ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第7章 2話『冷たき鎧を纏う女 VSユキエ』
『カンラカンラ、お祭りだわな。お祭りだわな!楽しいバトルの始まりだわな!』
 口を拍子木の様にカチカチ鳴らし、そのポケモンはニヤリと笑ってみせた。
「イワオドシだ……この局面でお前が何をすれば良いのか……よく考えるんだぞ」
 (イワ……そうか、相手はいわタイプを持っているのか!いわなら勿論ぴったりの相手がいる……)
 コセイリンは相性抜群の効果もあって、無傷で相手を倒す事が出来た。ココで梃子摺ってはそのリードが台無しになってしまう。ユキナリはコセイリンをボールに戻すと、ルンパッパを出現させた。
『おやおやマスター、あちらも楽しそうに笑っておりますぞ!いや、実に愉快じゃ!』
『踊れば皆幸せだわな!さあさ皆で踊らにゃ損々!……バトルの方が先だったわな』
「好敵手の登場か……ルンパッパもイワオドシも互いに得意な相性を打ち消しあっている。これでは相手に強烈なダメージを与える事は出来ん……少し勝負が長引きそうだな」
 (!そうか、こおりタイプを持っているイワオドシにはみずは普通にしか効かない!)
 ユキナリは判断ミスをしたのだろうか……だが、互いに能力はほぼ互角。そして相手には互いに効果的なダメージを与えるのが難しい。
 なまじ不利になるよりかは、こちらの方が良いのかもしれなかった。とにかく、迷いを捨ててただ相手を倒す事に集中すべきだ。
 (とにかく、相手を知らなければ勝利は無い……)
『イワオドシ・ゆきじしポケモン……雪山で踊る影を見つけた場合、それはイワオドシである可能性が高い。
 踊りが好きと言う理由だけで無く、外敵を油断させ、攻撃の機会を伺う為に踊っているのだと言う意見もある。強靭な歯は火打石の代わりになるそうだ』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・獅子舞踏……相手をたまに『こんらん』状態にさせる』
 (こんらん状態になる前にアタックするだけだ。とにかく突っ走るしか無い!)
「ルンパッパ!相手をみずで攻めて少しでも体力を削るんだ。ハイドロポンプ!!」
『了解しましたぞ。なかなか風流が解っておられる相手、楽しみですわい』
 遠距離攻撃は相手に隙を見せないが、相手も遠距離攻撃を持っている場合はあまり意味が無い。
「よし、相手はこおりで仕留めろ。イワオドシ、れいとうビームだ!」
 互いに強力な技がぶつかり合い、そしてしばらく膠着状態になった後それてぶつかった。
『痛いわな……』
『な、何の何の。まだ戦いは始まったばかりですぞ』
 (ハイドロポンプの力が少し上だったから、相手もそれだけ多くダメージを受けている……この際相討ち覚悟で突っ込ませるか……そうすれば後は1体しか残らない)
「ユキナリ、お前の考えは読めているぞ……そうはさせん。確かにこのままでは相討ちになってしまいそうだからな……ふぶきだ、イワオドシ!」
 雪獅子がさらに白く輝いて、口から強烈な一撃を吐いてきた。こうなればまだ相殺させるしか方法は無い。ユキナリは迷わずルンパッパに再びハイドロポンプを繰り出させた。
「2匹の力はほぼ均衡、全力でぶつかればどちらも倒れる……そうなるとユキナリ君はコセイリンとガシャークが残り断然有利に……勝てる、勝てるよユキナリ君!」
「そうはいかんと言っただろう」
 ホクオウはニヤリと笑って戦いを見守った。こおりとみずの激しい争いが続いている。
 (届け、あと少しでルンパッパに届く……)
 ジリジリと吹雪の勢いはルンパッパに迫りつつあった。吹雪では若干不利だ。反射的にルンパッパは横っ飛びで相殺を避け、距離を取ろうとする。
 その時には既にイワオドシがルンパッパに飛び掛っていた。
「イワオドシ、れいとうパンチだ!」
 氷で固められた拳がそのままルンパッパに命中する。ダメージは吹雪ほどでは無いものの、リードを取られてしまった事には変わりない。ユキナリは焦った。
 (敢えてこの局面でれいとうパンチとは読めなかった……!やっぱり兄さんはバトルの流れを掴むのに長けている……ならばこちらも常識をひっくり返すしか無いか……)
「どうしたユキナリ。相手の意表を突くのも有効な戦法だぞ?……焦るな。不利だとか有利だとかで相手との力を計るのでは無く、ただ負けるまで全力を尽くせば良い」
「ルンパッパ、ギガドレインだ!」
 ルンパッパは体を広げ、相手の体力を吸収し始めた。いわとこおりが相殺するが、つまり普通に体力を奪えると言う事である。両者の体力は少しだけルンパッパが上回った。
「一本取られたか……だが一歩も引くな!イワオドシ、もう一度吹雪だ!」
 イワオドシとルンパッパの攻撃が激しく火花を散らした。力と力がぶつかり合い、今度は磨耗するどころかますます強くなっていく。執念がパワーを増幅させ、一歩も譲りはしなかった。
『マスターに勝たないと申し訳が立たないわな……』
『それはワシも同じじゃ。マスターへの恩義はどちらも同じく感じておる!!』
 一瞬の隙を突いてどちらも退いたがもう遅かった。増幅された力は相手目指して吹っ飛んでいく。凄まじい爆発が起こり、そして2匹のHPはどちらもゼロになっていた。
「……エネルギーの増幅とギガドレインとはな……意表を突かれたのはこっちの方だったか……」
「兄さん。僕は最後まで手を抜かないよ。だって、6匹目と言う事は切り札が来るって事でしょ?」
 (ホクオウさんの、切り札……!!)
