ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第6章 4話『密かな野望』
 その頃ツンドラタウンの生物研究所では、何者かとエリモが電話で会話をしていた。
「ええ、解っていますよ。最も連盟の連中は懐疑的ですけどね。いえいえ、不可能と言う事は……勿論連盟の中にも我々の様な邪な人間はいますから。
 話がまとまれば数年後には『合成獣』製造が公式に認可される日が来るでしょう。それまでこのバイオバンクは貴方と私だけの秘密と言う事で……
 え?まだニューアイランドで研究を続けていらっしゃる?それはそれは。ロケット団が潰れたと言うのにまだ潤沢な資金がございましたか。
 ではそちらにもバイオバンクが……はい、はい。こちらはゴウセツを追っているんですよ。
 え、そちらにはもう既にDNAサンプルがある?羨ましい限りですね……解ってます。横取りする気はありませんから安心してください」
 エリモがかけている電話の近くには巨大なバイオバンクが存在していた。ユキナリ達にも見せていない地下の巨大な研究施設だ。ポケモンのクローンが沢山バンクの中で寝息を立てている。
 その中には、見た目が人間の少年や少女とあまり変わりないものもあった。
「こちらは既に人間のDNAとポケモンのDNAを組み込ませる事に成功しましたよ……そちらはまだ?惜しいですね。早く貴方の可愛い娘の顔が見たいですよ。
 教えてくれ?ご冗談を。企業秘密ですから。勿論、ミュウのDNAサンプルをこちらに送っていただけるのであれば話は別ですがね……」

 夕方、舟は無事にザキガタシティへと辿り着いた。再び舟が小屋の中へと運び込まれる。
「色々あったけど、大変だったなあ……ジム戦だけじゃなくて、冒険も……」
「……それに、エリモさんの研究の事がちょっと気になったんだ。何だか危ない事に首を突っ込んでいるんじゃないかって思う。目が時々怖くなるし……」
「まあまあ2人共。何はともあれ無事に戻って来れたんですから。それに、私もカイザーシティまではお供出来ませんからね……寂しくなります」
そう、あくまでも彼女は守一族であったから2人についてきただけだ。役目を終えた後はシティに残って引き続き御霊を守らなければならない。2人の表情が少し硬くなった。
「……僕達、また何時でも会えますよ。また会いに来ますから」
「その時は歓迎しますからね!ホント、ココは良い港街ですから。永住するにはもってこい……」
「オイ、エンカイを出せ!出せって言ってんだよ!」
 その時、ジムの方向から怒鳴る声が聞こえてきた。かなり大きい声だ。よく響く。
「父上は今休んでおる。道場破りの類であれば私と戦うが良い」
「ふざけんな、エンカイの娘ごときが俺に勝てると思ってんのか?それに、俺の宿敵はあくまでもエンカイだけだ、さっさとエンカイを出して俺と勝負させろ!!」
「あの声は……ケンゴさんだ!」
 そう、ペンペルの洞窟で出会った格闘王のケンゴが、トウコと何事か争っているらしい。3人が急いでジムの前に向かうと、既にちょっとした人だかりが出来ていた。
「前の時も街を騒がせたでは無いか、進歩が無いぞケンゴ」
「テメエ、年下のくせにこの俺様を呼び捨てにしやがって、女と言えども容赦しねえぞ!」
「……ついてこい。父上の手を煩わせるまでも無い、道場で相手をしてやる……」
 トウコの後をケンゴが追った。ユキナリ達は慌てて道場の中に入る。その野次馬達も道場の中へ入っていった。押すな押すなの大行列だ。
「ケンゴさんとエンカイさんって、仲が悪かったのかなあ……」
「どうだろうね、確かに全く違うタイプの格闘家だから反目しあっているのかもしれないけど……」

 道場の中は何時の間にか興奮しきった観客で溢れかえっていた。その中にジサイやユカリもいる。
「……互いの拳で勝負すれば良いのだな?」
「テメエの親父と同じ紫炎拳なら充分だ。女だからって手加減はしねえからな……」
 ケンゴは純白の鉢巻をしっかりと頭に巻きつけ、トウコの方は帯を直して態勢を整えている。
「いや、しかしコレは見物だ。トウコ様があのケンゴに勝てるかどうか……」
「数年前にケンゴがエンカイ様と戦った時は全くの互角だったもんな。スゲエ死闘だったぜ」
 色々な情報が飛び交う中、ユキナリは真剣な表情で睨み合いを続ける2人を見つめていた。
 (……トウコさん自身の強さを、僕はまだ知らない……)
 先に攻撃を出してきたのはケンゴの方だった。鋭い拳でトウコの腹を狙うが、防御される。
「女であれ男であれ、人間には微弱ながらオーラがある。そのオーラを強める事により衝撃を吸収し、その力を抑える事が出来ると言うワケだ……」
