ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−

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ポケットモンスタースノウホワイト −吹雪の帝王ゴウセツ−
第2章 2話『フルサトの育て小屋』
『トビオは凄かったよ。ジムリーダーになる前はトーホクのリーグチャンピオンだった……』
「チャ、チャンピオン!?」
 ユキナリは度肝を抜かれた。
『でも、リーグ王座の座を奪われてナオカタウンのジムリーダーに抜擢されたんだ。
 ナオカタウンは鳥ポケモンが人と共に暮らしてる街だから、ひこうタイプの王者トビオには居心地の良い場所だろうって……』
「じゃあ何で、四天王になったの?」
『……足を骨折して、2度と自分の足では歩けなくなってしまったからさ。ハンググライダーで空を飛ぶ楽しみも奪われてしまった……
 トビオは失意のうちにジムリーダーの肩書きを妹に譲り渡して……でも、その時偶然にもジョウト四天王に1人空きが出来たんだよ!』
「その空きに入れたんだ……」
『最初は、周囲の反対も多かったらしいよ。車椅子の四天王なんてイメージが損なわれるって奴が沢山いたからね。
 でもジョウト四天王チャンピオンのアカギが、その反対意見を押し切って、スカウトしたんだ。
 トビオはジムの全権をアオイに譲り渡して、ナオカタウンを出て行ったよ。もう、トビオとアオイはなかなか会えないんじゃないかな。遠すぎるから……』
「大変だったんだね……」
『オイラも色々アオイに相談されたよ。兄貴を過酷な場所に戻していいのかってね。
 骨折した足はかなり痛んでいたから、四天王の職務そのものが非常に困難だったんだ。でも、トビオはそれを聞き入れなかった。
 まだトレーナーとしてのプライドを捨てたワケじゃ無かったんだ。
 一時は自殺しようとまで考えてたみたいでオイラも慌てたけど、やっとアイツも生きる道が見つかったんだ。良かったなって思ってる』
「そうだったんだ……」
『アオイは今も兄貴の意志を継いで、鳥と一緒にハンググライダーで大空を飛んでるよ。トーホクの空は常に雪が降ってて危ないけど、アイツは止めない。
 何時か、兄貴の二の舞になってしまうんじゃないかって囁かれてるよ……ハンググライダーの事故だったんだからね。視界が極端に悪くなったせいで……』
「そう言えば、時々雪の降る量が極端に多くなる日が時々あるよね……それで?」
『足の骨折の原因がハンググライダーじゃ、アイツもホント救われないよね。まあ、ユキナリだったらアオイに勝って、バードバッチをゲット出来ると思うんだけど』

「ねえ、そろそろ話をストップしてよ。僕、この体勢でポケギアを差し出してるのは辛いんだからさ……」
 ユウスケの腕が震えている。ユキナリは慌てて話を切り上げた。
「そ、それじゃあ。そろそろ……」
『OK、コッチに来る事があったら何時でも寄ってくれよな。また、勝負しようぜ!』
 ユウスケはポケギアの電話機能をOFFにした。
「随分長く話してたね」
「ゴメン。重要な話だったから……」
「確かに、僕も聞いたけどかなり暗い話みたい」
「今はジョウトの四天王か……初めてなのかな。車椅子の四天王って言うのは」
「うん、本当はリーグ四天王の資格項目の中にそれもあるんだ。足を骨折してるなんて、普通は絶対四天王になれないハズなんだけど……
 よっぽどそのトビオさんが強いんだろうね。チャンピオンだった実績もあったみたいだし」
 そう言うとユウスケはユキナリにこう頼んだ。
「ところで、僕もポケモンを捕まえたいんだけど……ユキナリ君もう手が汚れるだけ汚れてるんだから、僕の為に掘ってくれない?僕、ちょっと土は苦手で……」
 ユキナリはユウスケとは長い仲なので、彼の言っている意味が解った。
 ユウスケはあまり免疫の無い体質だし、そもそもユウスケにやらせては電話がかかってきた時にポケギアを汚してしまう事になる。
 ユキナリは頷き、早速地面をまた掘る事にした。