「その通りだユキナリ。そう簡単に負けはしない……いや、必ず勝つ!お前の踏み台になる事を確かに決心はしたが、バトルにおいて八百長だけはしたくない!」
 ホクオウが取り出したのはオーロラボールだった。やはり最後のポケモンにもこおり属性がついている。
「俺を乗り越えて偽ジムリーダーを倒せユキナリ!お前にならきっと出来る!!」
 フィールドに出現したのはリオネットであった。空中に浮かんでいる妖精の様なポケモンだ。
「流氷の妖精と呼ばれるリオネットは基本能力が高く、俺の切り札としては申し分無い。そしてもう1つお前にとって不利な情報だ……リオネットはみず・こおりなんでな」
「水!?」
 ユキナリは心の中で冷や汗をかいていた。ほのお・こおりであるコセイリンにはみずがよく効く。2倍ダメージをまともに受けて耐えられるワケが無い。
 そしてガシャークはリオネットに効果的な技を全く持っていなかった。一見数を見れば有利な様でも、バトルの流れは混沌としてきた様だ。
 (また最後にみず・こおりか……ユキナリ君を最後まで苦しめるんだね、ホクオウさんは……流石ユキナリ君のお兄さんって感じ。貫禄あるよね……)
(とにかく今は情報収集が先!悩むのは後でも構わない!)
『リオネット・りゅうひょうポケモン……羽根の様なひれを使って空中に浮かんでいる姿から、妖精と呼ばれている貴重なポケモン。
 温暖化現象に従って年々南極や北極では生息数が激減していった。だがトーホクでは今でもホッカイに近い海の中で見つかる事が多い』
 (特殊能力は……)
『特殊能力・みずのベール……どく・まひ・やけど等の特殊効果を受け付けない』
 (さらに厄介な特殊能力まで……どくは無効にされてしまうのか……コレじゃあ……)
だが可能性が残っている限り、諦めてしまうワケにはいかなかった。確かに兄と言う存在は
巨大であるが、それを乗り越えない限り偽ジムリーダーに挑む資格は無い。
「コセイリン、君の出番だ!」
 フィールドに出現したコセイリンはリオネットの姿を見てすぐに不利になる戦いだと理解した。
『ユキナリさん、コレが最後の戦いになれば良いですね……』
「出来るだけ粘ってくれ。とにかく力いっぱい相手の体力を減らすんだ!」
 だがコセイリンはほのおタイプの技しか持っていない。みずタイプとこおりタイプを持つリオネットには概算で相殺し普通のダメージを与えられるハズだ。
 だがそれが出来るかどうかは別問題である。何せ相手の水攻撃は本当によく効くのだ。
「よしまずは小手調べといくか。リオネット、バブル光線!!」
 その瞬間コセイリンは走り出していた。リオネットの頭から噴出している沢山の泡を避けきり、かえんほうしゃを繰り出すが効果的なダメージを与える事が出来ない。
『マスター、相手ハカナリ焦ッテイル様デスネ』
「お前の実力を見せてやればもっと焦るだろうな。次は波乗りだ!」
 攻撃は当たっている。こうなれば波乗りを躊躇させるしか無い。コセイリンはねっとうシャワーを使いリオネットの攻撃を遮断した。リオネットは軽いダメージを受けて怯む。
「よし、次はせいなるほのおだ!」
 コセイリンの体から青色の炎が噴出し、そのままリオネットを覆い尽くした。やけどにでもなってくれれば有難いのだが、みずのベールの力は見事にそれを許しはしない。
「炎攻撃はそこまでダメージを与えられない様だな……ハイドロポンプだ!」
 青い炎に包まれたリオネットの頭から凄まじい水が一点集中でコセイリンに襲い掛かる。虚を突かれたコセイリンはまともにそれを受けて大ダメージを喰らった。
 あっと言う間にレッドゾーンまで追い詰められる。相性も悪かったが相手の実力も高かったのだ。
 (何て相手だ……コセイリンの攻撃も効かない相手だなんて……)
「苦しませてはいかんぞリオネット、もう1度ハイドロポンプだ……相手の反撃を許すな!」
『了解致シマシタマスター』
 リオネットの頭から再度水が押し寄せてくる。コセイリンはもはや体も起こせなかったが掌底から炎を繰り出した。おにびだ。
 体を起こせないコセイリンの最後の抵抗であったが、それも大したダメージにはならない。そのままコセイリンは水に吹き飛ばされて戦闘不能に陥った。
「やはりダメだったか……」
 (ホクオウさんの切り札であるリオネットは黄色が近い緑か……まだ体力には十分余裕がある。ガシャークが活躍しない限りユキナリ君は負けてしまう……勝てると思ったのに……)
「戦況を引っくり返されても決して怯んではいかん。怯んだ時点でお前の負けが確定してしまう。お前のポケモンを最後まで信じ切るんだ……お前の力を見せてもらおう、ユキナリ」
 (兄さんが僕を誘っている……そうだ、僕はリーグに挑むんだ……兄さんに負けていてはそれすらも果たせない。ならば、先へ進む道は1つ!兄さんを倒す!!)
