ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ− - ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第3章 2話『ナギサとカイト』
 ユウスケがトロピウスを捕まえてから、数時間が経過した。草叢で自転車のサドルにまたがっていると、遠くから声がするので振り向く。
「ユウスケ、ポケモンは捕まった?」
「うん、一応……ね」
「こっちも大漁じゃ!」
 ユキナリと一緒に歩いてきたタイコウは肩にかけていたクーラーボックスを開け、ユウスケに中身を見せる。
「うわぁ……凄いね……」
「半分以上はユキナリ君が釣ったポケモンじゃよ」
 タイコウは調子が出なかったと言って笑ったが、ユキナリは確信していた。この釣り竿のおかげであると。
 魚をおびき寄せる何らかの力が働いているのかもしれない……
「ワシも年を取りすぎた……誰かに釣り竿を受け渡したいと常々思っておったんじゃ。君はまさに後継者に相応しい!」
 ユキナリは『海神の釣り竿』を見つめていた。何故だが、貰っておいた方が良いと思い始めていたのだ。
 (僕も自分の勘を感じる……この先きっと必要になる気がするんだ……この釣り竿は!)
「本当に、貰ってもいいんですか?」
「男に二言は無い。持っていってくれ!!」
 タイコウはクーラーボックスを閉めると、歩き始めた。
「そろそろ家へ帰るとするかの。お前達、精一杯頑張るんじゃ。何が起きても自分を信じて立ち向かうのじゃぞ!」
 鼻歌を歌いながらタイコウは歩いていき、そしてシオガマシティの方角に向かって消えていった。
「あのお爺さん、僕達と方向が同じみたいだね……」
「そりゃそうだよ。だってあのお爺さんはシオガマシティに住んでるんだから。さっき聞いたじゃない」
 ユキナリは押して歩いてきた自転車に乗った。
「それじゃ、シオガマシティに向けて出発だ!」
 2人はそのまま草叢を自転車で走って抜けた。別の道を通ったのだろうか、タイコウ老人の横をすり抜けていく事は出来なかった。
 そして日が暮れた頃、2人は港街『シオガマシティ』に辿り着く。

「潮の香りがする……」
「ユキナリ君見て、海だよ!」
 夕焼けから夜に変わっていく空……そして海。とても美しい海だった。降る雪が海に落ちて消えていく。
「とにかく、ポケモンセンターに向かわなきゃ……」
 自転車を走らせ、2人は無事ポケモンセンターに到着し、そのまま自動ドアを開けて中に入る。
「やっぱり建物の中は暖かいなあ……雪が降ってる外とは大違いだ。暖まるよ……」
 ユウスケは手を揉み合わせて暖かさを実感した。
「やあ、やっと来たね。朝からずっと待ってたんだよ!」
 奥から1人の青年が姿を現した。短パンにサンダル。ボサボサしている髪の毛と顎髭。2人には彼が誰だかすぐに解った。
「ホンバさん!」
「久しぶりだね。もう1年位会ってなかったかな?君達のプロジェクトの下準備に走り回されてもうクタクタだよ……でも、そんな事言ってられない。
 明日のイベントには僕も凄く期待を寄せているからね」
 ホンバ助手はにこやかに笑った。
「ホンバさん、明日本当に四天王達が来るんですか?」
「ジョウトのウツギ博士から報告があってね。それで、フタバ博士の命令でここまで来たってワケ。
 ま、どこもかしこも寒いけど、この街は特に寒いね。海が近くにあるせいだと思うんだけど……」
「ジョウトとホウエンの四天王とチャンピオンがココにやってくるなんて、信じられない……夢みたいだ!」
 ユキナリとユウスケも当然彼等の事を知っていた。どちらのエリアのチャンピオンも女性に人気がある美男子で、トレーナーとしての腕も一流。
 四天王も勿論それ相応の実力を持っている事だろう。
「明日3人でシオガマシティのリーグ公認ドームへ行こう。時折大会があったり、こうやって討論する場にもなる所なんだ。
 とりあえずジムリーダーに挑戦するのはそれを見てからでも構わないだろう?」
「はい、勿論です!」
 2人は声を揃えて賛成した。
「じゃあ、今日はゆっくり休んで、寝る事にしようか。宿舎へ行こう。リーグ公認の宿舎にね」
 (あれ?リーグ公認の宿舎って、確かジムの裏手に設置されてるんじゃ無かったっけ……?)
