ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第4章 8話『父を超えると言う事』
 雪の中、対峙している2人を見つめるユウスケもまた、寒さに震えていた。2人の意地は自分のレベルを遥かに超えている。今ユキナリと戦って、果たして勝てるのだろうか?
 (ユキナリ君のポケモンの戦闘力はグングンと上昇してる……怖い位に。勝ちたいと言う強い欲望がポケモンをパワーアップさせているんだろうか?
 今の僕じゃ、ユキナリ君にも、アオヤマさんにも勝負を挑めないよ……次元が違う……)
「僕が次に出すのは……このポケモンです!」
 閃光と共に現れたナックラーを見て、アオヤマは少し表情を曇らせた。
「じめんタイプのポケモン……『じしん』を覚えていればイワークは勝てないだろう。この勝負、私にとってはかなり不利になるな……イワーク、お前は辞退しろ!時間の無駄だ。」
「えっ!?」
 ユキナリは唖然とした。アオヤマは勝てない事を見越してイワークの敗北を決めたのだ。
 最後まで決して諦めないユキナリにとってはとても信じられない命令であったが、マスターの命令に逆らうポケモンはいない。クリスタルイワークはボールに戻った。
「……息子よ。勝負には見切りをつけねばならん事もある。意固地に勝負を続けても、自分の精神力を大きく削ってしまう可能性があるのだからな。
 トレーナーの感情は、ポケモンにも大きく左右されてしまうのだ。勝てないと思ってしまえば、もう勝てはしない……」
 つまり、『不利な状況下では戦いたくない』と言う事なのか。ユキナリの考え方とは真っ向から対立する意見だ。
 ユキナリはどんな状況下に置かれても、自分とポケモンを信じて最後まで戦い抜くだろう。例え負ける戦いだったとしても。ユキナリは失望と怒りを感じた。
「私はイワークを戦闘不能状態と考え、コイツを使わせてもらう……」
 アオヤマがボールを投げると、今度は緑色の苔に覆われた岩石が出てきた。
「あれは……?」
 ポケギアでチェックを行うユキナリ。本や図鑑でも見た事が無いポケモンだ。
『コケシダ……岩石と苔が共生関係にある珍しいポケモン。苔は光合成で岩にエネルギーを与え、岩の方は貰ったエネルギーを使って外敵と戦い、苔を守っている。
 実は岩の中身は別のポケモンなのではないかと言う意見が出てきているが、真偽は不明。エネルギー吸収に長けている』
「特殊能力は何だろう……」
『特殊能力・エネルギーバースト……HP吸収の技を行うと攻撃力が上昇する』
「属性はいわ・くさだ。ホウエン地方で発見されたと言うユレイドルと同じ属性を持っている……残念な事だがお前のナックラーでは効果的なダメージを与える事は出来まい……」
 (確かにそうだ……ナックラーじゃじめんタイプの攻撃は『普通』……そう考えると効果的な技を持っているポケモンが全くいない……なら、ポケモンを交代させるべきかも……)
「じゃあ、僕はヒザガクンとナックラーを交代させます!」
 ユキナリはナックラーを切り札として残し、同じく通常のダメージしか見込めないヒザガクンを登場させた。
 だがナックラーより格段に素早さ、攻撃力、HPが高いだけ活躍する可能性がある。
『今のボクなら、何とかなりそうかも……やるだけやってみるよ〜♪』
「頼むよ……君とコケシダの戦いが、バトルの形勢を決めてしまうかもしれないんだからね!」
 空中に浮かび、ヒョイヒョイと軽快に飛び回っているヒザガクンを、怪しい瞳が見つめる。
『マスター……イワークの失態は計算外だったハズだ……だが私ならばこの形勢をひっくり返せる……期待していてくれ……』
「解っている。だから切り札を出す前にお前を出しておいたのだ。卑怯と罵られようとも、この戦いに負けるワケにはいかんからな。我々の戦い方を教えてやれ!」

 試合開始と同時に、ヒザガクンは空中を激しく動き回った。目にも止まらぬ速さで相手を翻弄する。姿を現したかと思えば消え、何度もシャドーボールを連発した。
「ハイパーボイスはいわタイプのポケモンには効かない……シャドーボールだけで勝負するんだ!」
『解ってるよ〜♪だけど……相手の防御はかなり固いみたいだね〜……』
 その言葉通り、シャドーボールをまともに何発もくらっているにも関わらずコケシダのHPは期待通りの減りを見せてはいなかった。
 シャドーボールの熱で、全身がシュウシュウと音を立てている。その煙の中、コケシダは『みきり』により確実な攻撃を当てようとしていた。
「ユキナリ君、何か作戦があるみたいだ。一旦ヒザガクンに距離を置かせた方が良いよ!」
「そうだね……ヒザガクン……やっぱりこの名前は慣れないなあ、一旦退いて!」
『おっけ〜♪でも、嫌な予感がするんだよね〜……』
「よし、それで充分だ。メガドレインで奴の動きを止めろ!」
 狙いすました一撃がヒザガクンを襲う。回避率の高いゴーストタイプのポケモンとは言え、みきりを使われてしまっては攻撃をくらうしかなかった。HPをあっさり吸収されてしまう。
『うあっ!……これは不味いよ〜。折角コケシダのHPを減らしたのにさ……』
