ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

小説トップ
ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第2章 5話『光の残影・白騎士ウォリック』
「私がカオスに入る前……今から数年前の出来事だ……私は何の事は無い普通の虫ポケモントレーナーだった。
 大学に通い、勉学とポケモンバトルに励み……恋に落ちた。彼女は清楚で聡明で、大学では高嶺の花だった。
 だが私は彼女への気持ちを抑える事は出来なかった……自然に彼女と会話し、何度か会う度に私達の距離は縮まっていった。
 そして……付き合う様になった。大学を卒業したら、彼女と私は同棲生活を始め、結婚すると誓い合っていた。
 どんな時も私達2人は一緒だった。あの、悪夢が起きた時までずっと……」
 セイヤのハンサムな顔が怒りに歪んだ。
「私と彼女はポケモンを連れて山登りをした。あの時季節は夏……山に降る雪も穏やかなもので、私達は何の苦労もなく涼しい山頂へ登る事が出来た。
『凄い、海や、私達の住んでる街もハッキリ見える!』はしゃぐ彼女に向かって、私は微笑んだ……その時、黒い影がいきなり彼女を捕まえた。
 彼女が空に連れ去られる。私はポケモンを出し、彼女を助けようとボールを投げたのだが……既に手遅れだった。
 黒い影がオニドリルだと解った瞬間、彼女は崖下に向かって落ちていったのだ……!!」
 セイヤはその光景を思い出してでもいるのか、身を震わせ、涙を流している。
「ポケモンが、私のかけがえの無い恋人を奪った……オニドリルは飛び去り、私は崖下に向かったが彼女は助からなかった……
 叩きつけられた衝撃で、彼女は複雑骨折し、酷い出血を起こして死んでいた。その苦しみと痛みと死など、誰が与える権利があろうか!
 私は激昂し、むせび泣いた。何故、彼女が死ななければならないのか、彼女が死んだと言う現実から逃げたい気持ちもあった……
 だが、私の心の中では憎悪の念が渦巻いていたのだ!」
 セイヤはユキナリを睨み付けた。
「その後私はアズマ様と出会い、共にポケモンへの復讐をしようと誓った。2度と悲劇が起こらぬ様、人間がポケモンを奴隷として扱えば全ては解決する。
 野生のポケモンも、人に飼い慣らされたポケモンも同じだ!ポケモンは平気で人間の命を奪う。そんな獣を、人間のパートナーとして扱えると思っているのか!!」
 ユキナリは驚愕し、言葉を完全に失っている。彼の言葉に嘘は無い……これ程までの憎悪の理由がハッキリ解った。
 恋人を殺された復讐心からだったのだ。だが、ユキナリ自身、ポケモンをどうしても否定する事は出来なかった。
「それでもお前は、ポケモンを信じると言うのか……それも良いだろう。だが覚えておけ。これ以上カオスに関わるな。お前に解らぬ崇高な理想の為に我々は活動している。
 首を突っ込むのなら命の保証は出来ん。我等に賛同すると言うのなら、話は別だがな……」
「セイヤさん。貴方の気持ちは、痛い程解ります……でも、ポケモンは道具じゃ無いし、奴隷でも無い!
 その出来事があったからと言って、ポケモンを酷使するのは人間のする事じゃ無いと思うんです!!」
「偽善者め。何時かお前も気付く日が来る。ポケモンと人間の共存など、不可能なのだと言う事が……」
 その途端、ユキナリ達のいる部屋の地面がグラグラと揺れ、3人は振動で動けなくなってしまう。
「な……何なんだ?この揺れは……」
「ユキナリさん、この揺れは……地震じゃありませんよ!」
 突如部屋の床が壊れ、先端に金属製のドリルが付いている乗り物が姿を現した。セイヤはそれに飛び乗ると、ハッチを閉める。
『ひとまず退却させてもらおう。お前達のポケモン、確かに全て奪わせてもらった。カオスの理想の為に、我等が総帥アズマ様の為に使われるのだ。
 有難いと思うがいい……』
 そのまま乗り物は地中に潜っていってしまった。振動は小さくなり、やがて静寂が訪れる。
「あの乗り物、相当大きかったね……」
「きっと、下っ端連中もあの乗り物で一緒に逃げたんだと思います。街の皆さんのポケモンを取り返す事が出来なかった……お詫びの言葉もありません……」
 アオイはうつむき、泣きそうになった。
「大丈夫、僕達が何とかするよ。成り行きから考えれば、僕達がポケモンをあの人達から取り返すべきなんだ。
 それに……僕自身、あの組織が気になる。奪ったポケモンをどうしているのか……そして、『アズマ様』とは誰なのか……
 僕は、確かめたい。あの人達の本意を!!」
「ユキナリ君……」
 ユウスケは不安を隠す事が出来なかった。
「でも、関わったら命の保証は出来ないって……」
「あの人達の存在を知ってしまった以上、黙って関係無いフリをするワケには行かないよ。僕達はフルサトさんとの約束を果たさなきゃいけないんだ……
 必ず、ナオカタウンの皆が可愛がっているポケモン達を元の場所に返さなきゃ!」
 ユキナリの決意は固かった。それに、セイヤの哀しい顔が、どうしても気にかかったのだ。彼の心に深く刻まれた傷……
 それを治せるのならば治してあげたい、そんな思いが頭の片隅にあった……

