第2章 3話『カオスの暗躍』
2人が小屋に来てから、30分以上の時が過ぎた。
「やはり、雪が強くなってきたな……」
外を見ながらフルサトはそう呟く。
「ユキナリ君、ユウスケ君。今夜はここに泊まっていきなさい。今外に出るのはかなり危ないだろうからね」
ユキナリ達は、その言葉に甘えさせてもらう事にした。
「夕食は私が作ろう。君達は小屋の中にいるポケモン達の面倒を見ててくれ。頼んだよ……」
そう言うと、フルサトは奥の部屋に向かい、2人の視界から消える。
「沢山ポケモンがいるんだね……」
小屋の中には様々なタイプのポケモン達がいた。レベルを上げる為に他のポケモンとバトルしているポケモンや、玩具で遊んでいるポケモン。
絵本を読んでいる頭のいいポケモンもいれば、寝ているぐうたらなポケモンもいた。
「僕達も混ぜてもらおうか」
一心不乱に戦っているポケモン達の輪の中に、ユキナリはボールを投げた。さっき捕まえたノコッチの入っているボールだ。
『おう、お前が俺様のマスターか。これから宜しく頼むぜ、俺様1匹いるだけで、バトルの流れが変わっちまうからな。ケケッ……』
「これから宜しくね、ノコッチ」
『おうおう何だその戦い方は。まるでなってねえぜ。俺様が相手してやる。かかってきな!』
「随分口が悪いポケモンだね……」
「ま、まあどくポケモンだからかもしれないけど」
ユウスケはちょっとイヤな顔をした。気が弱い彼にとって、口五月蝿く、威圧的な声は嫌いなのだ。
戦っていたポケモンの1匹がノコッチに近づいてくる。ユキナリは手を洗わせてもらっていたので、自分の手でしっかりポケギアを持ち、『コミュニケーション』を開いていた。
向こうのポケモンも誰かは知らないが『飼い主がいるポケモン』なので、機械的な声が聞こえる。
『自信たっぷりだな。その言葉、本当かどうか俺が試してやろう……』
ノコッチの体長の2倍はあると思われる白い体のポケモンが立ちはだかった。腹や耳にクリーム色の模様がある。
「ザングースだ。どくタイプのポケモンが相手だと敵無しと言われてる勇猛果敢なポケモンだよ!」
ユキナリは図鑑を見てみた。
『ザングース・ハブネークと言うヘビ型ポケモンとは宿命のライバル同士。縄張り争いを繰り広げ、互いに数を減らし、繁栄してきた。
強い攻撃力を持つ子孫を残す為、その力は時が経つと共に増大していく』
『相手がヘビなら容赦しねえ、この爪で切り裂くだけだ!』
『生意気な口を叩きやがって、後で後悔するなよ!』
試合開始の言葉も無しに、突然2匹は互いに飛び掛った。
「ちょ、ちょっと待った!まだ相手の特殊能力も調べてないのに!それに命令は僕が……」
『すまねえなマスター。こいつとの戦いは俺の力で勝つ……何故だか解らねえが、因縁めいたものを感じるんだ』
「ユキナリ君。ザングースはどくポケモンには容赦しない。それにヘビ型なら尚更だ……命令を聞く前に倒されちゃうよ。
ココは、ノコッチに任せてみた方がいいんじゃないかな……」
「……解った。ノコッチも、ジグザグマに似てるな……ちょっと口が悪すぎる気もするけど」
ユキナリは一応ポケギアでザングースの特殊能力を確認しておいた。すると……
「!?こ、この特殊能力って……これじゃ最初から勝負にならない!ノコッチ、戦いを止めるんだ!」
しかしノコッチは聞いていない。ザングースの喉に噛み付き、猛毒を注入する。
『ケケッ、俺様の毒液が体の自由を奪うのさ!』
『お前は何も解っていないな……相手を考えてバトルをしないと、待っているのは『敗北』だけだ』
ザングースは何事も無かったかの様にノコッチを弾き飛ばした。ノコッチは受身を取り、再度噛み付こうとする。
しかしザングースは鋭い爪でノコッチを切り裂いた。その衝撃でノコッチは小屋の壁にぶつかってしまう。
『き、効いてねえのか……?』
「ユキナリ君、ザングースの特殊能力は……」
「うん、今見たよ……ノコッチには悪いけど、ノコッチがザングースに勝つのは無理だ……絶対に!」
『ザングースの特殊能力・たいないけっせい……相手の『どく』タイプの攻撃を無効化する。また、絶対に『どく』状態にならない』
ノコッチはなんとか立ち上がった。既にフラフラになってしまっている。