「まだまだ、コケシダ!動きの鈍ったヒザガクンにやどりぎのたねを植えつけてやれ!」
「や、やどりぎのたねか……!」
 ユウスケのポケモンも覚えているくさポケモンの常套手段コンボを使われるとは……
 ユキナリはこのコンボの恐ろしさをしっかり認識してはいたものの、こうして実際に使われてしまうと対抗手段が全く思い浮かばない。少なくとも元が絶てなくなった。
 一瞬の隙を完璧について放たれた種は、ヒザガクンの体にひっついてコケシダへと毎ターン少しずつダメージを与えていく。しかもそれもコケシダに吸収されてしまうのだ。
 防御力の高いコケシダにとっては完璧な作戦。相手の自滅を待つだけで良い。
「よくやったコケシダ……後は相手のHPを吸収しながら次の戦いに備えておけ……」
『承知致しました』
 コケシダは防御力を上昇させる『かたまる』を何度も使い始めた。もともと防御力が高いうえにそんな技を使われてしまっては敗北は必死だ。
 ヒザガクンは自分の攻撃力をフルに解き放ってシャドーボールを連発する。相手が技を使う前に出来るだけ攻撃を加えておかなければ……
『ココで諦めたら、マスターに会わせる顔が無いモンね〜……力を信じなきゃ〜』
 ゆるゆるとHPが削られていく中、ヒザガクンは最後の賭けに出た。紫色のオーラが全身を包む。
 両手にそのオーラが蓄積されていき、それはまるで闇夜の如き暗澹とした……人を恐怖に包み込む様な色へと変わっていった。
「そうか……今のヒザガクンなら使いこなせるかもしれない……ナイトヘッドだ!」
「ナイトヘッド……!自分のレベルに応じて、固定ダメージを与える技だね!」
『ナ、ナイトヘッドだとお!?』
『くらえ〜ッ!!』
 凄まじい衝撃と共にその闇がコケシダを包み込む。防御力を無視したダメージが与えられ、防御力は高いがHPは並みのコケシダは一気に窮地へと追い込まれる。
 しかもナイトヘッドは何度もコケシダを包み込んだ。コケシダを何度も揺さぶり、技を出させる隙を与えようとはしない。
 痙攣しながらもコケシダは本能ゆえ、メガドレインを放ったが、全く見当違いの方向へと飛んでいった。形勢が逆転しながらもヒザガクンのHPは確実に吸い取られていく。
 アオヤマも誤算だったと言わんばかりに頭を抱えた。
『マスター……この攻撃は計算外でございましたか……!?』
「私の罠がこれ程あっさり破られてしまうとは、迂闊だった……すまん、コケシダ!」
『グオオオ……無念……なり……』
 ヒザガクンのHPをレッドゾーンにまで突入させたは良かったものの、コケシダも倒れてしまった。
「やった……あと1匹……あと1匹さえ倒せれば……父さんに勝てる!」
 ユキナリは歓喜の表情を浮かべていた。アオヤマも流石に冷や汗を浮かべている。
「まさか……ココまで……我が息子が成長していたとは誤算であった……たかがジムリーダー4名を撃破した実力ならば、私の敵では無いと思っていたのだが……」
「アオヤマさん。ジムリーダーだけじゃありませんよ。暴走族のリーダーだって、オチさんだって……沢山の強いトレーナーと戦ってきたんです、ユキナリ君は!それだけ実力がある!」
「……父さん。約束は守ってくれますよね?」
「勝った気でいるならそれも良いだろう。とうとう私の切り札にまで到達するとは……完璧に実力を見誤っていた……それならば本気を出そう。お前はもう対等な敵だ!」
 アオヤマは不思議なデザインのボールを取り出した。まだ2人が見た事が無いボールだ。まるで氷の様な光沢を放つその白色のボールが地面に投げられた。
 そしてそこからまたもや固そうなポケモンが姿を現す。ロボットの様な外見をしているが、外側は氷に覆われていた。
「いわ・こおりタイプのガツーンだ。あらゆる攻撃に対抗するべく鍛え上げられた最強の手駒……私が持つべき無双のポケモンだ!これでお前の前進を止めてみせる!」
「ガツーン……一体どんなポケモンなんだろ……」
 早速ポケギアにて詳細情報を調べてみる。やはりイミヤタウンで更新を終えていたのは正解だった様だ。更新を終えていなければ詳細が理解出来ないまま戦う事になっていただろう。
『ガツーン・りゅうひょうポケモン……鋼の如く固い鍾乳石が意志を持ち、氷を体に貼り付けたと言われている。
 パーツごとに意識を持っているので変形が自在。戦いに応じて形を様々に変える事が出来る。ノーマルフォーム・エアフォーム・タンクフォームの3種類』
「特殊能力はどうなってるんだろう?」
『特殊能力・フォームにより異なる。ノーマルフォーム……防御力上昇・一撃必殺の技を全く寄せ付けない。
 エアフォーム……素早さ上昇・ふゆう能力を会得する。
 タンクフォーム……攻撃力上昇・ほのおタイプの攻撃から受けるダメージ半減』
「こんな……ポケモンがいるなんて全く知らなかった……凄すぎる……」
 ユウスケも呆気に取られた表情で巨大なロボットを見つめていた。タイプは変わらないものの、確かにどんな状況にも対応出来るポケモンである。伝説のポケモン級なのではないだろうか。