 ユキナリの脳裏に今まで戦ってきたトレーナー達の姿が浮かんでは消えた。そのどれもがユキナリにとって意義のある戦いであり、同時に彼をココまで押し上げた功労者達である。
 結果的にユキナリは絆と力と戦略を得てきた。その全てを出し切らなければ兄には勝てない。ユウスケとのバトルも同じだった。思いの強さは嫌と言う程知っている。
 兄や親友がリーグにかけている情熱も、また強さも。だからこそ諦める事は相手に対する冒涜になるのだ。
「ガシャーク、本気でリオネットにぶつかってくれ!」

 出現したガシャークはチロチロ舌を舐めながら相手を見つめていた。
『ほう……俺様の獲物としては文句無えな。強そうじゃねえか……』
『既ニ貴方以外ノ仲間ハ全テ私ト私ノ仲間達ガ倒シマシタ。ツマリ……』
『事実上本当に最後の獲物って事だな。シャ、シャ……やってやるぜ!』
「ガシャーク、相手にどくは効かない。攻撃によるダメージだけで相手を倒すんだ!」
 (追加ダメージも望めないなんて……相手の力は強いし遠距離攻撃ばっかりだし、その頼みの綱であるガシャークは近距離しか持っていない……)
 ユウスケが不安になるのも無理は無かった。しかもガシャークの場合凍らされて終わってしまう可能性も充分にある。ココが1つの山場であった。
「よし、一気に勝負をつけるぞリオネット!吹雪だ!!」
 やはりリオネットもこおりの最高技、ふぶきを持っていた。だがガシャークが持っている能力は素早さに尽きる。ふぶきを繰り出している時には既に背後から飛び掛っていた。
「馬鹿な、後ろだと!?」
 背中に張り付いたまましっかり爪を食い込ませ、ガシャークは『かみくだく』を連発した。リオネットの攻撃は頭から出てくるので背中にいるガシャークは死角になる。
『シャシャシャ……俺の敏捷性を甘く見ると痛い目見るぜ。やられな!』
「クソッ!リオネット、奴を引き剥がせ。波乗りを使って突き放すんだ!」
 リオネットは波乗りを使った後自分が吐き出した大量の水に飛び込んだ。ダメージを受けてもガシャークは背中から離れようとはしない。かみくだくをさらに追加した。
「番狂わせか……それも確かに戦法の1つ。だがココで諦めてはいけない!」
 リオネットは水に飛び込んだ状態で吹雪を繰り出した。水が固まりそして勢いよく割れる。割れてガシャークが自由になった時には既にリオネットは距離を取っていた。
『モウ打ツ手ハアリマセンネ。潔ク負ケテクダサイ』
『ざけんなッ!!俺は仲間内で一番往生際が悪ィんだよ!』
 ガシャークは咄嗟に毒液をリオネットの腹に命中させた。シュウシュウと溶ける腹にリオネットの攻撃が止まる。その隙を見逃さずにガシャークのポイズンクローが炸裂した。
『ソンナ馬鹿ナ……貴方ニハ遠距離攻撃ナド……』
『戦局に合わせて動けば負けは無え。油断が一番大敵……ってな……』
 リオネットとガシャークが倒れたのはほぼ同時だった。だがポケギアを見るにガシャークはふぶきとなみのりのダメージを受けてまだHPが少量残っている。
 薄氷を踏む様な勝利であった。殆ど奇跡としか言い様が無い。
「かみくだくで相手のHPを削り、毒液で怯ませてとどめを刺す……理想的な戦い方を見せてもらったよユキナリ……俺の負けだ」
「兄さん!」
 駆け寄ってきたユキナリを兄は思い切り抱きしめた。
「不安だったろう……俺と戦う事に対しての不信感もあっただろう……それを乗り越えてよく戦った。立派だったぞ……もう、お前の強さに不安は無い。
 偽ジムリーダーはお前の手で倒すんだ。お前ならきっとやれる……」
 ユウスケも兄弟対決の行方を最後まで見守り、熱いものが心に宿るのを感じていた。
 (強過ぎる……2人ともだ。出来るなら、リーグでは戦いたくない相手だよなあ……)

 ポケモンセンターで回復を済ませ、相部屋に戻った3名は、明日の戦いの確認をしていた。
「ユキエはセツナが持っていたポケモンをそのまま使ってくる。全てを乗っ取ったんだから当たり前と言えば当たり前だな……
 リーグ規定には違反するがセツナが出してくるポケモンを教えてくれた。この順番で出してくるかどうかは解らんが……」
 オニゴーリ・パルシェン・マニューラ・ラプラス・デリバード・ペンギペンの6匹がもともとセツナの使っていたポケモンらしい。
 その中で最も実力の高い切り札がペンギペンだそうだ。どうやら偽ジムリーダーの切り札になりそうな予感がした。
「注意すべき傾向はみず・こおりが3匹もいる所だ。
 でんきタイプのポケモンを持っていないお前には辛い戦いになるが、コセイリンやビブラーバの出すタイミングにさえ注意すれば勝てない相手でもあるまい。しかも相手はジムリーダーでは無いしな……」
 オニゴーリにコセイリンをぶつければ大丈夫そうだった。後はデリバードやマニューラか。みずを含まないこおりポケモンであればコセイリンが片付けてくれる。
 問題はみずを含む相手をどう牽制するかであった。効果的なポケモンはやはりエビワラーだけだ。
「だけど、その2匹だけじゃ無い。ビブラーバもガシャークもヤナギレイもルンパッパもいる……タイミングが重要になってきそうだ。何も考えずに出せば怒涛の如く倒される……」
「ビブラーバはこおり相手だと実質殆ど何も出来ずに倒されちゃうから、5匹をどう使っていくかだよね。ヤナギレイとマニューラの相性が悪いから気を付けると良いよ」
 勿論、この話し合いは本番では殆ど無意味である。刻々と変化するバトルの流れでは常に臨機応変な動きが必要となってくるのだ。だが、対策を立てずに挑むのもまた愚かなのであった。
「……セツナはポケモンを奪われ手が出ない。そして挑んだトレーナー達はあそこから出てこないと来てる。狂った話だ……先へ進むにはやはりお前の力が必要だと思う。
 ふがいない兄だと嘲笑ってくれても構わない。お前のその強さが、ジムの解放に必要なんだ!」
「……解ってるよ兄さん。どちらにせよ僕はユキエさんと戦わないとこの街からは出られない。それにふがいなくなんか無いよ……兄さんは。
 ゴウセツ山を登る為には兄さんの知識と経験が僕達にだって必要になる。僕達2人だけで山を登るのは到底不可能だもんね」
「……ユキナリ……」
 敗者であっても夢を追いかける者は決して去れはしない。ホクオウもユウスケもユキナリに負けた身であるが、それでもリーグに挑むつもりであった。トサカだってそうだ。
「とにかく明日だよね。それに備えて寝るしかないよ……」

 深夜、また不穏な影が街に蠢いていた。偽ジムリーダーを恐れる住民達は戸締りを厳重にして誰1人外へ出る者はいない。影が暗躍するにはうってつけの場所だと言えよう。
「レイカ様……この街の住民の戸締りは厳重で手が出ません。たかをくくってガラス窓を破壊しようものなら防犯ベルが鳴ります。この街は諦めるしか……」