「へっ、親父と同じ屁理屈を言いやがって。そんなモンはなあ、こけおどしに過ぎねえんだよ!」
 ケンゴの拳の威力が凄まじいものであろう事はよく解った。あまりにも速い。速過ぎて風を切る音がよく聞こえた。乱打を全てブロックし、今度はこっちの番だと紫の炎を放つ。
「我等の先祖が作り上げた紫炎拳の真髄を知るが良い!」
 だが筋肉質な体であるにも関わらずケンゴは動きも身軽だった。鍛え上げられた肉体はマッチョと言うよりも引き締められて洗練されている。バック宙でそれを避けると背後に回った。
「テメエ達の拳とやらを知った俺には策があるぜ、背後に関しては防御がおろそかになる!」
「……そうかな?」
「何ッ、ち、畜生!!」
 構えを取って全身に紫のオーラを纏った瞬間、衝撃でケンゴは吹っ飛ばされて壁に激突した。さほどのダメージは受けていないものの、その表情には焦りが出始めている。
「あらゆる場所からの防御、攻撃を可能にするのが紫炎拳の極意だ。非力な女性とて、致命傷を負いさえしなければ相手を翻弄する事が出来る。スタミナが切れない人間等いないからな」
「クソ野郎が……だがな、諦めたワケじゃねえぜ。その防御の炎を俺が砕いてやる!!」
 ケンゴは再び雄々しく立ち上がると、今度は真っ向から相手を見据えて突進してきた。
「フン、私の的になるだけなのが解らんか!」
 スッと片手をケンゴのいる方向に向けると、トウコは特大の紫炎を掌から噴出した。球状になった炎はそのまま真っ直ぐケンゴの方向へ飛んでいく。ケンゴはいきなり体をかがめるとスライディングした。
「!?」
「おらよッ!」
 足元からの攻撃には対処出来ず、転んだトウコの腹にケンゴの一撃が入った。しかし寸前でトウコが防御の炎を作る。その炎を破ろうと必死になるケンゴ。額には脂汗が浮かんでいる。
「ココで……勝つんだ……勝たなきゃテメエの親父にも……勝てねえんだよ!!」
「もう失態など見せられぬ……父上を失望させるワケには……勝たなければ……」
 互いのプライドが最後の力を2人に与えている。炎の防御と拳の攻撃は牽制しあったまま動かない。トウコの紫色のオーラがハッキリ見える様になり、ケンゴの拳がどんどん固まっていくのも見えた。
「終わりだぁッ!!」
 その瞬間、ケンゴは防御で手一杯になっているトウコの顔を軽くもう一方の拳で殴りつけた。ジャブに一瞬精神を乱したトウコの腹に一撃が……
「待て!ケンゴ!!……娘はまだ未熟だ。未熟な者をいたぶるのが格闘家と言えるものなのか?」
 その瞬間、ケンゴの拳が止まった。ニヤリと笑って声がした入り口の方向を見やる。
「……真打の登場ってワケだ。娘の窮地に駆けつけてきたヒーローって所か?」
「そんな事はどうでも良い。今回こそお前に勝って、2度とこの道場に入らせない様にしなければな」
「まあいいや。とにかく、テメエの娘には勝っておくぜ」
 ケンゴは呆然としていたトウコの腹に重い一撃を叩き込むと、気絶したトウコをエンカイの方に放り投げた。
「……成程。女性にも手加減をしない所を見るとかなり精神的にも強くなったのだな」
「いや、テメエの娘が手加減するなって言うからよ。まあ……軽い運動にはなったぜ」
 (トウコさんも相当強かった……でも、それを一蹴したケンゴさんは……強過ぎる!)
 ユキナリが辺りを見渡してみると泣きじゃくるユカリとそれをなだめ、外へ出て行くジサイの姿が見えた。
「なんかトウコさん随分運が悪いね。弱いワケじゃないのに……」
「相手が悪かった場合が多過ぎたって事なのかな……僕がああいう戦い方したら絶対負けるけど」
 トウコが弟子達によって運ばれた後、エンカイは両手を広げて構えを取った。
「何処からでも打ってくるが良い」
「後悔するなよエンカイ!今日こそ長年に渡る因縁の決着をつけてやるぜ!」
 再び走り出したケンゴの方向へ炎がどんどん飛んでくる。だがエンカイ自身は構えを取ったままだ。
「意識を集中させれば意識せずとも炎は出る。無我の境地に入れば相手にも攻撃は見えにくい」
「俺にはしっかり見えてるけどな。くらいやがれ!」
 エンカイの眼前に迫ったケンゴは拳では無く強烈な延髄狙いの上段蹴りを放った。それを片手で弾き返すと、今度は炎を拳に集中させる。
「遊んでやろう。少しはお前の領域にも入っておかなければな」
「望む所だ。男だったらやっぱり小細工無しの真剣勝負だろうが。拳だぜ」
 ケンゴは両手の拳をガッチリ合わせて笑った。一方エンカイの方は自らが出したオーラの出る掌を見つめている。それを下に振り下ろすと一直線に突撃してきた。
 それからの数分間はスタイルの違う格闘技の応酬であった。拳を固めてそのまま殴り、蹴りを浴びせるケンゴと、相手の腹を切り裂く様に手を真っ直ぐ伸ばして相手を薙ぎ払うエンカイ。
