ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第3章 6話『姉弟との戦い』
 昨日と同じ内装なのは当たり前なのだが、夜と違い、窓から差し込む光が壁に反射してキラキラ光っていた。
 綺麗な光景に2人はビックリしてしまう。
「ミズキさんは何処にいるのかな。それに2人は……」
 辺りを見回していると急に後ろの玄関口が開き、ホンバ助手が飛び込んできた。
「あれ、ホンバさん。どうしてココに?」
「いや、君達がジムに入るのを見たもんだからさ。久しぶりに会えたんだし君達の戦いを是非見ておこうと思って。
 この街で別れたら次何時会えるのかも解らないしね……」
 ホンバ助手はそう言うとニコっと笑った。
「肩に雪がついてますよ、ホンバさん」
「おっと、慌てて駆け込んだせいで雪が余計についちゃったか……それにしても、随分綺麗だね。このジムは……」
 雪を払い落とすと、ホンバ助手は扉の外を眺めた。
「公認ドームが爆破されたせいで、後ろの建物がよく見えるね。ドームの跡地に雪がついて、残骸を隠してしまっている……」
 ユキナリはドーム跡地を見て、心が痛んだ。雪が降り、そのままドームを覆っていく事が耐えられない。
 絶対に忘れてはならないのだ。あの惨劇を。2度とあんな悲惨な出来事が起きてはならないのだから……
「やっと来たか。待ちわびたぜ!」
 ユキナリが振り向くと、ユキナリ達がいる反対側のプールサイドにミズキ、ナギサ、カイトが立っていた。
 3人とも水着に着替えており、気合いは充分の様だ。ユキナリはナギサのビキニ姿にちょっとドキッとした。
 隣のホンバ助手も同じく少しときめいた様だった。
「公認ルールじゃ無いが、俺に勝てるだけの力があるか、試させてもらう。
 前に来た奴は『登山』の腕を認めてそのバトルを無しにしてやったが、何のスキルも無いお前達は別だ。思いっきり戦ってみろ!」
 (兄さんか……)
 何時もホクオウはユキナリの一歩先を歩いている。やっぱり兄は凄い。ユキナリはそう思った。
 (でも、僕もこの関門を突破して、兄さんに追いつくんだ!)
「へへっ、流石に僕達は父さんにはかなわないけど、普通のトレーナーと戦うんだったら充分勝ち目があるよ!」
「水のダブルバトル、私達がトーホク一かもね。ユキナリ君、相方とのコンビネーションを極められるかしら?」
 ナギサが元気に話すのを聞いていて2人は安心した。昨日あれだけショックを受けていたナギサだったが、何とかバトルは出来るらしい。
 カイトとナギサ……公式に行われるダブルバトルは初めての経験だった。
「ユキナリ君、出すポケモンは決まった?」
「そ、それが……まだちょっと迷ってて」
「そ、そんな……あの、ちょっと時間ください」
 ユウスケが呼びかけると、ミズキは顔をしかめた。
「準備万端じゃ無かったのかよ……まあ急に起きてサンド食ったんじゃそれも無理か。なるべく早くしろよ。
 俺だって本当はお前達と早く戦いたくて仕方が無えんだからな!」
 ミズキはカラカラと笑った。剛胆な人物だ。ユキナリは最後の選択を迫られていた。
 (どっちだ、どっちがいい?)
