ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− - ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第3章 7話『ダブルバトルの結末』
 ハスボーはそのままスターミーにしがみついたまま浮き上がった。もといスターミーが浮かんだ為一緒に浮く事になった。
 アオイ戦を思い出せばこれは絶好のチャンスである。
「ハスボー、スターミーに乗ったままはっぱカッターだ!」
 ハスボーは頷き、しがみつきながらも身体からよく切れる鋭い葉っぱを生み出し、スターミーにぶつける。
 ハスボーは特に近距離戦での攻撃力に優れていた。相手にしがみついての攻撃は100%当たり、おまけに急所に当たりやすい。
 しかもスターミーはみずタイプである為、一気にHPを削り取られてしまった。
『★☆★!?●○▲△■□……』
 スターミーはそのままプールに向かって急降下していく。
「ヌオー、ハスボーを体当たりで突き飛ばせ!」
 カイトはこれ以上ナギサのスターミーに攻撃させまいと、ヌオーに命令を出しハスボーをジムの壁に叩きつけようとした。
 その命令を受け、ヌオーがハスボーめがけ飛び出してくる。
「ハスボー、もういい!プールに着水しろ!」
 ハスボーはプールの中に潜り、スターミーの頭上を飛んだヌオーはそのまま弧を描いてその後を追った。
 ハスボーの姿もスターミーの姿もヌオーの姿もユキナリ達の視界から消える。カイト達にしてみれば水の中は自分達のポケモンの独壇場。
 一気に形勢を有利にするチャンスとなるだろう。コボクは攻撃力はあるものの、相手が見えなければ当然何処に攻撃していいか解らない。
 しかもこのダブルバトルでは仲間であるハスボーも水の中にいる為うっかり手を出すワケにもいかない。
 トレーナーはただ命令を出すだけで、戦況を確認する事が出来なくなっていた。
「ヌオー、ハスボーに向かってたたきつける攻撃だ!」
 カイトはプールをみつめたが、ヌオーの姿は視認出来ない。

 トレーナーの声が聞こえない深いプールの底。ハスボーは途方に暮れていた。
 とにかく床に戻ろうと泳ぎ始めた途端急に黒い影がハスボーに向かって突進してくる。
 (も、もしかして……さっきのヌオー?)
 その通りだった。光る眼は金色に輝き、水の中での動きは鈍いものの、ハスボーにとっては相当速く感じた。
 尻尾を振り回し、ハスボーにぶつけようとするがハスボーも必死に避ける。犬かきの様な泳ぎ方でなんとか地上を目指して逃げようとした。
 (あれ?向こうで何か光ってる……)
 ハスボーとヌオーが水中戦を繰り広げている場所から2メートル離れた所に光る物体があった。
 ハスボーに手痛いダメージをくらったスターミーがじこさいせいでHPを回復していたのだ。
 (どうしよう、あのまま放っておくとコボクさんが狙われる!助けてもらってるのに、見過ごすなんて出来ない!)