 お互い全く一歩も引かず、その応酬がしばらく続いた後2人は一旦距離を取った。
「ほう……随分……力を上げた様だな……どうした、息が上がっているぞ……」
「テメエもだろ……技のキレが増してやがるな……前の様にはいかねえ事がよーく解った」
 目の前の凄まじい光景にユキナリは息を呑んでそれを見つめる事しか出来なかった。あの2人が本当に人間であるのかすらも今となっては少し疑わしい。
「す、凄い……あんなの、僕達じゃ捉えられないよ……速過ぎるもん……」
「ハア……ハア……父上の戦闘力は、やはり私より上であったか……」
 ユキナリの隣に腹を押さえたトウコが来ていた。苦しそうな表情を浮かべている。
「大丈夫ですか?さっき攻撃を受けたばかりじゃ……」
「ああ、先程の攻撃は効いた……確かに奴の力は上がっている。私もそれに気付くべきだった……父上の戦闘スタイルの境地にはまだ達せないのが悔しいがな……」
「まだ、この不毛な戦いを続けるのか?……互いを認め合えばさらなる発展が望めるものを……」
「五月蝿え!炎だのオーラだの、小細工を使った戦いなんざ認められるか!男はな、拳1本で勝負してこそ映えるんだよ!自分の研ぎ澄まされた力だけで、勝つべきなんだ!」
「……研ぎ澄まされた力……自分の能力。それは全て紫炎拳の真髄だ。私が持っている炎もオーラも、勿論自分の力なのだからな。だが、そこまで言うなら乗ってやろう」
 そう言うとエンカイは炎を消した。オーラが体内に集中し、拳に光が宿る。
「力を一挙に拳に集め、あらゆる相手を一撃にて葬り去る!」
「そうこなくちゃな、エンカイさんよお……一撃で終わりだ!!」
 互いの拳はそれぞれの鳩尾を貫き、2人は同時に崩れ落ちた。白目をむいて意識を完全に失っている。トウコは弟子に頼んでケンゴとケンカイを病院へ搬送してもらった。
「まあ、数年前もこんな調子であったが、父上も奴も1週間あれば帰ってこれるであろう。しかし、私が失態を見せてしまった事で、また父上にお叱りを受けるのであろうな……」
 トウコは腹の痛みをこらえながら、ガックリとうな垂れた。暗い表情が浮かんでいる。
「凄いなあ、エンカイさんもケンゴさんも……人間の能力の限界を見た感じだよね」
「やっぱり、そういう意味では僕達が勝てる相手じゃ無かったって事だね。トウコさんもケンゴさんも……エビワラーの強さで解ってはいたけど、コレ程までとは……」

 夜、ユキナリ達は自転車が停めてある宿泊施設に戻っていた。明日には7番目のジムがあるカイザーシティへ向かう予定だ。施設の中にはコユキとトウコもいた。
「そうか、色々大変だったのだな……そのレジダイヤなる者も仲間に……」
『ワシハコレカラ、コユキニ彼等ノ無事ヲ教エ、ソシテコノエリアノ守護ヲ果タソウ。シカシ、何カガ世界ヲ蝕ンデオル。厄介ナ事ニナラナケレバ良イノダガ……』
「レジダイヤ様、きっとユキナリさん達は大丈夫ですよ。ツンドラタウンでユウスケさんとユキナリさんの実力と、強い決意を感じ取れました……この先もきっと勝ち進んでくれるハズです」
「あと、バッチは2つ……リーグの夢も夢物語じゃなくなってきた。どんどん現実に近付いているよ!」
「リーグでは勿論ユウスケとは敵同士ですけれど……でも、解っていますから。ぶつかり合う事になっても全力を出し切れば……今日のあの2人の様に納得出来ると思います」
「ハハハ……父上とケンゴはあの戦いでも納得はせぬのだろう。また戦う事になる。しかしお前達は互いの実力を理解しあっているからこそ納得出来る。相手の力を認められる……」
 そう言ってトウコは外を眺めた。ジムの明かりはもう消えている。
「もともと父上と奴は同じ道場の門下生だったらしいのだが、奴は紫炎拳の伝承者の道を拒否して純粋な拳の道を選んだ。
 今も私と父上を軽蔑し、何としても叩き潰し、自らの人生の正しさを証明しようとしている……小細工の無い戦い方こそが最強である、とな……」
「トウコ様のお力は確かに素晴らしいものでした。でも、それに固執するケンゴさんは……」
「……あんな奴に負けたのだ。恥だな……私もやきが回ったか……」
 トウコは最初会った時とは違い、大分ナーバスになっている様であった。無理も無い。10日間の謹慎処分とケンゴとの戦いで敗北した心の傷は深い。
 だが、ポケモントレーナーとしての腕は一流であろうとユキナリは思った。あの戦いよりももっと上にいる者があと2人もいるなんて、まだ信じられていない。
 現実に存在しているのだ……ゲンタと戦った頃の自分より、格段に腕を上げている自分とパートナーの力に、ユキナリは気付きつつあった。
「カイザーシティの事は私はよく知らんが、随分賑やかな街だと言う事は知っている。
