ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− - ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第6章 3話『鉄壁を砕く VSオモリ』
「フォレトスか……」
『フォレトス・みのむしポケモン……硬い殻は鉄クズ等を寄せ集めたもので、それを溶かして自らの殻にしている。
 外敵が近付くと殻を打ち出してきて攻撃してくるが、あくまで威嚇程度の攻撃であり、自身はあまり戦いが得意では無い。鋭い回転は空気中に真空波を作り出す』
「特殊能力は……」
『特殊能力・殻ごもり……ターンが経過する度に少しだけ防御力が上昇する』
 (オモリさんのポケモンは攻撃力より防御力重視だ……特にこのフォレトスはあまり攻撃的な技を覚えない。相手が疲弊するのを待つ作戦だ。なら、一気に叩くしか方法は無い!)
 ユキナリはボールからコシャクを出現させた。攻撃力と素早さの高さは勿論、フォレトスはむし・はがねタイプなので炎にだけは滅法弱い。
 オモリもほのおポケモンを出してほしくはなかった。
「……ま、マズイ……いくら鉄壁とは言えどもあ、相性が悪いのは問題だ……ど、どうすれば……」
『マスター、落ち着いてください……まだ私は負けてはいませんよ。確かに相手は炎タイプです。分は悪い……それでも全力で挑めば少しはダメージを与えられるかもしれません』
 フォレトスはあくまで冷静だった。確かに相手は強いが、ジムリーダーから受けた恩義は返さねばならない。その思いで相手を凝視している。
 コシャクも勿論、油断は出来ない。思わぬ技を覚えており倒されるケースだって少なくないのだ。相手の技が解らないのが厄介だった。
「よし……コシャク、『かえんほうしゃ』で一撃必殺のダメージを与えてやれ!」
『ハイ、ユキナリさん!』
 コシャクは大きく息を吸い込むと、高熱の炎を吐き出しフォレトスにぶつけた。流石に4倍のダメージを負うだけあり、みるみるうちにHPが減っていく。これはやはり相性が悪かった。
「ボ、ボクのポケモンの防御力の高さが、ま、全く通用しないなんて……」
『マスター……諦めるのはまだ早い。私の全力を発揮して、相討ちには持ち込めます』
 そう言うと体力が既にレッドゾーンに到達していたフォレトスは回転しながらコシャクに向かって突進してきた。コシャクは危険を感じて炎を吐きながら後退する。
 フォレトスは凄まじい回転により炎を弾きながらとうとうコシャクを壁際まで追い詰めた。『だいばくはつ』を仕掛けるつもりなのだ。
「コシャク、一点でものを考えるな!横に飛んで相手の相討ちを防ぐんだ!」
 ハッとコシャクはそれに気付き、素早く横に飛ぶものの、相手もそれを見切っていた。横にシュルシュルと回転していき、コシャクに体を密着させたまま爆発する。
「ああッ!!」
 規模の大きい爆発にも関らず壁や地面はビクともしなかった。よほど硬い金属なのだろう。その中から黒焦げになったフォレトスと、同じく黒焦げになったコシャクが顔を出す。
 だが、コシャクはかろうじてHPを残していた。肩で大きく息をしながらヨロヨロと歩いてくる。
「よ、よし。圧倒的な大差はまだついていない……炎ポケモンさえいなくなってくれればな、何とかなるハズだ……まだボクのほ、本領は発揮されていないからね!」
『ユキナリさん……もう少し早く逃げていれば避けていたかもしれないんですが……』
「過ぎた事はもう良いよ。それより、相手のポケモンが気になる。勿論鋼タイプと言ってもほのおを潰してくるはがねポケモンを出すに違いない。交換しようかな……」
「こ、交換をするにしたって、ほ、ほのおポケモンがそれ以上いないと思えば同じ事さ。恐れる事は無い……次のポケモンで一気にボ、ボクのペースに持ち込むぞ!」
 オモリはフォレトスをボールに戻し、次のポケモンを出現させた。これまたデカイ。
 ハガネールほど大きくは無いがユキナリはそのポケモンを見上げて全体像を把握するしかなかった。はがねタイプのポケモンは巨体ばかりが揃っている。
「ユキナリ君にはちょっと不利な展開になってきたのかなあ……コシャクは倒れる寸前か……今オモリさんが場に出しているのは確かエスパータイプを併せ持つメタグロス……
 コシャクが爆発を受けてさえいなければ楽勝な相手だけど……」
 (今コシャクを出してもステータスが極めて高いメタグロス相手に勝てるかどうか……同じ相性で見るならばココは素直に交換しておくべきだろう。代えるとすれば……)
 ユキナリはコシャクを一旦ボールへ戻し、今度はナックラーを出現させた。
