ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第4章 4話『奪われた未来』
『アーマルド・大昔に存在していた巨大甲虫ポケモン。尻尾の一振りでリリーラを気絶させ、食料としていた。
 虫ながら恐竜とも互角に戦える程の戦闘力と固い防御力を誇る』
「じゃあ、特殊能力は……」
『特殊能力・ヘビータックル……直接攻撃力がアップする。すてみタックルなどの攻撃をしてもダメージを受けない』
「確かに、直接攻撃力は凄く高そうだ……でも、ヒュードロになら無力になる!」
 ゴーストタイプであるヒュードロには直接攻撃は効かない。この点は非常にプラス面となる。
「でも、ユキナリ君……ヒュードロはもうボロボロだよ。特殊攻撃が向こうにあったらもう・・・」
『最後まで……諦めないよねマスタ〜。少なくともボクはまだ大丈夫だよ〜……』
「へっ、まだそんな口が叩けるとはな。上出来だ!だがすぐに叩き潰してやるぜ!」
 あくまでもデータを重視しているホウには、その最後の力が理解出来なかった。
 ユキナリやユウスケ、ポケモンを信頼している者だけにしか解らない底力である。
「さっさと叩き潰しちまうぞアーマルド!奴に向けていわなだれだ!」
『ガ、ガアアア……グルルッ!』
 アーマルドは思い切り叫ぶと岩の塊を沢山出現させ、ヒュードロに向けて放った。
『そんな攻撃……遅すぎて欠伸が出ちゃうよ〜』
「な、何だとっ!?そんなバカな。俺のアーマルドの攻撃を避けるとは!」
 ヒュードロは最後の気力を振り絞ってマスターであるユキナリの為に道を作ろうとした。
『吹き飛べええええッ!!』
 巨大なシャドーボールがアーマルドを直撃した。追い討ちをかける様にヒュードロの『ハイパーボイス』が炸裂する。
 だが、このコンボをかけるには、あまりにも体力が少なくなり過ぎていた。そのままヒュードロは気絶してしまう。
「フン、鉄壁の甲殻獣に闇の攻撃など効かん!諦めるんだな……」
 ホウの言葉通り、煙の中からアーマルドが姿を現した。大してダメージを受けてはいない。
「くそッ!化け物が……」
 オチが呻いた。ユキナリもユウスケも、アーマルドの防御力に驚きを隠し切れない。
『ゴアアア……ガフッ、シュルル〜……』
 アーマルドは口から煙を吐き出して勝利宣言をしている様であった。
 そして、倒れたままのヒュードロに向かって足を突き出す。そのまま踏み潰そうとしているのだ。
「そんな、ダメだ!ヒュードロ、戻れ!」
 すんでの所でヒュードロはボールに戻った。その直後にズズーンと大きな音が木霊する。
「こんなの……酷いですよ!ヒュードロはもう戦えなかったんだ!それなのに……」
「五月蝿ぇガキだな。勝負の世界にそんな戯言が通用すると思っているのか?強い奴は弱い者を徹底的に殲滅してこそ勝者となり得る。そうだろう、オチ!」
 ホウは荒い息を吐きながら精神力を使い果たすオチに向けてそう叫ぶと高笑いをした。
「私も昔はそうだった……だが、その考えを捨てたからこそココに立っていられるのだ!」
 オチはユキナリに、次のポケモンを出せと急かした。まだ敗北したワケでは無い。
 (僕は何時だって諦めないから、往生際が悪いから僕より強い人達と戦って勝てたんだ。ホウさんだって悪い人だけど凄く強い!だからこそ僕も本気を出せる……)
 ヒュードロは属性的に有利では無かった。決定的に有利なポケモンが1匹いるではないか。
「ハスブレロ、頼む!」
 ボールの中から出てきたハスブレロは既に気合充分と言った所であった。
 腕をシュッシュッと振り回し、さながらシャドーボクシングを見せ付けている様である。
『大丈夫、僕は負けないよ!ユキナリ君と一緒に戦ってきてようやく解ってきたんだ。
 もっと、ユキナリ君と一緒に強くなっていきたい。その為に僕は戦うんだと!』
 最初に出会った時とはまるで別人の様な台詞である。だがそれはしっかりとした理由があって変わってきたのだと知っていた。
 それだからこそ、その言葉が信用出来る。
『グルル……ウウウ……』
「チッ、面倒な奴を出してきやがったぜ。水攻撃も草攻撃もよく効きやがる。それに草は4倍のダメージだからな……
 簡単に勝てる戦いじゃなくなりやがった……」
 ホウは焦りを感じている様であった。アーマルドが切り札的存在なのだろうか。
 それならば、逆に言うとアーマルドさえ倒せば何とかなると言う事にもなる。
「ユキナリ君、チャンスだよ!ハスブレロにならチャンスがある!