「でも、通常のポケモンなら能力値だって通常の範囲内だよ。苦戦は免れないだろうけど……」
「フォームを変更する事で、個々のポケモンを撃破出来ると言うワケだ。お前のヒザガクンを倒した後は、ゆっくりと残り2体の猛者を吟味していくとしよう……」
 アオヤマは冷静さを取り戻していた。これだけ強力な切り札を用意していたのだから当然とも言える。こうなれば総力戦だ。出来るだけ相手のHPを削るしか道は残されていない。
「ヒザガクン、ナイトヘッドで相手のHPを出来るだけ減らしてくれ!」
 戦いが始まった瞬間からヒザガクンは動いていた。両手に溜め込んでおいたオーラをそのままガツーンに向けて放出する。だが、その攻撃は避けられてしまった。
『!?』
 完璧にガツーンを見失い、慌てるヒザガクン。その瞬間、エアフォームに変形したガツーンの頭突きがヒットした。そのままあっさりと戦闘不能になるヒザガクン。
「そ、そんな……全然見えなかった……」
『ターゲット掃討完了。次ノ戦イマデ待機致シマス……』
「ご苦労……コレが私の伝説と呼ばれる所以だよ、ユキナリ」
「うう……あのヒザガクンが逆にガツーンに翻弄されたなんて……しかも少しのダメージも与える事が出来なかった……強過ぎる……」
 ユキナリは驚愕と同時に、恐怖を感じていた。これまでに無い強さ……圧倒的な強さが彼を理不尽な恐怖に突き落としていたのだ。
 初めて恐ろしいまでの強敵に出会ったとも言える。
 (な……何て強さなんだ……あのユキナリ君のヒザガクンが簡単に一蹴されて倒れるなんて……このポケモンは、さっきの3体とは完全に別物だ。本当に伝説級のポケモンだよ……)
「でも……コレでコシャクを出す事は出来ないと解った……ほのおダメージを軽減されてしまうんだから……ドシャヘビとナックラーに全てを託すしか無い!」
 ユキナリはドシャヘビをボールから出現させた。寒さに弱い爬虫類ポケモンではあるが、彼の場合は全くそんな様子を見せない。むしろ元気に跳ね回っていた。
「君と戦うポケモン……ガツーンは強い。最後までくらいついてくれ!」
『ああ。解ってる……しかしマスター、アイツは今までの奴とは明らかに違うな……出てるオーラが尋常じゃねえ……どうやら俺の腕を持ってしても苦戦しそうな敵みたいだぜ……』
 絶対に弱音を吐かなかったドシャヘビが、ガツーンに対しては素直に負け戦を覚悟していた。ユキナリは無理も無いと思ったが、諦めてしまってはいけないとは思っていた。
 ここまで僕を誘ってくれた沢山のトレーナーの為に、ココで倒れるワケにはいかないと思っていたからだ。
「フ……無駄な戦いにならん様にな……息子よ。蛮勇なるガツーンの真の実力を思い知るが良い!」

「ドシャヘビ、まずはポイズンクローで相手のHPを削るんだ!どく状態にするのも良い!」
『ケケケッ、そう言うと思ってたぜ!いくら強くったってよ、作戦勝ちって事もあるんだぜ!』
 ドシャヘビは急降下して迫り来るエアフォームのガツーンに飛び掛っていった。鋭い爪に猛毒を染み込ませ、鉄壁と思われた氷の壁を削り取る。ガツーンが悲鳴を上げた。
『体力少量低下、毒素ガ全身ヲ汚染シタ模様……非常ニ危険ナ状態……』
『ヒャハハッ!かかりやがったな!マスター、今のうちだ。一気に勝負を決めようぜ!』
「ま、待ってドシャヘビ!過信は禁物だ!一旦退いて様子を伺うんだ!」
『そんなチマチマした戦い方はしたくねえ!相手は毒状態だ。動きが鈍った今を逃してたまるかよ!』
 (クク……罠にかかったのはお前の方だぞ……)
 飛び掛るドシャヘビに向かって振り下ろされた鉄拳が、胸を思い切り凹ませた。
『ガ……ハアッ……』
 ノーマルフォームに戻ったガツーンが『メガトンパンチ』をヒットさせたのだ。不意をつかれたドシャヘビは、そのまま地面に倒れこんでしまう。
 腹を狙った一撃は一気に体力を半分以上も奪う強烈な攻撃力を誇っていた。ドシャヘビはヨロヨロと立ち上がるものの、素早さがかなり低下している。
「どく状態にしたは良かったが、キツイ一撃をくらってしまった様だな。私の作戦勝ちだ!」
『ち……畜生……だが、毒状態にはさせてもらったぜ……必ずHPを削っていくからな……』
「ノーマルフォームに戻ったガツーンには微々たるダメージだ。さあ、とどめをさしてやれ!」
 ガツーンはまた腕を振り下ろし、ドシャヘビを戦闘不能にせんとまた『メガトンパンチ』を繰り出した。しかしその攻撃を利用するかの様に、ドシャヘビは鱗の体を利用してスルッと腕にしがみつく。
「!ドシャヘビ、思いっきり噛み付いてやれ!」
 ユキナリの命令を受けて、窮鼠の如く必死に腕にくらいつくドシャヘビ。『ポイズンキラー』の発動に、ガツーンは狼狽し腕を必死に振り回したが、ドシャヘビは絶対に吹き飛ばされまいとしていた。
『ガ……ガ……腕ノ傷カラ大量ノ毒素ガ……キ、機能低下……危険……キケン……』
「雑魚に何を手間取っている!振り解けないのなら、腕ごと地面に叩きつけろ!」
 アオヤマの命令に従い、ガツーンは腕を一旦切り離してロケットパンチの様に地面に落下させたが、その時にはドシャヘビの姿は消えていた。今度は頭の部分に移動していたのだ。