「どう、出てきてる?」
「うーん、さっきのノコッチも偶然だったかもしれないしな……捕まえられたのも、だけど」
 ノコッチもジグザグマも先程の戦闘でボロボロになっていた。ノコッチはほぼ戦闘不能、ジグザグマは瀕死。
 体力を回復し、現在無傷なのはコエンとハスボーしかいなかった。
「とにかく、何時出てきても戦える様に先にユウスケのポケモンを出しておいた方がいいと思うよ」
「そうだね……いけ、ボタッコ!」
 ボールを投げると緑色のボールからボタッコが飛び出す。
『ユウスケ、仲間を探してるの?』
「うん、今ユキナリ君に追い込んでもらってる所なんだ」
 (追い込み漁に似ていなくも無い作業だからねぇ……)
 ユキナリはせっせと手で土を掘った。しかし掘れども掘れども虫ポケモンはいっこうに出てこない。
「手が痛くなってきたよ……地面も冷たいし」
「もう少し、出来たらでいいからやってみて」
「うん……ユウスケ、なんか僕が運が良かっただけじゃない?」
 ユウスケはその言葉で不安になった。
 (いや、ユキナリ君と同じだ。僕だって、そろそろ新しいポケモンをゲットしなきゃ……)

『ユウスケ、もうユキナリに掘らせるのよそうよ……このまま掘ってたら手が凍っちゃうって……』
 ユキナリの手は寒さの感覚を失い始めていた。このまま霜のついた冷たい地面を雪の降る中で掘り続けていたら大きなダメージを受けてしまう事は確実だ。
「あと1分、あと1分でいいから……」
「ユウスケもポケモンをゲットしたいって言う気持ち、僕にも解るよ。だってまだ3匹で充分なんだよ?それなのにユウスケに時間を取らせて……
 僕はもう少し掘ってみる。ポケモンが出れば……うわっ!」
「ポケモン!?」
 草叢の上に出現したのは体が青紫色に近い白色をしている、小さなむしポケモンだった。頭にツノが生えている。
 キバを剥き、キーキー鳴いているそのポケモンはクモの様な身体をしており、足が8本あった。
『イトマル・獲物の小さな虫を探して野を駆け巡るポケモン。寒さには強く、地面に隠れて冬を越す虫ポケモンを捕まえて食べてしまう』
「むしポケモンだね……属性は?」
 キーキー鳴いたままのイトマルにポケギアを向けると、『むし・こおり』と言う言葉が画面に出てきた。
「むしか……まあ、当然だよね」
「ジョウトで発見されたイトマルは『むし・どく』タイプなんだ……きっとどくの技も使えるんだろう。ボタッコ、注意して攻撃してよ!」
『僕だって、やる時はしっかりやるんだよ♪』
 ボタッコはイトマルに向かって勢いよく飛び出した。のしかかろうとしたが、逆に先手を取られてしまう。
「ボタッコ、避けてからのしかかりだ!」
 しかし、素早い攻撃になす術もなくボタッコは捕まってしまった。
『うわっ、何コレ……糸?』
 変種イトマルは口から大量の糸を吐き出していた。ボタッコはその糸に絡め取られてしまう。
『ちょっと、待って……!』
「いとをはく攻撃をされたんだ!」
「いとをはく攻撃って?」
「相手の素早さを奪う技だよ。でも、何かひっかかるな……」
「何が?」
「いや、ただ糸を吐いてる様には見えないんだ。ボタッコ、とにかくイトマルの攻撃射程から一旦離れて!」
『うん、解った……ぐえっ!』
「イトマルが相手を糸で締め付けてる!」
 見事な連携技だった。糸でボタッコを絡めとリ、素早さを奪ってからその糸をきつく縛りつける。
 全く身動きが出来ぬままボタッコだけがダメージを受けていた。
「早くボタッコに命令を出して、あの糸から逃げないと……」
「うん、解ってる……でもあれじゃ体当たりも出来ないよ!」
『く、苦しい……』
 ポケギアを見るとボタッコの体力は少しずつだが確実に減ってきている。このままでは何も出来ぬまま戦闘不能になってしまうだろう。
 しかし、野生のポケモンを捕まえる為に2匹のポケモンを使う事はしたくなかった。
 (僕と1匹のポケモンの実力でイトマルを捕まえなきゃ、イトマルを仲間にする権利なんて無いんだ……)
 ユウスケは歯を食いしばり、叫んだ。
「ボタッコ、その体勢のまま、イトマルに飛び込んで体当たりして!」
『このまま……?そうか、解ったよ!』
 ボタッコはダメージを受けている痛みをこらえて、縛られた状態のまま力を振り絞りジャンプした。
 糸を引っ張っているイトマルに対して、縛られたままタックルする。身体にその攻撃は見事に命中した。
「キー、キ、キー……』
 イトマルは体勢を崩し、締め付けている糸を思わず緩めてしまう。しかもよろけたせいで無防備な状態になってしまっていた。
「よし、糸を抜け出して、のしかかりだ!」
 ボタッコはそのスキをついて糸の中から抜け出し、イトマルに強烈なのしかかりをくらわした。
 イトマルはよっぽど強い衝撃を受けたのか、痙攣したまま動かない。しかし戦闘不能では無かった。
「キー、キー!」
 イトマルは苦し紛れに『どくガス』を使ってきたのだ。紫色の煙で視界を遮られ、ダメージを受けるボタッコ。
 しかもそのせいでイトマルは体勢を立て直し、再度攻撃をしようと糸を吐いてきたのだ。しかしどくガスは2匹のどちらの視界も奪っていた。
 普通はイトマルから離れて出すハズの毒ガスを近距離で吐いてしまったからだ。
「ボタッコ、巻きつかれるなよ!」
 ユウスケからも2匹の姿はまるで見えなかった。ガスが晴れ、視界がきく様になったボタッコの首に糸が巻きつく。
『ク……クソッ……』
 グイグイと首を締め付け、窒息させようとしてくるイトマル。このままではボタッコが戦闘不能になってしまう。
「ユウスケ、僕のハスボーで助けなきゃ……」
「ボタッコ、気合でなんとかするんだ!」
「ユ、ユウスケ。一体……?」
「ユキナリ君。僕だって、人の手を借りずにやり遂げたいんだよ!頼ってばっかりじゃ、成長なんかしない。そうだろう!?」
 ボタッコは意識が遠のきながらも、なんとか抜け出せないかと必死にもがいていた。ギリギリと絞められる痛み。
 コレで終わりか……その瞬間、何故かプッツリとイトマルの糸が切れ、ボタッコは地面に倒れこんだ。

