ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第3章 8話『海の漢』
 試合が始まった瞬間、ニョロボンはノコッチの目の前にいた。
「ニョロボン、れんぞくはりてで着実なダメージを与えろ!」
『フンッ!』
 ノコッチは不意を突かれて避ける事が出来ず、はりてをくらった。2〜5回連続で攻撃するかくとうタイプの技だ。
『ヘヘッ……こりゃ厳しいな。いきなりやられたぜ』
 3発目、弾き飛ばされたノコッチは立ち上がった。こおり・どくの変種ノコッチは、かくとうタイプの技だと分が悪い。相手に攻撃をさせない事が重要だった。
「ノコッチ、相手にかみつく攻撃!」
 あくタイプの攻撃技はかくとうタイプのポケモンには不利なポケモンだったが、命中率を考慮したうえでの判断だった。
 相手を怯ませてから一気に勝負を付けようとしているのだ。
『ニョロボン、ばくれつパンチで迎撃しろ!』
 ニョロボンは腕を思いっきり引くと、気合いを入れて一撃を放った。当たれば大ダメージ、おまけに必ず混乱する技だが命中率は低い。
 特殊能力のせいでさらにノコッチがその技をくらう率は高かったのだが、幸運な事に外れてくれた。その隙を突きノコッチはニョロボンの肩に思い切り噛みつく。
『ぬうぅ、私がこんな奴に噛みつかれるとは!』
 ニョロボンは少量だが着実なダメージを受けた。怯んだ所でユキナリは畳みかけようと一気に命令を続けざまに放つ。
「ノコッチ、ポイズンキラーで弱らせてから連続でかみつく攻撃だ!」
 ノコッチは肩に噛みついていたのでニョロボンが腕を振り回して振り払おうとしても無駄な抵抗だった。
「ニョロボン、ハイドロポンプを使ってノコッチを吹き飛ばせ!」
『ほああああああああ!』
 ニョロボンの身体にある渦巻き模様の中心から水の渦が飛び出した。巨大な水の竜巻はノコッチのいる方向とは逆の方向に飛んでいく。
『ハズレだぜ、オタマ野郎!』
 ノコッチはポイズンキラーを繰り出し猛毒を注入し始めた。
 それが何十秒か続けば命取りになっていただろうが、水の竜巻、すなわちハイドロポンプは途中で向きを180度変えてノコッチに迫ってきていたのだ。
「ノコッチ、一旦距離を取れ!」
 鉄砲水との勝負はノコッチの敗北に終わった。サメハダー戦での必死の噛みつきとは違い、あまりの水圧にノコッチは為す術も無く壁に向かって飛んでいく。
 いや、吹き飛ばされていた。そして壁に勢い良く激突。
『まだだ……まだ終わってねえ……!』
 ノコッチはヨロヨロと立ち上がり、最後の追い込みを見せた。ジャンプとタックルを組み合わせ、先程のニョロボンの様にあっという間にニョロボンの目の前に近づく。
『コレで終わりだ、倒れちまえ!』
「ニョロボン、サイコキネシス!」
 ミズキの命令と同時に紫色の光線がノコッチを襲った。ノコッチは最後の力を振り絞ってかみついたが、そのまま戦闘不能になってしまった。
 丁度ニョロボンの体力を半分より少し少な目に削った様である。
「ノコッチ、よく頑張ってくれた。有難う」
 ユキナリはノコッチをボールに戻した。
「お前のノコッチ、闘志があったな。俺の切り札の体力を削りに削るとはなかなかやるじゃねえか。だが最後に笑うのはこの俺、ミズキ様だぜ!」
 ニョロボンはまだ元気がある事を示すかの様にポーズを取った。挑発的なポーズだ。
(ヒュードロ……頼りないけど最後の切り札だ。今回のバトルで1番辛いのはコエンを出せない事……
 格好の餌食になってしまうからな。後はヒュードロと僕自身を信じるだけだ。勝って、必ずイミヤタウンへの道を切り開いてみせる!)