「今はザキガタで盗ったポケモンを無事に支部に送り届けるのが任務よ。転送しきれなかったポケモンだけでも持っていく。今はこの街に関わっている時間は無いわ。
 この街のポケモン対策は後で考えましょう。今はサッサとゴウセツ山へ!」
 カオス3幹部の1人らしい女性は部下に命令すると足早に街を後にした。北に近付くにつれ止んでいたハズの雪もまた降ってくる……底冷えとした道路を彼等は通り去っていった。

 翌朝……ユキナリは目を覚まし、2人を起こしにかかった。朝食を取りシャワーを浴び服を着替え身支度を整え、自転車を持って外に出る。外にはセツナが待っていた。
「おはよう……結局、頼む事は心苦しいんだが……誰が彼女に?」
 ユキナリがしっかりとセツナを見据えると、彼は頷いた。
「解った。とにかく彼女に呼びかけて扉を開けてもらおう。その後は僕達にも手は出せない……」
 動く歩道は昨夜雪が降っていたと言うのに綺麗に溶かされていた。ハイテク都市であるこの場所はあらゆる作業が効率的に行われている。それ故警備もまた厳重だった。
 そのままジムの扉の前に到着すると、セツナは大声でユキエを呼んだ。
「挑戦者だ!傍観含め2名をジムの中に入れてほしい!!」
 そう言うとジムの自動ドアがスッと応え開いた。ユウスケとユキナリが中に入ると扉は閉まりもう開かなくなってしまった。ホクオウとセツナは入り口近くで待機する事になる。
「ユキナリの強さは俺が保障する……きっとユキエを倒してくれるだろう」
「勿論、倒してくれるならばユキナリ君にはバッチと技マシンを渡すよ。この悪夢が終われば君やユウスケ君ともバトルが出来る。運営が滞れば同時にリーグ本部も困るからね……」
 そう、挑戦者が本部に来なければ試合は当然無く、そうなると防衛回数も極端に減る事になる。そうなればリーグが貰う資金は減りジムの経営も危うくなる。
 その悪循環を断ち切る為にも、ユキナリには勝ってもらいたかった。もしユキナリが敗れれば玉砕覚悟でセツナとホクオウがジムに乗り込む手筈になっている。
 だがそうなれば事態は絶望的になるので、出来れば避けたかった。

 ユキナリはジムの中に入り、その氷の装飾に度肝を抜かれた。
 壁・天井ジムを構成するもの全てが薄くて丈夫な氷に包まれ、調度品やフィールドも全て氷に覆われているか氷から作られているのだ。そして外からの光を受けて輝いている。
「ユキエさん。ココにいらっしゃるんですか?」
 呼びかけに応えたのは妖気に包まれた女性だった。日本古来の純白着物を身に纏っているがその足は無い。髪の毛は薄い水色で、ユキナリと比べると殆ど色が陰陽だった。
 フッと相手側のフィールド上に姿を現した女性の幽霊はクスリと笑うと天井を指さす。
「うわっ!?」
 天井から氷漬けにされたトレーナー達がゆっくりと降りてきた。広い部屋の隅に運ばれ、その恐怖の表情はユキナリを見つめ、助けを求めている様にも見える。
『彼等は皆生きているわ……私人を殺すの好きじゃないの。美しいのは生きているものだけ……いえ、死んでいる私だって充分綺麗かしら。ホホホ……』
 彼女はそう言うとユキナリの方を見据えた。既にその手にはボールが握られている。
『ユキナリ君……とか言ったわね。良い表情してるわ、迷いが無い。でもそれは同時に負けた時最高の調度品となってくれるって事よね。私の宝物に加えてあげる……』
「貴方に勝てない様ならリーグの人にも勝てないでしょう。僕は勝ちます!」
『貴方が負けた時にはそこにいる貴方の相棒も一緒に凍らせてあげるわ。素敵でしょう?……人はね、信じたり絆を作ったりするけど極限状態じゃ脆いもの。
 所詮自分が一番可愛いのよ。貴方の相棒も極限状態で最後まで貴方を信じてくれるのかしら……』
「……貴方の恋人の事ですか?」
『そうよ。彼は私を裏切って山を降りた……結局私は極限状態ではただの足手まといでしか無かったって事……寒さで死んだ私は氷の力を手に入れたわ。
 その力で彼を呪い殺してあげた……彼だけは生かしておきたく無かったし……でも罪も無い人間を殺すのは私もあまり好きじゃないの。コレはただのお遊び、ゲームみたいなものよね』
「ゲ……ゲーム?トレーナー達を氷漬けにして楽しむ事がゲームですって?」
『それが嫌なら抗いなさいな。見た所貴方はかなり強そうだし期待しちゃうわ……楽しませて頂戴ね……勝った時の興奮は何者にも代えられない喜びですもの……』
 冷たい笑いだった。心の底から冷えている。冷徹に人間を捨ててしまっている……幽霊である彼女にはもう人の心は残っていないのだろうか。
 だが今はそんな事に気持ちを置いている場合では無い。そう、バトルに意識を集中するべき時だ。
「6VS6バトル、交代制ですね」
『解っているなら話が早いわ。最近は私に勝てそうな見所のあるトレーナーも少なくて退屈していた所なの……貴方なら私と良いバトルが出来そう……ゾクゾクしちゃう……』
 冷たく刺す様な氷の瞳はガラスの様にユキナリを映していた。感情が希薄で何処までも残酷で無邪気で恐ろしい女性だ。ユキナリは冷静を保とうと息を吐いた。
 (呑まれるな……呑まれた時点で終わる……自分と仲間を信じるんだ……)

 床は綺麗に凍り付いており、フィールドの区切り線もしっかりと見える様になっている。ユキエは自分のいるフィールドの方へオーロラボールを投げた。
『俺様に勝てると思ってんのか?甘いな。俺様にはこのでっけえ爪があるんだぜ!』
 (マニューラか……先手としては充分強い。相手をするのはコセイリンしかいないだろう……出来れば体力を大幅に残してアドバンテージを取っておきたい所だ……)
 ユキナリはフィールドにコセイリンを出現させた。既に準備は出来ていると言わんばかりに青い炎を纏っている。それはまるで氷の鎧を連想させる様な炎であった。
『……炎ポケモンを持っているのね。ま、いいわ。ココで先手を打たれようが後で押し返せば何とかなるもの。マニューラ……どちらにせよ全力で戦ってね』
『解ってますぜマスター。有利不利なんざ俺様には関係無えって所を見せてやりましょう!』
 マニューラの眼が紫色に光っていた。どうやらユキエの妖力により洗脳されているらしい。
 (戦わなくても済む方法は無さそうだ……本当ならセツナさんと戦いたかったけど……)
 ユキナリはマニューラの項目をポケギアで調べ、データを見た。
『マニューラ・かぎづめポケモン……殺戮を好む残忍な性格で、氷を纏った爪を用い相手を低温火傷状態にしてしまう。
 最近見つかった珍しいポケモンで、どうやら変種では無いかと言う議論が起こっているが、真実はまだ明らかにはされていない』
「特殊能力は……」
『特殊能力・冷酷氷上……ターン経過ごとにこおりタイプの技の威力が増していく』
 (いや、短期決戦も充分可能だろう。この能力を利用させてはいけない!)
