ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第4章 6話『教授連盟』
 2人がオチを見逃した事により、少なくともユキナリにとっては幸運な事が起ころうとしていた。ユキナリ自身は、まだその事に気付いてはいない。
 林の小火も必死の消火活動によって消され、ユウスケと合流したユキナリは、メグミと共にビルの爆弾を爆破させようとしていた。
 とは言っても、ポケモンの体内に封じ込め、無力化させた上で爆発させるのである。
「我々爆破処理部隊にお任せください。マルノーム!一気に飲み込め!」
 駆けつけた処理部隊のマルノームが飲み込み、ゲップをした瞬間、体内の爆弾が爆発した。だがポケモン……特にマルノームの胃袋は強靭で衝撃などビクともしない。
 これで街消滅の危機は回避出来た。ユキナリとユウスケはホッと胸を撫で下ろす。
「良かった……一時はどうなる事かと思ったけど……」
「でも、イミヤタウンのポケモンが盗まれたのは悔しいね。アタイは掟で街の外には出れないし……
 ユキナリ、ココはアンタの出番だよ。街のポケモンを取り返してくれないかい?」
「勿論ですよ。僕に出来るだけの事はやってみます!確か、ホウさんはまだ別の場所があるって言ってた様な気が……そう、レイカさんの本部に送りつけたって……」
 本部と言う事は、セイヤ、ホウ……そしてまだ見ぬレイカを含めて3人も幹部がいる事になる。
 果たしてそのレイカと言う人物に勝つ事が出来るのだろうか。不安は隠せなかった。
「とにかく、爆弾も無事に処理出来たしとりあえずは一安心だね。ユキナリ、アタイはこれからまだ仕事があるから時間が無いけど……明日、必ず勝負しよう!待っているよ!!」
 メグミはそう言うと、兄貴達と一緒に足早に工事現場に向かって歩いていった。
「やっぱり止められないんだな、メグミさん達の思いがこもったあのビルを建設するのは……」
「ユキナリ君、だってメグミさんにはメグミさんなりの主張があったでしょ?それに……僕達が止めなくちゃいけないんだ!この神器を使って、荒ぶる神を鎮めなきゃ……」
 ユウスケが取り出した斧は、さらに斑点が多くなっていた。ユキナリも釣竿を取り出す。
 あの時は綺麗だった釣竿にも斑点が1つ、2つ付いているでは無いか。だんだん酷くなっている様だ。
「うん……でも、今すぐに、ってワケにはいかないさ。今出来る事をしよう。メグミさんとの勝負は明日だ。その前に、ばくだんポケモンの情報を送ってくれた教授さん達に会いに行こうよ」
「そうだね。でも何処にあるのかメグミさんにも解らないって言ってたよ。どうすれば……」
 その時、ポケギアが発信音を鳴らした。どうやら電話のアラーム音らしい。
「はい、ユキナリですけど」
『ハハハッ!君がユキナリ君か!話は聞いておるぞ!どうやら破竹の勢いでジムリーダーを次々撃破しているらしいじゃないか。感心な若造じゃ!いや、実に素晴らしい!』
「……どちら様ですか?」
『ワシか?ワシの名はコオリヌマと言う。君の街にいるフタバ君の師匠じゃよ。
 まあ、あの変種ポケモンは完璧にフタバ君の発見じゃから、もう1人立ちしたと言っても過言では無いじゃろうな。ばくだんポケモンのデータは役に立ったかの?』
「あ、貴方がコオリヌマ教授ですか?」
 話を聞いていたユウスケが興奮していた。どうやらかなり著名な人物らしい。
『ワシの言う通りに行動してくれればすぐにワシの研究室は見つかる。センターの隣の家から3軒先の青い屋根の家……まあ雪が降り積もっているから解らんか。
『霜月』と書いてある表札の家じゃ。そこに入って『ポケモンに探究心を燃やす者!』と言えばワシの部下が地下への扉を開けてくれるじゃろう』
「解りました。今からそちらに向かいます」
『待っておるぞ。ポケモンへの探究心も忘れぬ様にな。ハハハ……』
 ポケギアを切ると、ユウスケはかなり興奮している様子であった。
「そうか、コオリヌマ教授だよ、ユキナリ君!トーホクでのポケモン研究、フタバ博士より先に研究を続けていた凄いポケモン博士で、トーホクでは知らない人がいない位なんだって!」
 コオリヌマ教授の名前はユキナリも聞いていた。ユキナリの母親も、フタバ博士を尊敬しながらも教授の話を聞かせてくれたものだ。
 だが、実際に彼と会った事は無かった為、どうも実感を持てずにいた。
 そう考えると、普段から会って色々な研究成果を見せてもらったフタバ博士の方が偉いのではないかと思わずにはいられない。実感が持てないと結局尊敬も出来ないからだ。
「僕の先生みたいな人だよ!家にある草ポケモンの図鑑は、殆ど教授が執筆したものだから……うわ、憧れの人に会えるなんて夢みたいだ!!