 ヒュードロはこおり・ゴーストタイプ。かくとう技はゴーストのおかげで効かないも同然だが、ニョロボンには切り札のハイドロポンプとサイコキネシスがある。
 エスパータイプの技としてはかなりの威力を誇り、命中率もかなり高い。苦戦は免れそうに無かった。
 ボールからヒュードロを出すと、ヒュードロは特殊能力のおかげで浮いている。
『何ー、このまきびし……嫌なんだけどー』
「クソッ、まきびしが効いてねえのか!浮いてるポケモンはまきびしのダメージを受けねえからな……最後の場面で少しでも相手の体力を削っておきたいって時に!」
 ミズキは地団駄踏んで悔しがった。
『ミズキ、私に任せておいてくれ。2回も負けてしまったこの屈辱……私自身もはらしたいのだからな』
「ヒュードロ、あれが対戦相手だ」
『かくとうタイプかぁー……大丈夫なんじゃない?相性の問題は結構関係してくるよー』
 確かにばくれつパンチが出てこない分心配は無用だが、その代わりサイコキネシスが飛び出す事になる。
(大丈夫だ、きっとヒュードロは上手くやってくれる)
「始めようぜ!燃えてきやがった、これこそ男と男の意地のぶつかり合い、勝負の醍醐味よ!!」
 ミズキは拳を作り片方の手にかぶせて笑った。その漢の表情は笑っていても決して油断などしていない事が伺える。
 ユキナリも悔いの残らない戦いをしたかった。どちらともなく開始となり、最初に飛び出したのはやはり俊敏性のあるカリスマ、ニョロボンだった。
 だが今回はかくとう技を全く使わないので間合いを詰める必要は無い。同じくヒュードロも遠くから攻撃出来る為別に遠くにいても構わなかった。
「ニョロボン、サイコキネシスで相手を攻撃しろ!」
「相手の動きを止めるんだ、ハイパーボイスを使え!!」
 ニョロボンは渦巻き模様から紫色の波動を出してヒュードロに狙いを定めようとしたが……
『ケケ、ケケケケケーッ!!!!』
『グオッ!?』
 ニョロボンは急に呻き声を上げて倒れ込んだ。
「ど、どうした。ニョロボン!」
『あ、頭が割れそうだ……』
 オタマジャクシにも耳は付いており、カエルの時よりも数倍音に敏感らしい。それが関係しているのかどうかは知らないがニョロボンはダメージを受けて怯んでしまった。
 見当違いの方向へ虚しくサイコキネシスが飛んでいく。
「何てこった。今までこんな攻撃をくらった事無かったぞ!」
『チャンスって奴かなー。このまま決めちゃうー?』
「ハイパーボイスで?どうしよう……」
 一方的に相手を叩くのはやりきれない気持ちがした。ハイパーボイスは相手によく効いた様で、ニョロボンはかなりHPが減ってきている。
 ユキナリが思うにそれはかなり危険な状態だった。
(ここまで弱められたのが逆に不思議で仕方無いよ……でもミズキさんは常に攻撃一辺倒で頑張ってる。ココで無理矢理勝ってもいいんだろうか?)
「ニョロボン立て、しっかりしろ!お前はこんな攻撃で倒れる程ヤワじゃ無えハズだろうが!」
『同じ攻撃を出されたら私はもう駄目だ。今までに受けた事が無い……慣れておきたかった……』
「ミズキさん!」
「……ハイパーボイスか」
「?」
「ユキナリ、お前の兄貴はここを越えた。今お前も越える時を迎えようとしている……越えろ!俺の事はもういい、勝つんだ。俺はもう満足だ。
 俺は勝つと信じてこの結果になったんだ。攻撃しろ!さっきの攻撃をもう1度繰り出すんだ!!」
 ユキナリは苦悶の表情を浮かべた。
『ユキナリ君ー……どうするのー?僕は君の言う事を聞くだけだから何も言えないけどー……』
(どうする?このまま偶然発見したニョロボンの弱点を利用して勝つのか?それで僕は兄さんに追いつけるのか?
 ……違う、そんなワケ無い!僕はあくまでトレーナーとして恥ずかしくない戦いをしたい!!)
 ユキナリは決意を固めた。

「ヒュードロ、決着は男らしくぶつかり合いで決めよう」
『ボクもそう思ってた所だったんだよねー……』
「ユキナリ……いいのか?楽に勝てるチャンスなんだぞ。ニョロボンがハイパーボイスに弱い事を知りながら、俺にチャンスを与えてくれるってのか?