 案の定、アオイを先頭に部屋を出ると、カオスの下っ端はいなくなってしまっていた。
 廊下の真ん中に大きな穴が開いていた事からして、ほぼ間違いなくあの乗り物に乗り込んで一斉に逃げたのだろう。セイヤと共に……
 アジトの入り口と化していた井戸の真下に辿り着くと、井戸の壁に縄梯子が用意されていた。何処かの家からフルサトが持ってきたのだろうか。
 そんなに丈夫な縄梯子とも思えなかった。
「1人ずつ順番に井戸の外に出ましょう。井戸から出たら合図を出して、次の人が安全に渡れる様にしてくださいね」
 アオイはそう言うと、最初に縄梯子を上り始めた。別にユキナリとユウスケからの異論も無く、まず最初にアオイが井戸の外に出る。
「大丈夫かい、ユキナリ君!ユウスケ君!」
 井戸の上からフルサトの声が聞こえてくる。
「私はもう渡りきりました、次は2人の番ですよ!」
「ユキナリ君、僕が先に上ってもいいかな」
「うん、別に構わないけど……渡りきったらちゃんと合図を出してね。この縄、あまり丈夫じゃ無さそうだし……」
 ユウスケが縄梯子を上り始め、姿が見えなくなる。その間、ユキナリは先程のセイヤの告白を思い出していた……
 ポケモンに、しかも聞いていた者の1人、アオイが使用している鳥ポケモン、オニドリルによって彼の恋人が死んだ……
 一体、何故そんな事になってしまったのだろうか?意味もなくポケモンが人間を襲うなど、考えられない。
 餌と間違えて彼女を掴み、餌では無いと認識して落としてしまったのだろうか……?疑問は尽きなかった。

 ユウスケからの合図で、ユキナリは縄梯子を使い、井戸の外へ出た。外へ出るとフルサトがユキナリにねぎらいの言葉をかけてくる。
「心配していたんだよ……地震が起きたからね。3人共無事で良かった。井戸の下に埋まってしまうのでは無いかと気が気じゃ無かったが……本当に良かった!」
 フルサトは彼等が無事に生還した事がよほど嬉しかったらしく、嬉し涙をこぼしていた。本当に優しい人だ。
「それで、私達のポケモンはどうなってしまったの?」
「そうだそうだ、井戸の下で一体何があったのか、説明してくれよ!」
 自分勝手な大人達は3人の心配をせず、むしろ自分達の飼っているポケモンの心配ばかりしている。
 動転しているのは解るが、いくら何でもあんまりじゃないかとユキナリは思った。
「まあまあ、3人とも無事だったんだし、きっと疲れているだろう。ゆっくり休ませてあげなければ……その後、私が話を聞いて、皆さんに伝えますから」
「フルサトさん、お願いしますよ」
「どうなったのか、全然解らないんですからね!」
 フルサトは溜め息をつきながら、ユキナリ達を自分の小屋へと連れて行った。雪は全く止まない。