 ユキナリの決意は固かった。何としても先に進まなければならないと言う思いが、彼を動かす大きな原動力になっていたのである。そして、仲間を全力で守ろうと思う勇気も。
「コセイリン、マニューラに……いや、ユキエさんに僕達の戦いを見せよう!」
『ええ。見た所そこまでの防御力は持っていない様です。一気に決めましょう!』
『なめられてんのか。ええ!?この俺様を侮辱するとは良い度胸だ……潰してやる!!』
 逆上したマニューラは相手の技を考えずに突っ込んでくる。『みだれひっかき』だろうか。
「コセイリン、かえんほうしゃだ!」
 コセイリンの青い火炎がマニューラを貫く……と思われたが、その瞬間マニューラの姿が消えた。背後に回ったマニューラが思いっきりコエンの背中を傷付ける。
『ニャハッ!』
『クッ……卑怯な攻撃を使いますね。あくタイプの本領発揮ですか……』
 (い、今のはだましうち!相手の技に合わせてのカウンターを簡単に成功させるなんて……)
 ユウスケも呆気に取られていた。瞬時に背後に回る瞬発力、危険なのはマニューラの素早さだったとは……
 コセイリンは慌てて背後に火炎放射を吐いたが、もうマニューラは眼前に立っていた。また鋭い爪で攻撃される!とユキナリは覚悟したが……
『ニャフッ!?』
『残念……不意打ちはそう何度も成功しませんよ。ねえ、ユキナリさん!』
 尻尾で叩いて相手の動きを封じ込めた後、火炎放射を近距離から当てた。コレにはひとたまりも無く、マニューラとて大ダメージを受ける。
 コセイリンの方はそれほど手痛いダメージでは無かった。ハッキリ言ってしまえば蚊が刺した程度のダメージである。
『バ、馬鹿な……俺様の動きを簡単に見切るとは……テメエ、何度となく修羅場をくぐってきたんだな。俺様を倒せると言えたのも頷けるぜ……
 だが、ターンは既に経過しつつある!ここで貴様を凍らせてしまえばこっちの勝ちなんだよ!』
 マニューラは掌から冷たい球体を作り出し、それをコセイリンに命中させた。
『アイスボールはこおりにする判定を持ち、連続攻撃が可能だ!』
 あまりにも早い球体のスピードにコセイリンは防御姿勢を取るしか無かった。腕を交差させ身を守るが、3発目が当たった瞬間にコセイリンは凍り付いてしまう。
『勝負あったわね……マニューラ。好きなだけ相手を引っ掻いていたぶりなさい』
『言われるまでも無え!さっきの炎は痛かったぜ……たっぷり返してやる!』
 マニューラはそのまま滑り込んできて致命の一撃を与えようとしたが……青い炎の獄舎に巻き込まれ、そのまま黒焦げになってしまった。
「せいなるほのおはこおり状態から抜け出せる技の1つなんですよ、ユキエさん」
『……相手に与えたダメージはコレだけとは……使えないわね、貴方』
 ユキエは冷たい眼で相手を見下ろすと、ボールに戻してそれを宙に浮かべた。
『暫くそこで大人しく反省していなさい。後で戻してあげるわ……』
 ユキエが手を握り締めた瞬間にボールは丸い氷に閉じ込められ、天井付近にまで上がり動かなくなってしまった。フンと息をつくとユキエは冷酷な笑いを浮かべる。
『やろうと思えば何時でも貴方をあの状態に出来るのよ……』
 (落ち着け、挑発に乗ったら終わりだ。今、コセイリンは力をフルに発揮してHPを残せた……ユキエさんのトレーナーとしての腕は確かに弱い!)
 ユキエには確かに強い妖力があるものの、トレーナーとしては新参者に過ぎない。だが、負けたトレーナー達はそこまで弱い腕の持ち主ばかりでは無いハズだ。
 何しろ7人目のジムリーダーに挑んでいるのだから……
 (ユキエさんにはまだ余裕が見える。良い気になるなとでも言いたそうな……)
『見事、と言っておこうかしら。流石に6名ものジムリーダーを倒してきただけはある……でも私と戦って負けたトレーナーと変わらないわ。皆そうだったもの』
 ユキエはまたオーロラボールを取り出し、氷のフィールドに投げ込んだ。
『マスター、彼が今度の挑戦者なのですか?』
『私の力も知らずに勝負を挑んだ事を後悔させてあげなさい。ラプラス!』
 (ラプラスか……兄さんが言っていたみずを含む氷ポケモン……それなら、やっぱり交代させてエビワラーを出さなければ!)
