第2章 4話『激闘・蠢きのセイヤ』
セイヤが次にフィールドに出してきたのはバタフリーだった。白い羽を上下させて空中を飛んでいる。
『ン?君がボクの相手をするノ?てんで勝負にならないナ。ボクはずっと上にいるかラ、戦いたいなら飛んできなヨ』
そう言いながらバタフリーは天井近くを飛んでいた。
「バタフリーの特殊能力は何だ?」
ユキナリはポケギアで相手の特殊能力を確認した。
『はばたくつばさ・常に風を起こしているので、ねむりごな・しびれごな・どくのこななどの粉系の技は効かない』
「ノコッチにはそんな技もともと無い!ノコッチ!ポイズンキラーで相手の体力を奪うんだ!」
『上に行ってやるよ、そしてボロクズにしてやらぁ!』
ノコッチは天井までジャンプする事が出来る。そのまま飛び上がろうとしたのだが……
『うッ……何だ?体がビリビリして動けねえ……』
ノコッチはそのまま動きを封じられてしまった。
「ユキナリ君、あれ!」
ユウスケがバタフリーの方を指さした。何とバタフリーの体から『しびれごな』が出ているでは無いか!
「高度な戦い方というのは、こういう戦い方の事だ。自分は戦わずして相手を倒す。美しいだろう……」
セイヤは座ったままノコッチをあざ笑った。
『マスター、攻撃を始めますカ?』
「好きにしろ、どちらにせよコイツはお前の獲物だ」
バタフリーは上空でしばらく考えていたが、念には念を入れる事にする。
「ノコッチ、何とか動くんだ!粉の攻撃を避けないと……」
『ケケ……ヤバイな。俺も解ってるんだけどよ。粉の攻撃だと気付くべきだったな……ZZZ……』
「ねむりごなだ、相手を数ターン眠らせる技だよ!」
バタフリーはゆうゆうと降りてきて、何の抵抗も出来ないノコッチを痛めつけた。一方的な試合展開になりつつある。
「良いぞ!ポケモン同士の醜い小競り合いは……何時見ても胸がスカッとする。獰猛で、どうしようもない生き物には、やはりこの様な野蛮な戦いがピッタリだ!ハハハ……」
セイヤはポケモン全体に対して激しい憎悪の思いを持っているらしかった。ポケモンに対する気持ちも、彼にとっては『駒』にしか過ぎないのだろう。
「ノコッチ……」
バタフリーは吸血で相手の体力を削っていた。ノコッチの方は眠りながらみるみる弱っていく。このままでは戦闘不能どころでは済まない。
ユキナリはボールを握りしめた。
「戻れ、ノコッチ!」
ノコッチの敗北だった。バタフリーはゆうゆうと空へと戻っていく。
「ユキナリ君、あの上空からの粉攻撃をなんとかしないと、バタフリーには勝てないよ……」
(どうすればいいんだ……どうすればあんな上空で攻撃出来る?僕にそんなポケモンがいるのか?)
「フフ、お前達のポケモンもカオスの発展の為に役立ててやろう、ありがたく思うがいい!」
セイヤは高笑いをした。
一方、別行動をとっているアオイの方は、来た道を戻り、反対側の方へと向かっている最中だった。
(やっぱり、あっちだったんですね……ユキナリさん達大丈夫かな……私も早く加勢しないと……)
「ユキナリ君、次に出すポケモンは何にする?」
「やっぱり……遠距離攻撃の出来るハスボーかな。素早さに問題があるけど、ジグザグマを出したら確実に攻撃する事が出来ない……ハスボーにするよ」
ユキナリはモンスターボールを握りしめた。
(ポケモンは仲間だ。僕とポケモンのコンビネーションがあってこそ、勝利を掴む事が出来る。
ポケモンを道具としか見ていない人になんか、負けるワケにはいかないんだ!)