「君達、ポケモンは大丈夫かい?」
 格子模様のチョッキを着込んだ、茶髪の男性が声をかけてきた。口の周りに濃い土色のヒゲが生えている。
 白い軍手をはめており、その手には鋭いナイフが握られていた。灰色のズボンをはいている。
「す、すみません……」
『ハア、ハア……』
 ゼーゼーと荒い息を吐き、倒れこむボタッコ。
「全く、トレーナーのポケモンに悪さをするとは、とんでもない奴だ。このバカもの!」
 イトマルは怒鳴られ、オドオドした。
「ついてきなさい。お詫びしよう……このイトマルは野生のイトマルなんだが、私が子供の様に育てているポケモンなんだ。
 こうして、時々外へ出てイタズラするものだから、ほとほと困り果てているんだよ……」
「おじさんがボールで捕まえたポケモンじゃ無いんですか?」
「ああ。だから、トレーナーに捕まえられてしまうかもしれないだろ?見張っていないと大変なんだ。
 こうして外に出るのは危険なんだと、教えても教えても好奇心で外に出ては他の野生のポケモンと戦いあっているんだからなあ……」
 彼は溜息をついた。かなり大柄で、山男を彷彿とさせる。
「私の名前はフルサト。ナオカタウンで育て親父の仕事をしている。イトマルは私の大事なパートナーなんだ」
「パートナー、なんですか……」
 ユウスケはバレない様そっと、溜息をついた。ユキナリがそれをなだめる。
 (まあまあ、もし捕まえてたら大変だったよ。知らないうちに、罪を犯す事になったんだからね)
「?マルボー、首輪はどうしたんだ?」
「キー、キー!」
「すまないが君達、私と一緒にコイツの首輪を探してくれないか。もしもの用心に、首輪を付けさせているのだが、草叢で落としたらしい……」
「じゃあ、ナオカタウンからここまでの道に落ちている事になりますね」
「そうだろうね。君達に手間をかけさせてしまって申し訳無いが……」
「大丈夫ですよ。ユウスケ、落ち込んでないで、イトマルの首輪、探してあげよう!」
「うん……」
 捕まえようとしたポケモンが実は他人の物だった為、ショックを隠し切れないユウスケだった。