 港町であるココよりか人は少ないらしいのだがな。ジムリーダーは……名前が思い出せん」
「トウコ様、確か……セツナ様と言う方です。ミサワタウンのジムリーダーの兄だった様な」
「兄妹でジムリーダーをやってるのか……やっぱり強いんだろうな……」
「ユキナリ君ならきっと勝てるよ!ただ、ちょっとリーグに到着するまでの間にかなりの難所があるけど……」

 その頃、カイザーシティの安いホテルの1室では2人の男が会話をしていた。
「ホクオウさん、挑むのは危険です。彼女にはまだ誰も勝った事が無い!」
「……解ってる。だからこそ、託す奴がもうすぐ来るハズなんだ」
「貴方よりも強い方が……?一体誰です?」
「俺の弟だ。ユキナリならきっと勝ってくれる。そいつを呪縛から解き放ってくれるハズだ……それに、ゴウセツ山は危険だからな。俺はココで待機して2人がココへ来たら同行するよ」
「僕がもっと強ければ彼女を排除する事が出来たのですが……」
 ホクオウと会話している男性は白銀の髪が眩しい青年だった。切れ長の瞳がクールな印象を見せている。かなり美形と言っても差支えが無かった。
 前にいるホクオウと比べると女性で言う所の男の好みを2分しているとも言えるだろう。口髭を生やした山男のホクオウは渋く、青年はひたすらに格好良かった。
 そのへんのアイドルグループにいてもおかしくない感じですらある。
 傍から見たらこの2人が会話する事に違和感を覚える人もいるかもしれないが、トレーナーの世界ではこんな2人が会話する事自体が日常茶飯事なのである。

 翌朝……2人は自転車に乗ってカイザーシティへ出発する為にシティの出口付近にいた。
 既にシャワーを浴び、朝食をとり準備は万端である。見送りに来てくれたのはジサイ、トウコ、コユキの3名だけであった。ユカリはジサイがなだめたのだが見送る事を拒んだらしい。
「お前達がリーグに挑むのを楽しみに待っているぞ。全エリアに生中継されるのだからな」
「その時は勿論凝視させてもらいますよ、ユキナリさん!ユウスケさんも!」
「ユキナリ殿、許してくだされよ。ワシも祖父として恥ずかしい限りですわい。頑なに行かないと言ってきかんのでな……ユカリは貴方達とどうしても仲良く出来なかった……」
「気にしていませんよ。じゃあ行こうかユウスケ」
「うん。そうだね!自転車、預かって頂いて有難うございました!」
 ユキナリ達は自転車を漕ぎ出すとそのままトウコ達から去っていった。すぐに見えなくなる。
「凄い頑張り屋の2人でしたよ。どんな時でも絶対諦めない……きっと2人はリーグに挑めると思います。その時はユカリさんも呼んでTVの前で応援しましょうね!」
「うーん……ユカリがそれに応じてくれるかどうかだな……父上に頼むしか無いか。仲良くせねばならぬのはユカリとユキナリだけでは無いが……ケンゴにも困ったものだ……」
 一期一会、ユキナリ達はまた出会いと別れを経験した。だが勿論、この別れは永遠では無い。

 ユキナリ達は53番道路をずっと自転車で走っていた。脇道には寄らずそのままカイザーシティに向かって爆走する。ポケモン達も元気いっぱいだ。
 6匹のスタメンはドシャヘビのみ不安が残っているのだが、何とかそれをこの道路で払拭したいと言う思いはあった。
「やっぱりまだ一抹の不安は残る……?電話だ」
 道路の端に自転車を停め、ユキナリはポケギアのTV電話機能を使用した。
『あの……忙しかったら切ってしまっても構わないんですが……お元気でしたか?』
「アオイさん!お久しぶりです!」
 電話の主はナオカタウンジムのアオイだった。あの一戦もちょっと前の話だと思うと、自分の能力向上の早さに驚かされる思いがする。傍らにはフルサトもいる様だ。
『いや、君達の様子がどうしても気になってね。今何処にいるんだい?』
「53番道路です」
『フルサトさん、ユキナリさん達とうとうカイザーシティに行くみたいですよ』
『おやおや、まだザキガタ辺りかなと思っていたのに見事なものだね。残り2人のジムリーダーとは6VS6のバトルだ。6匹全てのポケモンが秀でていないと勝つのは難しいだろうね』
「ええ……まだ鍛えに若干の不安があるんです。この辺りには強力な野生ポケモンは……」
『いっぱいいますよ。シティの近くにはゴウセツ山から住処を移動した野生ポケモンが沢山いるハズですから。きっと良い鍛錬になると思います』
『アオイ君の言う通りだ……ジムリーダーのセツナは強いぞ。氷ポケモンの使い手ではトーホク1と言われている。
 元々トーホクは変種ポケモンの宝庫だからそれだけ氷ポケモンのトレーナーが多い。その中で勝ち上がってきたジムリーダーだからくぐってきた修羅場の数が違うだろう。