「うん、解ってるさ……この戦いでさっきの雪辱を晴らしてみせる!」
「ほざくな!属性的に有利でも、俺のアーマルドの防御は崩せんぞ!!」
 最初に動いたのはアーマルドだった。また『いわなだれ』をハスブレロに向かって放つ。
 だが岩を放った時、既にハスブレロの姿はそこには無かった。
『後ろだよ!』
 すかさず、ハスブレロは『みずげい』をお見舞いする。
『グウウウ……』
 防御力と攻撃力が極端に高いアーマルドであるが、その為に素早さと回避力が犠牲になっていた。
 みずは効果抜群で、じりじりとアーマルドの体力を削っていく。
『グアアアッ!』
 咄嗟にハスブレロを払い除けようと放った掌は簡単に避けられてしまった。それだけは一瞬の剛力で凄まじい速さだったにも関わらずである。
「凄い、あんなに強かったアーマルドを圧倒してる……」
『ガアアア!!』
 激怒したアーマルドはドスドス歩いてハスブレロを捕まえ、握り潰そうとする。
 だがその行動はハスブレロにとっては幸運だった。スキを見せた相手を倒す事程楽な仕事は無い。素早く動いて四方八方からはっぱカッターを見舞う。
『グウウウ……オオオオ!!』
「怯むなアーマルド、お前にしか出来ない大技があるだろう!それを使え!」
 高い防御力を誇っていたアーマルドであったが、半分以下に下がったHPは深刻だった。
 はっぱカッターをもう数回繰り出されれば負けてしまう。だがアーマルドは命令を遵守し、『だくりゅう』を繰り出した。泥の波がハスブレロだけを襲う。
「な、嘘だ!何でアーマルドがそんな技を……それに、狙いがつけられる技じゃ無いハズなのにどうして……!」
「小僧、面白い事を教えてやろうか。トーホクではあらゆるポケモンの生態系が狂ってきている。
 学界ではまだそれ程有名じゃあないが、俺達カオスは独自にポケモンを改造する術を見つけた。
 ポケモンに、ちょっと風変わりな技を教えてやる為にな。野生のポケモンでも珍しくない現象なんだぜ?」
「そ、そんな……そんな事になってるなんて……」
 ユウスケはあっけにとられた表情をした。常識が通用しないバトル。アーマルドも改造されて強くなっているのかもしれない。
 そんな相手に立ち向かったハスブレロだったが、波にさらわれ、一瞬意識を失った時にはもうアーマルドに捕まっていた。
「よし、思いっきり締め付けろ。容赦するな!」
『ユキナリ……君……』
「ハスブレロ、みずげいでアーマルドから逃げ出すんだ!」
 だが、背中から押さえつけられたハスブレロは、あまりに強力なアーマルドの力により満足に後ろを振り向く事が出来なかった。
 キリキリと体を締め付けられ、耐えられなくなったハスブレロは悲鳴を上げる。
 (考えろ……どうすればハスブレロは攻撃から抜け出す事が出来る?)
「ユキナリ、押してばかりでは問題は解決には向かわない。敢えて引いてみるのも一興だぞ?つまり、逆に動いてみれば良いのだ」
 オチの言葉でユキナリの頭に閃いたものがあった。
「ハスブレロ、頭突きしてアーマルドから逃げるんだ!」
『グフッ!』
 命令された時にはハスブレロの攻撃がアーマルドの顔面にクリティカルヒットしていた。
 痛みにのけぞり、思わず腕を放してしまうアーマルドを尻目に、ハスブレロは再びはっぱカッターを放った。面白い様に命中する。
「アーマルド、がんせきおとし!」
 ホウの言葉に頷いたアーマルドは、痛みで顔を抑えながらも、片手を上から下に思いっきり振り下ろした。その瞬間、巨大な岩石が上から落ちてくる。
「あ、危ない!」
 はっぱカッターがアーマルドにとどめの一撃を与えるのと、隕石級の石がハスブレロに直撃するのが同時に起こった。
 そのままハスブレロもアーマルドもガックリと倒れこみ、瀕死状態になる。やはりハスブレロは防御力が低い分かなり分が悪かったと見るべきだろう。
「チッ、俺のアーマルドが敗れるとは……だが、俺の真打はコイツじゃ無え。お楽しみは一番最後にとっておくものだからな」
「最後……貴方は何匹ポケモンを持っているんですか?」
「4匹だ。公式でも無いから6匹総当りで突っ込んできたって構わねえぜ。もっとも、そうしても俺には勝つ自信がたっぷりあるがな……」
「私も、6匹全員を投じて奴に負けたのだ……奴を甘く見るなよ、ユキナリ!」
「……それなら、僕は正々堂々と戦います。頼んだよ、ノコッチ!」