『相手がこの俺だと言う事が不運だったな。そのまま一気にカタをつけてやる!』
ザングースは爪を立ててノコッチに襲い掛かろうと走り出した。
「コラ、何をしている!預かり所のポケモン……つまりお前達は人様のポケモンと対戦出来ない決まりだろう!」
シチューの皿が乗ったお盆を両手に持ったままのフルサトがザングースに向かって激昂した。
『ちょっと待ってくれ。俺が勝負を始めたんじゃない。あのノコッチが俺を挑発してきたんだ!』
「そうなのかい?ユキナリ君」
「僕達、そんな決まり知らなくて……ゴメンなさい」
ユキナリとユウスケは素直に謝った。
「そうか……私が言っておかなかったのも悪かったね。
リーグの決まりはコマゴマしていて覚えるのが大変かもしれないけど、リーグに挑む人達は必ず覚えておかなくちゃならないマナーだから、覚えておいておくれ」
「ハイ……」
「よし、戦いは終わりだ。皆、飯の時間だぞー!」
フルサトが呼びかけるとさっきまでぐうたらに寝そべっていたポケモンもいきなり起きだしてフルサトの周りに集まってくる。
「君達にはシチューを用意しておいたよ。沢山鍋に残っているから、遠慮せずに食べてくれ」
夕食……ポケモン達は特別な『全ポケモン愛用フード』を食べ、フルサトと2人はシチューを食べていた。
「そう言えば、君達は何処から来たんだい?」
「シラカワタウンから来ました」
「シラカワ……トーホクのポケモン発祥地と言われているゆかりのある街だね。
私も一度行ってみたいんだが、何せリーグではこういう仕事をしている者は他の街に行ってはいけないと言う決まりがあるんだ……
だから、この仕事を始めた時から私はこの街の発展しか見ていないのさ」
「大変ですね……」
「ポケモンと言っても、この街では鳥ポケモンが多いからね。強いトレーナーと言ったら、この街ではアオイ君位しかいないんじゃないかな」
「ジムリーダーか。まだ、会ってないよ……」
ユウスケはユキナリの方を見た。
「明日、落ち着いたら行ってみよう。ひこうポケモンがどれ位強いのか、まだよく解ってないし……」
『ジムリーダー戦では是非俺を使ってくれよ。さっきみてえなヘマはしねえからな。ケケ……』
「あ、ノコッチをボールに戻してなかった!」
ユキナリは一心不乱にフードを食べ散らかしているノコッチをボールに戻す。
和気藹々とした食事も終わり、今夜はここに泊まらせてもらう事になっていたので、2人は寝室に案内された。
「ココは来客用寝室。勿論、今日は誰も来ていないからココで休んでいくと良い。シャワー室は隣にあるから好きに使ってくれ。私は、失礼させてもらうよ……」
フルサトは大きな欠伸をして自分の部屋へと向かった。残された2人は明日の事について話し合う。
「アオイさん……か」
「具体的な戦い方がまだ決まってないよ……どうすれば空を飛ぶポケモンに勝てるんだろう?」
「上からの攻撃は避けにくいからね。ヒット&アウェイで、攻撃に来た所を叩くしかないよ。もしくは、無理やり地上戦に持ち込ませるとかね」
「そんな事、出来るかな……」
「とにかく、戦ってみなきゃ解らないよ」
2人は深い眠りについた……
雪が強い深夜、ナオカタウンは風の音しか聞こえない。凍りついた井戸も、静寂を保っているかに思われた。
しかし突然、井戸の中から大勢の人間が姿を現す。
「セイヤ様、街の連中は皆寝入っております。今が絶好のチャンスかと……」
「解っている。我等が希望アズマ様の為に、奴隷となるポケモンを調達しなくてはな……」
井戸から出てきた金髪の青年は、暗闇の中でニヤリと笑った。青年の他に、沢山の全身黒タイツの男達が井戸を登って這い上がってくる。
数年前から使われなくなった古い井戸に彼等は目をつけたのだ。
「行動に移れ!」
手下達は素早く闇に消えていった。
「お前達には勿体無い。カオスが有効利用してやるのだ。ありがたく思うんだな!ハハハハハ……」
翌日……雪は止みはしなかったが、天候は落ち着いた。ユキナリは朝起きるとシャワーを浴び、荷物を持ってユウスケと小屋の居間に向かう。
昨日、ポケモン達がココにいたが、彼等はもう外で元気に走り回っていた。2人の前に、フルサトが姿を現す。