「ねえ、誰と誰にしようって悩んでるの?」
「ヒュードロは決まったんだけど……ハスボーとノコッチ。どっちにしようかまだ……」
「まだノコッチは命令に従う事に慣れてないし、何よりダブルバトルでは勝手な行動が命取りになる。
 ハスボーは気弱だけど、ポテンシャルがあるし何より土壇場での馬力が凄い。ハスボーにした方が無難だと思うな」
 ダブルバトルでは、ユウスケとのコンビプレーが重要視される。戸惑いつつも、ユキナリは素直にハスボーを選んだ。
 この選択が吉と出るか凶と出るかは解らない。
「準備出来ました!」
「オッケー……あ、あと最初に聞いてほしい事があるのよ!」
「何ですか?」
「私達はみずポケモンを使うから、このプールの中にポケモンを出現させるわ。ポケモンはプールから出れない事を覚えておいてほしいの」
「でも、ここで戦う時は何処に移動しても攻撃の射程範囲だからそっちが有利って事にはならないけどね」
「ユキナリ君、今の言葉は重要かもしれないよ。頭の片隅に入れておけば、きっと役立つ」
「うん……それで、君が最初に出すのは?」
「相棒のカレッキー。で、次がボタッコ。」
「ヒュードロと合わせて、昨日ミドリさんから渡されたポケモンを使ってみない?」
「ええっ?それはちょっと……だって、まだ何のポケモンなのか解ってないし……くさポケモンなのは確かだけど」
「だって、ヒュードロをバトルに参戦させるのは今回初めてなんだ。慣れているポケモンとコンビを組ませると問題が発生しそうで……」
「……ユキナリ君がそう言うなら、やってみる」
「有難う!2人一緒に初心に帰ってみるのも良いと思ったんだ。それに……これで勝てれば僕達の腕が上がったって事、確認出来る!」
「おい、何喋ってるんだ。用意出来たんだろ?」
「ハイ、ホントに今は大丈夫です。問題ありません!!」
「信用していいんだろうな……」
 ミズキは不安そうな顔をしている。
「父さん、2人を信用してあげようよ。それに……」
 ナギサはモンスターボールを掴んだ。
「何を相談しても、私達に勝てるかどうか……!」
 ユキナリとユウスケは共にボールを投げ、ポケモンを出現させる。
 ユキナリはヒュードロ、ユウスケは……プールサイドに姿を現したのはモンジャラだった。
「え、ええーっ!?」
「ユウスケ、どうしたの?」
「モ、モンジャラ……か、勘弁してよ……」
「僕達をバカにしてない?そのチョイス……」
 カイトは溜め息をついた。
「モンジャラって……どんなポケモンなんだろう?」
 呆気にとられているミズキとナギサ。ホンバ助手も嘘だろ?と言う表情をしている。
 ユキナリはポケギアの図鑑項目を開くと、モンジャラとはどんなポケモンなのか調べ始めた。

 深緑色をしたモンスターボールから飛び出してきたのは、常識的にはあまり強くないと言われているモンジャラだった。
 ミドリからクロバーの代わりに渡されたポケモンがモジャンボでは無くモンジャラとは……ユウスケはへたりこんでしまった。
 プールの中にはすでにナギサとカイトのポケモンが1匹ずつ、プールの中でバトル開始を待っている。
『モンジャラ・つるくさを体中に巻き付けている為、本当の姿は誰にも見られた事が無いくさポケモン。
 弱いイメージが定着しつつあるが、彼等を真面目に育ててみようと果敢に挑戦するトレーナーは多い』
「出しちゃったんだから、もう変更は出来ないよ」
 カイトは頭をかきながら2人に呼びかけた。
「ユウスケ君……モンジャラはちょっとキツいんじゃないかな……まあ、どんなポケモンでも強くなる可能性はあるけど。
 そのポケモンは育ててあるのかい?」
 ユキナリはポケギアでモンジャラのレベルを確認した。
 (!?)
 ユキナリの目が点になり、そしてまたすぐ元の大きさに戻る。
 (ミドリさん……モンジャラを本気で育ててたんだ!このステータスは最早異常……寧ろレベルが高過ぎてユウスケじゃコントロール出来るかどうか……)
 ユウスケにポケギアを見せると、ユウスケの顔色も変わった。
 (え?こ、これ壊れてない?ホントにこれモンジャラのステータスなの?……技も半端じゃ無いよ……)

リーフブレード
メガドレイン
ギガドレイン
ソーラービーム

 (くさポケモンとしては最強の技『ソーラービーム』を覚えてるし、攻撃力もある。元々弱いモンジャラをここまで育て上げたミドリさんはただ者じゃ無い……)
 やはり、くさポケモン使いで四天王の位置にいる者は育てるポイントもしっかり知っている。そして、玄人好みの選択もミドリらしい選択だった。
 (でも、これじゃ僕の命令を聞いてくれないよ……あくまでこのモンジャラはミドリさんから貰ったポケモンなんだ。
 バッチの効力……8番目のバッチをゲットしないと絶対に制御出来ない。ユキナリ君のポケモンに攻撃しちゃったらどうする?)
 (そ、それは……)
 弱過ぎるのも強過ぎるのもやはり問題だった。モンジャラはジョウトからやってきた正真正銘くさのみのポケモン。
 みずタイプを相手にすれば、圧倒的有利なのは間違いない。命令を聞いてくれれば、だが。
「とにかく、ヒュードロとコンビを組ませて戦わせるしか無いよ。ミズキさんもイライラしてるし……」
 プールサイドの方ではしかめっ面をしているミズキを、カイトとナギサが必死に諌めていた。
 (もうちょっと待ってあげて、これはトラブルなんだから……)
 (何時になったら戦いが見れるんだ。遅過ぎるぞ!)