 ユキナリはあくまで彼と真剣勝負をしようと誓っていた。卑怯な事をして勝ってもそれは勝利では無い。どんな悪人であろうとも、ユキナリの上を行く強敵なのだ。
 あのオチや、トサカの様に自信過剰だが腕は確かにある。だからと言って諦めているワケでは無かった。彼の辞書に諦めの言葉は無い。
『ケッケッケ、さてと、軽く捻ってやるぜ……どいつが相手だ?』
「この勝負見えたな……俺のポケモンはコイツだ!」
 ホウは勝利を確信しきったかの様に笑うとボールを投げた。ダークボールから出現したのはカブトプスだ。鋭い鎌を持つ古代ポケモンである。
『キシャ――――ッ!!』
 鎌を振り回し、ノコッチを威嚇するカブトプス。ユキナリはポケギアを使いカブトプスの情報を確認した。
『カブトプス・古代ポケモン……鋭い鎌を使って魚を切り刻み食べていたとされるポケモン。両手が鎌になっていた事は現在考えるにとても不便だったと思われる。
 魚を食べようとしてうっかり口を切ったとか、仲間同士でも戦っていたとか色々逸話があり、絶滅するには妥当な理由があったのだと推測されているが、戦闘力は非常に強大』
「じゃあ、特殊能力は……?」
『特殊能力・鋭利鎌……技『かまいたち』の攻撃力が上昇する』
「当然、相手はかまいたちを覚えていると思うよ、ユキナリ君……」
『かったるいぜェ、サッサと始めようやボンクラ君よぉ!』
『キッシッシッシ……』
 不敵な笑い声を発するカブトプスの行動から察するに、かなりの戦闘力ではあるらしい。
 挑発されない所はアーマルドと違い立派であった。素早さが高そうに見える。
「やれやれ、バカなポケモンは救えねえな……よしカブトプス、まずはメタルクローで先制攻撃だ、奴も素早さは高い。先にHPを削って動きを鈍らせろ!」
 シュッと一閃し、カブトプスの姿が消えた。残像だけが一瞬残った程の速さだ。
『見えてるぜ!』
 だがノコッチにはカブトプスの動きが見えているらしく、鋼鉄の鎌を振り下ろしてきたカブトプスの攻撃を簡単に避けてしまう。
「いいぞ、ノコッチ!そのままかみついてカブトプスを毒状態にするんだ!」
『言われなくても……うらあッ!』
 歯形がつく程の力で思い切り噛み付き、猛毒を注入するノコッチ。カブトプスは必死で鎌を振り続けたが、肩に鎌を振り下ろす事は出来なかった。
 何より自分がダメージを負ってしまう。ジタバタするが何があっても離さない覚悟でノコッチはダメージを与え続けていた。
 いってみれば、カブトプスにとっては相手が悪い。自らのバトルスタイルが通用していないのだから。攻撃を見切られ、攻撃を封じられてしまっては最早勝てはしない。
「畜生、ハスブレロと言いノコッチと言い……こんな事が、あってたまるかあ!
 カブトプス、ハイドロポンプで逆噴射しろ!奴を壁にぶつけて押し潰してやるんだ!」
 カブトプスは命令通りにハイドロポンプを口から噴射させたが、大方HPを削られたせいで威力が少し弱まっていた。
 それでもかなりの水量で、一気に壁に向かってすっ飛んでいく。
『おいおい、そんな事でなんとかなるとでも思ってたのかよ?』
 ノコッチはニヤリと笑うと、噛み付いていた肩に体を乗せて体を前につけた。つまり、背中から噛み付いていた所を今度はお腹から噛み付いている格好になったのである。
『カ、カ……』
 だが、笑えたのはカブトプスの方であった。先程の言葉通り、『押してダメなら引いてみろ』を実行したのである。
 壁すれすれで方向転換し、遠心力を使って無理やりにノコッチを吹き飛ばそうとする。
『絶対に離れねえぞ!この牙がしっかりと打ち据えてある限りな!』
 しかし、まるでネジがグルグル回転して抜けるかの様に、ノコッチの体もブンブン回転して結局は地面に叩きつけられてしまった。
 息も絶え絶えになっているカブトプスは、流血しながらも『かまいたち』を浴びせようと鎌を構える。
 攻撃力が飛躍的に向上しているこの技をくらってしまうと、ノコッチも危ない。だがノコッチは怯まなかった。
 『ポイズンキラー』の猛毒を、牙から発射してカブトプスの目を潰したのだ。これは流石に効いた。
 一時的に視界を奪われたカブトプスは、錯乱して見当違いな方向にやたらめったら攻撃する。
 すかさず起き上がったノコッチは、とどめをさそうと再び反対の肩に向かって飛び掛った。