 ハスボーは急旋回してスターミーにとどめをさす作戦へと変えた。その後をヌオーが執拗に追う。

「スターミーの体力が回復してる……」
 ユキナリとユウスケはプールの中に光る影を見つけた。
「スターミーも自己再生を覚えてるのよ!……って自慢してる場合じゃ無いわ。あれじゃ場所が丸わかりじゃない!」
「大丈夫だよ姉さん、僕のヌオーが援護に回るから」
 カイトはプールの中にいるヌオーに呼びかけた。
「ヌオー、プールの外からコボクにスターミーが攻撃されそうなんだ!一旦ハスボーを逃がして、スターミーを守ってくれ!」
 しかし、スターミーの光る影はそこから全然動かない。
「命令が聞こえてないみたいだ……」
「チャンスだよ、ユキナリ君!ここでスターミーに攻撃すればスターミーは倒せる!」
 ユウスケはコボクに呼びかけた。
「コボク、あの光る影に向かって雪吹雪だ!」
『解ったッスよ、マスター!』
 コボクは光る影に向けて枯れ木の波動砲を打ち出した。
「スターミー、避けて!」
 ナギサの願いは無理な相談だった。回復中はその場から動く事は出来ない。そして……
 2つの物体が浮き上がってきた。回復中にダメージをくらって気絶してしまったスターミー。追加効果により凍り付いてしまっている。
 そしてもう一方は……
「ヌオー!命令聞いてたの?逆効果だったのかな……」
 ヌオーはスターミーが盾の役割を果たした為、スターミー程ダメージを受けてはいなかったが、冷たい感触に一瞬気を失い、水面に上がってきてしまったのだった。
「ヌオー、速く水中に戻って!」
 ヌオーは慌てて我に返ると水中へと引き返す。コボクは冷たい風で相手の行動を止めようとしたが遅かった。ハスボーがまだいる水中へ潜った事になる。
「私のポケモンは全滅……後はカイトが頼りね」
 ナギサはしぶしぶスターミーをボールに戻した。カイトはヌオーを残すのみで、ユキナリとユウスケにはコボクとハスボーがいる。
 しかし水中のヌオーを仕留める事は出来ない。ヌオーが一方的にハスボーを狙っている状態だった。
「まだ修行が足りないな、ナギサ。だが俺が見るにこの戦いは負けと決まったワケじゃねえ。チャンスはあるぜ。
 ヌオーが自分の独壇場に他のポケモンを引きずり込めれば勝てる可能性は充分あるだろうよ」
「ユキナリ君、相手のポケモンが1匹でも油断するな!ハスボーはまだ水中にいるんだ!!」
 その通り、さっきの攻撃で浮かんではこなかったもののハスボーはヌオーと同じ水中の中にいる。
 水中での戦いはハスボーにとって圧倒的不利なものだった。
「ハスボー、なんとか逃げて床に戻るんだ!」
 ユキナリはハスボーの姿が見えないので命令する以外方法が無い。

 ハスボーはひたすらもがいていた。床に上がろうとしてもヌオーの攻撃を避ける為に方向を変えてしまい、プールの中程で動くだけの状態が続く。
 (逃げるだけで精一杯だよ……これじゃ、僕の方が不利だ。じきに体力が無くなる……)
 ヌオーは水の中では敵なしと言った感じだった。闇雲に動き回っても全然疲れた様子を見せず、ただ獲物を捕らえて瀕死状態にする為に突進し続けている。
 (なんとかしなきゃ。今プールの上にはコボクさんがいる……ヌオーを水中に引きずり出せばコボクさんにヌオーを倒してもらえるだろう……
 問題はどうやってヌオーを水上に誘き出すかだけど……)
 頭では考えがまとまっているが、逃げる事だけしか出来ず、考えが動きにならない。
 ヌオーはひたすら不気味にハスボーを追い詰め尻尾を叩き付けようとしてくる。
 マスターであるユキナリの命令もこの状態では意味をなさない。孤独な戦いが繰り広げられていた。

 水ポケモンのホームグラウンド……それはまさしく『水中』だろう。