「あ、あくまでもタイプでゴリ押ししてくるつもりだね……そ、そっちがその気なら叩き潰すまでだ!ボ、ボクとポケモンの実力を見せてやる!」
『ガガガガッ、こりゃ強そうなポケモンだぜ。戦う相手に不足無し、って所か』
『貴様がその様な戯言を言っていられるのも今の内よ……せいぜい努力してみるが良い。私の目の前で足掻いて見せろ!』
「メタグロスか……」
『メタグロス・てつあしポケモン……磁力を使って4体の体を1体にまとめている。頭脳も4つあるので知力は素晴らしく高い。
 戦闘能力も極めて高く、特に防御力の高さは群を抜く。バンギラスと同じステータス値を持っている為、相手の通常攻撃は殆ど無にしてしまう。必殺技はメタグロスの十八番、コメットパンチ』
「特殊能力は、と……」
『特殊能力・クリアボディ……ステータスが影響を受ける技の効果を無効化する』
 (攻撃力や防御力は下がらないって事か。ナックラーには関係無いな)

『確かに相手は強大だが、頭を使えば何と言う事も無えさ。倒してやるぜ!』
『ほう……私の頭脳に挑戦するつもりか。ならば相手をしてやろう。お前のその貧弱な攻撃力で、いかに策を練ろうとも、私は倒れない事を実証してやろうではないか!』
 メタグロスはナックラーの眼前に立つと、『コメットパンチ』を繰り出した。硬い鉄の足がナックラーに向かって飛んでくる。その攻撃を避けると、ナックラーは足に組み付いた。
「あ、慌てるなメタグロス。相手はどうせ大した攻撃は出来ない。じ、地面にそのまま叩きつけてやれ!」
『仰せの通りに……マスター!!』
 ブンッと大きく足を振り上げ、ナックラーを潰そうとするメタグロス。だが威力を増そうとモーションを大きくしたのが不味かった。
 その隙をついてナックラーは振り上げた瞬間に頭に乗っかる。そしてメタグロスの頭の上で『じしん』を行った。
 不意をつかれた上に相性抜群の技を決められてはかなわない。攻撃しようにもナックラーは頭の上だ。
「いいぞナックラー!そのままじしんを続けるんだ!」
『頭が良くても、動きが遅いんじゃ対策の立てようが無えな、ガガガガ……』
『ならば地面に潜り込んで貴様にもダメージを与えてくれる!』
 メタグロスは逆にナックラーを頭の上で押えつけると、そのまま鉄の床を突き破って穴の中へ消えていった。穴の中で『じしん』をくらったポケモンは大ダメージを受けてしまう。
「そうか、そこまでダメージを受けないだろうと思って、まだ戦闘力が完成していないナックラーをじしんのダメージで倒そうとしているのか!じしんをくらってもまだメタグロスにはHPが残る……」
 だが穴の中で光が見えたと同時に、大きな空飛ぶ虫が穴から飛び出してきた。
『ジージー、全く馬鹿な野郎だぜ。この俺様の進化を見逃すとは。それでも頭脳明晰か?』
「ビブラーバか!」
 穴に残ったのはメタグロスだけ。大急ぎで穴から這い出そうとするものの、潜りこんでしまうだけで這い出すのには時間がかかる。その前に再びビブラーバは地震を起こした。
 全く成す術も無くメタグロスは倒れたか……と思った瞬間、穴から発射されたシャドーボールがビブラーバに直撃した。
 進化したとは言え、メタグロスの攻撃をまともにくらってはひとたまりも無い。メタグロスとビブラーバは同士討ちで倒れてしまった。
「まさしく進化のラッシュですね……これから先のジム戦がきつくなる事を考えれば、ココで進化しておかないといけないとは思うのですけれど」
「ユキナリ君と一緒に相当ポケモンを鍛えていたからね。相手が強ければ強い程ポケモンが強くなる。そういう形がトレーナーとポケモンの理想なんだと思うよ」
 (メタグロスの強さは本物だった……でもビブラーバもこれからもっと強くなってくれるだろう……だけど、もうはがねに対して効果を発揮するポケモンはルンパッパとコシャクだけだ。
 もうコシャクは満足には戦えないし……ヤナギレイは相性的には悪い。どうするべきか……)
「ふ、ふふ……まさかココまでやるとはね……お、驚いたよ……ボ、ボクの鉄壁を誇るポケモン達が赤子扱いとは……だ、だがボクにだってジムリーダーとしてのプライドがある!ま、負けてたまるか!」
 オモリの眼鏡の奥にある目が炎を宿していた。かなり頭にきているらしい。
 実際オモリは中堅ジムリーダーとしてはかなりの強さを誇っているのだが、いかんせんユキナリとはくぐってきた修羅場の数が違う。
 カオスや、その他のライバル達との戦いで、ユキナリは確実に何かを掴みつつあった。
 (あと2匹……こちらも殆ど2匹だ……全く油断は出来ない。実際有利と言う程差は開いていないんだから……
 オモリさんは強い。でも僕だって沢山のトレーナー達の思いを背負っているんだ。負けたくない!)