 すまねえ……だがチャンスを与えられたからには相応の力を見せるぜ!」
 ミズキは立ち上がったニョロボンに命令を出した。
「最後に花火を打ち上げようぜ、ニョロボン!体力は後で回復出来る。力をありったけ出してハイドロポンプを打ち出すんだ!」
『華を見せるか……それもよかろう。私に直接勝負で勝つと言う事は、本当にこのジムを制した証となる!お前は本当の勝利者となれるか!!』
 ニョロボンは構え、憤怒の形相でこちらを睨み付けた。
『逃げるワケにはいかないねー……』
「ヒュードロ、特大のシャドーボールで相手に対抗してくれ。あっちも相当時間をかけている。最後の一撃だ!」
 プールサイドの両端で、ヒュードロとニョロボンの最後の激突が繰り広げられようとしていた。互いに一撃を出し、そして勝った者は追い打ちをかける。
 ミズキにも勝利するチャンスが与えられたのだ。
 (トレーナーに情けをかけられても尚、容赦はしねえ。俺達が今まで鍛錬を積み重ねてきた成果を、全てこのハイドロポンプの一撃に託す!)
 ニョロボンの身体から神秘的な青色のオーラが出現した。ヒュードロの身体からも紫色のオーラが出現する。
 互いに力の全てを出し切り、それを相手にぶつける。敗北した者は真の力が足りないと言う事でもあった。
 (ヒュードロ……出会ってからこれ程早くバトルのコツを掴み、ミズキさんの切り札を追い詰めるなんて……
 コエンと同格、技の多種多様さを考えればもしかしたらコエンより強くなるかもしれない……!)
 そして数分後、その一瞬の静寂は破られた。
「ニョロボン、ハイドロポンプ!」
「ヒュードロ、シャドーボール!!」
 勢いに乗った水のミサイルがヒュードロに向かって飛んでいく。そしてプールの中程でその2つの勢力が真っ向からぶつかり合い、そしてジリジリと消耗していった。
 ヒュードロのシャドーボールは精神力によってその大きさ、破壊力も変わってくる。ニョロボンも自分の体内から放出しているのだからそれは同様だった。
『くああああああ……』
 自分の出している渦の影響でジリジリと後退していくニョロボン。ヒュードロもだんだん精神力が失われる。
『ハア、ハア……フオオオ!』
 ヒュードロはついに力の拡大を放棄し、へなへなと地上に降りて倒れた。HPは残っているものの、あのハイドロポンプが当たれば命取りになりかねない。
 だがシャドーボールは依然としてそこにあり続けた。
 ニョロボンはそのシャドーボールを押し返そうと躍起になっていたが、あまりの大きさにそれを押し返す事が出来なかった。
 このままでは全てを使い果たして何も出来ぬまま倒れてしまう。
『最後に……私は……必ず……』
「ニョロボン、俺達の力を見せてやれ、跳ね返すんだ!」
「ヒュードロ、よくやってくれた。後は相手の力次第だよ……」
 ユキナリはニョロボンの方を見た。横でミズキが懸命に励まし続けている。
 諦めない。最後まで自分の勝利を信じて突き進む……それはトレーナーも、ジムリーダーも同じだ。
 自分が最強だと信じ、その為にどんなトレーナーにも勝ちたいと思うその心……
 子供じみているかもしれないが、ユキナリはミズキがジムリーダーになれた理由が解った様な気がした。
 ゲンタもアオイも、その諦めの悪さがあの強さに影響したのだろう。常に高みを求めて登り続けないと、それ以上先へは進めないのだから……
『オオオッ!』
 シャドーボールがだんだんとヒュードロの方に向かっていく。このままではヒュードロが危ない……
 だがヒュードロにはもうそれを避ける余裕など無かった。確実にニョロボンはシャドーボールに勝っている。終わりか……
 ユキナリが打ちひしがれていたその時だった。
『ヌ……ウウウ……』
「ニョロボン、しっかりしろ。まだやれる!」
 瞬間、ニョロボンは全ての力を使い果たし、倒れ込んだ。ヒュードロの一歩手前でジリジリ押されていたシャドーボールの勢力が元に戻り、ニョロボンに向かって突っ込んでくる。
「ニョロボン、避けろ!」
 ミズキは距離を取ると必死に呼びかけた。
『私はもう本望だ……負けても悔いは無い……ミズキよ。潔く彼等を認め、見果てぬ高みへ誘おう……』