 水中ならば相手側からは何も見えず、ポケモンはまさに水を得た魚の如く縦横無尽に動き回る。
「ハスボー、大丈夫かな……」
「倒れたら浮き上がってくるハズさ。まだ逃げてる……きっと、ヌオーの攻撃を避け続けているんだ!」
「試合の状況が全然解りませんね」
 ミズキの隣にいたホンバ助手はプールを見つめた。深い為、発光でもしない限り影すら見えない。
「いや、そうでもねぇな」
 ミズキは目をつぶり、水の音を聞いた。
「おー、ヌオーの奴結構速えな。やっぱり猫かぶってやがったのか。カイトらしい戦略だぜ……
 おっと、尻尾の振り回しも速いな。だが、相手に避けられてちゃ話にならねえよ。もっと育てた方がいいぜ」
「父さん、やめてよ!」
 カイトはムキになって叫んだ。
「僕達の事、応援してくれないの?そうだとしても、情報公開する様な事しないで!」
「フ……俺はただ水の音を聞いてるだけだ。俺ぐらいさ、水中で何が起こってるのか、水音で判断出来るのは……」
 ホンバ助手は驚いてミズキに質問した。
「み、水音で中の様子が解るんですか?」
「誰が中に入ってるかさえ解ればな。どう動いたとか、どう避けたかも解るぜ。海を長年愛してきたからこその技だ」
「ハスボー……」
『俺っち、中の様子を見てきた方が……』
「コボク、やめた方が良い。ヌオーにはその考えもあるハズだ。心配させて、一気に自分の砦に誘き出そうとしてる。ハスボーだって弱いワケじゃ無い。
 まだ実践経験が足りない……それだけなんだ」
 ユウスケは何も出来ない自分に憤りを感じていた。これはタッグバトル、相手を助けてこそ2人の勝利と言えるのに……
「ユウスケ、僕は充分君に助けてもらってたよ」
 ユキナリはユウスケの肩を叩いた。ナギサもカイトに全てを託している為気が気では無い。
 水面を凝視しようとプールに近づき、転倒してプールに飛び込みそうになる。カイトが慌ててそれを助けた。
「姉さん、心配するのもいいけど。僕にだってどうする事も出来ないんだ。ヌオーを信じて待つしか無いよ!」
(お、動くな……)
 ミズキは水面に急上昇するハスボーの姿を音で捉えていた。

 突然水しぶきが起こり、ハスボーが弧を描く様に飛び出してきた。イルカの跳躍の様だ。
 ユキナリはハスボーの無事を知ると安心した。体力は消耗しつつあるもののHPはあまり減っていない。
 ヌオーは先程のダメージで手傷は負っているもののまだ体力が余りある程ある。ハスボーの後を追って、ヌオーが続けて飛び上がった。
『この一瞬が大事ッスよ!』
 ヌオーに向けて冷たい風を吹きかけ、動きを止めるコボク。ヌオーがひるみ、水中に戻る直前に雪吹雪を放つ。
『でたらめに追うのは……間違い……だったかな……』
 水面が凍り付き、ヌオーの逃げ場所を塞いだ。ダメージを受けそのまま氷の床に着地したヌオーをハスボーが放っておくハズが無い。
 今までのおかえしとばかりに、強烈なタックルをぶちかます。
『ううッ……!』
 ポケギアでのヌオーのHPはゼロになり、その瞬間ヌオーはゆっくりとプールに着水し、プールの底に沈んでいった。
 カイトは位置を確認すると回収ボタンを押しヌオーをボールに戻す。
「うーん、やっぱり無茶苦茶に相手を追い回すのはいくら得意な水の中と言っても無理だったか……」
「結局負けちゃったわね。重点的にコボクを追い詰めた方が良かったのかしら……言い訳しても負けは負けだけれど」
「面白い戦いだったぜ。ナギサ、カイト。よく頑張った。だが……まだ俺のレベルには遠いかもな。
 これからもっと己を鍛え、俺の後継者としての実力をつけろ!戦略はいい、力をつけるんだ。結局は攻撃が全てを決める」
 ミズキは立ち上がると2人に呼びかけた。