 ココに住んでたのか……どんな人なんだろう……」
 ユウスケは有頂天になっている様子であった。ユキナリも彼と会う事に興味が無いワケでは無い。トーホクのポケモン博士、その草分け的存在を見てみたいと思ったのだ。
 雪の降る街を指示された通りに歩いていると、言われた通り『霜月』と表示された表札が見えた。
 雪が屋根にかかっている為どの家も屋根が真っ白だったが、この表札だけは他に見当たらない。
 ドアノブを捻ると鍵はかかっておらず、ごく一般的な部屋があった。いや、まるで倉庫の様だ。
 その隅に、いかにも科学者らしい服装をした、暗い顔の男が座っている。七三分けをした髪型、申し訳程度に生えている口ヒゲ……とても先程の豪胆そうな声の人物とは思えない。
 とりあえずユキナリは教えられた合言葉を口にしてみた。
「ポケモンに探究心を燃やす者、ユキナリとユウスケです!!」
 そう言うと男は顔を上げ、少し不気味な笑い顔をした。この顔ではまともな笑い顔にはなるまい。
「よ、ようこそ……きょ、教授から話はう、伺ってます……ど、どうぞ……」
 完璧にどもっている。何やら凄く弱そうなイメージが浮かんだ。卑屈そうな笑い方がやたら気になる。そう思っているとその男は部屋に置いてあった荷物をどかした。
 どかした跡に現れたのはスイッチだ。その床のスイッチを押すとゴゴゴ……と音がして床がガタンと開いた。どうやら地下に研究室があるらしい。
「き、君達の事はふ、フタバ博士に聞かされていたよ……が、頑張ってるみたいだね……」
 ぎこちない笑い顔だった。彼は、生まれた時からどもっていてこんな笑い方しか出来ないのであろうか?そう考えるとユキナリはこの男が不憫でならなかった。哀しい人生だ。
 彼について階段を下りると、明るくて広い研究室が姿を現した。フタバ博士の部屋よりも大分広い。地下だと言うのに電球がこうこうと照らされ、陰気なムードは微塵も感じられない。
 部屋の中も清潔そのもので、まさに研究するにはもってこいの場所になっていた。
「やあ、来てくれたねユキナリ君。それにユウスケ君。ワシがコオリヌマじゃ。ココイミヤタウンは隠れて研究を行うのに丁度良い静けさでの。
 じゃが、最近はやたらと研究室の外がガーガー五月蝿くてかなわん。一体外では何をやっておるんじゃ?」
 手を広げて出迎えてくれたのは金髪の髪がツンツン尖っている中年紳士であった。どもっている男と同じ純白の博士らしい服装に身を包み、垂れ目とピンと上に伸びている眉毛が目立つ。
 かなり外に出ていないのか、白い無精ひげが口と顎に集中して生えていた。
「は、博士は今研究室にこ、篭りっきりでけ、研究を続けているんです……」
「だから外の事はとんと解らんでのー、今何曜日かも思い出せん。1つの事に集中しておると外とコミュニケーションが取れないのが悩みの種じゃ。ハハハハ……」
 やはり豪胆な紳士だ。大声でカンラカンラ笑うと、研究室が震えている様でもある。
「教授がいなかったら、僕達リッパーさんに負けていたと思います。それどころか皆が危険に晒される所でした……感謝しています。本当にありがとうございました!」
「おお、そうじゃったの。その最新式のポケギアをちょいと貸してみい」
 言われるままにポケギアを渡すと、コオリヌマ教授はポケギアのデータをいじり始めた。
「これで良し、と……トーホクでの変種ポケモンデータを大幅に更新しておいたぞい。それにワシの電話番号も登録しておいた。
 フタバ君でも解らない事があったらとりあえずワシに電話してくれ。よっぽどの事が無い限り起きとるからな。質問は受け付けるぞ!」
「有難うございます。教授……それで今は何の研究をしているんですか?」
「うむ。フタバ君の発見は素晴らしいものじゃったが、決定的な証拠が無い。ワシはあの仮説を非常に高く評価しているのじゃがな……そこでじゃ。
 本当に通常のポケモンが寒さの影響で変種ポケモンになったのか、ココを使って実験を行っている所なのじゃよ」
 教授はそう言うと、奥に見えるガラスケースを指差した。
「あの中には卵から孵ったばかりのベイビィポケモンが入っておる。ウツギ君は立派に証明したワケじゃな……このポケモンにトーホクで吹く一般的な冷風と雪を用意した。
 雪は丁度−5℃で、冷風は−2℃と設定しておるんじゃが……この状態を長く続ける事によって何らかの変化があれば、仮説が成立する事になるじゃろう」
「で、でも……変種ポケモンは長い間に渡って変化してきたものだと博士は……」
「微かな変化で充分なんじゃ。寒さをきっかけとして進化してきたと言う仮説がそこで成り立つ。フタバ君の仮説は確固たるものであると立証されるじゃろうて……」
 その後も教授は2人に様々な研究、その成果を公開してくれた。どれも根気と努力がいる作業を伴うものばかりで、2人は正直博士にはなれないと痛感する。
「ワシ達はトーホクのポケモン全ての研究自体、終了しないと思っておる。ウツギ君やフタバ君が言う様に、ポケモンの種類自体も増えてくるじゃろう。
 まだまだ発見されていないポケモンは沢山いる。ワシが思うに、500種類以上のポケモンがこの世界に生息しておるんじゃ」