 ニョロボンの身体はひどくやつれていた。体内の水を放出し過ぎたせいだろうか。もうピクリとも動かずに自分が倒れる時を待っている。
 シャドーボールはそのままニョロボンに当たり、包み込んでダメージを与えた。
 虚ろな瞳でニョロボンは倒れているヒュードロを見つめていたが、やがて微笑むと意識を失ったのか、白目を剥いて痙攣した。
「……終わった……お前と俺とのの戦いが……勝ったのはユキナリ、お前だ。実に有意義な戦いだったぜ」
 ミズキは悔しそうではあるが、ユキナリを祝福する気持ちは大きい。これ程のトレーナーと巡り会えたのが、むしろ嬉しいと言う気持ちもあった様だ。
「ミズキさん。僕だけの力じゃありません。ポケモンと協力した結果なんです。特にノコッチ、そしてヒュードロ……
 2匹の活躍が無かったら、ニョロボンに敗北していたでしょう。正直、苦しい戦いでした」
 ミズキはニョロボンをボールに戻すと、向こうの扉を指さした。
「お前のポケモンもボールに戻せ。ジムバッチと、支給されるべき技マシンの部屋に案内してやる」
 ユキナリはヒュードロをボールに戻すと、ミズキの後について部屋に向かおうとする。
 その時、ホンバ助手とユウスケが向こうの部屋から飛び出してきた。相当慌てている様だ。
「ユウスケ……ホンバさんも。何かあったのかな?」
「当たった……当たったんだ……」
「どうした。何が当たったってんだ!」
「ユキナリ君、ユキナリ君!!おお落ち着いて聞いてくれよ。ポケモンくじの放送が今さっきあったんだ。
 ナギサさんの使っているラジオで当選発表を聞かせてもらっていたら、2人……ユウスケ君とユキナリ君の絵柄が当選発表のと一致してるって……」
「ユキナリ君のを僕そのまま描いたでしょ?それ、覚えてて発表を聞いたんだけど、1位だよ、1位!1人につき50万円入ったんだ。合計100万円だよ!!」
「う……嘘……」
 ユキナリは呆気にとられて膝をついた。
「パソコンを確認すればもう50万円が入っているハズだよ!僕とミズキさんのバトルが終わったら、確認しに行かなきゃ!」
「本当に入っていたら使い道をよく考えた方が良いよ。無駄に使わない様にしなきゃね。後でお母さんとも話し合って……」
「ハ……ハハ……」
 ユキナリは面白くも無いのに笑っていた。顔面が思いっきりひきつっている。
「良かったじゃねえか、ユキナリ。50万円とは……
俺の1ヶ月の支給金より上だぞ!凄えじゃねえか、なあ?」
 ユキナリは泡を吹いて倒れてしまっていた。

 ユキナリは数分後、プールサイドで目を覚ました。
「ユキナリ君、本当なんだってば。それにナギサさんが偶然テープでエミさんの発表を録音しておいてくれたんだよ!」
 傍らには私服に着替えていたナギサとカイトの姿が。ホンバ助手はまるで自分の事の様に大喜びしている。
「で、一体何に使うつもりなんだ?それを」
「当選したのも信じられていないのに、まだそんな事を考えられる余裕は無いですよ……本当に当たったんですか?」
 ナギサは防水ラジオの取っ手を片手に持ち、ユキナリの耳に近づけた。
「これでも信じられないかな?」

『……えっと、今回のポケモンくじ当選発表です。毎度の事ながら……くじを買ってくれた皆さんに……お礼を申し上げます。
 くじの代金は全てトーホクリーグ運営救済資金として寄付するのはもう知ってますよね……
 この間も結構大変な事件があったみたいで、きっとドームの復興に使われるんじゃないかと思ってます……
 そ、それではくじの当選番号を発表しますよ……』
 ラジオ塔で出会ったエミさんの事がラジオから聞こえてくる。さっきの放送を録音したものだ。
 ユキナリはまだ当選絵柄を聞くまでは自分が1等当選だなどとは信じられなかった。
『えっと……1番目の絵柄が……これ、マンキーですね。次の絵柄は……ドーブル……イシツブテ……』
 当選絵柄の順番を聞いていく内にユキナリの顔つきが変わっていく。昨日くじに書いた通りの発表だ。
『……コイキング、で終わりですね。この順番に絵柄を決めた人が1等です。前後賞は絵柄が1つ違い、それ以外の順番、絵柄が全て同じ人に……』
 ユキナリは茫然自失していた。
 (まさか……冗談でしょ?)