 ユキナリとユウスケは顔を見合わせた。シオガマシティに来たら、まずジムリーダーと会う事になる。
 それは承知していたハズなのだが……2人共スッカリ忘れていた。

 センターを出ると、もう空は真っ黒だった。雪が降ってくるのは解る。街灯に照らされた通りを歩くと、大きな青色の建物が見えてきた。
「あれがシオガマジム。リーダーのミズキさんとも話をつけてあるから、今夜はここでゆっくり休むと良いよ」
「え、ホンバさんも一緒に寝るんでしょ?」
「いや、僕はリーグ挑戦者じゃ無いから……センターの人に寝袋を貸してもらって夜を過ごす事にするよ。
 禁止されてる事をしちゃ、また博士に怒鳴られちゃうからね……」
 ホンバ博士の笑いはさっきと違い引きつっていた。
 (大変なんだな、ポケモン研究の博士助手って言うのは……)
「この小屋がそう……あれ?明かりが付いてるぞ。ミズキさんが気を利かしてくれたのかな。とりあえず、君達を中に入れないと……」
 ホンバ助手は小屋のドアに近づき、ノブに触った。そのまま何も言わずにドアを開ける。
 2人も(人がいるのかな……?)なんて言う考えは、寒さのせいで考えられなくなっていた。夜は特に寒い。
「ホラ、ココなんだけど……なかなか内装もいいね。スッキリしてて……シンプルイズベストって所かな」
 2人を中に入れると、ホンバ助手は外に出た。
「じゃあ、明日……また朝になったらセンターで会おう」
 ドアが閉まり、2人はやっと落ち着く事が出来た。
「ハア……疲れがどっと出たな……」
 ユキナリはベットに倒れ込み、ユウスケは床にへたりこんだ。
「待ってる間も寒かったよー。遅過ぎるって!」
「僕だって、湖の中央で釣りしてたの辛かったんだけど……」
 お互いに相当疲労している様だ。ユキナリのリュックの中には釣り竿、ユウスケの腰部分には新しい仲間がいる。
「……」
 色んな事を考えていたが、頭が回らなくなってきた。シャワーも浴びずにそのまま寝てしまおうかと思った時……

 ゴトゴトッ……ゴトッ……
 急にベットが揺れだしたのだ。激しい揺れに飛び起き、慌てるユキナリ。
 いきなり起こされた様なものなので、地震かどうかも確認せずにとりあえずベットの下に逃げ込んだ。隙間があり、そこに入れば落下物から身を守る事が出来る。
「ユキナリ君、一体どうしたの?」
 物音にビクッとして辺りを見回していたユウスケはベットの下にいるユキナリに声をかけた。
「地震だよ、地震!僕が寝そべってたベットが突然揺れだして……」
「え?部屋は何処も揺れてないよ?」
 ユウスケはそう言うと視線をベットの上に向けた。
「へへっ、驚いた?」
「うわあっ!!」
 ベットの上には見知らぬ少年が座っていた。セーターに長ズボン、至って普通の格好をしている。
「き、君は誰?」
「僕はカイト。シオガマシティジムのリーダー、ミズキ父さんの息子なんだ」
 ユキナリもベットの下から抜け出て、カイトを見上げる。2人とも座り込んでいたので、ゲンタよりも少し低い身長であるカイトを見上げなければならなかった。
「ポケモントレーナーでしょ?最近全然トレーナーがココに泊まらないモンだから、時々僕やナギサ姉さんが遊びでココに泊まるんだけど……
 丁度重なっちゃったみたいだね」
「イタズラされちゃったってワケか……」
 ユキナリは溜め息をついた。
「でもまあ、シャワーも浴びずに寝るのも汚いしね……背負ってきたリュックの中には2人分の着替えもあるから、洗濯機でもあったら洗って乾かせるんだけど」
「洗濯機なら宿舎の中にあるよ。僕や姉さんも洗い物が多過ぎる時に使ってる。僕が大見得きって言える事じゃ無いけど、使っても大丈夫だと思うよ」
 ユキナリは頭を振るって、立ち上がった。
「何処行くの?」
「シャワーを浴びてくるよ。出たらすぐ部屋に戻るから……」