「500種類……!このトーホクも含めて、ですか?」
「ウム。我々のエリアと交流があるのは今の所ジョウト・ホウエン・カントー、そしてリューキューじゃな。
 この5つのエリア全土を含めて500種類以上とすると、他のエリアが問題になってくる。すなわち外国じゃ。外国にはまだまだいるじゃろう。そうなると……
 キリが無いんじゃよ。ワシ等ポケモンを研究する事に命を燃やす者にとっては、永遠に宿題が残される事になる。
 ワシが死んでもフタバ君が死んでも、人間が探究心を燃やす限り、ポケモン研究もまた永遠に続く……果てしない旅みたいなものじゃ……」
 2人には想像も出来ない世界であった。そう、終わりは無い。科学を探求する者にとって終着点は永遠に遠ざかっていく。
 ただ、人生を賭けて研究した成果だけがその人物にとっての終着点になるだけだからだ。
「難しい話をしてしまったかの?」
「いえ……でも、それだけ大変な偉業だって事は僕達にも解ります」
「僕、教授の本を読んでポケモンの知識を持ったから……教授が僕の先生なんですよ!」
「君はユウスケ君だったね。そう言ってもらえるととても嬉しい。研究者冥利に尽きる言葉じゃ……君も探究心を燃やしたまえ。
 もっと好きなポケモンの事を知りたいと思えば、世界はどんどん広がっていく。未来に君達の夢を託すんじゃよ!」
 ユキナリはさっきからずっと暗い顔をしている男の方を向いて尋ねた。
「ところで……教授。この人は……?」
「ワシの研究を手伝っているパートナーでな。シモツキ助教授じゃ。彼自身も沢山の発表をしておるからの。もしかしたらユウスケ君も知っているのではないかな?」
「ハッ、ハイ!!教授と一緒に『草ポケモンの生態』を執筆した人ですね!」
 これ程までに興奮しているユウスケを見た事が無かった。長い付き合いだが、何時も気弱で少し頼りない彼がここまで嬉しそうな笑顔を見せるとは……
「よ、読んでくれたんですか?う、嬉しいですね……ぼ、僕は一生懸命く、草ポケモンの強さを、あ、アピールしたんですけど……ど、どうでしたか?
 ぼ、僕……何か変な事を書いていなかったでしょうか……し、心配です……」
 パアッと彼の顔が明るくなるのが解った。暗い笑顔が一転して素直な笑顔に変わる。教授と同じ垂れ目が嬉しいのかつりあがった。
 やはり彼も研究者なのだなあとユキナリは感心した。とにかくポケモンの事となると目の色が変わる。
「本当に素晴らしかったですよ!助教授の事も尊敬していました。貴方だったんですね!」
 ユウスケも単純なもので、自分の運命を変えた人物ともなるとどもりなど微塵も気にしなくなる。まあ、そういうものだろう。
 ユキナリだって、尊敬する最強のトレーナーが冷たい人だったとしてもその思いは揺るぎはしない。

「もうこんな時間か……僕達、そろそろ帰ります」
「また何か困った事があったら何時でも電話をかけてくれ。シモツキ君もきっとしっかりした答えを出してくれる。機会があったらまた会おう!」
 リッパーを撃破して街に帰ってきたのが3時だったから、たっぷり夜の6時まで3時間もいた計算になる。
 ユウスケは教授から吸収した知識を総動員して教授と楽しく話し合っていたが、そこまでの知識を持たないユキナリにとっては何だかユウスケが遠くに行ってしまった気がして少し哀しかった。
 (ユウスケは僕とは違う……当たり前の事だけど、ココまで離れていたなんて……僕には探究心は無いけど、ユウスケには探究心がある。
 あの気弱な性格が探究心を育んだのかな。もしかしたら、ユウスケはポケモン研究者の道に向いているのかもしれない……)
 ユキナリはそう思った。
「で、ではまた……ゆ、ユウスケ君。あ、新しい本が出来たら、ま、まず君に僕の書いた部分をPCに送らせてもらうよ……り、リーグ制覇も、が、頑張ってくれ……」
「はい、頑張ります!ユキナリ君と2人で、まずはリーグへの道を切り開かないと!」
 ユキナリとユウスケは親友だ。それは間違い無い。だがユキナリがリーグ覇者への闘志を燃やす限り、ユウスケとはライバルにもなる。
 実の兄であるホクオウとも……そうやって
 敵味方になって戦わなければならないと言う事が、彼の心に重くのしかかっていた。研究室を後にして、2人はジム挑戦者の為の小屋に戻った。
 夕食をとり、シャワーを浴び……よく考えてみれば着替えが三着しか無いのも非常に哀しかった。いちいち小屋の中にある洗濯機に入れ、乾燥機で洗わなければならない。
 後始末も大変だ。この小屋が用意されていなかったらユキナリ達の旅も途中で頓挫していたのかもしれない。ユキナリはゲンタ達ジムリーダーの暖かい心配りに感謝していた。
 外は相変わらず寒い。シャワーを浴びた後などバスタオルですぐに拭かないと体中が震える。ヒーターが稼動していても寒いのには変わりなかった。古い施設なので窓から風が入ってくる。
「寒いね……」
「うん、本当に寒いよ……とにかく今日は体を休めて明日に備えなきゃ。メグミさんの地面タイプにはやっぱりハスブレロが効く……
 ハスブレロでどれ程圧倒出来るか……そこがポイントだな……」