 数分後、青紫色の首輪が見つかった。早速変種イトマルの首にかけてやると、とてもよく目立った。小さく『育て親父の家所属』と書かれている。
「すまなかったね。私の家に来てくれないか。手間をかけさせてしまったし、君達のポケモンに怪我をさせてしまったしね……」
 その表情は誠実そのものだった。
「何か凄く優しい人なんだね……」
「うん、あんなににこやかな顔をしてる人、初めて見た」
 人に媚びる様な不自然極まる笑顔では無く、自然に出る唇の端がちょっと上に上がる程度の微笑みだった。
「マルボー、行こうか」
「キ、キー!」
 フルサトの肩に乗っかると、イトマルは楽しそうに鳴いた。
「ホントに珍しいよ……野生のポケモンが人間に慣れてるなんて……よっぽど信頼されてるんだね」
「ユウスケ、あれが人とポケモンとの理想の形なのかもしれない。でも、僕にはあんな事……」
 いや、出来ないワケでは無い。恐れているのだ。記憶を奪って友情を作った。もしコエンが本当はユキナリの事を嫌っていたりしたら……
 そう思うだけで、顔が青ざめるのだった。
 自転車に乗ったまま歩きのフルサトについていくと、綺麗な街並みが見えてきた。ナオカタウンだ。
「ポケモンセンターに行って、回復させなきゃ……」
「私の家でも出来るよ。私の家に来てくれないか。お詫びに……と言っては何だが、お願いしたい事があるんだ」
 (お詫びに……お願いしたい事?)
 よく意味が飲み込めなかったが、2人はそのまま彼の経営している『育て親父の家』に行ってみる事にした。
 草叢を抜けるとそこは広い大きな円の土地で、綺麗な家がそこかしこに並んでいる。
 遠くの方には切り立った大きな断崖絶壁があり、そこに少し降る雪が積もっていた。
「私の居場所、ナオカタウン!今日は少し雪が強いみたいだな。ちょっと急いだ方がいい。雪だらけになる前にね」
 ユキナリは空を見上げた。先程より少し空が白から灰色に変わり始めている様だが・・・
「ユキナリ君、このままだとちょっと風が強くなるかも……降雪量も増えると思うし、早めにフルサトさんの家に入った方がいいと思うよ!」
「そっか……じゃあ、申し訳ありませんが少し休ませてください。雨宿り程度でいいんです」
「急いだ方がいいよ。私も走るから、全力で自転車をこいでいけばすぐ着くさ!」
 風が強くなっていくのがハッキリ解る。2人は自転車のペダルを強く踏み、ナオカタウンの北側、出口に近い『育て親父の家』に向かって走り出した……

 育て親父の家は、丸太で構成された小屋だった。慌てて自転車を裏手に停め、急いで小屋の中に入ろうとすると、フルサトは自転車を小屋の中に入れる様に言った。
「大丈夫さ、私の小屋には自転車を停めるスペースが用意されているからね」
 ドアを閉め、小屋の隅に2台の自転車を置くと、2人はようやく休む事が出来た。ゼーゼー荒い息を吐きながら、その場に倒れこむ。
「ハア、ハア……ペダル相当早く漕いだよ……」
「うん……ホント、疲れた……」
「ハッハッハ……こんなの、このナオカタウンじゃ慣れた事だよ。ちょっと来てくれないか。この奥に私が預かっているポケモン達がいるんだ」
 2人はそれぞれ肩を寄せ合い、なんとか立ち上がってフルサトについていった。