「こ、こうなったら、とっておきだ……ボ、ボクの持つポケモンの中でもと、とびきりの速さを持つこ、コイツで……勝負をかける!」
 オモリは銀色のモンスターボールを床に投げた。先程ぽっかりと床に開いた穴は綺麗さっぱり塞がっている。
 穴のあった場所に落ちたボールから出現したのは炎の様に赤い深紅のポケモンだった。
『ホウ、ハッサムカ……』
「レジダイヤ様、あのポケモンは?」
『天カケル速サヲ持ツ虫ポケモンノ中デモトビキリ硬イ奴ヨ……ソノ速サカラ生マレル攻撃ハ予測不可能ナ程速イ……恐ラクワシデサエモ動キヲ止マネバ勝ツノハ難シイダロウ』
「でも、ユキナリさんなら……勝てますよ!きっと……」
『拙者殿のお側に仕えておるハッサムと申す。仕合こそ漢の生き様よ!この場で殿のお役に立てる事を光栄に思っておる。さあ、拙者と戦う勇気のある兵は誰じゃ!』
「やっぱりヤナギレイかな。最後に残しておきたいポケモンもいるし……出てきてくれ!」
 ユキナリはビブラーバをボールに戻すとヤナギレイをボールから出した。
『あ、ユキナリさん。私をバトルに使ってくれるなんて嬉しいです。相手はどなたですか?』
『おお、これは実に麗しい姫君ではないか。拙者、この様な美しい御方と戦えると思うと感極まる思いですじゃ。後で拙者の恋の浪曲でも聴いてくださらんかの?』
「……ハッサム。そ、それは後にしろ。今はめ、目の前の敵に集中するんだ」
 ハッサムは随分ヤナギレイの事を気に入った様子だった。確かにヒザガクンだった頃とは比べ物にならぬ程人目で女性だと解る美しい姿。
 艶っぽいのにそれが全く嫌味では無い綺麗な顔。ポケモンで無ければ確かに男性をも魅了する姿をしている。
『ユキナリさん。私結構気に入られちゃってますね……でも、勝負は別ですよ!』
 (逆にこういうのは厄介だな……でも、マスターの命令には背けないんだし……とにかく全力でぶつかるしかないか。ヤナギレイの能力もいまのうちにチェックしておこう……)
『ヤナギレイ・ゆうれいポケモン……髪の毛が柳の様に垂れ下がっている為この名がついた。見た目は不気味だが礼儀作法に通じ、心優しい穏やかな性格である。
 ♀は進化する前やたらと活発だがそれの反動を受けるかの様におしとやかになるのが特徴』
「特殊能力は……」
『特殊能力・てんしのびぼう……攻撃を与えてきた♂のポケモンを一定確率で『メロメロ』状態にする』
「最終的には相当便利な特殊能力を手に入れるんだな……相手が♂じゃないと効果無いみたいだけど……」
『ハッサム・はさみポケモン……鋭い鋏さばきと素早い動きで相手を翻弄し、一気に仕留める侍(辻斬り)型のポケモン。
 その鋏は鋼鉄で出来ており、コンクリートの壁も一瞬で粉々に出来ると言われている。虫・はがねなので炎には滅法弱いが、その他の攻撃には強い』
(やっぱりコシャクが大ダメージを受けたのは痛かったみたいだ……)
『特殊能力・マッハセクター……ターン経過ごとに素早さが上昇』
「防御力と素早さが同じ位高い……犠牲になっているのは攻撃力か。素早さ勝負ならヤナギレイの方が強いハズ。どちらが素早いか見せ付けてやろう!」
『はい、マスター♪とりあえず相手も手強いですけど、頑張りましょう!』
 ノリの軽さは相変わらずだ。やっぱりヒュードロから進化したポケモンなんだなあとユキナリは思った。一方ハッサムの方は目つきが鋭くなっている。『仕合』の態勢に入った様だ。
『ヤナギレイ殿……拙者は姫君に手をあげるのは心苦しい……じゃが勝負は勝負。痛みを与えず一撃で勝負を決めてみせましょうぞ!』
 言った瞬間、ハッサムはヤナギレイの眼前で鋏を振っていた。ジャブと言えども強靭な鋏がヤナギレイの胸を抉る。ヤナギレイは髪の色と同じ紺碧の血を吐いた。
『マズ……』
 次の一撃をかろうじて避け、距離を取るヤナギレイ。HPはまだ多く残っているものの、精神的な打撃の方が大きかった。
(まさか、そんな……私より速いポケモンがいたなんて……)
『少し手加減したのですがな。貴殿も遠慮していなさるか……拙者の速さは日ノ本一じゃ!』
『……例え相手が速かろうと、マスターは私を心から信頼しています。それを裏切る事は絶対に出来ません……ならば攻撃力で戦うのみ!』
 ヤナギレイはシャドーボールを作り、ハッサムに投げつけた。
『ハッハッハ!何を血迷っておられる。拙者にはゴーストタイプの攻撃は意味が無いぞ!』
 その攻撃をなぎ払いながらハッサムが突進してくる。その間にも掠っているだけだが機動力のあるシャドーボールは確実にヒットしていた。ユキナリにも作戦が飲み込めた様だ。
 (流石ヤナギレイだ。僕の命令が無くても完璧に自分の戦い方を掴んでいる……)
 そして、また胸に鋏で一撃を加えようとしたハッサムは……動けなくなってしまった。
『嗚呼、やはり貴殿は日ノ本一の美貌を持つ姫君よ……拙者と是非恋文の交し合いを……』
「よし、『メロメロ』になったぞ。相手が攻撃してこないうちに『エアロブラスト』を決めるんだ!」
『申し訳ありませんが、これもマスターの為ですので……お気持ちだけ有難く頂いておきますッ!』
 すっかりヤナギレイの虜になっているハッサムは、飛んできた竜巻を避けるでも無くただただ夢の中に沈んでいくばかりだった。そのまま壁に勢い良く叩きつけられる。
 それでもハッサムは凄く幸せそうだ……オモリの方は唖然としていたが。