『……ヘヘ……確かに強えよ……まだ腹が痛みやがる……だがな、マスターを思い少しでも高みに押してやろうとする謙虚な心がアンタには無え。気力の勝利だ!』
『グア……ガ……ガ……危険……キケン……叩キ潰ス……叩キ潰ス……』
 先程強力な攻撃力を披露していたガツーンであったが、今やすっかり冷静さを失ってしまっていた。体力の低下に恐怖し、事もあろうにエアフォームに変形してしまう。
 防御力が低くなり、さらにダメージが加算されてしまった。遂にドシャヘビがレッドゾーン近くにまで追い込む事が出来た。そして毒状態の効果によりレッドゾーンに突入する……
 その時、エアフォームの先端に噛み付いていたドシャヘビは、地面に思い切り突き刺さった衝撃でやっとガツーンから離れた。
 そしてエアフォームの特殊攻撃である『いわなだれ』を全身に浴び、戦闘不能となる。
「バ……カ……な……コレは何かの間違いだ……息子のポケモンに、私のガツーンが押されるなど……何が起こった!?おいガツーン、貴様腕がなまってしまったのか!!」
『信じようと……しねえからさ……』
 ボールに戻ろうとしていたドシャヘビが小さく呟いたが、誰の耳にもそれは届かなかった。
「ドシャヘビが……必死に頑張ってくれたからだ……こんな強いポケモンを相手に。勝てるかもしれない……勝てるかもしれないよ!!ユキナリ君!」
「僕もそう思えてきた……さっきはとても勝てる相手じゃないと思っていたけど、僕を信じてくれたドシャヘビのおかげだ。大きく相手の体力を削る事が出来た!」
「フフ……ハッハッハッハ……息子よ……私の負けだ……」
 突然笑い出したアオヤマは敗北宣言をすると、ボロボロになっているガツーンをボールに戻した。
「素晴らしいぞ、ユキナリ……まさかここまで成長していたとはな……完敗だ。これ以上勝負を続けずとも結果は見えている。勝てぬ勝負は、切り上げる主義なのだよ」
「じゃ、じゃあ……」
「解った。家に帰り母さんを安心させるとしよう。ただし、旅は続けさせてもらうぞ。
 私が生きている事を大っぴらに宣伝しないでくれ。私はあくまでも、母さんに会うと言う約束だけ受け付けたのだからな」
「それでも良いです……父さん、有難う……これで母さんも喜んでくれるよ……」
 ユキナリは安堵して涙を流した。勝てた事と、母を安心させる事が出来る2つの喜びが一気に溢れたのだ。
 (アオヤマさん……あのまま戦っていたら負けていたかもしれないと思って勝負を切り上げたのかもしれない……
 伝説のトレーナーがハッキリと敗北したら大変だからな……でもそれが却って幸いした……ユキナリ君だって残されたナックラーだけで勝っていたかどうか……双方円満解決だよね)
 ユウスケが思うに、アオヤマが勝負を切り上げた瞬間に『引き分け』が確定していた。負けと言っているがリーグの人間やトレーナーは『敗北』とは取らないだろう。
 あくまでも『戦闘放棄による引き分け』と見るだろうからだ。ポケモンバトルでは『戦闘放棄による敗北』は無い。
 公式戦では戦闘放棄など決して許されない事と言える。この様なフリーのバトルだからこそ『引き分け』が成り立つとも言えるのだが。
「勝負は終わった……私は必ずシラカワタウンへ立ち寄る事にするよ。お前はお前の道を歩め。父親を越えたお前が目指すのはリーグ以外にはありえない。お前は必ず覇者になれる。信じれば、な……」
 アオヤマは再びボールからガツーンを出すと、回復させ、エアフォームに変形させた。そのままガツーンに飛び乗ると、手を振りながらあっと言う間に空の彼方へ消えていく。
「と、父さん!?」
「アオヤマさん言ってたよね。1人で歩いていた方が気楽だって……」
「そ、そうだけど……もう少し一緒にいてくれたって良いじゃないか!父さんなのに……今日初めて顔を合わせたんだよ?それで結局バトルをしただけ!?そんなの酷いや!」
 憤慨してももう父親の姿も、あの強敵の姿も見えない。ユウスケはユキナリを諭すと、再び共に歩き始めた。
 自転車を使い、一気に走っても良さそうなものだが、今の2人はそういう心境では無かった。時間をかけて色々話したかったのだ。
 激しく心が動揺しているのを感じていた。特にユキナリの方は……父親が、本当に強いトレーナーだった事を知って、それ故にまたバトルしたいと言う強い思いも生まれていたのだが……

 自転車を押しながら、2人は洞穴の入り口部分に何とか到着する事が出来た。どうやら洞穴の内部は地面が凍結しているらしく、迂闊に自転車で移動する事も出来ない。
「ゆっくり自転車を押してココを抜けるしか無いみたいだね……」
「時間はあるよ。怪我でもしたら旅を続けられなくなっちゃうし」
 2人は滑らない様に注意しながら、ゆっくりと洞穴の内部に入っていった。

 内部はかなり広く、天井には氷柱が沢山垂れ下がっていた。非常に寒い。
 防寒着がある故何とか我慢していられたが、それが無かったらとてもこの中に長い時間いられるとは思えなかった。吐く息も凍ってしまいそうだ。
