第零章 〜Biginning of story〜
#000 不思議な明晰夢
「……ふぅ、やっと終わった」

 時刻は日付を跨いで午前二時。受験戦争の渦中にある一人の少年は、大きく体をのばすと同時に呟いた。
 彼はついさっきまで、曰く「天敵」である英語、その問題集と格闘していた。先述の通り、日付を跨ぐ程の長期戦の末にやっとこさ目標ページ数までたどり着いたのである。

 彼は問題集を閉じると、机の脇に無造作に置かれていた夜食のカップ麺を手早く平らげた。
 そして、ベッドの中へ潜り込んだ。睡魔とも格闘し続けていた彼の意識は……


「………Zzz」
 あっさりと、あまりにも呆気なくコールド負けしていた。ナレーターの私も呆れる程……いや、メタいメタい。この手の発言は、自重しておかなければ。










『…………ーい………こえ……かー?』
 誰かに呼ばれた様な気がした。
 ……もう朝なのか。だが、おれの持っている目覚まし時計のアラームは、このようなものではなかったはずだが。

『おーい!聞こえてるかー!?』
 今度は、さっきよりもはっきりと男物の声が聞こえた。が、姿は見えない。
 ……アラームとは違う。ベル式の目覚まし時計が喋るなんて、付喪神じゃあるまいし。

『『聞こえてるか』つってんだろーが!!返事ぐらいしろ!!聞こえてないなら『もう一回』って言うとか『Pardon?』とか聞くぐらいしろってんだ!!!』
 ついに目覚まし時計の付喪神(仮)がキレた。これ以上騒がれるとうるさい事この上ないので、そろそろ返事を返しておく。

「聞こえた聞こえた、感度良好」
『ったく、シカトしやがって』
 目覚まし時計の付喪神(仮)は、ぶつくさとぼやいていた。
 と、そこでやっとおれは自分の居場所に勘づいた。
 地に足こそ着いているが、どこか浮遊感が否めない。そして、あるようでない上下左右の感覚。
 ひょっとしたら、ここは……
『そう、お察しの通りお前の『夢の中』だ。それと、オレは目覚まし時計の付喪神などではない』

 地味に目覚まし時計の(ry にセリフを取られた(本人は否定したが)。
『……パルキア、いつまで茶番やってるんだ』

 目覚まし(ry をいさめる様にして、もう一つやや堅い雰囲気の中性的な声が……ん?パルキア?

『しゃーねーだろディアルガ。コイツが人の……もといポケモンの事をシカトはするわ、『目覚まし時計の付喪神』扱いするわd』
『いいから早く用意しろ』
『ほんっと、お前はお堅いな。……鋼だけに
『……何か言ったか』
『イイエナンデモアリマセン。ホラ、ヨウイヨウイ』

 ……さらにアンビリーバボーな固有名詞が耳に飛び込んだ。ディアルガだって?
 ディアルガもパルキアも、ゲームの中の存在であるポケットモンスター、通称「ポケモン」だ。それも、神と呼ばれるレベルの。
 ……いや待て、ここは夢の中だ。勉強のし過ぎで疲れているんだ。そうだ、そうに決まってる。現に、姿は見えてないじゃないか。

『さて、あの二匹(ふたり)が準備してる間に、ボクから質問があるんだ。ちょっと付き合ってもらえるかな?』
 さらにもう一つ、今度はショタ声が乱入してきた。
『ま、答えてもらわないと(君が)困るんだけどね。』

 なんだそりゃ。
『というわけで、クエスチョンその一。君は男の子?おんn』
「男だ。ほら次」
『そんな即答しなくたっていいじゃんか……』

 どこかで聞いたような質問をしてくるショタ声がむくれるのが分かった。
『……クエスチョンその二。君の名前は?』

 ……なぜにそんな個人情報を聞く。
『住所とかTEL番じゃないんだし、別にいいじゃん。ほらほら、早く教えてよ』

「……『坂野 命斗(さかの みこと)』、これがおれの名前だ」
『ほいきた、ミコト君ね』
 ……しかしこのショタ声、やたらと馴れ馴れしいな。

『じゃあ、ファイナルクエスチョン。今から言うポケモンの中から、好きなのを一匹選んで答えて。いい、一匹だけだからね?』
「分かったから早く候補挙げてくれ」
『オッケー。まず、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ。次に、チコリータ、ヒノアラシ、ワニノコ。続いてキモリ、アチャモ、ミズゴロウ。で、ナエトル、ヒコザル、ポッチャマ。そしてツタージャ、ポカブ、ミジュマル。最後にハリマロン、フォッコ、ケロマツ。+αでピカチュウ、リオル、イーブイ。』