 ゲンタ君やアオイ君とは比べ物にならない程のね……でも、きっと君達ならやってくれるだろう』
『確かに、氷ポケモン使いの数はトーホクがナンバー1ですからね……』
 (……少し前まで一緒にいたコユキさんと一緒だよな、アオイさんって……)
 姿形は違えど、喋り方、印象、声……本当によく似ていた。傍らにフルサトがいなければ錯覚してしまいそうになる程だ。だがそれよりもやはりセツナの強さが気になった。
「解りました。とりあえずこの辺りでポケモンを鍛えておきます。勝ちに行きたいので」
『その方が賢明だろうね。レベルも高いから油断してると危ない目にあうぞ。くれぐれも慎重に相手を探した方が良いと思うよ。アオイ君も見習わなくてはいけないね』
『わ、私だってちゃんと鍛錬してますよ!フルサトさんだって毎日見てるじゃないですか!』
『ハハハ、すまないすまない。まああんまり時間を取らせても失礼だろうからもう切るよ、頑張ってリーグに挑んでくれよユキナリ君。私もアオイ君も応援しているからね!』
「ハイ、頑張ります!」
 電話は切れた。ユキナリは辺りを見回してポケモンの存在を探る。
「うーん……ドシャヘビの鍛えが足りないと思うんだ……属性的に有利なポケモンはいないかな……」
「僕も確かにポケモンを鍛えておかないとダメかもしれないな。結構不利だったもん、オモリさんとの戦い……ああいう苦しい戦いはなるべくなら避けておきたいよね」
 そんな時、1台の車がユキナリ達の近くで止まった。車から人影が姿を現す。

「何してるの?」
 車から出てきたのはアベックらしい2人組だった。派手なシャツを着ている男と少し日焼けしている女性だ。男の方はからかう様な感じでユキナリ達に喋りかけてくる。
「なあ君達、ポケモントレーナー?」
「そ、そうですけど……」
「俺はマナブ、こっちはアキコ。俺達ポケモントレーナーでさ、車でチト旅してるんだよ。ミサワタウンから走って、シラカワの近くまでずっと走る予定なんだけど……何か君達の顔に見覚えがあってさ」
「僕、トレーナーのユキナリです。こっちはユウスケ」
「どうも……」
「あー、やっぱり。マナブ、この子達ホントに凄腕トレーナーなんだよ。アタシ見たもん」
「戦ってる所は見てないんだろ……ホラ君達さ、TVに出た事あるでしょ?シオガマシティでの中継の時に映ってたよね。その後ニュースで君達の活躍を聞いてさ。
 会ったら絶対手合わせしたいなって思ってたんだよなあ。ま、俺達はあんまりポケモン持ってないんだけどさ」
 初対面にしてはかなり馴れ馴れしいカップルだった。いや、バカップルか。ユキナリもユウスケも困惑したものの、野生ポケモンを探す手間が省けたとは思っていた。
「6つ目のバッチも取りました。それで今、カイザーシティに向かおうとしてるんですけど……」
「おい、聞いたかアキコ。もうバッチ6つ目だってよ」
「すごーい。尊敬しちゃうわよねー。でもさ、アタシ達がこの子達をやっつけたら有名人になれるかもしれないじゃない」
「そうそう、君達所詮はお子様なんだから、俺達に勝てるハズ無いって。地元の奴等に絶対自慢出来るよな……勿論、逃げる様な真似はしないよね?リーグに挑もうとしてるんだしさ」
 何と言うか、この2人はイライラさせる物質で構成されているのでは無いかと思う程憎たらしかった。
 男の肩によっかかっているだらしない女とニヤついている男。既にモンスターボールを握っている。
「3vs3にしてもいいかな。とりあえずユキナリ君は俺と、ユウスケ君はアキコと戦ってくれよ。つまり、俺達は6匹持ってるから、6匹倒れるまで試合は続行されるって事で大丈夫?」
「解りました。別にそれでも構いません」
 ダブルバトルは既にナギサとカイトで経験済みだ。今更弱小トレーナーに負ける心配はあるまい。
 (それでも、絶対に気を抜いちゃダメだ……ユウスケとの連帯責任もある。どんな戦いでも勝つんだ!)
 ユキナリは既にボールを持っているユウスケと目を合わせるとしっかり頷いた。4名が同時にボールを投げる。相手側が出してきたのはニドリーノとニドリーナ。
 ユキナリとユウスケが出したのはビブラーバとカレススキであった。

「へー、結構俺達と同じでポケモン育ててんじゃん。ま、俺達程じゃないと思うけど」
「いわゆる2人の愛の形ってヤツかしら。お子様にはちょっと難しいかもね♪」
 (どちらも毒ポケモンか……ビブラーバを出して正解だったな。だけどユウスケはくさ・こおりタイプ……
 こおりは相殺しないからどくタイプの技はよく効いてしまう。こおりタイプの技で攻めないと)
 オスとメスで姿が違う珍しいニドリーノとニドリーナだが、この2匹は純白の毛並みに包まれていた。