「ナギサ、カイト。ちょっと出てくれ。さてと……どっちが先に俺と対決するんだ?」
「ユキナリ君、僕が後でいいよ」
「解った……僕です!」
「ユキナリ君。ついにジムバトルだね。ワクワクするな。僕は今までバトルを間近で見た事が無いから……」
「あんたもだ、あんたも」
 ミズキは追い払う様な仕草をしてホンバ助手を追い立てた。
「そんな……でも、まあ真剣勝負だからね。ユウスケ君も僕と一緒に隣の部屋に行こう。やっぱり邪魔しちゃ悪いかもしれないね……」
「そうだな、お前とは後で勝負するだけで良い。2人だけの戦いだ。他の奴がいると集中出来ん……」
 ミズキはユキナリをじっと見つめた。炎の様な闘志と、水の様に綺麗な冷静さが垣間見える。
(成程……カイト達を倒したのも納得出来るな)
「もう、やっぱりカイトのポケモンが最後まで粘らなかったからよ!」
「違うよ、姉さんのポケモンが最後までいてくれなかったせいだ!あの戦いならスターミーは残せたハズなのに……」
 カイトとナギサは互いを責めながら隣の部屋に移動し、ホンバ助手とユウスケは別の部屋に移動した。
「ユキナリ君、僕も勝つから……頑張って勝って!」
「勿論だよユウスケ、勝ってみせるさ!」
 ユキナリはそう言い、ハスボーをボールに戻そうとしたが……その時、ハスボーが光の渦に包まれる。
「し・・・進化するの?」
 光の渦はハスボーを飲み込み……そして消えた。消えた所にはハスボーとは姿が違うポケモンがいる。
『あれ?何だか身体が大きくなった気がする……』
「ハスブレロ……だな。みずタイプとくさタイプの特殊なポケモンだが……さっきと同じでやたらと白いな、変種ポケモンって奴か」
「ハスブレロ……これからも、よろしくね!」
『よく解らないけど……僕、変われたのかな。随分気分が良いや。飛び跳ねたくなってくる位身体が軽いよ』
 ハスボーから進化したハスブレロは床に移動するとそこら辺りを跳ねたり飛んだりした。ユキナリはハスブレロを一旦ボールに戻す。
「受け取れ、回復アイテムだ」
 ミズキはそう言うと2つのカプセルをユキナリに投げてよこした。
 2つ分……つまり瀕死状態のヒュードロと傷を負ったハスボーを回復させる為のものとして渡したのだろう。
 ユキナリはどちらが瀕死から回復させるものなのかをきちんと確かめ、ポケモンに投与する。
「3vs3バトルだが、ゲンタとアオイに勝ったハズだ。3匹ポケモンを用意出来るんだろうな?」
「ハイ。もう準備出来ます」
「よーし。男と男の勝負だ……容赦しねえぞ!」
 ミズキはプールにモンスターボールを投げる。出現したのは河豚の様なポケモンだった。青い体をしている。
「何だろ、このポケモン……」
『ハリーセン・鋭い針が体中を覆っており、それら全てに毒がある。刺されると全身に痛みが走り人間なら1週間は寝込んでしまう程だ。折れてもすぐ新しい針が生えてくる』
「特殊能力は……」
『ちゆりょく・状態異常になっても、ミサイルニードルを繰り出せば治ってしまう』
「技の名前かな?状態異常にしても意味が無いって事か……とにかく最初は、進化したばかりのハスブレロを選択してみよう……」
 怒った様な顔をして頬を膨らませているハリーセン。みず・どくタイプのポケモンで、その顔が膨れっ面をしている時のミズキにそっくりだった。
 回復させたばかりのハスブレロがプールサイドに姿を現す。
『なんか、自信がついた気がするんだ。全力で頑張るからサポートしてね!』
 進化して随分明るくなった様だ。暗い何時もの弱気な態度は何処へやら。戦う気力充分と言った所だ。
(良かった……とにかく最初は属性有利のハスブレロで出来るだけ押そう。切り札のコエンが使用出来ない分ハンデはあるけど……大丈夫、きっと勝てる!)