 ナオカタウンの入り口近くにある育て小屋の中……ポケモン達がいる居間で3人は休んでいた。
「寒かっただろうね、井戸の下は空気も澱んでいただろうし……ほら、暖かい牛乳だよ。寒い時にはこれが一番さ。」
 フルサトはボーっとしているユキナリ達が体を預けているテーブルにコップを置いた。湯気が出ている。
「有難うございます……」
 ユキナリは寒さの為か、急に疲れが出てきた様だ。ユウスケもアオイも、しばらく何も喋らなかった。
「何があったのかよく解らないけど、大変だったみたいだね。皆に話すのは体力がもたないと思って、ここで私だけに話してもらおうと思ったんだ。
 私も、ポケモン達がどうなってしまったのか気になるしね……」
 暫く牛乳を飲んでいると、少し喋る元気が出てきたらしく、ユキナリは重い口を開いた。
「井戸の下が改造されていて、アジトになっていました。噂だけかと思っていた『カオス』の隠れ家になっていて……
 僕達がある部屋に入るとセイヤさんがいました。カオスの幹部で……ポケモンは転送装置を使って全てホウのいる別の場所に送ったと言っていました。
 僕とセイヤさんはポケモンバトルをして、僕が勝って……それでカオスの部下達もセイヤさんも退却してしまいました。
 一緒にいたユウスケも後から来たアオイさんも、それを見ていましたから……確かです」
「うん……そうだったよね。でも、やっぱり……街の皆に話すのはよくないと思うんだ。悪戯に皆を刺激すると、パニックが起きるかもしれないしね」
 ユウスケも話に参加してきた。アオイも元気を取り戻したらしく、毛布にくるまってはいたが喋り始める。
「でも、ショックでした……セイヤさんは私が愛用している鳥ポケモンの、オニドリルに恋人を殺されたって言ったんです。
 それでポケモンを恨んで、カオスに入ったと、そう言っていました。私、本当に辛くて……信じたく無いんです。私の大好きな鳥ポケモンがそんな事をしたなんて……」
「アオイ君、そのセイヤと言う人物が言った事がもし本当の事だったとしても、哀しみにくれる必要は無いんだ。君は、君の道を歩めばいい。
 自分の鳥ポケモンを信じる事だ。それが出来なければ、君は自分を越えられない」
「フルサトさん……」
「ユキナリ君、やっぱりこの人……ナオカタウンジムリーダーのひこう使い、アオイさんなんじゃ無い?」
「うん、さっきから確認は出来なかったんだけど……やっぱり、この人がジムリーダーみたいだね」
「あれ?……そうか、そう言えばアオイ君は君達にハッキリした自己紹介をしていなかったね。アオイ君、この2人に、改めて自己紹介をしてあげてくれないかな」
「ハイ……ユキナリさん、ユウスケさん。私の名前はアオイ。ナオカタウンジムリーダーです。
 鳥ポケモン……つまり、ひこうタイプのポケモンを極める為にずっと、ジムで鍛錬を続けています」
「鳥ポケモン……ポッポとか、スバメとかだね」
「貴方達は、私に挑戦する為にこの街へ?」
「はい、ユウスケと一緒にリーグに挑戦したいんです。だから、アオイさんとポケモンバトルをしなきゃ……」
「バードバッチを手に入れられない。そうですよね……ユキナリさんの実力、先程の戦いでよく解りました。ゲンタさんを倒した実力、確かに感じられます。
 でも、私も兄さんの意志を継いでジムリーダーになったからには、どんな戦いにも勝ちたい!挑戦者が来ても、絶対に負けるワケにはいかないんです!」
「アオイ君の腕はお兄さん譲りだからね。アオイ君のお兄さんが今ホウエン四天王だと言ったら、アオイ君の強さも解るだろう。
 事実、今まで沢山のトレーナーがバードバッチを掴もうと挑戦しにこの街を訪れたが、皆ことごとく去っていった。彼女のポケモンを愛する力は、凄いものだよ……」
「ユキナリさんが戦いたいと言うのなら、その挑戦、喜んで受けましょう。でも、私は負けませんよ!」
「ユキナリ君、アオイさんは……少し前僕達と合流してたよね。その時、きっとカオスの部下達に囲まれたハズ……強い事は、僕にもハッキリ解るよ」
 そうだった。ユキナリにも彼女の強さが伝わる。彼女はたった1人でセイヤの部屋に戻ってきた。その間、何人のトレーナーとバトルしたのかも解らない。
 その全てに勝利したのなら、それはゲンタをも越える実力だと言う事だ。ユキナリはアオイを見つめた。
 (僕とあまり歳は違わないみたいだけど……やっぱり僕には無い相当な決意が読みとれる。僕が勝てる相手なんだろうか?)
「私の体力が回復したら……ユキナリさんも万全の準備で私に挑んでください。きっと、白熱した戦いになるんでしょうね……
 ちょっと、怖い気もしますけどとても楽しみです。貴方と勝負出来る事が!」
 アオイはそう言うと静かに微笑んだ。フルサトも2人のトレーナーの勝負が気になる様だ。ユウスケも彼女に挑戦してバッチを手に入れたい挑戦者の1人。
 既にホクオウはバッチを手に入れて街を後にしている。ユキナリはアオイとの勝負に勝ち、兄と同じ位置まで進んでいく事が出来るのだろうか。