 ユキナリはラプラスを見て即座にポケモンを交換した。エビワラーもファイティングポーズを取っている。今回の試合はコセイリンとエビワラーの独壇場であった。
『なるべくならサッサとやっつけて、余裕を残しておきてえ所だが……』
『私を見てそんな事を言っていられる度胸は認めましょう。でも、それだけですか?』
 (大きい=強いとは限らない……エビワラーにとっては拳が当たるチャンスが多くなっただけだ……それに、忠誠心が薄い。
 ユキエさんは妖力の洗脳によって絆を作っているから、協力の度合いが弱いんだ……ユキナリ君なら一方的に押せる相手だよ!)
 ユキナリは再びポケギアを見た。
『ラプラス・きしょうポケモン……猟師によって大量に捕獲された過去を持つ絶滅危惧種のポケモンで、現在ではその姿を見かける事は殆ど無い。
 氷柱のある様な洞窟の奥から、時折ラプラスの声が聞こえるとの噂が各地で報告されている。寂しがり屋な性格』
「特殊能力は……」
『特殊能力・みずのよろい……あめが降ると防御力が1.5倍になる』
 (大丈夫、ジムの中では雨は降らない。脅威では無いハズだ!)
『それではいきましょうか……ラプラス、なみのりを使いなさい!』
『了解致しました、マスター』
 ラプラスはひれを地面に叩き付け、そこから波を出現させる。その波しぶきがエビワラーを襲うが、それに構わずダメージを受けながらも猛打を開始した。
『どうしたぁ!もっと攻撃してきやがれ!』
 怒涛の乱打にラプラスは対応出来ず、その激痛に耐える事も出来ないでいた。完璧にエビワラーに押され怯んでいる。ユキエの命令にも応じる事が出来ないでいた。
『俺は変わったんだ。マスターの喜ぶ顔を見る為なら何処までだって強くなってみせる!』
 ユキエも狼狽し、一旦距離を取る様に命令を送ったが、自らが作り出した波のせいでエビワラーの攻撃から脱出する事が出来ない。
 既にエビワラーは水の中で目をつぶっていたが、殴る相手は常に目の前にいてくれた。水からエビワラーが脱出するのとラプラスが倒れたのはほぼ同時。あっけなく倒れたラプラスのHPは既にゼロになっていた。
『この程度か……やっぱ、恐怖で相棒を無理やり従わせても無意味って事かもしれねえな……』
『クッ、生意気な口を!……まあ良いわ。手駒はまだ残っている。それも、今よりもっと強力なポケモンがね。せいぜい今は気張りなさいな……すぐに後悔させてあげる』
 ユキエは鋭い目でエビワラーを睨み付けた。この2戦でエビワラーとコセイリンは手痛いダメージを受けずにポケモン2匹を撃破した事で余裕が生まれている。
 勿論その余裕は他のポケモンのカバーに当てられるハズなのだが……
 (解っているさ……絆は弱くても、セツナさんが使ってきたポケモンには間違いないんだ。決して油断しちゃいけない……特に、こっちは元々不利な条件で戦っているんだから……)
 ユキナリはエビワラーをボールに戻すと、ユウスケの方を見やった。
「大丈夫。ユキナリ君の何時もの頑張りで勝てるよ!」
 励ましが今は心底ありがたかった。ユキエと2人きりで対峙した時の事を考えるとあんまり良い気分では無い。親友が傍にいると言う安心感もまた、ユキナリを支える大切な柱の1本だった。
『それじゃ、今度はこれでどうかしら?』
 ユキエは再びオーロラボールを取り出すと、フィールドにボールを投げ入れた。その瞬間デリバードが姿を現す。デリバードもまた紫色の瞳に毒されていた。飼い主であるセツナの事を忘れさせているのだ。
 (デリバードか……とにかくピンチになるまで温存しておきたい。他のポケモンに任せてみよう)
 ユキナリはそう思うとフィールドにボールを投げ入れ、ルンパッパを出現させた。
『ふむう……サンタ、と言えばクリスマスじゃな。いやあめでたいめでたい!踊るかの?』
『マスター、あのポケモンは阿呆ですか?』
『そうかもしれないわね……ユキナリ君、あんまりふざけた真似をしないで頂戴。本気で戦って』
「ユキエさん、僕は何時だって本気でバトルする事を望んでますよ。勿論、ルンパッパもね」
『そうとは思えないけど……』
 呆れるユキエをよそにユキナリはデリバードの情報を探した。
『デリバード……サンタポケモン。12月24日の深夜に街へ出ては人々の吊るしてある靴下にプレゼントを入れる習性があり、サンタポケモンの由来となっている。
 ただプレゼントはお菓子か爆弾なので、酷い時には家屋がまるごとデリバードの爆弾のせいで灰燼に帰した事もあるらしい』
 (技はプレゼントが入っているだろう……特殊能力は?)