「ハスブレロと言えば……みずのいし貰ったよね。ユキナリ君……」
「ミズキさん達から貰った奴でしょ?」
 ユキナリはリュックから青く光る水晶の様な石を取り出した。
「そうそれ。ハスブレロはみずのいしで進化するんだ。確かルンパッパって奴だよ。
 ある程度経験値が溜まって技を沢山覚えたら、さらなる高みを目指して進化させてみるべきじゃないかな。きっと強くなるよ!」
「そっか……石で進化させるともう技を覚えなくなっちゃうから……」
 特殊な進化後のポケモンは、殆ど強い技を覚えなくなってしまう。特にハスブレロはハイドロポンプすらも習得する事が出来るかなり貴重な草・水ポケモンだ。みずげいだけでは心許ない。
「もう少し技を、か……ハスブレロ、何処まで強くなるのかなあ……」
 ユキナリとポケモンは共に強くなっていく。ユキナリは精神的に、ポケモン達は能力値が戦うごとに増していくのだ。
 それだからこそ、ポケモンと言う生物が広く世間に浸透し、愛されているのだろう。この世界でも、私達のいる世界でも。

 夜が明け、メグミと戦える日がやっとやってきた。この街では様々な事件が起こった。カオスは襲撃してくるわ、リッパーは爆弾を仕掛けるわ……
 それを乗り越えて、やっとメグミと挑戦出来る。迷いはもう無い。朝食を取り、ポケモンセンターで回復。準備を整えた後、そのまま2人はイミヤタウンジムの扉を開けた。
 中は他のジム同様1色に統一されており、ココは地面をイメージしたのか内装が黄土色にまとまっている。リーグと同じフィールドが用意されており、そこにメグミは立っていた。
 彼女にも気後れは無い。兄貴達が沢山集まって彼女に声援を送っている。対するユキナリには応援者はユウスケしかいない。まるでトサカと戦った時の様だ、とユキナリは思った。
「アンタの実力はよーく解ってる。アタイと互角……いや、アンタの方が上かもしれない。そう思うからこそ、全力で勝負させてもらうよ。手加減無しだ。
 楽しもうじゃないか!アンタも、戦う喜びを知っているんだろう?」
「……僕だって、メグミさんの強さを知りました。流石に4人目のジムリーダー、でもココはまだリーグじゃない!僕が目指す場所はまだ遥かに遠い場所にあるから……
 絶対負けたくはありません。悔いの無い戦いにしたいと思っています!」
「いいぞー、ユキナリ!姐さんも格好良いッスよ!どっちも頑張れ!」
「お前を応援してるぞー!姐さんに挑むその実力を俺達に見せてくれ!」
 いや……トサカさんとの戦いじゃ無い。ユキナリは考え直した。
 (あくまでもこれは、メグミさんとの戦いなんだ。公式のジム戦だ。迷うな、迷ったら負ける。自分に出来る精一杯の戦い方を見せなきゃ!)
「ここのジムでは4VS4のバトルが公式として通用してる。そう、あのカオス幹部やリッパーも同じ数のポケモンを持ってたから流れは掴んだろう?
 だからアンタも4匹のポケモンが手持ちだ。最後のポケモンの体力が残っている方の勝ちになりそうだね……ワクワクしてきたよ。こんなに強いトレーナーと戦えるんだからさ!」
 メグミは既にドリルボールを取り出していた。地面タイプのポケモンを捕まえるにはもってこいの代物だ。フィールドに投げると閃光と共にポケモンが姿を現す。
『ガフッ!今日は姐さんに戦いを挑んでくるトレーナーがいるって聞きましたが、コイツですか。成程、良い目をしてる……相棒のポケモンの姿を早く見てみたいですね』
 現れたのは手がシャベルの様になっている虫ポケモンだった。土をよく掘りそうな手をしている。体長はナックラーとそれ程変わらない。
 このポケモンも自力で『あなをほる』を覚えるのだろうか。
「ツチニンか……まずはメグミさん、ユキナリ君の実力を再確認するつもりみたいだね……」
「ツチニン?とりあえずポケギアで情報を確認しなきゃ……」
 ユキナリは腕時計の様なポケギアでツチニンの情報をインプットした。更新したばかりなので情報も豊富だ。しかも情報が届くのが前より早くなっている。
『ツチニン……珍しい『むし・じめん』タイプのポケモン。地面を掘り住居を作ってそこで冬を越している。手は土を掘り進むのに適した形になっており、いざと言う時の武器にもなる優れ物。
 進化すると『テッカニン』と『ヌケニン』に分裂する、と言うさらに珍しい特徴を持つ。『あなをほる』を覚えるのも非常に重宝するポケモンだ』
「やっぱりあなをほるを覚えているのか……特殊能力は?」
『特殊能力・ふくがん……攻撃の命中率が上昇する』
「厄介だけど……このツチニン相手だったら、何とかなるかもしれない……」
 HPや特徴と良い、能力値も殆ど同じだ。これほどツチニンとのバトルに適しているポケモンはコイツしかいない。素晴らしい戦いになる事を予想して、ユキナリはボールを選び出した。
 地面に落ちたモンスターボールが閃光と共にポケモンを出現させる。ナックラーがガチンガチン音を立ててジムリーダーとの戦いを楽しもうとしていた。
「選択としては悪くないね……ナックラーとツチニンか。どちらも穴掘りが得意で戦闘力も同じ位ときてる……こういう真剣勝負、アタイは大好きだよ!