「それで……モンジャラをバトルに使うのかい?」
「仕方無いですよ。でも勝算は充分にあると思います」
「え?それ、どういう……」
 ホンバ助手はモンジャラが普通のトレーナーに育てられていない事は知っていたが、そこまで鍛えられていたとは解らなかった。ただ、2人が負けない様祈っているだけだ。
「ホントに今度は大丈夫です。始めましょう!」
「もう問答無用で行け!すぐに倒してやるんだ!!」
 ミズキは相当気が短い様だ。
「それじゃ、行くわよ!」
「OK、ナギサ姉さん!」
 プールの水面から姿を現したのは、いわとみずタイプを併せ持つサニーゴと、でんきが効かないじめんタイプを持ったナマズンだった。
 どちらもプールの外に出る事は出来ない。
「ヒュードロ、初めてのバトルだろうけど、大丈夫かい?」
『別に問題は無いと思うよー。だって僕、野生だった頃からバトルには慣れてたしー……』
 ヒュードロはフワフワ浮かびながら笑った。
 ポケギアでヒュードロの特殊能力をチェックすると『くうちゅうていし・じめんタイプの技を受けない』と説明が出てきた。ナマズンには有効そうだ。
 ユウスケのモンジャラを見ると、『つるくさがくれ・みずタイプの技がきかない』と書いてある。
 (こ、コレは有利だけど……でも、サニーゴはいわタイプの技も、ナマズンは地面タイプの技も使ってくるだろうからノーダメージってワケにはいかないだろうな……)
 最初に動いたのはユウスケだった。
「モンジャラ、サニーゴにリーフブレードだ!」
『何を言っているのかね君は。君はまだ私を使いこなせる力を持ち合わせていない。充分に力が上がったら命令を聞かんでもないが……』
 喋り方でも中身の判断が出来ない。流石モンジャラ。しかし、悠長に構えてはいられない。何としてもモンジャラに攻撃してもらわなくてはならないのだ。
「お願いだよ、ジムリーダーとの勝負がかかってるんだ!」
『私には何の関係も無いよ。少しはミドリ君を見習いたまえ。君と違ってくさポケモン使いとしてはエリア1だ。そこまで君が辿り着けるかどうかすら疑問だがね』
「そんな事を今問題にしてるんじゃないんだ!」
 ユウスケは叫んだ。
「ユウスケ、モンジャラがやる気になってくれるのを待つしか無いよ。とにかく、今はヒュードロに任せるしか無い!」
『じゃ、軽く行ってみよーかー』
 ヒュードロは息を吸い込むと、大声で奇声を発した。
『ケケケケケケケーッ!!』
 その大声はジム全体を震わせ、ジムの中にいる人間全員が耳を塞ぐ程の大音響だった。耳がキーンとする。
「『ハイパーボイス』だね……今度ヒュードロを出す時は耳栓した方が良いと思うよ」
「……五月蠅かったけど、私のポケモンはノーダメージね」
 何とサニーゴは先程の大声にも関わらず悠々と泳いでいるではないか。ユキナリは驚いてポケギアを見た。
『サニーゴの特殊能力・みずのベール……ノーマルタイプの攻撃がきかない』
 そして、ナマズンも効いてはいなかった。
『ナマズンの特殊能力・うすらバカ……メロメロ状態にならず、音を使った攻撃が効かない』
「そうか……ハイパーボイスは音を使った攻撃だから、ナマズンには効かないのか……」

ハイパーボイス
ナイトヘッド
シャドーボール

「捕まえたばかりだけど結構覚えてるね……」
「ナイトヘッドは使わない方が良いよ。レベルが低いうちは役に立たないから……」
 という事は、このバトルではシャドーボールしか使えない事になる。
 (ユウスケのモンジャラは動いてくれないし、シャドーボールしか使えないなんて!)
