ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第1章 3話 『始祖の棲む森』
「ポケモンを集めて、なおかつリーグの覇者を狙う。これは無理な相談では無いわ。
 いえ、それどころか正論よ。リーグでは30体の優秀なポケモンが集っている。
 色んなポケモンを捕まえ、好きなポケモンを見つけたらそのポケモンを仲間として扱い、100レベルまで育ててあげましょう。
 それがポケモンを捕まえる私達の義務なの……」
「とにかく、明日になったら出発しよう!でも、ポケモンを捕まえなきゃ話にならないね……  
 ジム戦は何匹かを一定のレベルに上げないと挑戦権が与えられないらしいし……」
「この街にアルファショップがあるわ。手頃な価格でスーパーボールが売ってるから、何個か買っておく事ね」
 ユキナリはすぐ自分の家に戻ったが、ホクオウはもう出発した後だった。
 母親にその旨を話すと、彼女は自分の家の電話番号を登録する様にと忠告する。
「何か困った事があったら、電話してね。ホクオウにもそう伝えて。何か言おうとしたけど、あの子すぐ出て行ったから……」

 ユキナリはこれから先はぐれたら困ると思い、ユウスケの電話番号も登録しておいた。
 フタバ博士の方も電話番号を登録してくれたが、自分の研究室の電話番号の他に、ウツギ博士の研究室の電話番号も入れておいてくれた様だった。
 ユウスケがすぐ迎えに来てくれた。買い物をしなければならないのだ。
 新雪が降り積もっている地面を踏みしめ、2人はアルファショップに向かった。空を仰ぐと一面灰色の世界。雪が降っている。
 アルファショップはシラカワタウンに建てられている商店で、他の街にはその親店や姉妹店が数多く建てられているのだ。
 適当にボールのみを買った。1個200円はお得価格らしい。  
 店の店主に聞いた所、他の街ではもっと面白いボールが売られているらしかった。
 ユキナリは今まであてもなく溜め続けてきた貯金を今回の旅に使う事にした。2人で5個ずつ買って、家に戻る。
 にこやかに笑っていたユウスケの顔が印象に残った。その夜……ユキナリはなかなか寝付けなかった。
 初めてポケモンを仲間にして、会話をし、心を通じ合わせてユウスケのボタッコに逆転勝利を決めた。
 (トーホクのポケモン達が、僕等を待っている……!)
 その頃、最初のジム戦を突破し、草原地帯でキャンプをはったホクオウは、ちらちらと降り続ける雪をじっと見ていた。
 トーホクは、雪が止まない。街から街への野宿には慣れっこになっていたが、それでも彼は注意していた。
「何せ、外で凍死するトレーナーが多いエリアなんて、トーホク位のものだからな」

『そうですか……無事に承諾してくれましたか』
「彼等に回復したモンスターを渡したわ。明日には、大荷物を届けてもらわないとね」
『ハハ、解ってますよ。ホクオウ君も無言のまま出発しましたけれど、前、僕に打ち明けてくれた事があるんです』
「え?」
『このまま登山家として生きていくだけで、果たして自分は幸せなのかって……何時も考えていたようですね』
 フタバ博士はコーヒーカップを机の上に置くと、腕にはめたポケギアはそのままにして窓辺に向かった。
「雪……貴方のエリアで雪が確認されたのは、何回かしら?」
『数える程ですよ。ここ数年、雪が降った日なんて合計しても2日あたりしか……』
「ウツギ君。それがトーホクの面白い所なの。雪が止んだ事などここは一回も無い。
 外の気温は常に−○度。吹雪いた日には−20〜−30度が当たり前。
 常に温暖な気候を保っているジョウトには存在出来ない、こおりタイプのポケモンが今までに何十匹も確認されているわ」
『私も、その素晴らしさには目を見張ります。前にブリザードの生態系を研究させてもらった時は……』
 ポケモンの話に入ってしまうと、2人の博識は止まらない。