 じゃあ戦わせてもらおうか!最初の勝負から気を抜きはしないから、覚悟しておきな!」
 イミヤタウンジムリーダーメグミ、強い女性。その実力を知りながらも、自分の目標の為に今ユキナリは彼女と戦う決意を固めた。戦闘が始まる。

 戦闘と同時に両者は物凄い勢いで穴を掘り始めた。地面タイプの意地なのか、掘り進む速度すらも競っている様に見える。やがて、メグミとユキナリの視界から2匹は姿を消してしまった。
「土の中のバトルに関しては、アタイのポケモンの方が一枚上手さ。それに……」
 メグミはそう言うと突然目をつぶった。ユキナリは驚いて何事かと問いかけるが、メグミは無視した。
 彼女は地面の下で鳴る音だけで相手と自分のポケモンの位置を把握しようとしているのだ。
「メグミさん、いくら地面ポケモン使いだって言っても、まさかそんな事が出来るなんて……」
 ユウスケも彼女の能力を疑っていた。いくらポケモンと共にいた時間が長いとは言え、そんな技を習得出来るとは思えない。だがメグミには地面の下の状況が逐一解っていた。
「ツチニン、ナックラーはアンタの真正面だ。暗がりから噛み付こうとしてるよ!」
 ユキナリはとにかく地面の下の情報を探りたいとポケギアを操作したが、流石に地中を見る機能は付いていない。位置関係が解らないと攻撃命令さえ出せない。
 その命令が致命傷になる可能性だって充分あり得るからだ。となると、ユキナリ側は攻撃出来ない事になる。
 (ナックラーの持ち味を生かす為にはどうしても地中にいる事が必要だ……ココは、ナックラーを信じて待とう。ツチニンを上回る攻撃力を見せてくれ!)
 一方メグミは手馴れた様子で、地面を時折足でつつきながら状況を把握しようとしている。
「そうだ、そこできりさく!怯んだ所でぎんいろのかぜを使って!」
 メグミの命令はツチニンが絶対的優勢にある事を如実に表していた。このままでは一方的に決められてしまう。負ける位ならば、地面にて勝負するのは間違いでは……
 だがその時、ポケギアからナックラーの翻訳声が聞こえてきた。
『上から声が聞こえるからな。俺も逆に奴の動きが解るぜ。ガガガッ!』
 相手が動けばナックラーが避ける。ナックラーが仕掛ければツチニンが動く。互角の戦闘力を持つ相手ゆえ、一撃だけでも戦況を大きく引っくり返す事が出来そうだ。
「ユキナリ君。メグミさんもちょっと苛立ってるみたいだよ。どっちも相手の力を見切っているんだ!この勝負は長引きそうだね……」
「ああもう、トレーナーが捕まえたばかりのポケモンに梃子摺っててどうするんだい!
 そんなんじゃアタイのポケモンの名が泣いちまうよ。さっさと決めるんだ!」
『姐さん、焦ってはいけません。相手がバトルに慣れていないからと言って迂闊に動くのは危険です。相手の隙を伺うのです……いえ、隙を作らせてみましょう……』
 ツチニンは不敵に笑いそう言うと、『かげぶんしん』を行った。普通は素早さを格段に上昇させる技なのだが、ツチニンが連続して行う事により分身の術として使用する事が出来る。
 数体のツチニンがナックラーを取り囲んだ。
『さて、貴方にこれを避ける事が出来ますか?本当の私が見えますかね……』
『フン、アンタお得意の心眼とやら……俺も使って逆に片付けてやる!』
 勿論、下の状況などユキナリとユウスケには解っていない。大体の状況だけであり、下に潜っているワケでは無いので当然の事だ。だがメグミは2匹の位置を見切っている。
「取り囲んでも無駄だよ!アンタと同じ心眼を持つ相手なんだ。倒されちまう!」
『姐さん、コイツを買い被り過ぎているんじゃないですか?』
 ブンッと一斉に数体のツチニンが腕を振り回してナックラーに襲い掛かってきた。だがメグミの言う通り、心眼を持っているナックラーには本体を見抜く能力がある。
 ワザと相手の攻撃を少しだけ受け、油断したツチニンの頭部を噛み砕いた。
『グアアオッ!』
『トレーナーとの連携がなってねえぜ。自信過剰も時には命取りになる』
 まさに『肉を斬らせて骨を断つ』である。少量のダメージはくらってしまったが、見事ツチニンの体力を瀕死寸前にまで追い込む事が出来た。
『グ……ア……こうなれば私の体力を犠牲にしてでも、貴様を倒す!』
 痛みに苦しみながらも、理性を失わない所は流石ジムリーダー手持ちポケモンと言った所だろうか。
 ツチニンの体から霧の様な風が吹き出し、2匹が掘っていた穴全体に広がっていく。風は外では無いので穴の中にいる者全てを攻撃する事が出来るのだ。
『銀の疾風にて、運命を共にせよ!』
 『ぎんいろのかぜ』だ。むしポケモン必須とも言える技の1つで、手軽に使え付加効力もある非常に使い勝手の良い技でもある。
 迫り来る風に背を向けて、ナックラーは全速力で逃げ出した。流石に逃げ足は速い。
『相討ちを狙ったんだろうが……生憎往生際の悪さは天下一品なんでね。俺を倒したいんなら、もっと速く飛んでくる技を使うんだな!』
 ユキナリとユウスケの目の前からナックラーが飛び出してきた。
『マスター、危ねえ!』