『シャウッ!』
 再度身の危険を感じたカブトプスは反射的に鎌を振り下ろす。それはノコッチの腹をかすめ、そこから血がドバッと噴出した。
 赤では無く青色の血だ。かなり不気味な液体に見える。
『なめるな……ッ!』
 傷は負ったもののノコッチが再度噛み付くと、カブトプスはそのまま床に突っ伏して動かなくなった。
 カブトプスとの戦いはノコッチの勝利に終わる。ノコッチはかなりのダメージを負わされたがまだ戦えはすると言う状態で、カブトプスは完全に戦闘不能状態になっていた。
「役立たずが!これでも俺の下僕か!使えない奴だ……ついに本気を出さなければならん様だな。
 俺の切り札を見たら恐怖に震える事間違いなしだぞ……ククク……」
 ホウは自嘲的な笑いを隠し切れない様子であった。ユキナリは彼の言葉が嘘偽りでは無いだろうと思い、絶対に油断はしないと自分に言い聞かせる。オチが再度警告を発した。
「ユキナリ、奴の最後のポケモンにだけは油断するな!奴のポケモン1匹だけで、私の持ちポケモン3匹が潰された。イレギュラーに対しては攻撃の手を緩めてはいけない!」
「じゃ、じゃあまさか、ホウさんの最後の切り札って……」
「変種ポケモンだ。かなり強力な……反則級の攻撃力を持っている」
 ホウは再びダークボールを投げた。閃光と共に現れたポケモンは、丸い……雪玉だ。
「な、何だあれ……でっかい雪の球じゃないか……」
 だが、手と足がにゅっと出てきて、顔まで出てくると何の変種ポケモンなのかすぐに解った。
「ゴローニャの変種体、ユキダルマだ!どうだ、ビビったか?」
『ゴフルルル……どんな奴でもかかってこい……フルル……潰してやる……』
 白い息を吐きながらユキダルマは笑った。その表情は自信に満ち溢れている。
「ユキナリ君、ポケギアで戦闘力のチェックを!」
 ユウスケに言われ、慌ててユキナリはポケギアで特殊能力などのチェックに入った。
『ユキダルマ・がんせつポケモン……変種ポケモンでいわ・こおりタイプ。
 雪の斜面を転がり落ちていったイシツブテが雪を取り込んでユキダルマになったと言う推測がなされている。
 強力なこおり技と転がりプレスを使い、相手を恐怖に陥れる程の破壊力を誇るが、かくとうタイプのモンスターには歯が立たない』
 ユキナリはかくとうポケモンを持ってはいなかった。特殊能力を確認する。
『特殊能力・しろいいき……ターンごとに少しずつ回避率が上昇していく』
「マズイな……どんなポケモンにだって有利な特殊能力じゃないか……」
『マスター。俺に任せておけ。最後の1匹の為に道を切り開いておいてやるさ……』
 ノコッチはユキダルマを睨み付けた。その鋭い牙で、雪をかじりとってしまおうと考えているのではないかと思う位だ。その時……
「あれ……ユキナリ君。ノコッチの様子が……」
 白いノコッチの体がますます白くなっていく。これは……進化だ。間違いない。
「変種進化か……これで少し解らなくなってきただろう、ホウ!」
「オチ、てめえは黙ってろ!……クソッ、タイミングが悪いぜ……こんな時に!」
 体長が増したそれは、鱗と羽を持つ蛇となった。鋭い眼つきは何をも射殺しそうに見える。
『良い気分だ……クックック……マスター、これなら勝てる……勝てるぜ!』
『ドシャヘビ……変種ポケモン。土砂災害が起こると稀に発見されると言われている猛毒ポケモン。
 体内には毒素と毒液が溜まっており、毒ガスや強酸の液体を簡単に発射する事が出来る』
 ドシャヘビは進化した事で新しい技を覚えた。『ポイズンクロー』と『ねつのどくえき』だ。
「特殊能力も変化したハズだ。見てみよう……」
『特殊能力・だっぴ 状態異常にならない』
「凄いな。ステータスがこんなに伸びた……攻撃力も伸びている……」
『当たりさえすれば、コイツにだって充分勝てるぜ。チャンスだマスター!』
「おめでたい奴だ。俺の切り札に勝とうと思っている様だが、それは甘いぞ!」
 ホウは少し動揺してはいるものの、それでも確固たる自信を持っていた。切り札には誰も勝てないと思っていたのだ。その時……
「この……このおッ!!」
 扉をバンバンと蹴る音がする。この声は……メグミのものだ。
「何だ、新手か?フン、この扉を蹴破れるハズは……」
 だが、扉は破られた。開いた扉からメグミとパートナーのポケモンが飛び込んでくる。