 新たな物語の幕開けである。

 ユキナリは朝早く目が覚めた。外は当然雪が降っている。彼は着替えを済ませると階段を降り、母に気付かれない様に寝室を通った。
 色々お小言を言われたくなかったのだ。心配されたくなかった。もう12歳なのだ。
 旅に出たって、昔ならおかしくない年齢だろう。そして今も。ユキナリは兄がもう昨日から出発している事は知っていた。
 出来るだけ早く追いつきたかった。ユウスケもとっくに起きているだろう。
 フタバ博士も。旅の用意は学会の連盟者である彼女がやってくれる事になっている。

 外は朝靄の中、ちらちらと雪が舞っている状態だ。
 ユキナリは何時もの自分のジャンバーではなく、水色と紺の色をした兄の使っていた昔のお古な防寒服を着ていた。
 何せウオマサリーグへ行くとなると、毎日吹雪に見舞われている街もある程なので。
 ユウスケの家の玄関口に彼はもう立っていた。
「じゃあ、行こうか」
 この粉雪とも、しばらくお別れするかもしれない。トーホクのウオマサ高原はリーグの駐屯地だが、
 その気候はエリアの最北端である為、最悪。視界は殆ど遮られているという。
「とりあえず、出発したら、新しいモンスターを捕まえた方がいいよ。ポケモンは1戦1交代制だからね」
「1戦1交代?」
「ジムでは最低でも3匹はポケモンを持っていて、なおかつ全員のレベルを一定に上げていないと勝負してくれないんだ。
 1回の戦いの後、ポケモンを交代するかしないか選べるんだけど、選べるポケモンがいないと意味無いでしょ?
 この先のコヤマジムは3対3のポケモンバトルなんだ。どちらかのポケモンが3匹敗れた時点で勝敗がつく」
「そうか……じゃあ早い所ポケモンを捕まえて、育てないとね。」
「待ってたわよユキナリ君。これが、学会から支給された2人分の荷物なんだけど……結構重いのよね。大丈夫かしら?」
 研究所の玄関にフタバ博士が立っていた。他の助手達は全員まだ宿舎の中で寝ているはずだ。
「本当に有難うございます博士。では、行ってきます!」
 ユキナリとユウスケはそれぞれリュックを背負った。……重い。肩に相当負担がかかりそうだ。
「何か解らない事があったら、ポケギアのラジオ機能で聞ける『ジョバンニ先生&ヨーコのポケモン教室』を聞くといいわ。  
 あと、うちの派遣中の研究員とか、それを指導してるホンバ君とか見つけたら、声をかけてあげて。喜ぶんじゃないかしら」
 2人共親に内緒で出発したのだが、少し罪悪感を感じてしまうのも確かだ。しかしお小言を聞かされるのは周知の事実。
 ユキナリが腕に付けているポケギアで電話すればいい。そう思っていた。 

 街から離れると、そこは雪が積もった林の中。降り積もる雪が枯れ木に付着して、まるで緑の葉の様になっている。
 ユキナリの着ている古い水色の防寒服も、その下の青いジャケットと青紫色のセーターも雪まみれになってしまっていた。
 耳当てをしているユウスケの薄緑の防寒着も雪がついている。時々トーホクでは当たり前の北風が、2人の肩を竦ませていた。
「さ、寒いね。」
「まあ、雪が降ってれば当然なんだけど……タウンマップによると、ここは47番道路・・・『始まりの森』だと思う」
 ユキナリはポケギアを見ていた。勿論このポケギア、絶対零度まで壊れない優れ物である。当然防水加工もバッチリだ。
「始まりの森?」
「うん。ちょっとポケギアのラジオ機能に入っている『トーホクぶらり旅』の過去記録を聞いてみようか」
 このポケギア、5年前からラジオが聴ける様になっている。その間の過去記録を音声ライブラリーとして全て記憶しているのだ。
 ユキナリは『セカイ』の項目をクリックし、『始まりの森』の音声ライブラリーを開いた。
『始まりの森って知ってるかな。そうそう、シラカワタウンを出た所からすぐ入る大きな枯れ木の林なんだけど。
 47番道路って事は、実はここ、カントーの道路の延長なんだよね。つまりトーホク最南端の道路ってワケ。
 凄いよね、ここ。シラカワタウンからリーグを目指す奴にとっちゃ、ここはまさしく『始まりの森』。
 でも、この林の名前、そういう意味で付けられたんじゃ無いんだよなあ。
 実はこの林、昔から〔始祖〕という神がこの林に住んでいて、そいつがエリアの創造主だったんだと。
 だから、トーホク誕生の……トーホクの歴史の始まった場所。という事なのよ。俺もよく知らないんだけどね』