 滅茶苦茶に地面を掘って逃げてきたのでまさかマスターの前に飛び出してくるとは思わなかった。ナックラーは慌てて2人を庇う為、そのまま2人を仰向けに押し倒す。
 ゴウッと風が吹き上げ、それは一瞬小さな竜巻を形作ったが、すぐに消えてしまった。ポケモンの攻撃は、人間がくらったらひとたまりも無い程の攻撃力を秘めている。
 まだ進化していないツチニンのレベルでもこの規模なのだ。ポケモンの戦闘力が如何に珍重されているかが解るだろう。
 風が消えたのを確認すると、2人は冷や汗をかきながら立ち上がった。
「あ、危なかったねー……今のが顔に当たったりなんかしてたら大変だったよ」
『す、すまねえマスター。闇雲に掘っていたんでまさか前に出るとは……』
「大丈夫だよ。それよりツチニンは?自分の技で倒れる事は稀なハズだ……」
 その瞬間、今ナックラーが掘ってきたばかりの穴から、ツチニンが飛び出してきた!卑怯な不意打ちに成す術も無く、ナックラーは頬を殴られて地面に叩きつけられる。
『こ、こんな奴に……ガフルルル……この私が負けるはずは無いんだあ!』
 逃げられた事がよほど悔しかったのだろうか、目は血走りで赤く染まり、噛み砕かれた頭部からは血が流れ出して全身を覆っている。
 例え体力が限界まで追い込まれようとも、ポケモンは精神力さえあれば何処までも敵を追い詰めようとする本能が備わっている。
「ツチニン、アンタ何て卑怯な真似をしたんだい!恥を知りな!」
『姐さん、倒せば文句は無いでしょうに……相手を倒す事だけが私の使命だ!』
 完全に怒り狂った状態のまま突進するツチニン。一方ナックラーの方は不意打ち攻撃のダメージも比較的少なく、今度は向かってくる相手の姿がハッキリ見えている。
『テメエの本気……しかと受け取ったぜ。俺達は兵同士だ。それならば、また戦おうじゃねえか!だが……今は俺が勝たせてもらう!』
 突進してきたツチニンの攻撃をジャンプして避け、そのまま相手の背中に跨り、致命の一撃を与えた。体を噛み砕かれたツチニンは無様に地面に転がり、骸を晒す。
「勝負あったか……アタイもまだまだかな。ポケモンと、トレーナーとの調和があってこそ相手を倒せる。そんな事を知ってても実際に行わない事にはね……」
 メグミは体がバラバラに砕けているツチニンをボールに戻すと、慎重に次のポケモンを選び始めた。
 一方ナックラーの方はダメージを受けているものの、ポケギアで見る限りゲージは黄色……2/3程の位置で止まっている。まだ充分に実力を発揮出来そうだ。
 (どうもおかしいな……あっさりと勝ち過ぎた気がする。メグミさんは本気を出してはいない。これから一気に戦況を引っくり返してくるつもりだ……)
「よし、アタイはコイツに決めたよ。出てきな!しっかり戦ってもらうよ!」
 メグミがドリルボールを地面に投げると、今度は随分大きなポケモンが出てきた。
 とは言っても、あくまでナックラーと比較してみた上での感想であり、カビゴンやピジョット程の大きさは無い。ニョロボン程と言った所だろうか。
『ヌーン、アンタがオラの対戦相手だなぁ?この爪の恐ろしさ、思いっきり堪能させてやるから覚悟しろよぉ!フン、フーン!!』
 鋭い3本の爪を一閃させる度に、先程の風の様な鋭いヒュウと言う音がハッキリ聞こえる。
 体はトゲの様な鎧の鱗で覆われており、尻尾にも武器に成り得る棘が確認出来た。
「サンドパンか……地面タイプの代表格で防御力はかなり高い。油断しないでね!」
「とにかくポケギアで情報を閲覧しよう。ナックラーとでは分が悪そうだな……」
『サンドパン・よろいねずみポケモン……砂漠地帯に生息している内に砂嵐から体を守る為、鎧の様な鱗が出来た。鎧は少し位の攻撃なら難なく弾き返してしまう』
 (かみくだくが主戦力のナックラーとサンドパンじゃ、まず勝てない……ココはハスブレロでそのまま倒してしまおう。交代するだけの理由はある)
「ナックラー……今は少し休んでくれないか?ハスブレロと交代させたいんだ」
『おう、マスターの命令に逆らってちゃ勝てねえからな。喜んで従うぜ。だが、危なくなったら俺をまた呼び出してくれよ!死ぬ気で戦ってやるぜ!』
「交代か……賢い判断だね。ナックラーじゃ倒せないと見切られたのも辛いけど、何より属性的に不利なポケモンを出されちゃ敵わない。
 流石アタイが見込んだトレーナーなだけはあるよ……」
 ユキナリはハスブレロを出現させると、ポケギアで相手の特殊能力を調べた。
『砂塵鉄壁……『すなあらし』状態の時、防御力が上昇する』
 (勿論、相手はすなあらしを覚えているハズだ……すなあらしはターン毎に少量のダメージをハスブレロに与えていく。出来れば早く倒したいけど……)
『ユキナリ君、迷ってばかりじゃ勝負には勝てないよ!とにかく戦ってみよう!』
「うん、そうだね……メグミさん、僕はポケモンを交代させてハスブレロで戦います!」
「ユキナリ、アタイの戦い方をよーく見ておきな。絶対的不利である属性関係を跳ね返す、ジムリーダーの実力をね!戦い方次第では勝てるんだよ!」

 対峙するハスブレロとサンドパン。
 ハスブレロは勿論水タイプの技を使って相手に大きなダメージを与えようとしているのだが、対するサンドパンは徹底的に防御を上げて相手を叩き潰すつもりだ。モタモタしてはいられない。