 ユキナリ達がフルサトの小屋で話し合いをしている頃……
 カオスの部下達とむしポケモン使いの冷徹なる青年、セイヤはカオスの地面専用兵器『モグタンク』の中に入り、一路地中を掘り進んでいた。
「ミサワタウンまではあと何時間で到着する」
「燃料もフルに入っていますから、あと数時間もあれば到着出来ます。アズマ様に作戦の成功を告げたら、次のポケモン捕獲作戦に移りましょう」
「作戦成功……か」
 セイヤは屈辱的な気持ちになっていた。
 (あの少年……奴に負けただと?カオスの幹部である、このセイヤが?
 あんな正義を盾にする小僧を前にして、私が敗れてしまうとは……何者なんだ?奴は……)
 彼は昔の自分と戦うのを嫌っていた。ユキナリはまさにあの頃の汚れを知らない、純粋なポケモントレーナーだった。
 だからこそ、セイヤはユキナリに負けた事を悔やんでいたのだ。
 (昔の私に負ける事こそ屈辱……あってはならん事だ。私に疑問はいらない……ただポケモンを捕獲し、アズマ様に喜んでもらえるのならば、それで良いではないか。
 トーホク全土を制圧した暁には、カントー、ジョウト、ホウエンに乗り込み全てのポケモンをカオスの奴隷にする……
 それがカオス幹部になった者の務めだ。余計な感情は不要!)
 セイヤが考え込んでいる時、急に前方のガラスに光が差し込んできた。
「何だ、こんな地中に光など差さないハズだぞ!」
「前方に、何者かがいる様です!」
「構わん、押し潰せ!」
 しかし、強烈な光が差し込むと、いくらスピードを上げてもモグタンクは全く進まない。
「何が起こっているんだ、誰か外に出て確認しろ!」
 セイヤは怒鳴り、部下達に命令を下した。