「でも、凄い綺麗だね……鏡みたいだ。地面に僕達の姿がハッキリ映ってる……」
「壁もだよ。あんまり大きな声を出さない方がいいかもね。氷柱が落ちてきそうだよ」
 この洞穴の中には様々なポケモンが生息していると聞いていたが、まだ見かけてはいない。
 人間が来た事に反応して、隠れてしまっているのだろうか。ユタカのヒットナンバーチャートを使うには、やはり氷柱が怖かった。
 この辺りで何とかポケモンを捕まえておきたい所ではあるのだが……
『クケッ、クケッ、クエー!』
「ん?……あ、野生のデリバードだ!」
 天井付近から一斉に現れた沢山のズバットを先導するかの様に、数匹のデリバードが行進しながらユキナリ達の前まで歩いてきた。その中にはペンペルもいる。
「確か、ペンペルは既に進化してるポケモンだったっけ……」
「ペペル、ペンペル、ペンギペンの順に進化するポケモンだったと思うよ」
 デリバードを先頭にした愉快なポケモン行進隊は、ユキナリ達に向かってオイデオイデと手を振ると、洞穴の奥に向かって戻り始めた。Uターンして消えていく。
「手招きしたよね……?どういう事なんだろう」
「とにかく、ついていってみようよ!」
 捕まえてみようと考えずに、とりあえずデリバード達の後を追う2人。走りたかったが、自転車を押しているので軽はずみに走ると転倒しかねない。
 その行進の一番最後に入って、洞穴の奥へと進んでいった。道が十字に分かれている場所でポケモン達は右へと曲がる。同じ様に曲がると道が狭くなり、ずっと遠くに光る物が見え始めた。
「何だろう、あの光は……」
 行進が止まり、一番奥は行き止まりになっていたのだが、その壁には何と化石があった。
「化石だ……コレ化石だよ、ユキナリ君!」
「壁の中に埋まっちゃってる……割るのは危険かな。氷を溶かせば……」
 ユキナリは早速コシャクをボールから出して、壁を溶かしてもらう様頼んでみた。
『戦うよりは楽な作業ですよ。ちょっと待っててくださいね。すぐ終わると思います』
 コエンの口から青色の炎が吐き出される。その高熱の炎を加減しながら、ゆっくりと壁の氷を溶かしていった。数分後、ユウスケが土壁にはまっていた化石を取り出す。
『何の化石なんでしょうね』
「こういう時は、フタバ博士に電話で聞いてみようよ」
 ユキナリは頷き、ポケギアの電話番号からフタバ博士の番号を探し出しかけてみた。
『……フタバです。ただいま留守にしております。御用の方は……』
「あ、留守電かあ……じゃあコオリヌマ教授ならどうだろう。あの人がいないってのはあんまり考えられないしね」
『……おお!ユキナリ君か!元気にしておるかね!』
 ユキナリはコオリヌマ教授にさっき見つけたばかりの化石を見せてみた。
『フウム……この化石は恐らくリリーラの化石じゃろう。数億年前に絶滅したハズのポケモンじゃが、現在は化石から復活して培養されておるから沢山おるぞ!』
「リリーラ……ホウさんが持っていたくさポケモンですね。じゃあこの化石はユウスケに譲る事にします」
「あ、ありがとうユキナリ君!……そっか、草ポケモンなんだ、この化石の中身……」
『ユレイドルは防御力がかなり高い。それにいわタイプが弱点を軽減してくれておる。互いのタイプの相性が抜群だと、弱点が無いポケモンも生まれるんじゃよ』
「そんなタイプがあるんですか?」
『例えばあく・ゴーストかの。エスパータイプに弱いゴーストじゃが、あくはエスパーから一切攻撃を受けない。
 あくはかくとうに弱いが、ゴーストはあくから一切攻撃を受けないと言う具合じゃ。もしかしたらこの他にも無敵のタイプ編成があるかもしれんのお……』
「そんなタイプのポケモンもいるんですか……」
『また聞きたい事があったら、何時でもワシに相談してくれ。24時間OKじゃぞ!』
 通信を終え、ユキナリとユウスケは改めて化石を見てみた。小さいが壊してしまっては大変だ。
「ラップとかあるかな……巻いて衝撃から守ってあげられれば……」
 都合よくラップ等があるハズも無く、とりあえず化石はリュックの中にしまいこむ事にした。レトルトカレーを入れていたビニールの袋から全部出し、その袋に化石を入れる。
 レトルトの箱はユキナリのリュックに入れてあげる事にした。かなり重くなるが、化石が壊れるよりはマシであろう。
『ユキナリさん、どうやらデリバードさん達はこの化石を出してあげたかったそうですよ』
「それなら良かった……コシャク、出口はどっちにあるのか聞いてみてくれる?」
『……さっきの十字路まで戻って、右(つまり真っ直ぐ)へ曲がれば出口に着けるそうです』
「本来なら真っ直ぐ歩けば着けるのか。迷路みたいになってたらどうしようかと思ったよ……」
 2人は安堵してデリバード達に別れを告げた。嬉しそうに手を振りながら飛び跳ねている彼等を捕まえる事など出来そうも無い。
 そのまま右に曲がってさらに奥へと進むと、また広い場所に出た。今度は野生のウリムーやイシツブテが地べたに座ってくつろいでいる。
「あれ、こんな洞穴の中に滝があるの!?」
 奥へと続いている道を塞ぐ様に川が流れており、すぐ近くに滝があった。