「よし……ハスブレロ、まずはみずげいで先制攻撃だ!」
 先に動いたのはユキナリの方であった。先手を打ってダメージを与えれば、すなあらしでさらに防御力が高まる前に動きを封じる事が出来る。
 ハスブレロの狙いすました一撃は見事にサンドパンを直撃した。固いガードを誇るサンドパンでもこれには敵わない。HPが半分程一気に減ってしまう。
『うーぬ……オラ、やばいかもしんねぇ……姐さん、どうするべか?』
「とにかくすなあらしで防御力を上げな!相手の視界を封じて反撃のチャンスを伺うんだ!このままもう一撃くらったらおしまいだからね!」
 勿論ハスブレロだってチャンスを逃すつもりは無い。一気に放水して勝負を決めようとする。
 だが、すなあらしの発動の方が早かった。砂地のジムに相応しい砂嵐が瞬く間に吹き荒れる。ユキナリとメグミも、互いの視界から外れていた。
「うわっぷ……ぺっぺっ……砂が口の中に入りやがった!」
「姐さん、ちょっと俺達は退却させてもらいますぜ!!」
 応援していた男達もこれにはたまらないとジムの裏口から一旦出て行く。
「だらしない奴等だね……ま、ユキナリ。アンタは違うだろ?真剣勝負なんだ。どんな状況に立たされてもへこたれないのがトレーナーって者だと思うけど……」
「勿論です!……でも、これじゃあ目を開けていられませんよ……凄い風だ!ハスブレロも視界を奪われたんじゃあ……」
 ナックラーとツチニンとの戦いと同じ様に、またもやメグミのペースにはまってしまったユキナリ。砂が目に入ってきて、本当に目を開ける事が出来ない程の強烈な砂嵐だ。
 荷物を持っていないと吹き飛ばされてしまいそうな位に強い。
 ハスブレロも視界を奪われていたが、全方向に放水が可能な為、打撃を得意とするサンドパンも迂闊には近付けない。
 少々不向きな技ではあるが、特殊攻撃をするしか無いと踏んだ。メグミもそれをふまえてしっかりと命令する。
「サンドパン、いわなだれでハスブレロを攻撃しな!多少属性的には不利だけど、砂嵐が止むまで何度も攻撃すれば逆転出来るハズ。もっと気張るんだ!」
 ハスブレロにもこの命令は聞こえているものの、あまりの強風に立っているのもやっとと言う状態では、遠隔の攻撃を避ける事など出来はしない。
 大量の岩が頭にドカドカぶつかってきても、砂嵐が早く治まる事を祈って、チャンスを待つしか無かった。
 ユウスケは眼鏡をかけていた為、かろうじてユキナリの腕についているポケギアを見る事が出来た。薄目を開けて覗き込むと少しずつではあるが着実にHPを減らされてしまっている。
 (マズイな……でもあと1ターンもすれば砂嵐は確実に止む……その時にユキナリ君がしっかり命令すれば勝てるよ。メグミさんとの戦いにおいては、断然ハスブレロの方が有利なんだから!)
 唐突に砂嵐が止んだ。ハスブレロはサンドパンの影を確認し、一気に放水を仕掛ける。
「そうだハスブレロ!今なら防御力も元に戻っているんだし、勝てる!」
 だが、ハスブレロはサンドパンの作戦に見事引っ掛かってしまっていた。放水したサンドパンは水に濡れてどんどんと崩れていく……砂人形だ。
『ほ、本物は何処にッ……!?』
『オラはここにいるだぞーッ!!』
 その瞬間、ハスブレロの背後から砂の中に隠れていたサンドパンが飛び出してきた!気付くのが遅かったと言うしか無い。
 背中を無防備に晒していたハスブレロは、サンドパンお得意の『きりさく』をくらってしまったのだ。だが同時に『みずげい』もサンドパンにヒットする。
 幸いきりさくは急所には当たらなかったものの、かなりのダメージを与えられて勝負は終了した。背中の傷からだらだらと血が流れている。
『ゆ、油断したよ……ユキナリ君。次の戦いじゃ、満足には戦えない……』
「……作戦負けだ。砂地のフィールドであれば当然メグミさんには有利……属性を地の利で跳ね返されてしまった。このままじゃ切り札の様に持っていたハスブレロが負けてしまう……」
「コレが、アタイの戦い方さ。どんな相手でも、知恵を絞って戦えば勝つ事だって出来る。ジムリーダーは、頭も良くなくちゃやっていけないからね……」
 しかし、ハスブレロはまだ瀕死状態にはなっていない。HPは少ないがまだ戦える。その点まだメグミの方が不利だ。2匹も倒されてしまっている。
 だがユキナリには余裕を見せるヒマなど無かった。最後のポケモンがどんなに恐ろしい攻撃力を秘めているのか気になっていたからだ。
 ゲンタとの戦いでは一気に差を無くされた。それだからこそ、次のポケモンとの対戦はハスブレロに任せて、出来る限りHPを削ってもらいたい……
「アタイが出す次のポケモンは……コイツさ!」

 穴があったハズの砂地も、砂嵐のせいですっかり埋まってしまっている。
 丁度サンドパンが不意打ち攻撃をする為に掘った穴にボールが投げられると、閃光と共に影がボコっと地中に潜り、またボコっと姿を現す。
「ダグトリオだ。また地面タイプのポケモンの中では一般的だよ!簡単に地中に隠れる事が出来るから、攻撃が当たりにくいと考えた方が良いかもしれないね」