「そ、そんな……ボ、ボクの手塩にか、かけて育てたは、ハッサムがこ、こんなあ、アッサリ……」
 焦りを感じているのか何時もよりどもっている。ハッサムの方は相性が普通な為、まだHPの半分以上は残っていた。ココで相手に隙を見せるとえらい目にあう。
「相手の反撃を許しちゃダメだヤナギレイ。もう1度エアロブラスト!」
 むしタイプを持っているハッサムにはエアロブラストが通用する。再び現れた竜巻がハッサムを覆ったかに見えた。だがその瞬間ハッサムが消えてしまう。
『!残像……本物は何処に?』
 慌てて辺りを見渡すもののハッサムの姿は見えない。ヤナギレイは焦った。
「ヤナギレイ、じっとしていちゃダメだ。逃げろ!」
 すんでの所だった。危険を感じて飛び退いた瞬間にハッサムの鋏が風を斬る様に飛んでくる。だが危険がチャンスに変わる事はよくある事だ。
 完全に後ろを取る事が出来た。ヤナギレイは再びエアロブラストで今度こそハッサムを空中高く舞い上げる。
『拙者は果報者じゃあ……』
 目がハートマークになっているハッサムは天井に叩きつけられ、休む間も無く今度は地面に激突した。目の前をヒヨコが軽やかに飛んでいる。
 やっとHPがレッドゾーンに入った事を確認すると、ユキナリはとどめをさしてくれとヤナギレイに命令を下す。
『ちょっとズルイかもしれませんが、これもバトルのルールにのっとった戦いです。諦めて、私が敬愛するマスターの為に倒れてくださいッ!』
 ヨロヨロと立ち上がるハッサムは、メロメロ状態から立ち直っていた。口から装甲と同じ深紅の血を流している。
 やっとこさ立ち上がるその姿は、落武者を連想させるには充分なものだった。戦国時代を駆け抜けた赤備のイメージをも去来させる。
『いやはや……これ程の好敵手と戦えるとは、拙者も戦士冥利に尽きますなあ。ココまで追い詰められたのも初めてですぞ。
 じゃが拙者にも武門の意地と言うものがある。絶対に失ってはならん大切なもの……拙者達戦士の魂が!!』
 その鋭い眼光に怯んだヤナギレイの隙をついて、ハッサムは雄々しく飛び上がり、腹に鋏の強烈な一撃を見舞った。破壊力抜群の鋏がヤナギレイの腹を抉る。
『まだ……まだですッ!』
 キッと歯をくいしばったヤナギレイの掌底から特大のシャドーボールが出現した。エアロブラストはもう使えない。
 それに満身創痍のハッサムを倒すにはゴーストタイプの技であっても既に充分だったのだ。ハッサムにはもう一撃の力しか残されていない。シャドーボールをくらって地面に倒れた。
『フフ……全ては、武士達と同じ夢であったと言うのか、無念じゃ……』
 一方のヤナギレイもその渾身の一撃が彼女の体力を限界へと誘っていた。腹を押さえながら苦しそうな表情を浮かべている。
 青い血まで口から垂らしている為余計に怖い。それでも、あと1匹さえ倒せば勝てる。
「か、勝てます。ユキナリさんは絶対勝てますよ!」
『最後マデ、解ランサ……ワシモ同ジ苦渋ヲ舐メタ事ガアルカラナ……』
「う……うおおおおおおッ!!」
 オモリは頭を抑えてうずくまった。苦悶の表情を浮かべながらも何とか立ち上がる。
「……ボクを、本気にさせてしまったね……ユキナリ君。最後の切り札を見せ付けるしか無さそうだ……自慢の、最強の鉄壁を誇るポケモンを見せてやるッ!!」
 激昂しているせいなのか、オモリのどもりは完全に消えていた。ハッサムをボールに戻すと今度はひときわ輝く銀色のボールを握り締め、解除スイッチを押す。
『ガルルル……外の空気は久しぶりだぜえ。おっ、戦ってんのか?』
「そうだ。今完全に不利な状況に立たされている。挽回出来るか?」
『ヘッヘッヘ。俺の実力はマスターもご存知だろ?今まで何度と無く形勢をひっくり返してきた最高のコンビだったじゃねえか。追い詰められたのならむしろ心地良いぜ。
 俺が最後に逆転させるのも悪かねえ……ガキ相手に熱くなるのも大人気無いしな』
 何処かで見た様なポケモンだと思ったが、それはユキナリの勘違いである事に気付いた。大きさや戦闘力も似たり寄ったりのアーマルドにそっくりだ。鋼鉄怪獣ボスゴドラである。

『オラオラ、サッサと俺と戦う相手を出しやがれ!一瞬で潰してやるぜ……』
 (傷を負っているヤナギレイには悪いけど、彼女を出して様子を見よう。ボスゴドラの弱点はいわタイプも含んでいるから水が良く効くハズだ。それに特殊防御も低い)
『ボスゴドラ・てつヨロイポケモン……鉄鉱石がある山を自分の縄張りとし、鉄鉱石を食べる事でどんどんと防御力を上げていく。
 その巨体はダンプカーを一撃で粉砕し、拳は軽く岩盤を割ってしまう程。縄張り意識とプライドが高く、山に入り悪さをされると我慢がならない。
 防御力は鬼の様に固いが特殊防御はそれ程でもないので、逆に特攻で攻めるでき』
「特殊能力は何かな……」
『特殊能力・鋼鉄の鎧……常に『鋼のシールド』に覆われた状態である』
 (まさに最後は鉄壁の名に恥じない特殊能力を持っているワケか……)
「ボクのボスゴドラは特別でね、鍛え方が違うんだ。普通のボスゴドラじゃ到底習得出来ない様な技も覚えている……そう、ボクがボスゴドラを完璧に仕上げてやったワケなんだけど」
 落ち着きを取り戻しているか、オモリの発言は自信に満ち溢れていた。既に何かに怯えている様な態度は消え、そこにいるのはただ自身のプライドに決意を感じている兵の姿である。