 ユキナリは心の中で一人叫んだ。問題山積みのダブルバトルが始まる……

 ダブルバトルはとにかく素早さが勝負の鍵となる。自分が相手にいかに早くダメージを与えて弱らせるかだ。
 最初に動いたのはヒュードロだった。
「ヒュードロ、サニーゴに向けてシャドーボールだ!」
 ヒュードロは手を回し、漆黒の球を作り出すとサニーゴに向けて投げた。先制攻撃といわんばかりに派手にヒットする。
『なかなかやるわね、でもこんな攻撃じゃ倒れないわよ!』
 ポケギアからサニーゴの言葉が聞こえてくる。
「ん?誰が喋ったんだ、今……」
 ミズキは首をかしげた。ホンバ助手が説明する。
「フタバ博士とウツギ博士が開発した新しいポケギアです!図鑑機能、ラジオ機能、テレビ電話機能の他にポケモンとのコミュニケーションシステムを内蔵しています!!」
「ポケモンの言語を翻訳するのか?」
「ええ、平たく言えばその通りです」
「ほう、こりゃ面白い。俺のポケモンの言葉も聞けるってワケか。貴重な戦いになりそうだな……」
 ミズキはニヤリと笑った。
「どうしたカイト、お前は攻撃しないのか!」
「父さん、そんなに急がなくても大丈夫だよ、ナマズンには……これがある!」
 ナマズンはプールの底に潜ると、自分の身体を振動させた。その振動はジム全体を揺らし、プールの水も波が立つ。
『やるじゃない、私は水面にいるからノーダメージよ』
 全ての地上にいるポケモンにダメージを与える技、地震。モンジャラはダメージを受けたが、常に浮いているヒュードロは対象にならない。
 ユキナリはこのチャンスを利用した。
「ヒュードロ、シャドーボールを連続してサニーゴに当てるんだ!」
「サニーゴ、バブル光線で弾き返してしまいなさい!」
 漆黒の球と大量の泡が飛び出し、そして両者共にすり抜け、ダメージをくらった。
『もー。相殺した方が楽だったかもしれないなー……』
「サニーゴ、大丈夫?」
『限界が近いわ……自己再生させてもらうわよ』
 そう言うとサニーゴは身体を光らせた。身体の傷が修復し、サニーゴの表面が輝きを取り戻していく。
「まずいよユキナリ君、サニーゴはじこさいせいを覚えるんだ。体力の半分だけHPを回復するんだよ!」
「ヒュードロ、回復をチャンスを与えるな、一気に畳みかけるんだ!」
「姉さんの邪魔をしようったってそうはいかないよ。ナマズン、冷凍ビームだ!」
 ナマズンは水面に浮かび上がると、サニーゴを狙っているヒュードロに向かって氷の光線を出してきた。
 ヒュードロは咄嗟に避けるが、シャドーボールは出せず、結局サニーゴは回復を終えて元気になってしまう。
「ねえ、お願いだから攻撃して。1回だけでもいいから!」
 そう、モンジャラは強かった。しかしあまりの強さにトレーナーの言う事を全く聞いてくれない。ミドリはユウスケに試練を与えたのだろうか……
『そんな事を言われても、私には関係の無い話ですね。もっとも、貴方が私を使いこなせると言う証があれば別なのですが……』
 8番目のジムバッチであるダークバッチ……それを手に入れた瞬間、モンジャラが命令を聞くと言うのだろうか。
「遅すぎる、それじゃ遅すぎるんだよ!」
 ユウスケは憤慨した。しかし、今ハッキリしている事はモンジャラが扱えないと言う事。HPがやたらと高い壁をバトルに出している様な物だ。
 こうなっては、2番目に出すハズだったカレッキーを出現させるしかこの現状を打破する方法は無い。
「戻れ、モンジャラ!」
 モンジャラをボールに戻し、今度はカレッキーの入っているボールを投げる。
 その頃、ユキナリの相棒ヒュードロは、ただただ防戦一方だった。逃げて逃げて逃げまくっている。
 サニーゴはいわなだれ、ナマズンは冷凍ビームで役に立っていないモンジャラを見逃し、一気にヒュードロを倒してしまおうと言う作戦だ。
『何とかしてよー、マスター……』
「僕にも良い考えが浮かばないよ、相方が全然役に立ってくれないから……」
 ユキナリは今更自分の思いつきを後悔した。
 (僕があんな事を言わなければ、カレッキーとボタッコ、頼れる2匹がバトルに参戦してくれたのに……)