「め、メグミさん!大丈夫でしたか?」
「雑魚は全員アタイが倒したよ。それで……ユキナリ。調子はどうだい?」
「……勝てるかもしれません」
「何が勝てるだ!フン、貴様を倒した後は、そこにいる女を捻ってやるわ!」
「それはどうだかね。アタイに挑む前に、ユキナリに負けてしまうんじゃないかい?」
「……ユキダルマ、ころがるであのヘビを押し潰せ!」
『ゴフルルル……了解。目標、距離捕捉……ターゲットにロックオン……』
 ホウとの最後の戦いが始まろうとしていた。

 先に動いたのはユキダルマの方だった。スピンをかけて、いわタイプとは思えない程の速度で迫ってくる。これでは噛み付く事など出来ない。
「ドシャヘビ、とにかくまずは逃げろ!作戦を練るんだ!」
『解った。マスター……何か名案はあるんだろうな?』
「……今の所は、まだ……」
『チッ、しょうがねえな……まあ良い。コイツも俺が何とかする!』
 ドシャヘビは熱を持った毒液をユキダルマに吹きかけた。ジュウジュウと体が溶け、一瞬ユキダルマの動きが鈍る。チャンスとばかりにドシャヘビはしっかりと噛み付いた。
「残念だったな。ユキダルマには毒が効きにくいんだぜ。ふぶきで吹き飛ばしちまえ!」
『フオオオ……ブウッ!』
 凄まじい風と共に雪がドシャヘビを包んだ。その強風に耐え切れず、飛んで壁に叩きつけられてしまう。
「だ、大丈夫か!ドシャヘビ!」
『グウッ……まだ、俺は……戦える!戦えるぜ!』
先ほど熱の毒液で与えたダメージはユキダルマにも支障をきたしていた。体が少し小さくなっている。
「ユキナリ君、相手の方もダメージを受けてるよ。でも、まだ不利なのは……」
『終わりにしてやろう……』
「いけ、ユキダルマ!奴にとどめをさすんだ!アイスボールで決めろ!!」
 ユキダルマが手をかざすと巨大な氷柱が姿を現した。それを沢山の球にすると、念力で飛ばしてドシャヘビに致命の一撃を与えようとする。
 今のドシャヘビには1個当たるだけでも瀕死になりかねない。ドシャヘビは球の弾道を見据えて、そのまま突撃していった。
「ドシャヘビ、何をするんだ!」
『なに、最後の賭けさマスター!俺が……アンタを覇者にしてやる為のな!』
 ユキナリに負けを味あわせまいと、球を避けながらユキダルマに迫っていく。
「素晴らしい、あのスピードで来る大量の球を紙一重で避けているとは……」
「きっと、トレーナーを心から信頼しているからこそ出来る芸当なんだろうね。アタイのポケモンであれが出来るかどうか……
 きっとこれからも波乱を起こすよ」
 オチとメグミはユキナリと、ユキナリの命に従い戦い続けるポケモンに感服していた。
 この世界の頂点に、何時か立てるかもしれない。この少年ならば、可能かもしれない。不思議と、2人はそう思えたのだ。
「ユキダルマ、何を梃子摺ってるんだ、さっさとアイスボールをUターンさせろ!」
『くたばれぇぇぇ!』
 ドシャヘビは進化後に生えた腕を振り上げ、その毒を持った爪でユキダルマの表面を思いっきり抉った。
 再起不能な程の熱がシュウシュウと体を溶かし、再生を許しはしない。
『そして……こうだッ!』
 素早くドシャヘビはその抉った力を利用してユキダルマの真後ろに回りこんだ。
『……何……!?』
 気付いた時にはもう遅い。自分で作ったアイスボールがUターンしてきたのだからひとたまりも無かった。全弾が命中し、少ないダメージながらも仰け反る。
『シャアッ!てめえのその雪のボディー、全部溶かして無力にしてやるぜえ!』
 真後ろに着地していたドシャヘビは、とどめとばかりに毒液を再び吐き出そうと身構えた。
 だが、結果的には焦り過ぎたと言うべきだろう。ユキナリがユキダルマの真意に気付いた時には遅かった。
 ニヤリと笑ったユキダルマが、全体重をかけてプレスしてきたのだ。
「ユキナリ君、ドシャヘビを後退させなきゃ……ああ、遅かったよ……」
「ドシャヘビ……ゴメン。僕が、ちゃんと後の事まで考えてなかったから……」
『ゴフー、ゴフー……すみませんマスター、私もかなりの手傷を負いました・・・』
「もう満足に戦える体力がねえな……負ける位なら、解ってるだろう?」
『ええ、解っています。マスター……』
 ホウは、これだけユキダルマが瀕死に近いダメージを負っているのにも関わらず、まだ負けたとは思っていないらしい。