 ハスブレロとハリーセン、シオガマシティジム戦1回目の試合が始まろうとしていた。

 たった2人、プールサイドで向き合い真っ向勝負をしようとしているユキナリとミズキ。
 闘志はどちらが上か解らない程ある。つまり後は彼等のパートナーがどれだけマスターと連携して力を出せるかにかかっているのだ。
 ジムバトルはその真っ向勝負の連続だった。ユキナリはそれを何度も体験し、そしてそのコツを少しずつ理解しつつある。
「ハスブレロ……ハスボーの時の特殊能力は『みずけのかれは』だったけど、進化して能力が変わってたりするんじゃないかな……」
『ハスブレロの特殊能力・すいすい水フィールドでの素早さが通常の2倍に変化する』
「やった、これは有利な展開だぞ!」
「モタモタしてねえで早く命令を出した方がいいぜ。ハリーセン、まずは挨拶代わりに『まきびし』だ!」
『おーし、行くぜ!』
 ハリーセンはプールサイドに尖った針の様な物をばらまいた。しかしハスブレロにはダメージを与えない。
「そのまきびしはポケモンを交代する際、そのポケモンに少量のダメージを与える技だ。これはバトル中のみずっと有効で効果が続く。覚えておくんだな」
(このバトルの間は、ポケモンを交換すると僕サイドはダメージを受けるのか……じゃあ、出来るだけ粘るしか無い!)
「ハスブレロ、はっぱカッターだ!」
『解りました、全力で行きますよ!!』
 ハスブレロは流石に俊敏な動きを見せた。矢の如きスピードで草の刃を作り出し、ハリーセンにぶつける。
 しかしハリーセンはダメージを受けたもののそのまますぐ倒れると言うワケでは無かった。
「え?みずタイプにはくさがよく効くハズなのに……」
「ユキナリよ、みず・どくタイプのポケモンだぜ。どくはくさに強い、みずはくさに弱い。つまり相殺してダメージは通常通りだ。
 その代わりハリーセンが持っているどくタイプの技はハスブレロによく効く。普通のハスブレロと違ってお前のハスブレロは『変種』だ。
 くさ・こおり……つまりどくを中和出来ねえんだよ」
(そうか、どくはくさタイプのポケモンに効果的……僕のハスブレロはくさ・みずの技を覚えていくけど、あくまでもタイプはくさとこおり……不利なんだ!)
 ポケギアを見るとハリーセンはHPが減ってはいるがまだ余裕がありそうだ。ミズキはお返しだと言わんばかりに命令を出す。
「ハリーセン、ミサイルニードルだ!」
 ハリーセンは身体を思いっきり膨らませると四方八方にトゲを飛ばした。
 その範囲は広く、水フィールドのおかげで素早く動けたハスブレロにも当たってしまう。
『ぐうっ!』
 かすり傷であるにも関わらずハスブレロは通常より多いダメージを受けたので手痛い一撃となった。ユキナリは頭を抱え、彼の言葉を思い出す。
(ノーマル攻撃は大体のタイプならそれ相応のダメージを与えるんだ。いわとかはがねだとお手上げだけどね)
(ゲンタ……そうだ、ハスブレロにはまだ体当たりがある!)
 こうして素早く動ける利点を生かせば、負ける戦いと諦めるワケにはいかない。ユキナリは叫んだ。
「全体重をかけてハリーセンにぶつかるんだ!」
 ハスブレロはその瞬間プールに向かって飛んでいた。一直線にハリーセンめがけて体当たりしようとする。
 だがミズキの命令によってそれは失敗に終わった。
「ハリーセン、ヘドロこうげきをくらわせ!」
『フッ!』
 口から出した毒の塊がハスブレロの右肩……先程ミサイルニードルの攻撃が当たった場所にヒットした。
『うわああああ!』
 右肩に凄まじい激痛が走り、ハスブレロはそのままプールサイドに倒れ込んでしまう。
「ハスブレロ!う、ダメージが大きすぎる……」
「相性の悪さが命取りになったな。みず・どくタイプはそれぞれの弱点をうまくカバーしている。
 俺はそんなあらゆる状況に適応出来る荒いポケモンを育ててきたんだ。今までのジムリーダーとは格が違うぞ!」
(ゲンタ、アオイさん……)
 2人の顔が脳裏に浮かぶ。
(2人に勝った分だけ、僕は負けるワケにはいかないんだ、最後まで全力をつくす!)