 何処から流れてきているのか解らないが、高い場所から水が落ちており、修行が出来そうな位の速さである事は理解出来る。水は恐ろしく冷たそうだ。当たれば冷たいどころか痛いのでは……
「ねえ、あそこ見てよ……ホントに滝修行してる人がいるみたい……」
 ユウスケの指す方向にその男は半裸で座り込んでいた。あぐらをかきながら手を合わせ、一心不乱に打たれている。はいている胴着もずぶ濡れで、とても真似出来そうに無い。
「あのー、寒くないんですかー?」
 氷柱に注意しながら、ユキナリはあまり大きくない声で呼びかけてみた。
「心頭滅却すれば氷水とて温かい……喝!!」
 叫び声と共に天井がグラグラ揺れ、氷柱がバンバン降ってくる。
「あ、危ない!」
 慌てて先程歩いてきた狭い道へと逃げようとしたが、足がもつれて自転車を持ったまますっ転んでしまった。氷柱が2人に向かって落ちてくる。
『せいィ!』
『アチョーーッ!!』
 その時急にポケモンが3匹現れた。凄まじい速度で氷柱を破壊していく。飛び膝蹴りやマッハパンチ、メガホーン等の大技が目の前で次々と繰り広げられていった。
「す、凄い……」
 我が身の危険を忘れて彼等の力に魅入ってしまうユキナリ。3匹は空中まで飛び上がると、天井の氷柱も粉々に破壊していった。大声を出してもこれなら平気だ。
「驚かせちまったかな?いやー悪い悪い。でもま、俺のポケモンの力量は解っただろ?」
 滝に打たれていた男はゆっくり立ち上がると、裸足のまま2人に近付いてきた。普通ならば氷に足がくっついてしまうと思われるのだが、彼は全く平気であった。
 どういう体をしているのか聞いてみたい所だ。そもそもこんな寒い洞穴の中で、半裸でいて平気というのが凄い。
「俺は格闘王のケンゴ。ザキガタシティの道場で生徒に体術を教えている。ココは修行には最適の場所だな。静かだし自分を精神的にも肉体的にも鍛え上げる事が出来る。最高だぜ!」
 そう言われてみると、彼が頭に巻いている鉢巻には『格闘王』と書かれていた。髪の毛はハリネズミの様に尖っており、胴着の腰部分には黒帯がしっかりと巻かれている。
「僕はトレーナーのユキナリ。こっちも僕の親友でトレーナーのユウスケです!」
「アンタ達トレーナーか。こんな遠くまで来るとはご苦労なこった。もうジムリーダーを4人も倒した事になるな。随分腕が立ちそうだ。俺達と戦ってはくれねえかな?」
 ケンゴがそう言うと、先程の3匹、キノガッサ、チャーレム、ヘラクロスがケンゴの近くに寄ってきた。目には自信が溢れており、鍛え上げた肉体はケンゴにも劣っていない。
「3vs3バトルで勝負しようぜ。トレーナー相手なら、俺はまだ1回も負けた事は無え。ココで修行してると、たまにお前達みたいな奴が来るから退屈しねえんだよ……」
 ケンゴの手にはまたユキナリが見た事が無いボールが握られていた。
「もし俺に勝ったら、この『バルキー』をお前にプレゼントしてやろう。俺が手塩にかけてやっと誕生させた最強のバルキーだ。
 親の戦闘力が半端じゃ無かったからコイツもきっと大物になるだろうよ。どうだ、俺と勝負する気になったか?」
 バルキーと言えば3種類のポケモンに進化すると言われている不思議なポケモンだ。それにまだユキナリはかくとうタイプのポケモンを持ってはいない。ユキナリが承諾しないワケが無かった。
「ええ、是非勝負させてください!」
「俺がこんな提案をするのも、ポケモンがそれだけ強いからだと思っておけ。だがアンタも相当修羅場をくぐっていそうだ……こりゃ楽しみな戦いになってきたぜ……」
 ユキナリはポケモンの体力を確認した……コエン以外のポケモンは満足に戦える状態では無い。
「ナックラーは……大丈夫そうだけど……でもやっぱりココは……」
 ユウスケはそれを見て微笑むと、ユキナリに自分のポケモンを貸した。
「コボクとボタッコならきっとユキナリ君にも味方してくれるよ!それに化石のお礼もしたいし……」
「あ、ありがとう!きっと勝てるよ!」
 ユキナリは考えたすえ、ナックラー、ボタッコ、コシャクをメンバーとしてケンゴに勝負を挑む事にした。かくとうタイプに有利なポケモンは1匹もいないが仕方あるまい。
「よおし、俺はまずヘラクロスを先鋒として戦わすぜ!」
『ヌウウ……久しぶりに満足のいく戦いが出来そうだ。期待してるぜ……』
 シュッシュッと拳を振るうヘラクロス。その拳はかなり早く、肉眼でとらえる事が出来なかった。
「ヘラクロスはどんなポケモンなんだろう……かくとうポケモンなのは間違いないとは思うけど」
 早速ポケギアでヘラクロスについて調べてみる。
『ヘラクロス……虫ポケモンの中では卓越した攻撃力の持ち主。鍛え抜かれた肉体からは破壊を旨とする技が飛び出してくる。
 縄張り意識が強く、入ってきたポケモンを角で捕まえて放り投げる事で有名。虫タイプの超大技『メガホーン』を覚えてくれる数少ないポケモンでもある』
「特殊能力は……」
『特殊能力・インセクターファイト……HPがレッドゾーンに入ると攻撃力上昇』
「もともと高い攻撃力がさらに高くなるのか……やっぱり簡単に勝てる相手じゃ無さそうだ……」
