プロローグ
とある日の深夜。その日は嵐だった。轟音と共に風は吹き荒れ、雷鳴が轟き、風で勢いが付いた雨水は、容赦なく大地や草木に叩きつけられていた。
そんな最悪な天候の中、必死にもがいている者がいた。
「くっ……頑張れ! 絶対に離すなよ!」
「当たり前だ! 死んでも離すかよ!」
「このままだと……」
「なーに弱気になってんだ! そんなこと言ってると全身くすぐりの刑にすっぞ!」
「ふっお前は相変わらずだな……!? しまった!」
二人の会話を遮るかのように、この夜で一番大きい雷が鳴り響いた。
「うわっ!?」
「しまった!? ――!!」
一人が何から名前を読んでいたが、その声は嵐にかき消されてしまった。その言葉を最後に、二人の声は聞こえなくなった――
「ふ〜今日も疲れたわね……」
右手で頭をかきながら、私は帰路に就いていた。今日は落とし物のスカーフを取りに行く仕事だった。
「さてと……」
私は今すんでいる建物の前に立っていた。プクリンというポケモンをモチーフにした建物なのだけれども、はっきり言ってセンスの欠片も感じないわ。
「見張り穴に乗らないと……」
一人呟くと、私は建物の入り口のすぐ前に掘られてある、穴に鉄格子がかかっている所に乗った。まあ所謂ここに入るための手続きみたいなものよ。
「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足形? 誰の足形?」
「足形はピカチュウ! 足形はピカチュウ!」
毎度お決まりのフレーズが聞こえてくる。今のはこの下にポケモンがいて、足形で誰かを判断してるのよ。
「ココロさーーーん!! 今日もお疲れ様でーーーす!!」
「今日も疲れたわ」
見張り穴の足形を見る担当の、ディグダが、穴の中から労いの言葉をかけてくれた。
あっ私はピカチュウのココロ。ここ、プクリンのギルドで探検隊の修行をし始めたばかりの新人のポケモンよ。
「今開けますねーーー!!」
ディグダがそう言うと、目の間の入り口の鉄格子が、鈍い音を立てながら開いた。
私は入り口から中に入ると、そこには、はしごがあった。この下にギルドがあるのよ。
「ただいまっと」
私は誰に言うでもなくそう呟いた。いつもなら、この地下一階にはいろんな探検隊のポケモンがいるのだけれど、今は時間も夕方だからか いるポケモンも数える程度だった。
「おっココロか♪ ご苦労さん」
「ええ、ただいまぺラップ」
この頭に音符のようなとさかがあるカラフルな鳥は、ぺラップというポケモンで、このギルドで情報屋をしているポケモンよ。
「まだごはんまで時間あるから海岸行ってもいい?」
「そうだな……うん、なるべく早めに帰ってくるんだよ」
「分かってるわ」
私はぺラップにそう告げると、ギルドの近くにある海岸へと歩いて行こうとした。
「あっ」
「ほらココロ♪」
私のバッグから、とある石が一つこぼれ落ちた。それをぺラップが拾ってくれた。
「探険隊がお宝を落としてたら本末転倒だぞ♪」
「全くだわ。ありがとぺラップ」
私は石をぺラップから受けとると、今度こそ海岸へと歩き出した。
「おい、見たか?」
「おうよ」
「行くか」
「だな」
ギルドを出て数分歩いていくと、近くの海岸へとたどり着いた。実はここは私のお気に入りのスポットでもある。
「今日も綺麗ね……」
ここは夕方になるとクラブというポケモンがアワを吹く。それが夕日と重なって幻想的な光景を生み出すのよ。
「今日も来てよかったわ……あれなにかしら?」
ふといつもと違うものが目に入った。そこには、見知らぬポケモンが倒れていた。
……この出会いが、私がこの世界を巡る戦いに巻き込まれていくことになるとは、この時私は知るよしも無かった――