「僕はユキナリ君と同じだったから……50万円なんだ!しっかり順番は覚えてるよ、後でセンターに確認しに行こう!」
「僕も一緒に付き合わせてもらうよ。ちなみに僕は5000円当たったんだよね。当たらないよりはマシだと思うんだけど……
 なんか、2人の当選金額と比べたくなるのが恥ずかしいよ……」
 ホンバ助手は少し気まずそうに笑った。
「ユキナリ、まずはジムバッチと技マシンを受け取ってくれ。ユウスケはこの後俺と戦ってもらう。そうしたらお祝いでも開いてやるよ。
 ナギサとカイトには食料を買ってきてもらうからな」
「お駄賃くれる?」
「コラ、折角いい所なのに……私は別に何も無くても行くわよ。だって当選したトレーナーと戦えたなんて、良い記念じゃ無い。
 負けちゃったけど……ね」
 ナギサはラジオを部屋に戻しに行った。今はユキナリだけがジム勝利の部屋に入る事が許されている。
 今だ夢心地で、ユキナリはフラフラとミズキの後についていった。

 ディープブルーに塗られた壁の部屋の中には、アオイやゲンタの時と同じく、沢山の背負える技マシンが置かれていた。
「俺が支給する様リーグから言われているのは……この『ハイドロポンプ』と言う技マシンだ。俺のニョロボンが使ってきたろ?
 威力は高いが、命中率は秘伝マシンの波乗りにちょいと劣るな。どちらがいいかはお前次第だ。そして……コレがマリンバッチ。
 シオガマシティジムリーダー、ミズキ……俺に勝利した証だな」
 ユキナリは青く輝く星型のバッチをミズキに渡された。
「このバッチを持っていれば、リーグから秘伝マシン『波乗り』を使っても構わないと言う許可がおりる。
 全体攻撃として便利だが、海の上をポケモンに乗って渡る事も出来る機能もある優れモンだ」
 しかしユキナリはまだ『そらを飛ぶ』も『波乗り』も持っていない。何度も使える秘伝マシンは便利ではあるが、持っていなければ当然使えない。宝の持ち腐れと言う事だ。
「お前と戦えて嬉しかったぜ。また寄る機会があったら対戦してくれ。それとな……」
 ミズキはユキナリに許可をもらうと、ポケギアを開いてシオガマシティジム、ミズキの電話番号を登録した。
「頼みがあるんだ。昔俺がトレーナーだった頃、亡くなった俺の妻と一緒に旅行に行った事がある。
 ホッカイって言う島なんだが、雪が降る冷たい海の景色に魅了されてな……そこにもジムがあるから当然そこに行くだろう。
 その時で構わねえ、テレビ電話で景色を俺にもう1度見せてくれ!」
 ミズキは頼み込んだ。リーグに関わっている者は自分の運営しているジムがある街から出てはならない。
 その掟があるのでミズキは自力でジムを出る事は出来ないのだ。
「解りました。ツンドラタウンに行った時には、必ずミズキさんの所に連絡を入れます」
「すまねぇな、ユキナリ……さて、お前はあの助手と一緒に確認してこい。俺はお前の親友と戦ってやる。
 見た感じ、あいつには勝てそうな気がするんだが……」
「油断禁物、ですよ。ミズキさん……」
「そうだな。見た目で人を判断しちゃいけねえよ。どんな力を見せつけてくれるのか、楽しみだぜ!」
 ミズキはドアを開けると、ユウスケに呼びかけた。
「次の対戦相手はお前だ。俺がポケモンを回復ポッドに入れた後すぐに始めるから用意をしておけ!」
「ユキナリ君、先にホンバさんと一緒にセンターに行っておいて、僕も後から確認しに行くから!」
「じゃあ、行こうか」
「ホラ、預かったでしょ?これ以外の物は買うなって父さんに言われてるからね」
「お駄賃位くれたっていいじゃん!父さんもケチだなぁ」
 ナギサとカイトも今夜の祝いのご馳走を買いに行くらしい。渡された紙には海の幸、魚の名前が多く書かれている。
 ホンバ助手は立ち上がると、ユキナリと一緒にシオガマシティのポケモンセンターに向かう為、ドアを開け外に出た。

 勿論雪景色はジムに出向いた時と何ら変わっていなかったが、ユキナリは嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 まさか、こんな大金を貰えるとは思っていなかったからだ。
「パソコンにすでに預けてあるハズだから、確認するだけで良いと思うよ。ユウスケ君と話し合ってキチンと使い道を決めた方がいいね」
 突然、ポケギアの電話機能が反応して鳴り響く。
 ユキナリはポケギアを取り、テレビ電話の項目を押し画面を開いた。