「ここが、飼育部屋だ。ポケモンのレベルを上げて、持ち主に返す時にお金を貰うのが私の商売。でも、中には預けたまま取りに来ない人もいる……」
 中には沢山のポケモンがいる。小さいガルーラの子供や、水槽で浮いているメノクラゲ。
 ボール遊びをしているパウワウなど、本当に沢山のポケモン達がそれぞれ好きに遊んでいた。
「このクロバーなんだけど……」
 そう言うと、フルサトは若草色をした小さなポケモンを指差した。
「もう期限限界の1年をとっくにオーバーしてるんだが、取りに来ないのさ……預けた人がね。私は1年後、この子のレベルを上げるのを止めた。
 それは私の責任問題でもあったからね。この家はリーグ公認の商売をしてるから、1年以上育てるのは厳禁なんだよ。
 それに本当は、期限が切れたモンスターは野生に返さなくちゃいけないんだ」
「じゃあ、どうして野生に戻さないんですか?」
「預けてきた人がいたからさ」
「預けてきた人……?」

「あれは、夏のちょっと涼しい日の事だった。雪もパラパラとしか降っておらず、気候は非常に穏やかな時、私の小屋に女性が訪ねてきたんだ。
『ナオカタウンから引越しする時に、この子は連れて行けないって言うの……だから、暫く預かってくれない?すぐに取りに行くから!』
「1年以内に来てくれれば何時でも渡せるよ。その代わり、お金は払ってくれるね」
『うん、勿論!』
 クロバーを預けた女性は、そのまま去っていってしまった……」

「そして数年が経ち、彼女はクロバーを放棄した事になる。このクロバーはもう、野生のポケモンと同じ扱いなのさ……
 でも、私はコイツを野に放す気にはなれなかった……トレーナーに、心の優しいトレーナーに、引き取ってもらおうと思って、こうしてずっとリーグにも内緒で隠していたんだよ」
「バレたら……」
「大変な事になるさ、きっと……だからこそ急ぎたいんだ。確か君はポケモントレーナーだね?」
「はい、そうですけど……」
 ユウスケは頷いた。
「さっきイトマルと君のボタッコが戦っていた。きっと、イトマルを捕まえようとしていたんだろうね。それは大事にならなくて済んだ
 ……しかし、君は納得出来ていないだろう。だからこそ、君へのお詫びに、責任を持ってこのクロバーを育ててほしいんだ」
「僕が、このクロバーを?」
「どうやら、あの女性は各地を親の都合でまわっていたらしい。このクロバーはトーホクの生まれでは無いしね。
 その証拠に色が全然白くない。『くさ・ひこう』と、こおりの属性も入っていないんだ」
「くさ……僕の好きなタイプだ……」
「ユウスケ、どうする?そのクロバーを、受け取るの?」
 ユキナリも真剣な表情で聞いてきた。ユウスケはまだ決めかねる様で、相当悩んでいたが、結論に達した。
「……おじさん、僕……そのクロバーを『預かる』よ」
「え?」
「僕が預かるんだ。何処かでその人を見つけたら、必ず僕が返しておくよ。それでいいでしょう?」
「……君がそうしたいのなら、そうした方がいいだろう。とりあえず、クロバーは君の手に渡る事になるね」
 フルサトは、クロバーをボールに戻すと、ユウスケに渡した。
「ロックを解除しておいたから、トレーナーは君名義になっているよ。大事に扱ってくれ」
「ハイ!」
 責任重大だった。これはまだユウスケのポケモンでは無い。『誰かに返さなければならない』ポケモンなのだ。
「ユウスケ、大切にしなきゃダメだよ」
「解ってる……僕のポケモンは、一応これで4匹。ジムの4人目に挑戦出来る権利があるって事だよね……」
「君達はリーグを目指しているのかい。でも、難しいな……ココのジムリーダーは相当強いよ。そのクロバーと同じ、『ひこう』タイプのリーダーだ。
 空中戦を挑まない限り、勝ち目は無い。君達は鳥ポケモンに対抗出来るポケモンはいるかい?」
「コエンは空中に向けても攻撃が出来ます。でも、ジグザグマは無理か……直接攻撃しか出来ませんから」
 ユキナリはジム戦に向けての心の準備など、まだ全然出来ていなかった。

夜月光介 ( 2011/04/10(日) 22:40 )