「行け、ハスボー!」
フィールドに出現したハスボーは、キョロキョロと辺りを見回していた。どうやら、相手が何処にいるのか解らないらしい。
『ね、ねえ。僕が戦う相手が見えないんだけど……』
「君の頭の上にいるよ」
ユキナリの指さす方向に目を向けると、そこには空中でゆうゆうと旋回しているバタフリーの姿が見えた。
『攻撃、届くかな……』
「解らない。でも、出来るだけの事はやってほしいんだ。君と僕とで出せる力は全部出し切ろう」
『うん……解った!』
セイヤは傍観を決め込んでいた。あくまで勝手にポケモンを動かすのが彼のポリシーらしい。つまり、セイヤは『主従関係』すら求めていないのだ。
彼にとってポケモンとは『使えるモノ』でしか無い。命令を出す事も、励ます事もしない。ただ、奴隷として出したポケモンを勝たせる……
その為に、彼は憎いポケモンを敢えて持っているのだった。
『また、僕の勝ちかナ?フー、フフフ……』
バタフリーは気持ち悪い笑い声を出すと、また上空からしびれごなをばらまき始めた。
「ハスボー、出来るだけ走ってこなを避けるんだ!」
しかし、井戸の中は無風なのでハスボーの上にバタフリーがいれば、ほぼ100%の確率でこながハスボーの体に触れてしまう。
『これじゃ、逃げるだけだよ!攻撃させて!!』
「でも、攻撃しようとしたらこなを受ける様なものじゃないか!」
『攻撃出来るだけマシだよ、攻撃しなきゃ勝てないんだ!!』
ユキナリはハスボーの言葉が正しいと思った。
「ユキナリ君、とにかく攻撃して、バタフリーの動きを止めるんだ。はばたきを止めるだけでも戦況は大きく違ってくる!」
「ハスボー、みずげいで攻撃するんだ!」
ハスボーは上空に向かって水を散布した。ハスボーに粉をまく為に移動していたバタフリーは、真上からの攻撃をまともに受けてしまう。
『うッ……羽が濡れたラ、粉が撒けなイ……』
バタフリーの羽は乾いている。羽の部分に水が当たると、乾いた粉を撒けなくなってしまうのだ。しかも、浮力を失う為、飛ぶ事が困難になる。
バタフリーは落ちない様、必死でバランスを保とうとした。落ちたら好き放題攻撃されてしまうからだ。
勿論、しびれごなを散布する事は出来なかった。一方、みずげいを真上から発射したのが功を奏して、ハスボーは粉を受けずに済んだ。
ヨロヨロと飛んでいるだけで精一杯のバタフリーに向けて、さらに水を当てる。
「いいぞ、ハスボー!そのままみずげいを続けるんだ!」
マスターであるユキナリの嬉しそうな声を聞いて、ハスボーはさらに水の勢いを強くした。
(僕が頑張れば、マスターが喜んでくれるんだ……僕も、勝てば勝つ程強くなれる!)
「ハスボーの戦闘能力が上昇している?……信じられん、こんな馬鹿な事が……」
セイヤはゴーグルでポケモンの力量を見る事が出来た。確実に、ハスボーの力が増大している。それは、一種の『やる気』そのものだった。
『ク……やるナ、でも、僕だって追いつめられれば本気を出すんダ!』
バタフリーはバランスを崩して落下した。HPは残り僅かだ。ハスボーはバタフリーにとどめをさそうと近づく。
ユキナリは何かを感じた。不吉な予感がしたのだ。
「待て、ハスボー!不用意に近づくと危険だぞ!」
『フー……』
とどめをさそうとしたハスボーに対して、バタフリーは息を吹きかけた。その途端、ハスボーは急に痛みを感じてうずくまってしまう。
『あれ……変だな、体が、痛い……』
ユキナリはバタフリーの使える技をポケギアで確認した。
『むしのいき・むしタイプのポケモンなら殆どのむしポケモンが覚えている技。自分のHPが少なければ少ない程与えるダメージが大きくなる。
瀕死に近いポケモンがむしのいきをすると、相手に与えるダメージは相当なものになるのだ』
「むしのいき……バタフリーはもう倒れる寸前だったから、ハスボーはHPの2/3位を失った計算になるかな……」
「とにかく、とどめをさすんだ、ハスボー!」
ハスボーは痛んだ体をなんとか立て直すと体当たりをした。バタフリーは腹に手痛いダメージを受け、ニヤリと笑うと戦闘不能に陥る。
「ポケモンにしてはなかなか賢いでは無いか……これで、私がお前のポケモンを倒すチャンスが増えた事になる。
私の持つ最後のポケモンは、お前達が簡単に倒せる様なものでは無いぞ!」
セイヤはまた真っ黒なモンスターボールを投げた。フィールドに出現したのは、ミノムシに羽が生えた様なポケモンだった。