『ユキナリ、元気にしてた?風邪、ひいてない?』
「母さん!」
 それは何も言わずに出かけ、心残りであった母からだった。
『心配してたのよ、フタバ博士からプロジェクトの事は聞いたけど、今まで旅なんかさせた事が無かったから私は凄く不安で……』
「ユウスケと一緒に頑張ってるから、平気だよ。サポートしてくれる人も沢山いるし。ホンバさんも協力してくれたしね」
『あら、そこにホンバさん、いるの?』
「ど、どうも恐縮です。奥さん……ユキナリ君は僕が見る限りでは大丈夫だと思いますよ。旅を心から満喫してるみたいです。
 それに、リーグ制覇はユキナリ君の夢でもありますから」
『……主人みたいな事にならなければいいですけれど……あの人も、勝ち続けた結果であんな事故を起こしてしまって……』
 (僕の父さんの事だ……)
 ユキナリの父親は有名になりすぎたせいで死んでしまった……そう言う声もあった。凄腕のトレーナーであった彼を襲ったのは突然の土砂崩れ。
 雪が溶けてそれが雪崩の様にユキナリの父めがけて降り注いできたのだった。
「ユキナリ君には、フタバ博士は勿論僕や沢山の人達が味方になってくれるハズです。きっと無事に帰ってこれますよ。ええ、覇者になってね……」
『……ユキナリ、時折電話してね。母さん、貴方の事応援してるから。それに……ホクオウの事も心配なの』
「兄さんはきっと僕より丈夫だし、心配する事は無いよ。僕より常に前を進んでるから、見失う事は無いだろうし」
『そう……父さんを目指さなくても良い、自分なりに信じた道を進みなさい。貴方の未来は私が決めるものじゃ無い。
 解っているから……でも、身体には気を付けてね……』
 母からの電話は切れた。
「きっと、ユキナリ君の事が誰よりも好きなんだよ」
「過保護というか……母さんは心配し過ぎで逆に困る事もある。僕は母さんの事を認めてるつもりだけど……」
 2人の目にセンターが見えてきた。

 ポケモンセンターに到着したホンバ助手とユキナリはまずポケモンを回復用ポッドに入れさせてもらって傷を治した後、センター内に設置してあるパソコンの前に向かっていた。
「パスワードは……」
 ジムバッチを獲得した事を証明する為にバッチをかざす作業や手にいれたばかりの技マシンを預かってもらう作業を行った後、パソコンに預けてある金額を確認する。
『500000』
「ホ、ホントにあった……残金50万円……」
「ユウスケ君の方にも入ってるハズだよ。君と全く同じ絵柄と順番を描いたんだからね」
「ホンバさん、勿論大事に使わせてもらいますよ。あときんのたまをくれた人にもお礼を言いたいです。お金が無かったら、結局くじを買う事も出来なかったんですから」
「さてと……僕はそろそろ出発するかな……」
「え?明日まで一緒にいてもらえないんですか?」
「僕は研究レポートをフタバ博士のもとに持って行かなきゃならないから。シオガマシティで君達に出会えて嬉しかったよ……でも、研究を遅らせるワケには行かないからね」
 ホンバ助手は立ち上がるとニッコリ笑った。
「ユキナリ君、きっと君は凄いトレーナーになれる。マウンテンロードを抜けると次はイミヤタウンだ。メグミさんは地面ポケモン使い……
 ジムリーダーとしての名声も高い人だよ。でも、君なら勝てるさ……」
「ホンバさん!」
「何だい?」
「僕……いや僕達、ホンバさんに感謝してます!色々お世話になりました。フタバ博士と一緒に、これからもポケモン研究、頑張ってください!」
「いや、僕はただフタバ博士の助手として君達を先導したまでさ。本当にお礼を言わなければならない人はきっとフタバ博士だと思うよ……
 これからの旅、もっと苦しくなると思うけど、ユウスケ君もついてる。大丈夫だと僕は信じてるから。じゃあね……」
 ホンバ助手はそのままポケモンセンターの自動ドアを通って粉雪舞う中去っていった。あっという間に姿が見えなくなる。
 (ホンバさん……確かに僕達はフタバ博士のおかげで色々見学出来ましたが、貴方がいなかったら僕達、あの爆破事件で生き残れたかどうか……)
 ユキナリはとりあえずパソコンをログアウトした。ジムバッチ3個目を認定され、今技マシンは3個ある。秘伝マシンを手に入れたいが、何処にあるのか解らない。
 今はとにかくジムに戻った方が良いと考え、ユキナリはセンターを後にした。

夜月光介 ( 2011/05/16(月) 06:31 )