「ハスブレロ、もう1度体当たりだ!」
 ハスブレロはヨロヨロと立ち上がると物凄い形相で走り、ハリーセンに向かって突撃した。
「ハリーセン、懲りないハスブレロに解らせてやれ!どんなトレーナーでも、負けを経験すると言う事をな……」
 ミズキは残念そうな表情でヘドロこうげきをする様命令した。ハリーセンはまた口から毒の塊を吹く。
 ハスブレロは大きく体を反らすとそれを避けた。
『!?何だと、避ける程の体力は無いハズなのに……』
 ハスボーだった時の臆病な戦い方を捨て、今ハスブレロは全力投球で戦いに挑んでいる。その精神力と特殊能力の力がハスブレロを支えた。
 ハリーセンは技を出すヒマも無く体当たりをくらってしまう。
『ブフッ!……』
 見当違いな方向に毒の塊が飛んでいき、壁を汚した。全身全霊のタックルはハリーセンに大ダメージを与えたが、同時にハスブレロの体力を大きく削った。
 巨大な針が身体に何本も刺さってしまったからである。
『ハア、ハア……無駄な戦いには、ならなかったよ……』
 そのままプールに着水するハスブレロ。そしてポケギアで確認するとハリーセンのHPとハスブレロのHPはどちらも限りなくゼロに近い状態となっていた。
 ほぼ瀕死状態だが、戦いをやめるワケにはいかない。
「ハリーセン、着水したハスブレロにとどめをさせ!」
 しかしダブルバトルでハッキリした様に、このプールは深く、潜ってしまったら相手の場所など判別不可能だ。
「仕方ねえ、潜ってハスブレロを探すんだ!」
 しかしハリーセンが潜ろうとした時、水中からはっぱカッターが飛んできた。迎撃され、そのまま倒れてしまうハリーセン。
 仰向けになり、HPが完全にゼロになった。
 まきびしが撒かれているプールサイドにほぼ死にかけのハスブレロが上がる。特に右肩の傷に毒を付けられた為ダメージが酷かった。時折白目をむいている。
「ハスブレロ、大丈夫か?」
『うう……肩の傷が酷くて、ちょっともう限界が近いです……』
(ハリーセンを倒せただけ幸運だ。休んでもらおう……)
 ユキナリはハスブレロをボールに戻した。
「属性をはねのけたのは見事だ。お互い不利とか有利とかがハッキリしてねえな。やはりバトルはギリギリの高揚感がたまらねえぜ!」
 ミズキはとても嬉しそうに笑った。
「血湧き肉躍る戦いってのはよ、何かを背負った奴だけが味わえる特典なんだ。俺は自身のプライドが。
 お前は別の何かがあったからポケモンと協力してハリーセンを倒せた。だがこれ以上お前の格好良い所を見てるワケにもいかねえ。次で大きく離してやるぜ!」
 そう言うとミズキは深海色に輝くボールを握りしめた。
「俺の相棒、荒波に耐えてきたポケモンの強さを見ろ!」
 プールに光が走り、ポケモンが姿を現す。河豚から今度は鮫の様なポケモンにバトンタッチした様だ。
 獰猛そうな目がユキナリの方を向き睨み付ける。
『オイ、お前のポケモンを早く出せ!』
 ユキナリは震えた。身体が凍り付いてしまいそうな大声がポケギアから聞こえてきたのだ。ユキナリは次のポケモンを誰にすれば良いのか考えた。
(このポケモンのタイプを確認しよう……)
『サメハダー・みずとあくタイプのポケモン。シザリガーと言うポケモンに比べると攻撃力が高く、技の種類も多い。
 特にその凶暴さはシザリガーを凌駕している。大型貨物船を集団で襲い、食料を根こそぎ食い尽くす事がある』
(あく……こおり・ゴーストタイプのヒュードロでは分が悪い……ここはどくが使えるノコッチを出そう)