 戦闘不能になったドシャヘビをボールに戻しながら、ユキナリはまだ戦いが終わってはいない事を感付いていた。油断してはいけない。
 (この局面で、ホウさんが負けない方法は……1つしか無い)
「解るな?ユキナリ。奴の考えている最後の方法とやらが……ハッキリ言って君のポケモンが進化したのは非常に運が良かった。
 だが逆に相手を追い詰めすぎたせいでチャンスを与えてしまっている。相手のチャンスを知って、それを逆手に取れ!」
 オチの言葉が、ユキナリに最後のポケモンを選ばせた。ユキダルマに『勝てる』ポケモンはたった1匹しか持っていない。
 スーパーボールから閃光と共に出てきたのは……昨日捕まえたばかりのナックラーだった。

『ガ、ガ……どうやら、戦いは終盤にさしかかってるみたいだな』
「君で最後なんだ……君に何を望んでいるか、解るね?」
 かなり溶けて原型から離れつつあるユキダルマを一瞥すると、ナックラーはしっかりと頷いた。
「おうおう、最後は進化もしていないじめんポケモンか……じめんポケモン?
 ちっ畜生!作戦が読まれちまった……いや、だがスピードを生かせば勝てるな……」
 引き分けに持ち込めば戦いは再戦にもつれ込む。そうなればナックラー1匹では完全回復したユキダルマを倒せはしない。アオイの作戦を思い出して、ユキナリは覚悟を決めた。
 (ココで終わりにしなきゃ……ナックラーの特技を、フルに活かして!)
「よし、奴を捕まえて相討ちに持ち込むぞ!ユキダルマ、転がってまずは弱らせろ!」
『仰せの通りに……』
『ガガ……捕まえられるなら捕まえてみな!ガッガッガ・・・』
 ナックラーは小さい。体の小ささはそのまま素早さに繋がる。チョコマカと動き回り、ユキダルマを翻弄した。
 毒液の効果はさらにユキダルマを弱体化させていく。
『クウ……このままでは……急がねば……』
 シュウシュウとユキダルマの体から湯気が出ていた。焦りとダメージが、じりじりと残り僅かになっているHPを削っていく。一方ナックラーは余裕を見せていた。
『ガッガ……変種ポケモンもその程度か。笑わせやがって!これならとどめをさせるぜ!』
「ナックラー、止めるんだ!まだ、君のレベルじゃ幾ら弱っていても決定的なダメージを与える事は出来ない!突っ込んだら相手の思うツボになるんだぞ!」
『……解ってるさ……』
 ナックラーはそのキラキラ光る瞳でウインクしてみせた。ちょっと笑った様にも見える。
 (まさか、ナックラーは……ユキダルマを誘っているのか?だとしたら勝てる!)
「へっ、バカめ!勝てる戦いを放棄しやがった様なモンだぜ。今だ、ユキダルマ!」
 ホウは相当焦っていた。正常な判断、裏を読む事に関して鈍くなっていたとも言える。それ故ユキダルマに、『大爆発』する事を許してしまったのだ。
「ユキナリの勝ちだ……」
 ユキナリの応援を続けていた3人ともそう思った。だが、当の負けてしまう本人はそれを理解してはいない。
 ユキダルマは、突撃してきたナックラーを認めると、体を発光させた。そして爆発……
『ガガガ、やはり俺を捕まえるべきだったな!焦り過ぎだ!』
 ナックラーはあっという間の早技で穴を掘るとそこに逃げ込んだ。しかし、ユキダルマもそれを見越して行動していたのだ。
 その穴に転がり込める程に小さくなっていたので、そのままゴロゴロ転がって穴に落ちていく。
「不味い!逃げようが無いぞ!」
「くっ、ホウのポケモンはそう甘くは無かった様だな……」
 オチは歯噛みした。ホウより数倍は賢いと見るべきであろうか。穴から凄まじい爆発が起こった。
 光が溢れ出す程の規模の爆発に、ナックラーが耐えるとは思えない。
 このままでは、仕切りなおしでナックラーVS完全回復したユキダルマの戦いにもつれこんでしまう。
 (……僕の、負けか……)
「よくやったユキダルマ!これでゆっくりガキをいたぶれる。楽しみになってきたぜ……」
 ホウはせせら笑っていた……が、その顔が突然凍りついた。
「な……に……?」
 ボコっと地面からもう1つの小さな穴が開き、中からナックラーが出てきたのだ。爆発の衝撃を少々受けてはいたものの、瀕死状態にはなっていない。
『ガ、ガ……転がり込んでくる事を予想していてな。逃げ込んだ後も掘り進んでたんだ。やっこさん、爆発する時スゲー悔しがってたぜ。ガッガッガッガ……』
「ナックラー……有難う、本当に有難う……」
