパッパのハイドロポンプの勢いは非常に強かった。サイコパワーが圧倒されつつある。バタフリーは素早く身を翻してそれを避けた。一気にルンパッパの苦手な接近戦に持ち込もうとする。
 しかしくさタイプの回復技が大して役に立たない相手と戦っているルンパッパの場合、ハイドロポンプ以外に強力な技が無いのもまた事実だった。口を動かして方向転換を図ろうとする。
『チト厄介な相手だよネ……その口、塞いじゃうヨ?』
 バタフリーの全身から燐粉が出現した。粉は舞い落ち、全神経を集中させているルンパッパに降りかかる。
「いけない!痺れ粉だ!その技がある事を忘れてた……ルンパッパ、避けるんだ!」
「命令が遅いぞ、ユキナリ……それにもう手遅れだ。クックック……』
 セイヤの言う通り、ルンパッパは麻痺状態になってしまった。毎ターン一定の確率で体中が痺れて攻撃が出来なくなってしまう。こうなってしまうと後はバタフリーの独壇場だ。
 一方的にルンパッパをサイコキネシスで痛めつける。防御力と体力に秀でているルンパッパにはなかなかダメージを与えられないが、それでも何度も当たられれば確実にHPは減少していく。
 運悪く再び体の痺れが始まった。
『こ、このまま何も出来ずにワシは復讐されてしまうのか……否!一矢報いねば!』
『けっこーしぶといナ……あの時と同じで往生際が悪いよネ。さっさとやられちゃいなヨ!』
 だんだん目が霞み始めた。足元がぐらつく……このまま負けてしまうのか……
「ルンパッパ、最後まで決して諦めるな!何時もそうだったじゃないか!勝機を見失わなければ勝てた!」
「バタフリー、徹底的に痛めつけろ!ココで優位に立ち膠着した戦況を打開するのだ!」
 決してセイヤは具体的な事を言ったりはしない。そして、己の為に戦っているポケモンを励ましたりもしなかった。
「どうだユキナリ、この私が与えた特訓の成果は……我々の忠実な狗は立派になったであろう。ハッハッハ……」
『狗じゃと……!?ワシはマスターを一度たりとて主人と思ってはおらん!仲間じゃ!共に戦う仲間なんじゃ!!』
 痺れが解けた。油断していたバタフリー目掛けて水流が飛んでくる。バタフリーは思い切り壁に叩き付けられた。
「楽になってしまえば良いものを……ポケモンは目的を達する為の駒にしか過ぎん!奴隷同然の扱いで充分!」
「……シオリさんの事……?」
 その瞬間、セイヤの顔が能面の様に無表情になった。何も思い出すまいとしているかの様に……
「ルンパッパ、そのまま一気に押せ!」
『このままマスターに、夢を見せ続けてみせますゾ!』
 再び放った水流はバタフリーを倒した。ただルンパッパに対して吹き荒れた風はルンパッパのHPを大きく削り、再び両者は倒れる。バタフリーの切り札とも言える技『むしのいき』が命中したのだ。
「誰だ……誰がその名前を言った!!貴様達が軽々しく口にして良い名前では無い!!」
 セイヤは軽く狼狽して苛立ちを隠しきれず、思わず怒鳴ってしまった。屈強な下っ端がルナの方を指差す。
「……私の先生でしたから……」
 セイヤはルナを見つめた。大学の講義中、キャンパス……一度も出会った事の無い少女の顔を。
「何故貴様が私の恋人の名を知っている……!」
「憧れの人……勉強も人一倍優れていて、才色兼備に相応しい人だったもの……貴方も時折街で見かけた事がありました……私がミサワタウンのジムリーダーになる前にあの人と話した事も……」
 ルナの年齢は今年で18歳。丁度セツナの2歳下にあたる。彼の恋人が死んだのは数年前の事だ。そうなると彼女は当時中学生……いや、小学生だろうか?
「どういう事だ……貴様との接点が全く解らぬ……」
「シオリさんは……家庭教師のアルバイトをしていたんです。私がその生徒に……さっきからゴーグルをかけていて確信が掴めなかったけど……貴方だと解って。写真を見た事があるんです……」