 ユキナリはプールサイドにノコッチを出した。
『イテッ……何だよ、こりゃ!』
 些細なダメージではあったが、まきびしの効果はバトルが終わるまで続く。ノコッチは少量のダメージをバトル開始前に受けてしまった。
「小細工もたまには役に立つな。よし、相手のポケモンも姿を現した、勝負はこれからだぜ!」
 ノコッチがいきなり少し不利になったが、まだ充分取り返せるダメージだ。後は勝負の展開次第だった……

「サメハダーか……」
 ユキナリはポケギアでサメハダーの特殊能力をチェックした。
『鮫肌……サメハダーに相手のポケモンが物理ダメージを与えると相手のポケモンもダメージを受ける』
「とは言っても、まきびしみたいなモンだ。少量だが、常にそれを意識していないと厳しい戦いになるぜ」
 ミズキはサメハダーに命令を出した。
「サメハダー、ノコッチをプールの中に引きずり込んでひたすらかみくだくを使え!」
『解ったぜ、すぐに片付ける……』
 サメハダーはいきなりプールサイドから飛び出してノコッチに噛みつき水中に引きずり込もうとした。
 ノコッチは咄嗟に横っ飛びでそれを避ける。
「ノコッチ、相手がまきびしや特殊能力でちくちくダメージを削るなら、こっちもどくどくで返すんだ!」
『へへ、その命令を待ってたぜ!』
 相手をいたぶるのが大好きなノコッチは、獲物をゆっくり弱らせてから攻撃するのが得意だ。
 早速水中に戻って再度攻撃しようとしているサメハダーに噛みつき、確実に毒状態にする。
『小癪な、弱いヘビの分際で……』
 物理攻撃では無いのでノコッチにはダメージ無し。水中に戻った時点でターンが終了し、サメハダーは少量のダメージを受けた。
「どくどくか……短期決戦を強いられたな。ターンごとにダメージが増していくとなりゃ、うかうかしてられねえ。
 サメハダー、強引な手を使っても良い、とにかくノコッチを水中に引きずり込め!」
『お前如きにこの俺が負けるとでも思っているのか!』
 サメハダーは唸り、ノコッチに向かって突進してきた。しかしこの戦いはノコッチが有利となる。
 ジャンプ力と特殊攻撃であるどくタイプの技が使える為、相手の特殊能力の効果が発揮されないのだ。
「ノコッチ、ポイズンキラーでサメハダーにさらにダメージを!」
 水面から飛びかかってきたサメハダーを避けるとノコッチはサメハダーに噛みつき、猛毒をひたすら注入した。
 しかしどくどくと違いこの毒タイプの技は物理攻撃であった為、ノコッチも軽いダメージを受ける。
「クッ、この戦いは分が悪いぜ……最後の力を振り絞って攻撃中のノコッチを壁に叩きつけるんだ!」
『貴様あああああ!』
 既にハスブレロの様に白目を剥いているサメハダーは怒りが頂点に達していた。
 身体を振り回してノコッチを振り払おうとするが、ノコッチの牙は長くて鋭く簡単に抜ける代物では無い。ポケギアを見ると試合は完全にノコッチが主導権を握っていた。
 だがサメハダーは相手が離れないとしるやそのまま水中に潜った。こうなるとサメハダーは有利になる。
「ノコッチ、水中だと牙が抜ける!急いで戻るんだ!!」
 だがノコッチはひたすら噛み続けた。牙が抜けてもまた新たな部分に噛みつき攻撃を繰り返す。ついにサメハダーは力尽きて水面にプカリと浮かんだ。
『相性が悪かったな……どくどくの効果もあったし、この戦いは俺の完全なる敗北と言った所か……』
 ノコッチのダメージは現在の所まきびしで受けたダメージのみ。この試合はどくに軍配が上がった。