「始祖……エリアの歴史誕生の地……」
「それにしては、この林、あんまりポケモンの姿が見えないね」
「物音を聞いて警戒してるのかもしれないね。一寸歩いてみようか。音を立てないで歩けば、捕まえられるかも……」
 2人はポケギアの説明を聞くと、コヤマタウンに向かって歩き始めた。ゆっくりとした歩調を保つ。
 雪が降っている為、林の土にもすっかり雪が降り積もってしまっていた。当然、ポケモンは否が応にも警戒してしまうだろう。 
 ユキナリは歩きながら呆れていた。ユウスケも同じ思いをしていたに違いあるまい。顔が哀しく引き攣っていた。
 でも彼の場合は体験済みだ。
「もう何時でも逃げれる状態にしてるんだよね。大抵のポケモンは……でも僕の場合は3匹とも苦労しなかったから。
 1匹目・枯れ木のフリをしていたカレッキーを急襲、ライターで弱らせてゲット。
 2匹目・フワフワ降りてきた足の遅いワタッコ変種をカレッキーと戦わせてゲット。
 3匹目・地面に埋まっていたマッドを自分の耳に耳栓した後地面から引っこ抜いて、驚いた所をゲット。
 全員、逃げない草タイプのポケモンだったからね」

「なんか嫌だなあそれは。やっぱり苦労しないと、面白く無いよ。達成感とかが欠けるんじゃない?」
「まず、ユキナリ君がポケモンを2匹捕まえないとコヤマタウンのジムリーダーには挑戦出来ないよ。
 でも、まずポケモンが現れないと捕まえる次元の話じゃ無いから……うーん。困ったなあ……」
 ユウスケはしばし考え込んでいたが、突然思い出したかの様に叫んだ。
「そうだ!ポケモンを出す方法があったよ。ユキナリ君、ラジオ機能に『ヒットナンバーチャート』があったよね!」
「え?ユタカさんの『ヒットナンバーチャート』?」
 ユキナリは画面に出ている『ユタカのヒットナンバーチャート』を選んだ。
 ユキナリの家のラジオから何時も流れていたので、この番組は知っていたのだ。
「ポケモンとの遭遇率を上げたり下げたり出来るラジオ番組だから、運が良ければそっちから近づいてくるよ」
「曲によっては遭遇率が逆に下がるの?」
「全然問題無いよ。音楽を聞いている間以外は元に戻るんだから……」
『さてと、今週中に最も人気の高かったベストソングを24時間 流し続けるこの番組も今年で10周年!
 俺も3代目ナンバーDJとして皆さんに音楽を提供してるんだから、もっと頑張って曲を紹介しないとな。
 今週のミリオンヒットは、タマキ ヒカリの〔大いなる挑戦〕なんだよね。そう。ついさっきまで流してたやつ。
 流石に1週間この歌だけってのも淋しいけど、それがこの番組。無料放送だから、金額を払う必要も無し。
 他のチャンネルに変えるのもありだ。ぶっ続けのループを楽しんでくれ!』
 歌が流れ出すと、ポケギアが遭遇率の数値を叩きだした。
「えーと……この歌の音波による遭遇率は……86パーセント上昇するよ!!」
「やったねユキナリ君!流しっぱなしにしてしばらく歩いてみよう!きっとすぐにポケモンが見つかるよ!」
 ユキナリとユウスケは粉雪舞う中、ポケギアから音楽を流しっぱなしにして歩いた。

 ユウスケは自分のリュックから方位磁石と始まりの森の地図を取り出しており、それにそって歩いていたので、迷う心配は無い。
 ユキナリとユウスケが歩いている間、ポケギアからは音楽が流れ続けていた。女性が歌っている。