『特殊能力・クリスマスムード……あられが降っている間のみ、プレゼントの中身が必ず爆弾になる』
 (必ずあられの後でプレゼントを使ってくる……爆弾攻撃は少々厄介だぞ)
『勝負を焦っていたのはこの為だったのね……残念だわ。デリバードのこおり攻撃をまともに受けると2倍ダメージを受ける。そしてひこうタイプの技でも……ココは優位に立たせてもらわなくちゃ……』
 ユキエの顔が笑いに歪んだ。ゾクッとする様な恐ろしい表情に、ユキナリも足が少し竦む。
 (みずではダメージを相殺出来ない事は解ってる……ただ、みずタイプの攻撃は普通に効くんだ。みずの大技を当てられればまだ勝つチャンスは充分にあるハズだから……)
 考えた後、ユキナリはルンパッパに命令を出した。先に動いたのはルンパッパの方になる。
『ルンパッパ!基本的に相手にはくさ攻撃は効かない!ミズキさん直伝のハイドロポンプを使うんだ!』
『ほう、ワシもそう思っていた所じゃ。気が合うのう!ちょっくら気張ってみるか!』
 ルンパッパは大きく息を吸うと、そのまま強力な水流を吐き出す。だがデリバードは空を飛んでその攻撃を回避した。そして『あられ』を繰り出す。天井が怪しげな雲に覆われ、その雲からあられが降ってきた。
「うわ、僕等の方にまで降ってくるよ!」
 ユキエは微笑んでユキナリとユウスケの周りにオーラの障壁を作った。全てのあられが弾かれる。
『貴方が負けたら2人とも私のコレクションになるんですもの……傷を作っちゃいけないわ』
 理由はどうであれ2人はユキエに一応感謝せねばならなかった。一方ルンパッパの方は上空に向けて軌道を修正するものの、あられのダメージのせいでなかなか標準を合わせる事が出来ない。
『そんじゃ、贈り物と行きますか。ねえマスター』
『たっぷりあげて頂戴。たっぷりね……』
 デリバードは袋から松ぼっくりに似た手榴弾を取り出すと、ルンパッパに向かって放り投げた。慌てて攻撃を止めて逃げに転じようとするものの、動きが遅れてまともにその攻撃を受けてしまう。
 爆発は小規模なものだったが、ルンパッパは怯んだ。その瞬間また投げられた手榴弾が床に転がる。
 さっきよりも強力な爆発が起こり、ルンパッパは焦げた状態で無様に床に転がる事になった。
『うーん。特大爆弾は何処だったっけかなあ……さっきのは小さいのと中くらいのだから……』
 ポケギアでチェックしてみると中攻撃のダメージは浅めだった。床で爆発したからに違いない。それでも小攻撃はまともに当たった。ステータスを見ると既に半分近くのHPを奪われてしまっている。
『あ、あった!ありましたよマスター!……それじゃ、これでおしまいって事で!』
 倒れているルンパッパに向かって再度手榴弾を投げるデリバード。床に落ちる……寸前でルンパッパはそれを拾って投げ返した。呆気に取られるデリバードの近くで特大爆弾が爆発する。
 (あらら……威力120の攻撃を自分でくらってちゃ世話ないよ……流石ルンパッパって所かな)
『……や、やりやがったな……絶対、ぶっ潰す!』
 憤怒の形相を見せたデリバードは手榴弾をやたら滅多に投げてきた。勿論全部を投げ返す余裕も無いので、立ち上がったルンパッパはハイドロポンプを放った。
 飛んできた手榴弾もろともそれがデリバードの元へ返ってくる。殺傷能力は失われたがハイドロポンプ自体のダメージは受けてデリバードはフラフラになってしまった。
『と、特大爆弾、特大爆弾は何処だ!何処……』
『待ちなさい、もうすぐあられが消えるわ。もう1度あられを使いなさい!』
『五月蝿え、ゴチャゴチャ命令すんな!コイツを倒せりゃ良いんだろ?黙ってやがれ!』
 激昂したデリバードは最早ユキエの言葉に耳も貸さない。ゴソゴソと袋の中をあさり、必死に特大ダメージを与えるハズの手榴弾を探している。
 ルンパッパは再びハイドロポンプを繰り出したが、執念でそれを避けられてしまった。その瞬間あられが止む。
『畜生、こうなったらどんなんでも良い!くらえ!!』
 滅茶苦茶に手榴弾を投げたデリバードに、今度こそハイドロポンプが命中し、デリバードは床に倒れこんでしまった。ホッと胸を撫で下ろしたルンパッパの足元に、手榴弾が転がる。
「あ、危ない!」
 時既に遅し、ユキナリは逃げろと命じたがもう駄目だった。特大ダメージを与える手榴弾がまともに命中し、その爆発の衝撃を受けて床に転がった手榴弾も一斉に爆発した。
 プレゼントは爆発に巻き込まれ消滅する。
『馬鹿が……へッ……』
 連鎖爆発が治まった後には黒焦げになったルンパッパとデリバードの姿があった。相討ちだ。
「変則的な攻撃を仕掛けてくる嫌な相手だったけど、何とか倒せたね……」
『まだよ……まだ終わりじゃ無いわ。最終的には必ず私が勝ってみせる。必ずね……』
 (ヤナギレイは戦えるとしても、やっぱり勝負にならないビブラーバがいるのがこの戦いの不利な点だろう……次の相手次第では、早めにビブラーバを出して戦況の把握を図らないといけないかもしれない……)
 ユキエとユキナリは互いのポケモンをボールに戻し、そしてユキエのみが最初にボールをフィールドに投げ入れた。閃光と共にオニゴーリが姿を現す。
「オニゴーリ……タイプがこおりだけと言う非常に珍しい種類のポケモン……」
『そうよ。それ故に強力なこおりタイプの技をそのまま覚えるわ。小細工無しで戦うにはうってつけの相手ね』
 ユキエはそう言うとオニゴーリの方を見た。
『任せてくださいマスター。必ずや奴のポケモンを沈めてみせます』
『期待してるわよ……』
 ユキナリはオニゴーリを見据えると、ボールを取り出しフィールドに投げ入れた。出現したのはビブラーバだ。
『ハッハ!血迷ったのか?』
「血迷ったワケじゃない。僕の育てているポケモンの1匹として、しょうがなかったんだ!」
『2軍がいないって事?あらあら、よっぽど道中を駆け抜け旅をしてきたのね……まあ、勿論こっちにとっては大歓迎よ。サッサとやられちゃって頂戴』