白い息を吐き、パタパタと真っ白な羽を振っている。
「何だろ、僕も見た事が無いや……ユキナリ君、ポケギアの図鑑であのポケモンの事調べてくれない?」
「解った……虫ポケモンなのは解るけどね……」
セイヤは虫ポケモンの使い手なのだとユキナリはようやく気付いた。何故かこだわりがある様だ。
『ミノガー……トーホクにしか生息していないこおり・むしタイプのポケモン。柔らかい体は雪の寒さに耐えられないので、体に草や木の枝を貼り付けて冬眠する。
ミノッチと言うポケモンから進化』
「へえ、こおり・むしタイプのポケモンなんだ……ミノムシみたいなのにそのままの姿で飛んでるのは結構面白いね……」
「とにかく、ハスボーに頑張ってもらわなくちゃ。この人が持ってる最後のポケモンだ。切り札の強さがある……絶対、油断はしない!」
「貴様等いっぱしのポケモントレーナー風情が、カオスにたてつこうなど100年早い!それを、身をもって教えてやる……!!」
セイヤは歯をくいしばっていた。予想以上のトレーナーの強さに内心動転しているらしい。
ミノガーとの戦いが始まろうとしていた……
「試合開始!」
セイヤはまた命令はせず、ミノガーを出したまま椅子に座っていた。ミノガーはパタパタと羽を動かしたまま、動いていない。
「ハスボー、みずげいでミノガーに攻撃するんだ!」
『解った、でも、もう限界が近いよ……』
ハスボーはミノガーに水をかけた。ところが、ミノガーはHPを減らされてもいっこうに動こうとはしない。
パタパタと空中に浮いたまま羽を動かしているだけで、全くハスボーに攻撃してこないのだ。
(どうして、ミノガーが攻撃してこないんだ?……ポケギアで確認しても、ミノガーのHPはみずげいで確実に減っている……
このままじゃ、何もしないで負けてしまうだろう。何を考えているんだ?)
しかしセイヤは不敵な笑みを浮かべたままミノガーを見つめるだけだった。
「ユキナリ君、攻撃してこない今がチャンスだよ!一気にたたみかけよう!」
「OK、ハスボー……このまま一気に倒すんだ!」
『うん……出来るだけやってみるよ!』
ハスボーは攻撃してこないミノガーに、みずげいを続けた。ポケギアで確認すると、ミノガーのHPはどんどん減っている。
どうしてミノガーは攻撃してこないのだろうか。なおもハスボーの攻撃は続く。セイヤは黙って見守るだけだ。
既にミノガーのHPはどんどん減り、風前の灯火と化してしまっている。
「ハスボー、とどめの一撃をさすんだ!」
ユキナリはポケギアを見て、ミノガーが次の攻撃で倒れるだろう事を知った。
「これで、終わりだ!」
『僕だって……やる時はやるんだからね!』
ハスボーはみずげいを止め、体当たりで最後の一撃をくらわそうとミノガーに迫った。
その時……急にミノガーの体が美しく光り出し、ハスボーは凄まじい衝撃を受け弾き飛ばされてしまう。
『な……何だろう?どうして……』
「ククク……ミノガーの特殊能力、それは回復と同時に攻撃する点にある!回復技で回復する瞬間、相手を葬り去るのだ!」
セイヤはハスボーを指さし、指を下に降ろした。
「終わりだ……」
『ウ……ゲフッ!』
ポケギアの画面は異様だった。ミノガーが体力を回復した分だけ、ハスボーのHPが減り、ハスボーが倒れてしまったのだから。
「これが、ミノガーの特殊能力……」
『いたみのおかえし・相手から受けたダメージを回復する時、回復したHPの量だけ相手にダメージを与える』
「ユキナリ君、ミノガーは自分からは攻撃出来ないんだよ、きっと……ダメージを受けないと攻撃が出来ないんだ!」
「ご名答。だが、それが解った所で何になる?攻撃をしなければ私のポケモンを倒す事は出来ない。
しかし、ダメージを受ければ私のミノガーは回復し、お前のポケモンを倒すのだ……完璧な戦い方だろう?」
セイヤは椅子に座ったまませせら笑った。それは、冷たい悪魔の笑いだった。
「ユキナリ君……ポケモンは?」
「コエンだ……何時も、絶体絶命の状況を乗り越えてこれたのはコエンがいたから……今回もそう。コエンと一緒に、この戦いを終わらせる!」
紅蓮に燃えるボールを握りしめて、ユキナリは誓った。
(負けるワケにはいかない……相手がゲンタ君なら、まだ負けても諦めがつく気がする……でも、こんな酷いトレーナーに負けたら、僕自身の正義が、終わってしまうんだ!)