 ユキナリはひしとナックラーを抱きしめた。ナックラーは少々照れている。
「ち、畜生……そんなバカな――ッ!!俺が……この轟きのホウ様が負けただと!?」
「トレーナーならば何時かは負けが来る。それが……少し早かっただけの話だ。」
 オチは自分にも言い聞かせる様に告げた。俺達の時代はもう終わったのだとその目が告げている。
「認めねえ、認めねえぞ!俺は……最強にならなければならねぇんだ。アズマ様の為にも!こんなガキ如きに負けたなど……うう、何とご報告すれば良いか……」
「アンタ、そのアズマ様ってのに仕えてる悪者かい。何でこんな事をしたのか、説明してもらおうじゃないか。ポケモンを、アンタは何故そこまで憎む!」
 メグミは崖の上に立っているホウに向かって叫んだ。最早先程までの見下し方は消え、ただ狼狽と怒りだけが彼の精神を支配している様にも見える。
「……ポケモンを憎むのは当然だ。俺は……ポケモンに家族を殺された!」
 ユキナリはハッとした。憎むだけの理由が、セイヤと同じ様な理由で存在していたからだ。
「お前達の様な、ポケモンと共に生きている奴等を見ていると虫酸が走る……
 良いか、ポケモンは、もともと野生の、獰猛な動物なんだ。解り合えるハズは無えだろうが!!」
 彼の憤怒の形相の中に、ユキナリは何故か彼の深い哀しみを感じ取っていた。
「俺は……昔はお前達と同じ考えを持っていた。大工見習いの時だったがな……
 メグミ、お前の親父さんの下で働いていた頃は楽しかった。仲間も沢山いたから……」
「……アンタ、もしかして父さんと一緒に笑ってた、あの大工見習いの青年だったのかい?」
 メグミは驚いてホウを見た。ヒゲ面の下に、確かにその面影が見えた気がしたのだ。
「それから、俺は自分の街に戻って、大工としての仕事を始めた……街には大工が少なかったからよく頼りにされたモンだ。
 仕事も順調で、何もかもが上手くいっていたかの様に見えた……だが、その幸福は突然に打ち砕かれた。ポケモンのせいでな!」
 ホウの頭の中では、あの時の凄惨な思い出が蘇ろうとしていた。悲鳴、轟音、そして……
「山から突然に突進してきたケンタロスの群れが、街を壊滅させた。家屋を破壊し、人々を踏み潰して走り続けた。
 逃げ出せたのは、俺だけ……生き残ったのは……俺だけだった……皆角に刺されたり、家屋の下敷きになったりして……」
 ホウの目には涙が滲んでいた。セイヤの時と同様、それが嘘だとはどうしても思えない。
「メグミ、お前には解るか?俺の苦しみが……全てを失った俺の苦しみが!」
「……だから、アタイの事を知らないフリをしてたんだね、ホウ……名前は知らなかったけど、アンタには世話になった。子供の頃、一緒に遊んでくれたろう?」
「あの頃に戻れるのならなあ……だが、俺にはもう戻る場所が無い……」
「あるさ!アタイに技術を教えておくれよ!まだアタイは半人前だよ?……父さんから直接指導を受けた人は、アンタを含めてもう数人しか残ってない!戻って、きて……」
「……メグミ。お前親父さんに似てきたな。アズマ様の願いが成就した時には、必ず戻ってくる。それまで待っててくれ。俺にはまだやるべき事があるからな」
「悪人の手助けなんかして、それが正しいと思っているのかい!!」
「……俺達は、悪人なんかじゃない。正義を……人間の正義を貫いているんだ!」
 ホウは手元のパネルを素早く操作した。すると突然地面からロケットが姿を現す。
「戻れ、ユキダルマ!」
 ユキダルマが穴から光になって戻ってくると、ホウはロケットの取っ手を掴んだ。
「ユキナリ、今度会う時は、お前がアズマ様の前にひれふす事になる!覚えておけ!」
「待て!ホウ、決着はついたのだ。運命から逃れるつもりか!!」
 オチは急いで駆け出し、崖を登り始めたがもう遅かった。
「運命は……俺自身が切り開く!あそこにいる3人の様にな!」
 そのままホウは雪空の中に消えていった。開いた天井の先をオチは悔しそうに見つめる。
「……アイツが、アタイと一緒に遊んでくれた兄さんだったなんて……」
 メグミの頬には涙が伝っていた。ユキナリとユウスケも雪が落ちていく灰色の空を自然に見ている。あそこから、何とか街に戻れそうだ。
 (ホウさん……僕には貴方の哀しみが解る。でも、やり方は間違ってる!ポケモンは……僕達の仲間だ!