「やあ、もう起きたのかい。今、朝食を作り始めた所なんだ。ついでなんだし、ジムに行く前に食べていきなさい」
「朝食まで?い、いや、悪いですよ!」
ユウスケは慌てて手を振った。
「遠慮する事は無いさ。ここはリーグ挑戦者の疲れた体をほぐす為の場所でもある。来客用寝室って言うのも、実は君達みたいな子供達が使うんだよ……
もっとも、大人が来る事自体が少ないって事でもあるんだけどね」
机の上に用意されたのは、朝食に相応しいツナのサンドイッチとバナナ、コップに入った牛乳だった。
「バナナはおやつに入らないって言うよね」
「ま、そうだけどさ……主食って感じじゃ無いよね。デザート?……かな」
ユキナリとユウスケは朝食を食べる。やはり旅の途中、暖かい心の支援があると元気が出るものだ。
数十分後、朝食も後片付けも終わり、2人はフルサトと一緒にジムへ行こうと出発の準備を始めていた。
「重い荷物だね……大丈夫かい?ウオマサ高原までこれを背負っていくなんて」
「自転車がありますから……それに、街に着いてから休める場所はきっとあるハズです。ゲンタやフルサトさんに出会って、それが充分解りましたから」
「そうだね。私も、君達が何処まで勝ち進んでいくのか楽しみだよ。ここにいても、リーグの様子は確認出来るからね」
「フルサトさん!大変です。ナオカタウンの人達のポケモンが……」
突然、入り口からパイロット帽とゴーグルを付けた水色の髪の女の子が3人のいた居間に飛び込んでくる。
ユキナリとユウスケよりは少し年上と言った印象で、ゲンタとは3歳か4歳離れていそうだ。
「皆、皆行方不明なんです。見つからないって……街中大騒ぎになってます!」
「な、何だって!?」
「ユキナリ君、ポケモンがいなくなったって!」
「とにかく、フルサトさんについていこう!」
急いで外へと飛び出したフルサトについて、ユキナリとユウスケは自転車を小屋に置いたまま、走り出した。
「アオイ君、皆の状態は?」
「ヒステリックになってる人とか、穴を掘ってる人達とか、街中に響く様な大声を出してる人とかで……
とにかく皆、自分達のパートナーが突然消えちゃったって、大変な事に……」
「そうか……私の所は、厳重に鍵をかけておいたし、ポケモンが逃げ出す心配は無かったんだが……ポケモンが集団で失踪するとは考えられない」
(アオイ……?この女の人、もしかして、ジムリーダーのアオイさんなのかな……)
走っていたので、ユキナリの思考能力はあまり上手くは働かない。4人で走っているので、まるで息が機関車の煙が後ろにたなびいているかの様だった。
アオイを先頭に、フルサト、ユキナリ、ユウスケは人ごみの近くに集まる。
「物凄く人が集まってるね……」
「皆、自分達のポケモンが心配なんだよ……」
まだ雪が降っていて肌寒い朝だと言うのに、彼等は気が気では無い様子だった。沢山の人間が名前を呼び、それぞれが何と言っているのかさえ解らない。
「皆さん、落ち着いてください!」
フルサトは街の皆が見える位置に立って全員に話しかけた。
「フルサトさん!一体どうなっちまったんだこれは!」
「私のとこのエンジェルちゃんも今朝いなくなってたのよ?」
「とにかく!」
フルサトは皆を静めた。
「私の育て小屋のポケモン、たまたま小屋で泊まった2人の少年のポケモンは1匹も欠けていません。
それに、皆さんの家にいるポケモンが、突然集団でいなくなる事などありえない!」
(さっき、僕とユウスケとフルサトさんとでジム出発の準備をしてた時に、フルサトさんにポケモンの体調を診てもらってたんだっけ……)
傷ついたノコッチやジグザグマ、ポッドに入れて回復させてもらった事をユキナリは思い出した。勿論、今もボールは4個、ちゃんと持っている。
「何者かが、いえ集団が……勝手に泥棒をしたのかもしれません。昨日の夜は風も雪も相当強かったし、暗闇で外を歩く人などいなかった。
手当たり次第に人の家にあがりこんで、ポケモンを盗んでいく事が出来たかもしれないのです!」
「そんな、一体誰がそんな事を!」
「でも、フルサトさんの言う事も一理あるわ。もしそうじゃなかったとしたら、急にポケモン達が集団夢遊病にでもなったりしたと言うの?