「ユキナリ君。変種だからこおりが入ってるよ。ほのおもよく効くんだろうね……」
「うん。とにかくまずは情報収集しなきゃ……」
『ニドリーナ・ニドリーノ……どくばりポケモン。頭に生えている鋭い角の先に猛毒が分泌される箇所があり、相手の腹を突き刺して致命傷を与える。
 産卵期には発情したニドリーナやニドクインが近くの洞窟で交尾を行い卵を産むが、その殆どは他のポケモンの餌になってしまう為、絶滅危惧種になりつつある様だ』
「特殊能力は……」
『特殊能力・どくのつの……舞ターン1割の確率で相手をひるませる事がある』
「そしてもう1匹、カレススキか……何時の間にか最終進化してたんだなあ」
『カレススキ・ゆきがれはポケモン……完全に葉が落ちて枯れ木となっているが、雪が降るとその枯れ枝に純白の雪が積もり大変に美しい事から、トーホクでは観葉植物としてカレススキを育てている匠も多い。
 冬眠期に入ると根っこの足を地面に突き刺して枯れ木に擬態する』
「特殊能力は?」
『特殊能力・のらくら……毎ターン回避率が僅かだが上昇していく』
 (相手の特殊能力が特に問題だな……とにかくユウスケの手も借りて、リードを奪っておきたいけど……)
『ジージー、なんだあ、随分お似合いのカップルじゃねえか。仲を切り裂いちまうのがチト勿体無えぜ』
『自重なされよビブラーバ殿。油断するでない……心の隙を突かれればあっけなく敗北する事もあり得ますからな』
 一方ニドリーノとニドリーナもかなりお熱いバカップルだった。
『イヤーン、怖いよお。ねえ……ちゃんと、私を守ってよね♪』
『任せとけ。お前を守る為なら俺は例え火の中水の中草の中森の中!』
「とにかくビブラーバで相手にカレススキを攻撃させない様にする。その間にユウスケはこおりタイプの技で出来るだけダメージを与えさせてほしいんだ。大丈夫だよね」
「僕とユキナリ君の仲だもん。解ってるよ、心配しないで」
 それはそうだとユキナリは思った。一緒に過ごしてきた年月が2人の阿吽を一致させている。
『じゃあ行くか!』
 バトル開始と同時に2匹で狙ったのはやはりカレススキであった。1匹でも先に相手を倒しておけば相手は不利にならざるを得ない。だがそれをみすみす許すワケにもいかなかった。
「よーし、まずはつのでつく攻撃だ!防御に回るビブラーバを足止めしろ!」
「その隙にどくバリでカレススキを攻撃してね♪」
『俺達の愛を証明する息の合った攻撃を見せ付けてやるぜ!』
 突進してビブラーバに襲い掛かるニドリーノ。相手が逃げればカレススキにニドリーナの『どくバリ』が飛ぶ。傍目に見れば確かに有効なコンボではあるのだが……
『連携プレーなんぞお見通しだぜ!即席コンビだってやる時はやるのさ!』
「OK、相手の攻撃を避けたらじしん攻撃だ!」
 空中に舞い上がり突撃をあっさり避けると、ビブラーバはどくバリを飛ばそうとしているニドリーナ達に向かってじしん攻撃を行った。相手は不意をつかれて大ダメージを負ってしまう。
『だ、大丈夫か、ハニー!』
『ダーリン……ちょっと、傷が深かったみたい……ピンチだわ……』
 じしんの破壊力は勿論凄まじく、自分のパートナーであるカレススキですら攻撃対象にしてしまう。ただ、カレススキの属性から言えばかすり傷程度のダメージしか負わない。
 この隙を見逃さずカレススキは『吹雪』で2匹を攻撃した。冷たい突風が彼等を苦しめる。
『ダーリン、もう……ダメ……』
 鍛えが足りなかったのが、ニドリーナは早々に戦線離脱してしまった。勿論ニドリーノは激怒する。
『この野郎……よくも俺の大切な彼女を!!』
 いちかばちかの大勝負に出るつもりなのか、ニドリーノは神経を集中させている。
「くそっ、ダブルバトルに慣れているとは……俺達より連携力があるじゃないか。やはり流石6個バッチのトレーナーと言った所か……ニドリーノ、『つのドリル!!』」
 つのドリルは一撃必殺ではあるものの、当たる確率は3割とまるで信用出来ない。しかしココまで痛めつけられたとなっては、この運に頼る必殺技にすがるしかなかった。
 赤く光る角が迫ってくる。ニドリーノの目は眼球が見えなくなり、白く輝いた。
「ビブラーバ、避けろ!」
「カレススキ、避けるんだ!」
 だがあくまでも運が悪かったのか、カレススキの幹にニドリーノの熱い一撃が直撃した。確率は少ないとは言え当たらないワケでは無い。カレススキはガックリと倒れて戦闘不能に陥る。
「ご、ゴメンユキナリ君。足を引っ張っちゃって……」
「気にしないでよ。僕のビブラーバだって当たっている可能性があったんだから。参ったな……」
 (土壇場で戦況を立て直したのには恐れ入るな……でも所詮は運。僕達なら勝てるハズだ!)