『そうだ。並みのポケモンとは鍛え方が違うんだ!そう簡単に俺に勝てるポケモンはいねえ。どんな奴が相手であろうと俺とマスターの連携プレーを思い知らせてやるだけだぜ!』

 ユキナリの手駒であるポケモンは残り3体。満身創痍のヤナギレイとコシャク、そして体力は充分にあるルンパッパである。
 対するオモリはボスゴドラ1体だけとは言え、実力的には大分ユキナリのポケモンを上回っていた。
「僕の鉄壁と……君の信念、どちらがパートナーを勝利へと導くのか、試してみようじゃないか!」
「望む所です。僕は負けられない……沢山の人の思いを背負って最果ての島までやってきたんだ!」
「コユキさん、ルンパッパが残っているんだから、ユキナリ君の勝ちは濃厚だと思うんだけど……」
「いえ、相性だけが全てを握っているワケではありません。当事者同士でしか解り合えない部分も多分にあるでしょう……最後まで未来は見えません。
 決められた人生がただ紡がれる様な事は無いのですから」
『死ね、くたばりぞこないがッ!』
 バトル開始と同時に先に動いたのはボスゴドラだった。『メタルクロー』で相手の腹を真一文字に切り裂こうとしてくる。
 図体がデカイくせに意外と素早い攻撃だったが、素早さに秀でているヤナギレイの敵では無い。
『相性は悪くとも、私の渾身の力を込めた一撃を次に繋げます!』
 ヤナギレイのタイプはゴースト・こおりから一転してエスパー・ゴーストである。
 ヤナギレイが持っている技は『ハイパーボイス』・『エアロブラスト』・『シャドーボール』・『サイコキネシス』(進化後に習得)と全てボスゴドラに対して不利な技のみ。
 それでも自分より大きな体を持つボスゴドラに対して一歩も引かない。
『ハッ!』
 前に突き出した両手から赤紫色の波動が生まれ、ボスゴドラを包み込んでいく。
 だが『鋼のシールド』に元から守られているボスゴドラには蚊が刺した程のダメージしか与えられなかった。
 蝿を払うかの様にベシッとヤナギレイを叩き伏せるボスゴドラ。壁にぶち当たったヤナギレイはあっと言う間に戦闘不能になった。
 (つ、強い……相性の悪さもあったけど、ダメージはほぼ与えてないのと一緒だ……)
「よくやったぞボスゴドラ。次も宜しく頼む」
『誰が相手であろうと、この鋼の肉体を持つボスゴドラ様の敵じゃ無えさ、グハハハハハ……』
 雄叫びを上げて笑うボスゴドラ。金属壁で構成された部屋中にその雄叫びが響き渡る。
 (勿論次はコシャクだ……相性は通常、勿論ダメージはかなり負ってしまっている……瀕死に近いのに出すのは気が引けるけど、ヤナギレイの言う様に最後に繋げなきゃいけないんだ!)
 あくまで慎重に相手を牽制し、出来るだけ相手にダメージを与える。それは間違ってはいなかった。
 ボールから出現したコシャクはヨロヨロしていたが、相手の姿を見つけると雄々しく立ち上がる。
『どんな敵が相手でも、決して怯みません。僕がユキナリさんを信頼している限り!』
『ヘッ、素晴らしい友情じゃねえか。だが、バトルには友情など関係無え……力だけが全てだ!』
 いきなりボスゴドラはまた『メタルクロー』を仕掛けてきた。コシャクは必死でそれを避ける。数回の攻撃を避けた後『かえんほうしゃ』を当てるが、そこまでダメージを与える事は出来なかった。
「ま、まともにヒットしているのに、少ししか減ってない……でも、さっきのサイコキネシスよりはダメージを与えられている……何回か攻撃すれば確実に相手のHPは減るハズだよ!」
「そう上手くいきますかね……」
 コユキは心配そうにユキナリの方を見つめていた。ユキナリの方はコシャクに発破をかけながら、適切な指示を出している。
 コシャクは何とか追い詰められる事無く逃げ回りながら、無難に相手をちびちびと攻撃していた。『かえんほうしゃ』の威力は対して効かないにしても強力な事には変わりが無い。
『ちいっ、ちょこまかと動き回りやがって、コレでもくらいやがれ!』
 ボスゴドラは通常覚えない『コメットパンチ』を使ってきた。拳に自身の体重を乗せて相手をねじ伏せる為の大技だ。紙一重で避けるものの、鉄板の様な壁があっさりクレーター状の穴を形成する。
 (あ、あんな強力な一撃を与えられたらルンパッパだってどうなる事か……)
 いささか鈍重さが目立つルンパッパ故、こんな力勝負に発展したらどうなるか解らない。
 既に相手のHPはイエローゾーンに近付こうとしていた。オモリの焦りも徐々に目立ってくる。
「何をしているんだボスゴドラ。瀕死のポケモンを仕留められないとは、ボクのパートナーだろう!」
『もう頭に来た。何処にいたって必ず当たる技を使ってやる!』
 そう言うといきなりボスゴドラは吼えて空中を見上げた。宙に向かって指を指すと巨大な鋼の隕石が姿を現す。空中で止まった巨大な鋼は確実にコシャクの動きを予測してロックオンしている様だった。
『はめつのねがい……2ターン後にほぼ確実なダメージを与える、その力は技の中でも一番強力なモンだ!』
『ならば、貴方の攻撃が当たり瀕死になる前にダメージを与えておくしか無さそうですね!』
 コシャクは思いっきり息を吸い込むと『かえんほうしゃ』を繰り出した。そして『せいなるほのお』もボスゴドラに命中させる。紅蓮の炎と青い狐火がボスゴドラを焦がした。
『シールド強化ァ!』
 自ら防御の構えを取り、ガッチリとガードを固めるボスゴドラ。2ターンの間に動けるのは勿論コシャクだけでは無い。体の前で腕を交差させ、相手の炎攻撃をほぼ無効化している。