それに、モンスターボールの中に入れていた家のポケモンも、ボールごと無くなっていた。ボールは勝手に消えたりしないでしょう!」
住民達はそうだそうだとフルサトの意見に賛成した。
「フルサトさん、街の皆から信頼されてるんだね……」
「そうですよ」
「えっ?」
ユウスケがそう呟いた時、隣に彼女がいた。少し大人びた綺麗な顔……でも少し哀しそうな顔。アオイは微笑むと、フルサトの方を見た。
「フルサトさん、トビオ兄さんがリーグに行ってしまって1人ぼっちになってしまった私のサポートをしてくれているんです。
別に大丈夫ですと言っているんですけど……あの人、誰かが泣くのが嫌いな人だから……他人の幸せが自分の幸せみたいな……
神様みたいな人なんです。正義感もあって、皆があの人を信頼しています」
「へえ……やっぱりフルサトさん、優しいんだなあ」
「あの、ポケモントレーナーの方ですよね?」
「はい、ユウスケって言います。ユキナリ君と一緒に、トーホクリーグに挑む事になって……旅をしてるんです」
「旅……いいですよね。私も外へ出れたらなあ……ジムリーダーの仕事も難儀ですよね。兄さんの所へも行けないなんて……」
アオイは空を見上げた。
「今も、兄さんは空を飛んでいるんです。きっと……」
ユウスケもつられて空を見上げたが、雪と雲しか見えなかった。
ユキナリはフルサトと住民達の声に混じって、何かくぐもった声がするのを耳にした。耳を澄ますと、それは地下の方から聞こえてくる様な声だ。
(よし、急いで済ますんだ)
(セイヤ様に怒られたら、ただじゃ済まないからね……)
(何処からだ?何処から聞こえてくるんだ?)
ユキナリは全神経を集中させた。フルサトは街の広場みたいな所に立っている。その後ろに見える凍り付いた井戸……そこから聞こえてくる気がした。
「あの、声が聞こえませんか?」
「五月蠅い位聞こえるよ。私もどうすればいいのやら……」
「そうじゃなくて……そうか。フルサトさん、皆を静かにさせてください。皆のポケモンが戻ってくるかもしれないんです!」
「解った。皆さん、ちょっと静かにしてくれませんか。まあそう焦っても解決しません。落ち着いて、冷静にこの事件の対策を考えてみましょう!」
躍起になっていた住民達も、確かにそうだと心を落ち着かせていく。静かになると、ユキナリにはハッキリ聞こえてきた。
ユウスケにもアオイにもフルサトにもだ。
(よし、送ったポケモンは今何体だ?)
(41匹です。あと数分もすれば、全てのポケモンを基地に転送する事が出来るでしょう)
(なかなかいいな。送ったらもうこの街に用は無い。今日の夜にでもここを抜けて別の街へ向かうとするか……)
「井戸からだ!井戸から声が聞こえてくるぞ!」
「誰かいるんだ、井戸の中に!」
ユキナリ達は井戸の周りに集まり始めた。
井戸は凍り付いていて、人が降りられる様な梯子などはついていない。しかし中が氷に包まれているので、音がよく響き、声が聞こえたのだ。
「とにかく、中に人がいるみたいです。それも大勢。街の皆のポケモンを奪ったらしい会話をしてますよね」
「ああ、奴等を倒して早く皆のポケモンを取り返さないと……だが、私はポケモントレーナーでは無い。
中に入るのにポケモンを持っていないと危険だ。誰かが井戸の中に入らななければ……」
「僕が行きます!」
「ぼ、僕も!」
ユキナリとユウスケが名乗りを挙げた。
「私も、皆さんのポケモンを取り返したい!」
アオイが確固たる決意を述べ、手を挙げた。
「そうしてくれるとありがたい……だが、この井戸から安全に下に降りられなければ、どうしようも……」
「下にいる人達は井戸から出てきて、井戸に入っていったんです。私達も井戸から降りるしかありません。こんな風に!」
アオイはそう言うと、井戸の中に飛び込む。
「あ、アオイ君!怪我でもしたらどうするんだ!」
「ユキナリ君、僕達も早く行こう!」
「そうだね、グズグズしているワケにはいかないよ!」
後を追って、ユキナリとユウスケも井戸の中に入った。
「……大丈夫かなあ……」
フルサトも井戸の中に入ろうとしたが、彼はガッシリとした体型で、しかも身長が高い為、入ろうとすれば詰まってしまうだろう事が予想出来た。
「無事を祈るしか無いのか……」
フルサトや住民達は井戸の中に飛び込んでいった3人の事を心から心配し、見守っていた。
一方、井戸はパイプの様になっていて、滑り降りて無事に3人は地面に着地していた。