「ビブラーバ、もう1度じしんだ!」
『ジー、ジー、無駄な悪あがきもそれ位にしておくんだな!』
 ビブラーバが再び起こした地震によってニドリーノもノックアウトされた。これで少々優勢と言う事になる。
「危なかったぜ。2匹とも抵抗無しに死んでたらかなり不利になってたからな」
「やっぱりマナブのポケモンは最強ね!次は私も頑張るから、マナブももっと頑張って♪」
 (ビブラーバは全くダメージを受けないまま次へ繋げた……基本的な戦い方はパートナーがくさ・こおりである限り変わらない。いや、むしろ相手が出してくるポケモンに注目すべきか……)
 次に2人が出してきたのはバルビートとイルミーゼだった。
『ブウン……ブウン……行きましょうか、姫君』
『フウン……フウン……勿論ですわ、男爵様。私達の連携の恐ろしさ、とくとご覧にいれましょう』
「バルビートとイルミーゼ、やはりオスとメスで姿が違うポケモンをまた出してきた……」
『バルビート&イルミーゼ……ほたるポケモン。夏に川の辺を一緒になって飛んでいる姿がよく見かけられるポケモン。
 バルビートはイルミーゼに対して求愛行動の一環としてお尻の発光体を光らせるが、鈍感なイルミーゼは殆どそれに気が付かず、年々この虫ポケモンも減少傾向にあると言う』
『特殊能力は?』
『バルビート・むしのしらせ……HPが少なくなると攻撃力が増加する』
『イルミーゼ・どんかん……メロメロにならない』
 そしてユウスケが補填してきたのはボタッコだった。お馴染みのパートナーだ。
「強力な技を沢山覚えさせたから、前よりグンと強くなってると思うよ。ステータスも上昇してるしね」
『そういう事ー。前も一緒に戦ったけど、ユウスケがボクを相当強く育ててくれたからねー』
『ま、せいぜい足手まといにならねえ様にな。相手の方はまた変種かよ。羽根が随分白いぜ』
 確かに、バルビートイルミーゼ両者とも変種の様だった。そう考えるとほのおが滅法良く効く。
「それじゃ、サッサと始めますか。バルビート、まずはステータス上昇の為にしんぴのまもりを使え!」
『了解致しました、マスター』
『それでは私はこの技を使わせて頂きますわ、おだてる!』
 しんぴのまもりでこんらんしないバルビートに対しておだてるを使うと、バルビートの特殊攻撃だけがグーンと上昇する。この連携はなかなか思いつかない。ユキナリ達もほぞを噛んだ。
 (ダブルバトルには相当慣れているみたいだな……この2人。どんな連携が飛び出すか予想がつかないぞ)
『畜生、これ以上とくこうを上げられてたまるかってんだ!マスター、命令をくれ!』
「よし、バルビートはむしポケモンか……ドラゴンタイプが加わったけどまだ技は覚えていない。とにかくかみくだくで相手のHPを削ってくれ!」
『解ったぜ、おい、お前もサッサとついてこいよ!』
『オッケー』
 相手に向かって突撃するビブラーバ、そしてギガドレインで虫ポケモンからHPを大量に吸い取るボタッコ。
 ギガドレインは流石に効いたのか、イルミーゼは半分かた体力を持っていかれた。噛み付こうとするビブラーバに対してバルビートは『シグナルビーム』を放つ。
 白い光線はビブラーバの腹に直撃すると、そのまま消えてしまった。かなりのダメージを負ったビブラーバはそのまま地面に墜落してしまう。そのままイルミーゼが『あやしいひかり』を放った。
 (マ、マズイ!『化かす』と同じ混乱系の技だ。ビブラーバには全く対策は無い!)
 願いも虚しくビブラーバは地面に落ちた直後にあっさりと混乱状態に陥ってしまった。こうなるとボタッコに守ってもらうしか策は無い。ボタッコはバルビートに対してはっぱカッターで応戦した。
『そう簡単にはパートナーに倒れてほしくは無いしねー』
『うーむ、効果抜群にならないのは痛いですが、とりあえずこうしますかな』
 スッとバルビートはボタッコの眼前に迫ると、れいとうパンチを見舞った。効果は普通だがその衝撃で軽く吹っ飛び攻撃が出来なくなる。
 その隙を狙ってバルビートは再びシグナルビームを放った。かと言って虫属性の技なのでそこまで効き目があるワケでは無い。それは時間稼ぎにしか過ぎなかった。
 その間にイルミーゼが『つきのひかり』を使って体力を回復していたのだ。
「ユキナリ君、やばいよ……相手の連携が凄いし、特殊攻撃が強過ぎる……」
 (イルミーゼも回復されてしまったし、キツくなってはきたかな……確かに)
「ねえマナブ、今回はいけるんじゃないの?」
「だろうな。俺達の本領発揮って所だろ。よしバルビート、混乱してるビブラーバをやっつけちまえ!」
『申し訳ありませんが、戦線離脱して頂きますよ』
『くそったれが……終わりにしてたまるかよ!』
 攻撃を繰り出そうとしたビブラーバの手は無様にも自分の腹を直撃していた。混乱していた為自分で自分を攻撃してしまったのだ。そしてれいとうパンチがビブラーバに当たり倒れてしまう。
「急いで次のポケモンを出さないと……やっぱりコシャクに任せた方が安心かな」
 出てきたコシャクは素早くボタッコを庇う様に前に出ると『かえんほうしゃ』を放つ。
『僕が呼ばれたからにはもう安心ですよ。見た所虫・こおりタイプになっているみたいですからね』
 バルビートはそれを甘んじて受け、瀕死に近い重傷を負った。それをサポートする様にイルミーゼが前に立ち再び『あやしいひかり』を放つが、今度は当たってくれなかった。
 コシャクは『せいなるほのお』でイルミーゼを苦しめる。あっと言う間に戦況が逆転してしまったのだ。
 (やっぱりコシャクは強い……他のポケモンと比べてもその戦力は圧倒的に高いじゃないか……属性的にも有利で4倍だったからこそココまで押せたんだろうな……)