 先程までは確実に削れていたHPも減っているのかさえ解らない程減らなくなってしまった。
「よし、2ターン経過!ボスゴドラ、『はめつのねがい』だ!」
 オモリの命令と同時に空中で静止していた鋼の隕石がコシャクめがけて降って来る。隕石はしっかりとコシャクを捉えて離れない。
 逃げ回る体力も底を尽きかけていたコシャクは隕石の下敷きになってしまった。その瞬間に戦闘不能状態になる。
「弱っていたユキナリさんのポケモン2体がついにやられてしまいましたね……」
「でも、予想より多く相手のHPを削れたハズだよ。半分はいったもの。後は相性抜群のみずタイプを持つルンパッパだ。ハイドロポンプで充分にダメージを与えられるからね!」
『出来るだけ、力を尽くしたんですが、力及ばず申し訳ありませんでした……』
「大丈夫。充分活躍してくれたよ。回復ポッドに入れるまでゆっくり休んで……」
 涙を流しながらうわ言の様に呟くコシャクをボールに戻し、今度はルンパッパをボールから出現させた。既に気合は充分の様子で、リズムをとってピョンピョンはねている。
『おやマスター、随分勇猛そうなポケモンですな。ワシの相手としては申し分無い。早速お相手致しましょう。属性的にも相当ワシの方が有利じゃが……』
「確かに……ルンパッパはボクの切り札であるボスゴドラに絶大なダメージを与えられるね……単純な防御力ならば高いけど、特殊防御力は意外と低いのが現状だ……
 だが、追い詰められただけで負けを認める程ボクは馬鹿じゃ無いんでね!」
 長髪の間から覗く目が不気味な光を宿していた。あくまでつっぱね、最後までジムリーダーとして恥じない戦いを見せ付けようとする気概が伺える。
 そう、ミズキも己の誇りを貫いて敗北した。敵に背を向けるよりかよっぽど男らしかったと言えよう。
「どうせこれが君との最後の戦いになるんだ。ボクが『鉄壁』と呼ばれる所以を見せてあげよう!」
『ガアアアア……グオオオオオオ……』
 ボスゴドラの体を銀色の膜が覆っていく。『鋼のシールド』が強化されているのだ。白いオーラが全身を包み込み、そして鋼に覆われた瞬間消え失せた。もう迷いは無い。
『守ってやる……俺の全身全霊をかけて守りきってみせる!!』
『面白い。ワシの攻撃を受け切れると申すか……ならば受けてみるが良い!』
 ルンパッパも構えを取り凄まじい水流を噴射する。『ハイドロポンプ』だ。敢えて全身でそれを受け、ふんばるボスゴドラ。あまりの水圧に押され気味になっている。
『俺は……マスターが小さい頃から鋼の肉体を手に入れる為修練を積んできた……守れると言う事、護身こそが攻撃に繋げる事が出来る最大の力であると教わってきた。
 俺が証明してやるんだ、マスターの理論を証明してみせる、守りきってやる!!』
 歯を食いしばり、全身全霊で水流の攻撃を受け、そして耐える。ポケギアで見ても先程から殆どHPは減っていない。鋼の膜がボスゴドラへのダメージを大幅に軽減しているのだ。
 (こんな、事って……相性までも跳ね返している……これが防御の真骨頂なのか……)
「流石、トーホク6番目のジムリーダーだけありますね。トウコ様が彼と戦って勝てるかどうか……」
「鍛えていてもやっぱり鋼は拳では貫けないと思うよ。タイプに固執したジムリーダーがトレーナーに負ける要因はそこにあると思う。
 最も、オールマイティなジムリーダーも遠くの方にいるって噂で聞いた事はあるんだけどね」
 コユキもユウスケも、固唾を飲んでバトルの行方を見守っている。決死の防御によりルンパッパもスタミナが切れ始め、徐々に水流が弱くなっていった。それでもHPは減ってはいる。
 (レッドゾーンに近付き始めてきたみたいだ。このまま押せば必ず勝てる!)
 しかし水流は突然止まってしまった。ルンパッパのスタミナが切れてしまったのだ。
『ハア、ハア……まさか数分も持ち応えるとは予想外じゃったぞ。確かに鉄壁じゃな……』
『守りきった・・・水を受け流し、耐えて俺はココに立っている!さあ、反撃開始といくか・・・』
 ニヤリと笑いズシズシとルンパッパの方に近付いてくるボスゴドラ。ルンパッパは息切れを起こしてゼエゼエ荒い息を吐いている。形勢が逆転してしまった。
「ルンパッパ、逃げるんだ!」
『おら、くらいな!』
 鋼の膜に包まれた強靭な尻尾がルンパッパを壁へ向けて弾き飛ばした。『アイアンテール』だ。数分間も水流を出し続けたルンパッパは逃げる事も出来ずに吹っ飛んでいく。
 だが幸い壁には当たらずに済んだ。ポケギアを見てみると今だけで半分近くのHPを減らされている。
 (動きは鈍いけど攻撃力は半端じゃない……あれ程メンバーの中で一番タフだったルンパッパのHPをたったの一撃でこれだけ削ってしまうなんて……あと2発くらったらもう終わりだぞ……)
 ユキナリは真っ青になった。形勢逆転の術が見つからない。
「やはり、防御力こそ力の源。いかに攻撃に秀でていても守れなければ反撃は出来ない」
 満足そうに頷くオモリ。再びボスゴドラはドシンドシンと足音を響かせながらルンパッパに迫る。
『ワシの力は、ワシだけのものでは無い……ワシを支えてくれたマスターと、同じ仲間達のものでもあるのじゃ、このままむざむざと負けてしまっては、仲間達に合わす顔が無い!』
 ルンパッパは再び立ち上がると、構えを取った。