「誰かが改造したんですね。地下基地になっちゃってます」
広い部屋だった。向こうに廊下が見える。
「水が出なくなった井戸だから、丁度良いと思ったのかもしれないね」
「とにかく、ポケモンがここにいるのなら、早く助け出さなきゃ!」
廊下はT字形になっていた。アオイはそれを見るとユキナリ達に指示を出す。
「ユウスケさんとユキナリさんは右へ、私は左へ行きます。二手に分かれれば、それだけ早くポケモンを探せるハズです」
「解った、僕達は右の道へ行ってみる!」
アオイは素早く駆け出し、廊下を曲がって見えなくなってしまった。
「まるで鳥みたいに早いんだね……」
「僕達もうかうかしてられないよ、探さなきゃ!」
2人は廊下を右に曲がり、突き当たりの広間へ出た。そこにはタイツ姿の男がいた。
コヤマタウンで騒動を起こした男に似ているが、サングラスとツノの色が違う。タイツも白に近い灰色だった。
「ん?何だお前等。不法侵入者だな?このアジトに気付くとはなかなかやるじゃねえか。しかーし!ここから先へは通さねえぜ!」
タイツ男はモンスターボールを取り出した。漆黒のボールに金色の文字で『COS』と言う文字が刻まれている。
「ユキナリ君、戦うしか無いみたいだね……」
「大丈夫さ、あの時みたいにすぐ勝てる!」
2人はお互いにポケモンを取り出した。その時、別の戦闘員が到着する。どうやら体のラインから見て女性らしい。サングラスの色も赤かった。
「なーにしてるのよ、アンタ。あら?可愛い坊や達じゃない。ポケモンバトルは1対1の方が燃えるわよ!」
「こいつら、このアジトに勝手に入ってきやがったんだ。セイヤ様にバレる前にさっさと追い出さねーと……」
「加勢してあげるわ、行くわよ、坊や達!」
女性のカオス隊員はボールからエネコロロを出した。男性の方はゴルバットを出す。
「ここで負けたら、皆に迷惑がかかる……負けられない!先に進むんだ!」
ユキナリはボールを投げた。
「クソ、可愛い顔してやりやがるな……」
「ナオカタウンの人達が持っているポケモン達を保管している場所は何処ですか、答えてください!」
アオイは自慢の鳥ポケモンで既に戦闘員の1人を撃破しており、彼に詰問をしていた。
「へっ、保管もクソもあるかよ。今頃お前達ナオカの住民のポケモンは、カオスの本部に送られてるハズさ!」
「な、何ですって!?」
「ポケモン達を集めてこの組織の力にする……それがカオスのやり方だ。文句を言うのはまだはえーぞ!」
(どうしよう……早く見つけないと手遅れになる……それに、ここで合っているのかどうかも解らない。
ユキナリさん達の方に転送装置があるのかもしれないし……)
アオイは上手く事が運ばない事に対して焦りを感じていた。
ユキナリとユウスケはさらに奥へと進んでいく。
「あの2人、見かけ倒しと言うか、そのまんまだったね。」
「早く倒せて良かったよ。ポケモン達は……何処にいるんだ?」
2人は奥の扉に入った。中に入ると、そこには巨大な転送装置と1人の青年が立っていた。
金色の髪に冷たい目。水色のゴーグルをはめており、部下とは違って濃い深緑色の服を着ていた。
「なんだ、お前達は……そうか、街の連中だな。もう遅い。すでに奪ったポケモンは全てホウの管理している本部へ送った。
我々も今しがた引き上げようと思っていた所だ……ご苦労な事だな」
「そんな、なんて酷い事を!」
「酷い?ポケモンを愛している者に言われたくは無いな。お前達は真実が見えていないのだ。ポケモンがどんなに凶暴で残虐で愚かしい生き物なのかを……」
青年は吐き捨てる様に呟いた。
「私はセイヤ。カオス3幹部の1人だ。この街にもう用は無い。そこを退かぬと言うのなら、力でねじふせるだけだ……来るなら来い!」
「ユキナリ君、戦おう!」
「よし、ポケモンバトルだ!」
「フ……仲間意識を持たぬ私と道具であるポケモンに勝てるかな?勝つ為には手段など選ばん。お前も、ポケモンを人間の仲間として見るのなら忠告する。
それは間違った答えだ。それを……教えてやる!」
セイヤは懐から真っ黒に輝くモンスターボールを取り出すと投げた。閃光と共にモンスターが出てくる。
ユキナリもモンスターボールを投げた。最初に選んだのは……ノコッチだ。
『マスター、このポケモンとバトルするのですか?』
「ああ、私は命令はせん、勝手につぶせ」
セイヤはそう言うと近くにあった椅子に腰を下ろす。
(何なんだ?この希薄な関係は……まるでトレーナーがポケモンに信頼を寄せていない!)