 (解ってる。ドラゴンタイプ唯一の天敵、こおりタイプを相手にしてるからこんな事になってるんだ。ビブラーバは決して弱いワケじゃない……少しでもダメージを与えられれば……)
 ユキナリは少しでも情報を探ろうとまたポケギアを開いた。
『オニゴーリ・がんめんポケモン……元々顔を見せたくないと願っていたユキワラシが氷で自らの顔を覆い尽くしたポケモン。
 氷の顔面は鎧にもなっており、少し位の攻撃であれば跳ね返してしまう程。空気中に含まれている水分を利用してどんな形にでも姿を変えられると言われている』
「特殊能力は……?」
『特殊能力・ふゆう……じめんタイプの攻撃は効果無しになる』
 (駄目だ、これじゃあダメージを与えられそうに無い……地震が止められるなんて……)
『残念だったわね。開始と同時にじしんを与える作戦だったんでしょうけど、それは無駄よ。後は何を覚えているのかしら?遠距離攻撃ならこっちも持っているわよ。試してみる?』
『……フン、どうせこの戦いでは捨て駒さ……だがマスターは俺がお荷物だとは思っちゃいねえ。相手が悪かっただけだ。潔く散ってやるさ……まあ、少しは足掻いてみるが……』

 2匹はフィールド上で向き合い、動く時を今か今かと待っていた。一瞬のチャンスに賭けているビブラーバとしては、何としても一撃は与えたい。
 4倍ダメージ確定とは言え、避けるなりすれば攻撃の機会は残される。対するオニゴーリはとにかく無傷でビブラーバを倒せる自信があった。1発当てれば終わり。それだけだと思っていたのだ。
『オニゴーリ、れいとうビームよ!』
 先に仕掛けてきたのはオニゴーリだった。ビブラーバはそれを避けてかみくだくで相手を攻撃しようと近寄る。
『打撃攻撃で俺と張ろうってか、面白え。受けてたってやるぜ!』
 オニゴーリはそのまま近付いてきたビブラーバに強力なずつきを見舞った。怯んで完全に無防備になったビブラーバの腹にれいとうビームが直撃する。
 連携攻撃の威力に叶う術無く、そのままビブラーバは倒れてしまった。
『弱え、弱えよ!この調子なら次も行けるな!楽勝ですよマスター!』
 (ゴメンよビブラーバ、辛い思いをさせてしまって……勿論、借りは返すさ。10倍にしてね!)
 ユキナリはビブラーバをボールに戻すとコセイリンを出現させた。まだまだ体力は有り余っている。
『い、痛ッ!』
 だがどうした事か、出現した瞬間にコセイリンのHPが減ってしまった。床をよく見てみるとフィールド上にまきびしが撒かれている。どうやらオニゴーリの技らしい。
『たまごからの引継ぎでオニゴーリは『まきびし』を覚えるのよ……勉強になったかしら?』
『炎ポケモンだろうが何だろうが、簡単には倒れねえよ。さて、どうする?』
 オニゴーリはそう言うとコセイリンを睨み付けた。だがコセイリンは一歩も引かない。
『ユキナリさん。僕の戦いを見ていてください……必ず勝ちますから!』
 (コセイリンの攻撃力は半端じゃ無い……2発当たれば勝つんじゃないかな……)
 ユウスケの言う通りだった。コセイリンは素早さと攻撃力が高い。2倍ダメージを与えられるこの戦いにおいては、2発強力な攻撃を当てればそれで充分だった。
 いや、当たりが良ければ1発で決められるかもしれない。
『それじゃあ行きましょうか。オニゴーリ、ずつきを当てて!』
 空中からそのままのスピードを保ち突進してくるオニゴーリ。コセイリンは掌底から蒼炎を出現させるとそれを相手に投げた。『せいなるほのお』だ。だが当たる瞬間にオニゴーリは消えた。
『後ろ!』
 振り向かずにコセイリンは再び『せいなるほのお』を後ろ向きに投げた。オニゴーリはその攻撃を受けて怯む。狼狽して動けなくなった所を『火炎放射』が襲った。
『ば、馬鹿な……俺の動きを完璧に見切るなんて……』
『いいえ、貴方達はセツナさんのポケモンです。本能的に後ろじゃないかなって思っただけで……マニューラさんがその動きをしてきた事を覚えてましたから、反射的に投げてました。』
 完全に逆の動きをされて、オニゴーリはあっけなく倒れてしまった。ユキエも動揺を隠せない。
『クッ……まきびしで固定ダメージを与えたとは言え、まだ余裕があるなんて……いいえ、まだだわ。貴方の思い通りの試合になんかさせてたまるものですか!』
 ユキエは歯噛みするとオニゴーリをボールに戻し、フィールドに新たなポケモンを出現させた。巨大な貝……その中に顔がある。パルシェンだ。
『ふう……どうやら僕の役目はここまでみたいですね。でも……結果的にユキナリさんがこのバトルに勝利さえすれば僕達の勝ちに間違いはありません。諦めないでください、ユキナリさん!』
 ユキナリはしっかりと頷くと、パルシェンのデータを調べ始めた。
『パルシェン・にまいがいポケモン……鋭い針や自らの身体を使った爆発を得意とする特攻タイプ。
 海水浴に来た客が黒焦げの状態で水面に浮かぶ事故は、あらかたパルシェンの爆発に巻き込まれたからだと言われている。充分な殺傷能力がある為、迂闊にパルシェンを刺激してはいけない』
「特殊能力は……」
『特殊能力・甲殻防御……防御体勢に入ると防御力が2倍になる』
 (殻にこもると、と言う事か……とにかくパルシェンには大したダメージは与えられそうに無いな……)
 炎タイプの技オンリーのコセイリンではまず勝ち目は無い。水での2倍ダメージが待っている。
『少しでも構わない、微量でも……ダメージを与えて次に繋がなくちゃいけないんだ!』
『俺様に勝とうとは良い度胸だ。ま、無駄だがな……ねえ、マスター』
『ええ。少なくともコセイリンが貴方に勝つのは絶望的でしょうね。ま、せいぜい足掻いてみなさい』
 悔しいが勿論ユキエの言う通りであった。ユキナリは俯きながらもコセイリンの粘りを期待する。

夜月光介 ( 2011/07/17(日) 16:13 )