 そのまま扉を開けて、渡り廊下に出ようとした時、ユキナリは誰かとぶつかって尻餅をついた。
「もう、カイト!部屋を出る時には合図してって何度も言ってるでしょう!!……え?」
 頭を押さえて立ち上がったのは高校生位の女性だった。シャワーをついさっき浴びてきたのか、首にタオルをかけ、シャツからは湯気が立ち上っている。
「そっか、トレーナー用の宿舎だしね、ココ……父さんに挑戦しに来たんだ、アンタ達」
 彼女はニヤリと笑うと、ユキナリの背中を押した。
「ハイ、行った行った!どーせシャワーなんでしょ?アンタが出る前に私が食事でも作っておくわよ!」
 ユキナリはそのまま追い出される様に部屋を出るとシャワー室へと向かった。
 (なんか、男勝りって言うのかな……元気な人だ。アオイさんとは随分違うなぁ……)
「私はナギサ。父さんと一緒にジムの跡継ぎになる為、一生懸命訓練をしてる。弟のカイトとは、一応跡継ぎ争いみたいな事になってるのかな」
「姉さん、いい加減に諦めなよ。僕の方がずっと上手く水ポケモンを使いこなせるんだから!」
「そんな事、アンタが決める事じゃ無いでしょ!」
 ナギサに小突かれ、カイトは大袈裟に痛がった。
「水ポケモン使いのミズキさんなら、僕も本なんかで見た事はあるけど……実際に会う事が出来るなんて思ってなかった」
 ユウスケは彼が写真の中で白い歯を見せて笑っていた事を思い出していた。
「父さんはね……私やカイトなんかよりずっと水ポケモンと一緒に頑張ってきた。
 水っていうか、父さんはスケールが大きくて、何時も『海のポケモン』を使いこなしてるって言ってる。
 荒波に負けない位、強くて立派なポケモンと一緒に戦ってるんだってね」
「うん、父さんは凄い。僕達じゃとてもかなわないよ。同じ水ポケモン同士の戦いなら、他の水ポケモントレーナーが尻尾を巻いて逃げ出す位強いんだから!」
「うわ……」
 ユウスケは驚いたが、心を出来るだけ落ち着かせた。属性的にはあくまでもユウスケの草ポケモンが有利。
 草タイプの技を繰り出せばそれだけ多くのダメージを与えられるハズだ。
 (僕も、ユキナリ君も……きっと、この関門を突破してみせる。いや、突破しなきゃいけないんだ!)
 不意に、ナギサが立ち上がった。
「夜食作るってさっき言ったでしょ。ココの名物、海鮮焼きそばでも作ってあげようと思ってさ」
「姉さん、僕も作るの手伝っていい?」
「別に構わないけど……アンタはどうする?確か……ユウスケ君、だったっけ?」
「え?僕、貴方に名前言いましたか?」
「違うよ、ホラ、アンタの持ってきたリュック。『ユウスケ用』って、名前が書いてあるじゃないか!」
「あ、本当だ……気が付かなかったよ」
 フタバ博士が入れたのだろうか。どうしようか考えようとしたその時……
 ユキナリが部屋に置いていったポケギアが鳴り出した。シャワー室に行くのには必要無いと思ったのだろう。
 電話に慌てて出ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『ユキナリ君?ユキナリ君、いるの?』
「フタバ博士!」
『あら、ユウスケ君じゃないの。ユキナリ君は?』
「ユキナリ君は今、シャワー浴びてて……」
『今何処にいるのか心配でね。ちょっと電話してみようと思ったんだけど……こんな遅くに、迷惑だったかしら?』
「いえ、大丈夫ですよ。別に……」
 何時の間にか部屋の中にはユウスケ1人しかいなくなっていた。ナギサとカイトも待つ気がしなくなったのだろう。
 ユウスケはとりあえず、フタバ博士に近況報告をする事にした。シオガマシティに着いた事を……

 ユウスケはフタバ博士に、これまでの経過を報告した。手短に話したつもりだったが、結構長くなってしまった様だ。
『貴方がゲットしたのは、それで全部ね?ユキナリ君が新しくゲットしたのは、ヒュードロとノコッチ……