 何かあるんだ。ポケモンがそんな事をした何らかの理由が……)

「へっへへ……昨日のどさくさが役に立ったぜぇ。流石カオスさまさまって所か。おかげでダイナマイトをあのビルにめいっぱい仕掛ける事が出来た。
 後はこのリモコンで爆破装置を起動させればドッカーン!……ふへへ、楽しみだ……」
 何という偶然であろうか。リッパーは向こうを向いてへらへら笑っていたので気付かなかったのだが、リッパーの真後ろには巨大な穴が開いていたのである。
 それはイミヤタウンから少し離れた林の中で、ホウとその部下達がもしもの時にここから逃げ出すハズだった場所であった。
 そこからタラップを使ってユキナリ達が這い上がってくる。リッパーは起爆装置を眺めてウットリするのに夢中でユキナリ達の存在に全く気付いていない。
「……え……?」
「どうしたんだいユキナリ、誰か上にいたのかい?」
「い……いる……リッパーさんが……」
「う、嘘でしょ!?あのシオガマシティの爆破事件を起こした……?」
「僕も信じられない。でも……確かめなきゃ」
 ユキナリは近付こうと歩み寄ったが起爆装置に気付いてハッと後ろに下がった。下手に刺激してはイミヤタウンの人々を危険にさらす事になる。
「リッパーさん……ですよね?」
 呼ばれて振り向いたリッパーは、そこに数人のトレーナーが立っている事を認めた。
「へっ?……こりゃ面白ぇな。まさかこの場所を知られるとは思わなかった……
 言っておくが、俺にそれ以上近付いたら、この起爆ボタンをポチッと押しちまうぜ」
 リッパーは小さなリモコンをちらつかせた。そのリモコンには『花火』と書いてある。
「今度は、何処を爆破するつもりなんですか、リッパーさん……」
「へっへ、聞いて驚け。ニュータウンの高層ビルを爆破してやるのさ!」
「そ、そんな事が……アタイの部下達が死んでしまう!こっちに渡しな!」
「おっと、そう簡単に渡すと思うか?どうやらお前、あのマッチョマン達の上司か何かだろ。残念だな。今丁度仕事に取り掛かってる頃かもしれねえぞ?
 いや、してなくても犠牲者は出るな。何しろ俺の計算では街の半分が吹っ飛んじまう程の強力な爆風が出るハズだから……」
「この……外道がぁ――ッ!!」
 メグミは怒りに身を震わせながら叫んだ。叫んだが、殴りかかるワケにはいかない。
「その顔、嫌いじゃないぜ……へへへ……さてと、このままジーッとしているワケにもいかねぇ。どうだ、俺とゲームをしねえか?」
「ゲーム、だと……」
 オチは歯噛みをした。その顔にリッパーは気付いた様子で、
「おう、オチじゃねえか。アンタとホウのおかげで無事にダイナマイトを設置出来た。例を言うぜ……ルールは簡単だ。俺の手駒を全部潰せばお前達の勝ち。
 逆にお前達の手駒が潰れたら俺の勝ちだ。まあ、1人にしてくれると助かるが……更に条件をつけるなら、そうだな……4匹にしてくれると非常に助かる」
「貴様……私とカオスとの因縁までも利用したと言うのか!」
 今やリッパーは対面した全員の怒りを一手に受けていた。それでも決して動じず、へらへらと不敵な顔をしている。ユキナリが挙手をした。
「僕が、貴方と戦います」
「へっへっへ……お前は確かドームにいたガキだな。強いとか言ってたが……俺に勝てると思うのは間違いだぜ。今からその決意を後悔させてやるとするか……」
 リッパーは迷彩服のズボン、そのベルトに付いているボールを1個片手で持った。今手に持っているものを含めて4つある。ユキナリもボールを構えた。
「お前に教えてやろうか、俺の持っているポケモンは全部ばくだんタイプのポケモンだ……油断してると痛い目みるぜ……ドカーン、ってな……」
「ばくだん、タイプ……?」
 ユキナリは、その聞いた事の無いタイプ名を聞いてポカンと首を傾げた。

夜月光介 ( 2011/05/29(日) 21:20 )