セイヤが出してきたポケモンはストライクだった。素早い速さで翻弄し、風の如き勢いで斬りつけてくる虫ポケモン。通常のストライクより色が白い様だ。
「ストライクの特殊能力は何だ?」
『しゅんそく・ターンごとにすばやさが上がっていく。そのかわり上がりきるともうすばやさは上がらない』
『貴様か……私と戦うポケモンとやらは。随分己の力量をわきまえていないらしいな。チビでは無いか!』
ノコッチはカチンときた。頭に血がのぼる。
『何だとテメー、お前なんかすぐにこの猛毒の牙で倒してやるよ!かかってきやがれ!!』
試合開始の合図はユキナリが出した。
「ノコッチ、かみつく攻撃!」
『おう、俺もそうしようと思ってた所だ!』
ノコッチは牙をむいてストライクに噛み付く為跳躍する。そのジャンプの軌道は正確で、おまけに速かった。
しかしストライクは肩にかみつこうとしているノコッチを軽くあしらうと、腕の刃物で斬りつけてくる。
ノコッチはその一閃をのけぞってギリギリで避けた。後ろに倒れるとすぐさま体勢を立て直す。今の攻撃をまともにくらっていたらかなり危険だった。
真っ二つにされかねない勢いだったからだ。
「くだらん……」
腕を組み、足を組んで戦いを凝視しているセイヤはあくまでも氷の様に冷たかった。まるで感情など無いかの様にただ冷静にストライクを見ている。命令もしない。
『この野郎!』
「ノコッチ、ポイズンキラーだ!」
ノコッチはかみついてから強力な毒を牙から相手の体内へと注入する技をかけようとしたが、またも攻撃をかわされた。
相手の動きが攻撃をかける度に速くなってきているのだ。
「ユキナリ君、素早さが上がってるんだよ。なんとか位置を予想して攻撃しないと……」
(相手が逃げる前に攻撃しなくちゃダメか……)
「ノコッチ、もう1度ポイズンキラーだ!」
ノコッチはもう一度飛びかかる。ストライクは、この攻撃を避けてきりさく攻撃をし、相手の攻撃を封じようとまた動きを見せた。
「今だ!そこで飛びかかる方向を変えろ!」
ノコッチは空中で落ちる位置をずらした。加速し始めたストライクの右肩に、ノコッチの牙が勢い良く刺さる。
『くっ……』
ストライクの全身に痛みがまわった。毒を注入されたのだ。ノコッチはそのままかみつくを連発する。
『離せ、離すんだ!』
『やなこった、テメェは随分自信過剰だったけどよ。それならしっかり攻撃してみろってんだ!』
ストライクは肩にかみついているノコッチを振りほどこうとするが、痛みと毒による精神混乱のせいで、うまくノコッチを払い落とす事が出来ない。
だんだんHPが減ってきている。このままでは危険だった。ストライクは体を回転させると、その遠心力でノコッチを強引に振りほどく。ノコッチは地面に倒れ込んだ。
「ノコッチ、そのままとどめをさすんだ!」
既にノコッチの攻撃を振りほどいたはいいものの、毒のせいで自慢の素早さも発揮出来ていない。フラフラで視界もきいていない様だった。
ノコッチは今がチャンスとばかりにストライクの足にしがみつく。
『な、何を……するッ……!』
『楽にしてやるよ。立ってるの、面倒だろ?』
「ノコッチ、かみつく攻撃!」
ノコッチはストライクの片方の足にくらいつくと、そのままストライクのバランスを崩させ、無様に地面に倒れさせた。
痙攣しながら泡を吹き、青い顔で気絶しているストライクにもう偉そうな言葉は言えなかった。
「ほう、私のストライクを倒すとは……だが、私も道具には最高の物を用意している。次はどうかな?」
セイヤはまた真っ黒なボールを取り出すと投げた。ユキナリとセイヤの戦いは加熱していく……