「ちょこまかと動き回るわね、狙いを定めて!」
「僕と姉さんのポケモンが同時に攻撃すれば、確実に当たるよ!」
 ヒュードロは防戦に疲れ始めていた。だんだん逃げ足が鈍くなっていく。このままでは……
「サニーゴ、いわなだれ!」
「ナマズン、冷凍ビームだ!」
 一斉にヒュードロに向かって発射される2つの攻撃。
「ヒュードロ、何とか避けてくれ!」
『無理だよー。だって……もう力が……』
 その時、黒い影が冷たい息を吐いてナマズンとサニーゴの標準をずらした。気を取られ、別な方向を向いてしまう2匹。間一髪でヒュードロは瀕死を逃れた。
『俺っちの事を忘れてるんじゃ無いッスか?』
「ユウスケ!」
「カレッキー、有難う!おかげでユキナリ君のポケモンを助ける事が出来たよ!」
『じゃ、挨拶代わりに俺っちが新しく覚えた新技、やってみまス!』
 カレッキーは全身を痙攣させ、雪の渦を作った。雪のついた葉っぱが出現し、その渦の中から飛び出してくる。
『ゆきくさトルネード、俺っちが覚えた新技ッス!』
 コヤマタウンジムリーダーとの戦いと、ナオカタウンジムリーダーとの戦いによって得た経験値……それはカレッキーに新たな力を授けていた。
 凍った草は刃物の様に鋭く、ナマズンとサニーゴの頬を削り傷を作った。HPの減りも大きい。
『何だ、寒くて……痛いぞ……』
 鈍感なナマズンもこの攻撃は通じたらしい。サニーゴもあまりのダメージにまた自己再生を始めようとしている。
『そして、最後はピジョットさんとの死闘で覚えた……』
 カレッキーはかめ○め波の様なポーズをとった。
『この草吹雪で勝負を決めるッス!』
 カレッキーの掌(枯れた枝)から一気に凍り付いた葉っぱと雪の結晶が大量に飛び出してくる。
 それは2匹に同時に攻撃出来るタイプの技で、勿論サニーゴとナマズンは先程の技同様、ダメージを受けてしまった。
 タフなナマズンは耐えたが、サニーゴは自己再生出来ず、気絶してしまう。
 ユキナリがポケギアを見るとサニーゴは瀕死状態となっていた。
「か、カレッキーも強い……サニーゴのHPがゼロになってる……」
 ナギサは呆気にとられ、しばらくサニーゴをボールに戻す事が出来なかった。カイトも優勢の状態から一気に奈落の底に突き落とされたのを信じられずにいる。
「ナギサ、油断は禁物だと言っただろうが。相手の力量を下と見るな、上として戦えと何度も言っているのに……」
「で、でも父さん、今のは変わりすぎでしょ?」
「モンジャラからカレッキーにバトンタッチした所を確認しなかった2人にも問題があると思いますよ!」
 ホンバ助手は適切に2人の問題点を指摘した。
「これで、同等って事……いえ、こちらが不利ね……モンジャラは扱えていないから瀕死と同様。カレッキーとヒュードロ、ヒュードロは手負い。
 控えポケモンはユキナリ君の1匹。こっちはナマズンが大ダメージでカイトの控えポケモンが1体残っているわ……」
 ナギサはサニーゴをボールに戻すと、カイトの方を見た。
「出来るだけ粘って頂戴。盾になって!」
「ナマズンは姉さんのサニーゴと違ってタフだからね。あと2回位は耐えられるかな……正確なとこはまだ解んないけど」
 ナギサが出現させたのはスターミーだった。水面、水中、空中と幅広い攻撃範囲を持つナギサの十八番。
 カントーではカスミが使い手として有名なポケモンである。ユキナリはポケギアで特殊能力をチェックした。
『スターミーの特殊能力・こうそくかいてん……水面にいる間のみ、毎ターン素早さが少しずつ上がっていく』
 (〇〇の技属性が効かないよりも手強いかも……水面から空中に移動させる方法を考えなきゃ)
『君、やるねー』
『助けてもらっておいてその言い方は無いッスよ……とりあえず、パワーアップした俺っちの力をとくと見るッス!』
 カレッキーはユキナリの想像を超えた力を見せつけていた。ユキナリの見ていない所で、確実にカレッキーは力を付けてきている。
 その力は何処まで上がるのか、予想もつかなかった。仲間としては心強いが、敵としては厄介な存在になりそうだ。