「行け、コエン!」
ハスボーはすでにボールに戻っていたので、フィールド上にはコエンとミノガーが睨み合う状況が起こっていた。
「私も……負けられないな。アズマ様に誓った。中途半端な正義を振りかざす者に負けると言う事は、我等カオスの名折れとなる……私自身も誓った。
お前は解っていない!敗北を知って初めて、私のポケモンを憎む気持ちが伝わるのだ。お前が……カオスにひれふす時、それが解る!」
ポケモンを憎む心……何故彼がそこまでしてポケモンに憎悪の念を抱いているのか、ユキナリには解らなかった。
ただ1つ解っている事、それは……彼等がナオカタウンの人々のポケモンを勝手に誘拐し、何かに使おうとしていると言う事だ。
「セイヤさん、貴方は間違っています!僕達は貴方に勝つ事でそれを証明したい。ポケモンは、パートナーだからこそ最高の力で戦えるんだ。
氷の心だって、きっと砕いてみせますよ!!」
『ユキナリさん……属性的には有利です。むしタイプはほのおタイプの得意とする所ですからね。でも、何だか気になるんです。
あのヒト、さっきから全然動いて無いんですよ……』
「すぐに解るさ、とにかく……まずは攻撃しないと!」
ユキナリとコエンはミノガーと戦う。セイヤの悪の心を打ち砕く為に、彼のポケモンを倒さなければならないだ……
その頃、アオイは邪魔をしてくるカオスの下っ端をポケモンで蹴散らし、丁度ユキナリ達がいる部屋の手前まで来ていた。
「ハア……ハア……弱い人達とはいえ、何度も勝負すれば体力を消耗しますよね……私に、ポケモンバトルを続けて出来る程の精神力があれば……」
アオイの相棒である鳥ポケモンも、HPを消費し、ボロボロになってしまっていた。とにかく、街の皆の為にユキナリ達と合流しなければならない。
アオイは奥の扉を開けた。それは丁度ユキナリ達がいる部屋へと続く扉だった。
「試合開始!」
ユウスケの言葉と同時にフラフラになったアオイが部屋の中に飛び込んでくる。
「アオイさん!今まで、どうしてたんですか?」
「ユキナリさん達が向かった方向が正しい事に気付いて、急いでこっちに来たんですけど……遅かったみたいですね」
サッパリしてしまっている部屋の中を見渡して、アオイは答えた。肩で息をしている格好だ。
「コエン、相手に反撃のチャンスを与えてはダメだ。混乱させて、その後一気に勝負を決める!」
『思い出しました!このポケモン、前にフタバ博士に見せてもらった事があります。……そう、攻撃を受けないと攻撃出来ないポケモンでしたね!』
コエンは身構えた。『鬼火』を繰り出そうとしたのだ。しかし、身構えた時急に衝撃波がコエンを襲った。
「!?……そうか、ユキナリ君。まだ、ミノガーはさっきの攻撃で体力を全回復していなかったんだ!」
「でも、さっきハスボー戦で相当回復してハスボーにトドメをさしてたから、さほどダメージは大きく無いんじゃないかな……」
事実、その通りだった。ミノガーが体力を全回復したものの、先程回復した量が多かったので、先制攻撃にしてはかなりコエンに与えたダメージ量は少ない。
『クッ……これ位なら、問題ありません!』
「コエン、体力を全回復したミノガーは何も出来ない!『化かす』を使って相手を混乱させるんだ!」
これがユキナリの狙いだった。運任せにはなるものの、確実に相手を混乱させ、むしタイプには効果抜群の『鬼火』で攻撃する。
これだけでバトルの展開はユキナリに大きく傾くハズだ。
「ユキナリさん……諦めないんですね」
「うん……やっぱり、凄いよ。ユキナリ君は。僕なんか足下にも及ばない位の根性がある……」
「私も、見習わなくちゃいけませんね。最後まで、可能性を信じて戦い続ける。それは、兄さんもしていた事ですから……」
アオイはユキナリとセイヤの戦いを凝視していた。一方、何も命令はしないもののセイヤは明らかに焦りの色を見せ始めている。
相手のポケモンがほのおタイプだっただけに、しっかりした対抗策が思いつかない。
(ここでほのおタイプのポケモンが出るとは……しかし、唯一の救いはレベルが低いポケモンだと言う事。
私のミノガーはダメージを受けるとすぐに回復する様調教してある……だが、問題はヤツがどう出るかだ……)