善と悪など無い 勝者も敗者も無い

心が全てを決める それが真の戦いだ

旅を続けて仲間を見つけ 答えを探す

まだ見つからない答え 旅をする意味

最強の2文字を携える者達がこの世界に限りなくいる

ならば戦え そして倒せ

くじけるな 見失うな

勝利は心の鍵を開ける 希望の扉

戦えポケモンマスター 勇気を持って立ち向かえ

勝てよポケモンマスター ずっとこの時を待っていた

頂点を望む者達がこの世に存在する限り

戦いは永久に続く事だろう

見果てぬ上を目指せ ポケモンマスター

止まるな そして前を向いて走り続けろ

ポケモンマスター ポケモントレーナー

「ポケモン、見えないね……」
 歩いて数分、今だポケモンは現れる気配を見せない。粉雪の舞う中、ユキナリとユウスケは途方に暮れていた。
 コヤマタウンジムリーダーのゲンタに挑戦する為には最低でも3匹のポケモンを持っていないと挑戦する事が出来ない。
 とにかくポケモンを見つけぬ事には……
「?ユウスケ、あれ!」
 ユキナリは向こうの林を指差した。雪の積もった斜面から滑り降りてくる影が見える。その姿を2人が確認した時、その影は近くに移動していた。

「ユキナリ君、ポケモンだよ、ポケモン!」
「わ、解ってる……」
 近付いてきたのは白いジグザグマだった。トーホクではジグザグマは『ノーマル』と『こおり』を兼ね備えている。
 白と灰色の縞模様で、動きが極端に素早かった。それでもジグザグマは2人がトレーナーである事を知っているのか、
 小馬鹿にした様に彼等の周りを回り始めた。戦いを望んでいるらしい。
「コエンが入っているモンスターボールを投げて!」
 ユウスケに言われ、ユキナリは慌てながらも紅蓮に燃える色をしたモンスターボールの出現スイッチを押した。閃光と共にコエンが出てくる。
『野生のポケモンを見つけたんですか?……うわっ!!』
 コエン出現と同時に変種ジグザグマは問答無用で襲い掛かってきた。ジャンプしてそのまま噛み付こうとする。
 コエンは身を翻してそれを避けた。
「なんか、凄く好戦的なポケモンみたいだね……」
「コエン。野生のポケモンと初めて戦うね。とにかく僕がしっかり命令するよ!」
『了解です。宜しくお願いしますね!』 

 互いに睨み合うコエンと変種ジグザグマ。水色に光るポケギアの『バトル』画面を見つめていたユキナリが発した言葉からバトルが開始された。
「コエン、鬼火を使ってジグザグマの体力を削るんだ!」
『ハイ!』
 コエンは体から不気味に青く光る鬼火を浮かせ、それをジグザグマにぶつけようとした。
 しかしジグザグマは動きが予想以上に素早く、あっけなく攻撃をかわされてしまう。
「ユキナリ君、このジグザグマレベル高そうだね……」
「最初の野生バトルくらい、勝っておきたいなあ」
 ユキナリは帽子のつばを手で構えると、状況を分析した。今の所、鬼火を当てる為に出来る事はただ1つ。それを、行なうしか無い。
「コエン、化かすを使うんだ!」
『解りました……ガハッ!』
 コエンが構えようとした次の瞬間、ダッシュしてきた変種ジグザグマの強烈な頭突きがコエンの顎にクリティカルヒットした。
 コエンはのけぞって倒れてしまう。
「うわ、コエン!大丈夫か?」
『う、うう……敵もなかなかやりますね……』
「ユキナリ君、僕もカレッキーで手助けしようか?」
「ううん。これはコエンとジグザグマ……いや、僕とコエンの挑戦なんだ。まだ勝負はついてない!」
 何とか立ち上がるコエン。しかしジグザグマは全くダメージを受けていない。状況は極めて不利だった。
 しかしユキナリはこの逆境を跳ね返す術を思いついたのだ……相手を利用する攻め方を。

 粉雪は地面に落ちて消えていく。土には霜が出来ていた。生活環境は極めて悪いこの土地だからこそ、
 寒さに対応してポケモン達は進化を遂げてきたのだ。変種ジグザグマはまさにそれの典型だった。

夜月光介 ( 2011/04/10(日) 22:17 )