『その必要は無い。我が行っている事だ』
 機械的な声が響き、セイヤは振り向いた。部下達をポケモンで倒し、ただそこに立っている男。
 純白のマント、衣服に身を包み、顔の半分、丁度目と鼻が見えない程の兜を付けている。
「誰だ、貴様は!」
『我はウォリック。サカキ様の恨みを晴らしに参上した。ロケット団と長年争い、邪魔ばかりしてきたお前達のせいでロケット団の団結は乱れた。
 ロケット団が壊滅してしまった後も、お前達はのうのうと組織であり続けた。それは我が許さぬ。悪の名のもとにお前達を道連れにする!』
 ウォリックはマントを翻し、セイヤを睨み付けた。
『カオス3幹部の虫ポケモン使い、セイヤ……我はまずお前を倒す。勝負から逃げる事は許さぬぞ。サカキ様に代わり、我が組織を壊滅させる!!』
「フン……噂には聞いていた。ロケット団の残党が、我々の事を逆恨みして滅ぼそうとしていると……
 ロケット団大幹部光の騎士ウォリック。貴様はひかり使いか。逮捕の恐怖を恐れて逃げ回っていた様な男に何が出来る……
 私に勝つだと?面白い、その挑戦受けてやろう!」
『恨みの力を知らぬお前には我の力量が解らぬのだ……同じ悪に身を染めた者同士、どちらが上か確かめろ!!』
 ウォリックはポケモンを出してきた。セイヤもそれに応じる。
「誰なんだアイツは?」
「俺は聞いた事があるぜ。ロケット団の連中が根こそぎ捕まった時、奴だけはあまりにも強くて警察を蹴散らしたあげく、逃げ去ったらしい……
 誰なのかも解らない、謎の騎士なんだ」
「ドルガス、カミーユとか言う幹部と同等の位置に立っていたらしいね。何でも、ロケット団総帥、サカキの信頼を1番に受けていたらしいよ。
 壊滅してサカキが逮捕された時も、ウォリックを守って捕まったって言う噂が立った位だからさ……」

 一方ユキナリ達は完全に体力を回復した。
 フルサトは街の皆に事情を説明しに行き、ユキナリとユウスケ、アオイは(2人は自転車を押して)ジムに向かっていた。パラパラと雪の降る中を歩く。
「ここが、私の兄さんが管理していたナオカジムです。今は私が引き継いで、ジムを守っています」
 コヤマタウンのジムと違い、こちらは全体的に水色が目立っていた。『ひこう』タイプの象徴が水色なのを考えると妥当な建物の色なのだが。
 自転車を置いて鍵をかけると、2人はアオイに案内されてジムの中に入った。
 ジムの中に入るといきなり美しい光に包まれ、ユキナリは咄嗟に目を瞑ってしまう。
「あ……青空……?」
 ユウスケがそう思ってしまったのも無理は無い。壁は水色、そして天井には青空が描かれている。トーホクでは決して見る事の出来ない美しい青空。
 雲などは動き出しそうな程リアルだ。ユキナリは目を疑った。
「天井にこんな綺麗な青空が描かれているなんて……」
「兄さんが描いたんです。絵の才能があった兄さんは、昔画学生で、そのまま画家として生きようとしたんですがポケモントレーナーとしての才能を買われてリーグに挑んだら勝ってしまったんですよ。
 そのままズルズルとチャンピオンからジムリーダーになってしまって……兄さんはそれを忘れるかの様に突然ハングライダーをやり始めました。そして……」
 アオイはそこで言葉を止めた。ユキナリとユウスケには言葉を止めた理由が解っていたので何も言わなかった。
「とにかく、私は兄さんの描いたこの青空が大好きです。小さい頃、カントーで見た青空と同じ様なこの色……
 私も、ひこうポケモントレーナーになりたいと思ったのはこの絵を兄さんが見せてくれた時でした。そして……どうせならひこうポケモンを極めたいと思ったのも!!」
 アオイはユキナリの方を向いた。
「ユキナリさん、貴方の強さ……私にも解ります。でも、兄さんのジムを継いだからには、絶対に負けたくない。ずっと負け知らずだった、兄さんの様に!」
 そう、ユキナリはアオイと戦い、バードバッチを手に入れる為にジムに来たのだ。正直、勝てるかも解らない戦いだが、ユキナリは勝負を延ばしたくは無かった。
「僕も、精一杯自分を偽らない戦いがしたい。強さを求めて生きている、オチさんの様に!アオイさん、ジムバトル……挑戦させてください!!」

 ジムバトルが始まろうとしていた頃、セイヤは呆然としていた。ウォリックは立ち去った後だった。手下達も戦いの後、開いた口が塞がらないままだ。
「……強過ぎる……」
 1人のカオス女性部下が呟いた。セイヤは見事に敗北した。ウォリックに……負けた。
 モグタンクは動くが、セイヤと部下達はしばらく動く事が出来なかった。そのまま、暫く静寂が続き、彼等が出発したのはセイヤの敗北から1時間後の事であった。

夜月光介 ( 2011/04/10(日) 22:44 )