 対するナックラーはまだ戦闘力としては不完全なものの、驚異的な素早さと相手を惑わす技を備えている優秀なポケモンだ。勝つまではいかずとも、相当粘る事は出来そうだった。
『ガッガッガ……強そうな相手と戦うのは俺も嬉しいぜ!さて、どう攻めるか……』
「ユキナリ君、頑張って……僕のポケモンもきっと君の為に協力してくれるよ!」
「まずは小手調べといくか……デモンストレーションだ。実力の差を見せてやれ!」
『解ったぜマスター。この攻撃を全て避けきれるかな?シッシッシ……』
 試合開始と同時に動いたのはヘラクロス・ナックラーどちらもであった。鋭い爪を握り締め拳を固めると、鋭いパンチとキックの雨をあびせかける。
 ナックラーは小さい故の素早さでそれを避けていった。その技の連携に関してはユキナリも見惚れる程完璧なものだ。
 上段蹴り、連打、中段蹴り、アッパー、踵落としと一切の隙を見せぬ華麗なまでの拳技に応えるべく、ナックラーもまたその攻撃を一切受けずに後退していく。まるで殺陣を見ている様だ。
『ヌウ、素晴らしい動きだな!流石に4人ものジムリーダーを相手にしてきただけの事はあるぜ!』
『ガガ……それは違えよ。俺様の動きは生まれつきだ。何せメグミのポケモンとしか戦ってねえからな。持って生まれた天賦の才って奴かな?鍛え上げたお前にもひけを取りはしねえ!』
『そうかな……これはまだ準備運動でしか無えぞ。マスター、そろそろ本気を出しても良いか?』
「おう。これからがヘラクロスの本領発揮の時だ!思い切りそいつを痛めつけてやれ!」
 ケンゴの呼びかけに応える様に、ヘラクロスは全身からみなぎる力を集中させた。体から出ている汗があっという間に蒸発していく。洞穴内の寒さなどまるで感じていない様だ。
『や、やべえっ!』
 ナックラーは危険を察知してすんでの所で穴に潜り込んだ。その瞬間、洞穴内に凄まじい轟音が響き渡る。
『グア―――ッ!ギャオ――――ッ!!』
 あまりの五月蝿さにユキナリもユウスケも耳を塞いだ。殆どヒザガクンの『ハイパーボイス』だ。
「超音波で相手の体力を削り取る大技、メガホーンだ。ハイパーボイスよりも高い攻撃力を誇る大技なんだぜ。これを覚える事が出来る虫ポケモンはそうそういねえがな……」
 鼓膜がおかしくなりそうな程の轟音であるにも関わらず、ケンゴは全く平気そうであった。鼓膜も鍛え上げる事が出来るのであろうか?ヘラクロスの顔を見ると血管が浮き出ている。
 ヘラクロスは叫ぶのを止めると、ナックラーが穴に潜って攻撃を避けた事に気付いた。その小さい穴に近寄って穴に口を寄せると、もう1度超音波を……
 その時ナックラーが別の穴から飛び出してきた!
『いくら攻撃力があるからと言って油断は禁物だぜ!俺みたいに弱っちい奴は策を弄するからな!』
 そのまま全体重をかけてヘラクロスの頭を穴の中に落としこむと、『かみくだく』を連発しだした。
『ガアッ!!小癪な真似をしやがって!そんな軽い体で俺を押さえ込む事が出来ると思ってるのか!』
 ヘラクロスは頭の角を思い切り振り上げてナックラーを弾き飛ばした。吹き飛んだもののナックラーはダメージを受けずに地面に着地する。
 今の攻撃で3分の1程体力を削られてしまったヘラクロスはかなり興奮している様だ。頭から湯気が立ちのぼっている。
「おいヘラクロス!そんな事で怒ってどうする、落ち着け!お前程の実力があれば簡単に押し返せるだろう!相手の思う壺だと言う事が解らねえのか!」
『雑魚だと思って油断していたが……本気を出して倒さねえとな……もう容赦しねえぞ!』
 先程とは段違いのスピードでナックラーに迫り、本気の一撃とばかりにメガトンパンチを出すヘラクロス。
 だがその攻撃を見抜いていたナックラーはそれを避けて地面に降り立つと『じしん』をお見舞いした。先程のメガホーンやじしんの時氷柱があったらと思うとゾッとする。
 多分ケンゴはそれを見越して3匹に氷柱を破壊させたのだろう。同時に戦う相手であるユキナリへの牽制効果もあった様だ。
「いいぞナックラー、そのまま一気に攻め立てるんだ!相手の体力はもうレッドゾーンに入ってるぞ!」
 レッドゾーンに入ったヘラクロスの攻撃力は大幅に上昇していた。この状態で渾身の一撃がナックラーに当たってしまえば、1発で死んでしまう事も充分考えられる。
 それにヘラクロスは激昂の極みにあった。
『畜生……弱いくせに……弱いくせにこの俺を倒そうってのかあ!絶対許さねえ!!』
 息を思い切り吸い込むヘラクロス、またメガホーンだと解ったナックラーは穴の中に隠れた。さっきと同じ様に穴の中へ向かっていくヘラクロスの背中側からナックラーが飛び出したが……
『へッ、かかったな!』
 くるりと後ろを振り向いたヘラクロスはナックラーを掴みあげた。そのまま顔の前に持っていく。
『これではもう俺のメガホーンを避けようがあるまい!一撃で終わりにしてやる!!』
 しかしユキナリには読めていた。何時も何時もナックラーは裏の裏をかく策略家だ。この体勢で繰り出せる技がしっかりあるではないか。