 ポケダンさながらの面子に、おれは辟易した。歴代全御三家+αとかどんだけ候補あるんだ。
 ……さて、まずは絞り込みからだ。
 カントー御三家、ヒトカゲ。ジョウト御三家、ワニノコ。ホウエン御三家、キモリ。シンオウ御三家、ヒコザル。イッシュ御三家、ツタージャ。カロス御三家、ケロマツ。+αの面子、リオル。


                 〜少年思考中〜


 バカ作者め、何どっかの弾幕STG臭くしてんだ。そんなパロディやってる間におれの思考は終わったぞ。

「……ヒコザルだ」

 思い返せば数年前、「ダイヤモンド」初見時に選んだのがヒコザル。シンオウ地方には野生の炎タイプがあまりいなかったから、ずいぶんお世話になった。
『りょーかい!これで質問はおしまいだよ』
 ショタ声の一言と同時に、視界がホワイトアウトした。




 次に視界がはっきりした場所は、蒼い空間のど真ん中だった。
「……マグナゲートの最初かよ」

 一人でツッコミを入れていると、既視感(デジャヴ)満載の蒼い空間の向こうから赤と言うか茶色と言うか、そんな色をした何かがこちらにやって来た。
 その「何か」は、愛くるしい見た目の猿だった……が。普通の猿とは違い、尻に火がついていた。

 つまるところ、「何か」の正体はヒコザル……つまりポケモンだ。
 ……って、ちょっと待て。なんだってポケモンがおれの目の前にいるんだ!?

 ふと足元を見ると、水のようになっておりヒコザルはもちろんの事、おれの出で立ちもはっきりと映っていた。
 頭頂部に触角のような二本のアホ毛が生えている、赤みのかかった茶色の髪(結構明るいが、れっきとした地毛だ)。ややコンプレックスである中性的な顔もそのまま。ここまでは普通。問題は服装だった。
 ついさっきまで寝間着だったはずの服が、白いVネックのインナーに黒い長袖ジャケット、カーキ色のカーゴパンツとスポーティーなものに変化していた。ついでに肩には、おれが愛用しているア○ィダスの白いスポーツバッグ。
 ……その時おれは、さらにとんでもない事に気がついた。

 現在、おれは17歳の高三(誕生日はまだ来てない)だ。
 しかし。そこに映っていたのは三年前の、つまり14歳当時の姿だった。


「……解せぬ」
 いつの間にやら服が変わったり縮んでいたりするその状態は異様そのものだったが、とっくにおれの「驚く」という感情は麻痺していたからほぼノーリアクション。むしろ、脳内を占めているのは「理解不能」というパニックにも似た感情だった。

『そのヒコザルが、君のパートナーだよ』
 突然さっきのショタ声が、蒼い空間に響く。

『これから君には、我々ポケモンがいる世界へ来てもらう』
 先程「ディアルガ」と呼ばれていたやや堅い雰囲気の中性的な声が続く。
『ま、慣れん世界で不安はあるかも知れんが安心しろ。お前は一人じゃないからな』
 最後に、目覚まし時計の……もとい「パルキア」と呼ばれた男の声が響いた。

『よぉし、行って来いやぁ!』
 男声の一言と同時に、再び視界がホワイトアウトした。


 今度はすぐに視界がはっきりした……が、加えて重力と体を殴り付ける突風も感じた。目の前に広がる蒼天と、体を殴り付ける突風。そして、大地へと向かう重力。




 もはや「夢オチ」で片付けられる展開ではなかった。
 その状況に気づいた時、おれの視界は意識もろともに、今度はブラックアウトした。

■筆者メッセージ
どうも、タチバナ スズカです。
「ポケットモンスター アナザー」、プロット組み直しと題名変更で一からのスタートです。
え?主人公の設定が二番煎じ……?気のせいだ!
タチバナ スズカ ( 2015/09/22(火) 17:30 )