セイヤは、コエンが『化かす』を覚えている事を知らなかった。それが、最大の誤算になる。
「コエン、『化かす』を使うんだ!」
すっかりお馴染みになった攻撃方法だが、コエンは気を抜いたりはしなかった。
『かかった後、自滅してくれれば勝機が見えてきますね』
目を閉じ、幻影の霧を作り出し、相手にぶつける。ミノガーがくらったのはダメージ攻撃では無いので、この攻撃ではミノガーは反撃する事は出来ない。
「上手く混乱状態になったみたいだね」
「このままミノガーが何も出来なければ、ユキナリさんが勝ちますけど……もし、反撃してきたら……」
アオイは不安だった。ほのおわざで攻撃すると言う事はそれだけリスクが高い事を意味する。
もし首の皮一枚でも残ろうものなら、ミノガーは迷わず回復し、コエンは大ダメージを受けて即死してしまうだろう。だが、コエンが勝つ為には攻撃するしか道は無かった。
「コエン、ミノガーに向かって鬼火を出すんだ!」
ミノガーは混乱状態になったばかりだ。今なら、充分チャンスがある。ミノガーが何も出来ないと言うチャンスが。
『一撃で倒したいですね……!』
青白い炎を体から放出し、ミノガーに向けて放った。コエンの炎はミノガーの体に付着し、ダメージを与える。
このまま一撃で倒れてくれればどれだけ有難い事だろう。だが……やはりミノガーは倒れはしなかった。
しかも、混乱状態にも関わらず回復してしまったのだ。その瞬間、相手の回復と同時にコエンがダメージを受ける。
『ううっ……!!』
「コエン!」
ユキナリはポケギアをチェックした。ミノガーは殆どゼロの状態から殆ど回復した状態。コエンは本当にHPが極限状態まで減ってしまっていた。
『まだ……です……』
胸を押さえながら立ち上がり、再度炎を放つコエン。一方ミノガーはもう一度少しダメージを受けているHPを回復し、完全にコエンにトドメをさそうとしている所だった。
「立場が、逆転してる……コエンが圧倒的に不利だ!」
「でも、コエンはまだ諦めていない……それに、ユキナリさんのあの表情……諦めていないどころか、勝利を確信したかの様な顔!」
「コエン、僕達は勝てる!そのまま一気に勝負を決めるんだ!」
鬼火は回復しようとしていたミノガーに命中し、体を燃やしていく。むしタイプのミノガーにとって、ほのおの属性技の鬼火は天敵以外の何者でも無いのだ。
「さっき、ミノガーはギリギリまで追いつめられて、回復した。でも、完全に体力を回復出来ていない……
コエンの攻撃を再度受ければ、ギリギリミノガーのHPを……」
ミノガーは炎に包まれて、地面に落ち、動かなくなった。ポケギアがユキナリの勝利を告げている。コエン、残りHP12。本当に逆転に次ぐ逆転を果たした瞬間だった。
ミノガーへの攻撃は本当に奇跡的に倒せた結果だろう。
あと少しでも威力が少なかったら、ミノガーはまた回復し(混乱状態にはなっていたが)コエンは確実に倒れていたかもしれない。まさに紙一重の勝利だった。
「バカなああああ!!」
その瞬間、セイヤが椅子から立ち上がった。
「私が、お前の様な小僧に……負けただと!?何故だ、何故だ!!私はアズマ様に認められた実力の持ち主……それなのに!」
セイヤは激しく激昂し、歯を思い切り食いしばった。
「ユキナリ君、勝ったんだね……カオスの幹部を、倒したんだ!ユキナリ君の実力で!」
「うん……僕、最後まで信じてたから。コエンと僕なら、必ずあの人の『理想』を崩せるって」
「信用……か。お前は解っていない……哀れなものだ。私もお前と同じ考えを持っていた時があった……
ポケモンは真の友であり、真のパートナーだと。ポケモンと人間が手を取り合って暮らせる社会が出来たのならば、素晴らしい事だと思っていた時が……」
「セイヤさん、何が貴方を変えてしまったんですか?貴方のそのポケモンに対する憎悪……何故貴方は、そこまでポケモンを奴隷にしたがるんです?」
ユキナリの悲痛な訴えに、セイヤは微笑んだ。しかしそれは、フルサトがする微笑みとは、明らかに違った微笑みだった。冷たい、戦慄する様な笑顔……
3人が沈黙する中で、セイヤは1人、自嘲気味に語り始めた……