『まだ力が残ってやがったか……まあ良い。あと数分なら充分攻撃を耐える事が出来る。倒れてからじっくりとどめをさしてやるとするさ……さあ、撃ってきやがれ!』
 再びボスゴドラは防御の態勢に入った。それと同時にルンパッパの『ハイドロポンプ』が繰り出される。
「頑張れ、ルンパッパ!押し切るんだ、何としても押し切れ!」
「そのまま防御態勢を保っていれば倒れる事は無い。我慢さえすれば乗り切れる!」
 両者の応援が飛ぶ中、ボスゴドラの体に変化が訪れ始めていた。膜にひびが入っていく。
『バッ、馬鹿な。シールドを破壊する程の水圧だとでも言うのか!膜が破れればまともに受けてしまう、そうなったら終わりだ……畜生!!』
 ふんばっていては勝てないと踏んだのか、ボスゴドラは防御の構えを取ったまま突進してきた。あの巨体の突進を受けてしまってはひとたまりも無い。
 かといって水流を止めればそのまま崩れ落ちてしまう可能性があった。ルンパッパは気力に任せて水流を口から放っているのだ。
『俺のタックルをくらええええッ!!』
 距離が縮まっていく、5メートル、4、3、2……その時膜がボロボロとはがれ落ちた。
『……終わり……か……それも、悪くねえ……』
 今だとばかりに水流が鉄砲水の方に一瞬だけ力を増し、シールドが消えたボスゴドラの全身に水を浴びせかけた。そのまま壁に飛んだボスゴドラは壁に凹みを作って気絶してしまう。
「か、勝った……」
 今度はユキナリの方がへたり込む番であった。ヨロヨロと歩きながらこちらに駆け寄ってくるルンパッパ。一方ボスゴドラをボールに戻したオモリはどもりが激しくなっていた。涙を流しながら、
「う、嘘だ……ま、負ける要素なんて、な、無かったじゃないか、ち、ち、畜生―――ッ!!」
 と叫んでいる。コユキとユウスケも側に来てユキナリを思い切り讃えた。
『見応エノアル戦イデアッタ。コレカラモ精進スルノダゾ、ユキナリ殿』
「ハラハラしたよー。ルンパッパが踏ん張らなかったらどうなってた事か……」
「突進してきた時に水が切れていたらおしまいでしたものね。手に汗握るバトルでしたよ!」
 ガックリとしてくずおれているオモリに今バッチをせがむのは酷だと思ったが、とにかく勝った事には変わりが無い。ユキナリは恐る恐るオモリの方へと近付いていった。
「あの、オモリさん……」
「は、はは……ボクの鉄壁がこうもアッサリと……コレでボクの戦術を破ったのはふ、2人目か……」
「それ、僕の兄さんじゃないですか?同じ様にリュック背負って、山登り用の服装をしてる……」
「き、君の兄さんだって?……な、成程。ち、血は争えないと言う事か……ぼ、ボクも修行のし直しが必要だな……フ、フフフ……負けたのになあ、おかしいや、は、ハハ……」
 無理やり笑顔を作ってみせるオモリ。だがその表情は相変わらず暗そうだ。
 自らハンカチを取り出すと涙を拭き、オモリはすっくと立ち上がった。そのまま奥の部屋へと進んでいく。
「つ、ついておいで。ボクに勝った証をあげるよ。そ、それに技マシンもね……」

 銀色の部屋の中にはまた技マシンが所狭しと鎮座していた。その中の1つをユキナリに手渡す。
「わ、技マシンは『鋼のシールド』だよ。はがねタイプのポケモンじゃ無くてもぼ、防御に秀でたポケモンならばしゅ、習得する可能性があるから、い、色々試してみると良い……」
 そして背負う形の技マシンを片手に持ち、もう片方の手でバッチを渡す。
「こ、これがボクに勝った証、『エージングバッチ』さ……ぜ、絶対に無くしちゃダメだよ。リーグに挑戦する為には、の、ノベロードでこのバッチ含め8個を係官に提示しなくちゃいけないからね……」
 そう、ユキナリ達の旅は確実にリーグへ向かって進みつつある。既にサークルバッチ、バードバッチ、マリンバッチ、ドリルバッチ、キックバッチ、そしてこのエージングバッチを獲得したのだから。
「後バッチは2つ……オーロラバッチとダークバッチだけだね」
「そう言えば……残り2人のジムリーダーは兄妹だと聞いた事があります。どちらも最後の砦だけあって相当に手強いとか……これからさらに厳しくなってくると思いますが、頑張ってくださいね!」
 外に出てバッチを確認すると皆キラキラと輝いている。栄光を讃えてくれているかの様だ。コユキとユウスケがジムに残りジムバトルを行っている間に、ユキナリはポケモンセンターへと向かった。

 ポケモンセンターに入ると、ユキナリを出迎えてくれた人物がいた。
「やあユキナリ君。先程のバトル、随分見応えがあったよ。白熱してたねー」
「え、エリモさん!見ていたんですか?さっきの戦いを!」
「天井にカメラが付いていてね、研究所のテレビで観戦が出来る様になっているんだ。今日君とユウスケ君がバトルするって聞いていたんで、少し前まで見ていたんだよ」
 言葉とは裏腹に、エリモは何か少し沈んだ表情を見せている。ユキナリはそれが気になった。
「ポケモンを回復ポッドに入れに来たんだろう?待ち時間の間に君に話しておきたい事があってね」
 センターの職員にボール6個を預け、技マシンをPCに預けるとユキナリはロビーの椅子に座った。その隣にエリモが座る。
「……君も知っての通り、トーホクの気象が異常に変わったのは知ってるね。雪が突然降らなくなった。
 最も、ゴウセツ山の頂上付近やノベロード辺りは今でも時折雪が降っているみたいだけど、それには何らかの理由があるハズだ。コレを見てご覧」
