第三章 子どもたちは恐れを知らない【2】
2
まったく、はた迷惑な犯行声明だった。宣言だけはするくせに、場所も時期も何も告げないせいで、どのように動けばいいのか決めようがない。とりあえず、極力サンゲン団などというふざけた組織の好きにさせたくはない、ということで一同の意思は一致していた。
だからといってポケモンセンターに張って踊らされるのは嫌だった。スクール対抗大会のために修行もしなければいけないのだから、二十四時間付き合ってる暇なんてないのだ。
「とりあえず、バッジ貰ってこようぜ!」
ジムリーダーに対して失礼だ。当然イオの言葉だった。その宣言どおり、イオはあっさりとジムリーダーを破ってバッジを貰ってくる。しかし、ジムリーダーにとっては不幸なことに、挑戦者はイオの他にあと五人もいる。もちろんみんなそれなりの実力者であり、ユウを除けば能力者が揃っているのだから、ジムリーダーはバトルを終える度にどんどん落ち込んでいき、最後のケイに負けた時にはもう自信を完全に喪失していた。
悪いことをしたな……。少しだけ同情しつつジムを後にする。
「さぁ、次はどこのジムにする?」
「ライモンがいいなー」
相変わらずイオとユウの二人が揃うと、すごく微笑ましい光景になる。チラチーノとカポエラーを脇に出して一緒に跳ねている。
「あいつら、できてるのか」
「見れば分かるでしょ」
「そうか……」
アルとアイも何だかおもしろそうな会話をしているようだ。
「ケースケさん、私たちも何か話しましょう」
「え、あ、うん」
ケイにいきなり話しかけられて戸惑う。そういえば、ケイとは同じ名前だから親近感が湧いていたものの、まともな会話となるとあまりしてこなかったことに気づく。
「好きな女性のタイプを教えてください」
「唐突すぎじゃないか、それは」
「じゃあ、当てていいですか?」
「い、いいけど」
好きな女性のタイプ……それから連想されるのは、やはりアカリのことだった。
「あ、その前にこれだけは聞かせてください。男性と女性、どちらが――」
「女性に決まってるだろ!」
張り上げた声に全員が視線をケースケに向けた。
「別に男性でもいいと思うけど?」
アイが言って、ユウが続けた。
「そーだよ、ケースケ。別に男性でもいいと思うよ」
「お前が言うな!」
ユウが言ってしまったらそれは……いや、気にしないでおこう。決してそういうのじゃないと信じている。
そんなくだらないやり取りを続けながらライモンシティまで戻った。イオとユウは相変わらず元気だし、アイとアルもスカイアローブリッジがお気に入りで、ケイは歩きにくそうな靴を履いている割には結構涼しい顔をしている。そんな中で一人だけとてつもなく疲れた様子のケースケはおかしいのだろうか、いや、そんなはずはないのだが。
ライモンシティに着いた頃にはもう夜で、ジム戦は翌日に持ち越しになった。準決勝まではまだ時間があるから大丈夫だろう。
そして翌日、また翌日。と、時は過ぎていき、ケースケたち六人も順調にバッジを手にしていった。ジム荒らしのような一行になっているから、そろそろ警戒されてしまうかもしれない。
準決勝の当日になって、一行のジムバッジは残り二つで揃うというところまできた。準決勝が行われるのは、フキヨセシティの飛行場。一戦ずつ行われる。
まずはアイとカゴメタウンの代表。相性が悪くて少し苦戦していたようだが、それでもアイはしっかりと勝ってくる。
次は、ケースケの番だ。
「頑張ってきてください! ケースケくん!」
応援に駆けつけていたアカリの声援。
「決勝で会うのよ」
アイがそう言って肩を叩いた。
「それじゃ、勝ってくる!」
○
あれ、と思ってしまうくらいの圧勝だった。一瞬か、と思えるほどだった。相手は恐らく組み合わせが良かったのではないだろうか。ここまで上がってきたのが不思議なくらい、本当に実力差がはっきりとしていた。ケースケは無傷で勝ってしまい、その後には、マイクを構えたインタビュアーに囲まれた。あまりにも圧倒的な勝負だったために、インタビュアーたちも目を付けたのだろう。ケースケは照れながらも対応をして、後日、その様子がテレビで報道されるようになった。
決勝はケースケとアイのカードだ。これに対して特集番組が組まれるほどだった。なぜなら二人とも一部を除いて、ほとんど無傷で勝ち上がってきている。ケースケに至っては、母親までインタビューを受けてしまう始末。ケースケの母親まで一緒に有名になってしまった。
そして、一行は決勝戦が行われるソウリュウシティに向かうため、セッカシティへと足を運ぶ。
その日、ポケモンセンターでチェックインしようとしたとき、手紙を渡された。前にも同じようなことがあったことを思い出した。そして、差出人も同じ。
ついに、サンゲン団が動き出した。