 ゴーストとどくに秀でているポケモンで、扱いやすいタイプだと思うわ。運と選択が良いわよ』
「ユキナリ君、どんどん僕より先に進んでるみたいで、ちょっと追い抜かされちゃうかもしれないのが怖いです」
『大丈夫よ、ジム戦を順調に勝ち抜いているのなら貴方はまだユキナリ君に離されてはいないわ。
 問題は、短期間であそこまで腕を上げた彼に貴方がどうスキルを与えるか。才能があっても、それを引き出せなければ意味が無い……
 知識豊富な貴方なら、きっとユキナリ君の強さを引き出す事が出来るハズよ』
「でも、どうやって?僕が教える事なんて、もう……」
『まだまだ多くの事を教えていないと思うわ。それは旅の途中で自然と解るハズ。バトルだけじゃない、ポケモンとのコミュニケーションもそう。
 バトルもまだ本格的なルールに入ってはいない……これからよ。焦らないで。時間は沢山あるんだから……』

「良い気持ちだったなー……」
「あれ、ユキナリ君。意外と出てくるの早かったね。」
「そうでもないよ、時計を見れば解るさ、ホラ」
 ユウスケが時計を見ると、もう20分程経過していた。
『ユキナリ君、私はもう寝るわ。明日はホンバ君と一緒にドームへ向かいなさい……彼等から得る物はとても多いわ。
 貴方達が目指す肩書きを既に手に入れている者達……いえ、2人が目指す地位にいるのはあの2人ね。それじゃ、おやすみなさい……』
 ポケギアは切れ、電子音が鳴ってそれも止んだ。
「あれ、フタバ博士から電話あったんだ」
「うん、僕が捕まえたポケモンを報告したんだけど……」
「とにかく、空いたんだから入っておいでよ」
「そうだね、明日は僕達にとって大切な日になりそうだし」
 大切な日……そう、ユキナリとユウスケは生まれて初めて『自分達の目指す力を持つ者』に出会えるのだ。
 それで興奮しないワケが無かった。ユウスケがシャワーを浴びに部屋を出ていった後、ユキナリはその事をずっと考えていた。
 (今の僕達には手が届かない人……バッチ6つも離れている、いやさらに4人分離れている人。それがチャンピオンとなった人達……
 世間から認められ、実力は凄まじい……そう、僕達が目指している人達に会えれば、何かが、きっと何かが変わると思うんだ!)
 少々残念だったのが、会談に参加するのがジョウトとホウエンのメンバーだと言う事だ。
 トーホクリーグのメンバーが来ていれば、どんなタイプを使ってくるのか解ったのだが……
 ユキナリはベットの上に座り込み、壁に背を預けた。ドアを叩く音がするので応えると、さっき会った2人が部屋の中に戻ってきて賑やかになる。
「シャワー入ってきたの?綺麗だったでしょ、水が。うちの宿舎は特に水に気を遣ってるから」
「違うよ。気を遣わなきゃ水ポケモンジムの宿舎だと思われないからでしょ?汚かったら話にもならないしね」
「コイツ、何時も余計な事を!」
 ポカッと1発殴ると、カイトは頬を膨らませ、舌を出した。
「まったく……あれ、さっきの眼鏡の男の子は?」
「ユウスケは入れ違いにシャワー浴びに行きましたけど」
「それじゃ、この子にコレ、渡しておいて。貴方の分もあるから……」
 ナギサは床の上にビニールをかけた皿を置いた。
「さっき作ってた夜食用の海鮮焼きそば。2人分作っておいたんだけど、良かったらどうぞ」
「手伝いなんかいらないとか言っておいて、結局一番食事を作るのに貢献したのは僕の方じゃないか!」
「五月蠅いわねいちいち……あ、そうだ!貴方達、明日のリーグ交流会、見に行くの?」
「ハイ、ホンバさんと一緒に……シオガマシティの公認ドームでやるらしいですね。凄い楽しみにしてます」
「私も!だって、普段絶対会えないダイゴ様の顔が解る絶好のチャンスなんだから!」
「ダイゴ……?」
「知らないの?ホウエンリーグのチャンピオンだよ。姉さんが惚れてる鋼タイプの猛者。ホウエンでは敵無しって言われてるけど、アカギとは良い勝負かもね。