「進化ポケモンだね、あれは……回避率が高くても、何とかして一撃位はハスブレロが当ててくれると嬉しいな。もう少し詳しく調べなきゃ……」
『ダグトリオ・つちもぐらポケモン……地中を物凄い速さで掘り進むらしいが、誰もそれを見ていないし、地中の下にある姿を誰も見た事が無いとされている謎が多いポケモン。
 ディグダ叩きなるゲームがよく売れている為、ダグトリオもかなり人々に知られているポケモンの1つと考えて良いだろう』
「特殊能力は一体何かな……」
『特殊能力・サンドビート……砂地での戦いの際、素早さと回避率が上昇する』
「砂地に泣かされてるな、僕もポケモンも……今度は僕達が裏をかいて相手を圧倒する番だ!バスブレロ、最後まで頑張ろう!」
『そうだね、ユキナリ君。最後まで諦めなければ、絶対に勝てるよ!』
 メグミサイドでもメグミとダグトリオが綿密な相談を行っていた。
「HPはサンドパンが減らしてくれたとはいえ、アンタの防御力自体は高くないんだ。たかをくくってかかると命取りになるよ」
『じゃあとにかく逃げ回って、相手が疲れたらとどめを刺す……って事ですね、姐さん!任せてくださいよ。
 俺達ダグ兄弟は無敵のコンビネーションを披露してきたじゃないですか!今度の敵もサッサと倒して見せますって!』
 強いポケモン程自信過剰になり、隙が生まれる。その点ではユキナリとポケモンは強さに関して一切妥協していない。
 ただひたすら、純粋に強くなりたいと望み続け、勝ち抜いてきたからである。ダグトリオとの戦いにおいても、彼はその低い姿勢を崩す事は無かった。
「ハスブレロ、敵の行動に注意しながら、何とか1度でも攻撃を当てるんだ!」
 ハスブレロには策が用意してあった。ダグトリオはとにかく素早さが高い。まともに攻撃していては絶対に当てられないだろう。
 砂地に逃げると言う事は、間接的にダメージを与えられると言う事でも無いだろうか?と考えたのだ。
 ダグトリオは案の定ハスブレロのみずげいを避ける為に地中に潜った。最後の力を振り絞って、ハスブレロは水を散布し続ける。
 岩と違って砂地は水を吸収する為泥に変わっていくのだ。メグミは慌てた。
「そうか、水を含んだ砂に触れれば地面ポケモンはダメージを受ける……よく考えたモンだね。でも、その為にはもっと大量の水が必要なハズ。
 砂地はカラカラに乾燥しているから、すぐに泥から砂に戻っちまうよ」
 体力が少なくなっているのも敗因の1つだったのかもしれない。とにかくダメージを!と思うあまりにまた自分の守りが手薄になっていたのだ。
 ダグトリオは水のかかっていない真下からの攻撃を試みようとしている。強烈な頭突きを腹に受ければ瀕死は確実だろう。その時、ユキナリの命令がバトルの流れを大きく変えた。
「ハスブレロ、自分の体にも水をかけてびしょびしょになれ!」
 そうか!直接攻撃ならば自分に水をかけるべきだ。一気に水をかけて相手を待つハスブレロ。そうとも知らずにダグトリオは地中からの体当たりをかました。
『なあっ、うわあああ!水が……顔にっ!!』
 元々ダグトリオはHPと防御が優れているタイプでは無い。頭のかさに溜まっていた水も一気にダグトリオにダメージを与える。
 結局、ハスブレロを瀕死に追い込んだ事で半分近くもHPを持っていかれてしまった計算になった。
「高い代償を払っちまったもんだ……ダグトリオ、まだまだ大丈夫さ、これで属性不利のポケモンはいなくなったよ。これからがアタイの本領発揮の時だね!」
 知力には知力で。痛い目にあったハスブレロも、ダグトリオに手傷を負わせた事で安心して瀕死状態になった。これでユキナリは残り3匹、依然リードを取っている形になる。
 とは言うものの、実質的にナックラーは戦力から除外した方が良さそうだった。
「コシャクは地面に対して全く無力だ。ヒュードロかドシャヘビにしよう……」
「ダメだよユキナリ君!どくタイプのポケモンは地面に対して弱いんだ」
「え、そうなの?……あと残っているのはジグザグマか……進化していないだけ不利になりそうだけど……いや、やっぱりドシャヘビにするよ!」
 ドシャヘビにはあくタイプの技も備わっている。どくどく、ポイズンクロー、ポイズンキラーは使えないとしても、かみつくさえあれば充分に戦えるハズだと思ったのだ。
 ジグザグマの事をすっかり忘れてしまっていたユキナリとしては、ブランクのあるジグザグマを戦わせるのはマズイと思っていた。その判断が吉と出るのか凶と出るのか。
「じゃあドシャヘビ……君の力を僕に貸してくれ!ダグトリオを倒すんだ!」
 ココでダグトリオのHPを減らして最後の戦いに持ち込めるのは、同じく素早さが高いドシャヘビだと思ったのだ。
 最後のポケモンが何であるのかが気になったが、地面タイプのポケモンを見てきて空中を領域とする地面ポケモンがいるとは思えない。
 空を飛べるヒュードロは、強力なバトルの切り札になると思ったのだ。ユキナリは優位を保ちながら、ダグトリオを倒そうとドシャヘビのボールを投げた……

夜月光介 ( 2011/06/08(水) 17:04 )