 エリモは数枚の写真を内ポケットから取り出した。ユキナリはそれを見つめる。全ての写真はゴウセツ山の周辺を写したものらしいのだが、写真全てに黒い靄の様なものが写りこんでいた。
「心霊写真ってワケじゃないよ。僕は生物研究家だからね。この付近を仲間に調べてもらったんだが、どうやらこの地域だけ異常に気温が下がっていたそうだ。
 それもこの靄が現れた時だけ……雪が降る原理は君も知っていると思うが、僕が思うにこの靄は、気象を操っているんじゃないかと思っている」
「気象を、操っているんですか?」
「恐らく、靄に見えるだけで実体はあるんだろうけど。この靄が生命体だとしたら、知能が高い生命体だろうね。自分の住みやすい環境に変える為にずっと雪を降らし続けてきたんだ。
 その結果この地域は何百年にも渡って雪が降り続けてきたんじゃないかと思う」
「一応、仮説としてはありえない話では無いですけど……じゃあ靄が生命体だとしたら、どんな生命体だって言うんですか?」
「……ポケモンだろうね。強大な力を持つ生命体はポケモンしか無い。伝説級だ……ゴウセツ山でこの靄を発見したと言う事は、この靄の正体は……」
「……幻の天駆けるポケモン、ゴウセツだって言うんですか?」
 エリモは一息ついて、別のポケットから煙草を取り出すと口にくわえて火をつけた。
「煙草は苦手かい?」
「大丈夫です。自分で吸うのは絶対に嫌ですけど」
「真面目なんだね、まあいいや。それはさておきゴウセツの話をしなくちゃね。僕は生物研究の傍ら、伝説のポケモンの存在を探していた。それは『合成獣』研究の為にも必要な事だったんだ」
「また、キメラですか……」
「ゴウセツの毛の一本だけでも良い、DNAが解析出来る部位さえ手に入ればこっちのものだ。僕は、ポケモンの能力の限界を探り出したいんだよ。
 最強と言われているミュウツーを超える、新世代のポケモンを世に送り出す為にね。生物研究家なら避けては通れない課題だ……天候を操作する謎の影がポケモンではないのかと言う仮説はあった。
 あとはゴウセツの姿さえ明確に捉える事が出来れば……」
「ユキナリさーん!」
『ユキナリ様、ユキナリ様……ポケモンの回復が終了致しました……』
「すいません、僕もう行きます」
「……そうか、頑張ってくれ。僕も影ながら応援させてもらうよ」

 ユウスケは勝った。ユウスケも回復ポッドでポケモンの回復を行い、島を後にする準備は整ったと言っても過言では無い……勿論、また舟の場所まで引き返さなければならないのだが。
「波も穏やかになっていますから心配は無いでしょう。ただ、また歩かなければ……」
「仕方無いよ。つべこべ言わずに歩いて舟の場所まで行こう。はあ……」
『何だ何だ、しけた面しやがって。さっきの闘志に溢れる顔はどうした、ええ!?』
「?あ、ボスゴドラさん!」
 ドスドスとボスゴドラが1匹で歩いてくる。振り向くと『背中に乗れ』とユキナリ達3人を乗せた。
『マスターのご命令でな、お前達を舟の置いてある海岸までお送りしろとのこった。しっかり捕まってろよ……飛ばすぞ!』
 ドスッドスッと大地を踏みしめながらボスゴドラは走った。走るとは言ってもそこまで早い速度では無い。ただドスンドスンと大きく上下に揺れる為、振り落とされない様に捕まっているのがやっとの状態であった。
「わ、私ちょっと気分が……」
「ぼ、僕も……」
「ボ、ボスゴドラさん、ストップ、ストップ!」
『何だ、随分だらしの無え奴等だなあ。さっきの気概はどうしたってんだ。まあ良い。マスターの機嫌を損ねるワケにもいかねえだろ。スピードを落とすぜ』
 だが、怪獣に乗っている様でユキナリ達はちょっと気分が良かった。何とか酔う一歩手前の所で助かった様である。コユキの方は16歳でありしかも女性なのでそういうウキウキ気分には浸れなかった。

 行きとは違いボスゴドラの背中でゆったりと、しかもボスゴドラのスタミナが全く切れなかった為、1時間と少しで対岸の浜辺へ辿り着く事が出来た。舟はしっかりとゆわえつけてある。
『マスターは対人があまり好きじゃ無えんだが、バトルの事となると興奮しちまっていけねえな。まあ、俺もマスターの事を言えた義理じゃ無えか。グハハ……』
「ありがとうございましたボスゴドラさん、オモリさんに宜しくと伝えておいてください」
『ヘッ、紙一重で負けたんだ。それを忘れるなとお前のポケモンによーく教えておけ!何時でも勝負を受けてたってやるぜ、相手がどんなポケモンであろうとな!』
 そういうと来た道をまたボスゴドラはドスンドスンと引き上げていってしまった。
「あ、そう言えばさっき……オモリさんが電話番号を登録しておいてくれとこのメモ用紙を……」
 コユキが差し出した用紙には確かに電話番号が書かれていた。早速ポケギアに登録しておく。
 (友達が欲しいとか言ってたもんなあ……取っ付き難い人だけど、悪い人じゃないし……)
「でも帰りが荒れないで良かったよ。無事にザキガタまで戻れるもんね。自転車、大丈夫かなあ……」
「きっとトウコ様がしっかり管理してくださっていますよ。さ、舟に乗ってください!」
 ココからは私の独壇場とばかりにコユキは2人を先導する。方向を見定めるとしっかりとした手つきで漕ぎ始めた。浜辺が、数日を過ごしたホッカイがどんどんと遠くなっていく……

夜月光介 ( 2011/06/29(水) 21:25 )