 (今、コエンと戦わせたらカレッキーが勝つかもしれない……もっと、色んな人と戦って経験値を得るべきかも……)
「スターミー、サイコキネシス!」
 雪辱と言わんばかりにナギサのポケモンが動いた。カレッキーに向けて未知なるパワーを送る。
 カレッキーはその攻撃を受けたが、対したダメージでは無かった。攻撃があまり効かない属性技なのだ。
『雪草トルネード、もう1回行くッスよ!』
「ヒュードロ、シャドーボールで先にナマズンを倒しておくんだ!」
『解ったよー。ちょっと次のポケモンが気になるけどー……』
 ダブルバトルはまだ終わらない。

 ヒュードロはシャドーボールを繰り出し、ナマズンに向けて発射した。動きが鈍いナマズンはその攻撃を避けきれない。
 それに加え、カレッキーはもう1度雪草トルネードを出し、相手ポケモン2匹共に大ダメージを与えようとした。
 しかし、回避能力に優れたスターミーはすぐにそれを避けてしまう。ナマズンはシャドーボールと合わせたダメージでようやくダウンした。
「あちゃー、マズイね。姉さん……」
「もうちょっとマシな育て方しなさいよ。アンタのポケモン、何時もノロマなんだから!」
「攻撃力と防御力、体力を重点的に増やしていったら回避と素早さがどうしても上がんなくてさ……」
 カイトは苦笑いをしながらナマズンをボールに戻した。スターミーは空中でも水中でも、その攻撃範囲はとても広く、また攻撃を避ける事に適しているとも言える。
 おまけに特殊能力のおかげでどんどん移動スピードが向上しているのだった。
「ユキナリ君、長期戦に持ち込ませるとこっちが不利になるよ!」
 (結局、プールの外にも出れるんだ……)
 ユキナリは悔しがった。水がかえって移動を阻害するのではないかと期待していたのだが……どうもスターミーの場合は違う様だ。
『ん?何か……変ッスよ?』
 急にカレッキーが光り出した。光の渦がカレッキーを取り巻き、完全に姿を隠してしまう。
「進化だ。進化が始まったんだ!」
 ホンバ助手はポケットから小型カメラを取り出した。
「進化の瞬間、僕あまり見た事無いんですよ!」
「俺はあるね。相棒達の進化は見てきたし、俺が進化させてやった事もあるぜ」
 ミズキはそう言うとカレッキーを見つめた。
『力が増した気がするッス、結構動きが軽いッスよ!』
 光の渦が消え、カレッキー……いや、コボクが姿を現した。カレッキーを一回り大きくした様な姿をしており、枯れ枝の数がさらに多くなっている。
 体色は白樺の様な純白に近づきつつあった。
「コボクだ、やった。進化したんだね!」
『マスター、これからも俺っちと一緒に頑張るッスよ!しっかし進化って言うのは随分気持ちが良いモンスね……あと1回は味わえる事位自分でもよく解ってるつもりスけど』
「コボク、か……」
 ユキナリはポケギアの図鑑項目でコボクを確認していた。
『コボク・雪が降ると力が増すと言われている古木ポケモン。枯れ木林の中に隠れてしまえば、もう誰もコボクを見つける事は出来ない。
 俊敏さと聡明さを兼ね備えており、素人のトレーナーにも従順に接する。明るく優しい性格』
「厄介ね、こんな時に進化しちゃうなんて……」
「まずは、あのヒュードロを片づけた方がいいみたいだよ!」
 カイトは水色のボールを取り出すと、プールの中に投げ込んだ。閃光と共にポケモンが姿を現す。
『ココは……何処?』
「今トレーナーと戦ってるんだ。ダブルバトルで」
『そうなんだ。ボク、お昼寝中だったのに急に起こされちゃったから、凄く眠いんだけど……』
 ナギサは口をポカンと開けたまま固まってしまった。
『だけど、カイト君がそう言うなら……』
 ぬまうおポケモンであるヌオーはプールの中に潜っていった。
「あれ、どうなのかな……」
「解んないけど……戦えるの?あれで……」
『ヌオー・泥水の中でも平気で泳げるタフな身体を持つ。ビーバーの様にダムを作り、巣の中で昼寝している事が多い。
 非常におっとりとしているが、水中での動きは極めて速く、侮れないものがある』
「水中での動き……」
 その時、プールの中から鉄砲の弾丸の様に飛び出してきた影がヒュードロに向かって水を吹きかけてきた!