「ノコッチ、まだ戦えるかい?」
『当たり前だ。HPが沢山残ってるってに、おいそれと交代出来ると思ってんのか?冗談じゃ無えや!』
 ノコッチはケラケラと笑った。
(どく……ノーマルと同じく対等な立場で戦えるポケモンが結構多い。確かユウスケが言ってたっけ……
 くさタイプのポケモンはドラゴンにダメージをあまり与えられないけれど、どくならば可能だって。はがねタイプにはダメージを与えられないとか)
「ユキナリ、お前はなかなか良い腕をしてるな。前に来た挑戦者を彷彿とさせる。顔立ちも似ているし……もしかして、お前はそいつの弟か?」
「登山服を着ている背の高い男の人ですか?」
「そう、そんな格好だったな……確か」
「兄さんだと思います。僕達より先に出発してましたから」
「成程、そういや思い出した事があるな……」
「?」
「お前の兄貴……いやお前の父親の方か。俺はずっと前お前の親父とバトルした事があるんだ……」
 ユキナリは父親の事をよく覚えていない。それだけにその言葉に耳を傾けた。
「お前みたいに諦めの悪い奴だったよ……俺はあいつに負けた。俺の方が足掻いたのかもしれねえな。だが一家に負けたとなれば俺の信用もガタ落ちだ。
 俺にだって海をこよなく愛する自信があり、ジムリーダーとして恥ずかしくない戦いをしたいと思っている。最後の俺の切り札は……こいつだ!」
 ノコッチがフィールドに出た状態のまま、ミズキはボールを投げた。プールサイドに姿を現したのは……
『ミズキ、瞑想中に呼び出すとは……どうしたんだ』
「見ての通りだ。挑戦者だよ、ジムバトルをやってる」
『うぬ……流石に私も3連敗はしたく無いのでな。勿論全力で相手をしてやろう。お前の力を見せよ!』
「あのポケモンは……何だ?」
『ニョロボン……サイコパワーとみず、かくとう技を使いこなすエリートポケモン。地球の海を3日間あれば泳ぎ切り、水の上を走って渡れると言われている。
 打撃技と特殊攻撃を使い分け、どんなタイプのポケモンとでも対等に渡り合える実力者』
 真っ青な身体に渦巻き模様が。おたまじゃくしが最強の身体を手に入れた様なポケモンだった。
『私の準備はもう出来ている。お前が始めようとするならば何時でもいいが、少し時間が欲しいか?』
「すいません、ちょっと調べるので……」
『私も短気では無い、素直に待とう』
「オイ、俺は後が無いってのに待つのかよ!こういう時に待たされるとイライラするんだ、俺は!」
『ヘヘ、のんびり行こうぜ。逃げやしねえよ……』
 ユキナリは相手の使う技と特殊能力をチェックした。カビゴン同様、有利な立場だと相手を侮って苦戦してしまった時があるので慎重にならざるを得ない。

ハイドロポンプ
サイコキネシス
れんぞくはりて
ばくれつパンチ

『ニョロボンの特殊能力・みずのバランス……水フィールドでの戦いの際、ニョロボンの出す技全ての命中率が高まる』
(命中率……これはかなり重要だ。特にばくれつパンチは威力が高い技だと聞いた事がある……
 それにみずの最強技とエスパーの常套手段技を身に付けているのか)
 今までのポケモン、ハリーセンもサメハダーも男らしさを感じさせるポケモンだったが、ニョロボンはその佇まいからしてすでに鍛え抜かれている様だった。
 輝く瞳、無駄の無い腕の筋肉。意外と早そうな足……どんな戦いになるのか予想がつかない。

夜月光介 ( 2011/05/11(水) 19:20 )