グッズ・ターミナルにて
商売繁盛万歳! それではとある町でのことである。
商売繁盛とは名ばかりでなく、その町の店という店は大いに盛況を見せてくれる。街頭には行商たちの露店が立ち並び、今朝収穫したての木の実、今流行のアクセサリー、最新の技マシン、怪しげな干物、子供向けのアミューズメント・・・色とりどりの商品が、威勢のいい“あきんど”によって売れに売れている最中だ。紙袋もしくはビニール袋に絶妙に詰め込まれた商品は、彼らがお金を払ったその店の魅力を意図せず振りまきながら町中を練り歩く。その魅力に誘われた住民たちは、財布を手に取らずにはいられなくなるのだ。あきんどは売り、住民は買う。決してこれが途絶えることはない。そう、この町は商売なしでは成り立たない。この商売の町を皆がグッズ・ターミナルと呼ぶ。
さて、そんなグッズ・ターミナルのある晴れた日。その男は突然町に現れた。
「よう!景気はどうだ?ミスター・ジョセフ」
男のこの町での第一声がこれだ。町に入ってすぐの一等地に、右手方向にはデリバード、左手方向にはマッスグマの構える露店がある。男はまず右のデリバードことミスター・ジョセフに声をかけた。
「ちわ。商売(ビジネス)は上々や!お前のお陰やで、マーク」
その男の名はマークだ。種族はビクティニ、職業は投資家である。なるほど、彼の投資のお陰でミスター・ジョセフは商売(ビジネス)ができているわけだ。
ミスター・ジョセフは目の前の客に商品を勧めながら器用にマークにウインクを返すと、それこそそのウインクが瞬く間にその商品の商売を決定してみせた。ノリに乗っているミスター・ジョセフは次々と商売を決定させていく。彼の店で彼の進める商品が売れる様はまさに百発百中であり、今最も賑わっている露店は間違えようもなくここである。彼の持つ袋がお金でまんぱんに詰まっているかどうかを聞くのは何よりも野暮なことだ。
マークは笑う。
「こりゃあ、すごい。利益が上がりそうだ。高額の配当を期待しておくよ」
投資家の生活は、投資先の利益によって変わるのである。投資家にとって投資先の景気は何よりも重要なことだ。ただし、このグッズ・ターミナルに赤字などありゃしない。それが彼の投資家としての腕なのだ。
ミスター・ジョセフはまたウインク。
「まかしとけ!」
商品はまだまだ残っている。客もどんどん増えていく。利益は膨れ上がる一方だ。
さてさて、お次は反対方向のマッスグマ。
マッスグマが営業していたのは子供向けのアミューズメントで、たくさんの子供達が押し合いへしあいで大混雑なので、マークが彼に話しかけるには子供たちを掻き分けて進まなければならなかった。
「おう、レイジ。またヤバイ仕事やってんのか?」
先ほどとは違い、マークはそう話しかけた。
「坊ちゃん、坊ちゃん。それは4回目。技を撃っていいのは3回までって言っただろ?景品は爆裂の種1個、再挑戦待ってるよ。ん、マークか?」
先ほどのミスター・ジョセフは
生粋のあきんどであるが。マッスグマの彼ことレイジは、フリーターである。しかしマークとレイジは浅からぬ友情を互いに結んだ仲であるので、マークは彼を仕事とは関係なく一匹の友人として応援していた。
けれども当のレイジといえば、冒険家を自称し、時々旅の資金を失ってはこうして資金を得るために稼ぎをはじめるのだ。しかしまあ、これが大人気である。レイジが各地で拾い集めたガラクタが景品にもかかわらず、グッズ・ターミナルではここがもう子供達の絶好の遊び場で、積み上げられた空き缶にそれぞれ技を当てるだけの簡単なゲームだというのになんとなんと大盛況である。
「へへっ、いい場所紹介してくれてありがとうな、マーク」
このレイジもまた、商売の才能があるのかもしれない。0から次々と資金を生み出す彼の直線極まりない姿と商売はこの投資家ですらあきれるほど、莫大な利益を誇る。
ところが、
「おじさん、おじさん、全部崩したよ。技マシン頂戴」
子供の一匹が自慢げに胸を張って、なおかつ景品とその使い道に目を輝かせ、彼のまごうことなき直線の姿を見上げる。
「ねえ、おじさん、こっちも」「店員さん、全部崩した」「おっちゃん、はやくー」
しかも、同じ子供の姿がいたるところで発見される。
「えっ、えっ?おい?どうなってる?」
さてさてさてさて。こうも命中を量産されては、レイジはたまったもんじゃない。今まで、的中率わずかであった彼らの技の命中率がどうしてか急に跳ね上がったわけだ。子供の技の命中率などどうせたいしたことないとなめてかかっていたレイジは苦労の果てに手にした技マシンを商売繁盛のためのシンボルにしておいたに過ぎず、質屋のカクレオンに売ればさらに利益が得られるはずの手元の高級品を予想外に次々と手放さなければならない。さらにさらに、「簡単だと評判のアミューズメント」の噂は町中に一気に広がって彼の店は今まで以上に大繁盛である。もはや収集もつくまい。命中の景品を大して用意してこなかったレイジは景品をよっぽど多く買い足さなければならず、商売はどんどん赤字へと変わる。
「マーク、マーク!」
レイジは、その神がかり的な直線の体を命一杯伸ばし、親友かつ投資家の姿を探す。はてさて。だけれども、さっきまでこの店の前にいたはずのマークは忽然と姿を消した。
「おい、マーク!ちくしょう!ちくしょう!」
叫べど叫べど、彼の姿は現れない。しかも、それに合わせるように客の技の命中率は下がっていく。そして今度は逆に、「簡単だと評判だったけど実はデマだった詐欺師アミューズメント」の噂が町中に広まって、客足はどんどん遠のいていく。ついに彼の店の客は0になってしまった。残されたレイジには、もはや大量の技マシンの借金と拾い集めたガラクタしか残っていなかった。
しばらくして、こちらはマーク。グッズ・ターミナル唯一のパブ“愛すべき馬鹿”にて。木の実ジュースを飲みながら、彼は冷や汗をかくしかなかった。実はというと、彼の投資はお金などではなかった。読者の皆々様はもうお気づきだろうが、ビクティ二の彼が投資するのはもちろん「命中率」である。彼が投資したミスター・ジョセフは商売を「百発百中」で成功させ、彼が触ったレイジの客たちは缶当てゲームを次々と成功させた。これらが今回の彼の投資なのだ。
「なあ、マスター。転職すべきかな?おれ」
マークは苦そうに笑う。レジアイスのパブオーナーは、黙って彼のグラスに氷を追加すると、そそくさと次のビックリするほどに直線な姿の客を迎え入れるのだった。