「ナックラー、すなあらしだ!」
 突如発生した強烈な砂嵐に視界を遮られ、驚くヘラクロス、だが決して手を離してはいない。
『目くらましなど俺には効かんぞ!俺はただ叫ぶだけだ!』
 だがそうでは無かった。相手がメガホーンを繰り出した瞬間、ナックラーは顔に思い切り噛み付いたのだ。
『グアアアッ!!』
 仰け反って天井にメガホーンを当ててしまうヘラクロス。開始から少量受けたダメージをこらえて、今度は足に噛み付いてメガホーンを転倒させた。
 ケンゴには戦いがどう動いているのかサッパリ解らない。勿論命令を出したユキナリもそれを見守っているユウスケにも、砂嵐のせいで状況を把握する事は出来なかった。
『馬鹿力があるだけじゃ、勝てねえって事がよーく解っただろ?今度は頭も鍛えておくんだな!』
 背中に思い切り噛み付いたナックラー、しかし断末魔の様な『メガホーン』は避けれなかった。
 地上にいる以上、何処にいても『メガホーン』のダメージは受けてしまう。同時にHPがゼロになった。砂嵐がおさまった後、2匹が倒れているのを確認すると2人はそれぞれのポケモンをボールに戻す。
「やはり俺が見込んだだけの事はあるぜ!今まで戦ったトレーナーの中では一番強えな。ヘラクロス相手に善戦してナックラーで相討ちとは……こりゃ面白え事になってきたぞ!ワクワクしてきやがった!」
 ケンゴは無精ヒゲに包まれた顔を歪めてみせた。笑い顔も鍛えているせいか少し怖い。
「よおし、中堅はキノガッサ、お前に任せる!ヘラクロスを越える強さを示してやれ!」
『解ったよマスター。僕も期待に添える様出来る限り頑張ってみせるからね!』
 キノガッサは見た目こそ可愛いものの、ヘラクロスに負けない程の筋力を持っている事が容易に想像出来た。
「キノガッサはくさ・かくとうポケモンだよ。ココはコシャクでリードを取ろう!」
 ジムリーダーがみず・じめんと続いたせいで活躍出来なかったコシャクがようやく最高の舞台で戦う事が出来る。出現したコシャクもやっと実力者と戦えると喜んでいる様子であった。
『キノガッサですか……ユキナリさん、相手の能力とか、チェックしてください!』
「うん、今情報をインプットしてる……キノガッサは……」
『キノガッサ……闘争本能と子孫保存本能を同時に満たす為、戦う時に頭のキノコから胞子を飛ばしている。
 格闘センスはキノコを奪おうとする野生ポケモンとの戦いによって養われ、どんな敵でも決してひるまない強靭な精神力をも併せ持つ。尻尾や足の爪など、攻撃の手段を選ばない真の格闘家』
「やっぱり強そうだな……特殊能力は?」
『特殊能力・葉緑素……『ひざしがつよい』状態の時、HP回復の技を使うと効果倍増』
「成程……くさポケモン特有の能力が裏目に出たのか……これなら特に注意する必要無いかな……」
『油断は禁物ですよ。キノガッサの素早さは、僕と互角……いや、それ以上かもしれませんから』
 円らな瞳をキッと鋭くして、キノガッサはコシャクと向き合った。
『確かに強そうだね、マスター……僕も最初から本気でやった方が良さそうだ……』
 試合開始と同時に動くキノガッサ。飛び蹴りでコシャクを壁に叩きつけようとするものの、コシャクの口から発射された強力な火炎放射をくらうまいと尻尾を地面に叩きつけてそれを避けた。
『初手は全くの互角ですか……確かに素早さは僕以上みたいですね……』
『攻撃力も君以上かもね。僕は結構強くなる為に努力してるんだ。マスターに華を持たせてあげたいんだよ』
『それは僕も同じですよ……ッ!』
 コシャクは素早い摺り足で距離を縮めると再び火炎放射を繰り出した。キノガッサは横っ飛びでそれを避けると、コシャクの頭目掛けて膝蹴りを放つ。
 それを予測していたコシャクは軌道を変えてキノガッサの膝に鬼火を命中させた。くさタイプのキノガッサは2倍のダメージを受けてしまう。
『ガッ……くうっ!!』
 これ以上のダメージを受けてはいられない。痛みをこらえてバックステップで追い討ちの炎を避けるキノガッサ。膝は鬼火のせいで羽毛が焦げ付き、焼け爛れてしまっていた。
『ハア……ハア……僕の思い違いだったかな?やっぱり君は相当腕が立つ……でも僕程じゃない!今度は僕が策を練る番だ!近寄らなくても君の体力を奪い取る!』
「!?まずい、コシャク!相手が行動を起こす前に追い討ちをかけるんだ!」
『向こうが向かってこない限り避けられてしまいますよ……私にも解ってます。キノガッサさんは『にほんばれ』と『メガドレイン』のコンボを使うつもりだ……』
『惜しい。にほんばれと『ギガドレイン』のコンボだよ!いくら君が炎ポケモンであったとしても、相応のダメージから逃れる事は出来ないハズだ!僕が何とか流れを変えなきゃ……』
 キノガッサは天井に向かって光を吐き出した。その光は天井の氷を溶かし、洞穴の中をすっかり暖かくさせる程の熱を放ち、球体になる。
 『にほんばれ』だ。これによりキノガッサの技が効果を増す……それに気付いていたコシャクはキノガッサの眼前にまで迫っていた。

夜月光介 ( 2011/06/12(日) 21:18 )