#005 瞳の中の冷たい炎
【Side ミコト】
突如おれ達の目の前にどやどやとやって来た、コメット団なる黒服の男達。確かこんな連中、原作にはいなかった。原作にいないのは、ミズホやミオ、ハヤトもそうだが(同名? ノーカンに決まってるだろ)。
……まあ、一番のイレギュラーはおれだろうけどな。
心の中で苦笑いして、ミズホと言い争っている黒服の男達に向き直る。
「……どうだ、我々の仲間になればその力だって遺憾なく振るえるし、普通に旅するより早く図鑑のデータだって集まるぞ」
「しつこいっ! 何を言われようが、あたしの意見は『NO』のまま変わらない!」
どうやら、理由はよく分からないがミズホはこいつらにしつこく勧誘されているようである。
誰の目から見てもろくでもない連中なのは明らか。そりゃ誰だって断る。さっきも「泥棒」呼ばわりされていたし、恐らく色んな所で悪行を働いているのだろう。
……ゲームでもそうだが、この手の連中は手間がかかるったらありゃしない。雑魚のくせに態度だけはやたら強気、しかも数がいるから一々相手してやらないといけない。
しかし、この分だと群れバトルとマルチバトルを足して2で割ったような戦いになりそうだ。まあ、一人一人相手にするよりかは楽だな。
「……やれやれ、負け犬程よく吠えるってやつか」
「何?」
「言ったままの意味だ。それともお前達、ひょっとして難聴か?」
こういう単細胞は挑発して突っかからせて、自滅させるのが手っ取り早い。
「ぐぬぅ、コケにしやがって!」
「こうなったら、纏めて始末してy……」
「なんかうるさいけど、どうしたのー?」
突然、後ろの方から幼い少女の声がした。
それは、あまりにもナイスタイミングすぎる助け舟だったと同時に、戦慄のプロローグでもあった。
「ミオ! それにハヤトも!」
ポニーテールのロリと、蒼い目の男の娘。ちょうど誓いの林から出てきた所のようだ。
2人が……というよりミオが、取り囲まれた状態にあるおれ達の元へ駆け寄って来る。少し遅れて、ハヤトも小走りで追走してきた。
と、その時だった。
よりにもよってこのタイミングでミズホが「あれ」を連想してしまった。
「あれ? 『ハヤト』って……」
止めようとしたが、もう声に出てしまったのでアウトだ。
「……ジムリーダーとは、関係ないよ」
「あ、ごめんなさい。同じ名前だったのでつい……」
心なしか、溜め息が聞こえた様な気がした。
「おいこら! 我々を無視するな!!」
ああそうだった、眼前の問題はまだ残ったままだった。
「なあなあ、よく考えたらこの状況、かなりウマいぞ」
「確かに、4人分のポケモンを持って帰れば……」
「勧誘失敗もチャラになるかもな!」
……おいおい、ヒソヒソ声が駄々漏れだぞ。どうやらこいつら、真性のバカのようである。
「というわけで! お前らのポケモンをいただ……」
「ふざけるな」
冷たい声が、欲望を切り裂いた。
その声の主は……
「……ミオ? 急にどうしたん、だ……ッ!?」
ミオの纏っていた雰囲気。
異常。
ただただ、その一言だった。
異常なまでに冷たく燃え上がるその目は、さっきまでのミオとは別人の目だった。それどころか、殺意に近いものを孕んでいるようにすら思えた。
「……え?」
「お前らのポケモンをいただく」、そう言おうとしていた男は一瞬怯む。が、別の1人がすぐに声をかけた。
「おいおい、こんなロリに何ビビってんだよ」
「あ、ああ、そうだよな。ちゃっちゃと片付ければ済む話だよな」
まだ多少の狼狽えを残しつつも、そいつはモンスターボールを構える。それを皮切りに、残りの連中も次々手にボールを持つ。
「皆、下がってて」
「え、でも……」
「いいから」
恐ろしいまでの気迫を湛えたミオの声に、ミズホの反論は書き消された。おれやハヤトも、口出し出来ない程のプレッシャーをミオは放っていた。
「おんやぁ? 嬢ちゃん、1人で大丈夫なのかー?」
「……言ってなさい、クズが」
ミオは一言だけ言い放ち、右手に握ったボールを宙へ投げた。
「キルリア、あなたの出番よ!」
ボールから現れたキルリアは、さながらバレリーナの様に爪先ですとん、と地に足を着けた。その瞳に、主顔負けの鋭い光を湛えて。
「キルリアって、イッシュにいないよな」
「ますます儲けもんだ……!」
……だから丸聞こえだっての。
コメット団の連中も、矢継ぎ早にポケモンを繰り出す。
出てきたのは、ミネズミやコラッタ、ドガースにズバットにチョロネコと、この手の奴らがよく使うポケモン達。まあ、王道といえば王道だ。
これでミオは一度に5体を相手取る事となった。だが、当のミオは冷静そのもの。むしろ瞳の中の炎を一際強く燃やしている。何がそこまで彼女を駆り立てるのか、今のおれにそれを知る術は無かった。
ただただ、その場を見守る事しか出来なかった。