 アカギは地面タイプだったっけ……」
「鋼タイプか……まだその属性のポケモンとは戦った事が無いなぁ」
「鋼は火に弱いけど水には強いよ。相性は悪い。だからこそ姉さんも憧れちゃってるんだろうなぁ。姉さん、自分より強いトレーナーが好きだから」
「何よ、悪い?」
 ナギサがカイトを睨み付けると、カイトは大人しくなった。
「とにかく、明日は私達もドームに行く事にしてるの。父さんからも承諾をもらったし、別に街の中なんだからどうって事も無いわね」
「父さん、いちいち外出する度に何処へ行くんだ?って聞いてくるんだよね。姉さんは別に構わないけど、僕はイヤだよ。そんな年齢じゃ無い」
 (逆だろ……)
 ユキナリは口達者なカイトに呆れてしまった。ナギサが憧れているダイゴと言う男はどんなチャンピオンなのだろうか?彼の立っている位置……
 それは誰もが求める理想の場所だ。彼に成り代わりたい者が一体何人、いや何万……エリア全土にどれ程いる事だろう。
 ユキナリとユウスケもその大勢の中の2人にしか過ぎない事を、2人共重々承知していた。勿論、諦めたワケでは無い。現時点では、大勢の中の2人だ。
 (何時かきっと、僕もチャンピオンになれる。そう、もっと強くなりたいんだ。ポケモンと一緒に!)

 ユウスケがシャワー室から戻ってくると、2人は焼きそばを食べ、歯磨きをしてから眠りについた。
 ジムリーダーの子供2人はジム内に設けられているそれぞれの部屋で眠る為に宿舎を出ている。
 2人はそれぞれ思い思いの夢を見た。しかし、悪夢では無かっただろう。
 彼等の目指すべき人物に出会えると言う期待が、彼等の嬉しそうな寝顔に現れていた。
 夜中……1人の不審人物が寝静まったシオガマシティにやってきた。迷彩服に身を包み、頭にはスカーフを巻いている。大きな黒いリュックを背負っていた。
「ヘヘッ……随分聞いてたよりでっかい建物じゃねえか。これなら相当大きな花火になりそうだぜ……」
 男はリーグ公認ドームに向かって歩き始めた。不気味な笑みを浮かべながら……

 次の日の朝……2人は朝早くポケギアの電子音で目を覚ました。寝ぼけ眼で何時かを確認するとポケギア内蔵のデジタル時計は6時を示している。
「こんな朝早くから行くの……?」
「とにかく、センターに行こう……!」
 2人は欠伸をしながら宿舎を出て、センターへと向かった。部屋にリュックを置き、鍵をかけ必要な物だけを持ってセンターの玄関口に着く。
 中に入るとホンバ助手が2人を出迎えてくれた。
「いやあ、ゴメンゴメン。こんな朝早くから呼び出しちゃって……」
「まだ朝の6時ですよ?何でこんな早く……」
「ただドームに行くだけじゃ勿体無いだろうと思ってさ。この街は見る所がいっぱいあるんだ。
 昼過ぎから四天王達の会議があるんだけど、それまでにラジオ塔とデパートを回ってみよう!」
「シオガマデパート……ですか?」
「そう。トーホク最大のポケモン商品販売所だよ。色んな所から買い物客が連日来る程品揃えが豊富らしいからね。」
「ユキナリ君、僕どっちも行ってみたいよ!」
「やっぱりそう言ってくれると思ってたよ。余裕を持って回りたかったからね。たまには勝負続きで疲れた心を休ませる事も大切だ……って博士も賛成してくれたし」
「じゃあその前に、保管場所からきんのたまを引き出しておかなくちゃ!」
 2人はパソコンの前に座ると、それぞれの管理場所からきんのたまを引き出した。ホンバ助手が背後にいて、画面に助手の姿が映るのはなかなかに面白い。
「君達、これは何処で?」
「おじさんのポケモンを助けたお礼にって、貰ったんです。丁度2人で1万円分あります」
 (何時かはポケモン大好きクラブの会長さんにもお会いしてみたいなぁ……)
 ユキナリはあの中年男性の言葉を思い出していた。
 (きっと歓迎してくれると思うよ!)