『この人、誰なの?』
『私の大切な人……私を全力で守ってくれる人、かな』
 どちらかと言えば中流家庭に育ったルナは、ジムリーダーを目指している兄と同じく将来はミサワタウンへの引越しを経て、ジムリーダーになる様にと親に強制されていた。
 その時の彼女はその束縛が苦痛で、家庭教師であるシオリによく相談していた様だ。
『セイヤはね。とっても正義感が強くてポケモンバトルも強いの……私の恋人。相思相愛って解る?だから……将来はきっと夫婦になって、幸せに暮らしたいな……って思うわ』
『そうなったら……私にはもう会いに来てくれないの?』
『時々は一緒に遊びに行くわ。セイヤもジムリーダーの役職に興味があるから……もしかしたら貴方を越えるトレーナーになるかもね。そうなったらルナちゃんの立場が無いけれど』
『ふうん……相思相愛……』
 夕暮れに染まる空を見つめながら、シオリは微笑んだ。丁度その家庭教師の日から数えて3週間後に、ルナはシオリの死を知る事になる。葬式には出席出来なかった。

 セイヤは黙ってゴーグルを外した。ユキナリも見た事の無い冷徹な表情が露になる。
「シオリは何か言っていたか……?」
「山岳地帯で今度、貴方の好きな虫ポケモンの研究をまとめようと思ってるって……大学の卒業論文を完成させて卒業したら、貴方の両親とも話し合って結婚したいと言っていました」
「そうか……」
 無表情を保っていたセイヤの瞳から涙がこぼれ落ちた。セイヤは慌てて涙を拭く。
「私の顔は、変わってしまっているだろうか……」
「……はい。写真の人だとは解りますけど……印象が違いすぎて……」
「シオリが持っていた写真に写っていた私はきっと笑顔だったのだろうな。今では笑うと言う事をすっかり忘れてしまった……残酷な仕打ちが全てを変えたのだ。元には戻らん……」
 セイヤもまた1人の哀しき人間であった。悪人と言えども背負っている業があり、それだからこそ悪に染まった。下っ端の1人1人にもきっと同じ様な過去があるのかもしれない。
 忠誠を誓う理由は、むしろそんな深い所にこそあるのだろうとユキナリは思った。
「ユキナリ……貴様は大切な人間を失った事はあるか?」
「……ありません……でも、僕は貴方を止めなければならない!復讐を望む人なんて誰もいないんだ!」
「復讐だけでは無い!このままポケモンを野放しにしていれば人類は破滅の道を辿る事になる!その前に我々が止めるのだ!例え世界を敵に回してでも認可してもらわねばならん!」
 セイヤはゴーグルを再び装着し、フィールドにボールを投げ入れた。ポケモンが姿を現す……
『貴殿は何を望むか?某を倒して何を掴もうとする。答えよ!』
『シャーッ!知った事か。テメエを倒して掴むものなんか無えよ!俺達が掴むものはその先にあるんだ!』
 ユキナリもフィールドにガシャークを出現させていた。飛行タイプを持つレディアンに対してガシャークはエビワラーと同じ近距離戦を得意とするポケモンである。分はいささか悪かった。
「貴様もきっと……私の立場ならこの道を選んだであろう……大切なものを奪われた者は復讐する。たまたまその相手がポケモンであったと言う事だけ……今お前の兄が死んだらどうする?」
 屈強な下っ端が拳銃をホクオウの頭に当てた。ユキナリも脅しに屈してはいられない。
 (弾は入ってねえよ……セイヤ様だって人の子だ……それに……)
 下っ端は思わぬ事をホクオウに耳打ちした。
 (止められねえのは解ってるんじゃねえかな……お前の弟、強過ぎるだろ。警官隊に扉が破られるのも時間の問題だ。セイヤ様は時間稼ぎをしてるとしか思えねえ……アズマ様が逃げるとも思えねえが、な)
 (さあな……俺は解らん。この戦いの決着は誰にも解らないだろう。その時が来るまでは……)

『レディアン……素早い動きで敵を翻弄する為、その昔隠密がレディアンを使って敵を撹乱していたらしい。戦国時代忍者の囮として、現代ではポケモンバトルでその素早さを発揮する。
 恋愛の時期になると秋晴れの空を大量のレディアンが飛んでいるのがかろうじて目視確認出来るらしい』
「特殊能力は?」
『特殊能力・羅刹……素早さに応じて戦闘力が変化する。素早さが上がれば攻撃力も上がり、下がれば逆に下がる』

夜月光介 ( 2011/07/22(金) 18:44 )