『絶対に妥協はしませんからね!』
 何もさせまいと再びかえんほうしゃを放つコシャク。バルビートのHPがゼロになった。
『なんとお強い殿方です事……でも私にも意地がありましてよ』
 イルミーゼは再び『つきのひかり』で体力を回復させると、コシャクに向かって『10万ボルト』を放った。コシャクはそれを受けながらもまたかえんほうしゃを放つ。イルミーゼも倒れてしまった。
「相手が悪過ぎた……ほのおタイプの相手には弱いからなあ」
「ま、しょうがないわよね……でもアタシ達もう後が無いわよ」
 その時だった。コシャクの体が光り出し、そして姿形が変わっていく。そして……一回り大きい姿になった。人間の様に2本足で立ち、神官の様な衣服を身に纏っている。
 生えていた尻尾も九本に増えていた。妖狐・九尾の狐を連想させる姿だ。
『……ユキナリさん、ココまで育ててくれて本当にありがとうございます。これからもマスターであるユキナリさんの為に全力を尽くしますからね!』
 トサカと戦っていた時に突如変身したコシャクは段違いのパワーアップを達成したが、進化したコセイリンはそれ以上の戦闘力の変化を見せていた。オーラが漂っている。
「コセイリンか……凄いよ、全体的な伸びが他のポケモンとは違う……強過ぎる……」
 ユウスケは呆気に取られてコセイリンを見つめていた。凛々しい姿だ。
『コセイリン・しんかんポケモン……ほのお攻撃とこおり攻撃のスペシャリストとされているが、覚える技の殆どはほのおタイプに付随している。
 類稀なる霊力を持ち、鬼火の威力も遥かに増していて玄人専用とされているポケモン。その能力は突出している』
「特殊能力は……」
『特殊能力・神炎防壁……炎のシールドによりあらゆる特殊効果を無効にする』
「ユキナリ君、新しい技も覚えたみたいだよ!」
 ポケギアで技を確認すると技が追加されていた。しかし4つしか技を覚えさせる事が出来ない為、1つを忘れさせるしか無い。ユキナリは悩んだあげく『化かす』を捨てた。

おにび
かえんほうしゃ
せいなるほのお
ねっとうシャワー

「どうやらこの新しい技は相手を時折『火傷』状態に出来るみたいだね」
 火炎放射よりも若干その確率が高くなっている様だ。威力も高いらしく期待が持てる。
「鬼火も確かに捨て難いからね……相手を『こおり』状態にする効果は貴重だよ」
 コセイリンの能力を確認してみると、やはり素早さと攻撃力の高さは特に目立っていた。殆ど死角は無いのではないかと思える程に強い。反則的な程だ。
 ただ、伝説級かと言われればそうでも無かった。トップレベルなだけとも言える。
 (とにかく、これが最終進化形態か……でも勿論レベルアップすればまだまだ伸びる!)
 少なくとも、次の相手には圧勝出来そうだった。マナブとアキコもかなり動揺している。
「あれって、かなりヤバいんじゃないかな……戦闘力が高いぜ……」
「マナブ、でもどうせなら最後まで戦ってあげましょうよ。最後まで勇敢に戦わないと、故郷に帰った時に絶対後ろ指さされちゃうもの。そうでしょ?」
コセイリンに進化した。後は・・・他のポケモンを育ててジム戦に備えなければならない。ユキナリは
 コセイリンをボールに戻すと今度はドシャヘビをフィールドに出現させた。まだこのポケモンは最終進化していない。ユウスケのボタッコはまだ充分に戦えるHPを残していた。

『ツンドラタウンでかなり鍛えさせてもらったからな。そろそろ進化するんじゃねえか?シャ、シャ、シャ……リーグで大暴れする為にもやっぱり強くなっておきたいぜ』
『向こうは2匹、こっちは残り4匹だもんねー。余裕あるよー』
「せめて、一矢報いる戦いを見せたやりたいもんだよ。行け、マイナン!」
「私はプラスルよ!」
 最後の相手はマイナン♂とプラスル♀だった。ダブルバトルでの良好コンビと言える。攻撃力はさほど高くは無いが、問題はその小さな体が幸いする素早さ。
 そしてコンビネーションの高さである。コンボにはまってしまうとなかなか抜け出せない。
「とりあえずマイナンとプラスルの能力をチェックしておくか……」
『プラスル&マイナン・おうえんポケモン……互いを励ましあいパワーアップさせ合う傾向が強い為タッグバトルでしか使えない欠点があるものの、ツボにはまるとその連携は凄まじいものとなる。
 元気たっぷりの時はほっぺたがバチバチと火花を散らす』
「特殊能力は……」
『プラスルの特殊能力・マイナス……マイナンがいると強くなる』
『マイナンの特殊能力・プラス……プラスルがいると強くなる』
「相互的に強くなるのか……確かにタッグバトルにはうってつけのポケモンなんだな……」
「逆に言えば、リーグでは全く使えないポケモンって事でもあるんだけどね」
 ユウスケの言う事は最もだった。リーグ公式戦では1匹ずつが大前提なので相互的に強くなる事など望めはしない。タッグバトルはあくまでも遊びの一環に過ぎないルールなのだ。
「俺とアキコのコンビネーションバトル、最後にしっかり見せ付けてやるぜ!」
「ポケモンを交代させてくれたのはアタシ達にとってもありがたいわね。ま、アタシ達の強さってやつを認識させておく事位はしないと……ねえマナブ♪」
『あんな事を言ってやがるが、俺様の強さを知らねえな?俺は媚を売る様な力の無えポケモンは大嫌いなんだ。じっくりいたぶって苦しんでもらうか……シャ、シャ、シャ……』
『とりあえず、相手の力量を把握しないとねー。ボクも手伝うよー』

夜月光介 ( 2011/07/04(月) 19:31 )