#003 未来予知? いいえ、勘です。
【Side ミコト】
「さて、どうしようか……」
ああ言ったは良いものの、おれは大事な物の事を懸念していた。それは、ポケモンと共にいるために必要不可欠なあのアイテム。
すなわち、「モンスターボール」の事である。
ついさっき誓いの林に降ってきたから、当然ながら所持数は0。仕方ない、またミオかハヤトに手伝ってもらうか。ああ、どんどん借りが増えていく……。きちんと返せると良いんだが。
「ミオー、ハヤトー、ちょっといいかー?」
「「どうしたの?」」
……本当に毎度毎度(と言ってもまだ数回程度だが)、驚異のシンクロ率だな。
〜少年説明中〜
「なるほど、確かにそれは少しマズいよね……」
うーんと唸りつつ、ハヤトが腕を組んだ。こうしてると多少は男っぽいな。
「……ねえ、カバンの中。見てみたらどうかな?」
「その根拠はなんd」
「
勘だよ」
……は?
ミオの一言に、おれの目はマルマインの如く真ん丸になった。
さっきも言ったが、カバンの中はスッカラカン。いくらなんでも、モンスターボールが入っているわけない。
「ミオ、その可能性はゼr」
「何言ってるのさ!こういうのは、やってみなくちゃわからないのよ!!」 おれの言葉を遮り、ミオが大声を出した。み、耳がキンキンする……。というか、完全に理屈がおかしい。
半ば呆れていると、左の肩をちょいちょいとつつかれた。
「今の、ミオの口癖なんだ。モットーでもあるけど」 状況が状況だからか、小声でハヤトが教えてくれた。でもやっぱり、あの理屈はおかしい。
「さいですか……」
「それと、ミオの勘はすっごく良く当たるんだ。確率にすると、大体……95%ぐらいだよ」 ……は?
心の中で2回目の奇声を上げる。それは最早「勘」ではなく「未来予知」のレベルじゃないのか。
「……あー、分かったよ!中見ればいいんだろ、中見れば!!」
……ここまで言われたらもうヤケだ。
肩からさげた白いスポーツバッグのチャックをやや乱雑に開き、中を見る。
結論から言ってしまうと、バッグの中には10個程、モンスターボールがあった。
なんというお膳の立て様でしょう。なんというデウス・エクス・マキナでしょう(誰がやってるのか判らんが)。
「ど、どうだった?」
「……あった。それも10個も」
「ほーら見たかー!アタシの勘は最強よ!」
ハヤトの質問におれが答える。すると、ミオが腰に手を当ててふんぞり返る、所謂「えっへん」のポーズを取りこう言った。どっかの最強(自称)の氷精みたいだ。にしてもあざとい。
ふと、カバンの中にもう1つ四角い形をした黒っぽい物を見つけた。一応、中で形を確かめる。
見たところ、何かのケースのよう……って、ん?
「……▽◆◎!?」
黒っぽい何かを裏返した時、おれは「人間は本当に驚くと息を吸いながら発声する」事を知った。間違いなく今の声は日本語に直せない。
こんな物まで用意済みなのか!?というか、これってある意味公文書偽造な気がしなくもないぞ!?
心の中で、全力でツッコんだ。
そう。問題のブツは、トレーナーカード。平たく言うと、「ポケモントレーナーの身分証明書」。しかもそれは、各地のポケモンジムにいる腕利きのトレーナー、すなわちジムリーダーに勝利すると手に入るジムバッジを仕舞うケースの背面に収まっていた。
これの形状を例えると、定期とかパ○ピーとかを入れるホルダーが四角四面になった感じだ。まあ、家と高校の距離は大したもんじゃなかったから使わなかったけども。
……うん、さすがにこれは言えないな。
バッジケース兼カードホルダーを、そっとカバンの中へ戻した。
さてと、それじゃ改めまして。
モンスターボールを1つ手に取り、ミオやハヤト、キルリア×2、そしてヒイロの方へ向き直る。
「あ、やっと『こおり』が溶けた」
……ミオ、人の状態とポケモンの状態異常を一緒に考えないでくれ。
「ずーっと固まってるから、心配したよ……」
「あ、それはごめんな」
「それだけアタシの勘に驚いt」
「それもういいから」
「……がっくし」
うん、マジでくどい。とんでもない的中率を自慢したいのはわからんでもないが。
「……それじゃあ行くぞ、ヒイロ!」
名前を呼ぶと、ヒイロはすぐにこっちへ駆け寄って来た。
その額へ、ボールを軽く
こつん
と当ててやる。
刹那、開いたボールの中へヒイロの体が吸い込まれる。そして再び球体となったボールが、手の中で二度三度揺れる。
その揺れが収まると同時に、小さな星形の光が瞬いた。
これで、正式にヒイロがこの世界での
相棒となった。
「……これから、よろしくな」
この世界ですべき事。必ず見つけて、果たしてみせる。
ヒイロや、これから出会って行くだろう相棒達と共に。