『えー、ちょっと待ってよ!』
 その水の勢いは凄まじく、ヒュードロはそのまま壁まで飛ばされ、背中を……いやゴーストなので壁を突き抜け、視界から消えた。
「き、消えちゃった……」
 慌ててユキナリはヒュードロが何処に行ったのかと外に出る。
『派手に飛んだッスね……』
 ヌオーはすぐ水の中に潜り、姿を隠してしまった。スターミーは空中に浮きながらチャンスを伺っている。
 ユキナリはすぐに戻ってきた。その手にはモンスターボールが握られている。
「やっぱり……ダメだった?」
「気絶してたよ。よっぽど強力な攻撃だったみたいで、痙攣しながら泡吹いてた。壁には当たらなかったのに……」
 とにかく、攻撃出来るポケモンは双方同じになった。ユキナリが次に出すハスボー、そして今ユウスケが出しているカレッキーもといコボク。
 そして対するナギサの本命スターミーとカイトのヌオーである。スターミーとヌオーはタイプが全く違った。
 スターミーは特殊攻撃とその素早さを利用して矢継ぎ早に攻撃をしてくるタイプで、ヌオーは動きは遅いが必殺の攻撃力を秘めている一撃必殺型のポケモンだ。
 ユキナリがハスボーを出すと、ホンバ助手は真剣な表情でバトルを見ようと背筋を伸ばした。
「ココで負ける様じゃ、俺とポケモンに挑戦するだけの力を持ち合わせていねえって事だ……進化したのもその1つ。
 力が強くても、使い方を間違えれば勝てねえ。さて、どちら側のポケモンが残るか……見物だな」
 ミズキは腕組みをしてニヤリと笑った。どちらを応援するでも無い。ただ戦いを純粋に見て楽しんでいるのだ。
 勝負と言うのは自分で勝ちに持っていく儀式である。同時に敗者は何も言えず消えていく運命にある。
 負けに持っていってしまった以上、それは仕方が無い事なのかもしれない。
『あ、あのさ……ユキナリ君。ダブルバトルって何?』
「君とコボクで戦うんだ。相手も2匹で挑んでくる」
『コボク?』
「カレッキーから……あ、ハスボーはカレッキーと戦った事無かったっけ。とにかく、今は仲間なんだ」
「共同戦線って奴なんじゃないかな。ハスボー、僕とコボクも頑張るから、出来るだけ協力してほしい」
『うん、出来るだけ……頑張ってみるよ』
 攻撃力と防御力の無さが目立つものの、地上での運動神経は目を見張るものがあるハスボー。
 避けて攻撃と言ういささか卑怯っぽい戦法を使うしか無いが、ハスボーはまさにその様な戦いで勝利する為に存在しているポケモンだった。
「スターミー、ハスボーに向けてサイコキネシス!」
 回転しながらハスボーに近づき、強力な未知の力をくらわそうとするスターミー。しかしその為には、スターミーがハスボーに近づく必要があった。
「コボク、草吹雪でハスボーを援護するんだ!」
 ユウスケに命令され、コボクは喜んでその命令を実行しようとしたが……
「ヌオー、プールから飛び上がってたたきつける攻撃!」
 ヌオーはまたいきなりジャンプして尻尾をコボクめがけて振り回してきた。俊敏では無いが、瞬間の速さがある。
 その証拠にコボクが慌ててそれを避けると、ヌオーはスローモーションの様にゆっくり水中へと潜っていったのだ。
 ヌオーのせいでコボクはハスボーを援護出来ず、ハスボーが何とかしなければならなくなった。
「ハスボー、何とか避けるんだ!」
 しかしハスボーば逃げ回ってもターゲットに標準を合わせたかの様にスターミーは確実な勢いで追いかけてくる。
 ユキナリは逃げるだけではまたボタッコ戦の二の舞になると思い、作戦を変更した。
「ハスボー、スターミーの上をジャンプして避けるんだ!」
『え?ま、またジャンプするの?イヤな予感が……』
 ハスボーは走りながら宙返りしてスターミーの攻撃を避けようとしたが、逆にスターミーの身体の上に乗ってしまった。
 コレは何かのシチュエーションに非常に似ている。何の時だっただろうか。
 とにかくハスボーが上に乗った瞬間、スターミーは動きが止まったと思ってサイコキネシスを発動した。
 間一髪だったが、ハスボーがピンチである事に何ら変わりは無い。ミズキはそれをただじっと眺めていた。

夜月光介 ( 2011/05/02(月) 19:11 )