「ホンバさん、ポケモン大好きクラブには寄れますか?」
「うーん……今からだとちょっと時間に余裕が無いなあ。ドームに着く為にはちょっと早めに切り上げておかないと……」
 ユキナリとユウスケは顔を見合わせた。今回は残念だけど、諦めておこう。無言のうちに2人の意志は同じ意見となった。
「ポケモン大好きクラブは結構色々な街にあるんだ。また別の街で寄ってみれば良いと思うよ」
 ホンバ助手はフォローを入れつつ、リーダーの様に振舞っていた。
「とにかく、最初は『トーホクラジオ塔』へ行こう。君達がお世話になっているラジオ番組の人達がいる所だ。挨拶をしてもバチは当たらないだろうしね……」
 3人は揃ってセンターの外に出る。

「わ、昨日よりちょっと寒い……かな?」
「そうだね。昨日よりかほんのちょっと寒いかも……」
 勿論雪は降っていた。太陽はまだ出ていない。センターを出てすぐにでも、これから行く建物が3つ全てハッキリ確認出来た。
 丸い『リーグ公認ドーム』、尖った屋根の『トーホクラジオ塔』、巨大なマーケット『シオガマデパート』が見える。
「まずはラジオ塔へ行こう。あそこは朝からでもラジオ番組の収録をしているからね」
 3人はうっすらと雪が積もっている地面を歩いた。足跡が6つ、点々と歩行者道路に残っていく。
 ユキナリ達以外に街を歩いている人達は見かけられない。やはりまだ皆夢の中なのだろう。少し霧も出ていて、静まりかえった街を歩くのは不気味でもあった。
 ラジオ塔には徒歩10分程度で到着する。自動ドアを通ると、受付嬢らしい女性が挨拶してきた。
「ようこそ、トーホクラジオ塔へ!」
「どうもどうも、局長さんはいますか?」
「ええ、Dr.フタバから連絡があり、皆様の到着を待ちわびておりました。すぐココに到着すると思いますが……」
 そう言って受付嬢が奥の廊下を見ると、暗がりからスーツと山高帽に身を包んだ老紳士が現れた。
「貴方がホンバヨシトさんですか?」
「ハイ、こっちはプロジェクトの担当者であるユキナリ君とユウスケ君です」
 そう言うとホンバ助手は2人の肩を叩いた。
「これはこれは、ようこそトーホクラジオ塔へ!ワシは局長のソクホウ。皆に喜んでもらえる事をモットーに日夜活動しておりますよ!」
「お、おはようございます!」
 2人は威厳たっぷりな紳士を目の前にして緊張してしまった。
「ハハハ、そんなに力まないで挨拶しなくてもいいよ。
 ココは君達みたいな、ポケギアのラジオ番組を活用してもらっている子供にこそ見ていってもらいたい施設なんだ。
 沢山の人達の笑顔見たさにこのラジオを続けてもう何十年になるかな……初めてこの塔が立って放送が始まったのは私の曾祖父の代からで……」
 ニコニコ笑いながら色々な事を説明してくれている局長の言葉を聞き逃すまいと、2人は懸命に神経を集中させていた。
「局長さん、DJさん達は上にいるんですか?」
 ホンバ助手がそれを止め、質問した。
「……ああ、そうでしたね。見学してもらわなくては。ユタカとセカイは2階、エミとヨーコは3階にいますよ。
 今エミとユタカが休んでいて、セカイとヨーコは仕事中です。まあ、すぐ解るでしょうけれど……」
「じゃあ行こうか、2人共」
「あ、はい……」
 ガクガク状態のまま2人は奥の階段を上った。
 (凄い優しいお爺さんみたいだったけど、やっぱり誇りがあるんだろうなあ、そういうのが感じられるんだよね……)
 ユウスケは汗をかいていた。今まで、何気なく聞いていたラジオ番組だと言うのに、威厳ある局長に会っただけでスタジオがどうなっているのか無性に気になってきてしまう。
 ユタカは『ヒットナンバーチャート』、エミは『ポケモンくじ』、セカイは『トーホクぶらり旅』、そしてヨーコは『ジョバンニ先生&ヨーコのポケモン塾』の担当DJだ。
 ジョバンニ先生はジョウトの人間だから、ジョウトから通信しながら番組に参加しているのだろう。
 2人は初めて、自分達が聞いているラジオ番組を作っている側の人達に会う事になる。

夜月光介 ( 2011/04/13(水) 13:35 )